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井上千芳

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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おさるさん

  井上千芳

小学生の頃
「こっくりさん」が流行って
毎日の様に放課後
やっていたなぁ
『あなたの好きな人は誰?』とか

あなたの好きな人は誰?
大人になって
「こっくりさん」に聞かなくても
あなたに直接聞く事が出来るわ

冷めた言葉で私を傷つけようとしているの?
本当は熱い何か、引きずり回して走っているのに

私はあなたにまだ傷付かない
傷付きたいと思っているのに

もっと一緒にいて
もっと手を繋いでいて
もっと傷つけ合って

それとも

あなたの大好きなおさるさんになるの

私を檻に入れて
首輪を付けて
時々爪を切って
時々体をとかして
毎日一回は檻から出して
だっこして

そしたら
あなたがたとえ人間の女の人を
好きになっても

私が一番だもの

人間の女は
口うるさくて
しつこくて
わがままで
退屈で
お顔もお化粧で
嘘つきだから
期待したらだめよ
あなたの本当に大切な事の
邪魔をするわ

おさるの私は
あなたが独りで居たい時には
檻の中で静かに座ってるよ

何か迷っていても
道が五つも六つにも分かれていても
直感を信じれば良い
そのまま行けば良い
おさるの私を肩に乗っけて
自分の歩幅で歩けば良い
生き急いだりしちゃいけない
たまには足を止めて
コンクリートの割れ目から伸びるタンポポに
夕暮れ時の東の空と西の空の違いに
カラスでもスズメでもない鳥の鳴き声に

海へ行って波に揺られて
山へ行って息をひそめて
青から白へ、白から灰へ
灰から土へ、土から緑へ
そして耳を澄ませば体全体が耳となって
何でも聴こえる
遠い遠い海の、人魚のおしゃべりも

文学極道

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