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レイマス

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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飛行

  レイマス

ぼくは空中を飛べた
勢いがあればあるほど、高く、速く
昼が少し重たくなり、
宙を舞う塵埃、
黒い冷気だとかを一切
振るい落として
空の濃く澄んでいく時
吸い込まれるように、ぼくの身体は浮かぶ

ぼくが通っていたと
思われる学校
真新しい硬式のテニスボールを
校庭から屋上へ打ち込んだ
ぼくのラケットは
ガットもフレームも上等で、
テンションだってぴったりなんだ
そして
それをぼくは取りに行く
あそこまで飛ぶには
自分の走力では足りないので、
背中に、小さなロケットのような
加速装置を背負って
踵と太腿が砕けそうな勢いで走り出す
(摩擦熱が白い砂に襲いかかった)
転びそうになりながら
どっちかわからない足で踏み切る
(一瞬、葉のない細枝や
プールの金網が融け出た)
胸を張り、背を反らす、いつの間にか
火の消えたジェットに笑いかけて
凄まじい速さで上昇していくものだった

空と呼ばれる場所ではきっと
恐ろしいほどの青色に囲まれる
ぼくは異分子だから
青くなることもできずに墜落する
人は空に拒絶されている
だからこそ、
手が届く、すぐそこのはずなのに
馬鹿みたいに距離がある
ぼくの目の前に、
校舎の壁面やガラス窓
多くの質量を与えられる
代わりに
空じゃなくなった

空中を飛べたからと言って
別段ぼくに出来ることは増えない
右手に握られたテニスボールや
冬の冷たさにあって
ゆるくあたためられた地面や、
赤黒い柵の鉄錆や、
そういったものの
裏側へ入り込めるようになった
それだけにすぎない
――右手から放れていくボール
たあん、とおん、ぽつん、ぽつ。
火が入っていないから、風に少しずつ
削られるように冷却していく機械――
手がちょっと冷たい。
いつか空を飛んでみたいと思いながら
微動だにしないテニスボールを、
見下ろして、また飛んだ。

ボールは落ちた、ぼくは落ちない
蛍光色に弾かれる裏側
見えている景色を切開、
その断層の側から覗くと
触れられなくなるから
近づけば消えてしまう色彩、
裏側。
風を受けて揺るがない体温も
太陽を反射して眩しい窓も
見えなくなって、
そっと、
この身体は上昇していき、

文学極道

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