#目次

最新情報


レモネード

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


風がにじむ

  レモネード

その石は               (いまも)
波動になりひとをこえて      (化石の音が)
木々の梢をこえて          (あなたの)
遠くの、水蒸気をゆらす       (耳の奥で)
鉱石風(OreVestavindsbeltet)に    (ひびく)
なるのです           (風の(音化))

その風が           (闇という文字を)
その風が            (密かにほどく)
わたしたちの          (病みのほどき)
透明なてのひらを          (それらを)
焼き尽くしてしまっても         (校庭の)
わたしたちが             (青い影に)
幸多かれと祈る            (ひとつ)
いのりに               (ひとつ)
みのりはありますか        (並べること)

おそらく百葉箱のかたわらで      (時間の)
しっかりと耳をふさいでいても   (純粋結晶が)
それは、どうしようもなく    (悲しみである)
やってきてしまうでしょう     (と知ること)

だから               (それでも)
なつかしいあなた         (虹見の丘で)
さようならを言うために生まれてきた(風がにじむ)
なつかしいあなた       (虹無時代だから)

永遠を聴いたのは       (一億年の沈黙が)
いつでした?       (あなたを呼んでいた)


黄昏譚

  レモネード

誰かが結び目をほどくように
この世からすべての母はいなくなってしまった

それからというもの
わたしたちはわたしたちのてのひらに
なにかしら母と呼べる物を乗せ
黄昏の明かりにそれらをかざし
祈るように透かしてみては
検分し
わたしたちの遠い死までのあいだ
めざめればいつもひとりであるように
とじられたまぶたの裏側で
この渇いた流れを
幾度も反芻してきた
形あるものすべて
不意に流れゆく定めであり
わたしの母もまた
夕暮に捉えられたまま
薄墨となりながされていった

夕闇の台所に
ふきこぼれた鰈の煮付けを
残したまま


生きものって尖ってく感じがする

  レモネード

野も町もかなしく震えるので、
ろうそくの火のような、
さびしさを灯し、
生きものは尖っていく、
のだと思う


夜通し続いた嵐が過ぎ去った、朝、
生きものたちは、
消え入りそうに、ほそく、ぴんと、尖って、
軒先や、濡れた木々の梢に、
はりついている


羽根や毛を、つめたいかぜに、ふるわせながら、
毛先から、逆さまにうつる世界を、滴らせて
ぴんと、尖っている


それは、みえるものと、みえないものとが、
かげろうのように、まざりあう、世界
波紋と、沈黙とが、
ともしびのように、せめぎあう、場所


そして、たったひとりの、われわれも、また、
さびしく、呼吸しながら、
尖っていくのだ


Blue Planet 青い星

  レモネード

裸身の雪が
ぼんやりとした
遠いほたるとなっておりてくるので

あまやかな
姉の匂いにみたされたまま
結露にぬれた窓の外をのぞく

(紙の野原で北風が笑っています)


雨の日のむかし
遠い海まで歩きました
一冊の文法のノートを携えて

(潮はどこまでもあおく満ちていきました)


はるのおわり
飼育小屋で震える
兎の目をしたぼくら
覚醒したまま
世界の消失点を
みつめて
生きて
水辺の音を聞いて
やがて母親のやさしさにとってかわる
やわらかな憎悪をいだきながら
いつか見た
深い夜明け
青いみどりいろは
とても淋しいいろを
していた



それでも
雨の日のむかしまで
潮は満ちてゆくのです

(音の郵便が誰もいない朝のランプにとどきます)


あけがたのように
かえってゆくぬくみにかえて
やさしい星のこぼれみずで
顔をあらう

[E ci siamo trasformati in nel gull]

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.