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ゼッケン - 2009年分

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


公共交通機関

  ゼッケン

ぼくは冬のバス停に立っている
乗るまいと決心していた
バスは凍結した滑りやすい道路をまだ来なかったが
しかし、バスのあの巨体
視界をすべて塞ぐであろうあの
圧迫感

必ず視野の右端から入ってきて
全体を埋めて目の前に止まったとき
圧縮空気の解放音がして
扉が開く、そのとき
ぼくは果たして
乗らないでいられるだろうか
真冬のバスはすでに時刻表より遅れているのであり
動かないぼくを見て
ぼくを見下ろす窓の向こう側にいる全員が舌打ちするのだろう
車内には無人の扉から寒気が流れ込むだろう
ぼくを乗せるためにバスは止まった、しかし
ぼくはその期待を裏切ってみせる
巨大な鉄の期待を、だ
ぼくは他人を傷つけたいくせに
報復を恐れている
ぼくは彼らの時間を10秒ほど浪費させるのだ
歩道に立ち止まっている限り
ぼくは優位であり
時刻表を守れないバスは焦っており
ぼくに罵声を浴びせつつも
凍結した道路を走り出さねばならない
外壁から氷と雪を振り落としつつ出発したバスの最後尾の席に陣取った人物は
ぼくのことを振り返りなどしない
事象の生起は予定調和だが
それは予測可能であることを意味してはいない
復讐心は
冬のバス停に立ったぼくを不安定にしている
可能な未来を置き去りにして立ち去ってしまいたい
凍結した滑りやすい道路を
バスはまだ来ないようだ


舌切り雀

  ゼッケン

おれの半分程度の年齢に見える若い金貸しはスズメと名乗り、
審査と称しておれに手を見せろと言った
おれが掌を差し出すとスズメはおれの手首を掴み、
大きなナイフの尖端ですばやく器用に掌をひとすじ裂き、血を舐めた
すくんだおれの顔を見てスズメはいくら欲しい?と聞いた
おれはもう帰りたかったが別の業者の取立てがあるので金が必要だった
たいへんだね、あんた。他に大麻の配達の仕事あるんだけど。やる?
これからも追われ続けるであろうおれはとにかく金が必要だったので
やる、と答えた

スズメは血の味でその人間がうそつきか正直なのかが分かるのだと言った
うそつきは大麻を持ち逃げするのでスズメは信用しないのだそうだ
おれは正直なのでスズメに雇われて大麻の配達の仕事を始めた
スズメの部屋には大小ふたつの冷凍庫が置いてあり、
注文が入るたびにおれは小さいほうの冷凍庫の蓋を開け、
ジップロックに小分けされた乾燥大麻を取り出して配達した
おっさん、大きいほうを開けるなよ? スズメはおれに念を押した
大きいほうの冷凍庫の蓋には錠がかかっており、もともとおれには開けられなかった
おれにはスズメがなぜ、おれを罠にかける予告をするのか、分からなかった

ベえ、
口を大きく開けたスズメは
おれに向かって舌を出して見せた
舌の先には横切って一本の筋が走っていた
小さい頃、母親に虐待されたのだと言った
はあ、そうですか、とおれは言った
はさみで切り取られた舌先は医者がくっつけたが
腕がよすぎたのかね? それから味がすごくよく分かるようになった
なんの味ですか?
人間の味
はあ、人間にも味があるんですか
スズメはがっかりしたような目でおれを見た

朝の注文が入り、いつものように冷凍庫の蓋を開けると大麻の袋が入っておらず、中は空っぽだった
それでおれは大きい方の冷凍庫の蓋を開けた
開けてから、いつもはかかっている錠が外されていたことに気づいた
罠の解禁と発動が意味するものは
今日はスズメにとってなにかの記念日なのだろうか
誕生日? 舌を切られた日?
大きいほうの冷凍庫には凍った女が入っていた
むろんスズメを虐待していた母親にちがいないが
生きているうちに閉じ込められたのだろうか
おれはこんなことになるだろうと思っていたような気がする
おれは頭をかきながら
蓋の底面を睨みつけたまま凍った女と対面しているうちに
意外にも女の顔を思い出した
スズメがおれに隠していたのは女の死体ではなく
女の素性だったことを悟った
二十年前におれと同じ部屋に住んでいた女だった
女が妊娠したのでおれは部屋を出た
すると、おれがスズメの父親か
すると、小さいほうの冷凍庫にはおれが入ることになるのか
ばらばらに解体されなければ、おれが入ることはできない
スズメなら入るかもしれない
いくら味覚が敏感になったからって、血を舐めてうそつきか正直かなんて分かるわけないじゃん
後ろに立っていたスズメが言った
おれと同じ血の味がする男を探してたんだよね、オトウサン
スズメはおれのことをそう呼んで、ナイフの尖端で空中に四角の枠を描いてみせた
おれの手足を切り落とすぞというのだろう、それから
舌を出してナイフを滑らせ、舌も切断することを表明した
スズメが自室の壁一面の鏡に向かってこの場面を何度も練習している光景を
おれは思い浮かべた

おれはスズメの部屋を出てドアに鍵をかけた
もうどこからも出血していないことを、そこでも、もういちど確かめる
廊下に血痕は残らないだろう
幼少時に受けた虐待がその後の成長にも悪影響を与えたのは
スズメの小柄な身体を見れば分かった
体力に恵まれずに育ったスズメの骨は簡単に折れた
馬乗りになったおれの身体の下で
スズメはげらげら笑っていた
おれはこのとき、自分はスズメといっしょに笑ってはいけないと思ったので笑わなかった
つられてにこりとすることもなかったと、いまでも言うことが出来る
スズメが最後の場面でおれを背後からいきなり刺せなかったのは
復讐心を満足させたいという欲に負けたのだ
おれはというと、だらしないが強欲ではなかった
おれはスズメの首にかけた両掌に全体重をかけた
スズメの笑いは止まった
代わりに、
おとうさん、

おれの顔を真下からまじまじと見つめながら
スズメの唇はそのように動いた
どす黒く顔面を膨れ上がらせながら
充血した眼球を飛び出させながら
スズメはおれの顔の中に自分と似ているところをもういちど探そうとしたのかもしれない
それにしても本当におれが父親だったのか?
親子でこれほど体格差があるものなのだろうか?
本当はスズメは誰でもよくなっていたのではないのだろうか?
おれは何と言っていいか分からず、すみません、と言った

スズメの部屋からは大麻も通帳も現金も持ち出さなかった
口座にはたっぷりと残高があるので部屋代も電気代も引き落とされつづけるはずだ
冷凍庫が止まらないかぎり、スズメの死体も女の死体も匂わない
おれは以前と同じ無一文であり、スズメの本名も誕生日も知らない
なにも変わったことはなく、
おれは安全だった
気がかりといえば、スズメはどちらの冷凍庫に入れて欲しかったのだろう
母親といっしょにして欲しかったのか、それともまだ
憎む、
と言うのだろうか
部屋の鍵をジャンパーのポケットに突っ込みながら廊下を歩き、
マンションのエレベーターに乗り込み、
1階へ降りるボタンを押してその扉が閉じた後、
狭い場所に立って目的地に着くのを待っている間、
暇だったおれはひとり、そんなことを考えた

マンションを出ると早朝、そこは繁華街の反吐くさい路地で
角を曲がってすぐのコンビニで値引きされた弁当を買う
おれが降りたエレベーターは
おれの代わりに誰かが乗り込むまでじっと
扉を閉じている


農園

  小ゼッケン

生後6ヶ月になる娘を捜しに来たおれを
じいさんは農園に案内した
畑にはいちめんの赤子の手が
アイダホの青い空の下
乾いた土から見渡す限りに生えていた

人差し指をてのひらに当てると反射で握り返してくるでの
そうすりゃ、おまえさんでもどれが我が子か分かるじゃろ
我が子と思えばそのまま引き上げればええ

見た目ではさっぱり分からず
おれはさっそくしゃがみこんで一番手前から試そうとする

しかし、いったん握ると赤子はおまえさんの手を離さんでの
ちがうと思ったらこう、くいっとひねるんじゃよ

おれはぎょっとして人差し指を引っ込める
ひねられた手はどうなるんですか?

枯れる。わしに気遣いは無用じゃよ
ほうっておいても生えてくるでの

おれは立ち上がってズボンの膝を払って土を落とす
できません、と言った
このまま帰れば妻はおれをなじるだろう
元には戻れないとも思う
しかし、赤子の手をひねることはおれにはできない

わざわざ探しに来ておいて自分勝手は変わらん
おまえさんひとりだけが勇気ある父親だとでも?
じいさんが指差した方向では若い男が一心に赤子の手をひねっている
急がんとおまえさんの子もひねられる

おれは若い男に向かって駆け出す
やめなさーい!きみは鬼となったのか!
は? 
若い男はちょっと視線を上げておれを見る
じぶんの子供を救わない親が鬼ではないとでも?
だからといって!
だからといって?
若い男はみるみる水気を失い茶色に萎れてゆく手の隣、
新たなピンクのてのひらに指先を近づける
おれは男を突き飛ばそうと突進するが寸前で男は立ち上がりステップバックする
おれは勢い余って地面に倒れこんだがすぐに立ち上がった
しゅ! 土煙を割って男の腕が蛇のようにくねり、手刀の尖端がおれの喉仏を一突きする
おれは自分で自分の首を締めるような格好でクエエエっと叫ぶ
おっさん、ひとりだけの夢見てるんじゃないよ

屈辱で立ち上がれそうにない

若い男は人差し指の先をぷにぷにのてのひらに押し当てた
一瞬待ってからてのひらは閉じた
男は間髪いれずに土の中から自分の子供を引き上げると帰っていった
間際に男はおれの方を振り返ると
赤ん坊を抱いていない方の腕をおれに伸ばすと、親指をまっすぐ上に立てた
指していたのはアイダホの青い空だった
あんたもがんばりなよ
歯は雲の白さだった

ほれほれ、次々ひねらねば

自分の子供を捜しに父親たちが農園にやってくる
しゅ〜、しゅしゅしゅ! おれは父親たちの喉仏に手刀を順に叩き込んでいく


墓参り

  小ゼッケン

ノックされた扉を開けて
おかえりなさい
と言う

びしょ濡れで部屋に入ってきた彼女を
裸にし、髪を拭き肌をこすった
拭いても拭いても彼女の髪からしたたる水滴の直径は小さくならず
肌は青白いまま額にも肩にも幾筋も水が線を引く
ぼくはタオルを2度交換し、3枚目をフロアに投げ出して諦めた
彼女は守られている
水は、ぼくが彼女に直接触れることを妨げている
とりあえず毛布で彼女の全身をくるみ
背中にクッションを当てて壁際に座らせる
低いテーブルの上に湯気を立てるミルクのカップを置く
言いつけられたとおりに彼女はぼくの出したカップに口をつけることはなかったが
あたたかな湯気に混ざって立ち上るミルクの匂いは
彼女にやわらかな効果を及ぼすだろう
ようやく彼女の身体が深く沈んだのを見た

彼女は部屋に入ってからひとことも発さなかったが
ぼくがそういうことをしている間、じつは彼女の方もぼくから視線を外すことはなかった
ただぼくを見つめるためだけに帰ってきたらしい
ただそれだけのため

生きているとき
それらのことごとをいちいち愛と呼んだのはなぜだったんだろう
さみしかったのか憎かったのか
それらをすべて埋めたかったのか
愛は埋める作業だったのか

死んだという実感はない
ごらんのとおり。足はあるんだが
ぼくは死んでいるからここから出ちゃいけないと言われているんだ
たばこはやめた
火葬場でガン細胞もいっしょに燃えたけど
でも、ここは火が点かない場所だからね
きみがたまに帰ってきてくれるのならぼくはここで待っている
いつでもさ
いつでも
出かけるのはまだいいんだ
もうすこしだけ
ぼくの不在が愛で埋まるまで
もうすこし

またね


遺影

  ゼッケン

クイズムリオネア、司会のみのびんたです
スタジオの半周以上を囲む観客席は熱狂した拍手を彼に浴びせた
テレビのクイズショウ司会者は片手を上げて応え、
見計らって手を下ろすと拍手は鎮まった
今夜の回答者は

晩のことだった

ぼくはカップ麺をすすりながらテレビのクイズショウを見ていた
今夜の回答者は、とクイズショウ司会者が言った
こちらのお嬢さん、画面が回答者席に切り替わった
すすったばかりの麺が反転し、上下の唇を割って空中に飛び出した
そのときのぼくは空間に放射状に展開した麺を回収できると思ったらしく、
しかし、勢い込んで吸って入ってきたのは気道に熱い湯気だった
咳き込むぼくの視界は涙で滲んだ
手探りでテーブルに置いた薄いスチロールの容器は熱でやわらかく曲がった
涙で滲んだ回答者の席には姉が座っていた
姉は一年前から行方不明だった
一年ぶりに見る姉の笑顔はテレビ画面の四角い枠に収まっていた
ぼくは咳き込みながら実家の両親に知らせようと
携帯電話をズボンのポケットから引き出した

第一問
量子論的なお嬢さん、あなたは真っ暗闇の箱の中に閉じ込められている
これから二分の一の確率で箱の中に空気かガスが注入される
量子論的なあなたはいま、生きていながら死んでいるのか?

あ、母さん? テレビ、そうそう、見てた、そうそう、姉ちゃんが
はよテレビ局に電話して、あ? おれと電話してるからかけられん?
アハハじゃなか、親父の携帯使ってよ、もう

正解!

あれ? 母さん? ちょっと! おーい!

母親の電話が切れ、テレビ画面には九州の実家が映し出された
さあ、お嬢さんの親御さんからスタジオに応援のメッセージを送ってもらいましょう
観客席からいっせいに拍手が湧き起こった
実家の玄関を照らし出した強いライトの光の中に
黒覆面の男たちに引きずられて
父親と母親が出てきた
戸惑っていた彼らは自分たちに向けられたカメラを見つけると
表情を取り戻して笑顔を浮かべる
あんたはわたしに似て無理ばするけん、身体に気をつけんばよ!
母親が言い終わると黒覆面の男たちは両親に向けて銃を乱射し
父親と母親の身体はくるくる回って玄関に激突、実家爆破、ドカーン

第二問
チューリングテストをするお嬢さん、あなたは壁の向こうにいる何者かに質問している
亀が砂漠でひっくり返っている。手足をばたばたさせているが
ひっくり返った亀は自力では元に戻れない。あなたは助けるか?
何者かは答える
どこの砂漠かを教えてくれなければ助けに行くことができません
この何者かを人間と判定したとき、あなた自身が人間である確率はどの程度あるだろうか?

丸く切り取られた天井が落下してきて
テーブルと
そのテーブルの上に置いた食べかけのカップ麺は下敷きになった
ロープを伝って黒覆面の男たちがぼくの部屋に降りてきた
ひとりはカメラを回していて、ぼくに向けていた
正解!と司会者が言い、弟さん、お姉さんに応援のメッセージをどうぞ
ぼくは言った、姉ちゃん、帰って来い!
覆面のひとりがカメラの前でひざまづかせたぼくの髪の毛をわしづかみにし、
のけぞったぼくの首にナイフを滑らせる
またもやぼくは咳き込み、しかし、咳き込んだと思ったが
血の泡が出たのは切り裂かれた喉の途中からだった
ぼくは喉の裂け目を両手で押さえる
男たちは機材を肩に担ぎ、ぼくを部屋に残して扉から一列になって出て行った

いよいよ最後の問題です

家から出て行くとき、姉は子供を産んで三人で幸せに暮らすつもりだと言っていた
ぼくらが全員反対したのは、相手の男が定職についていなかったからだ

案の定、男に逃げられたお嬢さん、それでもあなたは子供を産みますか?
産みます
ファイナルアンサー?
産みます!
不正解、残念!

テレビのクイズショウ司会者は拳銃を背広の内側から取り出すと
自分のこめかみを撃ち抜いて死んだ
観客席の全員も拳銃を取り出し、銃口を自分たちのこめかみに当てて
いっせいに引き金をひく
熱烈なる拍手で祝福されるなか
姉は出産した

ぼくは静かになった部屋のすみで身体を丸め
切り裂かれた喉からこれ以上こぼれないように両手で押さえていた
地上波デジタル放送に対応したテレビの画面に映った姉に
ぼくはおめでとうと言うべきなのか
迷っていた


ドップラー

  ゼッケン

きみは幼稚園の送迎バスの運転手をしている
親戚のつてでつかってもらっているのだが、
きみは子供が好きだから自分では適職なのだと思っている
きみは子供が好きだ
しかし、きみの子供は
きみが金持ちの子供の送り迎えをしている間
きみの妻によって何度も何度もぶたれている
きみはそのことに気づいている
10人の園児を乗せたバスは派手なピンクの塗装で
ハローキティの大きなデコレーションが施されている
ひどい女だ、ときみは思う
きみがいない間にきみの妻は
きみと妻のきみたちの子供を
ひとりでぶっている
ふたりの子供なのに
きみにもぶつ権利はある
しかし、ひどい女は
きみには子供をぶたせない
きみが妻の前で子供をぶつと
妻は金切り声をあげてきみを脅した
ひどい女がきみのいない間、何度も何度も
ぶっている、それは
きみの子供でもある
まさにそのとおり

赤信号

きみはブレーキを脚力の及ぶ限り踏んだ
大腿筋が膨らんできみの腰がすこし浮く
おそるおそるバックミラーをのぞく
ハローキティの可愛いバスは
横断歩道をすこし越えて止まっていた
きみの子供が折檻を受けている間にきみが
無事に届けねばならない大事な子供たちは大丈夫だろうか?
バックミラー越しに驚きに見開かれた大きな瞳に出会う
幼稚園の送迎バスに乗る聡明な子供たちの瞳には
まぶしい光が宿っていることをきみはもう知っていた、しかし、
きみの子供の目には光など宿っていないことをきみはもう残念だとは思っていない
キャー
キャー
キャー
歓声が上がった
ハローキティの合成樹脂製の張りぼてを屋根に載せたバスの車中は
幼い興奮でうきうきと沸き立ち始めた
きみは幼い脳たちに喜びを教えた
きみは脳たちにもっと喜びを教えるべきだ
きみがきみの子供に教えたくても教えられなかった喜びをいますぐ
タイヤが路面を噛み、白煙を上げつつバスは交差点に飛び出す
右からも左からもけたたましいクラクションを浴びる
後方に流れてすぐに聞こえなくなった
ハンドルをいったん左へすかさず右に切り、車体は次の交差点の真ん中で大きくケツを振る
ギリギリとひきしぼる音がする
幼い脳たちが喜びに酔う
きみはくるくるとハンドルを回す
ほら、ケーサツだ! サイレン! 聞こえる? バンザーイ!
きみは環状線に出てそれからETCを突破して高速道路に乗る
その間中、きみの携帯電話は鳴りっぱなしだ
鬼の形相と化したバカヤローキティが報道のヘリに追われながらどこまでも走る
きみは金持ちの子供が大好きだった、
みんな吐いていた、ピクニックは賑やかだった、何人かは座席から落ちて通路に転がっていた
彼らはみな、きみがなりたかった子供だ
きみは、きみの子供は貧乏でみすぼらしいので嫌いだったといまなら正直に言える
アクセルを踏み続けている右足が痛かった、振動はかなり前からずいぶん激しい
パトカーと救急車と消防車が何台も連なってバスを追っていた

文学極道

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