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やなりり

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


子鳩のコトバ

  やなりり

灰色の空があたり一面に放つ匂いに気付けば
空の只中からすでに幾つかの微小な氷が落ちてきて
地面に着地して消えた、を繰り返しはじめている

水からの状態変化が成す氷→雪へは、緩やかに、汲々として
実写から乖離した、世界の傘の下

傘を打つ音だけが知る、その形状を、傘を外して見上げれば
蠢き急降下する、埃、あるいは、塵

瞼に載った僅かに湿る光の粒に世界は覆われてしまい
途方もなく佇むわたしは飛ばせた子鳩を思う

大きさも不揃いな、空気の層の中から毒素を吸い込んだ
白い羽のよう、と形容されるものの正体は
わたしたちが棄てたものたちで、
羽であるなら、子鳩であろうよ、コバトであろうよ

空の中心点に立ったポールを目印に飛んだはずの塵が
羽化して、降る、フル、ふる、
たくさんの不揃いのコバトが嘴に加えた葉の色も
今日は緑を失い、収束の末期に滅されていく

目印を失った、羽も濡れた、その身を、傘で隠し持ち

二層構造の傘はコバトの留場
音はすべて吸引されて、どこか知らない場所へ遺棄される

天空から傘の丸い円はみつかるだろうか

隣のわたしが、目を瞑り、空を見上げ、ただ流れに沿って
歩いてゆくように見える姿を、描写するコトバよ

巡廻しながら肩から肩へと渡るうちに、
わたしの匂いを掠め取り、空へ放つ、子鳩の
囀りが聞こえたような気がして足元を見ると

小さな影が横切ってゆくのが見えた


騙し絵

  やなりり

蛇の首を持つ螺旋に巻かれ
DNAが神話の中で親和を見出し
シンメトリーな掌に転がされる
淫靡な想念が宙に放つ幾何学模様の編巫女み

図らずとも図りたり

騙されたのか、隠したのか
見えない、が見えた時
何故に探り当てることに躍起になっていたのか
呵責をリフレインさせる

世界が隠されたのは見え過ぎる事を危ぶんだ先人の
手先の全てが見えてショートした脳が
人を殺めることに飽き飽きしたからで

此処にも、手が、鳥が、いる
昨日は見えなかった場所にいる

日常を離れたところで描き足されているのかもしれない

咎めないから出ておいで

あなたの隣にいた鳥が消えた、螺鈿迷宮の果てには
鳴き声だけを籠に入れた採掘労働者の横を
カナリアが飛び交う庭があり
太陽ではない白い光に照らされるのだ
と、埃の被った本には書かれているらしい

落盤で消えた洞窟の中
司書が教えてくれた騙し絵が逆回転する仕組みを
伝える相手がいない

文学極道

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