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みどり

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


けむりとともに

  みどり

私は私を忘れるために
吐き出す煙となる

さっき私に似た犬を叱った
それでも犬は勃起していた
私は、怒っていたのかもしれない

妻は美しい
目に見えるものが全てという幻想を
懸命に信じている
健気さ

私は 立ち昇る煙となる
それしか方法はないのだ
煙は時をなぞる
その浮遊 曖昧さ 空(くう)

さっき私は嘘をついた
泣きたいときに笑った
それでも妻はきっと美しい
寝息を立てて
雨に飲まれている

完璧をなぞる
矛盾の
なんという多さ
なんという傲慢さ

このまますべてを
ゆるしてしまいたい


群青

  みどり

群青の夜の尊さに
私は思わず息をのんだ
全ての酔いと幻を
あっけらかんと包み捨て
窓の向こう
淡い月光の中
若いセージの赤い花
つつましやかに
揺れて・揺れて・ゆらとして
今この眼(まなこ)の焦点はどこへ行ったか
検討もつかない
この仄かな闇の清らかさに
私は何度も呼吸を失う
そして肺が、空気などではない
群青色に満たされてゆく

再び息を大きく吸う頃
私は生まれ変わっている

そして、あえかな明日を窓に灯す


わたくしでなく

  みどり

目の前に燦燦と降ってくる音粒に
驚いたこと ある?
簡単な喜びならよかった
安易な悲しみならよかった

私たちは複雑に生まれすぎて
心は古生代に還りたがっている

吹きすさぶ嵐の中を
たあだひとり、黄色な傘さえもたず立った

家に帰り
柔らかなタオルを頬にあてがう
部屋は暗く
灯かりをともす気もない

窓から零れた月光のかたひら

目の前に燦燦と降ってくる音粒に
驚いたこと ある?
言葉になる前の ただ
息をしているんだ

わたくしの感性

文学極道

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