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ぱぱぱ・ららら - 2011年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


足フェチ

  進谷

足を見ていた。女子高生の。電車の中で。パンツは見てない。足を見ていた。顔はいまいち。パンツはどうでもいい。だから、足を見ていた。まず顔がある。ダメなら足を。電車の中で。カモシカ? 逃げる。追う。女の子が逃げる。男の子が追う。僕は見る。女子高生の足を。ネズミの仮面を被った人が逃げる。ネコの仮面を被った人が追う。アウシュビッツ? たくさんの足が転がっている。そこには僕の足も君の足もない。ユダヤ人は書く。なぜ? 僕は見る。女子高生の足を。流れていく。アウシュビッツが、広島が、長崎が、福島が? 9・11? 3・11? 7・16? あの子は今日も朝までクラブかな? ユダヤ人は詩を書く。僕は女子高生を見る。足を。転がっている足を。朝帰りのファーストフード風の女の子を僕は抱く。最近、電車がよく止まる。ハゲ散らかしたおじさんは一人で文句を誰に言うでもなく言う。僕は足を見る。昨日抱いた女の子と、今日抱いた女の子の違いがわからない。僕はファーストフードを食べる。ユダヤ人はそれでも書く。僕は名前を間違える。でも気にしない。流れて、忘れられて、それでも書くユダヤ人。日本人は? 希望も、絶望もなく、それでも女子高生の足を見る僕。君は居た。確かに居た。だからこそ、悲しい? 眠れない夜。君が居た夏を思い出したり、思い出さなかったり。女子高生の足。ユダヤ人の足。僕の足取りは重く、どこにもたどり着けそうになく、センチメンタルになったふりをする。女子高生の足。フランス映画の中の少女の足。OLのパンスト。やぶれた夢を針と糸で縫っている。答えはない。問いならあるかな? 僕の見ている女子高生の足は止まった電車の中で尋ねる。ここはどこ?


  進谷

 空と海の間から生まれてきた青はまるで何かを探しているかのように人々の目を覗きこんでいた

 ああ 
   僕は
  ここにいるのだろうか?

 フィルムには青が映っていた
 キャンパスには青が描かれていた
 本物の青 
 それは空か?
 それは海か?

 青いフィルム
 架空と真実の間にいる青は尋ねた

「ドキュメンタリーは真実か。ニュース映像は真実か?」
「違う」
「では真実とは何だろう?」

 空が青いわ
 と少女は言った
 海が青いわ
 と娼婦は言った 

 また朝が来るねと
 また夜が来たねと
 女の子は
 言った

 僕がこうやって世界を切り刻んでいる間
 少女は
 腰を振り続けている
 
「悲しいなんて、意外と子供っぽいのね」
 と娼婦は言った
「悲しいんじゃない」
 と僕は言った
「じゃあ何?」
 と青は尋ねた
「感じたいのよ」
 と少女は答えた

 青、ブルー、男と女は海へ逃走する
 海に何があるの? 
 永遠

 切り取られた血管みたいな女の子は言った

  手をつないで

 どこに行くの? 

 洗濯をしないと着る服がない
 なんだかジャンクフードが食べたくなってきた
 洗濯が終わったらチーズバーガーでも食べようか
 外では花火が鳴り響いている
 
 青は消え
 僕は煙草を吸う
 明日を見失い
 昨日は無くしてしまった
 
 いま
 僕はいまと書いた

 僕は一行
 文章を書き
 それから
 また
 あたらしい
 一行を書いた

 シンプルで
 ナチュラルな
 言葉を
 僕はつないでいく
 ことにした

 青は語る

 手をつなごう
 僕は青じゃない

 煙草が切れた
 から
 ここで終わりにする 

 


JAPAN?

  進谷

1、あこがれ

『わたしは日本に行くことに決めたわ
 お金を貯めるの
 そしていっぱい送るわ
 わたしも良い生活をするの
 テレビも買って 車も買って
 ここに大きなお家を買うの
 みんなで幸せになるのよ
 素敵な日々を暮らすのよ      』

2、労働
 
 マルクスおじさんと毛沢東おじさんが本の中で喋っている隙に、また電車が停まる。機械は人間の労働を減らすこともなく、機械が人間に近づくことはなく、人間が機械に近づいている。

 間違いかな? 
 
 むかしむかし、人間は機械を造ることにした。人間の代わりに労働をさせるために。奴隷が担っていた労働を機械にやってもらうために。そして、労働から解放された奴隷たちは、勉学に励み、友達と遊んで、詩を書き、絵を書き、楽器を弾き、まるでイルカみたいに愛を確かめあう。

 間違いかな?

 美しい女の子だった。その店で一番の、その街で一番の、その国で一番の、その世界で一番の。

 間違いかな? 

 ここに来る前はファミレスで働いていたの。その前は百円ショップ。一番最初に、この国に来た時は病院で働いていたのよ。きっと次は風俗店ね。と日本語みたいな言語。そんなことない。大丈夫だよ。と嘘。そうね、きっとうまくいくわよね。と嘘が重なりあう。
 
3、逃走

 嘘は酒を飲んだ。嘘は卑怯だ。嘘と卑怯は海へ逃げたが、辿り着いたのは海ではなかった。
 
4、物語

 青と黒の箱
 マッキントッシュが鳴く
 キーボードを叩く 
 詩や小説でもなく
 ショートショートでもなく

 街中でも
 喫茶店でも
 ベットの中でも
 キーボードを叩く 

 間違いかな?


MOVE

  進谷

  1、

 ひさしぶりに街まで出てみると、なんだかすれちがう女の子たち、みんなが可愛くみえた。日の出ている間から夜の香りがする子も、自分が女の子だということをまだ知らないちょっと太った子も、おでこで小川がながれ目の下でくまを飼っている子も、みんな可愛かった。奇跡だ。こんなことが起こるなんて。だれのおかげだか分からないけど、ありがとう。
 僕はその中でも、青山通りをあるいている女子高生に目をつけて、そして後をつけた。くろい髪に、黒いギターケースをしょって、しろい制服に、しろい足。白い足。探偵になった僕は、彼女を尾行した。対象者は人混みとは反対方向に、細い道、狭い道へと、歩いて行った。渋谷の急な坂道は、場末の酒場に変わり、商店街の大通りに変わり、北関東の田畑が広がる道へと変化していった。探偵はマルボロを呼吸に加えながら、尾行を続けた。対象者が角を曲がり視界から消えるたびに、早足になって距離を縮め、直線では歩速を戻し、一定の距離を保った。対象者はどこまでも一定の速度で歩き、一度も振り返ることなく、歩いて行った。まずい、この場面はたしか村上春樹さんの小説の中で観たことがある。この後、追っている方が酷い目に遭うんだ。でも白い足に取り付かれていた探偵の足取りは止まることなく、黒い時計を右へ、左へと進めていった。あらゆる人生の大抵の場合と同じように、探偵は全てが過ぎ去った後で、全てが思い出に変わってしまった後で、自分の歩いていた道が間違いだったという事に気が付いた。
 荒野が広がる砂利道を右に曲がると、そこは行き止まりだった。女子高生は消え、代わりに白猫が目の前で熟睡していた。正面の石壁にはA4サイズくらいの白い紙が張付けてあった。『愛とは一つの衝動である』とワープロ字で書かれてあり、『衝動である』という部分がマジックの斜線で消されていて、その横に『欲望にすぎない』と書きかえられていた。あぁ、騙されてたんだ。後方から足音がして、探偵が振り返ると、そこには一人の男がたっていた。彼が本物の探偵だった。偽物は追っているのではなく、追われていたのだった。本物は真っ黒なスーツを着て、真っ黒なサングラスをかけていた。ちなみに偽物の方は『YOUTH MEET CAT』と書かれたTシャツを着ていた。

 誰だ?
 誰でもない。
 なんで僕を追うんだ?
 仕事だよ。ロベール・デスノスのところから来たのさ。
 探偵ごっこはもう終わりだ。
 
 本物はスーツの中からピストルを取り出した。銃はピンク色だった。

 娘がイタズラしてね。
 塗っちゃったんだ。まだ六歳だからさ。
 仕事道具はしっかり管理しとかないとダメですよ。
 
 本物はピンクのやつの先を標的に向けて警官になった。偽物はピンチだった。これが絶体絶命ってやつか。絶体絶命。偽物は学生服を着ていた頃のことを思い出した。黒板に白い文字。絶体絶命と国語の先生は書いた。カマキリみたいに細くやせていて、丸眼鏡をかけていた。彼は絶体絶命について熱くかたっていた。偽物は斜め前の方の席にすわっている女の子の横顔をずっとみていた。彼女は春風みたいに自転車にのっていた。彼女の足はあんまり白くなかった。たしか、陸上部だった。偽物は彼女とつきあうことになった。そして、三日で振られてしまった。三日でふられてしまった。そうか、これが走馬灯というやつか。カマキリは今でもぜったいぜつめいについてあつくかたっているんだろうか。



   2、

 囚人になった偽物は警官に手錠代わりに、手を握られ、パトカーで連行される。

 どこへ行くの?
 海

 穏やかな海。波とカモメの音楽。そこに水着の女神たちがやってきて、その中の一人と仲良くなる。抱きしめあう。いや、もしかしたら、ヌーディスト・ビーチに行くのかもしれない。
 車道には車道以外なにも無い。それは記憶の道だった。あなたが今まで歩いて来た道は数知れないだろう。あなたはこれまでの旅の中で、とても多くの道を歩いて来た。その中でも、あなたが一番戻りたいと思う場所。それは制服を着て、女の子と自転車を押しながら歩いた無駄に長い坂道かもしれない。それはあなたが仕事帰りに傘も差さずに歩いた雨の夜道かもしれない。それは男同士、お酒を飲みながら肩を抱き合い語り合った酒場かもしれない。それはあなたが女の子を初めて抱きしめたベットの中かもしれない。パトカーが進んだ道はそんな場所に似ていた。
 朝食にカツ丼が並んだ冬を右に曲がると、少年が一人、車道の端で片手を挙げ、親指を立てていた。サボテンの隣に並んでいるような憧憬が彼には漂っていた。
 
 乗せてやりなよ
 なぜ?
 きっと、きみの娘とお似合いだぜ
 
 ピンク。

 冗談ですよ

 警官はパトカーを停め、少年を保護する。
 
 名前はなんて言うの?
 無い
 無い?
 うん、無いんだ
 どこまで行くの?
 アイデス(iDEATH)って知ってる?
 知らない
 とても静かなところなんだ そこは全部、西瓜糖っていうのでできてるんだ、家とか橋とかさ
 そこへ向かうの?
 いや、違うよ これからそのアイデスに似たものを作るんだ、みんなで
 みんな? 
 僕と僕の友達と、みんなでね
 女の子は居る?
 居るよ、少しね
 面白そうだ
 うん、砂遊びに似ているんだよ

 空はどこまでも続き、雲はどこまでも自由だった。知らない音が車内には流れている。悪くはなかった。大抵のことは、そう悪くはないのだろう。きっと。

 この辺で良いよ
 まだ遠いの?
 うん
 でも、しょうがないよ
 どんなに遠くたって進むしかないんだ 



   3、 

 着いたぜ 行きな
 逃げますよ
 逃げ場なんて無い
 ここにあるのは海だけだ

 警官はラッキー・ストライクを吸い始め、囚人にも一本分ける。囚人はライターを借り、火をつけた。一口、煙を吸い込み、吐く。それからライターを返し、車から出た。
 海は囚人の想像した海ではなかった。風は強く、波は高く、砂利が口の中を侵入して来て、海は全てを拒んでる。砂浜には海から拒絶された流木がカラスたちのベンチになっていた。ベンチに座ったカラスたちは少年少女合唱団のように鳴いていて、渚には一人の女性が立っている。白いワンピースを着て、黒の日傘を差していた。
 囚人はラッキー・ストライクをなびかせながら、彼女の元へと歩く。

 久しぶりね

 彼女は足音に気付き、振り向いて、微笑む。

 わたし結婚したの
 知ってる
 子供も居るのよ
 知ってた?
 知らなかった
 娘 もう六歳なの
 うん
 ねぇ
 ぼくらなんで三日で別れたんだろ
 やっぱり映画のせいかな?
 映画?
 タイタニック
 いっしょに観に行ったろ
 ひどいえいがだったね?
 覚えてない
 そっか
 じゃあ なにかおぼえてる?
 たいくつだったわ ずっと
 だって
 なにも話してくれなかったじゃない
 そうだっけ?
 たまに口がうごいたとおもったら
 なにか飲む?
 なにかのむ? っていうだけ
 そういえば そうだったかも
 ねぇ そろそろいかないと
 そっか
 そうよ
 じゃあ
 
 囚人はラッキー・ストライクを、一口吸い込み、彼女が去るのを待った。
 
 ねぇ いく  あなた
 え ?
  とこ さる の
 こう  と 
 そ 
 
 すべてが陽炎みたいにゆるやかに消えていった。僕は僕に戻り、街は街へと戻っていった。人波をさけたしろい猫が、くろいゴミ箱のとなりで夢を観ていた。
「これから、どこに行こうか?」
 目を覚ました猫はなにも答えず、ビルとビルの間をするすると走っていき、追いかけようにも、彼女が通った道をすすんでいくには、僕のからだは大きくなりすぎていて、ラッキー・ストライクの煙だけが、右手のさきから上空へと、いつまでも消えることなく、風のなかで踊りつづけている。

文学極道

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