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ぱぱぱ・ららら - 2008年分

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


宛先人不明

  ぱぱぱ・ららら

青い車が
僕のおばあちゃんに
どーん、と
ぶつかってくれたお陰で
僕のおばあちゃんは
死ぬことができました
たしか
八十四歳だったと
思います
 
僕は
二十四歳にして
初めて
葬式に出場することができました
 
昔、まだ僕が
七歳か十一歳の頃
僕は
サッカー選手として
日本代表の試合に出るのが
夢でした
 
そして、
現実では
葬式に出た訳です
 
僕は今、
満員電車に乗っています
東京の。
本当にパンパンです
 
僕は
アウシュビッツに向かう
ユダヤ人のたくさん乗った
列車だって
こんなにパンパンでは
無かったんじゃないかな
とか、考えたりします
 
あなた様は
どう思われますか?
 
まあ、僕が言いたかったのは
僕のおばあちゃんが
どーん、てなって
フラッ、と逝ってしまった
ということだけです
 
うまくあなた様に
伝わってなかったら
僕としては
光栄です


海、そしてまた海

  ぱぱぱ・ららら

1、海

 僕らが出会ったのは小汚いバーで、僕らはまだ法律上お酒を飲めるようになったばかりだった。
 僕はその頃毎日のように酒を飲みに行っていた。そして彼女にあった。僕が彼女に話し掛けたとき、僕はベロンベロンに酔っ払っていた。彼女は友達二人と飲みにきていた。僕は彼女に話し掛ける。他の二人の女の子は無視。僕は彼女に話し続ける。彼女は笑う。他の二人の女の子は嫌悪感を表明。
 僕らはそれから週末にデートに行くようになった。もちろん彼女とであって、他の二人の女の子とじゃない。映画、動物園、遊園地、その外色々。僕らはそれなりに楽しんだし、幸せだったかと聞かれれば、そうだね、と答えるだろう。
 それでも時間は流れていく。とても些細なことで僕らは別れた。
別れた後で僕らは一度だけ海に行った。何でだったんだろう、理由は忘れてしまった。海へ向かう車の中で彼女は言った。イタリア旅行って映画観たことある? 彼女は映画が好きだった。僕は無いね、と答えた。それ以外にどんな会話をしたのか、僕は覚えていない。何も話さなかった気もする。
 海に着いた僕らはただ海を眺めていた。
 
2、海

 彼女が死んだと聞いた時、僕はあまり悲しくはならなかった。僕らが別れてからもう随分経っていたし、その間僕らが会ったのは海に行った時の一度だけだった。僕は彼女の葬式にも、お墓にも行かなかった。時間は流れていく、それにあわせるように僕らも流れていかなければならない。ずっと同じ所には居られない。それでも眠れない夜には彼女のことを思い出すのだけれど。
 彼女と海に行った後で、僕は彼女の言っていた、イタリア旅行という映画を観た。イギリス人夫婦がイタリアに旅行に行く話だ。夫婦は倦怠期で、夫も妻を、妻も夫を、愛していないように見える。愛は冷めてしまっている。
 ある日、夫婦は地元の人間に遺跡を観に連れて行かれる。遺跡ではちょうど一つの骸骨が発掘されるところだった。夫婦はそれを見ている。骸骨の姿が見えてくる。骸骨は一組の男と女だった。二つの骸骨は寄り添いあったまま死んでいったのだ。きっと夫婦だったのだろう。二人は時間の、人間の、神の偉大さを知り、愛を取り戻す。そんな映画だった。
 僕は眠れない夜に彼女と行った海へ行ってみた。一人で。僕らの前には遺跡も骸骨も現れてはくれなかった。僕は一人海を眺めている。なんだか眠たくなってきて、僕は目を閉じる。目を閉じると、隣には彼女が座っている。彼女は黙って海を眺めている。あの時と同じように。それから僕は深い眠りに落ちた。目を覚ました時、隣には誰もいないのだろう。それでも目を開かなくてはならない。きっと僕が目覚める頃には、ちょうど太陽が海の中から出てくるだろう。


憂欝な週末の夜

  ぱぱぱ・ららら

一、
 
「さあ、皆さんお待ちかねの憂欝な週末の夜がやってきました」
 そう言われてやって来た、憂欝な週末の夜。
 僕は憂欝な週末の夜の為に、原油高のせいで高級食材へと昇格した野菜達を使ってクーリムシチューを作った。
 そしてクーリムシチューを僕と憂欝な週末の夜は、テーブルで向かいあわせになって食べた。他には誰も居なかった。
「確かに、なかなか美味しいクーリムシチューでしたな」
 と食後に憂欝な週末の夜は小学校の校長先生のように言った。ちなみに僕の通っていた小学校の校長先生は、性的な犯罪を犯した、と卒業後に風の噂で聞いた。
「しかし、憂欝な週末の夜にクーリムシチューというのは、どうも違うように思えるんですが……」
 と小学校の校長先生は続けた。
 僕は何も言わなかった。黙っていた。そうかもしれない、とも思ったし、むしろ憂欝な週末の夜だからこそクーリムシチューなんだ、とも思った。
 
二、
 
 クーリムシチューを食べた後、僕らは二つ三つの当たり障りの無い話をした。近況とか、そういった種類の話。僕はいくつかの当たり障りの無い嘘をついた。帰り際、憂欝な週末の夜は嘘つき、と僕に言った。クーリムシチューのお礼にしては、少しだけ冷た過ぎた。
 憂欝な週末の夜が帰った後、僕は文字通り一人になった。ワンルームの狭い部屋、青いカーテン、青いベット、青い目覚まし時計、黒いアコースティックギター、そして僕。
 僕は青いベットに行き、ベットの下に隠しておいた古びた木箱を手に取り、中から拳銃を取り出し、自分の右のこめかみにあてる。それから、引き金を引いた。
 
三、
 
 ここは日本だ。僕の様な普通の生活を送っているような人間には、拳銃なんて手に入れる事は出来なかった。僕の右のこめかみに存在する、僕の拳銃には殺傷力なんて無かった。それでも僕は引き金を引き続けたが、窓から見えるはずの本物の月は、どこにも見当たらない。
 
四、
 
 僕は余っていたクーリムシチューを温め、もう一皿食べてから眠りに就いた。


コントラスト・サンダーマン

  ぱぱぱ・ららら

平日の夕方、たかひこはテレビを観ている。隣には女が座っている。
外からは止まることの無い工事音が聞こえてくる。
ガガガガガガガガガッ。
 
『コントラスト・サンダーマン』
そんなタイトルの特撮もの。
昼間は家でのんびり、音楽を聞いたり映画を観たりしているひき籠もりがちな青年だが、夜は別人。コントラスト・サンダーマンに変身し、悪の怪人を倒していく。
そんな物語だ。
ちなみに武器はサンダー&サンダーロッド。昼間のうちに洗濯物と一緒に干しておいて、太陽光を貯めておき、夜、怪人に向かってサンダーを放つ。
太陽光。エコだ。
 
「今週も大活躍だね、たかひこ君」
と、隣の女が言う。
「そうかな、普通だろ」
と、たかひこは答える。
テレビの中のたかひこは怪人と戦っている。
 
『コントラスト・サンダーマン』が終わり、テレビはニュースを流し始める。
いくつかの事件、事故、それからスポーツ。
いつもと変わらず、進んでいくニュース。
 
「ここでたった今入ったニュースです」
と、女性アナウンサーがいかにも焦っていますといった感じで、冷静に言った。
「あと、三時間前後で世界が終わります」
 
「ねえ、どうしよう?」
と、テレビを観ていた隣の女はたかひこに聞いた。
「どうもしないよ、別に」
と、たかひこは答えた。
「世界が終わるのよ。どうにかしてよ、たかひこ君」
と、隣の女は言った。
「関係ないよ、そんなの。終わりたきゃ終わればいいさ」
と、たかひこは言った。
 
工事音が止み、静かになった。
隣の女は声を出さずに泣いている。
ベランダの洗濯物が風に吹かれて揺れている。
たかひこの服。
女の下着。
それからサンダー&サンダーロッド。
 
太陽が少しずつ沈み、空は少しずつ暗くなっていく。
カラスは家に帰る時間だ。
「心配しなくていいよ、もうすぐ夜が来る」
たかひこは隣の女の髪を撫でながら言った。


こことよそ

  ぱぱぱ・ららら

ねぇ、わたしのこと好き?
好きだよ。
本当に?
本当さ。
じゃあどれくらい?
どれくらい?
そう、どれくらい?
難しいな。
もう、ちゃんと答えてよ。
愛してるよ。
 
ねぇ、人が殴られてるところって見たことある?
喧嘩とかのこと?
そうじゃなくて、なんて言うか喧嘩とかボクシングとかじゃなくて、もっと一方的に殴られてるような……。
リンチとかってこと?
そう。
うーん、たぶん無いかな。少なくとも今は思い出せないな。
 
ねぇ、わたし昨日の夜見ちゃったの。
リンチを?
うん、仕事の帰りにおじさんというかおじいさんのような男の人が殴られてたの。一人からじゃないわ。もっと多く。四人か五人くらい、いや、もしかしたらもっと居たかも。恐くてあんまり見てなかったの。ねぇ、殴る方の男たちはずいぶん若かったの。
学生?
たぶんそう。きっと殴られてる男の人と父親と子供ぐらいに離れてるような、ねぇ、言ってること分かる? 殴ってる方は自分の父親と同じぐらいの年の人を殴ってるのよ。ずっとよ、ずっと。
うん、分かるよ。
 
それでどうしたの?
えっ?
きみはそれをずっと見てたのかい?
そうね、ずっと見てたわ。もちろん、警察に電話しようと思ったわ。でも、できないの。恐かったとかじゃないの。いや、もちろん恐かったんだけど。でも、恐くて電話できなかったんじゃないの。電話しようとしたけど番号が出てこないのよ。三つよ。たった三つの数字が出てこないの。わたし、思い出そうとしたわ。でも、その間中ずっと男の人は殴られ続けてるの。それを見てたら、頭からなにも出てこないのよ。たった三つの数字が。だからってわたし一人で止めに入る勇気なんて無かったの。無いのよ。ねぇ、わかる。
わかるよ。うん。……それで男の人はどうなったの?
わたし、結局警察の番号思い出せなくて、それで、恐かったし、だから……。
逃げたの?
……そうよ、ねぇ、わたしのこと嫌いにならないでね。
ならないよ。
 
今朝のニュースでやってたの。一人のホームレスが暴行されて亡くなったって。犯人は捕まってないの。でも、きっと高校生だろうって。
そう。
ねぇ、わたし以外にも目撃者が居たらしいの。で、その人が警察に電話したらしいんだけど、でも男の人は助からなかったわ。
わかるよ。きっときみがちゃんと警察に電話してたって、その人は助から無かったよ。
ええ、きっとそうね。でも、わたし……、わたしはなにもしなかったの。なにもよ。きっとなにかできたのよ。叫び声をあげるだけでよかったかもしれない。
そんなに気にすることないよ。本当に。
 
ねぇ?
なに?
愛してるわ。


気狂い

  ぱぱぱ・ららら

蛍光灯の電気が切れそうだ
でも
取り替える気力はない
 
夢を観た
二人の娼婦と仲良く遊んでいる
一人は上に
一人は下にいる
二人とも
とても綺麗だ
僕らは楽しそうにやっている
 
映画の中で
十六歳の女の子が死んだ

と友人から聞かされる
自殺だそうだ
永遠が見たい
吐き気がする
僕は冬の海に飛び込む
 
子供の頃
ただ漠然と
大人になれば
素晴らしい人間になれると思っていた
救済され
喜びの祝福を受け入れた
美しい僕
 
点滅する蛍光灯を眺めながら
哀しげな女に
裏切られて
殺されたい
と僕は願っていた
 

文学極道

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