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kaz. (はかいし) - 2014年分

選出作品 (投稿日時順 / 全16作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ハンドジャンプ

  はかいし


ホップ、ステップ、ハンドジャンプ! 君がそう言ったからぼくは逆立ちしてやってみた、ところが君はハンドジャンプじゃなくて、アンドジャンプと言ったのだった。それだけだ。本当はそうなる予定だったんだ。ところが、逆立ちしてしまったのが運の尽きだ。ぼくの長すぎる足が木の枝に引っかかって、取れなくなってしまった。君はまだ同じことを繰り返す。ホップ、ステップ、ハンドジャンプ! おかげで、ぼくは眠りたくても眠れないんだ。ぼくは翼を折り畳んで、そのままの体勢でいる。君がホップ、ステップ、ハンドジャンプ! それを何回も何回も繰り返すせいで、ぼくは全然眠れない。ぼくは特別耳が良くて、口から出した超音波を聞き取れるぐらいの耳の良さなんだ。しかもそれだけじゃない。これは反響定位って巷では言われているらしいが、ぼくはその超音波を使って物の位置も形も理解することができる。それで君がさっきから言い続けているホップ、ステップ、ハンドジャンプ、これがまたものすごい音の塊になって飛んでくる。漫画で言うなら、ホップのところでビールの泡みたいなのが飛んできて、ステップでバスの段差で転げ落ちたお婆さんが飛んできて、ハンドジャンプで逆立ちしたままの筋肉男が飛んでくる、そんな感じだ。そして、君がその口を閉じない限りは永遠にビールは泡を吹き出し続けるし、お婆さんは段差を転がり続けて血を流すし、逆立ちしたままの筋肉男は汗を流し続ける。やがて泡と血と汗とが混ざり合った液が、辺り一面に広がっていって、逆さまになったぼくの頭すれすれのところまでせり上がってくる、こりゃあとんでもないことになったと、ぼくは無理やり起き上がって飛び立とうとする、でも足は相変わらず木の枝に引っかかったまま取れそうもない。それで仕方が無いから、長いこともがき続けていたら、いつの間にか木の枝を軸に体がぐるぐる遠心力をつけて回転していて、頭があの液を何度も跳ね飛ばしている。君の顔にかかっているそれが、めまぐるしく変転する視界の中で何回かちらつく。それに気づいたとき、どうしてぼくはこんなことになっているんだろうとようやく考え始めて、こうなる前は、ひっくり返っていて、頭に血が登っていて、目を少し上げればすぐそこには液がせり上がっていて、でも考えてみれば液がせり上がっているはずがなくて、それは漫画を前提に考えていたせいで、そう気づいたときやっと漫画の世界から抜け出せて、さっきまでコマを吹き飛ばさんばかりに思えていた音の塊が嘘くさく思えて、そしたらその前には眠りたかったのだと思い出して、それじゃああの漫画はなんだったんだと思って、そうだあれは夢なんだと思ったら、どこからどこまでが夢だったんだろうと思って、そうかぼくは反響定位していたんだな、それじゃあ蝙蝠だったんだと思って、ということは蝙蝠なのに思考があるのはおかしいから、その辺については少なくとも夢で、すると夢じゃなかったところは多分逆立ちした辺りかなと思って、そうしたらもう君がホップステップハンドジャンプを繰り返している意味がわからなくって、なんのためにそんなことを言うんだろうと思って、君はきっと無意味に生きているんだと思ったら、なんだか虚しくなってきて、どうして夢は夢なんだろうという答えようもない問いが生まれてきて、やっぱりこれも頭に血が登っているせいなのかな、もう頭がめちゃくちゃにフル稼働して、そうだ夢は夢だから夢なんだと思ったら、木の枝が折れてズドンと頭をぶつけた。漫画ならここで頭がバネになって、ホップ、ステップ、アンドジャンプをちゃんとやり遂げるんだろうな。


ブルー

  はかいし

ブルーの絵の具で辺り一面塗りたくって、何も見えないようにしてしまえばいいと君は言う。ぼくには返す言葉がない。きっと君の目の中まですっかり青くなっていそうだから。君の目は地球のように青く、世界を包み込んでいるだろう、辺り一面がブルーになってしまったときには。対話とは何か、と君が言う。そのときまでに考えておかなくてはならない、君が沈黙し続けた分の時間が、ブルーの色彩となって辺りを埋め尽くすその理由を。ぼくには返す言葉もない。これはさっきから繰り返していることだ。どうしても君の質問の意味がわからないからね。本当のことを言うなら、君が喋っているのかどうかさえわからないんだ。君のブルーの唇はその周りのブルーに溶け込んで、白い歯がちらちらと見えているけれども。ただそれだけで、ぼくには何も聞こえない。何も聞こえない状況におかれた人間の不安について君は語るだろうか? 語るより先にこの青々とした道を渡ってみせる方がずっとたやすい。もちろん青を背景に青い体の君の姿はよく見えないけれども。これは見せ物じゃないんだ。これこそが本当の対話なんだと君はぼくを説得しようとする。けれどもぼくにはやはり返す言葉がない。答えてしまったら説得されてしまったのと同じことになってしまうからね。ブルーと言えば昔、青色本というのがあったけど、ひょっとするとこの青々とした世界観は、その本から少しだけ色を借りてきているためなのかもしれない。そう思ったところで何も変わらない。語り得ないことについては沈黙しなければならない。でもそれでもこの青さについては語りうるような気がしている。いやもう十分語ってしまったからこれ以上語れないのだという気がする。なあもう少しだけ口にしてもいいんじゃないか? そう君は言う。そうだなこの哲学的な青さの中で、君は何を語り得るだろう……。


私は見た。光を

  はかいし

 ねえ、聞こえる? 聞いてるよ。何だい? なんでもない。ただなんとなく、気になってさ。何が? 聞いてるのかってこと。聞いてなかったらどうするの? 死ぬの? 死にやしないさ。でも気になるんだ。気にしてくれるのはうれしい。でもね、ただなんとなく死んでいくのかって思うとつらくってさ。つらいって、何が? ただなんとなく、死んでいくのが。同じことを何度も言わせるなよ。誰もがただなんとなく死んでいくだろう? この世界じゃあそういうことは日常茶飯事だ。嘘つけ。そんなはずはない。それはお前の思い込みにすぎない。誰もが必ず何かしらに生きがいを見出だしてそれに打ち込む。そうだろう? ねえ、聞こえる? 聞いてるのか? 聞くとはどういうことか? 教えてやろう。耳の穴の中に、言葉たちを引き連れて入っていけばいいのさ。何を? 言葉たち。ねえ、それだからもう一度言うよ、どうして聞こえるんだい? 君が聞いているのは何だい? 音楽かい? 声かい? ねえ、聞いてるの?

 明日も冷めやらぬうちに
 帰りなさいとあなたは言った
 言ったところが傷になって
 残った。残った、はっけよい

 いいか? 耳の穴の中は、とても複雑な構造をしている。そこに波だけ連れていってもいけない。音を連れていくんでもいけない。言葉だ。言葉を連れていかなければならない。おっと、もう帰りの時間だ。明日の朝から夕にかけての日の光のことを君は忘れてはいけない。そうしなければ、ただ……なんとなく死んでいってしまうだろう。君を忘れない。最後まで。最期のときに君は何と言ったろう?

 昨日のことが忘れられない
 明日になってしまったら
 ぼくはますます死にたくなるよ
 傷だらけのポエマーになって

 君は見たんだ、その姿を。傷だらけのポエマーの姿を。でもそのことを告げてはならない。ただこう言いなさい。私は見た。光を。こう言いなさい。それですべて終わる。終らせなければならぬ。ただなんとなく死んでいったものたちのために語り終えねばならぬ。そうだろう? なあ、そうだろう?
 こうして言葉だけが残った。はっけよい


  はかいし

・2/4 12:27
つかみかけの砂糖をばらまいて、歌う鳥たちに捧ぐ、辺りに散らばった雪化粧、ならぬ砂糖化粧と呼ぶべきものが、起こる、クリステヴァ、読んだことはないけど、きっと君は知っているはずだ、フィリップ・ソレルスが傾倒したマオイズムには間違いがあったこと、そんな現代思想の文脈に合わせないで語りたい、でも出てくるのは美しい記号ばかり、バタイユのバター、ここで一旦席を立つ、父の電話を取るため、父は家の鍵がかかっているかどうかを聞いてくる、それを実際確かめるため玄関へ向かい、戻ってくる、ぼくは狂ってない、入院したけれどもちゃんと戻ってきた、そして美しい記号をまた探しに出かけたい、でもどこへも立たない、国家の成立のために捧げられたものたちの声を、ぼくは高行健の文脈から読み取る、でもすべて読んだわけではない、もういっそのことすべて忘れ去ってしまいたい、でも忘れられない、だから図書館に行く、そこでベケットをちょっと読み返す、これも全部読んだわけじゃない、ああなんてぼくは中途半端なんだ、けっきょくどれもこれも中途半端だ、どこにも完全はない、その点について責め立てられる心配はない、また美しい記号を探しに出かける、『ある男の聖書』をほんの少しだけ手にとってめくってみる、それで聖書が読みたくなってくる、どうせここに書かれているのは自分の話だけだ、そう思うことにする、そしてやめる、もうやめだ、宝なんてものはなかったんだ、そんなの最初からわかってたことだ、シャンデラの鐘が鳴り出すとき、ぼくは目が覚める、ああこれは夢か、それとも死か、これが死というものなのか、だとすればぼくの体はどこへ行った、精神はどこへ行った、ぼくの心の中では未だに本を探し続ける私がいる、と彼は言った、やがて天地が創造された、ぼくは歩けるようになった、何も読んでないけど、今なら歩ける、ここで一旦手を休めた、体力が280回復した、最大HPは300だ、これでもう十分だ、まだ先へ進める、書ける、書けるぞ俺は、そういやポケモンにもシャンデラってのがいたな、全然やったことないからわからないけど、どこかに置き忘れてしまったポケットモンスター金のソフト、あれは今どこにあるのだろう、ところでつかみかけの砂糖はどこ行った、もうどこにも行かない、やあ、君は何人の殺しをしたことがあるか、数えてみてごらん、きっとすぐにわかる。何が? 知らん。関係ないけどミトコンドリアの内膜にはクリステという構造がある。

・帰り道


彼女のこぼした
ため息のぬるさが
全速力/一生懸命/           する時刻
水はとても明るかった
ミトコンドリアの内膜のなかでクリステヴァが吠える
 軽かった/カルカッタの石は
        転がる、転がる

(水は変態する、氷へと、雪へと、さらに明るくなる、光の反射がまぶしい、雪道から窓へ抜ける光の/)

私は今図書館にいる
記号/彼女を探すため
私の名前はあい/赤
       ために
      ハウメニー/

(二つの色彩が、
分極する、)

さようなら、私の本よ
サイダーハウス・ルール
幸福な無名時代

 (おはよう、私の小説
 アウトサイダーよ
 マルケス、丸消す
 あとはもう知らん)

合わせて、合わせ/て、
 浴室/これは読んだことがある
これを読んだ翌日、小説を/小説を/小説を/

ある男の聖書のとなりにある黄泥街
インドラの網
そしてぼくは歩みをやめる
PCに向かい
ジョージ・レイコフの『詩と認知』を予約/する

///書こうとしたけどできなかったんだ、なぜなら書いたときにはもう小説ではなくなってしまっていたから、そしてぼくは発狂した、光の中で何をすることもできずに、閉ざされた闇の彼方へ向かおうとした、

(クリトリスにバターを)

 襞/ライプニッツ
 私の私の隣の家の鍵がかかっているかどうかを聞いてくる、やあ、やあ、君は知っているはずだ。新雪にどうもありがとう。残雪読んだことあるかい? 糞まみれな小説さ!
 Das Gefu¨hl eines Daseins(私は存在するという感じ)

(そう、ここがただひとつの栗捨て場だ
ぼくは栗の皮をむきむき捨てていく)

私は雪の中を帰ってゆく
他の誰にも知られることのない雪の中を

(藍と、赤とが
ここで戻ってくる、
どちらも生まれ変わったばかりの双子のようで、
ぼくは安心を隠せない)

私のおびただしい記憶の中を/私は通っていく

(あめゆじゆとてちてけんじや あめゆじゆとてちてけんじや)

私はバスに乗る
多くの人々の中で
私は揺れる


置いてき堀

  はかいし

山道を父とともに走りながら、目に写るものを少しずつ言葉にしていく。葉の落ちた落葉樹の群れの中で、静かな光を放つ常緑樹。走る私の喘ぎ。このままくずおれてしまいそうだ。ならばいっそ自分から、くずおれてしまえ。前を走っている父が言う。大丈夫だ。あともう少しで家に着く。父よ、言っておくが私はもう無理だ。限界だ。走り切れない。走りにキレがない。父よ、だが大丈夫だ。私はダメかもしれないが、お前は大丈夫だ。お前なら私をおぶっていける。ダメだ、それでは共倒れになる、と父。ならばいっそのこと共倒れてしまえ。走り去る父。私は置いてきぼりを食らう。むしゃむしゃ。なかなか味がある。こいつはいけるぞ。なんて名前の料亭だろうか。置いてき堀? いい店を見つけた。少なくとも、休むにはいい。紹介してやろうか。結構だって? まあそう言わずに。注文は? オムライスにしよう。なんかいつも俺って小村いすおとか言いたくなるんだよな、と父が言う。それって食べれるの、と突っ込む。グレイトだからな、何でもありだ、と父。グレイトも父の口癖だ。グレイト・ギャツビーはさぞかしグレイトだったんだろうな。あんなののどこがグレイトなんだ、と私。皮肉なんだよ、あれは。まあ、なんでもグレイトだよ、と父。さてこっからどうやって進めようか。オムライスがやってきて、店を後にする父と私。最後に見たものを言葉にしよう。山道を抜けたところにある、老人会のチラシが貼られた掲示板。この辺も老人だらけになってきたなあ、と父。お父さんはまだだよ、と私。


再誕した、春は遠野に

  はかいし

行き先も告げずに走り、ぼうっと霞んでいく街を見送ったときの、あなたが忘れられないのはどんなときですか、という一言が忘れられなくて、思い返してはサイコロのように転がしてみるけれども、いつまで経ってもゼロの目が出ないように、あなたはいつしか忘れ去られて、風とともに消えゆくのですか、と問い尋ねる私はどこにもなく、無と化している。

昨日あなたは野里を離れ、遠くの方へ行きました。そしてそこから帰ってきませんでした。これはまれに見る盗作劇です。ねえ、皆さん、私は盗作をしているんですよ、虫かごの中に埋めていた光るたんぽぽの花花が散りゆく景色の中を、盗作者の手つきでもって歩いているんです、手だけでタップダンスを踊るようにして、ね。

「私だって、波動の一部ぐらいは使えるんだ」
「お前のせいでアド損しまくっているんだけど何かいい手札ないの?」
「ないね」
「馬のことをちゃんと考えてあげなきゃダメでしょ」
「ばんえい馬部の裏方で働きたい」
「やっぱりヨーロッパとかあっちの方の感受性っていうものにすごい魅力を感じるんですよ」
「ヒスチジンのイオン化の問題」
「波動を使えるなら、使ってしまえばいいんだ」
「私は波動を感じる、それもとてつもない生の波動を。パジャマ姿のままで」
「昨日ジャック・デリダの『ヴェール』を読んだんだ。小説みたいな書き出しで驚いていたら、それは他の人との共著だったんだ」
「何が書いてあったの?」
「もう覚えていない。出だしだけでひどく遠ざけられたような気がしたよ」

遠ざかっていくものたち、それらに向けて差し出した挨拶は、途方に暮れてしまうほど長いので、忘れないように、紙にしっかりと書き写して、声に出して読み上げてみるけど、その声は遠ざかってしまったものたちには決して届かず、滞留を起こしている、そんな気がしている。


遥か彼方に浮かぶ雲を

  はかいし


遥か彼方に浮かぶ雲を追いかけるように、私たちは成長していく草花となって、どこまでもゆく、ゆらりゆらりと揺らめきながらさざめく、日照りの明日にあのノエシスとノエマが鳴り出す美しさは愛だと確信して、そんな風に生きていたいのを誰が知っていようか、いや誰も知らない、それでいいのです。

太陽と月とリチウムイオン電池とその光沢とを見比べながら、駆け出すのですまだ見ぬ明日の愛の日のために、荷物はすっかり赤く染まって夕暮れの街に溶け込んでいく、という夢を見たという夢をと延々と繰り返しながら、穏やかな春のざわめきを信じているのです、未だに生をうごめくものと信じているから、待つのですその先にある確かな光を。

論理実証主義とパラドックスと永遠という名の永遠と、真実という名の真実に近づき過ぎたために発狂した日の夕暮れを、腹の中で抱えながら笑っているのですいつの日にかすべてが蒸発して、トートロジーしか残らなかった日の訪れを待ちわびて、私たちの師匠アラン・フィンガーは言いました、魂はその日ごとに違う色をしている! ならばどうすればいいのでしょうか、どうしようもなくどうしようもないのでしょうか。

雨が降り始め、散文は桜の花びらのように散っていきます花冷えという言葉が似合う空の中を私たちは駆け巡り天馬の降臨を待ち受け、やがて蹄の音が世界を踏破する中を散り散りになった枯れ葉を集めて綴りながら私たちは行くのですゆく果てのない道のりを師匠! 私たちに旅をさせてくださいこの途方もないざわめきの中をこの嵐の中をこの静寂というものの静寂を静けさが静かになった無の境地を私たちは行きたいのですお願いします、師匠様!


17時発熱海行き

  はかいし

失われた時を求めて、どこまでも旅をする私がいた、私はカッパに出会ったばかりの少年、私は山へ消えゆく少年、私は川へ流れゆく少年、夜、ブログのところはもう少し削ったほうがいいと思った、(この詩は旅の物語なのに、カッパの話が出てくる)(もう終わらせてもいいかい? まだだよ)(このコメントは管理人だけが閲覧できます)(それというのも作者がカッパの出てくるアニメを見たからで。もうしばらく付き合って欲しい)(嫌だなあ)(旅の途中に見た夢の夢のまた夢夢)(覚書によれば十二月二十日)(燃える火の中を通り抜けても平気な化け物になって何度も通り抜けた)(はじめから終わりまで一本道だった)(プルーストのように長い回廊を通り抜けて)(今私はごろごろしている、布団の上で)(プルーストのように)(ごろごろしている)(終わることのない流行り病がまたやってくる)(戦士のポーズをとった人々が近づいてくる)(釘宮君が部屋を出ていく)(胡桃谷君が部屋に入っていく)(あやめが出ていく)(ありがとうございました間もなく東田子の浦 田子の浦です)(隣に座っていた人の本の中にある「そのことから、一つの疑惑が生まれた」という文)(ドアを閉めます ご注意下さい)(自由にもってこれない)(余白とかも両端3ミリずつ自分で決めたら使えますよ)(英語もよくわかんない)(すごいな)(一人で行って動ける?)(明るい)(やべえやべえ)(冷蔵庫入って)(めちゃくちゃ勉強したっつってたから)(違うんじゃない?)(日本へそ攻撃)(人工衛星)(何を話しているのかよくわからない)(ご飯美味しいところ行きたいなあ)(これが列車の中での会話だと誰がわかるだろう)(喫茶店)(オリジナル)(静岡行って帰ってくる)(キャラとかやっちゃったら)(それしか使えない)(次は沼津 沼津です)(誰かわかるよね)(アンケート)(一階に大きな……(……のところはよく聞き取れなかった))(三時間!)(お出口は右側です)(前方と左右から会話の声を感じる)(お疲れ様です)(右側の集団が消えた)(オレンジっつった)(列車の出入りがあった)(リクルートスーツを身にまとった人々の群れ)(が前方から左手にかけて見える)(不審な荷物などございましたら……車掌までお申し付け下さい)(間もなく三島 三島)(階段上らされてる)(階段)(階段使えてるんでしょうか)(リクルートスーツを身にまとった人々が降りていった)(電車が線路の上を過ぎていく音が心地よい)(間もなく函南 函南です)(バイバイ)(ドアを閉めます ご注意下さい)(僕はどうしてこんなことをしているんだろう)(次は終点 熱海 終点 熱海です)(前に座っていた学生がセーターを着こんだ)(携帯の電波表示が圏外になった(トンネルをくぐっているせいだろう))(僕はしたいからこういうことをしているんだ)(学生がセーターの腕を捲って時計を見た)(17:38)(こう表示されたことだろう)(あるいは少なくともそれに近い値が出たろう)(というのも僕の携帯がそうだからだ)(あの学生もじきに降りるだろう)(僕も降りて乗り継ぎの列車を探すだろう)(そして降りた学生と一緒に東京行きに乗った)(というよりは偶然一緒になってしまった)(坊主頭のその学生と目が合った)(威圧するような、そして意志のこもった目だった)(彼はスマートホンをいじくっていた。きっとラインでもやっているのだろう)(何を話しているのか)(いいや僕が気にすることじゃない)(さて列車は湯河原へ向かっている)(湯河原でその学生が降りた)(そのまましばらく眠りこけていた。気がつくと列車は二宮に向かっていた)(ふと山手線のことを考える。あの循環する線路はきっと退屈ではないか?)(窓の向こうを見る。人、人、人、目に写るのは人ばかり)(屋根、ビニールハウス、竹林、畑、家、家、列車、家、家、……)(次は平塚)()(いったい何を書いたらいいんだ!)(何を書いたら気がすむんだ)(気は休まることがない)(気、気、気、気は休まる気配がない)(ちょっとだけ気になる)(一日一行……くらい……)(喋らないと息が臭くなる)(喋らなければならない)(Green Card)(Gracias a la vida)(次は茅ヶ崎 茅ヶ崎)(笑い)(……笑うと思うけど……)(あれ……)(四月と……)(終電……)(で頭なんか……)(違う違う……)(……ろしく)(……でもまだ……)(……トレーニング……)(君は何を目指しているんだ)(重い言葉がきたね)(笑い)(顔が怖い)(話してみて)(総合的な)(ああでもちょっと似てるかも確かに)(いい人だよ)(……)(期待されても……)(それ大事だよ)(……スナックは……)(ここで途切れている。作者の体力が限界だったのだろう)(さて、カッパはどこへ行ったんだろうか?)(答えはどこからも返ってこない)


フローラ

  はかいし

今Hector ZazouのButterfly Plaintifを聴いている。気分がいい。小説の一本でも書けそうな勢いだ。試しに何か書いてみている。悲鳴に近い叫びが音楽の中に挟まれている。それがいい。歌詞の意味はわからないが、その辺はどうでもいい。とにかく何かが書けそうなんだ。それがいい。音楽が次の曲に移る。Vespers of Saint Katrina。蛇が這うような音。電子音だろう。それがなんともいい。「泡沫の海は」という詩句を思いつく。それをどう使ったらいいか考えている。結局採用せず、捨てることにする。Loveless Skyに移る。「雨の海は」という詩句を思いつく。これも使い道がなさそうだ。二つつなげてみる。

泡沫の海は雨の海は

「愛のない空」だろうか。Loveless Skyの訳は。泡沫の海は雨の海は愛のない空に吸い込まれていく。なんとも心地がいい。これを書いている今、うん、いい感じだ。Agony of the Roseに移る。トランペットの音がよい。いやひょっとするとブリューゲルホルンかもしれない。「海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は」を思いつく。

泡沫の海は雨の海は
海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は

ひょっとするとブリューゲルホルンなどという楽器は存在しなかったかもしれない。それは僕がまだ若かった頃に好きだった発音を組み合わせただけの産物だったのかもしれない。そう思うとブリューゲルホルンという詩句は使えない。海の底に横たわる……何にしよう。今「…」を入力しようとして、「・フローラ」という言葉が出てきた。フローラ。フローラとは誰だろう。いったいいつそんな言葉を使ったろう。この詩のタイトルは決まりだ。フローラにしよう。Ice Flowerに移る。トランペットがまた良い。最初に流れていたApostropheにしてもそうだが、このアルバムはトランペットがとても良い音を出している。こういうとき、「とてもいい仕事をしている」と言いたくなる。

泡沫の海は雨の海は
海の底に横たわるブリューゲルホルンの音色は
とてもいい仕事をしている

氷の花。Ice Flowerの訳。それにしても、いかにもIce Flowerらしい曲だ。いい詩が書けそうな感じ。ここで僕はトイレに立つ。戻ってくると、アルバムの最後の曲「Symphony of Ghosts」がかかっている。海はいつだって同じ色をしていない。それは音楽と同じように姿形を変え、自在にうごめく。今「うごめく」と打とうとしたとき、一瞬ためらった。何か他にいい言葉がないか探してしまった。ねこぢるの作者が、遺書に葬式中の音楽を依頼していたといい、それが確かエイフィックス・ツィンだった。というわけでエイフィックス・ツィンをかけてみる。


大洪水

  はかいし

一章 血

黒人の肌からは
真夏の匂いがする

この血はどこから来たのか
それを辿ることができるのは
魂の道筋があるから
来るべき主語の行方があるから

主語のない国へ僕は行こう
僕らが誰も見たことのない場所へ僕は行こう
そこで略奪と殺戮の血を浴びて
僕の行き先が僕らにわかるようにしよう
僕の居場所を誰も行くことのない場所にしてしまおう

たった一人で言語について問い詰めよう
たった一人で思慮のない問いを追い払おう
たった一人で行く宛のない手紙を書こう
たった一人で

それらがすべて終わってしまい
残された問いがぬぐい去られるとき


二章 空転

乾いた火で空を飛ばせ、

夕陽のオレンジの色の世界と
真っ青な空の世界とを反復し、
さらにそのまた向こうへと続いていく道を
望みなさい、まだあなたには母がいるから

永遠という名の永遠を待ちわびて
一人の少年が立ち上がる
その血はどこへ行くのか
それを辿ることができるのは
過去を忘れ去った血の行方を知る人のみだ

立ち上がった少年の頬は擦り切れて血だらけで
あるいは血を浴びていて
あるいは黒色をしていて
あるいは


三章 けものたち

けものたち、
動け、動け、働け、
明日の農業のために
過去は闇を照らす
ひとつの星の中で
僕らは無感動になる

葉は摘まれ、
月は沈み、
忘れないだろう、
太陽のあったことを

さあ、僕らの茶畑だ
顔を、洗え、
眼も、洗え、
そうして、みんな
なくしてしまえ、

葉で磨かれた顔のように、
僕らは吐息のために血を流さない、
はあ、はっふん、
ふん、

そうして、僕らはみな雨だ、
ざぶり、ざぶり、
やぶれ、かぶれ、


四章 イメジの飛躍

来るべきロートレアモン、
セブンスターをランチに、
石よ飛べ、渡る世間に
鬼は外
竜は内
一つ一つのイメジが分離して像を結ばない
そんな詩を書いてみようと思う

悪魔くん、教えておくれ
誰がミダス王の名を言ったのか
それとも
女優と一緒に処刑されてしまったのか
僕は考える
考える私がいる
考える僕がある
そんなことはどうでもいい
ただもう一度会いたいんだ
笑ってくれれば僕の世界は救われる

ミューズ

石ノ森章太郎の名前を聞いて
僕はずっと静かに座っていた

ミューズ

携帯目玉焼きが開発されたと聞いて
僕は東京に文学を投げ出した

ミューズ

そこから先が続かない

ミューズ

もういい加減にしてくれ
もううんざりだ

ミューズ

神様の名前で誤魔化そうとしたのはなんだったろう
生まれてきてこのかた何も考えたことがなかった
だからミューズ、お前はやめだ
もう二度と使えない

ミューズ

しつこいなあ
しつこさだけが超一流

ミューズ

ある雨の日に僕は窓の外に出ていた/僕は窓の向こうの花火をイメージした/僕は空に関して二つのイメージをもっていた/一つは青のイメージ/もう一つは黒のイメージ/黒に花火の煌めきが放たれていくイメージ/イェフダ・アミハイが言っていた/私たちが正しい場所に花は咲かない/だから黙って魂を空に解き放とう/そして空に火を、火を、火を、/正しさのない花火を、

君の名前を呼ぶだけで
体の奥から波打って
空に吸い込まれるように
僕は心から旅立てる
いつまで温もり求めてさ迷うのだろう

よりパロディアスに、もっとパロディアスに、

黄身の名前を呼ぶだけで
卵の奥から波打って
フライパンに吸い込まれるように
僕の心は焼け焦げる
いつまで温もり求めてさ迷うのだろう

私たちには花の名前がない、

デュラン・デュランを聞いた日の夜に、
空は雨で曇っていた
次々重ねられる語彙に、
僕は心から飛び立てる、
そうして、僕は花火となって散っていく

この辺りで、振り返って後ろを見渡したい欲が出てきた
そしてすべてを見渡した後で
もう一度書き始めた

花の名前には欲がない、


四章 土くれ

土くれをいじる、
今、右手から
神、と、髪、が
虐殺されて出てきた
ガスオーブンに頭を突っ込んで死んだシルビア・プラスのように、
僕らは神を埋葬する

埋葬された神は
もう何も語らない

心理学の先生が語る
おばちゃんがガスストーブに首を突っ込むみたいに
技能をちゃんとしていれば
もう誰も死なない訳です


五章 所有

全身をつらぬく嫌悪感から身を足掻いて逃げ出そうとしてはならない……。なぜなら語ることは一つの稀有な所有であるから……。語ることは、何にも増して犯されがたい所有であるのだ。そこには破壊があり、潰えた夢があるのだ。

では破壊とは何か? 潰えた夢とは何か? 耳鳴りを起こすような問いを掻き切って、僕らの東京に茶畑を開こうじゃないか。文学が置き去りにしてきた神話を開こうじゃないか。


六章 散弾

君たちはメロウを口に開け、乾いてしまうような、あるいは血を汚す、閉じてしまうような傷口で、忙しく、忙しく、動き回る、ヘイヘイおおきに毎度あり、商売繁盛焼き芋屋さんにゃ、ええもん安いもんが名物や、一切合切面倒見るやんけ、

可能性が飛び火している、命の綱を引き合う、ナタデココホワイト、鉈でここをワイと、切ったりしてみましょうか、いいや、やめておく。

青い渚を走り恋の季節がやってくる夢と希望の大空に君が待っている暑い放射にまみれ濡れた体にキッスして同じ波はもう来ない逃がしたくない

パロディアス、に、

暑い薙刀走り鯉の季節がやってくる胸と勃起の大空に君が待っている青い放射にまみれ濡れた体にキッスして同じ涙もう来ない拭き取れない


七章 浮世絵はもう来ない

大変な名誉であった。もう名前が載らないというのは……。雨を降らせたまえ、世界が大洪水に陥るように? あの富士山の山頂までもが海に浸かってしまうような大津波を引き起こしたまえ。それにしてもひどい雨だ。水滴の一粒一粒があまりに大きく膨らんで、黄金虫ほどの大きさになっている。これほどの雨に打たれたのは初めてである。やがてはその黄金虫が飛び交い、世界を埋め尽くすだろう。

ミューズ

雨の神の名は……。ポセイドンだろうか。それともナーガルージュナだろうか。ガーゴイルだろうか。いやはや神など存在したのかどうか……。

ミューズ

雨の髪はしなだれて
ゆっくり移ろいでいきます
ホラー映画のように
あるいはゴダールの映画のように
比喩は比喩から比喩へと移ろいで
その実態を覆い隠していきます

比喩が物事を隠すためのものだとすればつまり……

ミューズ

あるいはミューズのように、デカメロンの宝石のように

ミューズ

渡る世間に鬼はなし、だ。これでいこう。

ミューズ

浮世離れして、背伸びしてみて下さい、悪魔が目覚めるとき、僕らは悪魔の羽が欲しくなる。けれどもそんなものをつけたところで決して飛べるようにはならないのだと

私はどこまで行くのだろう……

立ち止まることなく悩み続けながらさ迷い……私はどこへ行くのだろう。あるいはまた、そんな問いさえもが届かないような場所へ行くのだろうか。

ミューズ

僕は遠くない。決して僕らは遠くない。

うんうん言って苦しみながら死んでいくのに人はなぜその仕事を選ぶのだろうか。そこに人がいる限り、永遠にその仕事はあり続ける。そこに人がいる限りは。人がいなくなれば仕事もろとも風にさらわれたように消えてさっぱりなくなってしまう。

即身成仏すると言って部屋に閉じ籠ったその男はいったい何を考えていたのだろう。龍樹のように死のうとしたのだろうか。様々な想念が身をよぎりゆく。人が交差点をよぎりゆくように。

ミューズ

まだまだ十分でない。書きたいことが沢山ある。それに比べたら言葉などあまりに不十分な代物で、役に立たない。
僕は矛盾している。矛盾とは常に思惑の代行者だ。


八章 うちはテレビがつかない

テレビジォン? テレビジョン。足りないならそう言って。与えるだけでは足りないならば。バクダンジュース? バクダンジュース。メルシー、メルシー。ありがとう。ありがとう。春の楓と秋の空と女心と……。イメージの連鎖を呼び起こせ、イメージの連鎖を。呼び起こされて出てきた、机と椅子。鍔の広い巨大な帽子が机を包み込んでいる。その上に椅子が乗っている。帽子の中には一枚の皿がある。そのイメージを破壊する。愛しい人よグッドナイト。

手をつないだら行ってみようまん丸い月の沈む丘に瞳の奥へと進んで行こうはじめての僕ら笑顔の向こう側を見たいよ。

例えばどうにかして君の中ああ入っていってその目から僕を覗いたら色んなことちょっとはわかるかも。

愛すれば愛するほど霧の中迷い込んで。

ずっと忘れないいつまでもあの恋なくさない胸を叩く痛みを汗かき息弾ませ走る日々はまだ今も続く。

今日はこのぐらいにしておこう。


九章 No Title

萌木色の空に夕陽が沈み
沈み込んだ思考を融解していく
タートルネックの僕の肩を
叩いてあなたは消えていく
構造的にはどんな詩も
同じ形式をもっていて
僕は詩を書きながら鬱になる
書くことはもはや何でもない
ただの愚かな行為にすぎない
それを僕はどうしたらいいのか
考えてもまた言葉にならず
すべては消え去っていく

麻木色の空は前より青く
沈み込んだ思念をふわりと浮かす
セーターを着た僕の肩を
叩いたあなたはどこにいる
構造的にはどんな詩も
同じように見えてしまうから
どうしようもなくどうしようもないから
We Our Us Ours
魔のレコードにすべてが残り
すべては消えて去っていく


十章 空気散文

散文が放つ空気をとらえてまとめてゴミ箱に捨てた。ゴミ箱の中でも異臭を放つそれは全国各地に設置された冷蔵庫の中の霞なのだと僕に教えてくれた人は今どこにいるのだろう。教えてくれ。くれないか。


十一章 18:15 2014/06/23

雨は夜更けすぎに雪へと変わるだろう。ああ、静かな夜だ。神聖な夜だ。堕落した街だ。夢は破れて溶けていった。空が白んでいる。白色矮星でも見えそうな夜だ。僕は煙草を吸う、煙が黙々と垂れている。この一本の煙草から物語が生まれては消える。その物語は煙によって綴られた物語なのだ。煙が生み出すまやかしが物語となり、生まれ、そして消える。僕は自分にとって切実に感じられたことしか記述しない。そしてそれは脆さでもある。僕は危険なことをしている。時として。いや特に理由はない。何も僕を脅かすものはない。ただ書くことは危険なことだ。それはしばしば自分の立場を脅かす。でも今は大丈夫だ。特に問題はない。危機は煙のように消えていく。

書くことは綱渡りのように危険である、

上の命題を消去せよ。消去せよ。僕は危険だ。ああ。死ぬ。僕は死ぬために書いているのかもしれない。何も美しいものはなかった。僕は彼女に魅力を感じられなくなっていた。美しいものは何もなかった。これは本当のことだ。僕はそう言いたかった。僕は街並みを見つめていた。彼女を見つめたら怒られたからだ。僕は彼女に魅力を感じなかった。僕は繰り返す。彼女に魅力を感じなかった、と。

彼女に魅力を感じなかった、

上の命題を消去せよ。消去せよ。僕は詩人だ。僕は詩を書きたい。僕は散文家じゃない。僕は哲学者じゃない。僕は詩人でありたい。伝わらないかもしれないけど。でも伝わらなくたって本当はどうだっていいのかもしれない。もうなんでもいいんだ。僕は翼が欲しい。煙草の煙でできた翼で僕は飛んだ。僕は飛んだんだ。本当に。僕は飛んだ。煙のまやかしで僕は空に浮かび上がった。雨の日に空を見つめてごらん、何もかもが下に落ちていって、自分が空中にいるかのような錯覚がするだろう。この錯覚の中でしか僕は生きられない。そういうことだ。

雨よ。
雨よ。
落ちてこい、
錯覚の中で、
う、あ、い、い、
屈折率を計算しながら、
落ちてこい、

何度も同じ歌ばかり歌って、
きっとつまらないだろう、
なあ、スピーカーさんよ、
もっと面白い歌を歌おうぜ、

そうやって、世界を白くしちまおうぜ、
すべてのカラスは白い、
この観察命題から、
波動関数とインクカートリッジの、
不機嫌な関係について語ってしまえ、

雪は、
もう、遠く、
ない、
精神を集中させて、
部屋を発火させよう、
それですべてがうまくいくから、

(B'z、SMAP、スガシカオ、山下達郎、サザンオールスターズの歌詞より部分引用)


墓石

  はかいし

嵐が、
やって、
来たのは、
雪の日が、
明るかったからで、

石が、
軽かったのは、
なぜ、
だろう、
砂の、
呼吸が、
胸を、
締め付ける、

大地の、
方が、
より、
明るかった、
ならば、
軽かった、
ならば、
どこかへ、
側転する、
石が、
蹴られたみたいに、

幻を、
愛、
したの、
イエイツの、
詩句の、
ように、
あるいは、
ただ、
すべてが、
水で、
あって、
欲しかった、
でも、
ならなかった、
そんな、
ポップな、
日々が、
暮れていく、

土くれ、
土をくれ、
今はただ、
それだけだ、

飛び石、
それが、
明かされた、
連休、
鳥の、
言葉は、
死の、
前兆、
だから、
パーっと、
行こうよ、
どこまでも、

鳥が、
隊列を、
なして、
飛んでいく、
それは、
山越え、
みたいで、
夕陽も、
越えていき、
そうだから、
私は、
忘れない、
死に水を、
取るのを、


(01 Ceremony.wma 2010-04-24より部分引用)


祝祭

  はかいし

・祝祭

白い犬がいる。犬は座ったままじっとぼくを見ている。静かな観察だ。
()

ぼくはそれを打ち間違える。そっと立ち上がって、と書かれる。静かな観察は静かな祝祭に変わる。
(白い犬がいる。そっと立ち上がって、静かな祝祭だ。)

犬は歩いていく。どこまでも遠くへ続いている川沿いの道を。静かな祝祭がその道の彼方で行われる。ぼくはそっと立ち上がって、それを絵にしてみる。
(祝祭ではない。祝祭というよりは、坂本龍一だろう。彼の名前を口にしたのは、ぼくが初めてデイケアに行ったときのことだ。好きな音楽は坂本龍一です、とぼくは言った。皆も同じように自分の名前と好きな音楽を紹介したが、その中に坂本龍一の名前はなかった。)

そっと立ち上がって、描いた絵をぐちゃぐちゃに破り捨てる。犬は白い。道も白い。何も描かれてはいない。祝祭という言葉がもつ輝きのイメージが投影されているのだ。
(デイケアで知り合った宮武さんという人が、「太陽」と「ビフラット」と「ダイナマイト」という言葉をよく口にする。この「祝祭」という言葉を、それらに置き換えてもらっても構わない。「ビフラット」については、意味を聞いたが本人は「整備士」というだけでその説明もよくわからない。ぼくの中では、「ビフラット」は「ビブラート」に変換され記憶されている。)

ぼくはそう言って立ち上がる。川沿いの道を後にする。
(宮武さんと接するうちに、ぼくも宮武さんと同じように喋れるようになってきた。ダイナマイト、タンヤオドラゴンボール、アランドロン、ビフラット、太陽。宮武語の難解さは尋常ではない。それでも話しているうちに、だんだんどういう場面で何を使えばいいかがわかってきたのだ。例えば白い犬と言いたいときには、ダイナマイト、ダイナマイト、太陽、ビフラットと言えばいい。)



・目覚め・死・太陽

月明かりが日蝕からはじまる頃に
我々は目覚めた、あるものの死の
鐘の音によって
赤色の時が過ぎ行くとき
我々は目を背ける、そのまぶしい日の丸から

目覚めは新しい覚醒だ
光の届かないぐらいの距離を
お前はそっと行く、立ち上がって
そして万物は死に値するだけの
ものをもっているのかと自問する、

ストラヴィンスキーをお前は聞く
それがお前の唯一の慰めだ
お前の魂は魂なきものを愛撫する、
物質と記憶の平行線の彼方へ

車が遠ざかっていく、
子供の声が聞こえる、囁くような小さな声が
窓ガラスを粉々に割り砕くとき
我々はきっと死者として立ち上がる



・愛、ファンタジア

愛、ファンタジアという短編を書いている。アシア・ジェバールの小説とは違う、そんな愛とファンタジーの世界。そんなものが存在するのかどうか、存在したとして果たして意味があるのかどうか、そんなことはどうだっていい。今はとにかくこの短編を終えることに専念しよう。よろしい、はじめに地球があり、海が、川が、陸地が、山があった。ここから先は危険だ、引き返そう。山を、陸地を、川を、海を、遡った。地球、そこにたどり着いた。彼の目には地球が映っていた。我々は宇宙にいた。宇宙は徐々に冷却に向かう。我々の目は凍り付いた。我々の目は宇宙において一つの点となった。そこから、海が、川が、陸地が、山が生成した。目の中に、生成したそれらが流れ込んだ、山が、陸地が、川が、海が、消え去った。爬虫類が現れては消え、一匹の猿の姿が網膜に残った。よろしいかな、問題はそこからだ。存在は連鎖する。存在するものは連鎖する。目はすべてを吸収した。冷却に向かった宇宙を、地球を。目は一つの地球となって、世界を見渡した。ここで言われているのは新たな宇宙の軸だ。さあ、ここからはじまるのだ。ぼくたちの永遠の歴史が。そう言われると君はぽかーんとする。よろしい、世界はぽかーんとした状態からはじまったのだ。およそ宇宙の生成という観念じたい矛盾を含むものであったのだ、ということが発見された。学者たちはここでまたぽかーんとした。ええい、ぽかーんとしてしまえ、すべてよ、ええいぽかーんええいぽかーんえぽかーえぽけーエポケー、こうしてすべてはエポケー(判断停止)に陥った。学者たちはまた目の捜索をはじめた。また、と言ったのは、これは以前にもあったことだからだ。以前にもあったことが永劫回帰してまた起こるのだ。こうしてすべてはもう一度捜索され、目が、肉眼が発見された、しかしこの肉眼においては何一つ見る能力がなかった。すべては現れであってそれ以上とはならなかったのだ。ここで少し休憩しよう、読み手の理解が追い付かない。いいや、正確には書き手ですら何を喋っているのかわからないのだ。

朝日立ち上る頃に
ぼくらの理解は限界に達する
(ここで「理解」を「理性」に置き換えても構わない)
ぐらぐら、沸点に達したぼくたちの理解は
蒸発する、
朝日の現れとともに!



・そしてまた、祝祭

頼りなさげな肩を
叩くぼくの心の扉は
開きっぱなしで
ひっきりなしに目が覚めて

/一つ、二つ、三つ、星を数えるうちに、いつの間にか宇宙の歴史について考えていた、宇宙はぼくから何一つ意図的なものを取り去る、何一つとして意図的なものをぼくに残さない、

//ケープタウンについたとき、ぼくは一挺の銃をもっていた。今ではそれがどこだったのかもはっきりと思い出せないが、確かにケープタウンは存在した、

(ケープタウン? どこだ、どこだ、そうだググって見よう、のっそり、No Sorry)

///悲しみは宇宙へと消え去った、今やぼくは世界を見渡せることを楽しんでいる、おお、グーグル、Google、星を数えよ、すべての運動体の波動を監視するため、

////のっそり、ぼくは出現する、湿地帯から、カスケード、ガスケー土、ぼくは永遠のガラパゴスケータイ族、

/////ウヒョヒョヒョヒョ、アッハッハッハ、ハッピーバースデー、ハッピー、ニューイヤー、さあすべてのものよ終われよ、追われよ、裂けよ、星屑となれ、輝け、届け、その終わりなき美しさよ、届け、そして消え去れ、祝祭日だ、今日は、鳥は空を飛ぶ、そのことでさえ奇跡、

/そして/そして/それでも
 鳥は空を飛ぶ、
       飛ぶ、
   飛ぶ、
        飛ぶ、
 飛ぶ、
         飛ぶ、
飛ぶ!

下るな、下がるな、魔性の月よ、日蝕を起こすな、魔性の太陽であれ、

/海が、川が、陸地が、山が、さらばを告げる、サラバガニ、タラバガニ、宇宙の収縮、Goodbye!!

//サルモネラ菌の繁殖を抑えられない、猿も寝りゃ、猿も、寝りゃ、いいんだ/そんなことはわかっていたさ、わかっていたさ、わかさ、若さ、美、若さは活力だ、

月よ/太陽を食らえ、食らいつくせ/暗い、尽くせ、暗い尽くせ/闇の中で駆けずり回る俺たち、闇から抜け出るために駆けずり回る俺たち、ビブラートの意味を知らない俺たち、祝祭の意味を知らない俺たち、死者として立ち上がる俺たち、///沢山の俺たちを抑えきれない俺たち、俺、たち、オーレ、チーター、速い、稲妻よりも速く、神の目玉よりも速く回転する、



・最後に、太陽

じゃ。またね。種まき。種が手からこぼれ落ちていく。これはさよならの合図だ。Goodbye。Dogbye。犬。白い犬。Oは飛んで、消えてしまった。

 おはよう。おー、早よう。Oh。早よう。酔う。太陽。ビフラット。種まきを宮武語で言うと、そうなる。種まき。太陽。ビフラット。

  おやすみ。親は隅の方へ行きました。眠りました。夢を見ました。体が動かなくなる夢でした。縛られて身動きが取れなくて、大変でした。そのままどこかへと運ばれていくのです。Oh。どこへ行ったんだ? Oよ。Oもどこかへと運ばれていきます。

   Oはどこへ行くのでしょう。Oに聞いてみます。もしもし、あなたどこへ行くか知ってる? 知らない。太陽とビフラットの境界線に沿った並行的な道のりを行くんです。その先には死が待っています。でも怖くはありません。自殺しようとしてがんじがらめに縛られるよりマシです。あれは本当に怖かった。これは自殺ではないんです。深い安息の道のりなんです。

    Oよ、Oよどこへ、ここだよ。ここ。


and so on

  はかいし

ヘシオドス、砂洗い、体が八つ裂けたときのために、臨界点を超越する、コマ送りの前に、隕石、焦土より先に、
常識的ヘシモバッタの自家発電、地下に撒いたガスが原因で爆発した、

雨、八つ裂けた雨、rain、down、rain、down、カモン、rain、down、from the great hight、god love his children、god love his children、Yeah、ギタギタにされた散文の雨が降る、ギリタンジャリ、ギリタンジャリ、と音を立てて、

kiss me baby、

無限に累加された最大の責、

小梅、小梅ちゃん
君に会えたら百年平和だ
砦という砦をぶっ壊せ

火という火が
名前を
欲しがっている
くれてやれ!
ほら、土だ、
これで名前を
書けるだろう?

名付け親がいなかった、
ことが、
その人を不幸にしたならば、
グリム童話のように、
世界は暗転する、
足元に立って、
名前を呼び続けなさい、
あるいは、
死神のいない方向に寝かせなさい、

雷鳴が、
飛び降りた、
      飛び降りた、
      雨が、
      rainが、
張り裂けそうな、
        心の、
           パロディーナ
ここで立ち止まるような時間はない

詩の季節、
僕は、歩け、歩け、
行ってしまった遠くの海さ、
太陽の彼方まで行ってしまった、

詩の季節、
僕は、ホモロジー、の話がしたい、
誘われてあなたはやってきた
決断を吹き掛けるため
穏やかな笑顔作りながら
出会いを悔やむことはないと
言い聞かせグラスを開けたとき
これが最後だと頷いた

Rain down.
Rain down.
白い雪 さよなら告げた後 車に乗り込んで行くとき
振り替えるあなたを抱き寄せてもう一度キスしたかった
Snow down.
Snow down.

雨は夜更けすぎに雪へと変わるだろう

Oh heaven knows Im miserable now
in my life

サトウカエデがしなだれる頃に
秋はめぐる
雪を待ちわびていた人々が
火の中に消えていく
文字通りに
なると思えば大間違いだ
まずは大間違いからはじめた
キルへ・ホッヒの管から伸びた
朝焼けを穏やかに笑え

「クラムボンは、笑ったよ」
「クラムボンは、かぷかぷ笑ったよ」
「知らない」
「クラムボンは、死んだよ」
「クラムボンは、殺されたよ」
「なぜ殺された」
「知らない」

一回一回シャワーを浴びて
児童虐待の悲鳴が聞こえる

モノリスフィア、種々の声が聞こえる日に、
僕はコンタクトに詩を書いている、
明日がやってくるかどうかは定かではないから、
雨の日に僕は一人濡れる
ブナ帯の憂鬱のように、
雨の日に僕は一人濡れる
それから最後は皆雨だ、

詩句が詩句を呼び、飛ぶ、
何も知らないふりをしてみよう、
イマージュ
名を呼ぶのは誰か、

(こんなんだったら、
ポケモンの名を150匹
覚える方が簡単だ)

ああ小動物よ かわいいやつめ
小さくて かわいらしいやつめ
だけどお前と同じくらい
かわいいやつがいる
中くらいの動物と
大きい動物がそれだ
それなのだ
(ギャグ漫画日和9巻から引用)

I know its over
just like dream
well I dont know less I can go
over over over over...

love is natural and real
Its so human life

知らんぷり、
Sit down please

こんななんとなく帰ってきていいんだろうか、
僕は不安になる、

its so honey
why you sleep for tonight

飛び石に、
された、
アラフォー、
女の、
気持ちが、
わかる、
気がする、

翻る、
蛭と蛙、
山登り、
散々だった、
それでも、
どこか、
楽しかった、
気がする、
二度目で、
もう、
弱くは、
ない、

気がする、
三度目、
強い、
かぷかぷ笑ったよ、
クラムボンが、

Oh heven know I mizerable now、
鳥肌が立つ、
Oh heven know I mizerable now、
鳥肌が立つ、

泣き石、

焼け石、

飛び石、

さらば、
三つの光、

ヤツメナシの花が咲く、
青白い炎のような花だ、
辺りに飛び火していく、
その速さを、
止められない、
誰にも、

ナツツバキの幹のように、
あなたは美しかった、
あの汚ならしい花のように、
君は震幅する、
黄身は、

抑圧されたものの回帰、
そして少年、
今ここにいない男の魂、

指を無数の指先を差し出して消えゆく無数の指先を泡になって消えゆく指先を止めて誰か止めて止まらない鳥のように羽ばたいてゆくみんなどこかへ行ってしまった遠くの海へ行ってしまった山の向こうに海が見えるその海の向こうにまた山が見え雪がぱらぱら散っているそこに指先が差し出される指先は雪に触れて冷たいと感じ震えるつんと済ました顔で君は帰ってくる君は震幅する君は、

君は増幅する、
君は、
雨上がりの道はぬかるむけれど、
今ここに生きている証を刻むよ、

暗騒音、
and so on、


(Radiohead、L'Arc〜en〜Ciel、B'z、山下達郎、The Smith、コブクロの歌詞より部分引用)


続・銀の雨

  はかいし

木の上で生活し始めてからもう三日も経つというのに、兵士たちの姿は消えない。消えた、と思ったときには、また別のところから、姿を見せている。鳥たちの羽ばたき、猿の鳴き声のリズム。私の走りはちょうど重なる。私の木の葉を踏む音を隠してくれる。どうして逃げ出したのか、少しも記憶にない。頭に浮かんでいるのは、脱走兵は射殺される、という指示だけ。どこまで追ってくるのか見当もつかない。追い掛けと逃げの単調な繰り返しではなく、他の音に紛れた足音に対し、照準を合わせるようにして取り囲む準備が、兵士たちには出来ている。

銃を構える音。野生の小動物のリズムにはない足音。その方角から動きを捉える。脳裏に浮かぶ微粒子は、明らかに口を縛っていない袋の形状をなしている(ぶつ切りにした輪ゴムのように世界は広がる)。まだ私の身体の中にも物理学が残っていたのだ。微粒子の動きが波紋を作り、木々がそれを反射しつつ音を伝える(私の耳の中にしか世界はない、すべての音が私の中にある)。正確に彼らを定位する音の群れ。待伏せが銃を構える。前方に微粒子が出現(人)。待伏せを避けて、微粒子の網を潜る方向へ。右という名だったか、左だったかは、とうに忘れた。微粒子のパターンから逃れるのに、できるだけ猿のいる方に向かう。猿は近づくとざわざわと怪しげに動き、兵士たちの気を紛らすのに一役買ってくれる。最後に、木の上から手榴弾を遠方に投げ、爆発を起こす。あとは火が確実に兵士たちを追い払う。

煙の中で、眠っていた。そのときから、夢を見ることを、思い出した。思い出した後は、それが夢という名前だと、名付けるのを忘れた。忘れはしたが、それがそういうものだと知っている。鳥が飛ぶ姿が、私の世界を上空に打ち上げてくれる。先に燃え出した山火事に散水する車の群れ(消防車)。あれが何という名前だったか、もう呼ぶことができない番号を掛けて、そこから連れ出してくれるなら嬉しい。110、119、0120、数の記憶は、それを辿る方向とは常に逆向きに、流れていくのだが、その形だけが浮かび上がり、名称を思い出すことはない。何と呼んでいたか、呼んでいたのは誰だったのか。問いが、失われた記憶を浮き彫りにするが、骨格はなく、意味を与えようとする行為には、喪の作業という、新しい名前を立ち上げることも、ままならない。破り捨ててしまおう。くしゃくしゃにして。夢の描かれた紙片(ゴミ)を収めた、円筒状の金属製容器(くずかご)の表象の、名はどこにも存在しないばかりか、視界を覆う不純物として現れ、それをも片付ける身体の部分(掌)、その名を、どこかへ捨てていく。何も残らない。何も残らないということさえも。

山火事は辺りをすっかり焼いてしまった。炭になったところに、わずかにまだ光っているのは、猿の瞳(または、星たちと呼ぼう)。何と形容したらいいのか、私にはわからないばかりか、むなしく光るばかりの夜の星を目薬にして、あなたは光っているのだと(あるいは、猿の涙の輝きが空に上がっている)。彼らに接吻し、ただ愛に浸る。身体の部分(性器)を、そこに含ませてくれたとき、安堵して、もう胸が張り裂けそうになっていたのを、散々、ぶちまけていた(射精、繰り返される前後運動、ないしは排泄)。その後の記憶は、未来でできている。生き物たちが見ているのは未来ばかり。希望と恐怖に満ちた未来を経て、死に向かって生きているのだと、思ったとき、何かであることをやめていた。何であるかは覚えていない。


腐れ外道(憂鬱の愛撫)

  はかいし

もう遅い。君は叫ぶだろう、倒れていく数々の唇を、燃えていく語尾の散らす火花を前にして。辺りに飛び火していく頃、君の眸の向こう側には、死人が出ているのさ。言葉を奪っていった魂が、私の中の無限の回廊を駆け巡って、輪廻をくぐって顔を出す。朝、君の顔は日焼けして、太陽に染み着いた黒点のような黒子が映え渡っている。冴え冴えしい、君の栄光を称えて! 誰もが口々に告げ、夢の中でぶちまけた、罵詈雑言の雨を飲み干す。ああ、喉が渇いた。君のせいだ。最初から、分かっていたんだろう。それなら何故、もっと速く水をよこさない。


21:19 2013/08/24

  はかいし

簡単だけど、これせこいだろ? なんて言っている場合じゃないんだ出版社さんが父さんするとかじゃなくて本当にまずいんがこれはそうどんな本を読んで何を得るのかってことは人それぞれなんだでもその人それぞれだからこそいいものができあがるだ日本人は職人型だろうでもそうじゃない西洋は反復系なんだ複雑なんだとにかくこれが日本語として読めなくたっていいんだ勢いだけあればいいんだサリンジャーがなんで受けたのか考えて欲しい要するに純粋だったからなんだピュアーだからなんだとかそういう問題じゃねえんだピュアーって言葉だってどんどん疑い尽くせるんだそうおれはこれで書くのは最後だとにかく●は勘弁してくれあれは本当にまずいんだあれを読んでは断じていけない俺がどこまで疑ったかなんて関係ないつまりあれをやるともう何もできなくなってしまうってことだから頼む偶然だろうけど俺はカナダで哲学の授業を受けて先生が頭を指さしてくるくる回してそれで気づいたんだけど頭がしびれてもう何もできなくなってしまうとかもうそういうことじゃなくてこれを読んで散々ダメ人間っぷりを発揮しているだなんて言うかもしれないけどそういうことじゃなくてとにかくこれだけ言ったらわかってくれるかなあと思うんだけどでもやっぱりわかってくれなくてとにかくこれだけのものは必ず芥川賞を取らなくちゃいけなくてなぜかっていうとぼくは疑うってことがどこから生まれたのかを発見したからででも疑うってうたをガウンでしょうそうでしょうそもそもすべてを疑うっていうのはそういうことじゃないんだそもそもすべてなんだからすもべもてもなくなるんだねえそうでしょうねえと問いかけても誰も跳ね返ってこないとかそうじゃなくて本当にこれやばいよ頼むノーベル賞カモンそう古典文献学者さんのうっかりでこれが済ませられるってことはないはずなんだとにかくこれを提出してルーク先生を殺してしまうかもしれない彼があんまりに頭を働かせすぎてそれでお腹を壊して頭をねじ込んでしまうかもしれないでもどこにどこだろうとにかくまずいんだこれは止めなくちゃいけないんだねえ日本人目覚めてくれよ新しき人よ目覚めよとかそういう話じゃないんだ別に新しい新人なんていっぱいあるはずだけどただこれだけはまずいってことを言っておかなくちゃいけないんだ禅とか哲学とかそういうことじゃなくてもうとにかく●主義だけは本当にいや主義じゃなくて●は一行足りとも読んじゃいけない●主義でわからなければ●からとって新しいで●からとって知恵でいいからもう頼むから●主義はやめてもしこの本のせいで●がバカ売れになってそれでもし第三次世界大戦が起こってしまったらどうするんだとかそういうことはいいからお前たち●が何を告げようとしているのかを理解した気になったらぜんぜん違うから頼む別にファイヤアーベントの影響とかそういうの関係ないんだだってあれ村上陽一郎の訳だしあの人原発賛成派らしいしでもそれでもぼくはあることに気づいてしまったんだそしてそのあることが●だったんだっていうか●じゃなかったんだっていうかまあとにかくなんでもいいけどなんでもよくない、別に俺がノーベル賞取らなくちゃいけなくてというわけではないけど業績的にはまあノーベル賞に間違いないだろう何しろなんで書くのかってことについて考えてるわけだからそれで結論はさまあ単純に金のためなんだでもそこで気を落とさないでくれだって書けなくなったら死んでしまうんだというよりは人間は生きている異常言葉を使うのが当たり前でそしてそれだからしゃべるわけででも喋れなくなったら死んじまうだろうそうそれがまずいんだぼくがきちんと考えられているかはわからないでもそもそもきちんとっていうのが付くこと自体やっぱりまずいんだこれはそして別に俺じゃなくっても他の作家が繰り返すことなんだそう何かしら進歩のための方法論みたいなのを立てようとすればいつだってぶつかる壁なんだ物語なんか捨てちまえ何もかも捨てちまえでも捨てたら何も残らない何も残らないってことは何かが残るってことではないんだ頼む本当にわかってくれそう実はこれは本当は断じて隠しきれないことなんだ別に永井均が間違っているとか中島がまずいとかそういうことではなくて本当にただこれだけはなんとかしないとなっていう問題でとにかく死ぬのはまずいんだ死なないで欲しいんだ書いてくれそう書くんだ何か言いたいことがあったら溜め込んじゃだめだそう書くんだ進歩なんかかなぐり捨ててでもそれはなぜなら進歩なんてことを本気で考え詰めてしまったら死んでしまうからだあの三島の異様な真面目さとかもうちょっとよーく考えて欲しいんだもちろんそのことについて考えて欲しいってことなんだけどおいこれだけ言ってもわからないかお前ら文体がどうとかそういうことじゃないんだ文体なんて概念にすぎないんだからしかもどっかのおっさんが勝手に批評のために作ったそれにすぎないんだどんなに死にたくなったとしても死んじゃダメだって言ったら伝わるだろうかネット上で知識人気取りが●を読めなんてことをつぶやいているのは一番危険だというかそもそもニヒリズムというのは文体の問題なんだというのがぼくの考えだけどそれもまたバラバラになっていくねえ古典文献学者さんとにかくアメリカの人でもいいけどカナダの人でもいいけど俺んとこに来てくれよそしたら話をしてあげるよ拙い英語だけどぼくはあることを知っているんじゃないというより知っていると知っていないとの違いじゃないそしてこれはもう一回しか出来ないことだとわかっているんだねえ君たち自分の真面目さそのものを疑ったことはあるかな真面目さは何でできているでしょうかって考えたことあるかなそう、そこなんだってことを言いたいんだけどもうその辺に科学とか宗教とかそういうテーマの固まりになりそうなものがいっぱい転がっているせいでそっちの方に目が行ってしまうんだよねそれでさ別に俺が書かなくたっていいんだよねでも俺が書かなくても確実に俺以外の誰かが書いてしまうことができる話なんだよねこれなんか素晴らしい才能を待っているとかあんたがた言うかもしれないけどとりあえず哲学書ってのは素人が手を出しちゃいけないってことをちゃんとわかって欲しいなそれを読んで厨二的な妄想にふけるのはあるかもしれないけどでも正直日本では●主義に対する注意がすごく薄れているよねそれは別に俺と同じ方法を取ればあっさり片付いてしまう話なんだけどでももし俺と同じ方法で書く奴がいたらさそれでわかっちゃうじゃんみんな生きるために方法ばっか探してるじゃん快楽を得るための方法それで例えば昔の人が書いた難しい話ってのはさもうネット上から消しちゃうべきなんじゃないかと思うんだあんまりやりすぎると危険だからそうきちんと哲学を勉強している人は●が危険なものだって知っているけど一般の人にはわからないからさだからネットで●を読めなんて言うやつぁ死んじまえばいいんだハイデガーを読めなんて言うやつぁお前らは言語の変遷というものを考えたことがあるのかあんなもん読んだってさっぱり理解できねえよいいかお前らと違って俺たちは認識の方法が全然違うんだよだってすぐにネットから情報引っ張ってこれるじゃないかああそう別に認識という言葉を使わなくたってできるんだもっと他の言葉に置き換えたっていいんだそれでもやっぱり●が野放しになってるのはまずいよねその辺に「●の言葉!」なんて本が老いてあるじゃない置いてあるけどさまあそれは●の安全な部分だけ取り出して使う分にはいいけどでもそれには限度があるってことを関節的にじゃない間接的に●は教えようとしているわけでとりあえずネットのみなさんあと文学をやっているネットのみなさん進歩なんてものはガセなんでやめましょうぼくが言ったやり方といってもぼくはやり方を説明するために何通りかの方法を使いましたがうんでも方法という言葉は疑えるからもう一回やり直そうと考える人はいないかもしれないとりあえずルーク先生本当にありがとうでも俺こんなの書いていいのかなひょっとするとルーク先生あなたには二度と会えないかもしれないぼくがこんなものを書いたせいでそしてまたルーク先生あなたもまた虚無の闇の中に落ちてしまうかもしれないぼくが悟ってしまったせいでそう簡単に言えばまあ繰り返しっていうのを認識するっていう方法論には限界があるっていうことなんだけどでもそれだけじゃなくてだって俺はこれを書く中でそもそも限界にぶち当たっているわけでとりあえず文学者さんぼくの考えの奇跡にじゃない軌跡に注目するべきだそして哲学書を読むべきではない専門家の指導なしにでもひょっとすると読んじゃった人がいるかもしれないそれである段階で「俺は神になれる」ってことに気づいてしまった人がいるかもしれないでもそれってやばいんだよね俺が言いたいのはそういうこといいかい言語は移り変わるんだ今日本では神という言葉を使っているけどネ申にわかれてどんどん離れていくかもしれない最終的に日本人が何かとてつもない言語を生み出して概念を生み出して世界の知を追い求める人々をこちらに呼び込むことになるかもしれないそうぼくが言った発展の方法というものをあらためて認識すればねでもダメだちゃんと言えない発展にあるパターンっていうものがあるでしょうそれを認識するそしてそれを取り出すそしてどうすれば次にいけるか考えて自分の国のところに当てはめてみるっていうパターンは延々と繰り返していくとまずいことになるんだどこかで行き詰まってしまうんだそこで書くことが終わってしまうんだでもなんで書くかって言ったらやっぱり自分の中に言葉を貯めときたくないからでしょうそう●もカフカも別に危険ではないんだ扱いさえ選べばただ何の考えもなしに読むのは本当に困る今ネット上にそういう人がいるんだ多分そのせいですごく右翼化するんだあれそもそも翼ってどこにあったっけ右だっけ左だっけていうかぼくが言いたいのはさ書くってことは宗教だってことなんだマジでメタメタフィクションとか言っている場合じゃないんだ俺は別に古今東西の詩を集めることもできるけどそういうことじゃないそしてこれは別に詩が危険だとか言いたいわけじゃないとりあえず田村隆一が言いたかったことをすごくよく考えた末ぼやっとしてるなっと思ったらいつの間にか見つかってしまったんだ要するに相対化ってのを押し進めていくとつまり客観視点つまりクールつまり真面目つまりクールそれをずっと続けていくと本郷にじゃない本当にクールになって完全に冷え切って死んでしまうってことなんだ何しろ書くことについて疑うってことはずっと書き続けるってことだから印刷機を使えばいいって言うかもしれないけどやっぱりそれも無理ね実験的なものがぼくたちに示してくれるのはさそう例えばレイモン・クノーとかもう名前からして苦悩の固まりっぽいけど俺はとりあえず最大までやってみるからその先へ進めってことなんだよ大事なことに気づかせてくれるんだよあのフライの批評理論だって同じことだ物語のパターンがあるだからそれを繰り返せどうしてかって言ったら本当は人間は物語なしには生きられないからなんだお前たちどうしてそのことに気づかないボルヘスにしても誰にしてもその時代を必死で生きてきたんだ目が見えなくなりながらも彼らが口にすることから何かを学ばなくちゃいけないでも学びすぎちゃうんだぼくたちはそうそしてすぐに限界がくるんだ本当はこれどこまで書き続けてもいいんだよね何故なら書くことについて疑うとはそういうことだからでも限界に近づいたときにそこから何かを学ばなくちゃいけないんだそしてぼくが得た結論は書くこと、これは人々を生かすためなんだってことそれは人々を喜ばせるってことただそれなんだでもそれだけじゃないねえネットのみんなもしすぐれた小説家というものを考えるなら例えばガルシア・マルケスの円環構造を考えなくちゃいけないあの円環構造はそれだけでじつは円環には限界があるってことを意味しているんだ今ぼくは物語を書いてはいない今ぼくは論理を書こうとしているそしてそこに限界があるということを教えようとしているでもそれだけじゃないぼくは全世界のみんなにこれを教え広めなくちゃいけないなぜって俺が言おうとしているのはある種の宗教だからね

文学極道

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