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脈搏 (にねこ) - 2013年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


【coreless。】

  にねこ

骨のない魚が窓の外を歩いている
靴がないと 振り返った
(がんじがらめの嘘が
ぺらり浮かんで消える)
この世で一番大きなワニが
捕食するその顎で 噛み砕くその前に
一息つかせておくれよと
飲み込むと喉が灼けるようで
目を白黒させた
胃を守るために美味しくいただくはずだった
フュメ・ド・ポワソン
には地獄が渦を巻いているそうで
震えて濁らせた
スープの澱がやがて
眼球の新鮮さを失うようで
わたくしは?

骨がないからどんな風にでも
折り曲げられる と言ったのは
だれか高名な生物学者だったか
「ガクジュツテキには
とブリーフをずりあげながら語る
(摩擦ではげた頭が赤い)
「ヒセキツイドウブツです
「ヒジョウにコウドな
「キワメてマレな
早すぎた熱放出を終えて
急速に冷めていく高名なアレなキトウが
咳払いする
「さしずめキミは
「ゼンドウドウブツです
「ウゴメクようでしたので
「もしかすると
「カンケイセイブツかもしれない
「千匹
「キミのセキニンだ
ティッシュに丸め込まれた
論議の終焉
意味のなかった祈祷と
添加される責任のアスパルテームの神殿が
飲み込めない
「しばらくチリョウのために
「ペニスのソウニュウをつづけます
「ケイカをみるため
「ツウインしなさい
それはどこか遠くの国の風習ですか
高名な生物学者は
高名なお医者様でもあったので
ごっこ遊びにぬかりはなかった
丁寧に小骨一本も残さぬように
指をならせば
丁寧にみつ折にされた
骨のない魚の密猟が
ウミウシのアメフラシ儀式を形作る
しってたかい
貝殻を体内にかついで
あのぬめぬめとした
さびしいイキモノは生きているんだぜ
「それはチガイます
「そもそもギョルイではありません
生臭いミルクが急速に乾燥して
塩分とミネラルとショ糖が
原始のスープキューブに
固められたトマトソース
ワニの背のゴツゴツしたウロコが
削っていくチーズの
こんがりと焼かれてしまうその前に
雨を降らせてこの火照りを冷まさなければ

魚は靴をはかない
まして長靴は はかない
水の中で無意味な靴は再生し
L・フェニルアラニン
のような強い甘味が
喉を灼くから
とてもとても薄い貝殻で
守らなきゃいけないものがある
貞節というのは時代錯誤なのか
骨のないわたくしが
いがらっぽく呼吸するので
誤解だらけの靴紐が結べない から
再生しワニに食べられるまで
気泡をぷくぷくと口のふちに
しろい粘膜上皮がふるると鳴いた
(あ
昇天
致しました)
大気圏の層の奥ひだから見下ろしたのだ
たっぷりのチーズをかけて
こんがり焼かれたラザニアの
帰れない山脈が背骨だというのならば
やはりわたくしは
骨のない魚に違いないと
ロッキーの拳骨がしたたかに
(がんじがらめの嘘が
陰毛と一緒に
喉に絡まる)

海洋生物が
進化と淘汰の
淫乱な交わりで
その欠陥が
補完されてさらにケッカンが
形成される
流動する
まるで性器みたいな
ゼンドウするインビなセイブツが
骨がないから何も言えない
わたくしを
めぬぬと陵辱していく
ワニの大きな顎が噛み砕く前に
たとえばそれが
薄汚れた落書きだらけの
駅のトイレの神殿に
いかにも恭しく供えられている
芯なしのペーパーのように
簡単に剥がされていく
オルガスムでも
水にながせよと
ばくんと
蓋を閉じた


healthy

  にねこ

花の蜜はとても濃厚だ。痺れさせるほどの甘味は苦味とまがうばかりで、苦い生活ゆえに乾きまた喉を潤す蜜を探すのだと、そういった。いつか薔薇の中に潜る小さな虫のようにその甘みに耽溺して。苦き世のうつつを過ぎる尊さに。あなたが、甘い。



を、
食んでいました
咀嚼するその音に拘束された、瞳が
嚥下されるその前に
私は屠殺されてしまうのでしょう
柔らかな枕とハミングに挟まれて



の、
栄養成分を栄養士に聞かなければ



無視できない痛みを負う事はままあることだからと。蜂蜜を傷口にぬる古い風習のままいった。抗うべきことが多すぎるのだ、しかしその繰り返しで。あなたの愛くるしさは生きていけるのだと、その素振り、あくまで自然に。



は、
確かに消化は良さそうです。




嘘つきな
腕にすがる
私を遠ざけないでくださいと
不在が小指を噛みちぎる前に
どうか、と
冷たい枕と沈んだ寝室での晩餐
わたしとあなたの
不健康はきっと
偏ってしまったからなのだ

残酷に奪うのが奪い合うのが
甘い 甘い

夕暮れ時になるとどこからか聞こえてくる笛の音が私をハナムグリの憂愁にさそい。



の、
毒性については、


夜蝉

  にねこ

反響する、草にむせる
誰でもない
咳、ひとすじ
またたくように
歯噛む、隠れ、
隠し音の涼やかな虫
羽根、その羽根、
ふるえる律の階段を
降りた

走査される、感情、
朽ちた木が幾重にも
剥がれて
その声が、積む
額縁化された抜け殻の果て
ひらひらと
「散っていくのですね」



渦巻き叫べ



「ここにはありませんでした」
夜半の楽譜に彩る
気違われた数々の詩に
僕は死に
撓む背骨の質量を
天秤にかけた
心臓が打つ数だけ愛したと
指を舐め数えるしたたかさを
眼鏡についた指紋の曇りを
拭くふりをして通り過ぎる
鍍金した言葉と
あなたへの葬列
不確かな
とても不確かな

こえ、?



『聞こえますか、いまでも』



汗だけが生きているように
背中を流れていきます

公園には私ひとり
水銀灯が震えている
影を隠すように植物が佇んで

それだけで十分でした
それだけで十分でした
泣けました
泣きました
ほんとうは
泣けませんでした
水分は汗にすべて使ってしまって
むしろ私が涙でした

それを静かにすう、植物、

は、優しい…?




((((ひしゃげた空は黒檀の瞳の海に浮かぶようでした、街灯の独り立ち、その下でうずくまる、うずまく黒髪の中に守られているという本質が、しっぽりと闇に蒸れる夜に、プリズムのネオンが、うつくしくそうして不安定な)))

、まま。



「ひかりが欲しかったのです」、「塩辛い海から掬い上げてくれた断絶のハサミのような」、「冷酷が仄温かく下腹部を満たしていきます」、「声をかけられているのでしょうか」、「それとも罵声でしょうか」、「細すぎた足が樹皮に傷をつける前に」、「滴ったのは血液ですか」

、それとも。



(((たなびく前の、白い、
しいたげられた息を凝る)))

(((呼ぶ声、声がくちびる
震え耳が浸透していく)))


セックスしましょう、セックスしましょう、
あなたのことが好きなのです
だから、どうしてもセックスしましょう
私は孕みます
私によく似た
私の子供を
そうしてその子もまたあなたの名を呼びます
セックスしてください、
あなたが眩む万華鏡の底で
とても不安なこの体を埋め尽くすのは
あなたの名前に他ならない
あなたとして私の愛を受け取るために
あなたとあなたが交合する
その愛を


(((しんとした面持ちさんざめく
残響、の恐懼の破片)))

(((青ざめたるは、褐色の)))


腹に何かをいれねばなるまいと、
そう思って空を開けた、冷え切った空には
いつ買ったのかわからぬビールと
干からびたチーズ
展望台より落下する速度で、
啜り上げた涙では酔えぬと
左頬、かじりついたあと、
私が半月になる


(((嘘つきの羽が空に粘液を綴る、
星々をひいて、物語となる、それは、
治療です、あなたを漣む、
満ち引きの命、たとえば)))

恋やもしれぬ、空蝉の

接続されていく
埋没された記録、その軌跡
誰のものでもない
紐解けない物語
という、ひゆ、


打ち捨てられた
殻の中には不思議な紐が残っていました
すべてが琥珀色に透ける中に白い懐かしみが
あえかに震えるエニシダの枝のようで
どうしてこんなにも白いのでしょう、
あなたに結びついた黄昏
手折るのは容易いけれど、
「残しておきましょう」、「きっと彼は帰ってきます」
紐の先っぽはぐるぐる巻いて
空を飛んであなたに会いに行くこともない

迷い込んだ夏の夜の
角を曲がるたびに細くなっていく
あなたへの想いの迷宮が
こころもとなくて


/しがみついて泣いた
/しがみつけるのなら泣いた
/しがみつけなかったから泣かなかった
/かなかった、かなかな、
/なかないかなかな、かった
/なかったかなかなかな
/なかなか

、いない、。


大きく息をすった
この身体にはもういらないものが多すぎて
たくさん捨てていく
本当に大切なものを手にするためには
私の体は小さすぎて、
だからあなたの栄養を
分けてもらいたかった
私の中にわだかまる命の
震えがいま、私を産んで
だからわたしは空っぽなんだ
その空っぽを闇に浸して、
声を限りに、
なけ (いた、いない、ない、声、


呼ぶ声が聞こえる、


この息が尽きたら死のう、
この死が尽きたら息よう、
わたしが欲しかった光は
いつしか無数に林立する街灯に紛れ込み
わからなくなりました
そのしたにたっていたあなたの
すがたもかげに紛れてしまって
どうしてわたしがないているのかと
問うてくれる人もいませんでした
だからわたしは朝を待ち
それから、ご飯を食べにいきます
あなたがくれなかった栄養と
光を浴びて
誰かの叫びを保存し続ける
脆弱な皮のまま
水分を静かに吸いあげる
植物になりたいと、
そう思うのです


喪失少女。

  にねこ

夏の歌がすれ違いざまに果実になる
もぎ取る手はやつれた楓、意味を途絶させることなくキスは続きその痕も焦げて致命傷へと、仮面を被った電球の光さえ余計だと思ったうずくまる吐息、その中に貯蔵される沈黙の双丘の絞らるれば勿論赤く、かつヘモグロビンの用意はないのだろうきっと、
白き窒息柔性、
ゆえに、無垢なる いろどりと知る

放課後、
木机の下で交わされる秘めやかな囁きが夕暮れのカーテンに巻き抱かれた白い足をすすぐ
生き延びた哀蚊が空に呪文を描くように幾何学としなやかな筋肉が掛け合わされた
逃走寸前のふくらはぎが漲るそれは何か分からないものの迸りを受けて
秘密だらけだった紐解かれるはずの指の絡まりが世界の全てだった頃
自分の歪みに合わせた姿見にあなたを探していました

褥の深海が
静かなのにとてもうるさい
優しいのにとても痛い
だから眠るのだと思います
耳がいたたまれないから
電気を消して
風景を捕まえる

例えば残された
手紙としての歯型が
柔らかく波打つ白い肌を透して
やがて沈殿するでしょう
夜着をはだけたままの乳房で

わたしではないものが
わたしとおなじになって
わたしの鼓動を鳴らすみたいで、こわい
わたしが流出していくのがわかるようで
うねる、うず、
その答えが、影になり
理由のない罪悪をわたしに背負わせる
なにか、が、
紙にくるまれて捨てられる
伸ばした足は痙攣して
そうして消える消えて、ゆく

揺する戯のそばに転がる指の白さ
宙に描く螺旋の文字は『の』
の、の、

所有を露わにする皮膚がひらり、ほろり
脆弱性を擦り合わせた夜
鈴虫なく
空間に型どられた
細動に崩れていく積み木の塔が
目に鮮やいて
やはり無垢する指を染めた

おちる、手のひらに、似た葉の
その葉脈は
まるであなたへの手紙のようでした

『 前略
こんど生まれてきたら、頭足動物になりたい
あなたが誰かと囲んでいる晩餐のテーブルに
どさりと重い音をたてて飛び降りたい
粘液質な皮膚のままで
砂に塗れた饒舌と引き換えに
かしこ 』

ふと開けば、胸乳
帰れない稜線の果て
遠き少女を、
想う

文学極道

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