#目次

最新情報


しんたに - 2013年分

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


オムライスの怪人ケチャップを捨てる

  しんたに

底の無い青の中で羽の無い鳥が浮かんでいる
不規則になびく木々に合わせて揺れている

 校庭は雨だった。雨音に混じってピアノの音。音楽室はいつも右上にあって、そこに全部あった。ノートに書かれた読点や濁点は、窓を飛び出し、雨粒に紛れて大脱走。「オムライスの怪人、ケチャップを捨てる」と書かれた文の読点が音楽室の扉を開け、咲き開こうとしている、その花の頬に触れる。春だったのだ。季節は。


◯『ピクルス、あるいはチーズバーガー戦争』という仮題をつけた中編小説の冒頭

 祖父は棺の中で、眠っているかのように目を閉じていて、その頬に触れると冷たかった。僕は祖父が、「戦争には行けなかった」と言っていた事を思い出していた。そんな風に祖父が言葉を発し始めると、僕は彼の側に座り、戦争についての話が始めるのを黙って待っていたけれど、「俺は頭は良かったんだが、目が悪かったんだよ」と言うだけで、祖父がそれ以上のことを語ることは、結局一度も無かった。(中略)「行けなかった」と祖父は残念そうに言っていたけれど、彼が戦争に行きたかったのかどうか、僕には分からない。僕は戦争のことをブラウン管や書物の中で加工処理された映像や言葉としてしか知らない。祖父の世代の人々が、何の為に戦い、死んでいったのか、僕には分からない。もちろん、想像することは出来る。いや、結局想像することしか出来ないのかもしれない。いくつもの戦闘機が地上を離れ、空を舞い、雲の端から雪が降って来るかのようにゆっくりと落ちていく。仲間達がそうやって居なくなっていくのを祖父は黙って見ている。僕は黒服の人達から離れ、ズボンのポケットからラッキー・ストライクを取り出し、水色の百円ライターで火をつける。右手の人差し指と中指でそれを挟み、口にくわえ、煙を吸い込み、ゆっくりと吐く。煙はゆらゆらと消えながら上空へ舞っていく。二口か三口、煙草を吸った後に煙突の先からも煙が出てきて、煙の先の空から雪が落ちてきて、僕は今が冬だということを思い出す。白い煙は雪に紛れて空に溶けていき、黒服の人達はそれぞれの場所へ帰っていく。

 そこまで書いたところで僕はノートを閉じる。素っ気なく一日が終わっていき、またいつもと変わらない一日が始まる。僕は駅前のマクドナルドでコーヒーを胃に、ラッキー・ストライクを呼吸に加えていた。店内では、エドワード・ホッパーの絵の中にでも出てきそうな人々が、それぞれに時間が過ぎていき、朝がやって来るのを待っている。本を読んだり、音楽を聴きいたり、携帯電話をいじったりしながら。窓の外に見える駅前の大通りでは、紫色のコートを着た女性が月の光を背に、孤独を背負った男達へ次から次へと誘惑を振りまいている。
 僕はノートを鞄にしまい、代わりに『愛はいつも美しい』(チャールズ・グリーン著)という小説を取り出す。僕はこの本をいつも鞄の中に入れて持ち歩いては、気が向いた時にペラペラとページをめくり適当な文章を読むことにしている。この本が発表されたのは著者が五十歳を超えた後で、これが彼の書き上げた唯一の本だったらしい。「この本を書いた十七歳の時から、この本を出版してくれる出版社を探し続けてきた」と彼は言っていた。「この本は出版を拒否された回数では世界記録の保持者でしょう。四百五十九回、断られ、今はわたしも年をとりましたよ」「わたし、お尻なんて使ったこと無いわ」と隣の席に座っている二十歳位の女の子二人組(あまり可愛くはない)の会話が聞こえてくる。「あんなの、止めといた方がいいわ。全然気持ち良くないの。ただ痛いだけ」と一人の女の子は言い、「やんないわよ。なんでしたの?」ともう一人の女の子は尋ねる。「昔、彼氏に頼まれたのよ。高校生の時。最初は断ったけど、しつこかったから。屋上で」「学校の?」「そうよ」
 僕は鞄の中からi Podを取り出し、イヤフォンをして音楽を聴く。二十七歳のクリスマスに死んだ男が作ったラブソングが聴こえてくる。落としてしまった愛の歌。君に会うことはもう無いだろうけど、それでもなにかを語りかけようと待っていた。こんな歌詞のダサいポップソング。僕はその歌を繰り返し聴いていた。コーヒーを飲み干した頃にもう一度外を見ると、紫色の女性の姿は消えていて、通りには誰も居なかった。それから、ラッキーストライク二本分の死を肺に吸い込んだ後に、黒い空から白い雪が申し訳なさそうにゆっくりと落ちてきて、街を包み込んでいく。


◯オムライスの怪人の作り方

「適当な言葉が見当たらないんだ」と僕が甘えて泣きつくと、「そんな時はね」とあなたは言った。「逃げちゃえば良いのよ」と。

 I
  
萎びた かがり火  貶す 銃口 1905-2004  入れる   虚構  出す  映像としての  記憶  ルクス 破れた 絵画  神話  暴雨の後 織る 人間  赤い 流れる 修道女  封建制度 白黒を 追踪 迷彩  辛らつな 赤ん坊  知の地獄  境界の上に立つ 並列 爆破される  免除者 ミナ エピローグ  追撃 鮮緑色 0と1  攻撃   モヘア 酒浸り  英雄 聖別   静寂  スライド 引きずる 死体の サンタクロース 腸切除 あざ笑い  無成熟 セゲド   首 カマーンチェ 一対の 書き添える 最盛期  祖先の霊 恍惚 傲慢 互いに  爆発する 監視者 接近  硬直した 無数の エーボン川 急ぐ ラーガ 地雷 スパゲッティ 掘り返す バンジョー 金属製の爆弾 自爆 倒下 落下 あら探し 卍 アーデンの森 ポーランド人 尖棒  笑う 大統領  売却 美的 オーバートーン 爆撃 リヒトグラフィック 写実的な  君と 島国と  小さな少年 相違  芸術  オレンジ 独立? 鳩の速度で  模倣  嘆願 許容 イスラム流の挨拶  運ばれる 倒円錐の どいつを罰する? ペソ  警察隊  照準は ユングの肛門 ひも 記念碑  鳴り響く 純粋な 平伏した 教会 吊るされ  生まれる? 骨 雪原 腐敗臭 おやまあ!? 赤? 黄色? 青 映画館? 遮断される 隠喩? 作り話? 寓意? いや 本当の話。
 
 II
 
音楽変えたの? いいえ、テンポを変えただけ。 タクシー、飛行機、ダンスミュージック、たわいもない会話。 芸術? 哲学? 国際問題? 特権階級? 逃走? 教育? 憧れ? 兵役? 仕事? いや、人生。 革命はどこへ行ったの? 学校。 ああ、墓地ね。 思想のため、希望のため、生活のための。 浄化? 平穏のための悪夢。 音楽変えた? いや、テンポを変えただけさ。 描くことなど無い。 あれは豪邸? いや、煉獄 待つのは貴族? えぇ、古典。 あなたはあなたの奏でたものを、知ってる? 行動は歌えず、空白の思考が歌う。 ブック? いや、ビールを。発泡酒でもいい。焼酎でも、 シャンパン? まるでブルジョアだね。 語れるものなど、 無い? 人間? 北? 南? 右? 左? 邂逅って? 出生の秘密はシャンパン。 会話、対話。 祈り? いや、許し。 ポエム? いや、話し合い。 死んでいく 魔法を唱えても それはもう、蘇りはしない 歌。 あなたの歌も、いつか、 すぐに 消えていく。 誰も奏でたことの無い歌を。 でも、歌は もう、歌では無いわ。 処刑されたんだ。 墓地に手紙でも? クラクション。 携帯電話の着信音。 瞑想する詩人の代用品を必死で探し求める、きた。 積み上がる金属音。 歌の領域に論理が侵入してきたのよ。 哀しみ? 嘆き? いや、ただの事後報告。 燃やされる書物。 森が曖昧な歌を 伝わらない言語を ロジック? 破壊。 想像力とは、イメージの実体化。 音、音、音、本を積み重ねるように。 真理など無い。 誰も居ない机に また一つ、読まれることの無い詩が置かれる。 あなたは駆けるように 雪の中を進む フォト、フォト 物語は真実の矮小化? いや、物語はいつだって二つある。 でも、いつだって一つしか読まれないのよ。 なぜ? いつだって、歌は一つしか無いから 勝者の歌 でも、喪失の中にしか 歌は存在しないわ。 そう だから歌なんて無い じゃあ、なにを 聴いてるの? 奏でてるの? 歌 と呼ばれなくなったもの 文字になる前の、音になる前の、言葉。 写真 あなたには分かる? 14と17とカボチャの違い? 聖なる者。 技巧も 動きも無い ただただ、聖なる者。 無から想像 歌が全てを2にする。 希望も 絶望も 虚無も 無い中で 0も 1も 3も 4,5、6、7も 歌の中で2になる。 映画を観れる? 閉じなくてはならない 目を 映画が観たいのなら。 なぜ? 目を閉じなくては、なにも見えないわ。 目を開いたフィクションと 目を閉じた真実 歌のようね。 歌が映像に犯されたの? 逆、 映像がやられたのよ。 歌は無い。 もう救えない? どれで救うの? 機械? 法律? 芸術? 教育? 社会? 人間? 愛?『「迷う花、崩れる建物、なぜ、歌う?、2のフィクション、1の真実、難しい話?、いや、石=0では無いってこと、人間は?、歌は?、0?、1?、2?、3?、79?、907?、3821?、88883?、シュメールよりも後ろの歌を、2が3で橋を渡る、フォト、1も3、目を閉じて、1に、1へ、歌を、0?。0と2は悪の言葉、良いのかい?、そんなこと言って?、理解できるはず無いわ、彼らに。哲学とは、自ら消える歌。次の歌は?、なに?、次の歌、3の歌よ。無こそ自由、虚無?、いえ、虚無すら無い、無よ。3の歌を、歌うには、1と、2を、捨てなきゃいけないわ。でも、捨てた者はいない。いや、いるよ、毎日、150000はいる。でも、3の歌は、まだ、無い。子供好き?、うん、1と2は?、好きよ、じゃあ、なぜ3へ、関係無いの、1と2と、3は、別の物語。最後の歌は?、電話するわ。現代の歌は、行動と思想が、乖離してるから、民主主義ではなく、全体主義のよう」黄と、赤の。2のフィルムを、1へ。朝、コール、最後の歌は?、赤と紫の。夜、雨、黄と、赤と、紫と、白と、緑の、花々。音楽変えたね?、いえ、もう何も奏でてないわ』

 III

森を並び歩いていき 目を閉じたあなたは隣にいて それは想像のようなもので 上にある水の音が混ざり込み 無を並べている水兵と 煙草を吸う囚人達に 軍楽隊の縦笛が聴こえてきて 歩兵が子供へ最後で最初の本を聴かせていて 時間は存在しないのに また子供が生まれ それは男の子であり女の子でもあり ひとつの波のようなもので 大道芸人の男と本を読む女と 草を齧る猫と 浜辺で遊ぶ若者達の前を通り あなたは流木に座り 林檎を齧り ゆっくりと目を開き よく晴れたどこまでも見えそうで でもやはり見えない水平線を見つめ あなたは あなたのものではない頬へ 手を伸ばし  そっと触れ それから また目を閉じる


◯葉桜

 男の右手人差し指の先に小さな傷ができたのは、取り壊しが決まっているアパートの自室で、彼が『葉桜』という古い詩集を読み始めた頃の事だった。彼は『葉桜』を読み続けながら、人差し指の傷を親指の爪で掻き続けた(掻けば掻く程、傷は大きくなっていく)。食事や睡眠を摂る事も、排泄活動も無くなり、読む事と掻く事だけが彼の生活の全てであり、存在意義であった。

 アパートを追い出された男は車を盗み、ファム・ファタールと呼ばれる女を引っかけ、誰も居ない海へと向かった。運転は女に任せ、男は読み掻きを続けた(傷はどんどん大きくっていき、穴のようになっていく)。女は大きな犬を飼っていた事を思い出しながら運転を続けた。女の父親は酔いどれ詩人で、夜遅く、酔っぱらって家に帰ってきては大きな犬を蹴り続けた。蹴られる度に大きな犬はbowwow、bowwowと鳴き続け、女はそれを見続けた。女は父親が詩を書いているところを見た事がなかった。父親は二十七歳の時に一冊の詩集を出して以来、なにも書けなくなった。大きな犬が死んでから、女はファム・ファタールと呼ばれるようになった。母は最初から居なかった。

 コンビニエンスストアの駐車場で男は煙草に火をつけた。女は店の中で、トイレを待ちながら、ファッション雑誌を読んでいた。男は『葉桜』を左手に持って読みながら、右手の中指と人差し指の間に煙草を挟み、親指の爪で傷を掻き続けた(傷の穴は黒ずみ、徐々に巨大化していく)。サイレンが赤色の空に鳴り響き、男は『葉桜』をコンクリートの上に落としてしまうが、気にする事もなく、傷を掻き続け、煙草を吸い続けた(読むという活動の消えた男の脳内に、消失についての考察が忍び込んでくる)。傷の黒い穴は巨大化が進み、男はその穴に呑み込まれた。コンクリートの上で煙草の火は消え、黒い穴も消え、右手の指先だけが宙に浮いていた。傷を掻く事が出来なくなった男は、消えた穴の中で記憶に残った『葉桜』を読み続けている。ファッション雑誌を買って店から出てきた女は、ヒールの踵で『葉桜』を踏みつけ、車に乗り込んで誰かが居る海へ行き、そこで出会ったサーファーと結婚して、ピンク屋根のおうちに住んで、いつまでもポップな音楽を聴いたり、映画を観たりしながら末永くしあわせに暮らしましたとさ。

 おしまい。


法則には逆らえず
鳥が地に墜ちる
散った花々をクッションにして、


−2

  しんたに

汚れた波に壊れた時計が映る。そっと手を添えると脈打って、光の代わりに色の無い球体が水の中で揺れている。流されていく血液に逆らいながら、分裂するきみをぼくは見守る。石灰洞に取り残された高い街は白く塗られ、はじまりに戻される。

(黒い卵から生まれてくるのは犬だろうか? 英雄だろうか? 吠えるのは宣伝され、塔になった英雄だろう。最初の村の周りで雑魚敵ばかり倒していた、ぼくには塔の天辺に居る中ボスは倒せそうにない。愛しあおう、そうしよう、と言って村の女の子と結婚して、木の棒でも売っていれば良かったのだろうか?) 

きみは赤い線の上で迷っている。ぼくは行かないと伝える。歌のように。嘘。ぼくは何も伝えられない。ぼくはぼくの話を語るが、誰もそれに興味が無いし、そもそもぼくもぼくの話がしたい訳ではないので、ぼくは新しい街にぼくを作る。

(荒野では黒い卵が並べられ、木の棒で叩き割られていく。スイカ割りみたいに。中に居た犬も英雄もきみとぼくも離れ離れになっていき、炭鉱の街には誰も残っていない。鬼ごっこが恋で、かくれんぼが愛なのよ、とミセス・サンダーライガーは言って)

高いところを飛ぶ鳥の翼を引っ張り、引きずり下ろす。メーメーメー。そう、これは怒りである。

(道端に咲く花に意味を付ける為に、動く。たとえ、血が流されようとも。昆虫達は名も持たぬまま飛んでいった。空へ。時々、雨が降って、花は濡れた。ぼくはそれを窓越しに見ていた。暗くなる前に、着古した洋服を埋めにいく。新しい服を着て、香水も少しつけた。公園では子供達が影ふみをして遊んでいる。小さな女の子にスコップを借りて、深く穴を掘る。道ばたで音楽プレーヤーを拾う。再生ボタンを押すと、美術館に飾っておいた絵が泡のように消えた。青色で描かれた女神は祈るのを止めて、橋の上で踊り始める。停止ボタンは用意されておらず、止めるすべは無かった。ビルの改装工事が始まる。屋上に住んでいた猫は高く飛び、夕刊の小さなニュースになる。机の上に置いていたメトロノームが壊れた。これで、音楽家は音楽を作り始めるだろう。三ヶ月が過ぎた。ぼくがロックンローラーだったら、死に包み込まれているのだろうか。いまさら。窓を開けると、いくつかの影が、部屋から飛び出していった。手に止まった小さな虫をそっと潰すと、世界の反対側で電気技師の亡霊がコイルの電源を入れた。バリバリバリと音を立てて、地球が割れる。トリュフォーの短編映画を観ながら、最近、目の隈が濃くなってきたの、と言う人の横腹を掴み、引っ張る。挨拶の代わりに哀しげに微笑むから、眠いの? と嘯いて)
 
今はどこか別の大きな都会で映画を撮りたいと思っている。愛の映画かと言えば、もちろんそうだ。なぜなら、あらゆる映画が愛について語っているのだから。
                    ━━(レオス・カラックス)


生活

  しんたに

 眠る前に設定しておいた、携帯のアラームで目を覚ます。洗面所に行き、歯を磨き、顔
を洗う。グリルで秋刀魚を焼き、プラスチックの白いまな板の上で野菜を切り、サラダを
作る。それらを皿に盛り、タイマーをセットして炊いておいた白米を茶碗につぎ、食事を
摂る(おいしい)。身支度をし、荷をまとめ、部屋を出る。駅まで歩き、電車の中でイヤ
フォンをつけ、録音しておいたラジオを聴く。死にも慣れる、と男の人が語っている。空
港で手続きをして、飛行機に乗る。遠くなっていく街や山を窓から眺める。ミニチュアみ
たいだなと思う(いつものこと)。仮眠を取るために目を閉じる。


 外には知らない規則が並んでいて、歩を進める度に破れていった。わたしの言葉は白い。
タクシーに乗り込み、予約しておいたホテルへ向かう。途中でコンビニへ寄り、パスタと
飲料水を買う(あと何回、いらっしゃいませとありがとうございましたを繰り返せば救わ
れるのだろうね)。ロビーで鍵を貰い、部屋に入る。真っ白なシーツに黒いスーツのわた
しが溶け込んでいく。遠くで人々が鳴り響いている。わたしはテレビをつけてみた。映し
出された人々が騒ぎ、争っている。映画なのだろうかと思った(映画だったのかも知れな
い)。水圧の弱いシャワーで髪と体を洗う。バスタオルで水を拭き、浴室を出ると、テレ
ビの中では相変わらず、消え去る前にと、保存された過去が現在へと言葉と画を喚き散ら
している。わたしはテレビを消し、ベットに入って眠りに就くことにした。街の喧騒が子
守唄を歌っている。


 スーパーで一本百円の青魚をトングで掴み、備え付けのビニール袋に入れようとすると、
見知らぬおばさんにこっちの方が身が引き締まってるわよ、と声を掛けられる。いや、こ
れで平気ですよ、とわたしが答えると、年を取るとがめつくなって嫌ねぇ、とおばさんは
笑い、去っていった。
 それが、わたしの書きたかった物語のラストシーンだった(それで、詩はどうしたの?)。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.