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しゅんすけ

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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ピンクパンサー

  しゅんすけ

 ティナが処女を喪ったのは七歳の頃だった。 ニュージャージー州ニューアークの片隅で産ま れた彼女は、自分の娘を犯すのは父親の特権と 考える両親に育てられ、初めて父親に犯された 時、既に5箇所の骨折が完治した後だった。彼 女と彼女の両親がまだ生きていたのは、家に銃 が無かったから、という理由以外を見つけられ ない様に思えた。彼女の唯一の楽しみは、廃車 置き場に忍び込んでガラスの破片を集める事 だった。この癖は、結果的に彼女の生涯を通し ての秘密となる。

 ティナが15歳に成った頃、働いていたバー ガーショップに客として現れたのがクランク だった。ティナがクランクを見つめていると、 彼は微笑みを返した。ティナが経験する初めて の絶頂。その瞬間彼女は薄いピンクに染まっ た。彼の注文はいつもストロベリーアイス。 ティナは、ほんとに好きなのはストロベリーな のか、アイスなのかと彼に聴くが、答えはいつ も『どちらでも』

 年中便秘気味のティナと小用回数の多いクランク。二人の情事は常に粘度の高い唾液に支配さ れる。眠らずに一週間愛し合ったこともあっ た。セックスの最中、彼女は最後まで泣いてい て、クランクは彼女をママと呼んだ。ある時突 然、クランクが勃起不全に陥った。ティナは、 別に指だけでも良かったのだがクランクには耐 え難かった。その後、彼はしばらく姿を見せな くなった。

 ティナがクランクに再び会ったとき、彼は独り では無かった。彼の『友人』は、体毛をすべて 剃り上げ蒼白な顔で、革命家と名乗った。ティ ナを初めて見たときの、五分の一秒だけ現れた 侮蔑の表情の意図をクランクにぶつける。『こ んな物を俺に見せるな。早く始末しろクソカ ラーめ』直後クランクはティナに跨がり彼女の 顔面に拳を叩きつける。泣きながら彼女は、彼 の性器がいきり立つのを感じた。

 ティナの顔の肉が剥がれて錆びついた骨が見え 始めた。拳をただの石塊の様に叩き続けるクラ ンクの指は千切れ、それでもなお振り下ろす。 ティナの最奥の臼歯が彼女の咽頭に転げ落ちる 頃、彼は指を完全に失い、チキンの骨のように 鋭く割れた中手骨を、何度も突き刺していた。 他に刺す場所がなくなりチキンボーンが眼球を めがけて振り下ろされる最中、ティナは彼の首 筋に、鉤十字を見た。

 支配の欲求。純白の証明。至高の愚劣。本能の 狂気。それらを鉤爪で留める紋様。彼女は悟 る。一つになるのだ。二人は幾つもの虚無を生 み出し、そしてその滴はいくつもの孤独を救う のだ。彼女は人生最後のオーガズムに身を震わ し、呼吸をやめたのだった。

 彼女の眼球に突き刺したものを抜いた時、ティ ナの体が硬直と弛緩を細かく繰り返すのを、股 の中で感じた。出会ってから幾度も感じたこの 痙攣に、直接体が反応していた。クランクが快 楽の臭いを思い出すより先に射精してしまった のだ。彼はチキンボーンで己の喉を突き、消え ゆく世界の中で、彼女の名を呼ぶ代わりに、マ マ、とつぶやいた。

 黄金に鍍金された尺取虫の銃口は、端から彼の 後頭部にあてがっていた。下等な生き物が肉に かわる。引き金はフェザータッチにはしていな い。ドラッグストアの深夜の店番を撃ち殺して 終わないように。パラベラム弾がクランクの後 頭部に侵入する。いびつなライフルが軌道を曲 げる。肉塊も一緒に撃ち抜くはずだった。彼の 顔面を撒き散らしながら飛び出した9ミリの弾 は、肉の傍の地面にめり込んだ。眼前に広がる 支配。そこに顕れる全てが、神と男の戯れ。無 毛の革命家は勃起した性器を擦りながら、脳漿 にまみれて薄桃色に染まる双頭の豹を、何時ま でも視姦し続けた。

文学極道

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