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かとり - 2014年分

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


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  かとり

ぼうっきれは
水に浮かばずに 沈み 
底のほうに 突ったって 
小魚たちに つつっかれる全身で
虫の卵を育てる 
気泡は 抜け
ほとけて名前になって
投げ出された 銀塩の陽のもとで
乾ききって千々れ 何だかよくわからないまま
発火して
また名前になって


[EOS]


(レースの、カーテンが、睫毛に、ちらちらと触れる 光を、散らす 刻々と、距離を、散らす)
(離れていく、忘れている、名前を、浮かべて、振り付ける、眼が、開いていても、瞑っていても、練習を、続けられますように)
(仕方のない、ものだけを、持ちあげる、腕が、うわずる、そばで、レコードが、選ばれているシーンに、ぴったりの曲が、かかっている)
(バーガー食べたい、7日かけて酸を、吐いてしまった夜 包み紙をひらく所作、手づかみで噛みちぎる所作、罪を伝える所作 ごちそうさま そうつぶやく頃には、前もって受けとったお釣りが泳いでいる)


[EOS]


王国では
日にやけた奴隷たち 使者たちが
預言者の焚火の 筋を見上げて
大臣たち 軍人たち 下女たちも
ぼんやりと覚悟をきめようとしている

卵はつるりと光沢し
不透明度をましてゆく
どうしてこんなにおおきくなった

奴隷のひとりがいきおいよくもどした
時間をだ


[EOS]


はじける アフロディーテの泡
あるいはどこかで 広がる デュオニソスの液体
組成する ペネローペの糸
ふるえる オデュッセウスの言葉


[EOS]


排泄
される皮膚が 酸化する
瞬間を覚えている 真っ赤な
口を開いて やかましい
彫像が移動し 何も知らない
月に重なり


[EOS]


(そしてまた名前になって)


[EOS]


篠田くん
きみは
青い自転車を かかえ
やはり煮え切らない笑顔をたたえている

消えいる 夏の思い出として
かげろうは増殖し
そこいらじゅうがかげろうだらけだ

ペットボトルの 頭をとりはずし
首に食らい付いて 飲み下すと
冷やりと シャツはしめっている

だまれと言う 
そのうちに 二人きりになったら 
自転車に 乗りこんで海へ 
漕ぎだしていく 
何だかよくわからないまま
何も残さないためだけに


[EOS]


[EOS]


そしてそしてを
掻き混ぜる 手つきが
なるべく優しく
あらせられますように


[EOS]


弱冷車にて

  かとり



循環する体臭に吹かれて
おもわず近しい人の
襟元を嗅ぐ
風を演繹している
静物たる役者達を
朝陽は刻々とスキャンして
震える窓の映像と
干渉し合う音声とが
熱の移動を証してくれる
ミニストップのコーヒーを
啜ろうとして離れゆく
8時47分
取り残されたカーブに
一際高い音は鳴り
お弁当箱の数々は
吹き飛び
青空に散りばめられた
たくあんも
ウインナーも
ひじきも
ほうれん草のおひたしも
たまご焼きも
ミートボールも
野菜炒めも
コロッケも
メロンパンも
麻婆茄子も
プチトマトも
からあげも
グリンピースも
そぼろご飯も
林檎の兎も
梅干しも
扉が開くと
私は弾かれたように歩きだす
まるで今まで
歩いたことがなかったかのように


rem

  かとり

今まで眠ったことがなかったかのように眠かった。
黒い原野に、手紙よりも浅い膜、
とめどなく増えた蟹達が、泥を穿つ、爪先、
低い、低い、複眼の、階調に、平行する、山並みを、越えて、
マーチが流れていた、距離を細めていた。

(幻想は、払拭される余地を、いつも、少しだけ残して、そのことによって、何度でも、甦ることができる。)

床にも白壁にも、血液。寝床には、溜。
静止した細波に、三人称が、瞑る、か細い音。
回転椅子に、乗って、つぶさに、飲み込む、昏い水の、末えた、冷たさ、その、
刺戟によって、働き、やわらかな、関節のために、祈る、
石積みの、果てなき、何故、それはね。見詰め合ったまま、過ぎ、フロアを渡る。

(拡散してゆく、身体・仮説はしばしば、全能であるがごとく振る舞う。)

1993年の、月光に、晒されて、階下、
降り、積もったまま、震えそうな、廊下の、陰を、食んで、
膨らんだ、界面に、何もかも、浸した、生命があること。
観月機関が、引き裂いてゆく、風景を、押倒す、凪模様の右指、
熱は、投げかけられて、残った。

(追いつめながら、安堵しながら、翻りながら、反覆しながら、忘れ去ってそして、思いきり黙って。)

潜んだ、徴候は、ベッド脇のチェストの陰から次々と出で這い寄る。
くぐもった、躯体で問う、深々と、砂粒を残して、
均す、眉間から田園へ、移り、踊り、改行する、
白球の窓辺、月輪の複製された、原野に、
打ち上げられた、歯を拾う。

(熱と熱との、落差で世界が震える光景は、ロマンチックでなければならないと、断崖の魂は、想像するでしょう。)

リドゥ。
不可解なタスクの稜線は、たったひとつの岩窟寺院。
空の、緒を踏み、聖歌に、すさぶ、カーテンに、爪を、たてて、
並んだ、窓枠に、通れ、通ってゆけと、
あぶくを、吹きかける、兄たちの、ポテトチップスを、奪え。

(忘れるために、持ち寄って、しかし、隠し持って、出し抜こうとしている、浅ましい、物語が、どうか、始まりませんように。)

毎夜、
昨日と、明後日の分だけ、
懺悔する、明日、
演繹する、口腔に、残響する、おやすみ、
おやすみ。

(仮説は終わったことも知らずに終わる。終わりを与えられることによって終わる。)


きせつ (Interlude)

  かとり

よみがえるようにとちを
みすてようとしているのにきれいなまま
よこがおをかさねて
かんすいするふうけいにくっきりとしていく

さかながうかぶきせつ
きせつにさかなはうかんでいる
のこされたうさぎが
はねまわっているようだけどちなまぐさい
くろずんだあしを
つたってははなれ
はなれてはむすばれ
さよならをいうことができない
ねんまくのかんしょくは
したのものだろうかそれともがんきゅうのものだろうか



ゆびをふやすことはゆるされない
へらしてゆくことはできないのだから
かりのなをうたって
ちいさくなっていこうとうそぶく

そうげんのみちがかつて
ひかっているところをみたことがあったころ
そのむかしついに
ひろわれずにすんだほしぼしのねどこへ
つののはえたいきものがなにかと
みつめあっているけしきを
ほおばってとおりすぎてしまうとあさがき
ふっているともなくふりしきりつもりつもってゆく 
ゆめをふみしめてまえあしはかすか
しゃめんはこいしをころがりおちていった
よみがえるようにあなたはきれいなまま
さかなになったならきせつをうかべてみようとおもう

文学極道

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