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あのん

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

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拝火抄

  あのん

京王線高幡不動駅は
日がな一日ポツポツ花やぐ
花はオオバコ科いぬのふぐり
他人と私はこの雑草風景でしか
繋がれていないようだ

エスカレーターの暇を利用し
電車のなかで読めそうな本を物する
カヴァーがあっても太宰は隠せぬ
と結局ぼんやり窓を見るだけになり
高齢席に上目遣いで睨まれ

“思い切り速く走ろうと
錆を風に拭わせるのは無理さ。
善が黒鉄ならば、の話”

複雑化した渋谷駅も
今日は常識的な晴れ方をしている
「秋が無くなったよね」と談笑した日が
あきっぽくなかっただけだろ。と

交番で
私の訊きたい道を訊くのは
おかどちがいというもので
デパ地下を素見かしながら
スマートフォンに頼るが早い

“値引きシールを1cm貼り重ねても
売れ残るものは売れ残る。善が生物ならば、の話”

論じられない論じられないと
事あるごとに断ったことで
私もそろそろ札付き論者だ

センター街は夕方頃から殊に煌びやかになる
心を論じる人々と繋がる背景すら
持ち合わせない私は
煌めきのハシクレに赤ちょうちんでも見付けて
六ヶしい店主の煙草を拝む他ない

“誰でもない誰かをモンタージュ写真で特定できれば
宛てのある喜びに心も生まれるんだろうか?”

「どうだい?日本は。
ほとんど日本人だろう?」
ハチ公が髪金美女に語りかけている
うちの犬がこんな風に話せても
警察の似顔絵は私を割り出せまい
三か月などとうに過ぎた
黒髪の証明写真を眺める

文学極道

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