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選出作品 (投稿日時順 / 全9作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Good-bye

  

食器は眠れない花
 頭蓋骨にマーガリンを塗りたくる
蛇が卵を飲み込むように
 卵が蛇を飲み込んでいた
蚕は毒素のベッド
 弾力のある歯が根を足がわりに輪を作った

熱いベッドが雨に溶けていく
 酢漬けの心臓の横腹が裂かれたのだろう
毎晩泣き明かした街燈は
 足踏み鳴らされる水溜まりの行く手を照らしていた

朽ちた片腕を止まり木にして
 重い薔薇の喘ぎ声に耳をそばだてながら
恋に落ちた幼虫の膨張した鳩尾から
 胃袋を抱き抱えた天使を引き摺り出してやろう

胴体の中の首の中の頭部を包帯で優しく巻いてやろう
浴室の悲しみを洗い落とすために
 濡れた犬の匂いを撒き散らしてやろう
眠りながら刃の上を伝う
 死んだ僕らは目を覚まそう

疲れ倦んだ拳銃が熱い吐息を吐く度に
尖った乳房が歌うような声で言う
暮れないでほしい
 暮れてしまうだろう


Artery&Vein

  

電線を伝う眼の中に指を入れる
 受精した鉄塔は白髪のグラニュー糖
月に病む肺の外周を
 群青色に染められた疑問符たちが浮かび漂う
落ち葉がドアを塞いだ
 風がドアを撃ちたかったのに

発熱した林檎の芯にボルトを捩じ込んだとき
 ラズベリーの頬を鏡が撫でるだろう
  それでいて写し出された炎は汗を掻きながら
 夜よりも純白な渋滞を駆け抜けるだろう

4時間も息を吸っていた
 石化した果物は蜂蜜色の空を支えながら
栞の代わりにクラゲの指を挟めておいたおかげで
 本の文字はさめざめと濡れて重くなった
上品な拍手のように
 葉の付いた満月が後ろに重なると
僕は恐る恐る最初の足跡に合わせ
 鳴りどよめく棘を靴裏に刺していった

男性の声の雷鳴
 ノイズを受胎した蝸牛のぬめりが
どこまでも避雷針を遡っていく
妊娠した電球は
 臍の緒に繋がれ
  宙吊りにされて叫んだ

止まらないんだ
止められないんだ
取り止めがないんだ
実は地上を恐れすぎていたために
 自殺したガラスの破片が散らばっていたとしよう
僕の胴体は開かれた街の影だ
 絵本の世界のような蒼白い家並みが続くとしよう
  その深奥で自分の死を嘆き続ける
 氷漬けの蝶がいるとしよう

豚に咲いた火花のように
 吸い取られた鉛の樹木が羽根を広げる
しなやかな便器の産毛を数えながら
 鳥を飼い慣らした神父が病んでいる

ティースプーンに死を
 ガソリンの瞳の中に一滴恵んでくれ
  か弱い眼差しを吸収して綿帽子は貰い泣きしていた

星空がそこにある酸素を燃やしている
 ついに静脈と動脈が
  羽交い締めに巻きついた
   嘆かわしい十字架の真ん中に
  生卵を磔にしてやるだろう

火に接近する乳房が
 南風を撫でるだろう
  それも優しく
 ビタミンCが足りないだろうから


3

  

鏡が肉体だ
 なめらかな顔たちを湧き出させる
彼らがお喋りをやめないから
 鏡の肛門が糞をひり出していく
  地下水路に沈み込んだ
 豚の横腹 時計の胃痛
枯渇した馬車に乗る幼児と母親
 話すこともないとき
  二人の表情は純白のシーツに包まれて

蛙の口内に吊るされた蝶々は
 冷たくし、冷たくされたいという欲望の種だ
人間がひとり乳房の中で昏睡する
蟻の行列が浸透して、腹を満たした
 食虫植物と口づけを交わす
弾丸の中に青い光を詰め込んでやろう
 静かな息を吐き続ける拳銃を可愛がってやろう
炭鉱へと嵐が吹き寄せる
 でもそれは決して満たされることを知らない接吻だ

暗闇に手を伸ばすと長い髪の毛があった
 そして満月が地獄に堕ちる
鉄のドアに一本、また一本と血管が浮かび上がる
水の周りで洗顔するクラゲの群れ
蝿を飲み込んだ少女は今夜から
 蝿の悪夢を眼にし始める
赤剥けにされた肉の窓
 足と指と肩と首と
 顔のない耳が痙攣しながら血を噴き出していく


Water

  


犬が吠える
 月だって吠え返したいだろう
  孤独はお互い様

誘蛾灯の巣が泳ぐ
 薔薇の棘さえ何かを待つようだ
緑色の空が淋しさを失ってしまう前に
 街燈に口をあてがって中身の光を飲み込んでいる
シャボン玉の中へと飛び込んだ銃弾をこよなく愛でるとき
手で持った蛹に刃を時計回りに滑り込ませるとき
 天井に吊るしておいた風船が優しく灯るだろう
  花は花びらを全部毟り取られるだろう

折れた釘の前で白い花が頭を垂れている
 外側からゆっくり溶かされていった白い花が……

塩漬けのベッドに染みついた糞尿の匂いに誘われて
濡れた腕を懸命によじ登っていく数万匹のナメクジを
 静かなバニラの両耳が受け入れていく
  その後頭部から逃げ出すように湧き出した蟻の群れ
神聖な陽射しが薔薇の襞から小さな震えを掻き出している
 有刺鉄線が身をくねらせながら路面に沈み込んでいく
信号待ちの群衆たちは青い砂漠へ飛び込む用意をして死んでいるのに立っている
鳥かごの中にはいつも羽毛があった

この便器は今何が飲みたいのだろうか?
血が欲しい
そして僕は、便器の内側に流れ出した血の渦を眺めていたのだ
もちろんこの血は僕のものではない
タンクに手を当てると敏感な心臓の音を感じる
脈打ち続ける排水管の奥にも太い血管と繋がっていたのだ

誰が放火を命じたのか?
舌をも溶かすような熱い叫びは炎
言葉の飛び火が尻に付いて
慌てて走り出す裸の王様
ガソリンを溜めた噴水へ一直線だ
 火にくべたガラスの小鳥も滑らかに羽ばたいて
 点灯した街燈も苦しがって頭突きを繰り返している
 それを見ている群衆の目は楽しげだ

月が吠える
 犬だって吠え返したいだろう
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死にたい
死なせておくれ

 死なせてあげよう
澄み切った銃声で蜘蛛の巣の細糸が鋼になり
 そこに飛び込んだ一つのシャボン玉が無限に増え続ける


I love you

  


1から12まで
時計の数字は動かぬ眼だった

手から離れた乳房が
あの木の枝に引っかかっていた

白いシーツの上で心臓と心臓が絡み合う
ドアを開けると何もないただの壁だった

街燈の上に浮かぶむき出しの眼球
何も食べられないから、そのまま餓死してしまう

木の枝に引っかかっていたのは
ため息で膨らんだ喪服だった

廊下の奥へ続くガラスの破片を
吸い込むように涙は流れていった

窓を開けると鳥籠が空へ羽ばたいていった
シャボン玉一つを包んだまま


Blue moment

  

木と木が殴り合う
傷から樹液がほとばしり溢れ
群がった蝶々たちが喜んで味わっている
その光景がとてもうるさかったので
思い切って枝を刈り取ってやることにした

古い床に咲き乱れたペニスの束
その周辺を手袋が泳ぎ回る
全身ずぶ濡れの白い花の花びらが
クラゲに付着した指紋を丁寧に拭き取っている

溶け出した犬の体を
青空の色が塗り潰していく
何もかもを巻き戻そうとして
たった一本の髪の毛で太陽を
釣り上げようとした


The night

  

錆びた瞳はあまりにも美しすぎた
くたびれた洋服は木の枝に吊るされていた
窓は人の手によって開けられることが苦痛だった

運命がドアをノックする
 ノックしていたのは空中に浮かんだ革の手袋
家がアスファルトを這いずり回る
 それを青空が追いかけている
血管の中の丸い空間
水は焔
 時間に溶けた女を造花のように押し包む

排水溝に住み着いた心臓は妊娠する
雨の歯は剥き出しだ
 昏睡はもっと早く産まれるべきだった
  静寂がゆっくりと睫毛を上げる

死に急ぐ緑色の空
湿ったソファーは身をくねらせ
 埃と
  髪の毛をしめやかに貪り食う

人々の顔の中に砂漠を見つけたい
両手で鉛を丸々と溶かしながら
 向日葵は輝こうとして嘆願する
グランドピアノは孤独な生き物だった
 開け放たれた窓をベッドは見ている
人々の顔の中に砂漠を見つけたい

肉体を思わせる白い花
 その頭部の温かさ
  舌の上は雨で滑りやすかった
   そこに釘打たれたナメクジは熱い息を吐いている

石の中に眠る蝶々が今か今かと脱け出そうとしている
病んだ木の枝には汚れた白衣が架かっている
逃げ遅れた人影が壁にのめり込んでいる
夕日だ
渾身の力を振り絞り
上へ上へと昇ろうとする
朝焼けが始まる


Contradictory equilibrium

  

君がポケットから取り出した青空は
 ひたすらに美しかった

珈琲で手を洗う
 これが別れの挨拶だ

僕の落とした心臓を
 蟻たちが咬みくわえて引きずっていく
  それを鳩が涼しい顔で奪う

ランプをたわわにつけた木の枝をそっと持ち上げ
 雨の中で笑いたかった
  涼しい色をして


Chocolate

  

黒い写真は我々に何を語ってくれるだろうか?
干からびた噴水の中を走る純粋さは追い出されてしまった
岩にも柔らかな弱点があり指で触ると硬くなっていく
裸になった精神のページにはいかなる言葉も書かれていなかった
冷蔵庫の中でよく冷やした孤独が静かに腐り始めるとき
蛇口から滴り落ちた一粒の焔さえひび割れて流血する
傷つけぬようにガラスの花束を優しく撫でまわした
雨に濡れた傘が身震いをしながら水滴を飛ばす
魅力を失うだけなのに薔薇の棘は削ぎ落とされてしまった
時計を切り裂くとその傷口から時間が溢れて零れ落ちるように
耳の奥へ迷い込んだ銃声を引っ張り出してやろう
冷たい風の尻尾をつまみ上げて空の向こうに逃がしてやろう
剥き出しの心臓が自分の身を切り開きながら羽を広げる
蜘蛛の巣の上では震える感情がこんがらがっている
手の写真を入れたポケットの中で手を温めていた

文学極道

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