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鈴屋 - 2015年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


四月某日

  鈴屋


草が生える
歩はのろい
わたしはわたしと平行している
目の前で草が生える
43°の酒を一口、喉にとおす
洋梨の形した女が叫びながら坂を駆けおりてくる
わたしはわたしを見ないし
わたしもわたしを見ない
坂の上で雲が湧く
坂の下で洋梨の形した女が叫びながらバスに乗る
とつぜん陽が差し
サンシキスミレの猿顔が
いっせいにわらう
ばかな日だ

胃が熱い
ペットボトルのウーロン茶を喉に通す
目の前で草が生える
セスナが飛んでいる
坂の上に雲がたちこめる
エンジン音が空をかき回している
見あげたままめまいする
以前、わたしはわたしと会ったことがある
如才ない男だった
何度も足を踏み出す
目の前で
キジバトがキコキコキコと垂直に飛び立ち
靴先が水溜りのふちで止まる
濡れた軍手を踏んでいる
水面で虹色が滲んでいる
水の底、ミミズが錆び釘のように曲がっている
悪くない
カラスノエンドウが咲く
ふつうの日だ

木杭が倒れかけている
踏みつける
靴が滑り
木杭が跳ね返えったので身をそらす
有刺線がブルンと震えて止む
国道のほうからバイクの爆音がしてすぐ止む
アパートに戻ろうとおもう
自宅というものがあることを
あたりまえだとおもっている
わらう
楕円の中に台所が見える
蛇口をきつく閉めてきただろうか
パッキンがあまいことに、数日
悩んでいる

文学極道

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