#目次

最新情報


田中恭平 - 2016年分

選出作品 (投稿日時順 / 全16作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#09

  田中恭平

 
百円ライター・
アグニの神を懐に
十四枚の舌で
十四本の煙草を喫った日
火は冷えびえ
白い四角形の隅の所定に私


デカルトじみた硬い眼が
あなたは機械であるという
背骨は
痛みつつ黙す 
吠える者は弱いものだけ
私は弱いが 
猛々しくもダンボール箱を壊しつづけ
つづけるに奥歯へ身を委ね
定刻まで身を崩さず運べ
AからBへ 
BからA’へ 
妙味のない水はながされた


米粒が 
米粒を勘定していた 
そこに米粒は自分を入れた
てのひらが
米粒でいっぱいになった
午後の天気はライス・シャワーになるでしょう
落ちるまでそれは花であって 
落ちたら塵であった
火と水と 
それから米粒と 
血管へカリフォルニアの風が吹く
それは人が言っていた 
カリフォルニアには風が吹くんだよ
私は頷いたけれど
わからないまま運びつづけた
A’からB’へ 
B’からA’’へ 
妙味のない水はながされた


六本百円の棒パンをすべて頂き 
嬉しくなるのは舌先だけ
富士の山を見ていた 
直線の光は眼で少し歪んだ
アグニの神をカチカチ鳴らす 
傍で真剣なはなしがされて
私はシャッターを切ったが 
真剣なはなしが感光しない
リーは行かなければならない 
私はリーを知らない
ボロボロのジーンズで
枯木の林を真っ直ぐに
リーは富士の山へ向かう
私はリーを知らなかった
リーはガソリンをかぶって燃えたと 
会議室のテレビが伝えた


祝祭 がはじまった 
リーがアグニの神より天へおくられ
だから妙味ある水がたらふく獲れた 
ライス・シャワーがふって
ふりつづいて
私はさいわいであったが
おかしかったのは風のこと 
しかし望まれた風でしょう
私はB’’からA’’’へ  
花は塵になった


仕事が終わった 
アンフェタミンを夕日が誘っていたから
鐘の音を知る前に 
私はわかっていた
揺りカゴの車で東名高速を運ばれていった
見えた多くは機械であった
私はグッタリして
シートに身を委ねようと 
アグニの神がポケットから落ちてしまった
 
 


#10

  田中恭平



天井は軋み 脚はしろく弱々しく
その脚を拭う間も 天上は軋み
天井は軋み 初不動の日 花はふるえ
日は削ってしまおうと大工 天井は軋み



世に夜が詰まり朝を締めあげている
裸木は巻き込まれている 水を与えてやる
眠気も抜けきっていないのに 丁寧虹のある
デスクの中を確認する 湿度計を確認する



午前四時というと やぶれ長屋に闇が漏り
眼をひらく者 闇に眼をやられ
呼吸をのぞむなら 星の発光
その連続 連続を孕みつつ午前四時は過ぐ



目覚めは 男は男であると信じさせ
目覚めは 女は女であると信じさせ
ベッドからおりたら 生き方は選べるのに
似合っていない服を着るとこころが軋んでしまいます



夢を脳へ押しこむ強さで 何か殺めたい
時間が時刻を譲らない力で 何かを殺めてみてもいい
そして神へ捧げたい 神が喜ぶところ平然と立っていたい
本当はこの貴重な一日きっかり 無駄に捨ててしまってもいい



日に命を吹きこんで 立たせてやれば駄目な日で
こんなにグラグラしては あんなにグラグラしたままだ
日はいつか寝小便しやがって 懐かしさの摩擦に燃える
そんなにグラグラしていれば きみの歯のことだよ



言葉より退いて預けて 野へと出た
花の女神今日ない と教えて貰う
風は冷たい 火は冷えびえと
案山子が燃やされている



言葉は永遠遺るもの
言葉は永遠へかえるもの
言葉はとにかく強いもの 鉈を洗って鉈ひかる
言葉はよわよわしさで沸騰するのに



鉢の金魚は沈んでおり 鉢の表面は凍っている
氷は氷らしく黙すばかりだ
花が咲き この言葉不要のさいわいの季節
どうしてペンを握って感じている



これはバナナではない そう呼ばれているだけだ
私は私ではない そうのぞんでいるだけだ
頭の中の茸は 畢竟フランスの国旗であるが
さっきのぞきみた茸 そう記述したいだけだ



もっと食べるにしてもものがなく
ものがなしく 仕方なく空気をいただく
枯渇しつつ 命の循環の中で
打てば響く 触れれば湿るこの地は何か



安定剤で背骨を焼いて ふつつかですか煙を吐いている
会話の芽は開いて 花々が閉じていく
あっけらかんの空で正しくゴミは分別されている
否 何も確認しなかった だいたい眼球のオイルは切れた



パンの耳が聞いている朝
昨日の終わりの一片の感光 その響きを
期待して この小さい影は立っていたか
ああ 確かに少年で 見ろ 握りこぶししている



よしなにしなさいは反復され
反復された分の喧嘩はよしなにした
熱い風はもう吹かないが ミサイルが飛び
しかし眺め入る空に雲一つなし



血は胃袋へ向かい考えられない
善意を御金で示してしまった
まだ眠かった 電話を待っていたのに
電話が夢の中へ流れ落ちていってしまった



唯一の枝は折れそうに 枝に葉はない
向こうから前髪まで風が吹いてくる
くさはらを旅人のように眺めつつ 畢竟旅ではなく
鳥のようには歌えない 鳥のように他の地を知らない



春をのぞんで児をなでる
花郎がとべば露となり
凶所を知り尽くしつつ もう運は関係はないと
もうまぼろしの蛇と遊ぶ 歌を書き下した



火の不知は知っている 火は少しぬけている
雨で舌は洗えない 雨が洗うのは路傍である
画家は瞬間の反応に 時間を経ているのか
彼らに私のフラジャリティを嘲る資格をやる



星は日がまぶされて消えたこと 実際
その時をしっかり見ていなかったことは省略しつつ
星は日にまぶされて消えたこと 実際
遺ったものは 言の葉の香り



日は絶えて 冬の昼は涼しくなった
益々寒いといえるほど
百に一つのさいわいは蜂蜜の飴玉
もっていると知れても知られなくても構わない



ゆるりの音は暖簾をあげて
油に水の われわれは天ぷら蕎麦にサイダーをいただく
預言も未来ももう要らない
油と水の 共通項はそういうことだった



赦されつづければ生きていけるのかと はた
それは赦されないことと同等であった
月がきれいですね 月がきれいですね
青空の下 地蔵菩薩を雑巾で拭いつつ


 


#11(インプロヴィゼーション)

  田中恭平

 
 
ストリート・ジーザス
聖か俗か
それを越えてしまった者に
なってしまったあなたは呼ばれている
ストリート・ジーザス

エキスのイエス
私の文章に力を与えて下さい
イエスのエキス
赤ワインは飲めません
私の脳が病んでいる為に
孤高と
吐息は闇を抜けていく
あざやか都市を
墓場からのぞむに汗を拭っている


一体どうしたいんだ
ただ汚れを
タイルの垢をとりつづけて半日終えて
詩を書いてもいいのだが
蒲公英
濁った池の中で
必死気泡を捜して歩行く
しかし美しい気泡でなくていい


芋粥を温めつづけ
熱帯魚

しずか元気だ
あなたの手紙を読みかえし
言葉は鈍く頭を打つが
過大に書かれ過大にとらえているだけだろう
風呂屋さんで働く姿が見えるのに
現実に想像しているから嘘だ
風呂屋さんで働く姿が見えるのは
明け方六時の蒲団の中であってほしい


空に映るのはこころか
他人か
自転車をひきつつ坂を下っていく
掃除をしてはうしろをふりかえる必要は消え
春の原っぱを眺めにいける 
滴が水に濡れるところを眺めにいける
溜息
薬の匂いがして
コカ・コーラを焦りつつ飲んで
歩行いては汗から薬の匂い
野犬を囃したてたらもうフェスティバル
空気職人の
ブコウスキーな
武骨なロックンロール
空気職人の
ブコウスキーな
向こう見ずなロックンロール
躍れ
牧神パンは華麗に踊り
しかし眼に遺るのは白と黒の顔だけだ


火は伸びやか日になったので
もう文句はないのだが
次のあくがれ 
胸に充るまでが苦労する
大体時間が長すぎる
コーンフレークの袋が爆発
そして宇宙ははじまった
ひとは私を若いといい
こころは二〇一六歳
情の壁に指で字を書く
少し笑いつつ溜息をつく
このマスクを外してしまえば
牧神パンになれるだろうか


必ず事件は起こることを知った
妙のない水は流され集落は流されてしまった
全員が無事であったが
数に含まれないアイツの明るい笑顔を覚えているよ
やっと作りあげられようとしている
四季の農婦の偶像も
近く剥奪されるか壊される
畠もマンションへと変わりつづける


村を二つに分けよう
もう私をつくらせない
村を二つに分けよう
もうあなたをつくらせない
こちらからあちらへあなたを眺めつづける


どれだけ神経
削がれていないか知った
死も
芸術もない
デスクの上に領収書が満ちて荒れている春
絶えまなく働く頭に
偽りであっても悟りが必要
ぱっかーんと
大体悟りなんて自己申告制に近いような気がしている
私は冷水を浴びろ

なあ
ストリート・ジーザス




電話が鳴らなければ
益々電話を嫌ってしまう

あなたと会う度
益々あなたと会う時間が短くなって当然

朝は
教会の鐘の音に
比喩の花眼は眩む、その
太陽の悠久ゆえ


 


#13

  田中恭平




透明な百日紅として
透明な薪をくべ
あの雀の考えを入れつつも
背骨はすっと伸び
ペンの先で ふるえていた私
今どこまでも歩いて行ける


のぞむところへ
もうはからいでいるというとき
また別のところをのぞんでも
もう別なところのはからいで
私はもう別のそこにあるから
のぞみはどこまでも広がっていく


水紋は 水紋とぶつかろうとも
矛盾もまた一つの考えであって
矛盾の飛沫は
私の 指を動かすさ
私の 翅をふるえさせるさ
胸のプロペラ 全快にして
いつでも だから書けるじゃないか




自然法爾のなかに身を置き
それをこちらから 眺めているよ
約束だから
信用に足らなくて
それは互いの弱さゆえだが
何よりここに現代的玩具はないし
あなたを知ろうとすることは
大体もうあなたの繭の中だね


透明は百日紅
透明な薪をくべ
しかし百日紅は 薪であって 等しく雀であって
雀は 遊んでいるアイツだっていいさ
貧富でなく
賢さでなく
そんな証に目をとられて失くした
ペン先でふるえていた だから

この二月の
透明な気層の底の下の
どこにもいないとして
あらゆるところで遊んでいます



  


#14 (A 一〜五十)

  田中恭平

 


眠りは 昏睡にとどかなかった
眠り のしたを波が揺れていた
その波は意識のように思われる
日が射すと投げ出した腕の下 波が枯れていた




アスピリン の響きは宝石名のよう
しんじつアスピリンは宝石であった
それは確か三時間前
いまだ 頭の中 水母は心臓を腫らしてのたまっている




船 というからには船長がいるが
神 とは船長なのか船大工なのか
人類のエゴは 時間という水平運動のさいはて
私をどこへいざなう




蒸気は胸の内より出て気層の下へ
見えないけれど 感じることはできた
言葉が論理にならないようつとめようと
情 を挿入するが とき 情は冬の木のように冷たい




私は他者である とランボーは書いた
あなたは私である と書く それは手紙に
手紙に熱はない しかし字には熱がある
これは錯覚に過ぎないが 手紙は灰になった




あなたにはわからないだろうが
私にだってわからない 私が
怪物になりたいのか 人間になりたいのか
袋一杯の錠剤を受け取るとき この問題をいつも忘れている




頭中に頭痛を注入するために ピースを喫っているのでなかった
頭中に宇宙を注入するために 書籍を読んでいるのでなかった
胸の内に 胸の内に 疑われ ついに燃され
痛みも 知識も 蒸気として私をぐんぐん動かす




バリのついていたこころはどこへ
今朝 まだ水はぬくんではおらず 旅人はかえらない
青空のうつくしさは 何もないようにしてしまう
私は内省を孕み なにもできない




神は深手のまま 本当の神になれば
人は傷つき 本当の人になるのではない
無垢は生成をやめず 雨に苔は息吹く
あなたの中 無垢はあたらしい望みのようにきらめく




無垢に姿はなく だから生成とも書かれるが
私は生成をやめたいことも 散髪代がかさむから
この春の下 命を少しずつ譲ってやりながら
こんな素晴らしい世界を送っていこう


十一

ミンザイを含んで少音量でアコースティックの
ニール・ヤングを流す この音源にしんじつ
マリファナ臭さも アルコール臭さだってないこと
私は色々摂り過ぎてしまい 本当にほしいものが知れない


十二

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った 旅人帰らず は
本当に? 旅人帰れず、ということもある
その僕は言った 弥勒は犬とお前に言わせているな


十三

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った こっちの寿命が勝手伸びるから
会えるかも知れないさ、するとその僕は
生きる時間というものと命が混ざるのはお前の心じゃない


十四

風の味を嗜んでいると 夜が明けた
風を嗜んでいたから 私は風であった
不確かな変身願望は 雨に打たれ
一変 今朝の仕事へ


十五

雨は雨に濡れ つまり水は水に濡れている
あなたはあなたを語り あなたとなるが
花は
万感に濡れつつ咲き 語ることはない


十六

ロックはロールすることをやめて
なお踊ろうとするのかは
きみの意志だというから哀しい
命を削り踊りつづけるあなたは 哀しいほどうつくしい


十七

この不治の病が治ったら
頼るものがないな 薬モグモグ
紙一重に生きることを止めても
ナイフの刃先を歩いているように 薬モグモグ


十八

夢を育てようと 現実を与えつづけた
水差しの現実が尽きて 夢は風にふるえている
夏は遠すぎる
私は信じようとする 無意識のカキクダシも現実の内と


十九

妹へ
お兄ちゃんの脳は委縮といって、段々小さくなっていくけど
その分文章を書いて 計算して脳を鍛えるから大丈夫だ
お前の好きなスリーピオみたいになるからね 手紙ありがと


二十




白い腕を皿の上にのせ耽美派がついにカンニバルな春


二十一

もう解けない問題を 解けなくてもいいのに
学校でテストを受けている夢を見た
学校から 赦されたくて
その力で 私は路傍で暮らすことにもなった


二十二

ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
私は農耕民族で 今朝は白米ごはんに味噌汁、卵が格別
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド


二十三

きみは私の故郷
きみはかつて東京に住んでいた私の故郷
きみは天使が囲う私の故郷 その筆致のうつくしさ
きみは私の故郷で やっと出会えた私の故郷


二十四

歯痛激しく ミンザイも効かない深夜二時
明日 仕事がないことはよいこと
時給八百円で四時間清掃する仕事がないことはよいこと
私は正しく騙されているし、自覚している


二十五

アイリーン
おまえはインスピレーションの泉を沸かす
私にEm7thのコードをアルペジオで弾かす
アイリーン おまえは一体誰・・・・・・?


二十六

南無きみ きみに帰依する
南無きみ 余暇時間は四時間しかなくても
南無きみ 携帯電話は怖くて開けないけれど
南無きみ


二十七

月の香りだと思ったら
草蒸れて 発する草の香りで
そもそも幻臭で
無月かと 歩いている


二十八

はらわた煮えくりかえっているので
そこに生じらすを入れて
釜あげしらすにしたのだが めちゃめちゃ旨い
はらわた煮えくりかえっている


二十九

恋という魔法が
恋という呪いに変わったころ
私の頭の中に風が過ぎてすずしいけれど
何も告げずに 日の下を歩む


三十

無垢 と 無垢 との衝突
その火花
愚か と 愚か が口論しあっている
その先一番を歩いているあなたが好きです


三十一

短歌を何首も書き下す
毬つくように 毬つくように
石段の上 手をひいてやった真理子が跳ねると
真理子は月まで飛んでいってしまいました


三十二

役に立たない体は
万感の感興でもって嬉しそう
春の雨にうたれ ぬるい風うけて
役に立たない体は


三十三

太陽の中で愛しあう
あなたの為に魚をさばく
まな板は燃えた 包丁も燃えた
魚をおいしくいただいた


三十四

トマトを逆さから読むと
トマト だった
新聞紙を逆さから読むと
いったい何を伝えているのかわからない


三十五

雨ふる土曜日の
土の呼吸は苦しそう
昨日は 金曜日の呼吸
空気中微小 金粉が舞っていました


三十六

水が滴ろう としている
その影に 私のこころを置く
水が滴 して
私のこころの動悸が増す


三十七

私はずっと幸せでした
あのひとを見るまで
あなたはずっと幸せでしたでしょうか
私を見るまで


三十八

乳酸は苦く足を鈍らせた
からだを温水で打たせた もう眠ってしまおう
眼を閉じればおもいだす
日は西へたんぽぽの花照らしつつ


三十九

時正の日 日の 
そして宇宙のネジは回されきり
今朝から 焼けるようなこの腹へ
薬を飲み下すことはやめ あれこれもない


四十

休日 日も休み
一日 夜だった
大きな月を眺めつつ
気づいたら月の中に突入していた


四十一

中原中也は歩いて 書いた
海鳥はテクテク歩いて 飛んだ
児は 泣きながら歩いていた
母はそれを眺めて 息絶えた


四十二

幸福な月曜日たちから
血の味がする
ワンマンバスの扉が開く
下りるものも入るものもない


四十三

くりかえして くりかえして
私は透明になっていく
透明な無垢として
花明かりの明かりとなった


四十四

灰皿へ落とした煙草の吸殻
容器に補充したボディ・シャンプー
私は 俺の生は
露悪と清涼でなり 詩とし成す


四十五

情報が錯綜 立ち止まるしかなかった
継続の信念しか 切符にはならなかった
今、車窓からきみの町を眺める
車窓には雨滴うつくしく、町をうつくしく思った


四十六

夢のなか天使をあやめて
私が天使になっていた
福音と、クリスチャンに下らないこと
告げずとも 世は暴言に溢れ膨張していく


四十七

孵らないヒヨコにとって 卵の中は世界
ヒヨコのまま 寝室 裸のランチを読んでいても良かった
ビートニクの朗読に、カートのノイズ・ギター
いま私はスーパー銭湯で、排水口の髪を取り除いている


四十八

空腹に錠を含むと 腹からカッカする
ふるえることのなくなった指
ふるえることのなくなった郊外の青空
山に 言霊はなく 蒸れた風が吹くだけ


四十九

フロイトの文献に於ける
私は肛門人間にあてはまる
口から肛門まで もう固いものは通さず
あれら 雲の滓を食べ 私は痛み荒んだベンチだ


五十

覚えていたメロディーはすべて塵になって
つまびくメロディーは はたから塵となって
落下しているメロディーを 拾い吹きあげて
これはポツポツとした花の明るさだ


 


#14 (B 五十一〜百)

  田中恭平



五十一

四月一日 深夜三時
コンビニエンストアへひとり歩いていき
ドリアを買ってチンしてもらい 食べず
布団をドリアのようにあたたかくして睡った


五十二

さくらまじ 麗らか勤めへ
父母にいただいたこの体は
動き汗をかくことを嬉しがる
しかし生まれ落ちたときの衝撃で のち死ぬ


五十三

万愚節は要らない ほんとを見たことがない
ほんとを聞いたことがない
ほんとを味わった あの夜も
いま あなたのなか 朽ちた家の瓦になっている


五十四

山葵田の鐘に日当たる四月かな
分け入る 分け入って 脳が変色し
さっき食べたものは何
私はこの月に埋葬されるだろう


五十五

誰も椿の背景は暗いといわず
鬼子母神の御堂のなか
母胎回帰願望は冷えていく
ああ 風わびしくもあたたかい


五十六

チューリップの目が本気
その目の瞳孔をじっと見つめた
気分が悪くなり
アスピリン、カフェインを含み煙草を喫って整えた


五十七

さくらの枝を折り盗む花泥棒が
私のパートナーを折ってしまった
パートナーの名に「花」があったから
それからはずっとあなたの体を撫でつづけた


五十八

梨の花ながめていると なにか忘れた
菜の花ながめていなくとも なにか忘れている
と思い出して
テレヴィが欠伸を止めるなら上唇を舐めろと伝えていた


五十九

つくづく つくづくし
つくづく つくづくし
半分透明になった父が
夜 泣いているような気がして睡らなかった


六十

花疲れしている路を歩く
疲れた路へ しずみこんでいってしまった
夢の上に起きた
机の上にぬるい缶コーヒーがあった


六十一

束ねたコピー用紙はすべて詩作品
私のセンテンス・スプリング
 書き殴られたセンテンス
 なんとかやってたブルー・スプリング


六十二

さくらが今年も自刃している
するとゴトーがついに現れた
ああ 後藤さんか
借りた煙草は必ず返します


六十三

日を点火 月へ打ち水
こころ大きくなり
しかしチラチラを憎んでいる チラチラは
服薬に於ける副作用、眼球運動の誤作動をそう呼んでいる


六十四

穢土鈴木がテレヴィに映る
彼はほんとうは ウド鈴木というが
ウド鈴木のウドは独活なのか
そんなことよりよい風の吹く


六十五

うまごやし きみのたましいこゆるまで
うまごやし きみのたましいこゆるまで
摘んで ネックレスを編んであげる
きみの欠損した部分へかけてあげる


六十六

日は白い
太陽は赤い
むかし 私は混同し
日を赤く画いてしまった


六十七

西行は行きつづけている 西へ
ノイズを消そうと 私は
バッハのレコードから針を上げ 泣いてしまった 
西行は行きつづけている 西へ


六十八

巷に風のひかり
由比にゆすら しろさのさかり
透明 雀の子へ力込め
放て 世界の中心へ


六十九

清水の手前に濁火
うららか じっと見つめているのは
障子の笹の影
ささい 生死の影


七十

核の子の誕生日
涅槃雪ふる
咳をしなくてもひとり
荒がる声もとおくなった


七十一

接ぎ木見ていた
接ぎ木を見ているのは不安ゆえ
鬱を受け入れられない自衛隊員が
ヘリを操縦している春の終わり


七十二

はなまつり 甘茶年々甘くなる
古い体をじっと感じている
風呂は年々熱く 出ては
星を眺める男になった


七十三

懺悔は平和の水面か
いでて咲くか 平穏の花
燕は知るか 雁は知るか
知っていて 来たり 帰ったりするのか


七十四

辛夷の白い花咲く
今日私はエゴを傷つけた
ひとの為動き ときに泣け
できなければ死んでしまえ


七十五

のどか 喉から手が出るほどほしい
すべての電子音 止め
でも電子音の一音の 純なこころもちで
生きていってもいい


七十六

南無馬頭観世音と猫の塚に唱える 
陽炎が脳の内
昼の月はまた 星の内
手に入らないものの比喩で


七十七

何も貫く矛
何も通さない盾
矛は盾を貫き、盾は矛を通さなかった
なんの矛盾もない


七十八

案山子はいないか
いるわけないやろ 長兵衛の家や
そうか 長兵衛はどうだ
花のように死んだわ


七十九

昨日は今日で明日だ
それらは一として人生だ
水平運動に抗うなら 垂直すること
脚立の上で背伸びをした


八十

この車は動かない たましいが抜けているから
この風車はまわらない たましいが抜けているから
あの肩車はもうできない たましいが抜けているから
部屋をぐるり見わたせば たましいの抜けたものばかりだ


八十一

げんげだに げんげ(※)している

【げんげ】
嚥下できず吐き戻すこと


八十二

線路を歩く 木瓜の花に
歩いていくたびに ほうけていくよう
かつて理屈を武器にしていた口元
いま 明るい唄をうたっている


八十三

義経がギリギリとまつりの中心で唸る
啄木忌
海の市には何が売られているか
そもそも海市へはどうして行ける


八十四

げんこつ山の狸さん
おっぱい飲んで 寝んねして
次の日の朝
避けきれなかった車に轢かれて死んでしまった


八十五

月も知っているおいらの意気地
その月 朧んで
とても静かに
額のあたりから草の匂いでいっぱいだ


八十六

透明な
その雨ふる
晴れ間のような力で
時という壁へ 自由を書き留めたい


八十七

ローリンしていると甘いので
日がな一日
ローリンしていると冷たくなった
もうローリンはときどきにしておこう


八十八

もうすぐ二十九歳になるけれど
なりたいものが
なにもないことを
新しい自慢としていつまでも動こう


八十九

精神世界の入り口は
そこらへんに沢山ある うんざりするほど
でも出口はないんだ
グルさえ知らないんだって聞いた


九十

さびしいと
感じない為に
十時路で悪魔に魂を売ったのは
世田谷の 春の夜更けでした


九十一

春を売っている
みんな みんな みんな
遺った季節を眺めながら
黒い箸をタクアンに突き立てる!


九十二

自分の愚かな考えを
通す為に
駄目なものを良いと言っていたけれど
わかってしまった 生きるべき人間とそうでない人間と


九十三

カーテンを開き
夜の明るさを確かめると
夜の暗さがわかった
間違っているんだ


九十四

吠えるな
馬鹿
俺は鹿じゃなくて人だ
神のナントカでもなんでもない


九十五

コップに底はある
コップの底に底はない
日 一枚を切符とし
なにかがわからなくなった散策でした


九十六

赦されつづけるということは
けして赦されはしない ということだから
曇った夜のそらへやっと星を見つけ
小さくお祈りをした


九十七

黄色い戦争は今毎年の花粉症の比喩
ララ物資 私はあたたかいコーヒーを飲む
与えられるだけで良かった
勝ちとる必要はなかった


九十八

四月某日は 四月にない
四月某日は いろいろなところから
拾ってきた集積の一日
勿論 死がたっぷりと含まれている


九十九

有名になりたいときもあった
コカ・コーラのように
セブン・スターのボックスのように
この国中に私は供給され 空っぽになって良かった




やはり野に置け蓮華草
日本人なのにブルーズを弾いている
清掃員なのに詩を書いている
休日の朝が とてもまぶしい


 


Radiances

  田中恭平


今朝も風なんてまるで
恒常的平和であって
くりかえさないが
くりかえし
くりかえさないがくりかえし
ああ
くりかえしか
風はニッケルでしょう



わたしが高校で学んだものは
ラジオ体操くらいなもので

だいたい嫌なやつらといると
情報はぜんぶ嫌になるものだろう

一番辛かった病症
一番辛かった病症なんて
高校生活としか言えないだろうと
寝室を抜け縁側で
今夜最後のラッキーストライクを嗜めば
思い出す

鹿の角のようにうつくしい女性の肌を
どこで撫でたんだろうか

思い出せないってことを思い出した
高校生活はただの幻覚だったんだろ



路傍で生まれたわけでなく
移動中の車中で生まれたわけでなく
しかしいつからか
路傍に好かれ
草にさえ
愛され愛した
ジーザス
ご存知のとおりに

みえるのはハイ・クラスの街
気になった
税金のとりたて
路傍に郵便受けはないから


朝の四時
太極拳の連中が
朝の四時からジョガーどもが
わたしを起こす
教会の炊き出しに早く
ポケット・バイブルを読むにまだ暗く
嗚呼
ヤハウェ
わたしが
眼をいたわっているのはなんのため

過去の狼藉を
しっかりみつめる勇気もない
こころ貧しいわたくしが
未来を見てもいいのか
だから自然
この眼をいたわっているのか

花の匂い
路傍の両側花が植えてあって
それは
とても小さい女のひとと
かつて
というか今も
いっしょに
ふさわしさ以上の
暮らしをしている
アパートの一室まで
つづいてる
わたしは今日
そのひとに言えるだろうか
もうすべて
終わっていたんだよって
ほら
バイブルは雨でぐちゃぐちゃ
眼を細くすれば
少しずつ
この運動公園の
向こうの丘の上の
ハイ・クラスの街の灯りが
ともりはじめていったでしょう


こころと
体がうまくあわず
資料用CDの
ゼップのアルバムを開けば
エイフェックス・ツインのCDが入っている

この夏はいつかの夏で
眼はまだ春をひきずっていたけれど
いつかの夏に
私はもっと老いていた
乱雑としたそのアパートの一室
笑う エルモのぬいぐるみの
眼球は
煙草のヤニできいろくなっていき
あなたはだんだんつかれていったが
私は死んでいっていたのでわからなかった
大体! 今もなんでもわかりにくい!

朝に音楽は聞かなかった
昼はドアーズを低くならし
夜はサティを大きな音でならし
その家具の音楽が
ついに寝室を支配し出すと
あなたはコロンと寝てしまった
私は眠らず
ずっとベランダで
電車の渡る橋を
──そのときには時代の亡霊が歩いていたくらいで
橋を見たり
絵本を読んだりしてじっさい何も考えず
考えられず
夏へ身を入れてしまった



ノートに書きつけた
信念のことばも

まるっきり生気なく
昨晩喫った煙草の苦みが
今朝も口へとのこるように
まったく不甲斐なく感じ
ベッドに足を放り投げ
その足へ
この季節らしい蝶がとまれば
おもしろい

今朝も風
明日もまた
開かないあたらしいドア
開けないあたらしいドアはむしろ
この携帯電話の
電源を落としてしまおう



低体温な感情で
低体温の畦道へ出て
ふりそそぐ
それは
ちりぢりに夏を孕んだ
まだ、春の日

いつかの約束は
約束だから信頼に足らなくて
私は文字を筆で書かなくなって
不安の通奏低音をそのまま進む

アコースティック・ギターが上達しても
己のきもちを
しかと表することができない
大事なことが
音にはならない
ましてや言葉にならない



体の冷えはあたらしいはじまり
呼んでいる
体の冷えは
着く
あたらしいはじまりへ
歩く

ミネラル・ウォーターの
とうめいさにとどめ
体から抜けていく
もの、と
花は
今、へ落ちる


Bye.thanxs.bungoku!


郊外

  田中恭平


 
いつかとうめいの中を飛んでいた鳥は
兜をかぶって鳥兜として咲いていた
鳥兜は水葬した された
わたし わたしらで
下流の方にこの川を生活水として利用される
民家のあることは知っていた 知らなかった

くらしは暗くとも静謐な生活
ふさわしいくらし 休日の為私は親族を何人殺し
その休日は壊れていく体に必要な休日で
殺した数にして神経の神は一向にベッドから出れずやむなし

賢治の「やまなし」読みかえし
ユングが意識混濁より眼を開いたとき抱いた
この世界にまた存在する哀しみ
その深さの底へ

───クラムポンはかぷかぷわらったよ

薪割り
薪割り
ときどき向日葵
薪割り
薪割り
いただいた御茶がおいしくほほえむ
夏蝶が瞼を重くしたが
御茶のカフェインがかるくしてちょうどよくなり
薪割り
薪割り
くりかえし
からくりのようにくりかえし
あっ! 町内会の連絡網まわしてなかった

カアサン、ついに秋山さんとこの爺がアブサンに手を出して無茶してるって
狼煙上げとけって電話あったよ

ああ、そう、あそこらは女衆が足らないから今から行ってくるね
あー、腕がなるわ!



夜は勝手に肌へ接触をはかる湿気にくらべ
堂々としているからクールだった
わたしは、わたしの一日が二十四時間より長いことをわかっている

「僕の薬箱」は服薬中断を告げられ飲まなくなった錠剤でいっぱい
時間が有限なのか知らないけれど
明けない夜が、デスクの二段目にある


狼煙が上がっている 
この郊外の中心を通る大きな車道のインサイド、アウトサイドから
犬が吠える 
犬が吠える

ここに唯一明るい
コンビニのバックヤードで
深夜勤務労働者がじっとスマートフォンをめくる
わたしは彼の友達らしかったが 
わたしは彼にとってのお客様である


ガラケーからショート・メッセージを送る
「トリカブトの写真とってあるけど送る?」
「キツ でも送って」

「やっぱいいや 検索ですぐ見れる」
「はいよ じゃあ朝の六時までファイトっす」
「うす」
「今から行こうか?」
「うーん さびしい、かなぁ〜」


わたしは夜の底を歩いていく いつまでも 
いつまでも
いつまで ───クラムポンは
かぷかぷわらったよ 


フラジャイル

  田中恭平



夕方、祭りは夢を孕む
透明な小さな袋の中に
少女のすくった金魚が四匹在る
少女がその袋をあまり揺らさぬよう
ていねい祭りから去るところを
神が見ていた


今朝
目覚めると水の中だった
水と水のぶつかることは
水の中にないのだと知った
(勘違い、かもしれないけれど)
わたし
あなた
かれ
かのじょ
それを見つめる少女はわれらの
比喩か
それら少女を含めたわたしらを
神が見ていた
そしてその神をふくめたわたしたちを見つめるものが
誰かが わたしには知れなかった


白夜

 白夜が、夏の季語であると知ったのは最近
 この語がほんとうの白夜を示すものなのか
 比喩としての白夜なのか
 私はそのことを知る為に検索エンジンを使おうとは
 思わない
 ? 何の話か
 検索エンジンに昔の友人や恋人の名前を
 打ち込んでしまった過去は そこにとどまり
 陽は夜にあってもずっと、ずっとそれを照らすのだ 
 恥ずかしい
 果実のように恥ずかしい

 でももしもあなたが元気でいたらと
 そう祈りつづけつつ
 何か他のことをしています



只の夜

川はまるで時間のように流れるが
口語自由詩の内在律か
うねりブツかりおじけづき、切れ
川に流され運ばれて導かれることは
あなたを導くことになるのだとしたら・・・そんな大仰な!
わたしらの哀しみを 怒りを
この川一本のさびしさの中
 ( ──まっすぐな道でさびしい  種田山頭火 )
ネガティヴを
オルタナティブにできるかな
神の力でなく
その神を上から見つめるなにがしかの力でなく
わたしの
弱さという
ただそれだけの
はかなくつたなくしどけない力で

 


秋津

  田中恭平

 
バズ・オズボーンの、グラッジ(よごれた)なディストーション・サウンドが出せるペダル・エフェクターは
重た(へヴィー)過ぎたから売り払った。

2010年。
冷凍都市の語は、東京から転じ、凍今日、からきていると秋津のキャンパス・ノートの
のたくって、ひとくった歌詞の書き殴りで知った。
冬に死んだ秋津のノート。

秋津の死んだ日。
東京に於けるアルバイトの産んだ利潤がめっちゃ良かったみたいなこと
携帯からヤフー・ニュースで読んで
酒飲んで
賭け損で
バンドを解散するかどうか男臭いバンド
汗臭いスタジオ
秋津はアレだ、蜻蛉だったから、寒さで死んだんだよ、とか
ノースモーキングの赤字を無視して煙草喫いながら話した。

秋津の部屋どうなるんだろうな、親来て片づけるにしては秋津、児相のこと話してたしな。
学費も確か奨学金っていってたな。
実家、平和島だっけ。
秋津、言うこと無茶苦茶だったけど、急に敬語使うんだよね。
田中さん、あのぅ、ヤ―・ブルースのリフはノリに任せて変えないで頂けないでしょうか?お願い致します!! 
似てる(笑)。
赤色のモヒカンが、お願い致します!!(笑)。 
秋津フジ・ロック嫌いだった。 
商業主義とか言ってたな。フジ・ロックは商業主義ですよ!プレイヤーの汗があのデカイステージからキッズに飛びますか!! 
似てる(笑)!
 
あのね、なんか、夜ね、秋津から電話かかってきたんだよ、
ラジオで、ロックとかパンク紹介するラジオ番組だったんだけど、
その番組のご意見番みたいなおっちゃんが、それ言ってたらしい、同じこと、フジ・ロックは商業主義だ、って。 
ああ、そのおっちゃんの真似だった。 
違う、単純に同じ考えだったみたいなんだけど、
そのおっちゃんが、次のラジオの収録前に死んだんだって。

死んだ? 

うん、なんか死因はその追悼の放送では言わなかったけど、秋津がね、フジ・ロック批判したからそのスジの人に消されたんですよ!とか
声荒げて言っててかなり焦ってて、田中さん!僕がね、フジ・ロックがどうとか言ったのは本当に内緒ですよ!僕も消されてしまいますよ嗚呼、駄目だ!
この電話も盗聴されてる、って。
それほんと? 
ほんとほんと、これは秋津追い詰められているな、って、関係妄想みたいなの出てるな、って、
だからね、秋津、きみな、ジョン・レノンでも清志郎でもないんだから盗聴されているわけないじゃん落ち着きなよ、って言って、
したら、田中さん、清志郎は盗聴されてませんよ、って、ちょっと笑ってた。 

俺、秋津のアパート行ったことある。
えっ。
部屋中にCDとそのプラスティック・ケースが散乱してて、で、部屋の高いところにね、「百万回生きた猫」の絵本が飾ってあったんだよ。
アレ?「百万回死んだ猫」じゃなくて? 
いや、俺もそういうタイトルだと思ってたんだけど、「生きた猫」が正しかったらしい、
で、おっ、何この本、って言ったらね、秋津が、それは親父が贈ってくれた唯一の本です、って妙に真剣な顔して言って。

それから秋津が、僕はご覧の通りパンクスですけど、そんなレッテルを貼ること自体もうステレオ・タイプなんですよって言って。 
んー? 
僕はね、生きかえるんですよ。この生はだから、いいんですよ、あと何万回も生きかえるんですから。

秋津がニコニコして、で、これ秋津の歌詞のメモのノート。俺は、秋津が死んだんじゃないと思うんだよ。俺らが残されただけなんだよ。
 
 


書くことは思い出ならずや

  田中恭平


 
Salem、カナンの地の都サレム、オレゴン州州都セイレム、魔女を焼いたマサチューセッツの港街セーレム
きみの訛ったSalemは、それらがまるでひかりと濁りの調和とし佇んでいるSalem
それは歪みつつカッチリ響く根音5度の和音─パワーコードの残響、確かに俺はそこを知っていて、わかっているような気さえした。
24度の寝室、異袋のなか、効きのすっかり去った眠剤と、オロナミンCの甘さがとろんと、恋をするとき。


十代の苦悩は重大だが、重罪ではないだろう、外でラッキー・ストライクを喫っていると、彼らは歩いているが、歩かされているだけ、
ほっとかれているだけ、なんだと29歳の男の体のなか、老婆を宿している、俺はわかっていた。この体は健全であって、つまりどうかしているんだろう、
きみは形あるもので物語っているのですか? きみに高学歴がなくてよかったね。俺もひとしく馬鹿だから、この国ではそれで過ちが少ないんだろう。


堕ちることは上昇だと考えたら、敬虔な死んだ女は水に沈むのか、疑問を持った。敬虔な死んだ女が語る言葉が聞きたいけど、郊外のファミレス、
コーヒーを口にし、煙草を吹かし、299円のドリアを分けあいながら、死んだ人間と語る、無理も承知だけど、俺は今も丁寧、死んでいっていて、
今年の正月には「今を生きる」と大書したのにね。でも死んでいくことそれは、なんでこんな面白いんだろう。ダメになった筋肉を無理に動かすのは楽しいよ。


従っているものに従ったけれど、私に従うものがいない、望んで叱られたいなんてマゾフィスティックだけど、楽しいこともあるよ。
サウナの高温の鉄棒を、水で濡らした雑巾で、ていねい、ふきとる。雑巾はたちまち焼け焦げサウナに異臭がたちこめても、裸の男らは
年始から今までつづくテレビのていたらく芸能ニュースに、必死くいいってる。
真黒の雑巾をゴミ箱に投げ込んだら、向こうのレイプ事件もこっちのこころの傷痛も忘れたいけど、物を握るたび顔をしかめた夏でした。
白桃色の女が川のながれに馴染んでいるのは、製紙工場の匂いのせいなんだろう、と、ぼうっとした秋のはじまり。


骨が成長すると俺は痛くて堪らなかったけど、痛くないと生きてる気もしなくなった馬鹿になってしまった。
望んでいたダディはいつかダッドだったけれど、今では電気保安事務所を構えコンビニの点検業務にルーズいそしんでいる。
セ・ラ・ヴィ。
きみに勇気があれば希望なんていらない、種があれば、植物は勝手、生えるようなもので。
製紙工場の匂いの手前、黒い川ながれ、月が映る。
現代この月だって荒らすことができて、アメリカはかつて星条旗を立てたけど、時という手術代の上できみの心臓からガラス片すべてとりのぞくに
きみ自身でやらなくちゃいけないのなら、慈悲をメスとして伝えたい。
コホン、えー、この手術はたいへんに難しい、しかし、きみは正しい、きみは正しかった。親切はとき、人を活かし、ころす。

寝室の窓を開ければ、森の闇が広がっている。
意識しつつ存在しないようにできないだろうか。
そして存在しつつ意識しないということはできないか。


 Love and Sympathy  2016.8.30(火)
 


2010年をころせない

  田中恭平

 
 
夜が明けたら
残ったのは希望と書かれた使用済み切符
それ一枚っきりだったので

あのひとの憧憬が冷たい男性か
あたたかい女性かも

冷たい女性であったか
あたたかい男性であったかも

もう一度見ただけで全く忘れてしまいたくなりそうで

頭の、頁はさらさらと秋の打ちくる水へ滴らせつつ
にも似た、いいえ、もっと暗い方法だって使って
しまいに
泣いてしまったのです


びくつく
びくつく
という言葉が固まりびっこってるので
こころが正確、歩けるように語ったらば
あなたは
まるでわたしが手の上であなたの心臓を転がしたように
ゾッ、としてしまい
ついに即座さっさと歩いて
店を出てしまいました

ナップ・サックから「裸のランチ」を取出すと
確かに
最初の章のおわり
ジェーンは死んだ
と記述されていましたが
それがその行の
少し前
マリファナ信奉者によってか、は、
あの独特な匂い
それを匂わせつつ記述されていないことが
とても良いことのように思えてなりませんでした
確認を終えると
ホットコーヒー二杯分の料金が支払い済みだったことに
ハッ、と驚き
私は走って店の外へ出て
あなたがいないか
一応、捜すよう街路に目を配ったのですが
もちろん
あなたの姿はありませんでした
しかし
なぜ
あなた、も
神さえも見ていないだろうと

そのとき頭の中
神様のことなんて
一切
なかったのに
どうして店を出て
あなたを捜すふり
なんてしてしまったのでしょう


駅で
東京では人身事故に寄る電車の発着遅延が
日常の内であることを確認し
渋谷から代々木へとグングン歩いていると
秋の風が頬を撫で
まるで新しい母のようでとても嬉しかった


アパートに戻ると鍵は壊れたまま
新聞屋が
勧誘のとき置いていったビール缶がころがっています
新聞屋と契約し
缶ビールを六日で飲み終えてしまうと
とるのをやめてしまったことが悔やまれる、このテレヴィがない部屋で
私は小さなアコースティック・ギターを爪弾くと
それが宇宙の全てであるよう思え
まるで世間が小さくなってくので
別段
いいのですけど

冷蔵庫を開けると
誰かが置いていった
コンビニ・エンスストアの
スナックの廃棄品の肉があったので
それをレンジにかけたあと
更にバターで炒めます

いつか佐藤伸治さんが
「窓は開けておくんだよ」
と歌ったので、窓は開けておくのですが
この部屋には電車の軋み走る音、ロクな音しか入ってきませんでした

涙は流れてこないのですけれど
肉を炒めるといって
まるで死んだものを
さらに殺すことのできるような気がして
黙ってするのです


次の日
出勤すると二日酔いのあなたがいて
わたしはバックヤードの電球を取り換えようとして
電球は発光するのですが
凹凸の噛み合いが悪いのか、電球が固定しません
結局ガムテープで
電球の周辺を天井と強引に接着させました
そして
死んだ木の中、あなたとわたしはふたり黙々と仕事をしました


夜のはじまり
あなたは「コーラが飲めるのなら、まだ大丈夫だね」
とあたたかく、冷たく言いました
あなたはいつも水を飲んでいました
「いいじゃない、実家に帰ってフリーターやって
 それで機材を買って」
「はい」
「じゃあ、これで別れだ」

二人で駅へ向かって歩くとあなたは
「何か食べてく」
と言いました
「ラーメンですか」
「ちょっと、中見てきて」
とあなたは言い、私は中華料理屋に入り予約票に名前を書いたところ
なぜ、外から見ても店に他の客がないのに
中を見にいかなければならないのか

それと待っているひともいないのに予約票に名前を書く私を
店員が目の前で止めないのか
さっと考えましたましたがわかりません
中からも
客はわたしたち二人しかいないことはわかり、大人のところに 2
と記入して
店員は何も言わないのでした

予約票に名前を書き
外へ出てあなたに予約票に名前を書いたこと告げ
二人店に入るとさっきのニコニコしたまま静止したような
店員はおらず、わたしたちは一番奥の席に座りました

瓶のビールは、あなたが頼んだのか、わたしが頼んだのか
覚えていません
それは、あなたがわたしのコップにビールを注ぎ、それを口にしたとき
わたしの東京があなたとともに
ついに波にボロボロとくずれさり、なくなり、ひろいあげても
もう一度、うつくしく、くずせ、と言われ
無理なことだからです

 


#01

  田中恭平

 
ぼうっと、橙の灯りが雨霧にさびしがっている
かあちゃんに連絡入れとけ
って
エアロスミスの「Mama Kin」 聞きながら
俺はTシャツの二枚重ね着
加えてカーディガン灰色に腕を通し
飼い猫が
またどこかへくわえ運んで
靴下が見あたらない
今朝はとても寒い

疲れた眼を
労わりながら
ラッキー・ストライクを喫うと
季節外れの油虫が
すっと縁側を抜けてった
新しい朝は
また
いつもの朝へ変わってしまう


そして
僕はこんな詩を自然朗読していたっけ



 弥勒

モランは日本の古い動画を見ている
モランは「yasu kiyo」の動画を見ている
Yasu はこちら側を向いている
その笑顔は、どの学校にも必ず一人はいるような
それは、ここにいることそれ自体の嬉しさ
Yasu は
みんなに僕がみえているかどうか
いや、ときどきは、僕はみんなのことなんて見えないから
「Megane! Megane!!」
どっちにしろ
一方通行、だった

モランは日本の古い動画を見ている


イエス・キリストの実際の顔とされる
浅黒い肌の鼻の少し低い男の写真を眺める

ロバート・ジョンソンのCDを
わざとテープへと取り直し
その音源を流したものを
簡易レコーダーに吹きこみ
インポートし
8ギガのipodの
白いヘッドホンで、聞いている


精微され
全ての価格が上昇した
至るところに
十字路はあるが
かつて嘆かれていた
他国それ自体の教会を
捜してもない(のかな?)

この国の教会自体、それは
至るところにあるけれど
私の眼には四辻
こそ
こころそれ自体なんだと
足を
ドン!
ドン!
踏み鳴らした
血流が上がる
息が上がる
脈のスピードは人と
違ったり同じだったりするの?
左腕の脈の
 トクン トクン を眼を閉じ
確認すると
わたしたち は複合(=ポリ)していると
考えることはできるれど 
冷凍された 
脈のない人間を今後
証明の内へ入れるか 否か


  弥勒 は 
mean to a rock なのか
牛乳 
なのか・・・
今も一方通行の違反に人がいらついたり笑ったり



最近は
何もできないことへの自負に
一本の道にだって涙もろくなって困る
まっすぐ進んでいくのに
すれ違うあなたがいなければ困る


 大人だろう
 勇気を出せよ、か

 ぼうっと、橙の灯りが雨霧にさびしがっている
 本当はもうあまり考えたくはないのに
 このうつくしい百日紅は
 うつくしいなあ
 と

 きみへメールを送ってみた



 
気にしない 気にしないで
大丈夫だよ
気にしない 気にしないで
ここが今だから
ここがすべての今だと僕は願うよ


すべての子ははじめてのあなたのひかり
すべての子はあなたの空
すべての子はあなたの人生


私に気づいてほしい
私のことは知らないだろうけれど


なぜそんなに言葉ばかり読むの

これは私の番、みんなもずっと
出発だろうと 途上だろうと
誰もできはしないこと


いつも いつも
でもそれは私の夢 僕の夢
すべてのとき すべての人生で
あなたがすべて


俺は本当は薬なんてとりたくないし
ワインの味なんて知らない
きみの彼なら知っているだろ


雪が降るのを知っているくせに
いつも新聞が読めるのならば


それでいいだろう もう少しだけ眼を信じていたい
ぼうっと橙が
雨霧の中にあたたまりながら

おっと
午前九時になったら、缶コーヒーを買いに
外へ出よう そして
休館日の図書館の前で
うまく笑えたのなら 嬉しい


 マジで


 


re:poket

  田中恭平


空き缶のふちがキラリと夜の路上で光っているラッパー。背中のチャックを下ろして俺は物真似を辞めようと思った。偉人の言葉を借りることを辞めよう。霊力の力借りてことなすべきか。ラッパーAAA。お前のanarchism。日本の闇の深さゆえか、だから何だよ、通りを歩いていくと、柳の木の下でブルーズマンが歌っている。天より入っている。それは幽霊じゃないぜ、いつかの誰か、俺のことかもしれないぜ。あなたと話して楽になったよ。きみは僕の愛する人のことだ。トン、トン、トン とボブ・ディランらしい大人が、少しずつ私から私の背中のファスナーを下ろしてくれる。ごめんじゃ済みそうにない。ぶちかましてやる。苦味は漫画を現実化することしかできない兄だからだ。悪かったさ。これからも悪いだろうさ。ストローで活字を飲み過ぎたメロンソーダそしてアイスクリームを添えたものをいつか僕は飲んだっけ。大切なことだ。そんなことすら憶えてないんじゃ俺は俺を拒否する。そんな大切なことの為、電話恐怖の俺の代わりに電話を掛ける電話ボックス。 「なあ、あの小説読んだ?面白かった、 目の前の書類をすべて放り投げたいくらいだ、それにしても、足が何もしてないのに疼いてしまう」
俺は、そのままアパートの寝室に戻りラジオを聞きながらギターを小さな音で弾こうとしたけれど全然駄目で、それはまるでギターで宇宙?ふざけんじゃねぇ、すたれたアパートで描くように、己の心臓そのままを放り投げるように歌えたらな、とか信頼を、ぎゅっと握りしめたら、天井の壁の木目をずっと眺める日々か。またあなたを泣かせてしまうだろうか。だってさっき、迷いこんできた犬、その犬から目をそむけて、今ここに俺はいるのだから、噛みついてきていいぜ、ボコボコにしてやる。パーティがはじまる。楽しみには危険がつきものか、ともかく炭鉱のカナリアたちは声を張り上げて諳んじるさ、てっぺん掛けたか、てっぺん掛けたか。全部錯覚だろうぜ、エモーションで手前らを応戦しようとするが、司法はドンと構えている、法こそが問題じゃなくて なさけなさ そのなさけがやさしさゆえと、知れないふりした僕の罪さ ギルティ モアギルティ? すっきりしたいぜ
この芳醇な世界でみんなパン屋になりたいんだろうか?ともかく、この病を治したい。
ポニーが駆け巡っている。草原の中で同じヒッピー、といって色々な考えがあるだろう、純粋に、純粋になってしまわないように人間臭さ、がそこにあるように、匂いに気づかえるように、そんな繰り言だってわかってもらえるなんて甘いもんじゃないんだ。55日間の免停期間も受けたことがない。なにもない場所に、何を置こうか考えることに、僕の首は自然上を向いて歩く。
バタ臭せぇ、とは面白い言葉だ、なんて思う、白い軽トラックからQさんが笑って下りてきた。その映画が終わってしまって、それから俺の人生がはじまる。リトライじゃない、報復とバトルロワイヤルでしっちゃかめっちゃかで、ミュージシャンの階段が外れるぜ。ドキドキするもんだ。この先に何が訪れるかどうか、それがわからないから。「よし、その詩を書き終えたら、俺の役は負えられるだろう? 甘い言葉ばかりで申しわけがないから、しゃべりかけているんだ」 或る録音器は物語る「夢・・・夢・・・夢」
それは「嘘・・・嘘・・・嘘」
……現在時刻 2016.10.28(金)
  20:37
 机の上にはブルース・ハープが置かれている。このブルース・ハープはニヒルな奴だろ、と俺に光っているんだろ。ハープのキーはG。ギターはまずEm、指一本を五弦の2フラットを抑えると、きれいになるんだ、それだけを一番きれいにならせるまでが難しい、なんて話しかけても、話しかけてもきみは眠ることばかりが好きで、逃避でなく、きみをガチで愛し尽くす。ただ眠ることが好きでしかない、何もしないとしょうがない、俺に対して何もしたくない人がいて、当たり前だろうと思ってさ、芝生の草のにほいを嗅いでいる。
ピック三枚、フェルナンデスのギターが好きなんです、くだらねぇ冗談。
 ハッと我に返って影たちが進撃をつづける。日本の雪が被って以来のことです。ザスッ、ザスッと、ただ冬しかない国の中を歩いていきます。連中は。3月があるかも知れない、この国のことをどこかで、胸に火を宿しつつ。それらがなくなり、いいのか、わるいことなのか、きっと我々は音楽家なんだろう。ミュージシャンではないのだろう。今伝えにいきたい人に向かいました。未来長く生きる意味を問い直しつつ、合唱しつつ影たちは前進をつづける。生きるならば燃え尽きるまで長く生きるためにここに文神を殺すぜ。
 ラッパーたちが、フォークシンガーに俺の町ディスってんじゃねぇ?と因縁つけてる。
ディスってんの?ディスってんの? 俺にはなんでそんな諍いがあるのか、重々ぶっこわしていかなければいけない宿業の中で、あなたの声を肯定することのみ、未来、あなたの輝くことを肯定する。メモリーの中で、またブルーズマンが歌い出す。

「到底手に負えた代物じゃないんだ 到底手に負えたもんじゃないんだ 降参しろ 白旗を高く掲げろ もう震えが止まらないんだから いつでもしゃべりつづけてろ でもわかっているんだろう 自分の業から足を洗っていることを それで損しているならお前の方が危険だぜ メール・ボックスが一杯になるぜ」

 ジュークでもう一人の男が歌い出す

「おい、ブルーズをなめるんじゃないぜ お前はできるだろうさ いい手をしてるんだから 女の子と遊ぶためじゃないんだ お前の指は単純抑えが悪いんだ ともかく練習を繰り返すことだ ひたすら弾きつづけることだ 愛の詩なんて嘘くさくて当然じゃないか
嘘の詩が、愛であることだって十分大そうなことだろ、違うか?」
 俺は立ちはだかる。いつでもこの最後の文学の中にいる。


潜り込んで、冬の道へ

  田中恭平

 ポエットの落とした滴に残像が、コカ・コーラのラベリング・カラーに変わって、マッシュ・ポテトのような聖夜が、いつか人間であった聖人をおもいださせてくれます。ピリオドを打てば、人は文明があり、そこに侵入した者、そして手先は、「今」あまねくまま、ピアノをガシャーン、ガシャーン、濁音させます。
冬の花の戯言、聞かないこと。僕とあなたは手をとりあって、どこにでもある、使用の禁止されたブランコで、言ってはいけないことだって言います。
すべては戦時下の日本に於いて、この文章は記し成されます。敵か、味方か、判別のできなくなった私はどうにも、統合失調的足取りで、背中から、影の入ったところ、入り乱れる遊戯性に、骨と化してしまったから、入りやすいのでしょう。
賢い者は語り始めます。口を問わず身体で、進行方向と真逆に向いた風の中に、耳を澄まし、あどけないプリマドンナは、その愛らしい一張羅を、私に見せて下さったのです。
僕は手帳をもって、そこに記します。「dear:〇〇〇〇〇」
あまねく、すべての思想そのままに、しかし思想に満足せぬ餓鬼たる私は、考え過ぎているのでしょう。ただ愛することが励しみ、だった頃よりつづく、飛行機の滑空、に、それを手帳の中に記すとして、私はワイアードの中で、配列の組換えを合法的薬品をもって、受動的になしているのでしょうか。いいえ、私は歩いています。ただ一本のさびしい道を歩いているのです。 どうでもよいことこそ、かつてランボーがめいでたもの、であったとして、あなたにかける明るい想いは命ひとつ。
この一生では足らないのか、とさくっと思えば、涙が両目からほろり流れる。
いつまでもそれらを眺める時間にいる、弥勒に於いて、ライスシャワー、降らずとも確かにのブランコの感触を、赤いテーピングと記録しつつ、忘れてしまうのでしょうか。いいや、そんなことはありませんよ。と、先導者がいることに気づきました。充足なる、充実なる営みの中で、ラッキーやチャンスを製造する者がいるとして、しかしこの身焦がれるわたしたちが互いに過去、毘沙門天祭に於いて一度離れたとして、「今」野遊びに交際している事実、あなたはいつもシャンプーの香りをさせて。先導者とふたりの間をすすっとレモンカラーの自転車に乗った傀儡子が遮りこう述べました。
「この道は、何もないからいけない。この道をいっても何もない。ふたりには愛しかないから。愛に換算できるものがないのだから、この道を行ってはいけない。特にオマエ、なんだその伸ばした髪を切ってみろ」
 詩、がふりました。さらさらと詩の頁が、ふりそそいできました。僕の手帖からだって詩がブワッと溢れて、それらがこの冬の日に透かされながら、さらさらさらさらと降り注いで消えていきました。彼女は、先導者は、傀儡子は「今」だけを遺して静かにその詩の中へと納まっていきました。さようなら、さようなら、さようなら。宇宙形をした茸が静かにウン、とそのままに、その茸たる宇宙にいて僕は、やっぱり孤独だったのでしょう。
またクリスマスがやってきて、僕はサンタクロースに電話をかけようと思います。「今年は不勉強なのでプレゼントはいりません」空っぽのコカ・コーラの瓶の前で。


hana

  田中恭平

 いってきます。おざなりにされた希望たちへ。一見変哲もなくこころ澄み、過ぎたものたちへ。僕らの春は残酷に富み、越えて夏の渚を夢見、歩きつつ、しかしこころ枯れるは自然ではなく、冬には蜜柑。未・完成のまま孤独を離れ皆の中に帰す。みんななんで物を書こうなんておもったのだろ? 
 今、放たれたる聖なる言葉の子供の言葉、是は落とされて割らされた陶器の灰皿、そのときも過ぎ去り。
(灰皿をのけようと思えば落葉と灰が一緒になっている)
 見つけてほしいよ。お父さん、お母さん、いつのまにかぼくらは病みすぎた夕方の為に
反対、純に澄みすぎてしまって融通が利かぬ。まるで吠えることしか知らない犬のように。
(しかし犬の総ては知れず、なにものの総ても知れず)
 そして子供の語る聖なる言葉のように、力なき言葉に、価値なき言葉に、ラアラア、精を出しては恥ずかしいよ。
 花は花としていつでも、今、そこに、あるがままにあって。ほほえんで下さるでしょうか。
 きみの挑戦に未来、拍手がなされますように、そして今日もテレヴィで黒煙を見るのかな。
ねぇ?読んでいる?未来の子供たち、未来人へ。僕は今をかえりみないから、悪くて、散々悪い文句を書いてきて、仕方がないから、今この記述をラッピングしないそのままに。
 嗚呼、枯れていく僕らは今に於いて勝手にしろ、という声も聞いたが、この不条理な今に於いて「さっぱりとした手相だね」という彼女の言葉、彼女も花の、胸に誇らしくいつか空へかえり、土にかえり、川へかえり、海へかえり、いいたかった、おかえりなさい。

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.