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鷹枕可

選出作品 (投稿日時順 / 全81作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


群像と絞首劇場を巡る蟻の心臓の花言葉について

  鷹枕可

わたしにとって
貧しさは
狂気は
見捨てられた訛りです



此界は常歪んでいて
益々と旋風は柔かく死後をも乞うて尽きない牧神を舐め
角膜の雌雄は曖昧になりながら苗代の絶対詩を鋭角な都市論に線描をした
空中帆船の花粉航海記には知るべくもない電子の核膜が凌霄花を流麗な泥に浸した
私は、
彼方の他人であり
私の恩人である万年筆の書言葉を復る
幾艘ものガレー船を眺望する一把の朝餐の紫水晶に苛々と欹てられた眼だった
今、
今を過った辺縁に一ヶ月の緘黙が唇を弛緩させた
神経は蚯蚓の喚き腫らした固執でしかない

脳髄は鬱蒼鏡に
暫くは聴音せられた万遍ない空気瓶50ccの乾びたスプーンを断腸を指する紙張子の剃刀にもなるからか
大抵が凡俗な遠海に於いての
肘掛椅子と戸籍欄の撞着
そして
海鼠の頭蓋骨に綻ぶ慈愛の搾り滓でしかなかったので
母語や喃語にも限り無く似た洗濯液の沸騰が
総ての感受を触角に拠り執り行うとしてもそれは完膚なきほどの必然に晒された未遂死でしかない

才気などは端から在りはせず 
賑やかな哀しみは漁夫の油膜の花々に
涙液に殻を落した 
狂気の症例
朧ろげな出鱈目が
間抜けな隧道に泳ぐ幾輌ものモーター
つまり蝸牛の食道にあたる火事へ
少なからず談話者たちの電気信号を攪拌室に撃ちながら後悔していたに違いないと諾うか否か

肉声の些事はガソリンの様に匂った
それは薔薇の様に未だ糊塗されてはおらず
朴訥な気候に唾をした青年像の握り緊める鳥撃銃の火薬ですらなかった
あたかも外観的症候群が鏡像的病理の叩き台に擲った
哭き腫らした鐘の舌を収賄する如く
第一ヴァイオリンから第二ヴァイオリン迄の編成は群像列の死の行進を軽んじているのみならず
孤独の指揮、つまり散逸した薄乳色の彫像を空襲する幾多のてのひらへ
慈善の沈船を
一切苦厄の涯に世界を現じる混濁 
つまり狂人は被告であり 医師は批評者であり

或る
莫迦は、
葬送行進曲に
反吐を垂れていた

飛躍がシノプシスに
/
を打ち込む
乾酪に縋らんとする昇降機
「」
が賓客をくつろがせ
瓔珞の花婿は

を沓箆に引掛けていた

ピアニストを撃つな
ピアニストを撃って撃て
新しいダダ、そして蒸気機関車の花々は網膜炎

錆びた襯衣は目も覚める青色の藝術です
青色の襯衣は錆びた藝術の目も覚めるあなたの青色です
襯衣の錆びた青色は目も覚める藝術です
錆びた錆びた青色は藝術です目も覚める襯衣の
襯衣の藝術です青色は目も覚めるあなた

あなたなあなたたなああなたな
あなた

七面鳥の戴冠
青聖母は私です、
くしゃくしゃの新聞紙から白い薔薇薔薇薔薇と落ちた広告紙
散々な夜、迄も
常夜燈に
囁く死語のひとつです

ああ、恰幅の佳さもまるで霰の様
煤煙もやがては少女の庖丁に宛がわれてしまいます
草の眼が傷み
繭の諜報が届くときには
酷く
未明さえもが新しく死ぬのでしょう

ほら 御覧

* メールアドレスは非公開


或る気候の噂の為の十一節からなる唱歌

  鷹枕可


I
/
楡の瘤の節節のなかに破裂する暴風よ
それは膠の匂う革命家達の踵より剥された平目の容貌であり
機械装置の鋼の筋筋には卵黄が剃刀に拠って垂線を滴らす 
かの少年は放火魔であり又、敬虔な唯物論者たちを酷く落胆させるに充満した紫陽花を慣用した 
紫陽花の眼の中の眼 それは見開かれた固形の秘跡であり 従って叛概念的なエクリチュールの一把である

汝城牆の遙かな短足を揃え 眠らせよ 
子午線の半球には欠損されたユピテルの彫像を擱き 新鋭の国家主義が内実の虚誕を明かす様に
花々は受粉しない 器官は咽喉の鐙である故に舞踏をしない
何故ならば既に敷かれた屠殺室への波斯絨毯を跨ぐ亡命者を瞠っていたから
/


        *


II
/
雨がそぼふります 偽物の天文館に
 ほら あなたにも 聞こえるでしょう
/

III
/
脳梁は加湿の無慈愛をまるで
無花果の存在しない書言葉の如く運河に流した
水滴の部屋部屋は
浅はかな事象を
縁取りながら
乾燥した背骨が麗らかな憂愁を幾多、
白樺の様に聳え
建築せしめている

第五季節からなる
私物の落款印は
錯綜される不織布の吹雪を
見えることなき窒素瓶の翼果に抑留し
天球室の肉体は
人体標本指標でもありつつ
微動の緻密俯瞰図に一縷の散骨を執り行った

若しも赦された
夜の翳が繊細な樹々を揺らすのならば
耳鳴の確かな尊厳死を脈する
薔薇の透膜は
何と泛ばれないことか
 
死の端端に
物憂くも腐食された蝕既を修飾している凡ては
拠るも拠らずも等しく
空襲の災禍を鵜呑みにするよりは外勿く
/

IV
/
若し時刻表が終わり
    停車場が永続に留保し
   肖像写真のみの記録に偽証されるならば
      私は私は私は私は私は私は/


V
/
肉体像は逞しく
彫刻の均整律は
結膜を捺した人間の理想像の印象です

精神像は美しく
母語の麗かな痴呆病は
統一を透徹した翻訳者の薬莢です

そして
肉体精神の優美な呪わしさは
解かれた鋼版画にのみ着眼を赦された苦蓬の天体儀 
即ち
地球に存続を置く
瓦斯と煤煙の曇窓の花々
それらの間歇的な慈善に満ちた積乱雲をも攫もうとする指でしょうか

よもや、
継母の晴がましい鏡像は椿花の脇腹の縦横に倒れた楕円の卵膜であるかも知れなく
/

VI
/
私に影の確かな重量などがないなら
誰彼の影も観えないのでしょう   
 斜陽にとじこめられた部屋は
 何処、迄も
     影像の非在を明かせ、
/

VII
/
ああ ああ

窓枠を
闇の闇から呼ぶ声が在り
私達はそれを死と等しく呼び慣らした
/


        *


VIII
/
黎初の始祖鳥が/ブドー収穫期の気候の納棺室に/
比翼の光彩を尚且つ峻厳な鉄鉱石に搾り/純物質の過剰凝縮を/ 
第七週間程の福音書の虚実と秘蹟に/完膚勿き迄に拘縮した/
指された薔薇綱目の嗚咽は/後衛美術の画廊に斃れるカーネーションの疵附き易さにも近似し/
或る人物像は泥を啜り/或る彫像は影の断層に/
既製的な/口を極めて凡庸な/被空爆以前の市街地鳥瞰写真である均整美の鋳物を渉猟し已まない/

現像液の房事を/群像の心臓の錆釘は震顫せしめ/巧緻な修飾美はいとも容易に裂開される/
酪乳の結節に溶融したベルニーニの確証は/それ即ち石膏の蕨薇文様を擲ちつつ/
乾板写真と叛現実に裂かれた/確たる孤絶/それを斯く迄も境涯に徹底させずには/
微動する陶磁の生花/或は手鏡の死迄も/常に腐敗としては処置され得ないだろう/ 
鹹い季節労働者らの諜報は/市長室の花菱模様の壁紙に延々と/鉛の瓦斯管の終りを告解していた/


IX
/

ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ

/
X
/
秘蹟であるべき両性具有の投身を指する尺度は鋭利な叛概念にさえもならない 
 半ば迄溶暗の部屋部屋に縁取られた
  巨躯のノアの逆様の昏がりへと
   幼時洗礼と葉の唇の眼
     それの復讐を、

        垂れ込めている血の卵/
              或る気候の十一節の唱歌までが疵

/
Ⅺ
/

* メールアドレスは非公開


九つの死骸への彌散曲に基づく擬態の花々に於いて/アレンジ

  鷹枕可

――烏賊墨色の花が樹に延展の幅を齎す――



     *

私は/
私は悲しい告白の俘虜なのです
私は私の記帖の悲しい俘虜なのです
私は悲しい俘虜なのです鉛の
私なのです鉛の記帖は告白の悲しい俘虜は/

/
実験室に於ける鱗翅目の乾燥処置
    或は永続の鳥葬の部屋に眼を眺める眼が腐敗した/


     *


黄薔薇の緘黙、静脈の乾酪運河が紫葡萄色の肺胸の建築に微か睡眠の容を縁取る
ダンテル紙の白聖母の様な網膜的愉悦は咎められるべきだろう
複眼的立体派の関節は軋み、
内在律と外在律は、等しく星空に展開された完膚球形の白熱電燈に過ぎない
彼等は真鍮の慈善運動を蒙るべき五旬節迄の第一週間を鵜呑みに乾した

肉叢の鉤が咽喉の翡翠石に投錨された時刻、
それは寡婦からなる想像妊娠の宛にもならぬ陰画に被写界を透過せしめ
後衛の骨格標本室は乾藁車の明喩する場所であり人物像である覗窓の、
告解室の牡牛にも立棺のダヴィデは躊躇わず処刑室への硬い過程を擬えていた

切窓より赤薔薇を伝書する郵便の、
それも確かではない採鉱地帯の鋼版画にも
俯瞰するべき積乱雲の脈動が徐に試験紙の饒舌を静穏にも咎め、凡庸な血塊の多翼祭壇が爛熟する

聖霊秘蹟の瘢痕は
或る奇蹟の婚姻へも呵責を及ぼさずには機械の肖像さえも、マレーヴィチ氏に拠る絶対抽象の黒窓へは展化し得ない
旧新鋭的概念の回顧展覧室に基づく
遍在者の話言葉であり
彼等が畏敬する聖像礼拝であるべき優美な呪わしさに拠っては、一握程の腫瘍さえも齎さないであろう

ノスタルヂアの玻璃窓のただなかに雲霞を掴む人物像は
その極微的なる繊維材の白絹の遺骸にも跪き
歯茎、又は蕨薇の渦巻は、螺旋の錆び果てた或る工房の蝶番にも蛾蘭燈の瓦斯を充満せしめた
死体の殻であり、衣類の表象でもある黄昏の褪褐色を蒙りつつ
終に書言葉は書言葉ではなくなるのだろうか

つまり普遍物象にも始極と終極が存在する様に 
拡声器の勿い街宣車が黒くなり、
房事の窓板に遮断器は事有る毎に翳を射し
空襲市街鳥瞰写真は領有者の権限に一瞥の窩底骨を向け乍ら、終に図案集の辺縁には静物としての生涯が擱かれた

壁龕の地下には埃に縁る人物像の腹腔が収縮と膨張を脈しながら、拘縮した冬薔薇の死、も
凡て、虚誕と孵化を繰返すべき由縁は何処にも勿い
然し絶無を指標にして、万物を亙る彼方方、までもが若草の縦横に綻びて行くのか

それらの鈍鉄色の竈には星々が擲たれ、
軌跡は死後生の無概念でもある橄欖樹の手簡を伝書として、戻り来るべきなのだと彼等は口々に罵り
そして
二重に韜晦された空部屋が死の季節に一匙の鹹い海を啜る時、
それは白痴の言葉となり、
影像の晦瞑鏡は客観でもあるべき観察眼にも苦蓬草色の地球を目下、弛緩する骨董美術的な無価値へ宛がうのを否むべきか、否か

      *

/
汚濁の精神像は
 階段の結膜に一匙の暗緑を贖い
    死後の入殖許可証は頻りに印刷世紀の欺瞞を秘匿し/

      *

暴風に撓む柱時計があり、
季節は死を指する
記念室には
乾燥した菫が逆さに磔けられ、
茎の髄脈にアメジストの工廠が抱卵され、
裂開線上の
「」
が著述と市街地に
建築を等しく執り行った
「」は彼等の契約の箱であり
従って絶無を閉塞し、
侭有る形象、
存在の確たる致死への過程は
空間の繊維隔膜を紡績機に拠り創物としたが

/
鋭角の議事講堂には
  惑溺の青と滑車を錆附かしめる海縁が
     梱包美術にも抱卵室の一過的な遭遇を確約する/


灌漑された鹹塩の花々の総てを
不在の戸籍証書は
眼球の地平線、
つまり月球儀の引力に拠る抛物線の被膜に埋葬を施し
容貌の薔薇は褪褐色の死骸となり
現代は
叛美的概念を遺失した
彼等の観察眼の俎上にも抵抗として
滑稽の飛花にも
一縷の脈血を滴らせる

/
水銀温度計が磔けられた食卓
 鰊の骨肉は日曜の広告紙の様に燻る煙の花綱飾りでは勿く
或る死を再顕現した奇蹟の
    つまり緋の埋葬であり/


葡萄樹に展翅箱が擱き去られ
実像を実像足らしめる網膜に拠る痴夢が現実と呼ばれ
途轍も勿い不実
確かな咽喉を
滑車の慈善週間が仮睡の眼に瞠り
蜉蝣の口吻は
すなわち薊の臓腑を過り
濁濁たる混声合唱曲が
一幅の赤窓に、鉛丹の聖母像を印にする時
死後、墨染の螺旋劇場は受肉の告示に充満した
、が饒舌を裂断する緩衝液に
一個の薬莢を溶解した
黒白、左右、光と闇の遠近透視図法
ピアニストの鍵盤に
、が刎ねられつつ苦悩の浅慮を嘲っていたとしても

/
赤窓のカエキリア女史は花椿の咽喉をけたたましく喚き
 晦冥鏡の洗面台には
  剃刀の静物が
まるで潤滑な死病の様な白紙繊維を捲る食指の零を延々と聯ねた/

     *

腐蝕臓腑の慟哭が一週間程の薔薇の血膜を綻ばせる頃、緻密な死の寓喩が些かの鬱蒼を俯瞰する
実に幻燈機に敷かれた葉は断頭台の球体であり、
狂人の致命の踵からなる黙示録は死と記述する毎に簡素な脳髄液を傾けて否認を否認するだろうか

     *

/
汝、凍蝶の全翅脈たる蘂髄の壁を打て/


瑕疵の擬真珠殻が
胚種の発達学を顕微鏡に眺める頃に、
撃落された楓樹の翼果は
すなわち
褪色の町にて散開を果す
瑠璃青の裂罅よりビロードの食指が
死者の頤を擁く
それはまるで骨壺の乾燥花の様であり
些かも
昏婚礼に影像を翳し遂せない

     *

/
記念碑としての石膏
彼の影像が縫綴じて行った各々の為の放火魔は
 純粋円錐劇場の事象を
   橄欖樹の枝葉に映写した/
  映写された唇は遂に曇花の板窓
つまり鏡に於ける錯綜、紡績溯行であり
  平衡計は峻厳にも絹の自己像へと懐疑を撤いた/

     *

――見よ、漆喰建築の被愛にも似附かわしく勿き骸骨の夥多が、驟驟と凱旋門の精油罐の秘蹟を追随して行くのを、

     *


緋を撒く鳩卵に係る鉛球の死、それら苦艾に附いて

  鷹枕可

――
言葉が嘱目を遁れる、瓦礫の鳥瞰図の様に
                 ――
      *

閉塞の蒼顔が燃焼室にガラス片の祈念を唾する
肺腑の市庁舎前には幌附自動車の、受話器の、蝋管の隠喩が新しく刷られ、錆朽ちて以後始めて破綻を赦された

浅橋桁にチェロの屍骸が舫いながら、水滴の絃を振り翳した
洗面器には三人目の姉妹の頬白い刎首が置かれた

磔刑像を遠く潜望鏡に泛べながら、二十一世紀は酸素罐の気泡を畏敬する蜘蛛の花を置いた
飛躍の無い四大季節、
近代建築家は
滂沱するアルミニウムの夜に積る煤煙の円筒を辺縁に、
歯茎の潤滑液を航海する輸血車輌を採算に宛てたが、
煙草の葉、或は樹脂は
セロファンの侮蔑を灌漑塩湖の死以降である食卓に縹渺と展開をした

      *

――
即物が抽象を遁れる、植物写真家の幾多の指列の様に
                      ――

褪色の雪柳花は瞼の幾何学の残影に
仕事台の焼鏝と、
砂糖漬の
膵臓腑に添えた漿果、迄を被殻に泛ばしめ乍
冬薔薇の主題に拠る
円筒形歌劇の燦爛を嘲笑っていた
眼が禽を追随する様に
或は施錠された
禽舎錆鉛の
格子戸は
水銀液に熔融されたエスキスを起草した
眼はつまり散開を、
若葉色に
蜻蛉の悉く白い唇舌として記述するであろうが
彼等抑留者は、
酸い青紫陽花を、
人間像を咀嚼するべき歯肉より取除いた

倦厭と陰鬱に拠る手仕事は
洞窟修道院の以降、
悔悟する
巨躯の鍾乳円錐形の静置切窓、
その衣類は
凡庸な駅舎広場の凋落でもあった
閑散たる群像に結膜の繊維組織を捩り
黒蝶の被覆された五指は
瓦斯管の塩粒程の堕落は
果して、
死後の精神的存続を絶無へと復すか、

石炭燃焼室と塑像の、つまり
痰壺の房事
真鍮歯車は即物網膜を裂罅の緞帳へ隠匿した
瑠璃青は
死者の様に聖母子像に腐蝕を及ぼし
又、眼球の部屋は
濁流の
既製剥製美術の驚愕へ
一擲程の価値をも否認した
二十世紀は煤煙の第六天体、斯く印象を場所さえも勿く
橄欖色と書簡に移譲し
些末な骨盤骨は
静物の蝶翅であった

巨躯の銅球、
地球儀には盲目の類型が紡錘車を廻し
火薬の趨趨たる沓音は
些かも新聞紙のインクを固着し得ない、
眼底を奔逸する、
彼等の緘黙は
夜々の機械工場に人物的影像を展開するだろう
菱花鏡の口唇は喃語に欹てられ、
蝸牛は粘膜の器官に
包装材の美術に葬礼を執り行うだろう

運命は、死であり
過程は、苦悩の頤を懐疑した

見よ、汝汚濁の神経樹を、

すなわち透澄なゼラチンの血塊が、
総ての咽喉骨を
間断勿く呵責する死海の乾板写真より裂断し、縫綴じる時刻、
亜鉛緑礬に縁る秘跡の懸架を、
抑留の眼へ眼を以て、
復讐の指勿き復讐の様に、科す

      *

――
印象が物象を遁れる、間歇噴泉の様に
               ――

製図の薔薇が硬く、建築家の扁桃腺にアダム氏の眼底骨を投射している、
  鏡の死は鏡を遁れる事は叶わず
    総ての棗樹の影像が貴方たちを愛している訳ではない
  翼の容の花々に
    眼が開戸の死者を燈す様に、
        書簡は鳩の一週間を蹴り遣ったが、凡ての壜乾燥器は緩やかに旋回するべきであり
      彼等の存続は矮小な些事に過ぎず
   一擲の橄欖実は錫の罪科を、のみならず乾花の砂糖へ換骨するに留まらず、
     瓦解した筈であった
        天堂球体に磔像の売却許諾書を認めた、
  それら彼此とも勿く、
 喚き嘆く奴婢や、端正な胸像群に於ける模倣の起源は話言葉の端著な蠅の棲処であり、
   アダム氏の眼窩には
     血盟聖書に基づく卑俗的存在者への呵責が
    聳える水煙の間歇泉の様に傾聴に組織化さるべき群衆を離散せしめた
  拡声器には安易な私語が在り、静穏には瞬膜が在り、
       実存の確かな絶無が
   彼等の襟頚の釦を翳し、逆円錐の建築はペルシャザルの死と等しく、
     曇窓に指されるだろうか

      *

――
条理が条理を覆した、樹々の様に
             ――

鍾舌の確実な悔恨は、
  彼等越境者が死の臨床に安寧を仰臥せしめたことであったが
 それすらも辺縁を置く、
   檸檬の炸薬や、菱の鉄槌に縋る殉教徒達の精神を鵜呑みにはしなかったであろう
       喘息の磨硝子は隔絶された、
  柩の純全たる疱瘡、それらの被膜に拠って
          機械的な聖像礼拝は、又、機械的な破壊者達に縁り批難され、
   潰滅に晒された者達、
      焼夷爆撃機の花束に葬婚の容貌を投影する様に、
        死期は窓を叩き、誕生花は尚も翰墨に在り、麦熟時の髄に有らんとする
     肉叢の眼はすなわち血の鉱脈に凝縮した
  萵苣の裂断を夥多な坩堝群の鉛液に混濁せしめつつ、
          腿の鬱蒼鏡に彼等の醜怪且つ優美な観察眼を投影した
              正義とは趨勢の一過であり、悪は人物像に於いての現実であった
         揺籃期への物象、
   つまり組織繊維の神経は雲迄をも攫む下腕の剰余な俘虜を蔑視し、
      刎頚は青草色の、蛾蘭の茎を吐露したが
 気圏は既に蕨と薇の刎頚を拒み創めていたゆえに、舞踏の両脚は弧線を画かず、
    各世紀を跨ぐ国家論は、
         今絶えた鹹い灌漑の沃野に過ぎない、
            そして亡命者達は夜々の鱗茎蝶を壜詰の真鍮螺旋の器官に、鏡の投身を遂せたのか

      *

――
迷宮建築家の胸倉には砂鉄の聖母が指する既製の薬籠棚が在り、地下霊安所の白熱燈が網膜的即物を謳う
     それらは純粋な緋色の鳩卵である
                  ――


近代的人間に拠るポートフォリオ

  鷹枕可

鎧戸の堕落が
一際燦然たる街燈を嘲笑っていた
既に私は、
詩人では勿く
詩人を韜晦した過去に
甘く鹹い縫留の秒針を降した

死を被覆する営為が
遅く、鈍重なバラストの滑稽劇に
喝采の不義を嗜み
脱輪した貨物車の様に
時間は美しい静物としての死を肯った

サン・ジャックの向日葵の黒い影像は
喪われた
過剰凝縮の星々を
総て
人物的な事象の半身である夜に綯い、
或は績む言葉の死、迄も
火薬の慈善修道会である旧世紀へ

蒸気霧の硝壜を置いた

      :

見よ 夜は果ても無く渦巻き
われらの最も確かな靴音を踏み躙る
われわれの為の咽喉が
あの粘液質の時鐘を建築したとき
われわれの時間と 
幾許かの肉声を受話器に奪われたことを
この夜に燻った
曇壜の花は憶えているだろうか

われわれの樹を樹立たらしめる
それは臓腑を吊るした娼婦の痰であり
程良く調味された
呼称さえもひとつの痴夢に
連続する
幽霊の投身の様に
果敢無くも愚かしいものだ

自己と他者の咽喉に
幾許かの相違があるとするならば
それは美しい泥の眼の様に
美しい母親から憎まれた
幼時の濁声を憶えては呵責し已まない

私の時間は
既に
零年の呪わしさのなかで、
柱時計の飛花の印象のなかで、
遂には誰でも無い 
あなたを許しはしないだろう

許された者は何処にもいない、
ただ
許しを必要としない新しい人々を見た
それだけのこと

腐敗した白熱電球の中を飛び
落葉樹林の
幾多の掌を蹂躙した 
あの嵐の窓を越境した者は一人もいない
私はそれでも見ようとするのだ
夥しい裂罅に覆われた
鳩卵の恢癒を
そして水膨の靴を

われわれの樹は
聯続しない残骸の様に暴風の時刻線を謳った
造語と 諸々の季節は
コールタールの添花の様に静物となり
静物は
無機物か有機物の瞳孔に
化学的錯体の構造を非対称とした

見よ 鐘は理由も無く鳴り響き
    われわれはその時を知るだろう


弛緩する淡湖

  鷹枕可


   
               ※                                  ※
                白鳥は昼夜の距離を測る為の薔薇である頭部を擡げたまま静止している   洗滌槽に四肢末節の建築物が翰墨液の鋼版を拡げ狩猟協会会員の部屋には時報電話の絶無が延展する恰幅を齎した

          それは純朴な悪魔の薔薇であり証拠としての偽証である影像に傾く幾多の時計である   内視鏡を咽ぶ山百合の茎髄脈には楕円劇場の継母を貫き通す伝書鳩の両翼がまるで喜歌か悲歌の様に展翅されていた

               鈍鉄の交歓は一個の鶏卵殻のなかで黒い殻と赤い蝶番を産み落としている   表象の麗しい懐胎が振舞われていたが機械の美術世紀は錆びた眦の裂罅陶片を細緻に亙り素描し続けた

               四旬節は透明となった白薔薇の訃報と誕生を呑み逆円錐形の噴水を掲げた *  墨染の櫻花への物象と興趣 国家勃興樹立記念塔に幽霊達の噂を闡明するひとつの隧道が着眼されるだろう

  斜塔建築は林檎の地球儀に拠る叡智の世界像から放逐された白昼の夢遊病の椿事として噂されるだろう   死の軌跡は鏡像を綯う老嬢nより成婚の呵責を遠海に流刑地として擱いた

        羊水液胎膜の花々は細胞組織と絹の繊維に抱卵された紫葡萄の収穫期を遂には流し遣った   純粋精神の誤謬は骨肉を麺麭と呼びつつ遂にブド―の濁滓は秘匿された柩にもその食指を壜詰の様に列ねた

    書物の自由は人物の想像を頑なに拒み、それは暴風の様に膨張した褐色の腹腔としての萵苣である   泥濘の眼底騎行曲を異端の迫撃者へ帆立殻に拠る世界像としての縮図に閉じ込めた

                                         *                *
 ※                                                ※
  洗面台の胸に開く蝶形の石鹸液は凝膠の嘆願書を受領した労働協会の唯一にして夥多な成果証明である   浮腫結節の脳髄は外世界の暮方 建築家のエスキスを竈か飛蝗か巨躯でもある聖母へ贈与した

橄欖果は生命保険規約に翻って惹起された死の舌鋒を単眼の嬰児に一度ならず繰返し広報紙に拠り梱包した   炸薬は慈善募金箱に巧緻にも貨幣と落花を避ける様に窒素劇場へと充満し靴跡は聯続する時制への懐疑を首肯する

                   百合根の鱗茎を慈善とも呼称する胸像の溜飲には壜の書簡が滞る   総ては零年の絶無であり 又 濫觴の覆水は豊穣な死を想像力に縁って転覆せしめた

               硫酸の雌花は完膚球体の地球儀に蹲る一個の少年期と運命附録を換骨した *  聖霊気息の爾後現代は未来の理想形たる自働昇降室の些事を悪魔の旧約七十人訳聖書へ紛糾の胚種として抱卵した

                      霜薔薇の頤は溶解する鏡の全貌を果して知悉していたのか   薔薇色の近似つまり大理石を渦巻く鸚鵡貝の積層殻は人間存在へ一週間程の鹹塩と花崗岩の縊死を緘黙させるだろうか

   自然史の叫喚が指し示す裂罅蒼穹の五指は黒蜘蛛の採光窓より零落した軍歌-革命歌の数多を篭絡した   網膜の鏡台が倒錯体n´の肉体像を空洞の後悔に宛がう頃 釣鐘の快癒は草案の一過的な鬨の叫喚に過ぎない

     前衛運動は幾度と勿く銅鑼を打ち 熔鋼の群像は幾度と勿く青年の朽葉の様な季節を踏み均した   草の棘と天球儀のひとつが等しく麗らかな絞首台に鉛の臓腑を撒く まるで具象主義者の極微-極限の相似への遭遇の様に

/
               ※                                  ※
               白鳥は昼夜の距離を測る為の薔薇である頭部を擡げたまま静止している   洗滌槽に四肢末節の建築物が翰墨液の鋼版を拡げ狩猟協会会員の部屋には時報電話の絶無が延展する恰幅を齎した

          それは純朴な悪魔の薔薇であり証拠としての偽証である影像に傾く幾多の時計である   内視鏡を咽ぶ山百合の茎髄脈には楕円劇場の継母を貫き通す伝書鳩の両翼がまるで喜歌か悲歌の様に展翅されていた

               鈍鉄の交歓は一個の鶏卵殻のなかで黒い殻と赤い蝶番を産み落としている   表象の麗しい懐胎が振舞われていたが機械の美術世紀は錆びた眦の裂罅陶片を細緻に亙り素描し続けた

               四旬節は透明となった白薔薇の訃報と誕生を呑み逆円錐形の噴水を掲げた *  墨染の櫻花への物象と興趣 国家勃興樹立記念塔に幽霊達の噂を闡明するひとつの隧道が着眼されるだろう

  斜塔建築は林檎の地球儀に拠る叡智の世界像から放逐された白昼の夢遊病の椿事として噂されるだろう   死の軌跡は鏡像を綯う老嬢nより成婚の呵責を遠海に流刑地として擱いた

        羊水液胎膜の花々は細胞組織と絹の繊維に抱卵された紫葡萄の収穫期を遂には流し遣った   純粋精神の誤謬は骨肉を麺麭と呼びつつ遂にブド―の濁滓は秘匿された柩にもその食指を壜詰の様に列ねた

    書物の自由は人物の想像を頑なに拒み、それは暴風の様に膨張した褐色の腹腔としての萵苣である   泥濘の眼底騎行曲を異端の迫撃者へ帆立殻に拠る世界像としての縮図に閉じ込めた

                                         *                *
 ※                                                ※
  洗面台の胸に開く蝶形の石鹸液は凝膠の嘆願書を受領した労働協会の唯一にして夥多な成果証明である   浮腫結節の脳髄は外世界の暮方 建築家のエスキスを竈か飛蝗か巨躯でもある聖母へ贈与した

橄欖果は生命保険規約に翻って惹起された死の舌鋒を単眼の嬰児に一度ならず繰返し広報紙に拠り梱包した   炸薬は慈善募金箱に巧緻にも貨幣と落花を避ける様に窒素劇場へと充満し靴跡は聯続する時制への懐疑を首肯する

                   百合根の鱗茎を慈善とも呼称する胸像の溜飲には壜の書簡が滞る   総ては零年の絶無であり 又 濫觴の覆水は豊穣な死を想像力に縁って転覆せしめた

               硫酸の雌花は完膚球体の地球儀に蹲る一個の少年期と運命附録を換骨した *  聖霊気息の爾後現代は未来の理想形たる自働昇降室の些事を悪魔の旧約七十人訳聖書へ紛糾の胚種として抱卵した

                      霜薔薇の頤は溶解する鏡の全貌を果して知悉していたのか   薔薇色の近似つまり大理石を渦巻く鸚鵡貝の積層殻は人間存在へ一週間程の鹹塩と花崗岩の縊死を緘黙させるだろうか

   自然史の叫喚が指し示す裂罅蒼穹の五指は黒蜘蛛の採光窓より零落した軍歌-革命歌の数多を篭絡した   網膜の鏡台が倒錯体n´の肉体像を空洞の後悔に宛がう頃 釣鐘の快癒は草案の一過的な鬨の叫喚に過ぎない

     前衛運動は幾度と勿く銅鑼を打ち 熔鋼の群像は幾度と勿く青年の朽葉の様な季節を踏み均した   草の棘と天球儀のひとつが等しく麗らかな絞首台に鉛の臓腑を撒く まるで具象主義者の極微-極限の相似への遭遇の様に
                                                                                                        D.S.
 


                                             
[「D.S.」はDal Segno,「※」は segno の慣用符。


S氏への敬愛告白に固執した理髪店員の球瓶計に附いて

  鷹枕可

踝のない婦人と擦れ違った絹製の傘のような容貌はまるで海綿のそれであった
レエスの尺度が薔薇の質問ではない時に、果たして誰が椋鳥の蝶形の両腿を貫き通すのか
時間は浮遊して留まっていた、器官の確実な蕨の無限に接吻するように
夜が夜を呼び昼は昼を呼ぶ、
観念は全てであり前衛の街角を照明したりはしないだろう、
臍の球体が績まれ績むものはみずからなおも
白薔薇色の振子に眠りつづけているあの鐘形を銅貨の確かめられることなき石炭のエネルゲイアに偏移するのか

弔辞を記帖しながら善を韜晦する壜は、蟻の航海録の一時ならず船底に覆る生卵の流布を固着させた
見よ、完全な死体などは無く、未完全な死体としてと言ったのは敬虔な唯物ではあったが、
不確実な私達の綺語はおしなべて孵卵器の美しい少年期の地球室の様でもあった
採光部屋の煤埃が飛花粉の口数を押し隠して行ったのか、それとも
或は別の隠喩としてたちどころには推理され得ない緋の立棺が君達の眼前にあるのか、
構造体としての永続の扉もやはり緋であると言うべきなのか、
閉じた楕円は始源の涙ぐましい長机に、
なおも傾倒しようとする葉花として一包装紙が滴る様に

およそ及ばぬ扁平の秘跡の名辞は、
且ての私達を来る私達の遭遇者へと委託せずには口吻を緩めることすら侭ならなかった
一睡も齎されなかった季節の椅子には鶏頭花が生長する街灯を渦巻く様に並べ置くだろうとしても
黒い遠近鏡は幼時のダヴィデを、まるで受難の過程に返る椿花とプラスティックの闡明に押流しては
静物と呼び、不出来な巻貝の殻にはアリアドネの目覚めのみが運命であった
気体瓶50cc程の、気候試験紙の乾燥は程なくして矩形の帆柱に落ちた窓板を刳り貫くだろう
それは水母の解剖である

     *

海綿の容貌
婦人の機関紙諜報係の死
盗聴機械を探す滑稽麗人二千里の邂逅 
褪緋の町角、
混淆-涅槃晦冥絡紡錘形は
緋鯛幾何学スゥイートピー懸架腑-翼廊
静物わたし思惑する淡海印璽紋章考現附録
修道寺院アタランテ偶像製造癒着希臘学
目深腿の遅抗隧道鉄路、
無垢無窮体球体テアトル
あなた寄附基金死亡通知、
教会伽藍共同仮構緋扉の受花

神品致命n私製隔絶の機械
翰墨薔薇印字は黒鉛瓦斯炎
霧笛晦瞑鏡天鵞絨劇場
白痴夢としての砂時計と有棘紙片戴冠綱目
置換薔薇徽章
自働琴花の死は今しも
幻想植物図案集
裂罅それは麺麭の肉体
壁龕餐室腐黴切窓、
あなた乾塩塩湖の羅針指巨躯幼時
汝、刻一刻と鉱脈を擱き、汝が私を覚ゆるべし
クロミュウム電解乖離被子、
あなたたち菱十字濁凝眼たる
綺羅綺麗楕球卵臍帯の訃報
畏敬尊厳存在被写静置、虜囚

被子殻鳩舎双嬰児の薔薇蜜縷々のソフィア
死海乾板写真十紙の感光時計
自在律あなたたち
死後濛々たる市街地に縁る長椅子の聴音機よ
蝸牛体-交錯形立方体飛翔する白の球瓶
つまり
吐瀉物の河
指標000自在尊厳の縮痴人工景観都市ヘクトプラズマ
デウスの慈善雨環鉱植物
鎧戸の町燭台樹樹脂プラスティックと嬰児
辺縁遺骸厩の生誕蝕既
関節茎
受肉有翼エピメティウス訃報代理人の致死
存続者鞦韆電球燈の自尊振子
幾多抑留の垂線 
自働ナルシス網膜腑炎
受難の建築 創造凱旋車の花綱修飾史
濃乳色、或は電気広告燈の為の十字間歇泉
土地橄欖
わたしたち無窮鏡像相違鑰 
昏婚化粧壜液、
第零世紀遺骸櫃の移殖医
少年期地球室明暗法よりたちあらはるるものすなはち錆釘なり

畏敬鋭角美術抽象
わたし空想静物交換魔術劇
グラスモザイコ飛鳩緘黙
ああ 釣鍾草と幽冥鏡の往還装置
人の姿、鐡の人体模型鍾乳形而下の私続
処刑室000に睡眠者を
麻酔液と解剖台の人力飛行機レタトリンの墜落
薔薇茎葉の結節
飽食饗悪の美璽と苦蓬畑、
平面幾何学、構図模像擬似録ベルナルディノルイーニ氏の振子


第六曜日の骰子に中る天球想像家の結膜炎に於ける深海棲天使綱目の腐錆に附いて

  鷹枕可

    ―――
I,屈折しない極光、或は歌劇と時刻の諍う処
               ―― 


false.


   ――
II,今なき柩への手簡
      ――


階級支配の美葡萄が輸液される時刻、
  善悪からなる植物質肉体は黒檀彫像の傅く静葬室に一把の花綱飾を落した
    巡礼者達は総て薬莢-柘榴樹櫃を崇敬しながらも
       麗しい柩その電気工事である採掘場の部屋部屋を俯瞰したが
   下頤の白紫陽花は
 乾燥体の謀議への惹起に縁り型紙のカフスを鹹水瓶に泛ばしめた
     見よ、悪魔のイスラエル憧憬癖、天使の無調和に基づく鶏卵を息吹する季節偏西風は鑓の鈍角であり
    最後の密告人アントニ史は美釘を薇の素焼に合致せしめた
        そして歯朶は痴夢の鋳物であり乍ら奇蹟の新約を列記し
  整流調整器のアルミニュウム硬殻は
荒野に於ての房事と火葬を同じくする様に脱穀される籾殻の双眼を穿ちつつ
    緘口-臓腑の遙かな近似的様相を火薬庫の継母へ託つだろう、
  そして死後の影像は冀願をする骨関節に縺れ縺れた無棘蔓植物の額へ裂罅を来す、
      それは鏡台の黎明である


  ――
III,球体禽舎【円錐形地球工房】命数数奇骰子
          ――


既に臓腑の勿い人間達が績まれつつ繭の包帯を受けた
映像撮影機とは瞬断の聯なり
間隔には浸食された海岸の帆立船が遠近鏡に黒の燦然たる瓦斯燈を屹立せしめ
粉飾とは矩形の薔薇箱であるならば箱庭療法に於ける快癒は、
混淆虚実であった筈の自働階段は、
地勢の世界地図に一幅の静物を執り行った彼等の、永続の死の糧である種子
無窮身廊としての穹窿を闊歩する透明なプラスティックの裂罅は疱瘡より血の紫陽花を懐胎するだろう
然し過程は彼等虜囚の癒着、
華氏零度の存在観測計をも係る民間鍼灸医の詐術に基づき紛糾を励起せざるを得ない


 ――
IV,死後の葡萄収穫夫、貨物車の話言葉
           ――


少年期は速やかに颯颯たり、
     鞦韆の歌
   または楕円鏡の操舵員は黄薔薇水葬に被写された移植医の容貌を確かな印刷機に吐露し
  凹レンズの孤絶は堕落した叛意識的無知を斯様に晒した、
        一人ならず聯続するティタノスの踵には鶏頭花への蹂躙、
愈々潤滑な歯肉を鬱蒼境へ投影し
      唯物的実像-想像家の書肆に拠る趨勢、或は橄欖樹との癒着液
    懸る自働律は薔薇花圏の華氏、機械遠近法の死そして骨壺
  鉱脈の炸薬装置が現象体の純粋紡錘形を
        寧ろ礼讃頌歌に拠る蝸牛殻の様に衣類棚に置く
観念は肉体附属であり唯私的精神でもあるとするならば、
  観察眼は 迂遠にも自死過程の鐘塔建築家に齎された謂わば形而下的抽象態の地底であり
    旱魃の町にはアポロンの無蓋車が燦燦たる黒を撒き散らしていた


     ――
V,電気に拠る人体実験、痙攣の観測機
               ――



常緑樹花の終焉が往復動の薬莢ならば機械創造の美術家は一世紀程の乾燥剤を増加-膾炙せしめるべきだろう
細緻な修飾、鉤針に拠る鳥瞰眼、空襲機の墜落、その肉体像の静置は
或はオルフェの冥鏡であり、
鹹い純粋結晶は鉱体図鑑-型録に一束の銃剣を抛物として鋏み、腐錆を泛べるだろう
遙か塩の渓谷は鈍らな網膜病つまり建築への審議審問を復り
自他省察は凡その鋳物を散弾の飛花粉より擬似態へ転移しつつ
尚も破壊運動に基づく絶無を
咽喉が裂開する解剖台の血塊に於いて、肖像写真乾板を反転させるのか


    ―――
VI,死体としてのイデー、自働製紙所
            ―― 


死者竈闇鏡の云々
私属苛性白草の迷宮オートマタ広辞苑の漠々たる寂寥よ
訓戒血薬薬莢耳鳴琴の橘花紀
樹言葉絞首言葉の光つまり
観光客の無絶後溶解する砂時計伽藍部屋の鴫擡げる鱗茎節よ
石英溶融計-秒針影像時計白蜘蛛対置
機知枢軸は蓄膿橄欖葉蹄鉄体
球体クロルプロマジン溶液美容貌手術室
シッディム交響楽団
歌劇場は遺骸骨の吹き晒し
機械侏儒あなた
擬劇肖像俳優紙
転変遷移聴音機に多翼不織緞帳石裸婦ハルピュイアの飛散葉刎計
歯車-炸薬室わたし
レシプロエンジン麗句実験工房
地下階隔世の薔薇獄舎、籠目

第零世紀死都メトロポリス籠裂疵鳩尾椿事
瓦斯網膜天体室β鑰録
万物常軌無蓋馬車
凱旋門眼科医の長針
釣鐘≠釣鐘状遭遇邸宅建築家
地震計の振動子
あなたたち機械要素独身者
十二の抽象体-天球アンモニタル螺旋紙
炎を撒く一と傍線
辺縁幼時施術圧搾樹
地球肺腑、或はプラスティック復眼鏡既述の死

履帯財閥家家庭は禁錮房目録の辺縁
白樺は蒸気霧少年揺籃期
ダフニス樹像堆肥黴蝕現象学
因果律機構つまり雌雄両価の天球始源-ウラノス冥闇楕鏡静物
自在律わたしのヘクトル
交歓婚姻四方の季節窓
死の埋葬史或は除酵週間の為の十余り花婿衣裳磔刑爾後典籍
機関紙ガシュリン液膜の虹彩眼
鳴琴鏡叫喚秘跡四大経緯計の紙張子
菫色地球-石鹸創造過程の嘲嘲たるくちなはは梔子の雌花を麺麭以て穢すべし

死語録プラネタリュウム私続自働影像の観照
蒟蒻花と無謬意識野に震顫する経帷子裁縫家過失
アナソフィア受闇房多翼象徴学
扁平は鳩尾と葡萄樹なる奇蹟の姦淫運動抽象体
ブラウン氏鞦韆気体花瓶録
被子植物門秘積未遂死の弔電球体槽触媒管
天球創造柩体内穹窿は仮死薇
流麗嚢、叛知能
頭骸は青薔薇地球誕生忌

飢餓魔術劇箱庭美術管の約款
回線絶縁被膜躑躅花
わたし臓腑フラスコ綱蔓薔薇青年の濁奔流
力働無窮揺籃-嬰児殲滅の炎霰
刻一刻一刻一刻一刻刻刻一刻と石英グラス繊維紡錘車
飛行機史と熱気球呼吸する知識医の乾酪と衣類よ
あなた緞帳ヴェヌスの遺失
街燈広告パリの虜囚
緋螺子蝶番の鉄仮面とて
双子相似鏡像過程の樹茎に裂開せる鋭角迂路に過ぎざらむ、とはいへ

死亡通知郵便脚夫より000-000-0000への真鍮線放電室
ヒュドラ虫綱アドルフ目の臍帯
あなたたち精神病院の私以後より書簡
第四官界と水芙蓉の複眼結晶硝瓶機構、遅滞
十字閉架闡明者煽動
乾乳粉袋と美聖母子破壊運動の基礎剤よ
蘇生卵膜胚殻は姿位尺度と天球時計の弛緩麻酔手術医
地球自働昇降室
地下階は骨灰展覧会の切窓明闇ヘルマングリッド
煤竈蜘蛛のダンテル紙
滑車、蠕蠕と天蛾の白繭液
機械式鸚鵡貝、或は城塞建築家の私物としてのシアノイド鉱胎、個物史


類想

  鷹枕可

屡々草案は夜の緞帳を延焼し
復と勿く
異物の夢は純粋な黒体放射の降注ぐ
逃れた亡命者達の撒く
始源の胎膜に縁るダリアに
枯死した荒地を延展せしめた
潰滅し、
彌撒曲の骸骨は鬱血した黒森の中で絞首をされた
少年期の、
穹窿建築への復讐に明け暮れた
糜爛と受苦を喚き
酪乳製の回廊には主題勿き残骸の霧鐘が
永続の永続的限界に於いて
一つの告発文を解し
絶対零度への終極、
扁桃腺に拠り膨張を来した護謨の俯瞰者を哂う

地球と謂う橄欖
窒素劇場を心像の映写室が翻って嚥み啜る様に
六芒星形の花の窓、
約款の印璽
禽籠の擦過傷は厖大な議事録の只中に在って
渦巻く泥濘のエネルギイ
その腎臓を開く閂に篭絡され、
縺れ縺れた
青い蝶形骨盤骨の花受に、
垂涎するテアトルの夥多なるオペラグラスは嘱望する
顔覆布の霊安室に於いて
取引は常に流竄の葦茎であり
瓦斯燈と常夜の警邏人
明暗法に拠り受難者の結節に最も近しい
血縁者は
午餐の牡蠣肉に近似した痰を吐き
人物像とは散乱した裂罅の楕鏡に過ぎない、

多者の謗りが流麗な茎に展化され
絹の飛行機、
旧世紀の痴夢は既にプラスティックの季候風土に溶解した
鹸化反応としての脂肪酸、
跳躍勿く、静置勿く即物写真の余命死は改訂され
電離反応槽のプラチニュウムは
確かな現実を刻刻と丸時計に
固着の凝縮液の様に取計った

若し、
誰でも勿く私達の私でもある影像を
洞察した
起源の風洞、
風葬の部屋部屋に
響き亙った鍾乳窟の建築体が
呼吸する炭素繊維を概念下に拘留しなかったならば
一時ならず繰返される
円盤の惑乱は
洗顔室に切窓の牡牛を呵責し
容貌の勿い埋葬人の代理手続を執り
確執の精神は円錐形を辺縁に並べ
歳月の涯に
永続の尊厳死を魘夢の如く陳列したりはしなかっただろう

蜂窩建築の都市に
羊皮紙と
翰墨に拠る
明暗法が地球殻元素の希臘数字を鏤刻し
墨染の鱗茎は
鉈の鈍角にコンクリートを吐瀉し続けるだろう
美少年の成果は周期性機軸の摩擦係数を諳んじる
コンセルヴァトワールよ薔薇の交配は巧緻な骨である
幼時の変貌は止血され、
天球室の命数は幾許も勿い


贋作としての胸像、蜂巣静物画

  鷹枕可

     :
 
触既 厩舎 既にして死線を喚呼す
双嬰児
胎 翳像を逸す
果断せよ 
汝救済の壮語を撃つべく 
挫かれて尚
石を裂く
雲霞のごとく猖獗を露悪として
  
飛花耀耀として晩鐘に紛る 
午睡の惨禍
乳母車に飽ひて葬と為す
やはらかき棘を打て
飛語は奇異ならむ
復も凡庸たる瑕疵に落ちてゐる故に

     : 
卑者曰く、
     
総て
人体は迷宮建築なり
燦然と緋断の門は聳え建つ
私が露悪が仮葬室に継続の剰死を垂れるとも
揺振子の機械像たる
α昼顔の螺旋繊維は
血塊翼果を
汝が運動態に現象せよ
凝濁の鹹塩
私属たる呼吸
量らず測らず進捗するホログラフの蛇足
扁桃体劇場に悪罵数多なる
繁殖の城砦を
夢想-緩衝しつつ
瓦解の薔薇鏤刻
戒律は針の疵たらんとする

静餐の長机
凄絶たる爾後
遺骸櫃に噴き零る椿花
そは知識勿き白痴なるとも
静物の尺度を凌ぎ
凱旋車輌の魘夢
純黒の羊頭を刎ね落しつつ
をを
眼窓に懸れる梯子を有翼の御使が死を
その驚愕驚嘆を披瀝せんと
天鵞絨の鉤裂を
衣類棚の憎悪
緑礬の結節
斯く迄も
刳貫かれたる実母の網膜へ
乳母車揺籃と擱き
捨てよ

「私が懐胎したのは白凌霄花/
 /血の蝕既が流す」
    瓦礫の鞦韆だけが朽果てて遺って鞦韆を運動する振子の死、迄を


ドレスコードを闊歩する巨鳥の為の広告塔

  鷹枕可

嵐を呼吸する曇窓に
水滴を溶闇を吸う試薬試験紙が赤黒く偏移し
血塊の禽達は
各々の多翼風車塔に砕け散った
尊厳を謳う革命家はやはり自己の尊厳死から遁れ得ない
私書箱と云う居留地を逸し
閲覧者勿き
種々の幽霊実験室の
古典物理学的現象は橄欖の歌よりも
現実に於ける放縦な奇跡を偏重し
見よ、
始祖の数奇ならぬ浮薄
流亡の一群は
地球黎明の熔鉱炉より受胎された骨格の終極である

抑留者の遺骸は
紙幣の花よりも
増幅し積層する罪科を誇張する
窮めて相似をする露悪の執行人
そして楕円鏡の代理人
籾殻の言葉が
人物像の起源以後を縁取る
機械時計が真鍮修飾からなる供物であるならば
旱魃の季節は悪辣であるが如くに
飢餓の市外地を静かに静物の死へと画き続けた

斜塔を呑む影
穹窿に聯続する卵殻
掌握の瑕疵を受け
地下隧道の白熱電球は釣鐘草の結露
雪花石膏を開く納骨室の精緻、潔白は
盲人に
恢癒無き時間を刻一刻と宣告し
昏迷を鳴り亙る受話器には独身者の濁声が渦巻き
睡眠者の晩年は
純粋なる悪趣味としての記述を諾うだろう

酸い芍薬
そして
深海を驕り綻ぶ百合を以て
積乱する蜘蛛の雲窓を採取せんとする
博物学者がつぶさにも観察鏡を宛がう瞭然の門は
且て衰亡を逸り馳せた競翔鳩の書簡に
殲滅爾後の霰の干潟と
鳥篭と乾燥花の断絶を
まるで幼時洗礼への復讐者の様に嵌め殺した

想像の死と存続の血が総て均しくなり
引力圏を慣性運動をする鉛球には
一把の誤謬としての薔薇の指が
死後生の虚飾と苦い死の行進を記帖していた

各々の命運を硬く憶えよ

それらは瞬間と永続を分ち隔絶する鏡像であり
間歇的な叫喚は
人体機関と咽喉を響き亙る
鍾乳窟修道院の容貌勿き修道尼の白昼夢でしかないだろう
電気機関と磁気嵐、
自働の機械
死に追随する幾多の暴風よ
悲願の拠地へと帆立殻を吊るし
越境せよ


構図VII_α 構図VII_β

  鷹枕可

_α


縋り歎く実母を洗面鏡に閉じ嵌殺した侭
放埓の華を撃つ青年
華の実像は
概念の禽よりも
遠く愚かしい季節を福音として喚起した

  血の代価を啜る吸血蝶の頤には
  観念としての花蘂が両性具有の彫塑を瞠目していた
  そして人間は知るだろう
  記憶の水が死者達の晦渋を
  簡素な磔刑に科す
  溶暗の部屋に綻ぶ
  山査子の麗しき可憐呵責を

祈念者の蒼顔は魘夢の
   途轍を敷く凱旋車への喝采であり
      死の葡萄樹は普遍概念の双嬰児を虚誕とした
   併し何者が知悉し得るであろうか
醜貌の観測機械に過る
  皆既蝕に転動を及ぼすテスラの可視を

砂である謎への訴求は
 退く銅版画の虚実離散より以後
果物籠の起草を
 倦厭する拠地へ振り撒くだろう
自由は劃して死せる
 雲霞の聖霊を鉛丹に塗り潰す様に隔絶した

孤絶の境涯を
臨む
華々は麗らかでも優美でも勿い
鉄錆の死が灌漑に拠る肥沃に一頻の誤謬を諜報する頃には
誰でも勿い私属が
血脈の終端に斃れた百合の様に睡る



_β


人々が緘黙するとき花籠は気泡のような眼球を裂開し植物写真を抱く狂人を喚いた
無価値な死後を余暇というべき少女の様な絞首体が流れていった
砂塵粉塵散々の季節風が死を明るみながら瓦礫は二十世紀の置時計のなかで乱鐘を逸りつつ幾つも砲撃した
簡素抽象の今を復複製する事は勿い想像下の現実の様に
螺子の様に曳き潰された肉体像が軋みながら永続の銅球の中で叫ぶのを夕刻の鶏頭と火夫は愉悦しながら
それ以降夕刻毎に晩年を諸々の禽の様に開いた 

羅馬に転倒し希臘に観閲された霧鐘塔が合成繊維の藤袴を纏わりつつ
美しい重箱を螺鈿の様な継母の死体へ射精した 
狂った眼鏡の狭窄の狂った人工知能技術は復健全且つ瑕疵勿き鉄条網の棘に
未来派に於いての華々しい煽動家の様に謳った 
しかし誰が聴くのか庭球場の音叉を反復する自動溶鋼施設の遂死迄の過程を

彼等の影像は脳髄の炸薬火薬は病み微睡む様な人工の死体を垂下させ全盲の禽に花言葉を教示していた
青い試験紙が赤く捻転する回転扉には理髪師が轢死体を嘆きながら赦していた
痴愚に過ぎない扁桃体の視野には亡骸の花草飾が狂乱するウェヌスの両腕に摘み取られて行った
復素抽象としてのコンポジションVIIには半具象の矩形を崇拝する劇作家達の木椅子が聳え立ち頂きには塑像を戴冠していた
1945年以降と名付けられた廃棄物時計は鋼鉄の詩や鵜呑みの欺瞞を露呈告発していた
世界された国家或は国家された世界には総てが領有権を謳うとテレヴィジョンの罅割れたブラウン管が唸りを上げていた

塵の様な遺灰が降頻る標本化されたアウシュビッツの黒薔薇を指示しながら回顧展は極めて優美な緘口令を敷くだろう


絶句_eフォルマヴィシオン

  鷹枕可

死の網膜
卑劣たる聖人
嘲弄残虐の塹壕帯
燦爛鏡より陰鬱鏡へ亙る
双児-影像対称体
カスパー・ハウザー悲運の柩に孵りつつ
世界終端の想像世紀、
自働説機械設計の愉悦人よ蝕身倒錯を放て

異人追放
そして
国家崇拝の普遍卵殻に
未死露悪の放埓なる
薔薇 復 帆船を
巨躯と矮小の遠近法を喧しく宣伝せよ
窮鼠に拠る国粋主義よ

飽食卿の死骸
割礼の華蘂瞠目、
眼球葬礼家と果実籠の静物
捻転 捻転 捻転
有棘領野を闊歩する
霊柩車の聖霊週間に於ける吐露機関の舌禍

そは
忌々しくも
純潔且つ峻厳なり
昏婚者達の断絶、
誓約を
飽く迄も帰趨白百合の記録帖へ隠避しつつ

鉛丹の精神病院
恫喝的影像の追随魘夢を跨ぐを首肯せず
矩形蛾たるデフォルマシオン
即物より叛抽象へ
興趣昏迷の人物は
経緯度計の揺動花菱にも指針を捺すか

地球の鳥瞰鏡を
絶対絶句なる自明死、曇窓とも喚呼し
鳴啼する卵膜の前世紀は畸形の厩舎たる
嬰児、落花迄の繁栄を謳歌せよ

瑕疵死斑枷鎖繋がらずして
放埓と秘匿花よ
堕罪自裁の自存者E氏
古代螺旋劇場の虚実、不幸を喚起し
闡明者E氏、自が両眼を抉り
運命と呼ぶべき弛緩野に血髄を滴らせたり


          *


     概念建築播種器の亡命歌よ
    蒸気罐の熾烈なる臼歯は
   存続し継続し痙攣せよ
  近似的存在機構の縊死体F
 吐瀉喀血麗かな錯綜よ
黒森黒薔薇黒石網膜
 蒐集家無惨なる悪辣者
  汚辱殉卿坩堝渦巻城砦の歪曲
   弛緩薬シアン死す死者 
    緑色卵膜帯係留の繊維剤
     不落鹹湖に蝕既剃刀を愚挙せよ

               緋の銅鑼 否
                萵苣の脳髄鬱屈たる
               冀願の安楽死
                鐘乳と石筍と鱗茎
               螺旋邸宅建築家の敷衍
                駅舎の幽霊夥多に
               ガシュリンの角膜炎を喚べ

              類似の花々
            朽葉の創 
          裂開された眼球-人働飛行翼
        瞭然明瞭と瞠られた耳殻に聴音機械
      ヴァイオリン縦横果断なる切開より
    過り堕ち平面幾何学伽藍の紙生穹窿
未明死の塩基六芒奇聞たる忌憚楕鏡眼球‐気密室
 
在る時をわたし在り 無き時にわたし在る 追難 追難 追難 
鳴鐘たる叱責者 牡蠣綻ぶ葡萄樹に自ら逸す
   さはされど丹色の扉を翻翻と集くは黒死菌を運命たる係累におぞめかしめる闇翅蝶ならざるを

麗句審問は弛緩譲与の鬱屈を擬似臓腑病慈愛の既望に仮託し
遅行劇物番号256_眼球悲愴曲のための標榜を掲揚した
萵苣と薔薇の洞窟修道院長が肩を互みに揺動する
精神病の颯爽たる巧緻痙攣が赤十字の影像に
患者Sの支離籠絡を領域に仮想の華々と
撞着された真空管の塩粒に鹹くも死
を謳い創める創造説の卵殻には
アダン氏の捻転する筋線維
が暫く硬い衝撃運動を
後顧の蒙昧主義を
播種収穫した
網膜野に
蜉蝣


     自 
    働
   式昇降室
    裸   
     婦
      像――頤に巨躯の花籠
 暴落する、暴落する暴騰
   炎天の市街地
  給水塔の球体、動力矮躯
      近似的鱗翅類の落涙
    貽貝ひとつ
       擬真珠の偽造紙幣に 
             遁れ行く過程死、眼底骨
緑内障その新緑を写し  
  斯く壊滅の戦禍を喚べ
       死と死の死、永続程の白痴夢に 復 流刑地の塹壕掘削器に
死夢、落盤 
   比喩の禽籠と 叛煽動家に鋳抜かれた視野は禽勿き鳴啼鐘塔の水死


ふたたびを欺瞞される物語その蝶番の開閉へ

  鷹枕可

夜よ 擲たれたただひとつの粘液質の膠の眠りよ、
今はおまえを探すまい、その咽喉を張りつめる走査線の中を疾駆する乳母車を
玩具の捺花の灰塵がその矮小な町の窓を翳り、見捨てられた群衆の、峡間の橋梁の叫びは誰の鼓膜を軋むのか
しかしおまえが愚劣なヴァイオリン群の偏西風を屈み跪かなったならば、共感質の死が訪れていたことであろう
誰ひとりとしておまえの沓跡を礼拝しない
誰ひとりとしておまえの外套を崇敬しない
郊外より吹く曇雲よ、確実の丘陵に翼を打て
知悉された欺瞞、復は薔薇
その期間を誇る週間が、か細い受苦を歎き亙る迄を、
膠着した峻厳な街路を逸る厩の臍帯が逃すものさえ無い
そしてわたしは知るのだ、夜が切れる間に産み落された幾多の死嬰児の声ならぬ声を

哀悼を告げよ、失われた諸々の春花のために
貪婪な無産階級の疵を疵する網膜のために
そして遂に万物に於いて全能たり得なかった寵児アポロンの紙片を、
齧歯質の鱗粉の燭火が燃やし尽しても尽きない秋霜が、おまえに向い始めて死を告げたとき、
驕り昂る飛蝗培養槽には複眼が切窓の夕刻を鳴鐘していたというに、
総ての美術家は、散逸した花被の終りを炸薬質の工廠に偽造し続けるのだろうか

固着したゾルの河に干乾びた珪藻類が屍を抱く、
それは恩寵であった筈の死後生を酷く陰惨な地下納骨堂の些事に縛り
死の欲動は確たる視野を地底鍾乳洞へ流した 
不確実にも今という過程は未だ誰の眼にも瞠目たる蜂鳥の鋼鉄籠と智慧のフリジアを発露しなくなるだろう
瞭然且つ明暗なる優劣がおまえを色浅くまた深く縁取る様に
居寓者は表象された肉体の樹をもはや死体としての未然の胎に赦すのみだろう

笑った薔薇の季節のなかで
白鳥の脊髄はコールタールの様に燃焼するだろう
自由は鉄鎚の縊死に拠り齎された叛理性主義のなかで
沸騰する暴風雨を喚き
その口角は鶴嘴の風景画に裂開を及ぼすだろう
生長なき種子より曇窓を狙撃手から逃がし
逃がされた乳母車は終に霞の季候を攫む腕となった

多頭蛇海棲百合の棘茎
戴冠せる鱗翅目の聖母遺骸櫃へ落花纏わり
燦燦たる悪事をたくらみて
死後を醒め
途轍も勿き報いを跪き受けよ

聖像たる偶像
概念たる主従転倒
創物家の創造物に於ける優悦を吐き
現世紀たる断食蝕既は
群像人物
復 黄昏時計を留め鳴鐘するよ

瑠璃青たれ
眼窩眼底骨の腐敗沃野より遁れる幌馬車よ
永続の結像体 
現象を撃つを
容貌綻ぶ
巨躯の紙製薔薇より放て

鹹海は懊悩者を放逐し
紫陽花の色なす凱旋門は昼夜の滑車を逸らせたり 

閂に隠匿さる房事  
眩暈を
眩暈は幻視し
非的存在たる巡礼者の外套は喚呼し已まず
ヘルマングリッドの鳩舎は
臓腑室の細緻記録を明滅せる白熱灯なり

写像陰画紙の腑を穿ちて
懐胎想像妊娠の寡婦より逃妄は既製となりぬ

短絡電球の異端嬰児に
蝸牛殻の誕生を
垂涎せる
外科医院の黎明観測家は死に到りつつ
秘蹟の癒着ならず
独尊たる峻厳者
瓦斯室に累々たる多者を未だ人間に拠る尊厳死と云わなく


私が生きている、従って私が死に、嬰児は且て喃語を秩序とした

  鷹枕可

_I,自死を未遂する青年期の反復記述


誰にでも届くことばを書こう
誰のものでもないミモザに
燦爛たる扇越しに
囁き交すピウス14世の母、
記念碑は倒されるが倒される毎に より壮麗に縁取られてゆくのだ赤いリボンテープの十字に拠って
玩具の兵隊が暖炉の畔より死の行進をはじめた
爆ぜる薪は心臓を愚かに註解し、未踏のバレリーナは天井を這う
乱雑な痴夢の断末魔のなかで
より美しい或青年は四肢姿態が月桂樹に酷似していた咎で冷淡なアポロンの凱旋車に誘拐されてしまった
彫刻家ベルニーニ氏の霊感と気息が
退屈な退屈な退屈な弥撒弥撒弥撒曲群の自罰を罷免されるがために

揺るぎない血と木漏れ日の闘争の季節の中で
私は人知れず人を知り
人は最后の檸檬の肉としての苦渋を噛締めるのか
轟き已まない遮断機の眠りを否み
従属と蹂躙の中で襤褸布となりはてた反抗の季節よ
際限なき呵責にひしがれた矯正のための声よ
青春期とは云う迄もなく擦過された咽喉である
従って存在しない血塊を受け蝙蝠傘が散開をする不誠実な私を残して残して
ほどよい飽食で満たされた困窮よ
印刷機に輪転するレミング共への侮蔑よ
侮蔑が侮蔑をよび思想は自ら根幹を断つだろう

憎悪に燦然と充ちた紙幣の慈善より美しいものはない
施しと誓約で刷られたヒステリーを起す群衆の幽霊よ
静寂の為にこそ声はあり
騒乱の為にこそ死は掲揚をされるのだ



_II,変哲の髄


螺旋礎の硬き未遂碑撃つ侭に
滑稽の餐室
慈善の魔笛
霧鐘塔の海嘯
検体身躯を晦冥に捕縛するも
知悉よ鳴け
悲歎臼時計の海底建築物を
修飾且つ簡素たる
無棘薔薇莟緩み綻びあり
婀娜たる死の無き死を迷妄するが如く

大腿を縫綴じ指を呪いある
時間の警喩
燦然蝶の玻璃戸に
黒蜘蛛は
夥多たる人物群群像の容貌を踏襲しつつ
尚懐胎と想像に
無原罪の磔刑
弛緩液化せる
偶像叡智の血塊たる多翼象徴体を
粛粛と火葬室に処したり

舌禍饒舌記念碑を崇敬をもせず
放埓たれ  
鹹湖を逡巡せる遅行帆船よ
悪辣と整然に
泥濘人物起源の庭園は
落胤を追随し已まずとも
絶望へ渇望へ
威嚇の領野は魘夢がごとくにも終端勿く
円環劇場を叫喚せる
視線私製の零落を現象体の欺瞞に晒しぬ

概念機関と社会的隷属が均しく有りつつ
非確実なる存在を咎め
公営納骨所の贖罪
咽喉を焼く骨壺そして
人工の既製としての希臘彫刻
外燈を打建てよ
邁進す躍進す
破壊者が展望を巻く逆円錐
地下階を
苦役たらしめたる
死者の嘱望よ



_III,精神を反抗する精神


新しい薔薇のための衣類を
偏綺な死の森の磔杭のために委ねよう
花々で造された肝臓の荒野を越えて
黎明は今や瓦斯に張りつき
黄昏は麦の椅子に純粋な血族を銃座のように並べ列ねるだろう
修道院は盲いた広報紙のなかで叫ぶだろう
科学 科学 科学

吃音の矯正器のためのもろもろの硬殻よ
胡桃には永続への街宣車が咽喉の飾り釦のように轍を逸れてゆく
そして歯科医の検死室を朗らかなラヴェルの晩年が通り過ぎていった
縛鎖に縺れ絡まる机上よ
絶後の死を恍惚と語る敬虔な数学よ
総ては均整と整列された概念の愉悦であるならば
絶対的な破壊
頑迷な人工調和、
その血液採取のための安天鵞絨の窒息は猿轡より滑落した拇指の穹窿ではないと
だれが断絶し得るのか
青い試験紙のテープに録音をされた偶然の秤量は
シャンソンの腐敗と同じく
零落してゆく遊戯用木馬を公開議会の鈍鉄製の梯子より取除くだろう

安寧の機嫌を甚だしく損ねつつ綿菓子の紡錘機より雲の腕を攫むことは可能だろうか
若し峻厳な枢機卿の肖像に二十日鼠を放つならば
熱気球は墜落と上昇に均しく引き裂かれ
凡庸な刺繍製の
呆けた松葉杖と何ら変わらなくなるであろう
殴り付けられた懐中に鹹湖が渺渺と毒の棘を排気し
乾燥する凝膠を擦過してゆく現代的人間精神とは
既に腐朽した前近代的機械製造工場に於いて試みられた愚昧な想像に縁る錬金術の復興でしかないであろう

見よ、全ては既視的な現象に没落していたが
全てが苦難の前に倒された訳ではない
見よ、新しい薔薇のために
刷新された不調和と左右非対称の人工庭園を誇るべき破壊運動が巻き起こってゆくのを


自由へと

  鷹枕可

透明なトルソの確かな炎の樹の
冬の乳房から滴り落ちた無垢の棘達よ
一週間の街燈を
隈なく張り巡る電流の鳥たちへ
荊の醸造工場が叩き落とした
灰と煤と塵
瓦斯室の瞋りを
それも後ろめたき吐露が懺悔し
赤葡萄の様に壊滅した諸々の嵐を咀嚼として

倦厭と惑乱
錻力のミニチュア蒐集家
裸の靴
水滴を纏う劇場
聯想は想像に撤かれた一握りの包帯でしかない

しかし誰が覗くというのか
永続に亙り時間を
斃れた時計の背後たる運命の偶然と
宣告をする
受話器の裁縫と解剖を

諸々の風洞に惧れ慄く絹の草花の
死後の窓縁から攫まれた趨勢の石臼達よ
林檎樹の一時刻を
寡婦達の
昏く長い喪葬へと続く黒森の炎へ擱け
血の棘達よ
白い墓地の瞋りを出生として


     /


横臥する花束
生きた霧鐘より滴る劇場
渦を巻く逆円錐の建築門
低く高い多翼の額装に縁取られた丘陵のうえの一台の楕鏡
真鍮の蛇を巡る炎
脆く研磨をされた現像を撒く
誰か過ぎ去った椅子
咽喉への編集
映像としてのヴィジョン
老嬢を花殻を印象を隔絶せよ

佇む壁の前の
ガーベラの軸芯に開く囁き声
地下隧道の私も知れぬ埋葬
黄昏の優麗なる翼人達
或は幽霊共のオペラ
望遠鏡に過去を与えたもう網膜
網膜を外に
鼓膜の内に
茫洋として海棲の百合の殻を眺めた

死の死たる趨勢のさなか
飽食を来す機械的季候
幾つか忘れやらぬ瞳の記憶
戦禍に次ぐ戦禍
破壊を免れた
小さな修道院の
胸倉の小さな鳩の鳩舎

エリュアールの呼ぶ自由と
私達の呼ぶ自由
二十一世紀間に亙る
それぞれの制約を越境し
死者と私達が繋がることはできうるだろうか

そして、安らかに静謐を迎え
すべての沸騰花が時間より離れ来るまで


     *


パウル・ツェラン頌・或は罌粟と無花果

  鷹枕可

I,右手の為の、


黄昏を飲む
ミルクを飲む
黎明を飲む
すなわち瞭然の轍が刻む
ゲットー 傷痍の包帯
ゲットー 腐敗した彼等
ゲットー ポーランドの陰鬱と激情と暴風雪に満ちたマズルカを啜り泣く寡婦よ
生を生とする迄懺悔に暮れる 
異邦の異人を

焼夷弾 糜爛たる皮膚と肉の燃焼を
劈く咽喉 惨死たる子供達の靴を積む
焼却炉は
骨を
肉塊の樹と神経髄の炎に抱く
聖母は御子とともに
熔融し
機銃操縦桿を握れ
薬莢の鋳物を
薔薇と兵士より
轢死の姿勢は機械矯正器に磔けられた
別の歌を唄う
鸚哥の去ったケージ 総て且つ唯一を沸騰する心像樹の、ミルクの、

舗装路の
隧道の花々は愈々濁りつつ
人間の尊厳は紙幣印刷場のインクより齎され
聖霊は世界焼却の荘厳彌撒を執り行う
囁きを囁きながら
世界像の晦冥と亙る茫洋を 
検閲され花束となる
その
称讃辞の屍骸

人類の祝祭を揚げよ
ゲットー 壊疽は柩に擱く
ゲットー 根は労働を退化してゆき
ゲットー 復も採鉱夫は血を嘔吐する

後悔は二十日鼠 それを引裂く鉤爪は想像力
ゆえにこそ汝は在り汝の脳髄を
脳髄を働かせよ汝はゆえに
ゲットー 恢癒なき今を今瞠る その時



II,ひだりてのための、



きみのやわらかな髪
血のミルクを飲む
それらは夕刻に来る
戸口を叩く朝な夕な
静かに柩が燃える
罌粟の日々に

アメリカ人おまえはユダヤ人のゲットーを築く
もっと死を汚らしく縁取れ 
瞋りやまない正義の
純血の麗しいメルセデスきみのやわらかな髪
混血の麗しいユディットきみの頑なな瞳
きみが別たれる時近く遠い時
そして書く
死に遭いみまわれる罌粟の日々
埃及の少年達の

星々のダイナモを動かす鋼鉄の頽廃を呈した首都
そしてそう書く
そこも悪くはないだろう アメリカの窓には
バビロンおまえは墓を掘る朝な夕な
アメリカよおまえはユダヤ人のための火薬庫
アメリカ人よおまえは神経病質なオルガナイザーの
調律しろもっと煽情にシンセサイザーを
ユダヤ人の墓を掘れおまえはアメリカから神経病質なオルガナイザーの

血のミルクを飲む
朝な夕な青空に墓を掘れそこはきっと佳い所
もっと汚らしく火薬庫を縁取れ純血の麗しいメルセデス
アメリカの窓瞋りやまない正義の
そしてきみは書くアメリカの窓に
汚らしく神経病シンセサイザーよもっと麗しく墓を掘れ
朝な夕な血のミルクを飲む
朝な夕な死に遭いみまわれるメルセデスきみのやわらかな髪
罌粟の日々に
血のミルクを視る者を悉くを破壊する
埃及の少年達の
混血の麗しいユディットきみの頑なな瞳

朝な夕な雲に墓を掘れそこはきっと佳い所
調律しろもっと煽情にシンセサイザーを
バビロンは時近く遠く時近く書く
もっと逞しくダイナモを動かせ頽廃をして鋼鉄する首都
ユダヤ人おまえは
静かに柩が燃える朝な夕な

混血の麗しいメルセデスきみのやわらかな瞳
純血の麗しいユディットきみの頑なな髪
混血の麗しいメルセデスきみのやわらかな髪
純血の麗しいユディットきみの頑なな瞳

静かに柩が燃えるユダヤきみの


鉛の部屋部屋を抜けてゆく彫塑と彫刻家の影像にまつわる七つの噂に附いて

  鷹枕可

_I,黒い白樺の森へ


立ち枯れた 樹々の間を 死者たちの聯祷が 滅びてゆく
白い花々は 厳冬に 凍りついては 夜の縁に遊ぶ 蜉蝣たちは 死の翼に抱かれた おまえを連れ去る
なにゆえに おまえは 悲しい顔を 私に向けるのか 十字架のもとに築かれた 石の花々よ 
炎は竈にとどまり 青い眼は 寝台に蟠る かけがえのない 私だけの 書物
虚飾の教会が また一人 去り行くもののうえに 標を捺す 今は滅びた 死の首府にも
咽喉は 旧い葬歌は 嗄れたまま 立ち竦み 瞋っている 樹々を吹き抜けてゆく 死の嵐の様に

静かに見送られた 柩の上に 静かに 時刻を錆び果てた 釘が降る まるで永遠のように
樹々の約束のまえに 羽搏く 幾つもの橄欖と 幾多の鳩が 
洪水を 四十日を逃れた 一週間を弛緩した 花籠を 蠅は飛び交い 頑なな死を 懼れている 迎えられながら
傷んだ包帯を 巻きつづける 手指は 失われた城砦を 死の夢を見ては 履みとどまる 
喪われた人々の 沸き立つ声を 生きた光芒へと 差し展ばしながら


_III,光冠


光冠を戴く鶉の聖母が
血の濁流を
肉塊を抱擁する時
蘭を鬩ぐ死者達の怨嗟が私達の糧となる
無窮の丘陵の聯なりからは
埋葬された炎の鏑が透かし見える
侵食された港湾
食餌の写らない現像室
それらが咽喉を迫り上がる様に
溺死の羽蟻は
石鹸液に
緻密な吐瀉物の白紙謄本に痙攣していた

若し自由というものが在るとすれば
それは血の通わぬきみたちの鑑の亡き骸である

錆鉄の鍬は
鉛の季節へと枯れゆき
放射線写真に被曝の檸檬花を晒した
美しい継母の様に
逞しい父親の椅子の様に
決して彼等は
毒の蜘蛛を
毒の紡績車を
建築体を見向きもしない
それは風景の絵葉書を燃やす焼却炉に
縺れた嬰児の腸臓を
青い包装紙の遺骸の様に
救済を踏みながらそびえる
花崗岩の記念碑に
縊られた鉄錆の死の実像は
その柵に荊のダンテルが脆く硬く印象を鎖すように、


_III,死者と不死者への花束


ごらん、あんなにも馨しく春の花々が揺れている!
落ち窪んだ溪谷のあてもなく掠れた呪詛のただなかで――。

その金髪は麗しくまるで少年期の颯爽たる秋風の様に、
威嚇を怖れ慟哭の様に諸手を震えている花々を績みながら――。

あなたの歌声は歓喜にうち震えている!夢を観る修道尼の耳にも、
こわばりつつ萎れ朽ちるまでを唾棄されつづけた鏡の石像の様に――。

春の肖像を綻ぶ帆船はだれをどこへ運んでゆくのだろうか、
肉体像を糧を奪われ、苦しみながらひとつぶの干潟に餓え乾されては――。

透き通ってゆく運河の辺縁、夜の窓を開けばそこは――
そこは血の償いに飢えた天使群像に抱かれた幾多の死者達がやがては到るところ――、

    /

荘厳の虚飾を威厳としながら
淡湖の底に教会建築は綻び 弔鐘の聴こえうるかぎりを聳つ 鍾乳筍 復は慈善納骨室より、視えざる現象体の後衛へ


つめたく燃えるもの、そは椅子のうえの花壜なるとも

  鷹枕可

たとえ
血の荊と罰のなかで青い花々が涸れても 
露壇に錫の涙が燃え残るように
君達は
ひとつの家族にもなれたのかもしれない

寄せ集めた切絵も肖像紙も 
要らないのに
本当は全てなのに
嘘偽りの家族なんて決して幸福になんかなれはしないのに
夏は昼の様に隠れてしまって
私達の罰も、
喪葬の花殻も救済されてしまった
呪いの様に消費せられるまで

あなたは憶えるだろうか
麗しい偽兄妹達が
世界線から離れた、
砂の骨壺一つ残さずに

淋しい喪章を抱き竦めては
雨のなか肩を震わせる
火葬場のベルが鳴る時刻に
そして母が死に、
終戦記念日に君達も産まれ落ちた
運命紡績の子供達
それは
生れから死んでいたか
誰にも成れず
脆くも繋がれた肉声の向うに
寄り添いながら

冬霜花が結実し薔薇が散り終えた姿勢鏡のなかに世界卵は静かにも渦巻く、

名前を呼んではならない
怨嗟が死者を
十日目の麺麭の様に悪くしてしまうから
喪われた名前は
朧げな白い花より
昏く婚礼に逃れ逃れてゆく

花崗丘陵に手指が彫刻され
生々しい死後を、殉葬者達の救いもなき絶望を
地下階を指し示す

互いを憎しみ
追うこともせず
私達は
自らの手を繋ぐことなく
だれを追うていたのだろう

ドゥーブルの鏡像に触れても
硬く
複製の陶像が
蹂躙花とも融け合わない様に
心臓が刻限を薔薇の様に鬩ぐ時
夜は昼の様に昏くなり

あなたであり世界であるすべての現象に
今でもあなたは開かれている


開かれた死骸

  鷹枕可

蜜と鉄の創造者を呪う知りもせぬ海嘯の城門より
数多の死と
花被殻で飾られた
翰墨の凱旋車が
海底建築に突進して行く

緑薔薇色の死者が
常繋ぎ留める肩章徽章の綺羅を
私達は
絶無抽象の青い乾板にも探し遂せない
誰が聞くのか
紡錘機の退屈な獄舎の普遍的寓話を
死の夢のただなかに在り
死の終着のなかには
今亡き今が絡め取られた

罌粟が鈍鉄の曇雲を裂開する時
綴られた繊維紙
或は蠅を綯う
紙篇を罫線を
確実な愉悦饗宴の
黒い後刻に電気機関車の死骸であるがごとく磔けよ
自働機構への逃亡を
彫版家としての
衰亡童話が隈無く支配する零落国家へ

無辜を最愛なる理想像であるか、
純血統種の捺花は
死は今きたる
きたるべき死者のこめかみの側へ

そして
弛緩をした自動麻酔が
各々の根幹たる
神経髄の樹を亙り已まぬ為には
何れ程の錆鍬が
壌の糧を孕み

胚種脱胎の嬰児を
包柩を間歇的に噴出せしめなければならないのか

貴賤を喚き止まぬ鳥籠の死骸が
真新しい精神病院の緑なす最終面会室に
腐蝕酸の蝶番を置く

それは瞬間の薔薇の符牒を穢しながら
地下階へのきだはしを揉まれ流れていった

エドワルド・バーンスタイン史の大理石の腿骨を齧る虱達よ、旧前衛工房は突破された
後衛美術の類――絵葉書、切絵、影絵、映画フィルムの雑踏と市街広告塔の燈火を仰げ
それらが蹂躙された匿名市民のためにパッケージの尊厳と自己愛を購ってくれるように

精々懇願するが好い


どこにでもあるものをなきものとして

  鷹枕可

死までへの執行猶予でしか勿い、それらのために、

     ・

わたしの乏しき血の糧が
どこにでもある様な優しさを咎めるなら
それは普遍の窓に揺蕩うあなたのなきがらをうめてゆく
怖ろしき父親の書斎の椅子です

のどが乾き
罰せらるため生み落とされた
揺籠を花の様に笑う
口無しのみどりごへ綯われた
ありとあらゆる乳香を薬包紙がひらき、
解剖台のなかで喪われてゆくのが見えますか

それは あなたがたの尊厳です
それは あなたがたの誕生日です
それは あなたがたの戸籍です
それは あなたがたの火葬室です

余命を報せる趨勢の終わりを
母親が愛した葬歌を
踊りましょう
本当は花殻のなかに隠れてしまって
見えないものですか
贋作の偶像とも
肉体像を悪魔の白薔薇とも知れぬ
恙無い
端緒より救済されてゆく
死が終わりではないのならば
それなら

わたしはわたしを遂にみることすらかなわぬ鏡の映像のように、
つかむことも覚束ない死の癒えるまでを離れなければならないのでしょうか

その前後縦横に余りにも死は明るかったものですから
わたしはわたしを熔け爛れてゆく錫の涙漿液へ開く
閂のある中世建築物総覧を諍いの壌へと孵るまで眺めていたかったのです

果が必ずしも黎明を拇指にあてがう訳ではない様に、
曖昧なタービンの縁に錆びる蒲公英の様に
あなたたちを
冠毛と翼果で飾られた絹布に拠る
リリエンタールの花が墜ちる様に
音を立ててはならない瞑目の空間を廻りつづけているのです

物象が未だ象徴でも
抽象観念の隠喩でもなかったころに
わたしが精神を病むと電気線の拍手が聴こえると言っていました
あなたが時刻を数え、あなたが残虐のみにぬかるむ、アダムの頭蓋に吻合された両性具有の絶慟にも似て
石膏塑の偶像を毀す毎に生々しいあなたたちは処女雪に粉砕乾燥花の微塵を降らしめるでしょう

どこにでもあるものをなきものとして、

     /

腐敗をした精神の樹果はなまめかしい葡萄花を孕んでしまうから自由なのでしょうか
理路が在る様で無い哲学を少年は枕木を跨ぎながら最初の橄欖果を慈善修道院へ充ててひしめかせております 
小壜に酸漬にされた橄欖畑の風景は逆様の地球儀をつるした一本の鋼線の絃である様に絞られて
注射器のアセチレンは濃緑色の自動車婦人の容貌鏡にもさして相応しくはなかったので私製の椅子へ錆びた花束を撃っているのです
それはまるでアーチェリーの標的に沸騰液より凝縮されたうつくしく青白い病院であり、また赤十字輸血車の忙しない血のレトルトなのでしょう
膵臓を霰が徹底される毎に聖母像は裸婦像を影像として対偶でありながら永続を引き裂かれて傷む鶏頭花のさざめき已まなきベランダからの峻厳な機械元素の総てを
生きたまま死にても同じこととあなたが仰られるならばその様にも呼びましょう
或は永続の終りへ執念の帆立殻のひとつである巡礼者達を厭うのは死としての偶像ではなく世界像の不明瞭な弁明と魘夢の露見としての磔像が流す錫の微針の血脈樹にも始めから何所にも麗かな美少年達などはいはしないのに
青褪めた鳥たちを撃ち落したならば自由にもなれるのでしょうからきみたちは口にしてはいけないのです瞭然と瞠った者が瞠られる姿勢のあるがままを残虐な精神像の終始を


     ■


f被告

  鷹枕可

瀉血器が
悔悛死の自由を尊厳死を哂っていた
諸腕のない少女はつまり
失敗した
純血と濁眼の磔刑像に召された
宙吊りの針金からなる首像であり
朦朦たる花粉機械を
口腔外科前の駐車場に振動させていた

髄膜炎に周縁の果てを縁取る薔薇は薔薇でありながら薔薇ではないかの様に悪魔の臍帯を逸り
断頭台の
像と像を像する像は像する映像記録を像した
  一縷のティッシュの屑より虚誕を吐く両性具有のヴィーナスの髭豊かなる真鍮を割く働音を
独身者達の夜明、黎明の正気は
/
 /
/
「主題勿き部屋部屋に番号を振れ、
[兔と豊饒なる疫病の]
壁を
壁を
壁を
壁を
幽霊的存在の絶望の回顧展覧会に誇り驕れる
弛緩の海と辺縁」
壁が
壁が
壁が
壁が
窓ひとつとて勿き箱庭療法の、総て人間

で造られた
橋梁橋脚が落ち
幽閉された贋美少年を乗せて貨物船は船底を覆しながら次次と被告f氏の
露悪主義を哂って云った
「臨月の二十日前に鼠は
  畸形児だった」  

青いリボンを敷かれた精神病院は
鉄網の窓の隙間から
助けてくれと咽喉を切る
「看守は
暴君でせせこましい侏儒の、

奴婢で従僕で虜囚 からなり
死者達と未遂死の繰り返しに
自由は
自由のためいかなる福音の呪いを知るべきか」

f被告へ死を
f被告を絞首室へ
f被告への執行は花時計に
f被告への執行は午後四時二十六分に終った


伝令者

  鷹枕可

拍車が花粉を吹く錆鐘の第一季節にて
微動すらしらなき熱気球を剥くと
檸檬樹に拡がる
葉巻より滑り落ちた
シャープペンシルの
薬莢が緩み始めている

敷きつめられた
薇蕨縺れる自動ドアに佇む抽象の街角は
哨戒機の劈く兵卒たちに
告別されたばらを
白い喪章をふるわせ已まない

瑞瑞しく葬列は
鞦韆の有る午刻に送電線の間を
飛翔する
月時計世紀への靴跡を遺して

ウェルバー・ライト兄弟からなる鳥達を仰ぎながら
昼の墜落した街路に
托鉢修道僧の眩暈を
沸騰をする
麺麭籠の静物に何時でも受けられた
口唇の何と喧しいことか

死は死の侭で擱かれているか
終始に亙り見世物に拠って吹聴された喚声
それは
古代劇場の起源を
程勿くして発展した
廃鉱の門扉を潜る影勿き影の市営納骨所を焼く様に
少女と火事をその精神像に同じく置く

咽喉に壊れた扁桃果より
飢饉の町への街道は絶たれ
乾燥花は舷窓と艦橋を繋ぎ亙りながら
嵐の散弾を撒く
孤絶をただ一つの峻厳と抱えながら


.


希臘の精神に
砒霜の花が結実し
永続起源の棘が死の符牒を世界と凝るまで
幾許かの韜晦が臍として穢され
田園を捻れて屹える蛇の樹は
数秘術の崗に
岩窟に青聖母の外套を
紛糾する十二の独身者達を
存在をしなかった単純機械の様に
聖像破壊の機運に破棄してしまうだろう

石像の少年達が運命を誰ともなしに鳴響する冬薔薇の水甕へ嘱目する様に
普遍死の骰子は静脈坑に繋がれた市街地を鹹い塩の思想家達の捕縛をものともせず喚き已まず
周縁より罅割れた花崗石の紋様は翻って遭遇者達の躊躇う靴跡の様に舞踏し、
静かな蛇蠍の草花はうつむきがちな水萵苣の拘縮を柔かく緘口令の町に通牒を報い続けた

戦禍を招く国家がひとしずくの歌劇或は花劇を忌々しく掲揚を期す
残酷劇俳優達はひとりのこらず精神病院に週間紙のゴチック文字を糊塗することを止めて終った
而して本当は知っているのか、全ての教会建築は臓腑のため乱鐘を打つのだという事を
熱風に撓む空襲の窓から燦燦と焼夷弾が撒かれるそれは良き糧の収穫などでは無いのだ
決して結実を期すことの無い堕胎された恩寵のかのひとは、誕生から別の誕生へ亙っていたあのミルクの、
偶像への瞋りのように孵る木綿の真っ赤な花々を踏み掻き分けながら、それでも何者かになれると思っていたのだろうか
既に余命を数えるには歳月は速く遅く、滲んだ丸時計の、落ちてゆく少年の、

人動貨車の周縁を、


箱庭_【或は選者氏へ、】

  鷹枕可

眠れば、
光暈が静か、
騒めく
熟れないわたしたちの小鳥が
わたしたちが鳩の心臓を
包むやわらかな降る花が
だれのものでもない、
あなたの、

めまぐるしく
喪われた攪拌機のうちそとに
癒えることなきこどもが
石灰の墓碑銘に紛れるならば
わたしは
わたしたちの死を
あなたへ、

孵れ、
今は今でしかないのだから

明るい夜
だれかが死ぬ夜の絹のなかで
明けやらぬ電球
器械の、
全て喪われた
個室のラヴェルを擱いて
逃れる
亡命者がくれた
青い雛罌粟のかたち、
生きていた記憶
それはあなたたちの、

産れなきこどもを
少年たちを
個人を 俟ちながら

かれらは死は迷宮建築を今も尚燻り、

_


私が、なにものでもないわたし、に
降る、鎧戸を霰が、
ああそれは、
かのものたちが、
死を忘れつつ、腐りゆく、
薔薇のフーガを、
外套に包み包まれた、鳩尾をながれやまず、
それは青ざめた縁の、
辺縁を差し、
楕円を姿見として
再発を、撒く鉤十字の
忘られなき
罰をあたえる、あなた、へと
泥濘、
模倣のような雹は、
やわらかにも嬰児虐殺を、
古びてゆく、諸々の切窓に、
狂人達の晩餐は、
漆喰の、
瞳を、
喉をくつろげて、
底を、呻る、
轍のような死に
溜められた瞋り
白い瞋り、
文法へ開かれた
吃りの、驟驟とした、
何もない、嘔吐、
労働者へ
腕のない眠りより生臭い、街燈の底へ
傷なき繃帯は
追うか追われ、
骨灰を、煤埃を、
あなたが、なにものでもないあなた、へ


青い繃帯

  鷹枕可

菜種花と橄欖の膏薬に縁どられた昼よ
海星をおまえは踏み
海星はおまえを掴む
しかし誰が托鉢箱のなかに濁血の手套をなげ入れたのか
酷薄な街燈の穹窿よ
咽喉はきみたちの告解の価値を報せ
伝令鳩のベルは遅く鈍い採掘夫たちの掠めた鉱石の瞳の様にきみたちを水葬燈に切り開くだろう
巧緻の球体は蔓薔薇の鏤刻に呪われた歳月を確め歳月は煤窓の鍵盤を穿つだろう
酸い嗚咽よ、扁桃に拠り始めて表象と成る肉体を包む希釈液の吐瀉物としての死よ
自由の勿い瑠璃青を滑落してゆく市民達を
飛翔する幌と帆と懸架をされた銃剣の無罪証明は紛れなく別ち乍
建築体を渇く後悔の抜殻は映像機の、死の勿い眠りまでを乾き存在の興味とした

_

柱時計
慈愛の終り
真鍮振動子の悪霊達
陽が堕ちる、地下階へ闡く石の死へ
機械創造家は
機械像の余命を燈の壜詰へ
禽舎の底に
裂開をした
水棲樹を物種として
売地を
終端より終端を
腐敗と偽徽章の季候へ曝す

閾を刻限として
褪褐色の地球像は
今なき鶏頭婦を静めながら
公衆へ
懲役を
檻車を鈍重な秒間延展物象時間へと孵し

青く薬莢の匂いは
死後生の塵程のつかの間を
糜爛し
禍根としての画廊を亙り
自由なき誕生は
死を死と呼慣らすまでの、橋梁と実象、それら構図

穢れた楕鏡を抱えつつ
 曠野を亙りゆくものもあり、

鋳物の血と
薔薇の透視法に
遠近を鳴る
緘黙の受肉週間に
経緯を織る岩窟の老姉妹に
第七の旋条門は開かれ、


|

アウトマタ
機械耄碌家達の獄舎
蟻走車
橋梁は落ち
死者を喚呼する
ベルが鳴る
その名は
孤絶流刑地二十一世紀「地球」

麗しく
醜くも
終末的季候如何に係る
叛逆天使達の
黎刻肉体時計は
逞しき翼撓骨を引き絞りつつ
建築家を追放し
附記をされた這行類匍匐臓花は
球体矮星を呑む
藍青

乾燥写真を燃焼処置するものどもへ
議事堂の母胎は
現実
つまり
魘夢を
告解室の鏡像へ梳き毛髪の硬き公開衛生博覧会が
死の夢を死の夢を
死の夢を死の夢へと
孵開された叛花殻の
緘黙拇指を麗麗と欹てては

偶像、復 群像を呪わしき影像が履み
弛緩鹹湖の野棲無垢たる
剣百合の鋭角は
鐘塔建築の矮鍾舌を
被創臓物花の鉱体に褪色を及ぼし
別人としてを想像-増幅する
現像機関肉塊樹、オウイディウスの薔薇変容

花婿の死は緑礬の様に
そして花嫁の死は繃帯の様に、


喪われた白罌粟の子供達へ

  鷹枕可

_

硬い薔薇が石膏に解けてゆく刻限
頓死したピアニストは橄欖の様に昼の齎す虞れに咀嚼されていった
彼の重篤な切迫を饒舌な昼顔たちは真鍮の喇叭の様に吹聴している
あのユダヤ人達が
絶滅収容所に送られてから幾年月かが経ったのだろうか
無感覚に沈み遺灰の様に蹲っていた
死が罰であり
余命は呪わしく縁戚者の訃報を囁く
私は病み果てた総身を姿見に映す
机上には食べ掛けの無花果が死婚を祝っていた
羸痩の骨と血、
印象は暈み
隠秘されるのみ
肉体像の窪を隆起を誰が知るか

_

疾駆する彫刻家の亡命列車は
白の終りに夜を置く
ケルビムの真鍮花が群像を飲み開いた
錆びた釣鐘は誕生を祝わない
雌雄の威厳は罌粟粒程に矮躯を呈していた

昼に墜ちる
昼を充満する花殻が
火葬台には青い肉親が仰向いていた
骨の灰を
物象として
人物像は斯く鳴き喚き
嗚咽より離れゆく花々は
最後を経つつ
簡潔且つ素焼の骨壺は尚も端正であった

薔薇籠
死の抽象を終焉へと展ばす
秘鑰、劇物の壜乾燥器
それら永続死に
贈るべき埋葬を顕花に祝うとも

_

昏い釣鐘の声が
墓碑を落ちる花崗岩の影像に
血の翳を踏み
慈愛と謂う名の
呪いに縁取られた少年の
傷み続ける咽喉が包帯に渦巻かれ 
十字架の影が
昼の葬列を翻って燦爛と
幌附乳母車の様に
縫針を模倣とする植物時計に斃れていた


そして
喪われた白罌粟の子供達へ、


厩舎に散る種の名は 収穫

  鷹枕可

誰か踏む
街角の影
哨戒機が巡邏する
天窓より見下す
花束を燃えゆく
第三面会室の門扉
その人体建築
昼を乾く向日葵
瑠璃藍青の蜘蛛窓に檸檬が繭の花が繋る

睡眠薬を
白砂糖の睡りを
疑り
草花を翼と見紛う
褥の影像が延展される
慈善と慈悪
その別ちがたき
黄薔薇の肖像写真に
銀錆腐蝕の花被は磔像を跪かず
修道、葡萄樹を厭う

総てを市民権を略奪されては
踏み拉かれた
水晶体内の巧緻修飾その衣類を
偶像と看做す
唯物的想像下に於いて
精神病たる私は
飽く迄も種的逃避に外ならない

薔薇と遭遇、
巡礼者が帆立殻を
偏執的片眼鏡に観察する時
静謐静物の像と看守は
一握りの塩粒の整流濾過壜を電燈として

書簡には
綺想幻想動物の骨格が
普遍鉱物の繊細なる機微を寧ろ恩讐より隔絶し
機械史の乳房は
蒼醒める胸像に死の赦しを
懸架し已まず

暴風霰打つ邸宅建築の丘に
私達の髑髏が離れてゆく様に


教会地

  鷹枕可

とめどころも無い広さを飽く梳られた電気の広場を理髪鋏の葬列が寄掛かってゆくには些かのパン屑が必要であった
握り締められた手の容が最初の偶像となるだろうが憎しみの愛は始まったばかりなのだ
貿易便覧を眺めて見れば噴水と鳩時計の近寄り難い距離は明瞭な物となるであろう
何よりもまず掴まれた昏い花の手指がシチュー鍋の乾板に沈みこむまでに遣り遂げなければならないことは鉛色の銃、
それを握りしめた大広場の白昼の彫像、ただならぬ微笑にさえもガラス瓶の独立記念日がドアをノックする様に、物象は丁重に退廷をしてゆかなければならない
証人台に録音機のヴィーナスよりも見苦しい踵が逆様に曇る愚者の万有引力を提唱すると、
電気科学者たちは鼠の血や鸚哥の翼を納めた私書箱を発端とする記録的な更新世の死体を流行病隔離室に匿う
葡萄地方の鈍らな愉悦に劇場を築く程に閑散として笑った幾つもの骸骨のただなかで
踏みしめられた胸像の微笑が堰を切って放心して行く今と今にも地下鉄にも檸檬が輪転している半自動裁縫機の正確な縫目を掻い潜りながら
誰もが血糊を避けて歩く
過去に於いて想像をされた機械と現代像に於いて展望をされる機械工学の間隙を諸々の抗精神病薬は眠りながら立っている夢遊擬似症の偽婦人たちに跪く外に手筈もなく
収監者達であり私達でもあるべき所の独房の丸時計に釘打たれた麦の抜殻を熟れた病人が腐り始める、錫の薬莢に拍車はかかりながら

_

めざめよ夜のはじまりから喘息に到るまでの幾つものキャベツロールに添えられた釣鐘の叛教会主義者たち、
自動車から瓦斯燈へ回顧展から処女受胎へつぎつぎと傾れ喚く貨物帆船乗客たちよ
今は許そう、非-面体の三角法が採掘される迄には充分な時間が在るから しかし福音機械書記者の想像限界は人間達の咽喉の林檎よりも静物に近いようだ
私は一つでも取りこぼしたことが有っただろうか、総ての名前を記す指には終世の光悦が約束されているが鍵盤が落ちた部屋には閂が降ろされるだろう
君の部屋にも閂が降ろされるであろう、それは青空の壁紙を延びる積乱雲の遅い聖霊達の刎ねられた心臓でもあるかもしれない
収穫は悪魔であり白薔薇色の石鹸でもある、それは叶わない戸籍録のひとしずくの泪ではない、見て御覧、ミニチュアの市街地を塩の柱が振返るところを
不安症の部屋部屋は妊娠された、堕胎の少年ははたして雌蘂か雄蘂なのか、
両性具有の海を拾うひとびとが呪いを受けるとしてもそれは近代と現在ほどの些末な違いに過ぎないのだから、
つぎつぎと埋葬された遺骸骨の壺が掘返されたところで何ら恐れるべきではないのだ
たとえるなら死が総てに降りかかることをあらかじめ決められた始めての手紙でもあるように


信仰告白の避難

  鷹枕可

世界の涯までも領海なのだろうと彼等が鬩ぐ、彼等は牛乳壜との戴冠式を終えては潜水服に嘯く、酷い雑音が劈いている、そのときからかかのときに到る迄を、標高のメートル法を越える峰が電話線を渡しながら海に逆立っている、かれら処女航海は海の上、何時でもランプシェードで出来た鳥達や鉱物学者たちの卒倒癖は陽の目を見たためしがない、時に火と愛であり壊れた蠍のシャンソンであった拡声器の避難勧告は緩やかな海の底より海抜数万ヘルツの空の蓋に到るまで賑やかな上昇線を辿り、獄中の樹木に人間達の的がまるごと収まるほどの乾燥壜をいくつかぶらさげて綜合病院の窓をくぐる、彼が思う様に他者は他者であることを発見したのは麺麭屑の蝋燭が12歳をこえた頃だったが、亜鉛の幾何学、海の縁にこびり付いた航海士たちの靴跡へ必然の椿事が滞りなく取り行われる為には薔薇の模型と膠着したステンドグラスの真鍮溶媒が必需であり、その殆どを雄鹿のヴェールに舞踏する狂人の採算に追われなければならなかった、凡そを開き速度計が降り頻る通販カタログの蝶番に挟まれた未遂の開胸術は銅鉱の鈍い吐気を振り切って落ちるまで花の西洋燈を灯りつづけるだろうか、蟹の花は愈々馨り灯蛾の多足植物にその寝椅子を委ねるだろうか、それらは果して線香の天候を曇らせ瓦礫の微笑する窪に並々と注がれた硬化アンチモンを聖遺物の古い習わしから透徹させ得るだろうか、詰問の後には必ずと言って良いほどに別の舗装路が敷かれ、誰しもがそれを通るが私達は別の選択をこころみてみなければ為らない、例えば噴泉の陰鬱、精神病的腸詰の黒い煤窓、神経衰弱患者達の死への紛糾と融和、在るのは絶望より酷い花籠だけ、相場師達が若し悪魔的な潔白を解き磨くならば鈍く鈍い銅版画のなかには一体何者が縦横を切り揃えた馬丁の個人的権限を攫って行ったのか、屡々軟膏には結膜炎の兆候が垣間見える様に許された伽藍には紙の翼に係る日時計が置かれている、その時刻を認めるには明瞭な拡大鏡が必要であり、偶然と呼ぶべきものは骰子の嵌められた断頭台より多くも少なくもないと広報される、継手に蛾の死骸が挽かれる、広場の露壇に湛えられた海に、


習慣の結像

  鷹枕可

殉教花被、燦々、暗澹たる季候下に
中世創造動物図鑑を
婦像柱の
臓内投影機が確かめ
開胸鏡への切離を棘の籾殻に露見している
地下階解剖つまり秘匿
硬き静物花を擱く
聖人機械、
自動恍惚装置としての瞬間
終端の運搬車輌
死を刻む、
刻む物象の死を
未死の神経-被覆繊維として

鹹き血漿時計を
静像-塑像とも均しく看過する地球像の影と影、
編成流刑地に欹てる
円錐鉄杭の拡声、伝達
植物模像-人体模像
その鋭角を飛翔する
私達それは血統の様に馨り
懐疑に産み乾され濫觴滑車を統べるもの

貨物車に倒れ
奴隷船に運搬を担う、愚人とは
錆鉄酸の地層を綯う向日葵を、
蟻酸拇指壜を湛えつ
戦慄く飢餓人物、孤燭と孤絶
成果と欺瞞
その恩讐を掻き別けつつ
視界内現象は
鈍い腐朽像へ
被磔刑者へ
残酷偽劇を移管遷移せしめ
惑溺を常とする瓦斯麻酔医が緋色の胸膜を覗く

階段から階段へ
峰から伝染病へ到るまでの現実を
死の鍵盤は軋みつつ
それら敬意を
簡素な映像投影機は鏡像裡に逆立ちて存続し

一般的堕落の少年は既に放縦な外世界よりの逃走を砥ぐだろう


影像係争

  鷹枕可

白い瓦斯室に
市営納骨所の柔らかな安寧にも
火薬庫の影像を胸像鏡に抱くものか
普遍乾板に憂くも
白昼の捕縛が躊躇わず
心臓の腑より白銅錘鍾を
一撃の花束を堕落飛行艇のプロペラに瞠る毎に
純粋機械器は立止まりつつ躍進する、
風圧計に調整弁に
草樹に繋る速度時計に
そして幾度かを市民は
指鍵指向標-刻銘針を
存在なき優生学的な優悦の、
被懲役徴兵令-国家機構へと邁進してゆく

誤謬の椿花
真冬の様な統制に
叛体制家達の徽章修飾は
憎悪の照準、
死線へ牽かれゆく
沸騰する錫の巨花鉢に拠る乾燥献花の相貌の様に
黒薔薇色の市街列車
或は
霊柩、その巧緻鏤刻線が閾を
終始を亙る夥多なる抜殻より崩落する
別の命運を縫い合せられた
人物群は果して、
よもや
私と謂う個人への
余命数代筆たる蒼白い手套でも在るのかも知れず

簡素流麗な
螺条旋の厚紙、白薔薇
渦巻く海縁を靴跡一つ残さず、
国家より
異端者の確かな汚濁純粋に
書翰仮説の神々は愈々
後衛的な、
酷く
前時代的な影像への出自を顕し、
叫喚呵責をやや緩めつつ
被造体の、
血髄と硬い檸檬樹樹花からなる
死への自働小銃装置であり
離縁婚姻者たちでもある
六十基の凱旋門に穿たれた多翼熾天使たちの鱗翅目の一つを、
最終列車の
絶滅収容所の果てに


想像の遠近法

  鷹枕可

真鍮把手に無窮階段を
ベルの花籠が婦像を糊付けるまで

浮腫腫瘍に紛れる
麻酔医達の精神指針は
廃墟構内精神病院に
紙の城砦を焼く
絨緞由来の扁桃人物達が
盲目の乳房を
黒檀簡柩に花被-被殻の様に創物と看做す
それは陰鬱の縮膨現象、
心臓腑界の輸液翰壜であるインク
車轍であり門扉の柵でもある
白薔薇の徽章
靴底を蹂躙攪拌鏡より
分身へ

陰の天球体グラス白熱燈より
偶像機構
投影装置より鳴響する
蝶翅鱗粉時計の
城と月蝕遠近法に
絶無具象体たるわたしがいる

酸い橄欖
或は書簡の鳩尾
蒐集家の靴跡が去る様に
永続命数速度計は
加速してゆく
純血主義の終焉までを

酪乳色へ紐解かれた
塑像幌と静物瓶の
遅遅と、そして硬い鉛球は
融錫鍋からなる近代機械翻訳機つまり
習慣的彌撒の亡霊であって
宮殿画そしてその建築家達を
爾後刻の散逸期に
猖獗女鳥『ハルピュイア』が
鉤裂の帆を
離れて散ったグラス白熱燈に燃える薔薇へ孵す

それは絶鳴の音叉ではない


全て墜ちるだろう

  鷹枕可

戦禍と
悦びを
係争の終わり
絨緞爆撃に崩れ落ち
こぼれつづける墨染の薔薇、建築
それらを
私の鞦韆のために

市街地にて
私邸
焼跡に縋り歎く
その母の
日曜日の死骸
幾多、罰と謂う名前の
遺物-除籍手続
予め約束された貿易花の
今しも紐解かれようとする
運命の必然へ帰趨を棘とその遭遇たる孤絶へ擱き遣る、
諸諸の展ばされた両腕、慟声より、

死後喝采を受く
蜜蜂の様に、
建築物の影たる静物像の様に
鈍重な柩が過っていた、
彼等は皆
翰墨を覆う絹を引いていて
解ることは霊柩車には火葬室の馨りすらひとつとして残らないということだけだ

そしてその臓腑を青く、血縁達の瓦礫統樹よりも蒼穹に似た加葬令の花總の様に、

廃棄物の時計に
夜と昼を隔て
翳翳たる凹レンズが遠近鏡のなかで
花粉階段を降り、
樹々の死骸を上る
それでも薄絹の梯子は静かな約物に揺れている
飢餓の薔薇を
程なくして紡績車に縺れせしめて

放擲された花束は暈み、
宛名書のない黄昏を指に押しながら
皺嗄れた房事と
十一週間以後に
堕胎された咽喉より
禍根は血婿浮く曇雲の部屋に

凡庸-劣等の結実でもあった筈の
機械趨勢、
優生学の統計部屋は収獲野に棘の花を踏み、
踏み拉かれた公海、公衆的領域への閾は
被覆樹脂-銅鋼線に巻かれつつ
存在の実象を離別してゆく
彼の婚約縁戚者達のように

命運と死
その夥多を
簡素柩の懸垂樹は開き
縫綴じられた鐘と、
闇陰境に欹てられた耳殻-籾殻
螺旋を撒く人物、
それら完膚球形の人体時計は
皆酪乳の疵であるかのように
流麗な海縁の門
その額縁に、
偶像盲紡錘婦「フォルトゥナ」が総てを涯てもなく見る、骨壺のなかのひとみを、


種と骨灰

  鷹枕可

紋章-図像学を鈍重な磔翅翼は牽き
象徴の髄漿たる
薔薇を篭めた
西洋灯の街角を
弛緩した人物群像を
同一の検貌死『カトブレプス』が這って、言った
誓言の移譲、
或は花籠の髑髏は
暴風雨の霧鐘塔を曇壜に置く
確実な均整を附帯する
雁という雁その図形の死骸であるに過ぎない、と

喩えて球体
確たる紡錘時計
そを天球投影室に瑕疵に、
花總へ縫代のごとき瘢を
受肉誕生、ウラヌスの陰茎へ
黎明の晦瞑を
臓腑たる教会建築その含漱種へ嘱目する
奇胎

それは奴隷統樹の
私縫繃帯のごとく
遷移-隔絶を操舵、瞠目する実象記録
バルトアンデルス、その
万物を流体時間として受けつつ
鍵無く花束無く
乖離無き
人物乖離を嚥む物
外範疇紡績機械に
静物胸の総臓腑を産み
全て死の影像、
乾酪の孵るもなき裂罅を欹つ夥多、聴衆

怨嗟それは
数多の磔像柱、
その蠅たる争乱-酪乳壜-螺殻に拠って
後悔を肯う、
青菱十字に鈍旗幟を
癒着を齎しめ
透徹現実の人物達を福音に拠り
束縛-投獄し
呵責の所以を韜晦するべくあるものを、


夜燈の飾帽子

  鷹枕可

_

丁度、夜の敷設路をつづく常夜燈が灯り
汽罐車は轟々と花粉を撒き散らしながら溪谷の窪を通りすぎるころだ
__

颪、
燦燦と揺れる光暈がその煉瓦石の停車駅に
心許なく手袋を擦り合わせる婦人の飾帽子を掠めた、その間に
___

鳩の翼と紫陽花を縫付けた飾帽子を
渦巻く鏡のなかの丘陵のようにそのゆびさきから引き離してゆくものは
____

「ほろほろと水の音を牽く噴泉であるかのように苦い糧を鹹い舌に確め 
 私は/私の樹にあなたへ/名前を刻む/私の名を/」
_____

鞦韆に落ちたひとひらの枯葉の様に
飾帽子を拾い
写真のなかに鉄道員は百年の季節をうなだれている
_______

全ては
鉱物に閉じこめられた
歪像画の
視る夢


土地の血

  鷹枕可

燈の傾倒樹林、
凱旋門を統べて在る狂奔より
薔薇と臼砲
海縁を磔刑像が錆びるごとく
多翼銃剣、
縊死鬱血の鈍鉄罐を
擬似縫製-液体花壜を逸れつつ
瞭然の懐疑を
起源黎明へ懐胎し
額縁を渦巻く緘口令
その飢饉の噂、

現象を緩む鉄砲百合
その破壊の季節に死に罅割れる絶対死への廻廊は胸像を純粋に磨き続けつつ
冒涜を硬貨に腿の絶望に乾き続ける噴水庭園の八端十字に水洗礼を滴らせながら
豊饒の市街を赦す塩の草花へつぶさな眼球の法医学を振子の種を撒く分銅の騎馬の甲冑の様に確かな
奴隷と死
辺縁と蜜蜂そして
絨緞裁縫工場に降るセロファンの花網を亙り
苦く秘匿された立柩を諸手は受け遂に見えぬ花湛える天球儀の外に繋がれた幾多の白熱電球を
希望への釘そして椅子に
腐朽酸蝕に被い
機械下の創物が全て尊厳死に赴く迄、
それをも飢饉の季節は逡巡無く死と麦種に稔らせ
塩の婦像柱が掘り起こされた時、
饗宴の果て、一匹の蟋蟀が死に遅れた季候の上で鳴いている、
そして自由とは血に沈められた殖民の起源であり、終焉を亡くした空洞でもあるだろう

_

鉱脈より総てが解き放たれ
地上より
夜闇の扉を叩く
牡麋が
飢饉と疫病を振り撒き、

凝膠の溶解、椅子に受けた薔薇十字
市民革命宣誓文に投げられた喝采に沸く趨勢は鬨ぐアスパラガスの起爆装置に雄花を添え
避雷針は黒い丘陵を月蝕より芙蓉に預けて傾く
地平の醜怪な花々の滂沱は切離された壜攪拌機に普遍低劣な唾の塵と海縁を亙る砂の電気椅子を擡げ
蛇蓬髪の石化した姉妹を鏡に嵌殺しながら
牛乳罐、躑躅、そして硬い籾殻をホルマリン溶液の胸膜に秘匿していた
逆円錐の噴水が七週間目の飛語を覗く迄には、
土地の血はあらゆる繃帯に隔てられ
輸入品目への翻訳、出奔も威嚇射撃に耳を泛べる曇雲の部屋に、
もはや慣例である麻酔医と血縁のグランドピアノを映像世紀に死と影のごとく随伴するのみとなるだろう


黒薔薇水晶の代償

  鷹枕可

――ぼくは永遠が欲しい。


死の果に死が有り、
黒薔薇馨る慈愛の箱庭に
恩寵を受けた、
アウシュビッツの地下隧道に眠る
幾千、幾万の亡骸を
火葬柩の
黒薔薇の印章が
異邦人の咽喉の様に壮麗に赤黒く、拘縮していた

死の秘密、
常夜、蝙蝠の斧翼下を闊歩する婦像の陽傘、
街燈の書言葉、
瞬時、脳髄受く花籠の中
蜜蜂の樹花は爛熟し、
瞋りを尊厳死に
生誕の隷属、既成存在に
喚き立てる係争の、血縁附録

昇降室
骨壺の髄-風葬を受けて愈々優麗と為り
喪葬果を受ける死の
拡声器と乾草、
その遺骸、瘢痕
敬虔者
一縷血脈の籠に錆び続ける黒薔薇、
酪乳翰は吐露の額縁に凝り
交叉階段、
死のベルを聞く
瓦礫下の心臓、腐蝕銅鉱
葬像を
偶像と呼び慣らす
墓碑銘の丘陵

死の翼、猖獗を錚錚と讃えつ
鶴嘴と鍬の凱歌
一粒の種子
その起源、天球像周縁を隈なく
世界無く
万物のみを踏襲し
諸々の虚実
孵卵器を蘂奥を蜜蝋に拠る鋳物にて
分身、鏡の葛
双嬰児を孵るまで俟ちつつ


私のうつろ、鈍い血苦の蜘蛛、
死骸として、死に続く死を

   痴夢する痴夢
    今際の果てに
     
死の舞踏、ペストの話言葉
 葛藤、断頭記録の様に
       影像、嵐絵、蜂窩、解剖学
咽喉を潰す劇薬を下さい
/海縁の邸宅に/
網膜を剥がす
 剥がす禽舎の壁を、
   骨壺の薔薇の名前は

被告人アドルフ、迷宮、窃視、絵箱庭、
 窓硝子、越しを、家畜列車、が

 剃髪されたる実母の、愉悦し、狂奔たれ
象徴、白亜十字架が
   忌々し、頸筋にダヴィデの、痕なかれ


          君達、さえを


砂の唇

  鷹枕可

  うつくしかった庭は跡形もないわ
 あなたが足許も覚束ない、幼時のころからあった庭には

朽ちた鞦韆が炎のように揺れているだけだ
綺麗に磨かれた軍事兵器や、航空工学には飛べない青空、壜底の青い凧が、
 鈍い木々を縫う花の毒の根が
わたしの心臓を納めた塵の骨壺が
さしたる所以もなく
忘れられる、そのためにも

――死蛾の翼を鏤刻する額縁工房、その職人達へ届けられた――、
   あの手紙は本当は何所へ宛てられたものだったのか
   きっと聞いて来てくれよ、

薔薇から紙粉塵へ
死の蜜から林檎樹の棘鉤へ
旱魃に随って誂えられた水道管を繋ぎ展ばしては
幌の幽霊、その確かな時計の様に
恩寵に取り縋らせて欲しいと願う総ての血縁どもよ、
   聞こえているか
今、最後の電話線が切り離された
 都市が落ちた時、雷の花束は落ち、
  割鏡の様に
苦難に満ち満ちた糧、
      その種蒔時を蔑していた私達の醜さに愕くが善い、いつものように

   たちかえればわたしはいつもだれかのかがみで
 わたしはわたしを、まるで偶像のようにみたくない窒息に、さいなみつづけていたかもしれないし
  機械に錆びる海の脂をみとがめつづけていたかもしれない
    わかることは、わたしはわたしの分身のようには飛びつづけられないということと、
たったひとつの結像起源がわたしではなかったことを、こわばり否んだこと、
そう、
死ななければいきていけなかったから、

最後のベルが処刑時刻を劈き、時計塔を跨ぐ狂院の建築家は
書見台から見える純銅錘の磔像に隠された秘密の覗絵たる箱庭を開くことなく


抒物と叛抒情

  鷹枕可


新しいダダの為に、


磔蝶、礫の硬物果実
そは峰を跨がず
隔絶に一縷現実を現象と見紛う
偶然を錆朽硬貨に
遭遇を花に
一家族に拠る円庭噴泉が
死線を牽く
鋭角―鈍角、臓腑の喩、
穢濁たる機械欄干は総じて拇指を踏み留まるもの

雲母の髄、胃腑を犯し
非―概念たる黎明を亙り行く
不朽柩蝶蝶番装置、
そを厩にて奇跡と違えるも
由々し、血の薔薇その人間を誇りつつ

    *

何が攫っていったのか
訪問者の言葉の花を
姦しい花瓶の根が
雷霆の窪が
水滴に拠る鍾を跨ぎ
破壊された横顔と海岸線の靴跡を
天鵞絨の笑いを縫う
観光客よ、誰をも翳めない仮象よ
確実な咽喉に及ぶ
第十週間の霰、
美しく醜い徒競走の傷跡より
隠された修道院よ
今 跳躍筋のなかをひたはしる繊維紙の薔薇窓はひらかれ
総て花總は熟れる時計に遭遇し
瓦斯の球体像を瞋りが撃つ様に
そして人達は人達をより顧るだろう
私達より速く遅く、
過去を流れる葡萄酒醸造槽にぬり込められた
幾多の蠅の季節を

    *


――――暴風雨に震える熟樹時計の様に破壊された地下鉄線隧道と、その火災報知ベルに告ぐ、


花婿の許喀血をするミルテの湖畔に造影機が電気椅子が鈍く礎に打たれる侭
に錆びてゆく牡蠣の楕円は鉄の戦争への憧憬の様に浅慮なる胸像を隠す帆船
標本は理想像を忌避紆余する彫刻物達へ砂糖漬けの百合根を硝酸壜を贈るた
めに刎ね落とされた鍔の無い旋盤に磔刑の樹を平衡に聖母像の咽喉許へ垂下
し愛と逃走に嫌厭されるべく偏執的葛藤を亙る鈍角の架設電流銅線の花の銅
鑼を絶縁体に繋ぐ天球を巡る十二の晩餐室は常に神学者達の反吐の純粋に論
争の終始録音機が噴く銃剣の翅を預け海底裂罅の窓に想像妊娠の時計は熔解
する表現主義建築建築家達の眼底には総ての曲線面を構図とし抽象の愉悦は
棘の死でありながら鎧戸を打つ騎馬の腐蝕窩であり蜂巣と薔薇の背中を滴り
落ちる現象の標識へその臍帯を摸倣し偽科学の二十一世紀に及ぶ進捗或は退
廃を現実−夢魔虚実の万物球儀に娩出をする殉死への違約を粉争飢饉に廃棄
するまで

――――安寧たる死は無きものと思え。


収穫の種

  鷹枕可

今際を立つ
薔薇の露庭に敗れた
鹹海を
運命の滑車達が
墜落していた

鏤められた草花を
額縁の血機械が飲む

驟驟たる季候
花籠へ移り
青紫陽花は
白紫陽花を追随鏡の分身と看做す
終端、血塊に興饗を催す

概念、形而下的物象、
堕落、叡知、立棺遠近
施錠門へと葛藤を繋ぐ死の靴音を

世界腑散乱を縁戚係争が隔絶をされて
叛煽働下を交叉階段は
遭遇の朽花の様に
空間の葡萄畑その婦像柱より、


ルイーニの印象

  鷹枕可

 縫い留められた花粉、塵屑
   海峡と翻訳機械に総ては聳え、
  茫海の青年はその背筋を翼に擡げられた鋼球体に終端と起端を踏みしだき
工廠へ倒れている智慧のダヴィデを縦断する
     偽製その黒い華燭―薔薇色の蜘蛛は
          死後紛糾の係争に有る一粒の棘の食糧でもあり
あろうことか眼窓―地球の関与を俟たない微粉塵には
   私庭の酸い葛藤生花工場が蔓延する様に
      繭球を建築家が隔て眺めている
それは純粋な悪意を充て瑞々しく蘇る
   対偶関係に繋る聖母、血塊を蹲る螺旋燈の建築物であり、

その嬰児の母は名をマリアと言った
その嬰児の母は名をエリザベツと言った

精製花粉の厩、創造球が蝕既たる闇黎光を双嬰児の胸像が四隅に裂罅疵を闡く
 鹹水の窪―映像―影像に静謐たる複翼人は曖昧な欺瞞を施し
稜線一把に擲たれた花束の銃、
  得てして総て死線は
     繊細精緻な繭の紡錘室、
   万有引力その個静物数多の成果たる純血統種の優越に過ぎず
        気紛れを履くデウスの機械機関は有るべくも無く
貿易品目録に花崗岩を押さえ
     鉛丹と瑠璃青の分身―楕円を廻る死葬車の如く水溝橋梁の火事は跡を絶たずして、


死の糧

  鷹枕可

血髄を
純潔―濁流を
撒く人物が
囁き、
飛礫、軋轢機構
曖昧な地底騎行曲
乃ち
鑓穂の幼時私史を綯う紡績婦
歳月、死の糧、
その市街にて

確実の死を
そして死を牽く
不確実に麺麭と檸檬果を
鹹湖畔にて
樹婚の闇を増殖する
花粉艇に痕跡を映し
影像彫刻
その窪、陰を灌ぐもの
兄妹、峰の咽喉より森の血を眺めつつ

峻厳、憤懣を棄て
慈愛、唾の草花を舷窓に享く
落盤隧坑たる酪乳
交錯人物映像機械
死と秘跡
イェリコ、ソドムを鬩ぐ建築草案、
総て果て
公営納骨所が書翰に
一筋の絹が紛れるのを、

    *

きみは薔薇を眺めている
薔薇を眺めているきみを見ている

きみは骨壺を眺めている
骨壺を眺めている
骨壺を眺めている
きみたちを眺めている骨壺を眺めている
きみを見ている骨壺を眺めているきみを
骨壺をきみを、

眺めていた、死の糧は、ミモザ


腐敗した手鏡

  鷹枕可

椅子に誰が着くのかが問題ではない、椅子の存続こそが問題なのだ


饐えた
薔薇、巣箱
誓言は愈々濁流の堰を落とし
仮像緘黙症―黙秘緘口
いずれも
青い梔子を
証拠物件たる裸婦像を惑溺しつつ

公邸に秘死軸、
蘂莢を髄範疇に置き
物象現実は指向する
精神概念下の両性具有を、

天球、敬虔を遁れるがごとく
質量を擡げ
禽舎、橄欖視標を
終始抑圧に這う地棲花へ捺し、
競鳩場たる帆に紡錘を
展開し
一縷絶鳴を公聴議事室に隔てて、

水底教会、
拠地亡き塵と柩を
偽造像物書からなる公共建築が礎と看做し

乾燥植物綱目収集家
死と鏡の翰書を透かし遣れば
露見を否む
死と踏靴符、蹂躙を嫌厭する
欺瞞傲岸、そして懺悔

贖宥を縋る耳鳴病、
嵐海に随葬花を逸し
後悔の実
績紙製繊維工の切絵に形而下を
閂の洞察眼がごとく
展開図へ捌く

市民革命
爾後の軛に喪葬と唾棄を
宰種達が抜殻、権限を充ちて
総て統制国家が詭論へ屈し、
全能威厳たる避雷針鳴く二十一世紀余を、
疫病を
恢癒なき存在を赦すか、否か


スパゲッティ野郎への葬送

  鷹枕可

市民としての一日が終わるまでに、

     *

労働階級の華が捜されるだろう
或は母親のスカートのなかで育てられた少年の、122番地の街角に影を差す電球燈の馬に
検死台の時計と亜鉛壜を擱き忘れた現実としての、液晶装置の外へ潜水艇の話言葉が漏れ聞こえない為に、
部屋の無いドアノブを覗く、
冗長な私達と私に附いての自己紹介を壊れた鉱石燈の闇が垂れ下がって円錐の舞踏足に拡げられた駱駝の粗革を漕ぐと座礁商船はまっぷたつだ
新聞紙する
理由もない新聞紙をする必要もない挨拶が丁寧に釦の縫目に挿してあってそれらが明日の華に副えられる最期の屑篭になる
だから天球観測家達よさようならもう硬貨もごめんも役にたたない季節宇宙風が吹きとばしてしまうから
惑星のバジリコが棘に刺さって半減周期の所為で私たちもう遭えないねって少年は赤銅色の莟を隠して砂場で言ったんだ
淋しいミートソース演奏家の薔薇色の秘密の様に叫んでほしくはなくて鶏冠が無い薔薇が礎の許に埋められていてそれが私の死体なんだって
気がつくころには
嗜眠と寝台列車の高架を十字に跨ぐ屑篭としての
そう、
あなたに
ありがとうといいたかったんだ


死物

  鷹枕可

炎から炎へ石蕗のくきやかな稜線が鬩ぐ様に、
唯一つの銃眼に並ぶ修道尼達が垣間見た現象の緻密な骰子より遁れる様に
死を忘れた
受難者達、
縺れ縺れた
その褪紅套を夥多凱旋門に杭打たれ
翼人磔刑令の真昼、

青年撓う高跳びの背より
高く飛べぬ
想像の死、
萵苣の鈍血鋼を摘み怨讐を来す
痴人よ、
一世紀毎に血の成果を滴らす、歴史を、
隠匿を
鳩と橄欖は帰らぬ、

総ての喫水煙草、
姿勢は
且て建築を期された
第三国際記念塔の断腸であり、
鉄の嬰児
赤い鋳銅像を
疾駈する想像を視野に価しない
敬虔な華、
鬩ぎ止まぬ死後の未踏線を跨ぐ
脳髄殻への苦悶、愉悦饗鳴

私は外の私を呼ぶが、
私は堰き抑えられた擬膠トルソの様に
硬化胸骨を程無くして開く
喚製静物に遺棄を為されて終い、
普遍‐稀覯に
確たる帰結としての時間、

死が読めなくなり群衆を
俯瞰図に
壊乱し続けているのを、
野棲薔薇を已み頻る振動管、
鉛管振る少年、
遂に自らがドゥーブルの私製児たる冥鏡象より
随腑を略奪するも、


吸血蝶を呑む

  鷹枕可

集合住宅の一室
水道管を裁断機に掛けられた手配紙が流れて行った
固執する、
縦横前後の想像、視野に
私の死が蹲り
遅筆なるがゆえに悍ましい、
抵抗器に、煽動家達が
諸々の咽喉に
既に血塊の翼を緩め
死屍たる椿花樹の爛熟に
――催奇亡霊を嘱望し 
  ――絶望絶慟を倦厭し
    ――それら領海を愉しみ、

     ――洗顏室に蓬髪が散らばり
  ――摘まれた糧と藁束を
――燃焼罐に
墜ちつつ回る椿花を
血婚装束を
視線に拠り静止せしめて
褪彩乾燥花
退褐色のカレイドスコープに
騎馬が
鈍らな錫を瞬き
素焼陶樹に薬莢筒の
破壊された顏貌を、
空襲記録を今なきものと、

改竄機構‐統葬辜、瞭然たる執念を以て硬直死を告げるも忌々し、

国家
統粋主義を顧み
叛趨勢を頼みつつも
興趣、
土地を、
峰を麓を越境線として聯なり
標本箱の汽罐車に
硬像を
蜜蝋蝶を閉じ込め乍
その髄畔を巡撒し已まず

種蒔く指へ地方紙が触れ
喚喚と
飛礫花を繃帯へ
多多滲み樹は樹ならぬ樹花へ


円形劇場

  鷹枕可

_

千種千草を撒く雌雄花蘂へ
散逸‐比翼植物
一縷苧環廻廊の標
均整‐理想像
累紙を縺れる
奇異たる象限
分轄鏡、
施鑰を縋り喚く
堰提無き第七燃焼機関
指判‐審及‐檻舎に地球殻 
宣言
その断頭台
臓腑を別けて薔薇の壜、心臓に
馨る劇俳優の死
乃ち
劇場現実

旧市街地の一箇月を想像と呼ぶならば現実像の裏に聖霊達がバスタヴに湛えていた赤銅の景観建築模倣都市は鍾乳筍の影像に過ぎない、
糊漬の歩哨兵や労働夫や男娼館に劣るとも遠からず遠近法に基礎を置く歪像画に流麗な市街が展望される様に、
伝書の警戒は終ぞ火薬庫の継母達を偶像礼拝のレミング市民に電話線を掛け渡す様には上等な工事車両を具有してはおらず、
硬化剤洗濯機に膠着した季節に土地の葡萄畑を延展するには、偏執的な公人尊厳偏重傾向を顧る必要があるだろう、
孰れにしても錠剤の極彩色の痴夢は譫妄と人体像の関係性範疇に於いては無感興を科されて然るべきものであり、
想像力の視線は劇現実から超現実に後退を遂げなければならない、公海領に於ける悔悛自殺としての膨張が統計推移が指し示す様に、
薔薇の階段には錆銅の裸婦像が諸手に瓦斯罐を開化せしめながら蜂窩の実を滔々と砂糖壺と鍬に及ぼし、青藍の群像は凝と私海の紛糾を耐えている、
裁断された幅広の額縁、ダンテルの窓、膏の様な海等は既にして既成美術の概念遊戯を擱き去りに、真贋と機構の綿花畑に靡きながらも
真新しい棺に収められるべき草花の縺れ縺れた印璽を俟っているのだろう、
   :

死の威嚇
黒窓の地下階に
万朶累々たる蜘蛛の鉤花 
少年
蟻を踏み躙り
硬殻科螺旋門に範疇を置く
素鉄の鞴を
白熱灯は瞬き
隧孔‐球壜‐柵を亙らず
後脚動輪、多階建築梗概を仰ぐ
托鉢修道
含漱泉
陳腐、血を飲む繭の裂開


偶然を登る枯れ葉

  鷹枕可

引き裂いてやれ
   揚帆と幌を 
引っかき回せ 
   肉屋の鉤を棘の翼を 
  死の泉と愛の蜂巣に芽ばえた
    アスピリン錠の充ちるつかの間を
   告白せよ 
 公園掃除夫たちに
   宣言せよ 
     洞察眼は潜水服のなかの乾いた舌ですらなく 
       体操器械の繁栄は 
   撓やかな野苺の毒を踏み分けていく
           遮断機を耐えていると
       そして
 分け隔てなく 
溺れる薔薇の触角のように 
   確実であり 
             また 
  不均整であるにせよ 
     孰れも葡萄槽に泛ぶ 
 ドーリア柱の逞しい咽喉ほどには
      退屈な一束としての避雷針はひとつとしてないのだ 


一人を考え独りとなる為に

  鷹枕可

死の花の秘匿ミモザを降り行く騎鎗兵たちの鬱金色の留具


沈鬱と明徹の紡績製の夜から滴る幾重もの睫毛の羽根が
机の上に透明な図形の鳥を灯す
海洋船の標に
航海予定表の釘に
地に磔けられた血まみれの日没に

階段を下っていく
人間という名の終着駅が
終端の果の終端へ喚きながら潰されてゆく
凡ゆる
体液、血液、骨格、神経、
臓器、脂肪、漿液、器官
その結実を孕む死の花
死とは人間の現象的想像限界であって

一擲
麻袋の中の幾多の手首を
湖畔まで捨てに行く男
錆びた樹に壁掛け時計を吊下げる男
柔軟剤を吐く男
鬱蒼たる
異邦の樹海に縊れた男

私は
椅子より去った私の坐る椅子を見た
それはコンクリートの顔を傾け
総ての放射線写真に
現像実験室の
蝶の死体を結像する捩れた長方形の鏡だった

死の理由は合理 生存の理由は不合理であるから
苦く鹹湖を振返り
慄きやまぬ
窓越しに
裂けた幼年期を
砕けた薔薇を
縦断し
死を死して死ぬべき死に 訣別し
血の庭を柵に垣に隔てて


晩年のキリコ、ツァラ、ヘヒ、藤袴100年後形而上も旧りぬ


闇の静物史_1:贋物について

  鷹枕可

_I

血の通わぬ花嫁衣裳を摘む様に
その亡骸の名を教えてください
砂鉄色に滴る若草は
鉤の徽章を隠してしまうから
黒い薔薇に赤い窓縁
雲母の胎児
月曜日は
シャンデリアの群像孤独史
赤紙の降り頻る
西暦1945年の兄妹は駈け落ちて
地獄に逃れていきました

_II

皆既、蝕酸四輪街宣拡声器
モスクワに霰、
壊血病に斯く苦難の行軍は敗れたり
紙片婦が扁桃葉繁しくも葛藤し
有るまじき幾何装束が
猩猩緋を恃まんと慾す
起源、薔薇十字に
肉体は陰のアンドロギュヌスを随想し
屍蛾翼累累と
塹壕を埋葬隧に肖ゆ
恐慌実験、
争乱の慈母
光悦に溺る蜘蛛巣が玻璃窓の如く在り

銃傷、襤褸磔像に一筋の裂罅
マンドラゴラ
綺想集成編纂員を喚鳴し
標本室に永続過程たる降灰
純粋存在
闇の臍帯
ベスヴィオに死屍、
蹲り
静‐動植物を嘲嘲と蠱惑しつつ
野蒜、奥歯に挟まれるがごとき齟齬
虚実、馬鈴薯に人面蝶留まり
神経毒その眩暈を
夙に粛粛と捌けり

狂奔、根絶
自動焼却室
今際の今新たしき前衛戦争美術を掲揚し
零落国家瑞々しき死の咽喉を含み
悪徳の悉くを遷移甦生せるを
禍禍し、血胚孕む死屍
存在に価なかればこそそは価に価せざるも
佳し、
よもや頸筋に水棲聖霊亜綱の噛跡なきか


都市標本『現在形』

  鷹枕可

_I,刺繍

機械仕掛のゴチック文字に
凡ゆる均整
分水嶺に隔てて
顕ち
言葉とは言葉と言葉の言葉を
円環劇場に
統べながら統べられる
私自身の俳優であり
装置である
死者の綴れ織りに
紡績アラベスク
それら自明の縁堰に
建つ鋳鉄の時計に拠って
私を私たらしめる
矮小な
一つの機関を起源として


_II,成長

種の殻、
ひとを問え、
一粒の死であれ経験の過程であれ
蛍揺籠
文字の永続は
つまり
未誕生を
夢想創造し已まない
単性繁殖をこころみつづける
現象の夢を漕ぐ
幾多の花粉界であって
また、
安寧は植物時計の睡眠季に
存続、
その靴跡を
はつかに遺して、ゆけ


_III,東京裁判、或は政治家達の秘密の隧道、

プロパガンダの中で黒く美しい劇場は凡庸な平均的存在に燃えている
それは取り戻された蠍の心臓だった
それは死線の絶間無き蹂躙だった
薔薇色の喝采と高揚を受けて党歌は公衆の歌となった
孤絶が私を択んだ様に
あなたは黒い紛糾に択ばれたのだ、

_IV,――

私 絶鳴の闇
私 黎初の鳴鏑‐鏡
私 死に孵り
私 命に到らぬわたし視る釣鐘ひとみ一つきり
死の花‐黒い椿花婦
美しく皺嗄れた一束の婚礼衣類
散る散る散りながら耀いて 死せよ



*本文はtwitter掲載詩に加筆、訂正したものです。


ひとつのロマンス

  鷹枕可

夜の間にとぎれた音楽がある

――ピアニストを撃つな

革命歌の記譜をためらうように
ただ黙って立っている事
幾つもの季節がながされた
労働と血のただなか

季節は春、あなたはいないというのに
ラベンダーが今を耐えるように咲いていたね
死の季節を越えて芽吹く花もあるというのに

迸るものを青年期というなら、
絶えて始めてなみだぐむ敗北もあろうか
季節は春――革命は青年達のばら色の絶世のようだ

死んだ者達や蘇らない者達の
声をだれが聞くのか
手紙は誰にあててやぶりすてられたか
言葉は言葉になるまえからあった
ただだれも口になせなかった
だけのことだ

夜の間にとぎれた音楽が死者のように蘇る時
死に逸れた青年達の革命は蘇るだろう

拳銃よりも重く、薔薇よりもただ悲しげに――、


柩車

  鷹枕可

途絶えて
夏蝶に傷める白い帷子

____

ごらん、
あれが煉獄にうめくひとたちの貌だよ
人貌花を指し 
天使が血錐の丘を駈ける
円形舞踏に――
そして包丁に
罐詰に 
姉妹達の石に
振返るな
町を出れば人となるもの
泥濘、
私の死を報せる者よ

_
___


希臘
函人間達
その死を睡る都市
ダイダロスの永久機関
アタランテ
秘跡の死体学
物質の叛存在
自由運動をする原子 
絶滅科学の嫡種を期して

現象の現象たる証明
現象の証拠たる証明
現象の証明たる不在
現象の不在たる解体 

在るは介在‐人体‐証明

__
__


断崖に岐路
落鳥の目に墜ちゆける夕は在り


亡き人々へ捧ぐ

  鷹枕可

それは街明かりの
確かで
はかない群衆の灯に
つなぎとめられた
一つの希望であり
絶望と届かなかった
深く青き花
その
なきがらに
あなたの庭に
ヴァイオレットが
今も永遠を風に揺れているように
いつか
永遠の庭へ


叛分子、記憶

  鷹枕可

鉄よ 呪われるがゆえに
讃歌を
与え奪う者
その破滅を
かの顔へ叩き潰す
竈の炎に鍛ぬかれたひともとの
廻転する死、
略奪の母
生を価とする死‐
あらゆる天使達の貌を観よ
牙は膿に塗れ
毒は臓腑を灼く
硫黄の垂涎を以て、

崇拝せよ、嫉むそのかみこそを

市街、殲滅は覆い、
偶像破壊を恍惚と
暴虐を複製物とし
価値無き、普く死するためだけに在る
 栄誉
そを煽り
軍靴を揃えよ、
 <行進しゆく後に何をか,>

今こそ蜂起の時
死を怖る者に
死を
精悍たれ
軍装の青年達
猶美しく徽章の華を誇り
異人には極刑を
非-選民には銃殺を

プロパガンダ、忌々しくも堅牢たらず
われらが正統たる
奴隷統治、
進行を阻まば
誰なるとも 非国民 にて

係る惨死を累累と築け

人間ならざる敵、そを
敵たる筈の
 人間  
が血に
われは
荘厳たる血反吐塗れ


春も秋も

  鷹枕可


壜詰めの薬箋紙
乾花
抛られたピアノの鍵
_
_

日没、そして
空の翼にまどろみながら
山鳩の孤独に
預けた
もどることのない、
霜鬩ぐ野への夜想もつかの間に

印象、耳の襞
向日葵、
群衆
あなたは
いつからそこに立っていたの
機械的な
感傷への排斥を肯うことなく
端整な円柱の様に
在る
ときのなか

今迄を
その樹は
白い鐘楼は
鳥達のゆりかごだった
あまりにも重たげな
燃える釣鐘、
花熟れる樹にも鉛の残酷なベルが過ぎ、
真鍮の天使群が円時計のなか
墜ち、或は昇り
街にも燈が灯る
一日を
永遠の疵が刻む頃に、

印象、その最期のひとみ
優しげな母とその子を
枯葉の林の抜道を
秘密の木蔭を
淡く眩く
時に淋しく降る、
陽のはなびらは

現を夢見た、

こころみられた
山鳩の声
それは
亙る梢、風のさざめき
あなたのいつくしみを受けて

春も秋もあなたをおもう


処女懐胎

  鷹枕可

手鏡の百花錯綜
三面鏡
臼時計の三姉妹
褪せるまで
歳月と錆びた釘そのつかの間の死へ
塑像に接吻を受け
青年の
昏く微睡める部屋より
落葉を模し
蔭の樹は孤絶のみに聳えるものを

肉体像 半円
やがて朽ち塵となり
今際を知る縁なき
単純機械そのかなしみへ副うもの
そを
希望と名づけ
麗麗たる
地下納骨所と告解室の涯てが
由縁を置く
不確実の磔丘さえも、塵

叶わなき約束 その
稔りなき死の結実
孰れも自が汚濁‐純潔を誇り
余命無き狂奔より
数知れぬ虐殺を逃れゆく
一家族は在を置く
曠野を踏み
瓦礫を棲処として

揉み千切られた柱時計が
風を砕く
檸檬の銅線を積み
折りしも飢饉の日曜に存在を患いやまぬ
物象‐精神
係る関係を欺瞞する饒舌に
躊躇わず死を告げ

丘陵を割き、聖霊機構の葬管は撓む 
  石膏の胸板より固く


にせものの、

  鷹枕可

砂の夢を淋しく貴方の指がつかみます
骨張った、長い繊細な指です
私の落ち窪んだ
懐中は
酪乳色の天体を泛べて
帰れない故郷の
帰りたい生涯へ
まるで手紙の様に
なつかしい夜の窓を灯しておりました

そして
あなたの短い種摘時が終ると
自由は、重い孤独の風位計を確めるように
錆びた鉄網に鈍く降ろされた
ダンテル縫製の艫に、
天使長の冒した死に孵ってゆく
私達を影とを罪し
捉まえては
石盤の花束にひとつ傅く
衣裳の様に
つづれほぐれてゆくのです
この咽喉に

   |

影の街端
その心臓に確実を狂う鐘の聯なりが
時を進め
それは這い縺れ綴られた
孤像の総身に
哀しみを縋り尽くした
人間と謂う噴泉の涸れた命運を標しています

塵花は等しく
鉄漿色の藻屑を受けて
誰しもが埃を払い
踵を返すのです
この絶望という衣裳を残し

わたしたちの気息が
もし希望としての喪失を耐え得るならば 
唾に価する慈愛などはないことを言伝に送るでしょう
卵管と癒着し
呼吸樹を立ちつづける実象の瞑目に
そして汽船の停泊地に
哂い歎き

視えなき群衆を溯ってわたしが
わたしであるべき
孤独に還り
一粒の籾殻を鎧戸の夕より喪い
且ての孤絶は
透明な
堕落と悔悛を
過ぎ去り、帰ることはないのでしょう

遺灰と塑像に


死刑囚

  鷹枕可

――さようなら、スレイプニル


1ページ
一匹目の鼠

「美は破壊にこそ宿る」

戦争とは、最も破壊的な芸術営為である
戦争とは、生存競争の最たる現象、状態である
生存競争とは、他者の死を糧とする、種に拠る種への葛藤も無き収穫、食人食である
従って、
芸術とは、精神、存在への現実的脅威であり、土から取られたあらゆる偶像、つまり人間への破壊運動でなければならない、


28ページ
理想像の反抗

「性善説からの反論」

それが芸術なら、ぼくはそんなもの、欲しくない


43ページ
虚構の鼻、現象の奥歯

「実は実、虚は虚なら」

ぼくの私は黴の様に渇水をした、ノアの帰らない舟、鴉が最初の堰を廻るのはそこに引っかかった溺死とカンタレラが見紛う程に悪い壜のラベルに砕けたサラダボウルだったからだと、壁龕のなかで市長舎が干乾びていた
精神病院の壁に喚く私が、壊れた防衛衝動的な狂人の鼻翼の下に蓄えられた旭日昇天旗が、常態として割鐘を降って行った、開襟襯衣の青年は戦争を鋏で切り、そして拾い集めた、それが現象の応接間の中で最も美しい鼠の糧となり、
排泄物となった、その私であった筈の書翰さえも、翼を孕む溪谷の浅く浅はかな落涙より指と、その公領を渡るべきではなかったのだろう、巻尺はあらゆる鼻と癌の稜線に陰を架けて、親友達とジャムの屑肉を上品に拭う、
正確な時計よ、きみは牛乳罐の比喩であり、遅滞をしたぼくの、捨てられた釘の奥処程に醜い物種を誇る、告別の狂奔、その人間性を墜落をする鈍色の死体であった、さようなら、且ての別人たち、賓客たち


79ページ
現実喪失者、鼠への最後通告

「否-矛盾律の摂理」

未来は止って、人は止まらず に、
00000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000, 0_____________________________




或る虜囚に捕われた獄舎

  鷹枕可

地球儀
人種絶滅収容 その歯と髪
戦禍よ
引き絞れ
議題を、
陶工達
廻廊を起つ様に
走る影の廃市
群衆は 素地であり
万物は 衣裳であり
工房は 固執であった

鼠の症例 伝染皮膚炎
架線の穹窿
電話線に
青空は地図の比喩として
拉げ倒れた
街看板へと降る地下壕200階の部屋部屋
柩の様に丹い伝令は
胴部にオルガンの燃焼に饐える蜘蛛の運指を惚け確めていた

一切が暮方をつまづきつつ
血の田園に夕餐を鬻ぐ
境涯 
住処は根底範疇のそこかしこへ
埋葬され
声は 振動する
聴く様に触れるな
そして 円く磨かれた
波長域の海に

釘の蝶番よ
私は誰であり私は誰なのか
無人‐巖塩の街跡
都市俯瞰図に
模倣像の
途端に
屑花のペダルを履み

虜囚だけが円時計に
永遠を伴い
建築邸宅の跡を
歩いて
真鍮の縁に、
巨鐘楼を 飛翔していた


忘失

  鷹枕可

それでも生きようとした
別れゆく時には 誰もがそうなる
銅の夕から 
懐中に、名残を取り出し
皺塗れの紙屑を広げ
旧い記憶を 紙屑につづらんとする
<癌化した精神には、昼が旧い絶望の様に開かれている>
捨てられた 
レシプロエンジンが 空という絨緞を縫い駈けていた日々
自転車が 百年を晒されて 錆びた骨を仰向けていた日々
風と切り結ぶ淡い梢の花々が 運河に濠に流れていた日々

庭に蒔く、
足跡には生きていた亡命が
その闘争に流麗な誰でもない、自由を臨み、
倒れゆく、革命への
制圧に、
断絶を、拘留を徹底され
<そしてかれらは何事も無かったかの様に通り過ぎる>
政府からは刻薄な沈静が、
眠りの内に
通達され、
捕縛され――或は射殺された、
青い果敢な徒花達へ 贈るものなどは、ひとつとして、

別れゆく時には 誰もがそうなる、
夕の畔に、一粒の嘱望を培い、
落日の咽喉迄を緘らんとする
誰にもなれず 従って誰でもあった 
青年期達への、短い 追悼より
そして 
降り頻る火の粉に追われる且てのはらからへ告ぐ 振り返るな、走れ と
それでも生きようとした、凡庸なるが為に、
逞しく 駆けぬけてゆく巨茴香を 指揮灯にして、 

所詮、他人事だったと
哂うなら
哂え




指揮灯=聖火リレーに於ける松明を造語化した物。


櫻の樹

  鷹枕可

花うつくしくいき急ぐ
爛れた歴史その傍らに降り散らされつつ
人を乞う、縁の花よ
緑蔭、濠を泛ぶ
花筏に湛えつつうつろえる、一日
そを人間と呼ぶ

「河縁には櫻の樹がズーッとつづいていてさ、凄いんだよ、絶景だった、墓地に枝垂れてて。
 雀がいた、水鳥もいた。なつかしいな、エエ、懐かしいあの河は今も」

埋め立てられた、疾うに

「豪雨にいきりたっちゃって、
 アリャア凄まじかった、丁度台風が来ててさ、一面が濁流なの。あれより恐ろしい河の貌ってのをみたことないね」

流れる様に、吐く様に 

「何が性懲りもないってなら、大晦日ですよ、一本も電車がね、うごいてないの、運休で。雪がドカドカ降ったからさ、駅で立ち往生ですよ。
 フザケンジャアねえッて、駅員さんも俺も、雪みどろで。ほんと馬鹿ばっかりしてましたよ、でもさ、若いってのはそう言う事なんだろね。」

肉声を
風こそぎ、仮借なく鈍く挽く
切株に 
且て旧きわかもの背を預けつつ
晩鐘を
吾こそを死に駆けて
確められ
今や

一日を孤独に融けゆくごとく

皆迄もを吾は踏み躙り
全て命脈の浅はかなる時を
枯れ枝の
矜持は孰処に、
旧り 
降る花かとぞ、

袖振る所縁も所縁ならまし


没落

  鷹枕可

古い庭には、飢えた小鳩が 暫し留る、
睡蓮は、弛みながら 泉に醒めて、燃える、
鉄錆色の楓が、舫う 
滅びた 教会の鐘が、風を叩く、
夕暮に 乾藁車が 草薮に 捨てられている、

荒れた畑を、白く蓬が蔽う、
落日へと幾つもの手が、顔が落剥していく、
滅びた者たちの鐘が、影を塗る、
悍ましく乾いた、指へと

工廠の跡に、手のひらを浸す、
傷口を確かめるかのように、
水底には アーチが、
白い 梢に編まれた 教会が没している、

営為の為に、一日は静かに衰亡していき、
変貌した、エンデュミオの夢、囁きが、扉を亙っていく、
血に汚れた 幾つもの麻の襤褸布を 潜りぬけて

_

鳴禽が、十字路に 十日目の麺麭を貪る、祈る者をあざむきながら、
その時が、きさまの最期の日だ、窓の窓、沈鬱な、影に


レティクル逃避行

  鷹枕可

雹が 土地を被い 最も旧いものたちへの糧と為る
群れ咲く 雑草の花は 朽ちた揺りかごへと 滴る 
拍車が 腐敗していく 
萱草には 蟷螂が翅を畳み、暫し 枯れていく花圃を 眺める、

綿の繃帯に穢れ 絡まる 指に、黒い麦が刈られ、積まれる
瘡蓋に覆われ 祈る 者達 癩病の、膚を隔てて 
幽閉をされ 境涯は燃え崩れ 枯葉の咽喉に 微睡み、
褪め、始めては磔刑の草花を 惨めにも 降らしめる、

証拠物件も 決して 確証ではなくなり 人工の花壇は 慎ましく 閉じ込められる
蝶蛾は 盲いて、かれらの灯に触れる 
荒れた畑には、菜種の花が 斑に擡げ またしても 一晩が 土地に吹き晒されて

悪夢を啜り、鬱蒼として 海岸は餓えて、やわらかな死体のうえに 雲母を吐く
脂を指に擬えながら、鉄道線路へ撥ね、落ちる 扉絵の草、その窓は 
潜望鏡を 逃れ已まず あらゆる人はひとり 霧鐘を聞き 駈け巡り 喀血の夕刻 陵閣に 息絶え 


ソナチネ

  鷹枕可

そう、その時そして別の時にも いや、止そう、ここらで充分だ 良くやった方さ 存分にやって見せた、いつかは克服さえもできる筈さ 
いつの事、いつの日かは分らなくとも だから安心をして眠ってお呉れ
昔のこと
あのときキミはミルクセーキを頼んでいた 
覚えちゃいないだろうけれどもぼくはスコッチの壜を開けて 
ああこんな日がいつか来るのじゃないかと薄々気付いてはいたのだけれども おくびにもだせないでいたのさ
外は雨、だけれどいつしか雨が止む そして展開図は青方偏移に転じ、素粒子は起源 Big Crunchに帰る 
Before
the
big bang,
そこではぼくもキミも一つになり、天国の様なpeaceを喫うのさ
雨宿りしていこう、キミは柔かく問い 喫茶店の軒先に待っていた そしてその時これまでのすべてが夢なのだと、夢にも気づいた
いつだってその時は遅過ぎて、取り返せやしないのだけれど でもぼくはまた会える、いつでもまた会えると書くのさ sonnetを ポエジーを込めて 
でも、
全部大嘘さ みんなでたらめさ ゴメンね チョットは本気にしたかい
art
it a
life,
life
is a
lie,
どうにかやってのけた、万事は順調さ 多少の傷は大目にみてやってほしい
慌てないでおくれよ ボクラは何だって克服して来たじゃないか
ウラン水素プルトニウムセシウム
1917年7月13日ファティマ第二の予言、
ピウス11世の時代 残虐な戦争が勃発し、昼夜を不思議な光が照らすだろう
そう、すべては過去となり、
Oil shock
YAH、過ぎればいつかは笑い話になるのさ、
もし
もう一日が、残されている、なら


註 *ピウス=カササギ



The
end
of the world
in my self,


麺麭は一ペンス

  鷹枕可

忘却された投函箱の中で美しく褪せ枯れてゆく一輪の薔薇に、
虐殺された天使達の透明な石の膚に流れる蒼い血に、
穹窿を天蓋を蔽い尽す名だたる星雲像の青銅歌劇場に掛る夢魔花の細緻な鉛の葯の各々に、
巨躯の箱に蹲るティタノスの両肩に担われた礎の苦悶に、
始源の罪として後向きに投げられた石より産まれた人間に、
石や粘土、泥から生まれた
私達が
時に心、を乱されるのは

なぜ,

喀血、
旧い録音盤に乾く飛沫の翳、
赤と黒の矩形の構図に
眠りを降ろす
蒸発した壁
塗り込められ刎ねられたダリアの首
混淆石
鉄筋建築
魘夢の様に美しく旧りゆく
開胸された死を
心臓に柔らかなる容を遺して

総攬衛生学
公衆の華 賑うをわずらわしくも
美しく
在りし日を憶えて
人物像の夢
雑踏に紛れ喪われ
乾いた
薔薇一挿程に
束ねられた抱擁へ
閂を跳ね遁れ行く、そを
振返り
街を出遣れば
彫塑は人は
砂礫風葬に返るなり

    *

ふれていない幾つもの手があるいまだふれていない幾つもの手が
苦渋と断腸にのみ開く桐の花がありそれは造船渠に振われたわれわれの航海録に新しい青写真を刷る檸檬色の少女なのか
変声を終えた咽喉があり道は底より短く延びてやまない報復としての林檎の実をかきむしる意志を具えながら
路に倒された冬の竃よ 逞しく綴られた教条への永訣よ 
おまえは偽りの爲に隠され 代理人が彼らの筆致をぬりつぶした 
真実よ 嘶きに追落とされた二束三文の 擦れからしの市場町に砂の歳月をにれかむ安物の一ペンスよ
わたされていない幾つもの手があるいまだ綯われていない幾つもの道が 常に遠ざかり 来るオリブの花から逃れる伴う声を ふりきって ゆけ


楽園追放

  鷹枕可

鳩の巣を戴冠したマヌカンの聖母像が
右手には地獄
左手には天堂を指し
磔刑に処された
青空を湛えている
取違えられた双子の血は脈動する
試験管の内へ
第七の恒星を泛べて

卵巣には赤い揺椅子を
精巣には黒く濡れた花總を
瞠る
吸血蝶に、鬱金色の鱗が瞬き
卵黄を嘴に啜る
世界獄舎の
地下階を
螺旋に降り
叡智の花園へ到り
洪積世文明の闇より芳しく
地球創造の一週間に
隔絶され
科学爛熟期を息絶えること、その言葉

晩餐室
各々の電燭燈へと
蠅の巨躯を蔭に差す
染色実験
混淆実験
実験体
幾多人間と謂う起源を盲る
人体機関
真鍮と青銅
精神と慧眼
実象‐現実精神を患う窮鼠の
臓腑実りつつ
腐敗せる人体花瓶
舞踏樹一脈を喪える咽喉炎たらず
歩行樹が一跳躍その爾後を
振戦し猶も聴音を
松の実に確かめ
調律を復も挑む葦に花も在らば


予定調和

  鷹枕可

――モナドは鏡である

[消えた華]

1−1

老いた貌があった
楕円の
化粧机に
曇り、鏡は私を憎むだろう
母を憎しめる且て 遠雷の日々の様に
蒼白く褪めた
窓が降り頻る
夜からひきはなたれた昼の底へ
垂線を画きながら
決して交わらぬ父母の様に
写真館、の微笑が
凍て附く微笑が
黒く塗られ
絶対の抽象になるまで
私は手紙を書きつづけなければならない、だから

室内楽ばかりを耽り聞きいしが割れたる皺の絹をしらざりき

千枚の便箋、切手、肉筆を焚く 軽やかにも蝶蝶は蝶蝶の如く跳び

血縁よりいとけなき頃吾を捨てし罐切の飽く迄もタングステン加工刃

世界のごと麗しきを航空戦略爆撃機と呼ぶ いま汝が片靴はいづこ

容赦無き死はもろともに 誓約書散る書斎を樂譜《スコア》は

翰墨も血も乳も絶えなば肺腑以て書かむ 誰知るともきさまは吾が敵

//

モナドに窓は無い――、

[ユダヤ狩り]

2−×

私を愛して 一輪の切株  
夢に眠らせて 地下納骨堂
甘く囁いて 榴弾砲の錆朽斑
私を抱留めて 塩の骨壺

最期の喉を縊られながら、私は微笑みましょう
鉄砲百合の一撃を録音して
悪臭の地下壕から
走れ今よ 燃え崩れる城よ
それが死病への口火
それこそが壌色の硫黄島へ到り、
忘れ得ぬ花束は自ずから装置となる筈、
葛藤の旧き悪しき日々よ さらば
日がな便りを懇願し
老いさらばえた朽扉から
一過性脳虚血その絶え絶えと見る敷居をぬけて
変声期の穢濁にも似た
鬱蒼樹林に圧し掛かる天使長の涙、庖丁よ
抒情の距離を跨ぐ家父
迷妄
総ては井戸に放られた地球と呼ばれる石塊の、水晶の序夜なればこそ花序にさえ伝染を来す、
シリアの双子イスラエルよ

焦土は戦争記録写真に罅割れ、
       嵌め込まれていた



※以下、保管庫の焼失に拠り、記載なし。


即興来駕

  鷹枕可


土地の時計よ
 降頻るひづめの雨垂を
          かえれ
公海より
私物が解き放たれた朝に
       斧堤てわかもの還る

「夢を借りたから
 その夢を今返します、」

 夢が夢ならばこそ
      サテュロスらは宴も闌
   大層酔うた風情にて
空中鞦韆に
    一跳躍

   眉に皺寄せしかめつら
神話のなかの父親たちは 
  皆いかり肩
 鉛白の頬に髭蓄えて
目が二つに鼻口一つ
    いずれにしても  
   ご尊顔には違いない

「ほら、あすこに酔いどれが
  モローの春の鋳物をたがえているよ」

||
黒い昼、葡萄圃の、

旧市庁舎の広場には 
  顰め面のデュオニュソスが
 苛酷な昼をとがめる頃合
 葡萄の白い花こそが
 あなたがたにはふさわしい

雑居ビルには狭い階段
 噂では
  エレベーターで焼死んだ
    雲雀や燕、の宙返りが
     緑の部屋で見られるらしい 

腕時計の縁
 円い銀盤のなかで
   病死した少年が
果敢無くも薔薇園を育む所在


症例

  鷹枕可

闇が近い 何も見えなくなる
群衆は叫ぶ
今こそが革命の時
旧い遊戯の続きを始める時

退廃は血縁の贄を求め
豫め勃興に滅亡を築く
われらはわれら永続をつかさどり
われらわれらが滅亡をつかさどるもの、われわれなり
今際の際
記憶の水時計を指標として

鏡の縁、縁の、鏡の、その縁に双児の人体有機機関を
狂った婦人が、見据える 
「私、遊園会に招かれたのよ」
「でも」
「私、行かなかったわ」
「ころされるとおもったの」
精神病院の壁に 
実験経済の統計室に
夕の橋梁に消えた
全ての電話機が一斉に繋がらなくなった
鏡像の外に
確かなものは何も勿く

ワルキューレ航海録
あるいは物質と時間の遠近法
逆さ吊り
死青年に蒼褪めた窓
オルフェ
オルフェ
狂婦人が日に二度、橋の欄干から河にむかって叫ぶ、
そして何事も無かったかのように去ってゆく

近頃、姿を見ないって
しらないのか
彼女は
もう
とうの昔に死んだよ


白痴告解

  鷹枕可

世界が終る時
嫉める者
絶無絶対的なる存在、きさまを
履み
踊ろう
死から醒めた、夢
_

黒い奴隷
賤しめられた誇り、いと高き花の
嫡男よ
彼奴等は黒い酪乳を飲むまい、決して

一箇の暴力
幾多の正統化をされた統率庁
辜の容を刻む
メランコリアの血脈
血統書純粋なるがゆえ
監禁隠匿さる狂‐精神病症例群に疑惑精神を
膚白き
現代文明その前衛白痴
インテリゲンツァの咽が絡む
舌禍
存在の愁嘆場に
営営と
間歇泉を摘む偽青年

或は虐殺史手帖
死と霙の
血痰は含漱にあれ
純粋平和的なる抑圧に
無感覚たれ市民達、奴隷の花を培うとも
死へ邂逅へ
車轍を履み刻み
老婦人
余暇‐生涯を惧れ已まず

或る征服、軽き死を統計機関は秘匿し乍ら
声の歌さえ検閲を受けて
手紙の声は徴集される
そして復
正確な
附録隧坑が椅子に囁く


追憶

  鷹枕可

たとえば夢の窓から
銀杏の翼が降り頻るのなら
浅い
浅い海の
満ち引きに
流れて消えた青い乾燥花を
結い解く少女の指がある

たとえば錘の微睡みに
まぶたを伏せて滴るとき
遠く
遠い望郷に
たどり着けない押花が
浚われ泛ぶ星の海がある
百の草原
一つの朽葉
蜉蝣の翅 瀬の花圃
月の抜殻
蘂の粉

  *

帰還兵だった祖父に
人を
どうしたのか
尊厳を問うなんてできなかった
血の夢を
傍らに営むひとりひとりの過日、
その兵銃の重さを知る手が裁鋏を巧みに操り
時間の
幾歳月を経ても癒えない
麻痺もせぬ体験を抱え込んで、
そのままに
町の仕立屋として生き
静かにその息を終えた
かつての
兵卒の
焼場の煙を見上げていた

  *

たとえば風の揺りかごに
呼ぶ幼児のぬくもりが
嵐の窓をなだめるように
梢の花芽は
何処へと到り
何処へと流れゆくのか、
私は私を知らない
禽は籠へ
帰らない

呼びかう声に淋しく呼ばれ
白樺の膚を振返ると
星の鼓膜に
蝶と蝶
茱萸の泪が
青く
満ちて、

  |

理由も無く鐘は鳴り
理由も無くわれわれは問い交わす
そして触れるのだろう
土地の糧、
熟麦の星に声と産まれて
滾るもの
幾千の窪を
逃れ 駈けてゆけ 風廊の丘を


国家

  鷹枕可

俺は、その想像より転落をして行く一艘の国家だった
ポオは言う、明晰な詐術は科学へ擬態をするだろうと
科学は、俺という肉体像を動かしめながら
誤謬なき再現性、その絶対的定義の中で
俺自身を蝕み
心臓という、時間の暗示を
脳髄という、観念の拠点を
俺と言う存在の確証を
もはや重量の孤絶の外にしか発見しないだろう
一体、誰が汚染したのか
集合という、個の観念を
理性の総合体は、俺自身の肉体より、実体としての証左を剥奪し
科学は、唯一の条理を保障する
明らかな
明らかな誤りを証明するその実体を蔽い、
国家の、所属する社会の普遍は、
俺という一つの国家を糾弾し、
個の同一性に帰属する、
凡庸に、
俺を沈め、俺としての約条を攪乱する、
一把の象徴を容易にも呑ませ、調和という承諾を得ようとした
しかし誰が、俺という一つの国家を侵犯し
審級する手筈を調えたのか
俺自身へと退行をした国家が
なお国家である理由には果して定式がなければならないのか
なぜ火炎瓶は投擲され
なぜ報復は実行されたのか
誰が虐殺を指示し
誰が民族を分断したのか
記念像に逃れた廿日鼠が
その礎を齧った爲に押し潰されてゆく
俺からの出口は
俺からの出口は
俺からの出口は
観念を抱えて立ち上がる
シシュポスが自らの岩を両腕に堪えながら、苦役のなかより呻き
国家は、
墜落して行く国家は
俺でもあり
俺ではない獄舎の壁に定式となり記録をされ
記録は、記録自身よりその現実性を把握するだろう

出口が開かれた時、
書かれる前から言葉はあり
俺は俺自身の塩の柱を町に刻んでいたのだ


革命

  鷹枕可

あらゆる敗れた革命に附いて、僕は考える、
トロッキストの襤褸靴が、凍て附く冬に嬲られている
或る理想が、内燃機関として国家に楔を撃ち込む時
実現をされた理想国家が、
もはや管理と掌握をしか企図しない、意味を
僕は 考えている
肉体を、機関に喩え
機関に軋む蝶番の、寒い飛翔が
航空爆撃機が検死官の、
血に、機械油に塗れた指に摘出される時、
その思想の遺伝子が
実験社会に国旗の血を掲げる、理由について
民族と言う記念像、
奴隷制は共同体に拠って常態化され、
抑圧と懲罰
閉塞された、監視と命令
人を自ら生存する者へと足らしめるものが
その思弁にしか存在をしないのならば
僕も、君も、君たちも、
内面化された個の国家を、建築することも、一瞬たりとて存続に適う、
強度を、闘争下に留保する事さえ敵わなかったのだ
五月の学生達が、手錠に掛けられ
理想を剥ぎ取られた、
学舎は平板化の為の一装置となり、
夏を逸れた蝉も、水甕も、アスファルトも、
自転車修理屋の軒先も、社交ダンス練習場も、英会話教室看板も
皆数値化され、
貨幣と人体は同一となり、相違は、虚実に捲かれ、
具体と観念は見分けさえ付かなくなるだろう、

統計室に擲たれた爆弾が、歴史を、君達の目にも瞭然と明かし、
挫折をした、死体として生き、死体として死に行く
僕、そして君達自身の、骨 を撓わせ
苦渋を噛む、唯一箇の理想像の為に
堕落をする
堕落をする
階段より落ちた革命は氾濫し
咽には噎せ返る国家からの贖宥、
趨勢より孤立し、拒絶を享け、なおも、
群衆 に卑下されるべき
思想は、立ち尽くしながら、その蜜蝋の翼を拡げていたのだ


青空を曳くひとよ

  鷹枕可

__

《空襲警報発令、空襲警報発令、至急、該当地区市民各自、防空壕へ避難されたし》

「B‐29が一機、向って来ているそうよ。」
「単機で来る奴が怖いんだ、廣島も長崎も全部、それでやられてしまったからね。新型爆弾の積載機は、何方もB‐29一機、だったらしい。」
  
____ |



俺は、湿った八月の、玄関に立ち、象徴の不在について、考え、耐え忍ぶ、
隔絶は、もはや省令となり、国家秩序は、只、形骸の腐敗過程となってしまった、
俺は、鍵を
理想像の、決して冒してはならない 独立、の存在軸を、確かめる、
樂譜の許に、打たれた符は、人工の天蓋を撃ち落し得る、最後の反撥力でもあるだろう、
死は、その確率を、
後遺症を誇り、後悔者達を責めたてる、宛も天刑病の症候であるかのごとく
迫害者達に 思弁も、思惟も無き、排斥の理由を与えるのだ、
ペストの町に、押し込められた群衆、
逃場なしの、陽に曝され
爾後
電磁気的座標点に、群衆は掌握され、
もはや自由は、
個人への、民衆への、
支配と主権をしか、意図しないであろう、
しかし
あらゆる
尊厳は、分断をされて尚、個室の中でも育った、
結束は、検閲され続ける孤独へ、樹立を果されたひとつの想像、国家を創造し、
天高く、最も高く、光暈を、鬣燃える馬を、手綱をその権能に臨み、
そして至らしめた、
それは誰のものでもない、君達自身の国家である、
君達が勝ち取る、君達自身の蜂起である
やがて
君達は、
世界史 に真新しい血の瞋りを、注ぐだろう、
豫め、失墜を約束された、翻る 宗主 の国旗にも、
あらゆる正義、正統が矛盾の様に
われわれより八月を
略奪した様に
而して
凋落の国家に在って、猶 
為政は
絶える事は無く、
歴史への矯正教育としての学舎へ、独立運動 は後退をし、
平静へと、現実の外面を保障する、改竄機関として、機能を及ぼす、
内的葛藤は、その名前すら剥奪され、
存在の重量に、俺を、自らを捕縛し、
その想像力へと、限界を規定する、社会 より、暗黙裡において、懲罰は科され、
常識は、
言論の自由をその図式範疇より飛躍せしめる者を、隔離し、
公平制に拠って、緘口を促された、私的権限への、著しい、侵犯 である、
それはわれわれ自身の歴史であり
あらゆる社会的存在の、歴史である、
孤独は、重力であり
孤独は、斥力であった
俺は、俺自身の孤独を、楓の翼骨に、数知れぬ徒刑囚に準える、
思えば
遂に飛ぶ青空を、勝ち得ることのなかった、飛行機械、レタトリンも、第三国際記念搭も、声の為の声も、
且ては理想、平等国家を体現していたのではなかったか、
行き損ねた秋茜が、敗れた祖国の左胸に留っている、
そして、飛翔 は、心臓を、その存在の理由をあらかじめ、知ろうともなく、自ずから知っていたのだ



_

わたしの青空どこにある
   帰りたくても
     帰れない
包帯みたいな雲の色
 たぎった夕の秋空に
    一番星 みつけた

_

ぼく達の頭はからっぽだ
明日になれば、もう 思い出せない
ぼく達の心臓はからっぽだ
偏見のために、何も 見えない
ぼく達の国はからっぽだ
八月の光が、落ちて 校舎が、燃え上がったときから
ぼく達の胃はからっぽだ
コーラとフライドポテトの、からっぽだ
ぼく達の頭はからっぽだ
明日になれば ほら もう 何も思い出せない








※鬣燃える馬・ 希臘神話に於けるヘリオス、の車馬 の意。
        ヘリオスとパエトンの関係性は、何処かしら、アメンホテプ三世とイクナートンの、それ を髣髴とさせる。
        飛翔をする車馬は、ルドンの彩色画にも屡見受けられるモティーフでもある。而して、此方はアポロンの車馬、とされており、イメージの齟齬、断絶を払拭し得ない。
        ヘリオスもパエトンも、アポロンと習合‐合祀をされる事はなかった。そこに統一性を隔てる、何某かが有ったのかは、今は知る由もない。


殖民史碑

  鷹枕可

――見よ、奴婢が奴婢を支配している、


_1,消えたひとびと

アパートの壁に、燃えた八月の、地図を焚き焼べる、おれを、おれは、見ていた、
宛も精神病に遣られた懐中の巻尺を、
調律に拠って検める、様に、
死の絶対性への指標である、歴史 より剥落し已まない、
現代という風位計より、風防へ到る、
果敢な雲雀を見届けるかのような、街は、
拡声器の季節へ還る、
想像とは、意思としての、自らを象る事であり、
そして、復、
やがて火葬に附された亜麻色の、空に、憧憬を泛べ、
唯一揃えの靴を並べて、身体を翼として、孤独を俺自身の航空力学として、
断崖より、その運命を試みる事でもあるからだ、
路地裏の、旧い天使陶像に、煤けた降灰が躍っている、
雑踏は空を、雁の群は自由をもとめ、
入口無き内臓の夢を、逃れ廻る一縷の紡錘であり、
地に時計を立て、境界線を引くのだ、
世界像は普遍化をされ、
国歌は威厳を謗る花に凭れて、液化した銅鑼を撃ち、
繁栄の虚誕を嘆く、
自らを、貧窮を体現するのみであろう、


_2,消えた地勢図

青空を支えうるものは何者か、
母語を与え、奪うものとは何者か
逃場無しの地球図に、そう、問い掛ける、
誰が一本のトランペットを、群衆へ、一国家の秩序へと、吹けと命令したのか、
歴史を、凡ゆる地図を、座標を、喪い、
われわれは矮小な蚤の自由を求め、憬れ已まない、一群の腐黴、地衣類であった、
多数決議の正義、盲人へと指摘された約束の花束、
従順な被支配者たちの幼稚な遊び、
常態と為った傲慢への信仰告白、
襤褸切の祖国、総痴呆主義の挙句の果て、
仮想敵性国家は殖民地の、歴史の忘失に拠って定義化をされ、
確乎たる、抵抗の萌芽はそれでも鹹水の湖底に育った、
国境線に引き裂かれた、二重の名称を有する、個人、
それは紛う事なき、われわれ自身の問題でもある
自立主義的精神は自らを、自らの青空を支え、立ちあがる空洞の思想と為り、潰えて、終った
そこに自が存在を置くものは、彼の巨躯の地勢図を、異なる国家、思想を排除する、
多数独裁体制の煽動家のみで、あるだろう、
拘縮した花束が握り潰され、
祈念碑は形骸に、慣わしと為り、
見えざる掌握は戦禍、烽火を悦する、単純機械‐人物像の、憂愁を総轄し、死の標識へ追落す、
鉄の翼へとなるだろう
そこでは平等も、平和も惨たらしく蹂躙をされ、或る一国家、つまり粉飾された、
世界政府の標榜者 は命令としての対立を促がし、
有色人種絶滅収容所、を、嘱望し、自由としての加‐支配へと唆す、
血統優生論、その一握の塩の砂に、
零れるべくして零れる、われわれを嘲弄する、
優越の構図裡に、復、骨肉としての総体‐印象に、数多度、死の糧を齎しめるのか
侮蔑者達の狂奔よ、自が胸郭へと 帰れ


_3,消された歴史

与えられた言語は奴隷の為のものだった
与えられた衣服は奴隷の為のものだった
与えられた霊歌は奴隷の為のものだった
与えられた食物は奴隷の為のものだった
教えられた歴史は主人の為のものだった
教えられた国家は主人の為のものだった
教えられた信仰は主人の為のものだった
教えられた律法は主人の為のものだった

そして俺の、私達自身の意思には、襤褸切一枚程の余白すらも残されてはいなかったのだ


_4,

おれは、俺自身の世界地図だった
おれは、俺自身の歴史だった
おれは、俺自身の鳥瞰図に幾つの標識を与えられただろうか
おれを喪った地図の遺灰が
やがて、だれかの地図に
指を置くことを
願わくば醒め眺めていてくれ
秋霖を
已まず降れ
落葉よ、幾枚もの鱗翅目の睫に


水鳥の眠る場所

  鷹枕可

深く病める者たちが 死の瞳を覗く、或は曇壜に、水葬の汽笛に、硬直する、造花の錫、瓶に
長らくを、壊れ果てていた、部屋部屋に、十字の影が差し、慄く者たちを、浮き彫りと為った洞窟へ、つれさって行く、
旧い骨壺、砕けた遺櫃を、運命の帰途を、振り返り、
土は砂礫に潤む、
偶像へ、頑なに鉄槌を恃む、囚人達は、意識に溺れ、現に微睡を取る、
魘された鑑が、静かにも熔けてゆき、排水溝へ、銀の跡を、蹄鉄の様に撒き散らしてゆく、
蒼褪めた翳が、窓を吹き撓める、死者の諸手は、幾重もの、乾板へ固執しては、物憂う人体を、吊るし、
呵責に傷み、手折られた翼の花は、沈んでゆく、黒い血の、汚泥へと、
歓喜をして、死の囚人は、殴り付けられたかの様に、哂う、
白昼は昏く、憎悪の華を培い乍ら、その種子を並べある棚の、燃やされた帆船の、穹窿を象り、
思想を凌ぐ、巨躯の薔薇として、戦禍を厭う、丘陵のその端々に裔として、屹る、
石の麦を刈入れながら、
荷車に鬩ぐ、造花もまた葬礼の、服喪に附され、
寡婦は降灰の昼を仰ぎ、歩み来て、そして、去る

自らを、死の果てへ、突き落とし、哂う、
自堕落を催した精神
伝染病に冒され、
或は始源の罰に打たれたる
胎児、
四肢無き樹幹
心臓無き山鳩を告げよ
もはや夕は血をしか示さず
海溝を乾く
猶予無き死刑の一室、
裂罅を纏う
狂婦、肉切庖丁、
生涯に確かな者が下り、死の命運を告げる、
黄昏の柱時計を滴り落ちながら、
真実が悪意にしか宿らないものならば
悪意に拠ってしか存在を糾明し得ないものが人間ならば、
直ちに理想像はこの咽喉を刎ね落すがいい、

包帯に膿、
報復としての天刑病、
崩れた貌、崩れた肉体を
憎悪の糧として
優美に
脳幹へ泛べる、
禍根の巌、
苦役を、嗄れた涙液は啜り
石化した、火砕流の死脈を確乎と
築き昇らしめ、柱塔に、斃れた遺骸の多くを
黙祷に附して猶、
旱魃の厩舎に
殺害され、
磔の水葬花、対としての麺麭酵母、
絶無は若草芽の灯に燈り、
紫衣は穢れ、
死刑執行の血に清められた、
鎗穂へ、
差し伸ばされた
水蒸気の幽霊達、
テーバイに燃え落ちた苦艾の、
豫め約束を期された
地球絶滅収容所、
その衆目の檻舎に有りうべからざる死斑蝶は留まり、
_

樹は彫刻の膚を晒す、痛々しく、掠れた颪の許に、
窓には、包帯を滲む、跳弾の痕、
静かに、吹き込む、絹の容をした、雨垂れは、
沈潜をした、泉の畔に、漂離し、夜の底はその陰を差す、
枯れた傷み、落葉は、吹き溜る、橋梁に、そして土地に、

礎に濡れ、一縷の罅を伝う、哀悼を、弔砲が、報せてゆく、
浚われた火夫の、青褪めた肌には、腐敗ひとつなく、
齢若くして、水葬に附された、
航空空母に、
青年群の逞しい指を、歴史より、押流しては、已まない、
咳に血が混じりゆく、
刻一刻と、樹は彫刻の膚に、乾いた血痰を、泛べ、柱の様に 立って、いる


わたしはゐない

  鷹枕可

喉が渇き、その手を差し出す、しかしだれに、その手を差し出せというのか、
愛を唄ったかのような歌手達の陶酔に、まさか精製糖の微結晶に、さもあらず、
猟銃を選る詩人達、
猟銃を選る詩人達、
喧噪にしか詩人達は静物を溶解できないだろう、
それだからこそ比喩という帆を、舵を切る様に、散りばめなくては、壊れた眼の花束を、凝らしみつめなくては、
入口はある、しかし出口はない、坂道を堰き止める果物の、そして血肉の、骨の、最期が訪れるなどだれもが夢にも思わなかった、
腐敗は歴史の、人間どもの目抜き通りからやってくる、世界を逃れなくては、扉がない、裂傷がない、果てへと発っていった、鉄道列車がもう、ない、
逃げ遅れたのだと気づいた、だが時計は容赦無く長針を、その肌へと刻み止まない、誰もが何処かに行けるものと思っていた、愚かにも、誰もが、
晩年の証明写真、ただ一つの涯へ投げられた検死室、精神病院階下より、もはや終ってしまった私小説の石の花がほころび、心臓へ至るすべての道は絶たれていった、
だれが知るだろう、英字に飲まれていった人々を、唇のかみそりを、不健康な癒着の関わりにかつて慈しみの充ち満ちていた病窓を、
だれもが自分自身を探せないだろう、あらゆる蔑称の絶え間ない鄙びた地方国家、実象は現実生活のただならぬ呵責に病みやつれ、その貌はあたらしい墓石の様になめらかであり、
傲岸であり、そして表象の、粘土、ぬかるみの薄ら寒さをたたえ、アポロンへのきだはしに落ち窪んでいるのだ、
だが人々を、侵犯するものたちが皆、貝殻を聴く薪の断面に、創世記という書かれてはならなかった後悔に、
弔鐘を打ち揺らし、そして人々を見送ったかの一日に、
諸君は覚めていることすらも叶わなかったのだ、峰には鷲の、繊毛にはペストの鼠達の歴史をかかげよ、個室には鍵をなくした螺条殻が渦巻く、
その絹の壁には埋められた塑像の肉が馨るだろう、理由もなく目は裂かれ、理由もなく声は塞がれ、そして私達にはもどらぬ未来が、彼等という私達が、
俟つだろう、どうか願わくばその後刻へ、
人生どもの応接間に、一脚の黒い椅子を築いてくれ、
それが訣別のかわりだ、
それが訣別のかわりだ、
舵を、
鐘楼に
旧る
球体鏡へ、



花を鏤めて紙の少年を新しい明日などへ誘うな
憤懣の海――地下階段
羚羊と移相――比喩掌紋のあざとくも有れ
釘の痕や風洞――絶対‐無の光芒に驕り
醜い蝶の腹腔――閂を已むなく、
潮時計――豚とし豚なせるものの挨拶に翻し
      肉親に薫るもの、日食
  一対 恒星の 
     雌雄
       嘗て楕円に
          偏執を――いもうとの飽くるなき真鍮花‐市民、磨鏡を紛うなき血染史に漬し
       螺旋する もの
  ナルシス――鏡像の静物
    人体、終世を孤絶する花冠に敢えて
              崩壊しゆく 
     城の絵葉書を宵夜爾後、松葉杖に健忘し
  土地の砂時計、 
正負の幾何学 意志潤うを堰止め
  いろくづ、うつそうそのみにしもふりなだるらむと
    曰 生膚を剥し 
        地球史に一刷の定款、を     



企まずしてわかたれた途よ
人は人を知らずして触れ合いこともなげにそのゆびをすら離し
帰らぬ帰途を振りかえり已まない
だが敢て
兆すものがあるならば
撃て、と命じる意志をこそ撃て
ピアニストよ
玻璃の様に逞しき
空は梁
ひばりひばりと鳴くな故国を
不慮の偶然
憎しみもいやましにいてつきやまねばこそ
賤しき自が
蠅のその寵児たるを知りそむるを
_

醜い蛆よ
かばねのはてよりつきぬちもひもとかれ
印章‐史
結紮性紫斑、
そのかみがみの死府を差ししめしては
雲母などとみまごうを
鋳られたる潮はつかのはて且て曝されたる天主そののちの血飲児をうるうとも
十字格子を工廠は混めて
水銀蒸留法

クロロフィル置換壜にしも地球燈を鋳れば
実にも實る虚血こそあれ
膏を乾く灯置火よ
あくるひははてなき幾兆の劫波にたけてゆきかえらず
つきくずれつつ
橄欖鳩がこえをいきに聴き損じにしが


祖国

  鷹枕可

祖国を懐かしむ時、
新しい家族を迎える時、
敗れた夢を庇われた時、
傷を抱き竦められた時、
ふれ合う故郷の話に花が咲く
桟敷の二つの椅子に
かの慈しみに何を返せばいいのだろうか、
ふと花束より、
目を
逸らす
同朋より
乖離せざるを得なかった時、
繁栄を極めた彼等が零落してゆく時、
憎しみを許されなかった者達の
逃避行のゆきつく涯を思う時、
先ず私が思い出すのは
故郷を流れる川であり
蒲公英を揺らす
今は無き
旧る風の歌声の流離である、

未だ幼い頃、
泥のなかから、知らぬ隣人に声をつぐんで、
いかがわしげに眺めていた事を、
思い出す
何の理由も意趣も無い
記憶の端切である、
かの頃は
日暮迄
野をゆき、草を摘み、夕餉の待つ家へ
後ろ髪を引かれ乍ら、
帰途へつくのを日々惜しんでいた
いつからか
家族が一人減り、
二人減り、
そして家も人手に渡り
土地とも縁無く為って後に、
かつての親友たちの訃報を聞いた、
不思議にも悔しくも思えず
何の感情をも想起されなかった、
ただ、
凡ての物事は、
留まることなく
押し流されて返らないのだと
現に思う私も
いつか、その時を待っているのだろう、
人間達の黄昏に行き遭いつつ、

_

花を、
或は希望を、
もう一日を、
誰もが口遊める、祖国を
季節を湧き返った、歓声に
流れ止まず、離れては近づける、
花筏の火事を
既に誰でもなくなった、われらに、

春の琴瑟、
蒼褪め
花壁に揃えられ、
三等航海士は錨に搦められ殉せり、
その印章を辿る、細やかな、針の、
死者の喉が、通る、束の間の、
記憶の中の家並よ

何も、憶えてはいないのだった
でも確かに、憶えていたのだった

言葉を、希望を、
脆く、最期にも、憶えていられるもの、祖国、
それは決して国家ではなく 
春の脈拍を打つ
流れる懐中の 古き名残、錫の花鉢に降る木洩れ日の、窓よ
永続に
忘失をされた、
異邦 の、
貴き青き罌粟の寓意に


或る庭

  鷹枕可

或る庭、それはわたくしという庭――、


狭量な支配者の気紛れに、
剪定をされた
夢の庭
痴呆者達が
埋葬された百の礎
支配者は礎の花を愉しむ
切り揃えられた百の棘が
異端を貫き、苛む
鍛練をされた兵卒、知的であるが為に痴的な
自己酩酊を及ぼし
百科事典的叡智の底深く、意味深き披瀝を競う
其処には正気を過たぬ狂人達が溢れている
庭の夢にしか延命を叶わぬ
遅滞をした風葬‐遺骸が、
腐り乾き襤褸切の様に躍っている
愛でられる事無く、
或は偏愛を享けた埋葬花が
自を疑わず
狂乱の季節を静やかに秩序として、いる
誰もが叡智の果実と入れ替わる
黄昏時
永続の果を求て
自称詩人達は甘く、正確な葛藤を誇る
それは
痴呆者達の証拠物件
隠匿された自らを遺骸を、
運命は約束を守る
総てが更地に、砂の痕を遺すことなく返ってゆく、
場所に縋り附く、
静謐なもの、狂奔
誰もその刻限を越えることは出来ない
醜き花々よ、
朽ちて返れ
砂へ塩を滴らせ、

:

旧い希望を 掻く
 百の手帖に、
幼年期
   ヤルダバオトが臍なきを憎み
 晩鐘を呑む夕に斃れた
検分の間に間に   
   円錐 
  鏡のなかの溪間へ切開膚をあらため
地平線はただひとつ瞼を瞠る
 蔑視をされた
綴れ織り
闇の窓から手が触れ
  今を限り、絶鳴唱歌に
 裸足としての
ヘルメース薬剤株式会社を嘯き
遺恨の全ては混めてあれ
 葡萄酸を瓶に摘む
   列柱宮を俯瞰してさりゆくものもあるだろう


かつてみどりごを、

ミュシャが見た夢の季節が終り、

闇の褥にかしずく枯れた花をかき集めて
蘇える幾兆かの命を吹く死の水門を上げるかれら委縮して燃える渺渺たる膏海へ
私書箱に花享ける
蓚酸に錆び朽ちて
余りに滑らかな人工衛星 
鳥瞰の嶺、
遠近に麓を
闇ばかりなる静物へ生花を挿してひとは返らず
旋廻するもの、運命
風車塔の悲鳴を
かつて咽の咽喉の喉に追い落し
石灰の嬰児製粉場に塵に
焉んぞ平均の花は滾り已まぬか


絶滅収容所へ

  鷹枕可

毀れた指
滅び行く人間の季節を悼み、
祷りの外に追葬を遂げ損ねて、問う
私は人間か
私は有機機構の一棟の工場か

機械機構の血が熱く滾る
人が人を已める時、
置かれた
静物にも血は通っている
葛藤の均衡にも
無感情の抽象を刻む、世紀よ
心臓の鳥を聴け
病める彼等の為に
そして已む無く咲き揃えられた花垣にも
傷ましき繃帯のなかの喪失を

事象は均しく磁界のなかを巡っている
世界が静止する、固唾の暇も無く
かの静謐にも永続を探せない為にこそ、星星の穹窿よ、拍動を、起せよ、と
実象、
現実にも亡き貴き、
死点を縺れて
種は顕われる
だが誰が落としたのかをかの一滴に問うな
存続にも意志を
巖膚に無き華を
諸君もやがて知るだろうから

喝采と歓声に
独立記念の夢が、夢見られた夢であった、嘗ての、
華に拠り設えられた凱旋門は、
希望を、懐かしく明日を
告白に、暮れて
夜と窓より紡がれる、
叶わなかった、揺椅子を
甘く、眠る未来を振り返るだろう
群衆の花に紛れて
いつか還る、還ると
だから
鐘を見上げて、
私は
私達を迎えるため
現を、
屹度亙るためにこそ、声は

____

独房10‐26号
試薬予想致死量を投与するも過覚醒‐譫妄を予想周期を越え、発現。
拠って処理剤γを投与、16:16 死亡を確認。 

文学極道

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