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三台目全自動洗濯機 - 2015年分

選出作品 (投稿日時順 / 全1作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


別の詩

  三台目全自動洗濯機

「もう始まった?」「いや、まだだよ」「ピエロ?」「いや、そんなに優れたものじゃない」
「あなたの肌って柔らかい」「だからそんなに良いものじゃないって」「娘って面白いの」
「ひとりひとりに理があり、だからこそ悲しい」「ジャンは美しくて悲しいって言ってたわ」
「知ってる」「じゃあ、そう言うべきよ」「だからこそ悲しい」「赤い果実」「なんだって?」
「赤い果実を想像するの」

一人の男が居る
名前はある
諦めたら、それでなんとかやっていける
それがぼくだ

一人の女が居る
名前がある
自分のことは話したくないのよ
それがわたしだ

一人の男が居た
名前があった
皆は相対的なものを求めるが、私は永遠を求めた
それが私だった

簡単な質問だった。不安な時や気持が落ち込んだ時に物を書きたくなりますか。酷い代物
を書いた時ほど、もっと書きたくなりますか。ぼくはそのほとんどのYesに丸を付けた。
積み上げられた茶碗を運ぶように丁寧に白い部屋へと連れて行かれた。鉛筆かペンが欲し
い、と伝えると、無理よ、と白い服を着た女性に断られた。彼女も部屋の一部だった。テ
レビ台と壁の間に置かれた、使われなくなった家具。代わりのものが欲しい。彼女は殺し
屋のように白い服へ手をかけた。違う、それじゃない/

                         理由を語るつもりは無いけれど、
わたしには会わなければいけない男がいた。彼の行方を様々な人に尋ねていった。彼は桜
の木の枝で遊んでいたよ。春まで待ちなさいって言ったんだけどね、とある人は教えてく
れた。彼は港の工場で働いていて、たしか林檎を磨く仕事だったと思うんだけど、とにか
く、その工場で一番エロそうな男を探してみたらいいさ。それが彼だよ、とある人。鯖に
なるって言って出て行ったきりで、もう会ってません。いくつかの情愛とどこにでもある
ような冒険を乗り越えた末、わたしは複数の彼を見つけたけれど、結局、彼を見つけられ
なかった。彼と彼は重なり合わず、そこに次々と新しい彼が現れる。それはうまく噛み合
わない立体模型のようで、本当は誰にも組み上げることは出来ないのかもしれない。でも
それは次の、別の話/

          私はある女の後ろを歩いていた。気付かれず、見失わないような適
当な距離を見つけ出すのに多少時間がかかったが、それ以外はすぐにその仕事に馴染んで
いった。元々、探偵小説が好きでよく読んでいたことが大きいのだろう。依頼書には彼女
は悪人で罪人だと書いてあった。実際にそうなのだろう。だからこそ、私は彼女の行動を
監視していたのだ。それでも、彼女には書かれている事実とは違う一面もあると付け加え
ておかなければならない。ただ彼女の一連の行動をどう形容し、感化させればいいのか分
からない。簡単な数式の証明は出来ても、その存在を証明することが私には難しく、そも
そもそれは私の仕事ではない。誰かが彼女の手に触れて、彼女はそれに応え、私は見てい
た。それだけだ/                         

             ひとつの流行に乗り遅れたようで
             何度も浅瀬を走り駆け出す雲鳥は
             不器用に腕を前へ後ろへと動かし
             空の風景がどんな色に変わっても
             雲鳥が宙に舞い上がることはなく
               (ジョナサンは嫌いだ)             
             祈り続けるように空へ走り続けて
             恋人に去られて友に忘れられても
             終わりの鐘の音が鳴り出す頃には
             雲鳥も風に乗り灰色とは離されて
              い影と黒色の内枠に混ざりこむ

        家族という無声映画のポスターを部屋に張ってもらった。角はピンで留
められており、そのひとつを抜いて、ポスターの裏の壁に傷を付けていった。二人の男と
一人の女の物語だった。煙草は吸えたから、ライターで火を点けた。赤色というよりは黄
色だった。ポスターから壁、寝具へと、その色は誰かの祈りのように伝わっていった/

                                       相
手は対峙していて、言葉が出てくるのを待っている。相手の口から、もしくは自分の中か
ら。求めたものの代償として、腹部には刃物が張り付いていて、大事な色が流れ出してい
た。口からは赤い果実が飛び出していた。それは苺ですか、それともサクランボ? とい
う言葉が残された。林檎だったのかもしれないとも思う。

「酷い代物だ」「忘れるために愛し合うのは嫌」「道化にお金は重要じゃないと言うけれど」
「そろそろ終わりにしましょう」「いや、まだだ」「これ以上は野暮だ」「それを言うなら、
初めからクズだ」「美味しい赤ワインがあるの」「ハンバーガーが食べたい」「ほら、鳥が飛
んでる」「日が沈んでいく」「目の前を滑るように流れていく」「日はまた昇る」「夜はやさ
し」「ああ、分かってる」「きみもあなたも皆やさしい」「待ってくれ」「もう終わりだって」

文学極道

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