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紅茶猫 - 2017年分

選出作品 (投稿日時順 / 全7作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Keeetu fish

  紅茶猫

夜よりも白い山の端に腰掛けて
叫べ
詩の言葉を

操縦不能な迷路をすり抜け
疾走する一台の微笑み
そう、
生きることは疾走すること

割れた鏡に
裸木の影(深く)闇を張る

ぽたぽたと水滴落ちる心音
時計ぞろ目になったらリセットしよう

空、要りませんか
(空っぽの)平和な空

鏡支配している
そのつもりの惚けた顔が
粉々に砕け散ってしまった朝顔咲いている

埋もれる秒針
望まれた嘘よ

パンを浸して腹一杯の水銀柱の上を
終日、青い魚が行ったり来たりしている

keeetu fish

岸に着く頃
見えてくる
(思い出す)
聞こえてくる
(砂を噛む音)
拾い上げたものは
見事なまでに何も語らない

王様のタンブリン


show room fantasy

  紅茶猫

傷つく才能が無いと言われて__

地上3メートルくらいを
ひらひらと
時々、大気圏の外に突入している
自分を思った

傷ならば無数にあると言っても
消えてしまったものには
何の説得力も無い

表層の下に眠る
忘れたものや
忘れた人たちは

あまりにも大人しくて
今でも真っ直ぐに棘を生やしている
そんな聞こえない筈の音が
時々している

もうだめだと
思った瞬間
世界を呪う私の肩に

私の肩に
花びらひらりをりてきて
夢をどっさり乗せたなら
あとはよろしくと

私には世界を呪うことすら
許されていないらしい

不幸は時に甘美だね
死滅するほどに鋭角な
その甘美さに
かろうじて耐えられる

不味い酒に酔った頃

暴れてみれば
私の表層の下のものたち、人たち

床下の小人くらい
ふくらんでさ

私にはいつも見えているし
聞こえている

話せないものと
話してしまったら

棘はますます体の奥へと潜り込み

離せないものを
離してしまったら

足元がいきなり、ふわり
浮き上がって

大気圏の外へ__

運べなかった
地上3メートルくらいの空だった

帽子の下
共感に飢えた顔をして
一体どこへ行くのだろう

最初は上手く操っていた筈の
自分の言葉に
殺されていく
そんな感触の
ショールームみたいな風景が続いている


Kite flying

  紅茶猫

暗い穴が
無数に開いている星の上に立って
宇宙に凧を上げていた

足下の穴に
誤って
小石を
落とした時は

ぽちゃん、と
音がするまでに
辺り一面真っ暗になってしまって
僕は道具を片付けて
家に帰るところだった

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

漆黒の宇宙に
風を探して
凧が
星の一つに届くようにと
ありったけの糸を
闇へ繰り出した

けれど
右手に握った糸の端には
重さという重さが
全く存在しなかった

凧が上がっているのか
僕が
果てしなく
落ちているのか

伸び切った筈の糸は
するすると
手のひらを
滑り続けている

それもそのはず
糸は
いつのまにか
僕の手のひらから
繰り出されていた

まるで蚕が
糸を吐くように

糸が出尽くしたら
僕はこのまま
宇宙に投げ出されてしまうのだろうか

ハサミだ

左手で
道具箱を
必死に探った

あった

赤い柄のハサミ

僕は
熱を帯びて
出続けている糸を
ハサミで
ぱちんと切った




(落下)



今度は
穴の中に
落ちている

足を踏み外した覚えも無いのに
気の遠くなるような速さ

僕を宇宙へ
引き上げる筈だった糸が
右手の真ん中から
だらしなく垂れている

落ちながら
糸を引いてみた

すると
糸は際限なく出てきた

落ちながら
糸を体中に巻き付けた

少しは
落下の衝撃が
和らぐかもしれない

突然
眠気が襲ってきた

僕は糸をぐるぐるに
巻き付けて
繭玉のようになっていた

この穴は
一番深い穴に違いない

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

そういえば
落ちながら
穴に底のある幸福を
少し思い出していた


心中に予告、心中に遅刻

  紅茶猫

駅前の来来軒で
ぶどうパンを三斤買って
その重さに
前のめりになりつつ
足早に歩く 

パンと私を
天秤にかければ
明らかに
わたくしの方

重い
ぶどうパン三斤で
沈むか
この身体


夕べ、スマホが
けたたましく鳴って
「明日心中を決行する」と
メールが来た。

今年に入り二度目の
決行予告

(23:08)

かったるい


日時:明日
場所:川
参加人数:2人
持ち物:水着、ぶどうパン三斤
備考:雨天決行だよん



だから何で
ぶどうパン
水着もこれ相当おかしいよ、

などと返したところで
返信は無い。


2時間ほど歩いて
街外れにある森の
階段を
16段上って87段降りた

濃紺の改札を通り
地下鉄に乗り込むと
ワカメが車両狭しと
生い茂っていた

利用者の立場に
全く立っていない
運営ぶりである

吊り革のように
ぶら下がる
酸素ボンベを
口に当てると
浮き上がらないように両手で
しっかりとパイプを握った

海の真ん中に川は無いと思う

海の真ん中に川は無いと思う!

階段を87段上って16段降りるべきだった?

ワカメが頬をなでる
黒い大きな影が
窓の外を通り過ぎていった



(15:08)


「まだ?」
「遅いよ」
「今日はもう止めるよ」
そう言い残して
スマホが先に水没した。


hop-step-junk

  紅茶猫

昨日Amazonで
「世界part2」を注文した
けれど
新しい世界の
パッケージを開くまで
暫く
僕には
世界が無い  
   「世界を失った日に」





僕に泳ぎ着く前に
きっと
人生は
終ってしまうから
盛大に
    「バサロターン」





空の破れたところから
ふいに
あらわれた蝶
       「縫い目」





天才はいらないと
声高に
天才を
呼んでいる
       「フラスコ」





白いシャツに夜が映り込む
         「他人」






よく冷えた言葉並べました。
      「牛乳レター」


レクター ネクター

  紅茶猫

季節が無い町の
季節の無い空が
規則正しく
昼と夜を
入れ替えている

ある日更新された朝は、
晴れ___

何も考えてはいけないし
何かを理解しようなどと思わなければ
この町に
季節があったことなど
すぐに忘れてしまう


生きていることを忘れて
死んでいる人と
死んでいることを忘れて
生きている人と
同数の
いや、それ以上に



渦巻きの
渦巻きたる所以の
その渦巻きの
中心を訪ねよ

がらんとしていて
誰も居なくて
恐ろしい空洞の
闇の闇の奥は
「不在」。

声がした?
誰か居る?

誰か居るのですか?
優しい人ですか
怖い人ですか

さあ
蓋をした
もう危険だから
蓋をしました


「不在」。だったことを
誰に告げよう

「不在」。

居ない

誰も居ない

「不在」。の他には
誰も居なかった。


長い沈黙の後
エレベーターホールに
降り立つ
「不在」。

「見えない」僕と


のりたま

  紅茶猫

握手した
指を開けば
血だらけ
  「君と僕」



乖離
海里
帰り道
噴水に躓いた
  「セレクト」




僕にしか分からないこと。
君にしか分からないこと。
増えてきた
生えてきた
       「木かげ」



月といふ眼座りて
夜笑ふ
    「みかづき」



死の影
水の上を動く
   「凍る」



手のひらに
乗せて
冷たい
鯨の睡眠
 「フラット」



まるい空
まるい星
何も
  「書けない」



せめぎ合い
泳ぐ言の葉
きらきらと
   「ふるい」

文学極道

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