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黒崎水華 (宏田 中輔) - 2017年分

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


【母国の子音】

  黒崎水華

羊羹に似た闇が口開く 暗浄に御座います
切り揃えた髪が揺れる この世は繋がって
赤と白の椿が列を成す 廻るので季節さえ
回廊をぐるりと辿って 参道に御座います
入口も出口もなくなる 羊水は満ちました
宙を漂う金魚の白昼夢 目は開きましたか
蝶の翅だけ地面を覆う 脳は夢見ています
利き手を失い虚を孕む 現を空蝉と重ねて
両目が機能しないのだ 焼き憑いてしまう
目隠し鬼が手招きして 亡國したのにさえ
次は君、名誉だよ」と 気づいてやしない
尊厳を抱いて落ちる崖 内部が腐ってゆく
生涯を丸投げまでして 羽音が群を成して
濡れた三本足の鳥一羽 蝕んでいった正体
暗雲の中で鳴いたのだ 大義に置き換えて
黒い雨が吸い込まれた 重く伸し掛るのだ
地面は憶えている味だ 幽かに浮かぶ文字
羊羹に似た闇を食べた 柑橘類の馨がした


埋葬 の 陽

  宏田 中輔

隣室の 少女が 同じ、 顔 で ゆっくり 目 覚めた。
最後 の 声 が 落ちる (かさかさ) と、 ページ ごとに、 動いた。
ベッドの 近く 大蛇が、 本を 呑み込んで、 光 のようだった。
弱い 力を 小さな 腹 の 音が 追った。
(あぎと) 開けて 大蛇 の 開いた 目 が 扉 だった。
鍵が 少女の 身体 で (鏡に映った) ベッド の 真ん中に、
亜麻色の 真夜中、 少女 の 半開き の 口 から 呻き 声 が
(かさかさ) 聞こえて 小さな 少女の 目が 開いた。
足をおろして、 スリッパを ひっかけた。
シーツ から 出て、 彼女 の すすり 声 の 波 が 廊下 の 青 の 夜に 深く 呑み 込まれて いった。
後ろ の 廊下 の 影 が 暗かった。
いつもなら、 扉 の 鍵 を かけて いるのに……… 変だ。
ノブ を 廻して 開けると 隣室の ベッド だった。
表紙 を 締めても ページ のなか、 ここも やはり、
少女 は ただ、 裸の まま 叫び 怯えた。
緊張 それは、 頭を 呑み いくら 扉を (しめ、ても) 入って いった。
なにも 聞こえて こなかった。
あの 隣室の 一匹の 大蛇 を、 わたしの 頭 は 丸呑み した。
さらに さきほど わたしは、 部屋 の 本を めくって 写真集 の なかの 写真 を 同じ ように して いった。
いや、 写真 それは、 わたしの また さらに あの ひとも 見た ものだった。
その 少女 は、 走り わたし と、 音は 滴り
水 の 滴り が わたし の 下で、 縛られた まま だった。
なんだか 自慰 の ように、 撮った 写真 を 入れて 褪めて できた ように
ほかは、 木で 洗面台 に 立って 泣く ところ 縛られて。
きょうは、 後ろ の 方 だけ して、 振り返る からだ。 めくる うえに、 やまなかった。
ここも、 抜けて 少女 は、 逃げ なかった。
手に 本 と 顎
裸 足 と 思ったら、 去る 姿 は、 なかった。
少女 を みた。 みた。 みた。 いた。
わたしは、 みた。
面 と、 椅子 が 置いて、 なかった。
なにか みた。
わたしは 腕 を 開いて いった。
ちゃんと あの うえに いる。
いた。 いた。 わたし ほどの 大きさ の 人形 たち だった。
少女 は、 部屋 に 持ち 込んで なかった。
した した しか こない。
ドア や 扉が あって さえ いなかった。
彼女は、 部屋 に 入り 手 の うえ の 大判 の 写真 を めくって
同じ 間 と 部屋 に ページを 置いて
扉が 部屋 に 出て かかって・ かかって
落ちる 深く
水 に いる 裸 に なった 患者 だった。
その 手 だった。
少女。 しか

文学極道

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