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高岡 力

選出作品 (投稿日時順 / 全8作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


八月の狂詩曲

  T.T


『八月の狂詩曲』



なぜに べったりと
這いつくばって ば
いきてにゃいけんのー 
のー って
それよか はよー 掘りー
でっかい穴 掘りー
埋めんねん 家ごと埋めんねん
まだ亀も埋められんとね
これじゃ いけんねん
家ごと埋める穴掘るねん
電波で聞いてんねん 受信してしもうたんや
焦土と化すねん
べったりと 這いつくばって ば
いきてく土地も無くなるとよ
地下生活者の手記書くねん
くんでー 凄い炎 北から
くんねん ボタン押すねん
笑いよってな ポチッとね 押すねん
水爆落しまっせーコスミタ いってはってん
皆殺しにしちゃいまっせっーコスミタ いってはってん
本気や
死なばもろともでっせーコスミタ いってはってんぞ
かーちゃんは?
刺したわ ごちゃごちゃ
いうから 刺したわ
この期に及んで ごちゃごちゃ
いうたら あかん
コミニケイション・ブレイク・ダウンやね
掘れ!
いいから 掘れ ないねんぞ 時間
這いつくばってでも いきんねん!
家ごと日本に埋めんねん

そやけど よかったわー 
家ば ごっつ 小さくて。

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ビニール

  T.T


昆虫図鑑を求め赴くも、学生仕様の物品しかなく。人間図鑑へと移る。ビニールが。どの人間図鑑にも被されており、破く。女体が、捲れど捲れどあり、もう一冊破く。店員がやって来て、お客さん!とか云っているが、もう一冊破く。やはり女体であり。毛もあり。もう一冊破くと、もっと濃い毛で。ビニールが乗り、蝶のようにウインディーで舞い。でかい透明な蝶が窓を越え、ダッタンカイキョウを越えてゆくんですね、と隣の女性客が云って、携帯にて撮影。見せてもらう。ビニールが生き物のようであり、ビニールが生き物のようでもあり。ビニールのニールの所をニーーーーールと引き延ばして、店員にぶっ飛ばされる。ビニーーーーールを昆虫図鑑にも被してよ(24回くり返す)。ビニーーーーーーールを昆虫図鑑にも被してよ(24回くり返す)。ぶん殴られる。携帯にて撮影。見せてもらう。ほら、行くぜ、ビニールが。ビニールを剛毛から解放してあげてよー!(24回くり返す)。ほら、行くぜ、ビニールが。もう一冊破く。ひとりぼっちじゃつまらねーだろ。ほら、行くぜ、ビニールが。店員が、てめー、とか云っている。けれど、もう一冊破く。ビニールを毛から解放してあげてよー(24回くり返す)。ほら、行くぜ、ビニールが。店員に好きなようにやられる。けれど、もう一冊破く。ほら、行くぜ、ウインディーな午の空へと、皆よ、みなよー、つまらねえー、ちんけな空へでかい羽がゆくんですね、と隣の女性客が云って、撮影。見せてもらう。ビニーーーーーーールを昆虫図鑑にも被してよ(24回くり返せ!)。店員に好きなように殴られる。餓鬼のくせに、いっちょまいに。やりたい放題なんだろ。顔面に拳なんゾーを。ムシの息だぜ。ビニールをその男にも被せてよ。携帯にて撮影。見せてもらう。皆よ、みなよー、行くぜ、でかい男の魂が。魂の國へと、一直線に。あんたは。誰を。殴り。殺したんでしょう。ビニーーーーーーールをあの魂に被してよ!(24回くり返す)(24回くり返せ!!)。

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ソング

  T.T


ダウンジャケットに
タバコつけてごめん
溶けちゃったねごめん
毛が出て来て 毛だらけで
電車に乗ってる君がかわいい
君は鳥の使いとして 老婆に拝まれて
うれしい 誇らせてくれ
永遠に立ちすくむ君の穴
から 一枚ずつ毛を抜いて行く
人達 それを赤く塗ろうと
青く塗ろうと 嘘っぱちだから
君が辿り着きたい駅など 伝説だから
陶酔のうちに抜かれて行く 毛
は もう 偶然の産物じゃないんだ
ぼくは君の味方だよ
だから タバコで穴を増やそう
宙ぶらりんの電車のなかで
夢を語りながら 指で抜いて行く
指諸共穏やかじゃないんだ
揺られて
辿り着くべき駅で やっと
辿り着いた
と お辞儀して降りる 現実達
そんな気がしてさ
君はもう歌ってんだろう
穴だらけのからだで
もう君は歌ってんだろう
まだ毛は残っている
押し込めようとする指
がない事に 絶望
なんかしちゃいけない
だって 君が辿り着きたい駅
なんて 伝説なんだから
身を細らせて歌を
歌う
君は もう
偶然の産物じゃないんだ


ムンクちゃん

  T.T

『ムンクちゃん』

橋の上に少女がいる。嫌な季節にいる少女が
三人、欄干に手をかけ川をみている。ずっと
続いた嫌な季節が漸く終わりを告げ。見渡せ
ば、草木の色も賑やかに。蛾。鴉。モンキー
。ミサイル等が飛行。天地共に騒々しくなる
と、もっと嫌な季節がやって来て。とても嫌
な花が咲く。とっても嫌な花が咲き乱れ。物
凄く嫌な満開の樹が「そこ」「ここ」に出現
する。とても嫌な顔をして。人はシート。ダ
ンボール。毛皮。浮浪者。行倒れ等を敷き、
樹の下で呪文の様な唄をうたう。とても不味
そうに汁を飲み、実に嫌そうに顔を顰め、薄
気味悪い踊りを舞う。それを取り巻く人とて
、又、実に嫌なものを見るように、あからさ
まな嫌々をして。嫌々であるが手は叩き、音
頭をとる。が。泣きもせず。笑いもせず。た
だただ嫌な顔面を全面にした群れが。嫌な月
夜を延々と過ごす。

ここに一人、漸く、パパと発する事が出来る
ようになった幼子がいる。ムンクちゃんであ
る。九才である。ママとも早く言って欲しい
。でも、ママはいなかった。ので、実質、マ
マと発する事が出来ぬムンクちゃんは、まる
九年間、何もかも、を、視て過ごした。夕刻
など、瓢箪頭に渦巻く思念を口をついて吐き
出したい。と、ムンクちゃんは強くおもうの
である。でも、それは叶わない。いや実にも
どかしい。よって、イライラする。イライラ
すると尚更、念いがフツフツとして。時に、
頂点に至りますと、口をついて土石する念い
は奇声となってしまう。ので、近所迷惑であ
る。よって父は、そんな時はね、お口にお手
々を当てるのですよ、と諭す父・ゴンゾウは
四十八才、左官工である。

橋の上に少女がいる。嫌な季節が過ぎ、もっ
ともっと嫌な季節にいる少女が二人。欄干に
手をかけ川をみている。先日、お一人、飛び
込んだ為、欄干には四本しか手がない。蛾。
鴉。モンキー。ミサイル等が漸く飛行を終え
。もっともっともっと嫌な季節がやって来る
。鉛色の空に、何を想ったのでしょう。発作
のごとく高じた幼子の思念は口をついて決壊
しようとムクムクしている。だが、我がムン
クちゃんは、いい子である。父・ゴンゾウの
教えを守り、小さなお口にお手々を当てて、
来るべき予感を黙殺。我がムンクちゃんは、
橋に佇み。瓢箪頭もユラユラと。朽ちかけた
鉛色の雲の彼方に、恐怖の先駆けをジーッと
視ている。

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気化

  T.T

『気化』

みなさん、とてもジンガイでした。なのに、とても流暢な江戸弁で。ここぞとばかりに気化したそうです。ですから声しか聞こえません。何かを作っているらしく 組み立てたり また それを 丁寧に破壊したりで、忙しいそうです。先生は、仰るのでした。想像してごらんなさい、と。僕は、想像してみました。鴉って云うのは、ニッポンチャチャチャのシンボルでしたね。とラテン系ニッポン人のミケランジェロ・アントニオーニさんが云うのでした。あっしゃね、こんなツラしてるけんども、魂はサムライですからね。そんなアントンの家族構成、住まい、趣味、性癖等を具体的かつ詳細に想像しようとしていた所。どうされたのでしょう。先生は、とても立腹されており、僕のアフロな頭髪を鷲掴みにされると工場の壁面へ打ちつけてくれるのでした。どうされたのだろう。お薬が切れかかっているのだろうか、と心配におもいながら、打ち続けられておりますと、わたしゃは、あんたに、犯された、3度も、3度も、ね、と絶叫され、工場の壁面へ僕の頭蓋を打ち続けてくれるのでした。先生は僕が想像している内容を想像され、御間違いになったんだなーと笑いながら、血を流していました。そんな先生も ようやく気化され 僕はかつて工場だった廃墟で独り頭を打ち続けておるのですが。未だに、気化できていません。

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布巾

  T.T

『布巾』

布巾を濡らして発言者の顔にのせる。太郎が右腕 次郎が左腕 三郎が右足 四郎が左足 五郎が胸に股がり 身動きがとれない発言者は布団の上 濡れた布巾の下 発言した口ともども 鎮められている。六郎が発言者の頭部を抑え 七之助がカーテンを開け 天気予報 外れたね と言う。発言者の口が布巾の下 まだ何かを発言しようとしている。なにを今更言ってるの?と金魚鉢を覗き込んでいた花子が言う。金魚がパクパクしているようなものさっ、とピーターが花子の手をとる。ピーターが花子を抱き寄せる ピーターと花子が見つめ合う ピーターと花子がステップを踏む。ピーターの腕の下 花子がくるくる廻っている。あそこの煙突 なくなるんだって、と七之助が言う。でも煙が出てる まだ燃やす物があったんだ、と七之助が言う。あの煙突の向うは泥の山だ、と六郎が言う。その泥の山の向うは海だ、と五郎が言う。でも、狭い海だ、と四郎が言う。埋め立てるんだ、と三郎が言う。あの観覧車もとりこわすんだ、と次郎が言う。もーそろそろ、と太郎が言う。もーそろそろ、と太郎がもう一度言う。ピーターと花子が踊り終え 会釈し 離ればなれになっていく。布巾の下 発言者の口が動く事をやめている。ブルドーザーがたくさんあったねー、と太郎が思い出した様に言う。さてと、僕は何をしようと、と次郎が言う。さてと、僕も何をしようと、と三郎が言う。僕はこの左足を放す、と四郎が言う。僕はこの胸から立ち上がる、と五郎が言う。僕はこの布巾を剥ぐ、と六郎が言う。七之助がカーテンを閉め 花子が発言者の顔を跨ぎ ピーターが鍵をしめる。


動物屋

  高岡 力

『動物屋』

動物屋へいった
小さいながらも庭を持ったからには
その庭に生き物を飼いたいと    
妻がせがんだのだ
手間がかかるじゃないか
世話ならあたしが
と ひかない
ならば 見るだけ
と 坂を下ったのだが
庭とは云わず座敷で飼いたい
人並みに服なんかも揃えてやりたい
と きたるべき未来について 妻は 夢想しだした
和むわ 和むわ 溢れる妄想の庭に
陶酔の夫婦が いるらしく
ほら 和むでしょう 軟らかく頬をゆがめて
団欒を繋ごうとする つがいがいい 仔ができて
庭を駆けて回る姿が
ありありと脳裏に 開かれているらしく そうよ名前よ
考えていてくださいな うつくしい響きを
次々と空に並べはじめ 考えてくれていますか
どれにしますか こんなんでいいんですか
優しい響きがいいでしょう こんなんではどうですか
ねえぇ と 踞りはじめた私の背に
沢山の名を刻みつけてくる
動物屋に 入れば 
旺盛ですか 多産ですか
適応性はどうですか
何と何がかかっていますか
お乳などはどうなのですか と
主人を 追い回してる 私の姿が映り込む程
大きな瞳の黒い仔が じっと こちらを 伺っている
私はつとめて優しく ほら視て御覧
従順そうだよ 元気そうだよ きっと和むよ ほら・・
いや! そうじゃない これはちがう あれはちがう
どこにそれはあるのでしょう? と主人に詰め寄っている
なあ 聴いてくれよ おまえ 
小さいながらも
庭を持ってしまったからには
その庭に 木を植えたいよ 手間はかかるが
世話なら私が きっと和むよ 溢れる妄想の小さな庭に
一本、木が生えて来て 適応性はどうだろう
たくさん葉をつけるだろうか 虫など 湧かさないだろうね
そうだ 花もいい
南国の花だよ 咲き乱れる光景がありありと
脳裏に拡がって来て 和むよ 和む・・・ 
杭を打って 仕切ろうよ 
繁殖だよ 旺盛だよ
さあ おまえ 植物屋に いますぐいこうよ
と 云ったが 聴かない
こんなんじゃない こんなんじゃない
あたし達の仔は こんなんじゃない
それはどこにあるんでしょうね と
かたっぱしから物色してる 
私はつとめて優しく ほら視て御覧
四つ足だよ 毛だらけだよ 牙だって
ちゃんと生えてるよ
来るはずもない未来について
妄想を止めぬ妻の肩が
度を越して震えだした
ぞろぞろと頬を濡らしてしまうと
つられて 私もほろりと零した
手を取って崩れてしまえ
手を取って崩れてしまえ
そうすればひとまづ治まるじゃないか
と おもっていると
いやちがう いやちがう
あたしの仔は こんなんじゃない
取り合った手を 振払い
和むわ きっと 和むわ
かたっぱしから物色を また
一から はじめた


理論

  高岡 力

『理論』

なにのたうちまわってやがんだか。だるーい独楽が止まる事を知らねえ。賭けるでもなし、いっちょまいの男が四人現場でウンコ座りして、だるーい独楽を黙ってみてる。が、一人これ独楽かなーとおもってる男が思い切って言ってみる。これ独楽だよなー。ああ、独楽だ、と一人がこたえる。だがよ、小一時間、止まりそうで止まらないてえのは独特の独楽だーねと言う。元来の独楽じゃねーんだろうなと兄貴がこたえる。ほら、幾分浮いちょるよと兄貴が屈む。えー、と三人が屈み。確かにと三人が口を揃える。これ最初に見つけたの、誰だー。あー、俺だーと手を挙げた男が、最初っから、だるーく廻ってたーと笑う。もうそろそろ、家、ぶっ壊さなきゃなんないけんども あー さすがに きになるー と三人は立ち上がろうとする。その時アルバイトが言う。これは物理的におかしいと思うんですよね。あー、さすがインテリだ!と兄貴が言うと、こいつ馬鹿にしてんですよね俺たち、と言って、やっちゃいますかこいつと立ち上がるのを制して兄貴が言う。なーつ、君、これがどう物理的に可笑しいのかを僕たちに説明してくれないだろうか。アルバイトは、えー、みなさん ご案内の通り、この物体は先程より宙に浮き続けております。さて、推進力はなんでしょうか。あのだるーい回転でしょうか。ノンです。重力と言う呪縛をいとも容易くといているこの物体は、理論上在ってはならない存在です。これは、何かの啓示なのか。否、ひょっとして、これは、永久機関?ああ 僕らは幸運にも、奇跡に立ちあっているのです!もー家なんかぶっ壊してる場合じゃない。これを誰かに知らさなければとアルバイトは砂塵と共に走って去る。ノンだってよと、一人が言う。啓示だってよと、一人が言う。理論上在ってはならない存在かー、と兄貴が言う。ならば、無いんだな、これ、と兄貴が言う。無い、無い、と一人が言う。無い無い尽くしの無い尽くしと、一人が立つ。さー、ぶっ壊すぞーと、兄貴がシャベルカーに乗り込む。屋根が落ち、壁が崩れ、柱が折れる。家が物理的に無くなっていく。理論上在ってはならない存在は、だるーい回転を続け、止まりそうで止まらず、幾分宙に浮き、やはり、そこに、在る。

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文学極道

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