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軽谷佑子 - 2008年分

選出作品 (投稿日時順 / 全3作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


練馬区

  軽谷佑子

ふしあわせな
作品をかいてとても
嬉しそうに笑っている
あのひとは疲れて
話しことばをひとつも
みつけられない

霜ばしらを踏む
ために水を浴び陽を
浴びて

平穏の光が射し
もうなにも残っていなかった
夢が来た

町のうえにある
ほのおが垂直に落下する
ブロッコリー畑を焼き
家を焼き学校を
焼いて電線の鳥が
くちばしもあけず
こちらをみている

何度も目をあける
熱のこもる部屋にいて
隣には、
隣には、


  軽谷佑子

よごれた床に
寝てひとの指を
手のひらをわすれて

戸口はあかるく
きれいな赤い土や生木や
枝が積まれる

風もひとりのとき
はすきまをかける草が生え
草が生え

陽が射して
後を追うひとびとの
声がする出かけていく

草を切り
草を切りたましいだけ引きずって
からだとこころはきみにやる


夢をかなえる

  軽谷佑子

シャッターが風で鳴る
どうして
みていなかったの
いつも歩いていた

駅へ行って
夢をかなえる
高架をつくる
鉄骨のなかときおり
吐き出されるほのお頭が
のぞく

おおぜいの
一部になる温かい
まだいきているとりをくちに
ふくむ

シャッターが鳴る
したに吹きこむ風が奥の
ひとの気配をつれてくる
目のまえをとび交う
名を知らない

駅へおいで
壁を這う大きな
虫の背にふれるすこしも
恐くない という

文学極道

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