息を
ふきかけると椅子は
音もなく倒れた
溶けるように透きとおっていった
おりてくる光線
両足は砂に埋れたまま
口をあけみあげている
貝殻になった音楽を拾いあげ
耳にあてる
もう死んでいるから
なにも聴こえない
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ねむのき - 2018年分
(無題)
駐車場
錆びたバケツで、壁に水をぶちまける
壁は
心臓じゃなかった
でもどきどきしてる
ポケットからアクリル板の切れ端を取りだして
太陽を見あげた
目のまえをちいさな船がよこぎって、波が視界にあふれてくる
アクリル板で
お父さんを透かしてみる
(悲しいって、何色だと思う?)
駐車場にずっと立ってるお父さんを窓から見おろしていました
お父さん、なにしてたのかな?
わかりません
窓のまわりには死んだ羽虫が仰向けになってて
四角い青空があって
一枚の凧が
女の子の顔みたいに浮かんでたんです
(そんなん言われても知らんし)
土曜日は
お父さん、お母さんを殴ってるから
衣装箱のなかでなるべく静かにしていようとおもっていて
日曜日は?
覚えてません
(白いの?)
こうやってさ、鋏で
おまえが書いたへたくそな詩をきりきざんで
窓からばら撒いてみるの
そっちのほうがもっときれいじゃん
(そうかもね)
それできみはお父さんになんて言ったの?
でもちがくて
でもちがうんだよ、お父さん
っていいました
(でもちがうんだよ、お父さん)
窓をあけて
風のなかで手をひらいたんです
それで?
アクリルで透かしてみていました
ひらひら、
白くて
それからまぶしかった
太陽が
いま、
棺のなかで父が燃えています
(ざまあみろ)
生きるというのは
とても戦争的なことですから
骨までぜんぶ透きとおっていくんです
ほら、
ここが喉仏です
汚いゴミみたいに、みんなで箸でつまんだり
壺にしまわないでください
わたしが死んでも
窓のそばで死んでる蠅みたいにそっとしておいてください
(お父さん、なにしてるの?)
錆びたバケツで
棺に水をぶちまける
でも棺の中身は
もう父親じゃなかった
(ねえ、悲しいって、何色だと思う?)
(ここ駐車場
駐車場しかないよ
ただの駐車場だよ
ねえ、お父さん
はやくどっかちがうとこいこうよ)