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どしゃぶり - 2016年分

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


west coast

  どしゃぶり

早くあのこに追いつきたくて
よそ行きのぼくに/を打つ
きゅうりのピクルスを刻むように、こまかくこまかく
おいしいサンドイッチができたら
コーヒーをクロスプロセスに加工して
いつもの味

早くあのこに追いつきたくて
だれかれ構わず寝る子のように#を打って
「なんか面白いことしましょう」と言ってみる
「一人ひとりテーマを持つ。そして世界は少しずつ、素敵になるの」
と、あのこは言うけど、
ぼくには生きている実感しかなくて、生かされている気がしないんだ

いろいろあって、ぼくはここから動けません

今頃あのこは夜明けのビーチで
いま、ここ、わたし、に向き合いながら
林檎を相手に自慰行為をするのだろうか
そのあと
赤ら顔のおじさんが大量に流されて木星の大赤班のようになった地点をgoogle earthでチェックしている姿は
何となくだが想像がつく

あのこは自由に恋をするより、たたかうほうがすきかもしれない、本当は
すべての武器を楽器に(註)変えたら
そいつであのこと殴りあおう
これでぼくらは
やっとおあいこ


註)喜納昌吉『すべての武器を楽器に』(冒険社 1997)


油壷

  どしゃぶり

親の身体は不思議だ。子どもはえてしてお父さんの穴をみつける。洞穴を覗くと、血をたたえる磯辺。岩場の隙間、ざざん。ざざん。ざ、ざん。ざざ、んぼ。と波を聞くうち、環形動物が血を吐く。吐き出し。吐き、出し。また呑む姿がみえる。でも、おれはみなかったことにしたよ。そうして生きてきたよ。やがて生まれたばかりのおまえ、倦まず、おれによじ登り、首筋を小さな指でつつく。穿つ。ひらかれ、裏返る、おれの身体。

お父さんの穴をたとえるなら理科室脇の階段といえようか。白く脱色した蛇、鼠、鮫のホルマリン漬け、孔雀の剥製、脳、創立百三十周年のラベル(誰の脳髄?)。その奥に階段はある。おれはもう大人なんだから。ふと思い立って降りる。立小便するように。そこは油壺の水族館でした。前庭のタイルはひびわれ、あらゆる飼育員から忘れ去られた、ここは星。あらゆる病を詰め込んだふるさとだよ。腐った水に逼塞する細長い生き物。その一匹と目が合った。

足の親指に疣。紫色した菟葵のような疣。頼りない輪郭線を描くシステムによって、なんとかおれは維持されている。今夜、もののはずみで内破(evolve)。あとからあとから殺到する疣。疣以上の疣。押しのけ押しのけ打ち破る豊穣。末梢から熱帯雨林。繁茂。繁茂。おれが木になる(身体はどこからどこまで?)。おれの、おまえの、皮膚の下。潜む富士壺。
油壺。

文学極道

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