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ためいき - 2008年分

選出作品 (投稿日時順 / 全2作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


幻想領域

  ためいき


わたしたちは
わかりあうことが
できない
互いに未知な
存在であることも
できない
何ひとつわからない
そう叫ぶことすら
できない

夢の円周に
黒い風がめぐっている
丈低い草が乱れ
泥川が丘のふもとを濡らす
鉛のように垂れる雲
枯れ始めた木々
あなたの追憶

わたしの十字架は
あなたの骨片で
できている
あなたの喪服は
わたしの頭髪で
できている

青く凍った乳房に
木の男根が枝を伸ばす
開かれた唇の奥
赤い咽喉に蜜が滴る
遠い空は
永遠の灰色
陸橋から小学生の見下ろす
銀色の線路の上に
あなたが

  星ノ光ニハ
  潮ノ匂イガスル
  ススキガ波ウチ
  金ノ人形ガ
  浮カンデハ消エタ

見失われた歳月から
こぼれおちる砂
いったい
誰が孤独なのか
誰が愛されているのか!

・・・夜明け
死児を抱いた
あなたの写真が
霧のように燃え尽きる
透明な風が低く吹き込み
時間はいくつもの層にわかれ
まだ目を閉じたままの夢のために
まだ眠りを許されぬ震える指のために
一滴の光が・・・

わたしたちは
愛しあうことが
できない
心を閉ざし雲を追うことも
できない
わたしはただ
見つめる
なすすべもなく
見つめ続ける

今 生まれおちようとする
あなたを


  ためいき


切断した蛇の首
山水の流れに踊る胴体
光る鎌を持って
それは
真夏の真昼のこと

背丈より高い草を分けて
時折意味もなく鎌を振り回し
貯水池へ
青緑に濁った
忘れられた場所へ

(アナタハオ忘レカモシレマセンガ、
アノ石油ショックノアト、
革命モヒモ同然ノ生活モ出来ナクナッタト首ヲ吊ッタ男ハ、
アノ辺リニテントヲ張ッテイタコトガアリマス)

(彼女ガ、
祭リノアトノ空虚ノナカデ、
線香花火ヲ見ツメテイタノハ
確カソコカラ町ニ続く細イ道ダッタネ)

迷い込んだ森
燃える陽光に撃たれたように
無数の蛇が枝から落ちてくる
殉教すらない道程に

鎌をふりまわして
もうひとり鎌をふりまわす誰かの気配とともに行く
森から出て、垂直の光りに焼かれると
繁茂する笹のなかに光る水面

三十年前と何も変わらない
その貯水池の上に
水鳥の羽ばたき、光りの水滴、そして
静寂

文学極道

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