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いかいか - 2007年分

選出作品 (投稿日時順 / 全6作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Station

  いかいか

#砂浜、足跡を消し去って、

 砂浜を歩いている。私が自分の名を砂浜に刻んでいる。そして、波が、文字をさらっていく。そして、また書く。また、さらわれる。カモメが一匹、私に向かって、「砂浜に刻んだその名を消せ」と言う。

#放火魔の右目は青い、

 一人の放火魔が今まさに処刑されようとしている。多くの民衆は、彼の姿よりも、彼の頭上にあるギロチンを凝視して、固唾を呑んでいる。放火魔の右目―青く、海を連想させる―から波が起こり。民衆を飲み込む。一匹のネズミが彼の右目に噛み付く。黒服の処刑人達はざわめき。彼の背中に一つの烙印をおす。彼は燃え続ける。彼は永遠に燃え落ちない。そして、誰も彼に触れることができない。青い右目、ネズミの口で青く輝く。そして、ネズミの舌は青く苦い。

#展覧会で喪服の人々は、

 絵の展覧会で喪服の人々は、一人の画家の肖像画の前で泣き叫び。別れを惜しんでいる。肖像画の瞳は遠くを見つめ、喪服の人々の事すら見ていない。彼の座る椅子の下でネズミは、ネズミ捕りにかかりもがいている。其の光景をキャンバスに描いていく画家が一人。彼のキャンバスは未だに白紙のままで何も描かれていない。

#今日、夜の農場で、娘と父は

 若い娘が一人、怒り狂いながら泣き叫んでいる。そして、彼女は農場の空き地を指差して。「今日、父があそこから這い出て、私を犯しにやってくるわ!」、と、罵りまじりに言って、また泣き叫ぶ。そして、父は、夜、一人、地面から這い出て、狂った娘を抱く。壁にかかった一枚の絵の中で子供たちが笑っている。

#君の見た夢の中、だが、

 暗闇の中で犬が椅子を押している。外は雷が鳴り、それ以外は何も音を立てない深夜。犬、それでも尚、椅子を押し続け、部屋の中をぐるぐる回っている。子供たち、扉を開けて、犬を蹴飛ばして、椅子を粉々に打ち砕く。犬が痛みを叫んでも彼らはやめない。そして、大人たちが、犬を解放し、椅子を新しく与える。犬、また、椅子を押し、部屋の中をぐるぐる回る。そしてまた、子供達にぶたれ、椅子は打ち砕かれ、大人たちがすべてを元に戻す。犬、今日もまた、同じように。

#カモメの後ろで、人々は、

 灯台守の座る椅子が盗まれ。打ち砕かれて捨てられているのが見つかる。多くの村人が疑われる。青い舌のネズミ。隅に居場所をみつけ居座る。喪服の人々が、ギロチンを囲むが、殺されるべき人は未だ着ていない。誰も来ない事を問題とする判事、怒り狂って、盗まれた容疑で灯台守がギロチンに。子供達、それを見て喜ぶ。青い舌のネズミの舌はまだ苦い。そして、カモメが一匹、灯台守の頭上を越える。
 


あらかわようこ

  いかいか

おわりがたがやされて
ひらかれてしまった
はじまりはいまだたがやされずに
とじられている
わたしたちのおうこくのたはたのように


どこかとおくをみつめる
しっちたいにあつまった
はなばなのむれよ


わたしたちのおうこくのかなしいつきよ
そしてたいようよ
わたしたちのこのゆきのおうこくに
きょうかいせんを
わたしたちのひめいは
ひつじたちのあし
わたしたちのかなしみは
ひつじたちのゆめ


ひつじたちがさんどねて
さんかいころぶ
あさはそうやって
うみだされて
はじまりはとじられる
よるはひつじたちのまばたき
ろっかいとんで
よるはうみだされて
たがやされたまま
ずっとひらかれたままになる


わたしたちのおうこくのゆめ
それはひつじたちのむれのつめたさ
わたしたちのこえ
ひつじたちのようもうにからまって
おちることをしらない
わたしたちのからだ
それはひつじたちのかなしみ


おわりとはじまりを
たべるひつじたちの
けだまから
ひる
わたしはせーたーをつくって
ふゆにそなえてひとりきる


荒地

  いかいか

荒地


さようなら私たちの懐かしい荒地
実りを知らない荒地の春
私たちの残り香だけが香る
私たちの稲の家は
荒地の春に燃やされて
私たちは駆けていく
どこまでも遠くへ

例えば、例えば、と、
子供の様に聞く
それは私たちが知らなかった春
何れ会うことになるでしょう
あなたたち
私たちの乳母は未だに
狼の群れの中で
炎の晩をしているのだから
私たちは出て行ける
そして雨が、雷が
私たちの荒地を打つでしょう、
雨が止まる瞬間、
私たちは待ちましょう、
どこまでも長い時間の中で、
どこまでも下っていく時間の中で、


そして原野へ

私たちの野に開かれた田畑
夜、田畑につみあがる子供たちが降りてこない
私たちはそしてまた出て行くでしょう
私たちの背骨から生える
多くの原野よ
私たちの春を知らない
春の友人たちよ、
湿地帯を越えられない多くの友人たちよ
あなたたちが醜く引いた線も
いつかは雪に覆われて
この世から消えてなくなるでしょう
だから私たちは駆けていくでしょう
この荒野という緑の極地から
戦うために私たちの乳母が知らない原野へと
さようなら荒地へ逃げる春の友人たち


揺れ

  いかいか

たった一冊の詩集を読むために
僕は朝早くから肘をつき
頭を垂れる

7インチLPから流れる"揺れ"と共に挿入される小鳥のvoiceが部屋に充満し
Vibrationする異次元空間へ平面からの逸脱をそれは朝もやの中からの起床
起立させられた音階のすべてにはにかみSmileする君の顔からまた新しいVibs
の波紋が部屋中の壁にぶつかり"拡散する"砕け散る波の集合が僕を覆った時に
Coffee makerから湯気立ち上りすべてをもやの中に帰した喚起の声がアンプ
から開放され縦横無尽に"世界を駆け巡る"すべての方程式の中で呼吸し圧力の重さ
の中で僕は俺へと変わる"Vibration"する文字

すべては"揺れ"の奥へ


舞妓の葬式

  いかいか

年老いた舞妓が齧る、
骨の音は、
いつまでたっても、
小さな音だろう、
僕が、遥か昔、
伊勢神宮で嗅いだ、
古代の人々の裸足の土の香りは、
今にも、私の隣の家の畑を耕してしまいそうだ、
そういえば、僕は葬式を散歩するのが日課だ
例えば、別れたばかりの恋人たちが好む雨の中を、
サンドバックを引きずりながら、
砂煙を上げて噴水に投げ込むまでに、
どれだけのカップル達が
アメリカンフットボールの試合の用に、
タッチダンすることができるだろうか、
もし、幽霊だけで結成されたチームがあったら、
間違いなく優勝するだろうが、
彼の足が生えてこないかどうかを審判はきっと気にして、
審判の足はさらに増える
そうこうしているうちにホイッスルが鳴らされて、
チアガールじゃなくて舞妓達が踊り始めたら、
恐らく僕の勝ちだろう、と、
毎晩、舞妓達が塗り上げる肌色は、
きっと彼女達の熱い闘志を隠すもので、
彼女らがボールを投げあいながら、のしかかりあいながら
押し合いへしあいしながら、
グッドモーニングアメリカ、と、ラジオで叫ぶことを
夢見ることは間違いだろうか?
深夜、壊れたラジオなんてのは使い物にならないのだから、
葬式と一緒に火葬場で燃やすことを僕は強く推薦したい、

京都に住んでいた時、
友人の友人が舞妓だったが、
彼女が僕に言った事といえば、
長唄の一つでも歌えるようになったら、
本能寺で遊びましょうと、
つまり、僕に燃え落ちろってわけか、


便所の落書きがなく日に

  いかいか

便所の落書きが泣く日に、
君たちが止まらない季節に、
燃え盛る冬が、
いつの間にか収穫を終え、
無数の積雪を納屋に積み上げるかのように、
私たちはどこへも行けない、


私は君たちの熱い鼓動の季節を感じることはできるが、
君たちの冷えた体を震わせるぐらいの感覚しか持っていない、
もうすぐしたら、
死者達も聖者もこの世からいなくなる、
そういう季節がやってくる、
私たちは静かに神話の中で寝入り、
ゆっくりと今を忘れながら、
何度も何度も、夢の中で、
ノートの端に書き続けるだろう

物語が神話へ熟すとき、
それは破裂して、
二人の人間を狂わすだろう、
その間に生まれた子供たちは、
盗人となって、
ムーサの前で
やはり何度も何度も
追い出された流刑の地を思い出すだろう


神話の中で暴れ狂う一人の男を
先日、古事記を読み直しながら考えた、
物語の中での彼の位置は一体どこにあるんだろうかって、
彼が根の国に降りていくまでに、
多くの人たちが傷ついたり
もしくは、彼を忌み嫌いつつ、
彼は母を求め、降りていく
彼は世界を統べることよりも、
母という女を求めて
暗い死の世界へ降りていくときに、
何を思ったのだろうかと、


便所の落書きが陽だまりの中で、
散乱し、錯乱している、
この季節に、
君たちの鼓動はやはり熱いが、
君たちの体は冬の寒さに凍えたかのように冷たく震えている、

もうすぐしたら、
すべてが神話へ熟して、
一気に破綻するだろうから、
そんなに慌てなくてもよい、と
私が眺める私がいない世界は囁いたまま
静止し、
なだらかに誰かの瞳を反射して、
どこまでも切り開かれた田畑の上を、
照らすばかりだ

文学極道

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