タンクローリーが国道を悠々と流れていた。
ほかには外灯があるだけで。
蛾や羽根虫が漂っている。
エンジンの音の響き。
船室のなかで眠ったときを思いだす。
音をかき分けるように壁のむこうでパパの声が聞こえる。
コップに浮かぶ滴。
机には飲みかけのジンジャエール。
それにカメラ。
そばにはビー玉。
そのビー玉が落ちる。
アクセルを踏む。
ハンドルを切る。
タンクローリーの横を加速する。
目のなかで、光りが白くなる。
波が足にまとわりつく。
ボールが脛にぶつかってくる。
振り返る。
パパが手を振っていた。
ボールをつかもうと、かがむ。
けど、波に引かれる。
ビー玉は床を転がる。
窓の外をパパの姿が過ぎり部屋を暗くする。
カーブになるとタンクローリーは見えなくなった。
選出作品
作品 - 20140118_922_7244p
- [佳] ある年表の一節より - 水野 英一 (2014-01)
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ある年表の一節より
水野 英一