選出作品

作品 - 20120409_924_5999p

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ピエロノーム

  紅草

 
重力にまかせた指先の行方では
あなたの眼球が串刺しになり
春うららの中で一番の開花を宣言した

遠慮深い花見鳥は空高く飛翔していく
ああした振る舞いは私には到底できない
私にできるとすれば飛翔とは真逆
この植え込まれた手指を伝い
あなたの水晶体へと生まれ落ちることしか

中身のないこの身体はからっぽだから
抜け落ちた羽のように落ちるに違いない
私はそのためにからっぽに生まれたのだから

そうした私の期待は軽やかに逃亡して
早すぎる自由落下に全身の皮膚が翻る
ボロ切れのような乳房が剥き出しになり
はたはたと上下させる
相対する情けしらずの突風

衝撃を迎えた私が壊れることはなかった
そもそもの話として
からっぽな私には壊せるものがなかった
せいぜいベロベロに延長する乳房ぐらいしか

ああ、どうやら
わたしは水晶体を突き抜けてしまったらしい
ああ、ただの一本でさえ
視神経は奥行きをもって息づいている
わたしとは別世界のそれらが妬ましかった
妬ましくてだから幾束かを引きちぎった

感じるのは未だに脈動する手振れ
焼け焦げるような嫉妬にかられてだから
みすぼらしいピエロは首を吊った
右へ左へ〜前へ後ろへ〜
とまらない振り子は私を愉快にさせる
いくつかの時が経つと
ピエロの胴体は腐り落ちてしまった
頭部だけになる
振り子の周期は変わらずのまま
右へ左へ〜前へ後ろへ〜
ふと足元に目をやると
飛び立ったはずの花見鳥の死骸が踊っている

ここで私は一つのことに
はた、と気が付いた
満たされることがないように
生まれ落ちた私のまわりが
常に絶妙な音楽で満たされていることに