ある日ぼくはコンビニでブタと出会った
黄色と白のストライプの入ったパラソルを握り締め
成人雑誌コーナーでブタは立ち読みをしていた
彼の背中とすれ違うと
どんなに待ったと思う?
ブタは唐突にそういった
立ち止まると彼は横目でぼくを見た
ブタに話しかけられるのはこれが初めてじゃなかった
3年前
バカンスでコルシカ島に行ったとき
地元のブタに話しかけられたことがある
ブタは手にしていた如何わしい雑誌をぼくに手渡し
これ一冊買っとけといった
見も知らぬブタにタメ口をきかれぼくはムッとしたが
あまり相手にしない方がいいと思って
黙って買い物カゴにそいつを入れた
ブタはぼくにきゅっとウインクしたが
はっきりいって 気持ち悪かった
買い物を済ませるとぼくは愛車のアテンザにキーを差し込み
ブルンと捻った
缶コーヒーのプルトップをパキっと起こし
一口飲み干すと
さっきは悪かったな
後部座席を振り返ると
コンビニのブタが縞々のパラソルを差したままぼくの顔をじっと見ている
ブタ!今すぐ降りろっ!
おいおいブタって失礼だな
彼は肩をすくませ 半笑いで応じている
そして短い足をきゅっと組み
後部座席にもたれかかり
これからどこへ行くんだとかトボケたことをいっている
家に帰るんだよ!
なんだ?お前一戸建てか?
つまりそのなんだ?両肩にローンを30年分背負ってるってわけだな
つらい身だなーお前も
怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた
ブタ君よ
これが読みたかったんだろ?
ぼくはさっきの如何わしい雑誌を袋から取り出し
後部座席に放り投げてやった
一瞬
ブタの目蓋に暗い影が差したような気がしたが
彼は陽気にこう言い放った
おいおい 何だ?俺がこいつで一人でアレするとでも思ってんのか?
カストロもびっくりだよな
カストロって何だよ
キューバ革命の英雄だよ
お前そんなことも知らんのか?
でもスカトロとかなら知ってんだろ
そんな顔してんもんなお前
いいからブタ!ちょっと降りろや!
ぼくは車のドアをバンと叩きつけ
ブタを引きずり出し
グゥーで2、3発殴ると
ブタはアスファルトの上にだらしなくのめりこんだ
止めの一発に蹴りを入れてやると
ぼくは素早く車に乗り込み
ブルンってエンジンをかけた
なかなかいいパンチだったぜ
お前むかし格闘技とか習ってただろ
振り返るとまたブタが擦り切れた顔から鼻血を出したまま
例のパラソルを立て 後部座席に座ってぼくの顔をじっと見ている
何が欲しいんだ?
ぼくは呆れて彼にいった
できれば 愛とか?へへっ
ブタはまた下品に笑った
選出作品
作品 - 20081206_060_3198p
- [佳] あの日のブタと - ミドリ (2008-12)
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あの日のブタと
ミドリ