選出作品

作品 - 20081201_950_3180p

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[開封後はお早めにお召し上がりください。]

  香瀬


[開封後はお早めにお召し上がりください。]



さて、アルマジロを一匹コートのポケットにつっこんで砂場へ行こう。公園の砂場に
は猫の糞が大量にあるから砂漠へ行こう。家から出て3つ歩いたらなんとなく砂漠で
す。持ってきたシャベルで穴を掘っては順々にアルマジロを埋めていく。風が吹いて
空が見えなくなったら砂が降ってくる。真っ白なコートに砂が吹きつけられてポケッ
トのあたりをはたくから、みるみるうちにアルマジロが増えていく。増えた分だけ穴
を掘らなければいけない。ポケットの中には赤茶色の完全な球体にも似たアルマジロ
が大量に丸まっていた。これらをすべて埋めなければいけない。さらさらした砂は海
のように波を吹き上げて、急いで穴を掘らなければならない。砂が当たって痛い。掘
り返した砂が巻き上げられ真っ白なコートに降り注ぐのでコートをはたくとアルマジ
ロがまた増えるからなかなか家に帰れない。


カメレオンに「敬礼ッ!」って娘がはじめたので真似をすると、パパの敬礼はまった
くなってないと娘は言う。ママが炊き立てのご飯の上に鰹節をふりかけている。明日
になると鰹が生えてくるわと言ってジャーのふたをする。敬礼ッ!ほんとにまったく
ぜんぜんなってないわと娘に説教されながら、今年初めてのカメレオンを夢想する。
夢の中で娘の両目がロンドンとパリを同時に見つめながら、あらゆる背景を拒絶した。
「自分の色ってものがあるんだからねッ!」長い舌を器用に操り自己主張をする娘を
見てパパとママはうれしい。続きはジャーの中で夫婦の営みを、と思ったら娘の器用
な長い舌がふたを開いた。二匹の鰹が屹立して「敬礼ッ!」とパパとママの声で叫ん
で、娘が明日になったことに娘は気づく。


別に飛べないわけではないのだよ。ペンギンが重いくちばしをやっと開いて語り始め
た。わたしはおぼろげなテープレコーダーの録音ボタンを押す。幽霊のようにペンギ
ンがため息をつく。でも、誰かが損をしなければいけなくて、それを率先して引き受
けることがそんなに馬鹿なことでしょうか。歯ぎしりした犬を想像して笑うならふふ
ふ。黒と白のタキシードを着こなし、ヘアワックスをたっぷりつけたペンギンは、普
段の愛らしさもどこへやら、めっきり老け込んだ様子。涙目であることを指摘すると、
陸上は海の中より乾燥してますからね、と強がる。着々と海水面が上昇している。干
からびるのを防ぐための嗚咽が黒く白く続々と漏れる。テープレコーダーはためらい
もせずそれらを飲み込み、私は耳をふさいで目を閉じていた。気づくと半透明にペン
ギンが飲み込まれるのを目撃したはずだった。わたしはテープレコーダーを巻き戻し
恭しく再生ボタンを押すと、幽霊のように泣き真似を始めた。