選出作品

作品 - 20060228_942_1003p

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一月の暖炉

  アメ

彼女が妬ましいので冗談のつもりで
暖炉に押し倒すと別珍のスカートに火が付いて
あっという間に燃え上がってしまったのでした

ぺらぺらと彼女への賛美が口を付くわたしは
周囲からの信頼も厚く
くちびるが焼け爛れてしまった彼女は歌うこともできぬので
この身は無実となりました
なんて可哀想な彼女とあの人


ただひとりあの人だけは
私へ疑いの視線を投げます

それがわたしにとってどんなに心地の良いことか
きっと彼は知らないのでしょう
知っていたならわたしのことなど
見向きもしないに違いない


彼女は美しさが失われたことを嘆き
やがて一月の湖に身を投げたのでした
わたしはあまりのことに言葉を失い
嗤い過ぎて嗚咽しました
ああ 呼吸が苦しい

人々は私を慰めますが
ただひとりあの人だけは
わたしを睨み付けるのでした

それがどんなにどんなに気持ちの良い事か
きっと彼は知らないのでしょう


あの人は私を許さないに違いない
やがて全てが消えうせても
わたしだけを許さないに違いない

そう思うと歓喜が身体を駆け巡り
私は嗤い過ぎて嗚咽しました


いつまでもいつまでも
肩を震わせ嗚咽しました