選出作品

作品 - 20060208_690_957p

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バレンタインのこと

  葛西 佑也


*お弁当のこと

今日もお弁当を 自分で
作ったってことを
フタをあけて初めて気づく
しょっぱいってこと、は
しあわせなんだと
自分に言い聞かせて
きんぴらごぼうを咀嚼、する
いつかの 女の味
に 似てるんだね これ



*屋上のこと

あたしのこと すーき?
それはもう聞き飽きた、と
思いつつも
舌を絡めてやる
お昼の歯磨きをしていないことを
思い出して 一瞬引き戻されるけど
すぐに忘れてしまう
そういうのもいいじゃんって
思う なんか自然体で


*昨晩のこと

台所で母さんが泣いてい、た
理由 は 分からないけれど
あの涙もしょっぱい だろうから、
きっと、しあわせなんだろうと
思うことにして
きっと明日は お弁当がないだろうから
自分で作るべき日なんだなって
自分に言い聞かせ て
あー ねむーい って一言


*先生のこと

せんせい ぼくは まだ
子どもなんです どうしよもなく
どーしよーもなく 子ども
だから、せんせいに色々
聞かなくちゃいけない
しゃっぱいのこととか
一瞬についてのこととか
気づくってどういう意味なのかとか
せんせいが生きていてくれたら
ぼくはしあわせなのに


*砂のこと

ゆめ、で なんども
なんども 砂漠が やってくる
そんなものは望んじゃいないんだけど
もしかしたら、砂が恋しいのかもしれない
ちいさいころ たくさん
砂遊びをして、しまったから
安部公房の「砂の女」が、
頭をよぎって
女はかなしいのかなって


*告白のこと

ラブレターがたまらなく、好きなんだ
おくるのも もらうのも
書きながら、読みながら
どきどきするんだ
伝えたいんだ しあわせだよ
しあわせ
きっと 愛しているんだと思う
だから、バレンタインを前にして、
すべて おわりにしたいんだ

って思う