第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


みさき (32/57)
  


ゃあまともじゃあねえで言うて、もういよいよ誰も近づかんのんじ
ゃけえ。わしもあがあな怖い思いしたんは生まれて初めてじゃ。
 ほうじゃ言うても、そのまま放っとくわけにもいかんし、あれが
表に出てきても困るけえ、もう川上さんには悪いけど閉めたほうが
ええじゃろう言うて、皆なでコンクリの板転がして、井戸の中見ん
ようにそおっと蓋をして、ぎょうさん石のせてその日は寝たんじゃ。
 ほんで怖いのはこっからなんよ。その日の晩に三次の春子さんの
とこから電話がかかってきて、出てみたら血相変えてあんたとこの
村だいじょうぶなんね言うからいったいどうしたんか言うたら春子
さんが、いま玄関に川上さんがきちゃってね、美恵子姉さんがえら
い大事故をして重態じゃ言うんよ、って。でも川上さんはもう亡く
なったんで言うたら、おばちゃんえらい声で悲鳴上げて受話器放り
出して、しばらく後に聞いてみたら、玄関が血だらけじゃ言うんよ。
ほいでも別に誰も怪我しとらんし、誰の血か分からん言うて、いち
おう警察にも来てもらったけど怖くて寝られん言うて、怖くて寝ら
れんのんはこっちよ。村の家みんな叩き起こして、いまこれこれこ
ういう電話があってこう言うちゃった言うて、話し合うた結果、下
野の三郎さんの家に嫁いできちゃった美代子さんのお兄さん、牛窓

第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道