失踪から一ヶ月がたった後、吉野家の母方の親族(美幸さんの叔
母)を通じて、霊媒と名乗る女が現れている。川上喜代子と名乗る
この女は、なんでも失せ物探しや未来視を得意とするらしく、霊魂
を下ろして会話をし、彼らの知恵を借りるのだという。
その方法は「こっくりさん」によく似ていて、白い紙に五十音のひ
らがなと、1~9までの数字、はいといいえ、霊魂を呼び込むため
の入り口の役割を果たす鳥居を書いたものを用いて行われる。
「こっくりさん」とは、美咲ちゃんが失踪した当時、世間で爆発
的に流行した交霊術の一種であり、漢字では狐狗狸とも書く。西洋
のテーブルターニングという交霊術に由来するものだが、実際はオ
ートマティスムによる自動筆記や参加者の意思で動いている場合が
大半である。しばしば感応精神病や集団催眠によるパニックを引き
起こし、社会現象にもなった。
喜代子の交霊術が「こっくりさん」と異なるのは、「こっくりさん」
がその場にいる不特定な何者かに呼びかけるのに対して、そこにい
るはずの特定の霊魂に呼びかけて行われることである。喜代子が言
うには通常の交霊、いわゆる「こっくりさん」では、動物霊と呼ば
れる「人の魂のかたちを保てず動物に成り下がった」対話不能の霊