第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


  田中智章


星をじっと数えている。
天の川の一部になりたいといって、彼は山を下った。夏至の夜。
自殺の仕方の講義だった。○を描き、△を計り、□は容易かった。彼も微かに頷いた。
山道に転がった大理石の彫像が、起き上がろうと震えていた。やがて背中の隆起から、羽が生える。間違いなく。
そうして逆に、彫像に潰されたトカゲは息絶えるだろう。
祈りとは何だろう。だが耳をあえて閉ざす。高山植物の根毛を食むように。
私や彼がここにいるのが祈りだと思った。あえて耳を閉ざしながら、風の冷たいのが心地良くて。

羽が生える羽が生える
麓では幾本ものマッチが黒く燃えて
羽が生える羽が煤ける
夜道に佇む木々の顔は深く窪み
羽が生える羽が腐る
枯川には角材の燃え滓が残され
羽が生える羽が自問する
山には純粋な音が住んでいて
羽が生える羽が生きる
独りでに生きて動いている

雷が鳴って、雨が降り、
彼の唇は紫陽花のように美しかった。
山を下りながら、○を描き、空を仰ぎ、△を計り、足がぬかるみ、□は容易く、体が震えた。彼も私も黙っていた。
私たちは祈れたのかどうか。雨と雨の垂線で、麓はざわついていた。


第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道