第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


ワンダーランド
  柳明太


人間は一生のうちに何度眠るのか、そして、そのうちの何度夢を見るのか、そして、そのうちの何度が悪夢なのか。僕は知らない。そもそも、夢とは。(幻影? 虚実?)) 夢の中で眠り、夢の中で夢を見る夜もあるかもしれない、ね。抽出され、限界まで濃縮された夜が星座の器を満たす。眠れない少女の傍らに、(ひかりとして照射された)影がそっと降りたつ。こんな夜は、果てない夢へのきざはしをのぼって。ワンダーランド。慟哭だって吸い込んでくれるだろう。



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幼いころ。
っ、と息をとめれば、こわくなって、きっとこのまま息をとめていたら、取り返しのつかないことになってしまう、と。水泳の時間がこわかったのも。暗闇がこわかったのも。眠っていることに気付けないまま、いつしか朝になっているのがこわかった。現実はとてもすばやいから、知らない場所に出かけているあいだに、ぼくは置いていかれてしまうだろう、と。
ぼくがいないとき、お母さんやお父さんがいったいどんな話をしているのか。恵美ちゃんと紫音ちゃんがぼくのことをなんと言っているのか。翔くんが誰と遊んでいるのか。いつも置いていかれることをおそれていた。



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宇宙の剥落を、まばゆい光点で隠せば、それだけで理想は歌になる。夢の矛先が深淵に向いているとしても、ワンダーランド、目覚めた少女に寄り添うのは繕えなかった歌。幻影とは叫びなんだ。僕の(少女の)肉体の隅々までもが、叫びなんだ。響く叫びと、内包された叫びが、夜の帯となる。夢のひとしずく、鮮やかな血液。
語彙の内側で、世界はおどけてみせる。反転したり、空の色を変えたり。寡黙な風が、少女の前髪をなぜる。夢にだって感情があるから、だから、泣きながら踊ろう。



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歴史がうたがわしいというのなら、数式だってしんじない。学校ではいつも、真面目なかおしたせんせいが、ぬすんだちしきをこわいかおで披露している。

「しらないひとにあったらちかづいちゃだめよ」
「しらないひとがこえをかけてきたらにげなさい」
「しらないひとがいえにきたらいるすをつかって」

せんせい、
みんなしらないひとです。



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収縮する夜が、異なる夜に飲みこまれ、ひとつの夜になる。ひとつの夜が、ほどけながら、幾多もの夜にわかれる。夢のなかでこそ自由に遊泳できる僕たち。が、夢を見ているときにぼくはいない。常に半分の幻影だけが、half,half moon,夜が、

円周上を駆け巡る。(円の中心には誰かが立っている(それが、お父さんなのか、あるいは、恵美ちゃん、あるいは、せんせい「しらないひとには(眠れない少女の胸元に、夢の破片が食い込んでいる。泣きながら笑ってもいいかな、ワンダーランド、

そもそも、夢とは。(幻影? 虚実?)) 夢の中で眠り、夢の中で夢を見る夜もあるかもしれない、ね。眠れば、いつかは朝がくるから。



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メランジェ。境界が溶けていくのがわかる。ぼくは朝に生まれる。楽しいことだけを考えてはいられない。だからこそ、遊園地のような夢を。眠りを広げていけば、しらないひとなんてどこにもいない。ワンダーランド、中心に立っているのが、

ぼくの残骸でありますように。ひとつずつ、夜が崩れて、そうして、大人になればいい。っ、と、息がとまる、瞬間。星座の歌が聴こえて、「僕」は、音もなく瞼をとじる。


第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道