第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


里帰り
  葉桜彰


アクセルとブレーキを
交互に踏みながら
山道を回ってゆく

日差しの傾きが
せわしなくかわるごとに
足裏の強弱が
靴底をもどかしく感じさせる

エンジンの音は
寝息の邪魔をせず
君と一緒に
カーナビも休ませて
緑のトンネルを
いくつもくぐる

柔らかくしなる枝先
下生えの黄色い花
苔むした岩肌

きつくなるカーブは
眩暈と痺れをにおわせ
瞬く間に過去に酔う

山の端にかかる雲を
大空を翔る鷹を
渓谷へ落ちる滝を
岩陰に隠れる山女を

水源から
滾々と湧き出る水の旅を

母の住まう家を目指して
玄関の敷居を跨ぎ
抱き上げられた
あの頃を


第2回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道