「プクータ、瞳を洗いなさい」
「お母さん、外がうるさいよ、
それは、夕立が挨拶をしにきてるからだよ」
「メキシコを下ると三半規管が、
見る夢の話をして、タールシャ」
「ハイビスカスに秘められた、
逆さづりのプルーストの、
失われた靴下が歴史にのかって
干からびているのを見たかい?」
「雨が降らないんじゃなく、この土地が
雨をずっと昔に拒絶しちまったのさ、
もう、雨はいいや、俺たちには、乾きが
ちょうどいいって具合に、
だからどいつもこいつも、死んでも、
すぐに生き返ってきちまう」
「ジャルシュ、お前が最後に聞いたのは、
かかあのいびきだってな?」
「ああそうさ、それもとびきりでかいやつさ。
おかげで、最後の言葉なんてかき消されちまったよ。」
「そいで、かかあの最後の言葉もいびきだって話じゃねぇか」
「ああそうさ、あいつはそのせいで、神様にどなられちまうって、
いまだにびくついてやがるんだ。最後の言葉が祈りでも、なんでもなく
いびきだって、天使どもに笑われちまうって死んでも悩んでやがる」
「砂浴びのパーシャがやってきたぜ」
「あいつは砂ばかり浴びているから、嫁にいけねぇんだ」
「でもよ、あいつもとうとう死んでから妊娠したって話だぜ」
「相手は誰だよ。」
「首なしのジャータらしいよ。ある日、自分の首を球にして、友人たちと、
蹴り合いしているときに、勢い余って思いっきり蹴った馬鹿がいてよ、
草むらにおちたやつの首を犬がひろっちまって、消えちまって以来、
首なしよ。」
「首なしでも子供がつくれるってか。生まれてくる子供も首なしなのかねぇ。」
「首はあるって話よ。ただ、その首がくせもので、首と体が離れてやっこさんの
体の中にあるってわけ、そいで、世紀の大手術ときたもんで、この乾ききった
街で死んでいる一番の名医がつなぎあわせようとしてるのさ。」
「映画も土埃を吸い込んじまって、どこもかしこも砂嵐だらけときてやがる。
お空のお星さまにお願いしな、と、昔は親父に教えられたもんだが、今じゃ
お空のお星様に砂をくれてやれってもんで、みんなして夜中に、砂の投げ合いと
きたもんだ」
「ろくでもない街にはろくでもない幽霊どもしかいないのさ。とにかく乾き、乾き、
それが全部を干からびしちまう、俺たちの生もそして死も全部さ、虚無も時間も
希望も天国も地獄も干からびちまって俺たちをいつまでたっても迎えにきやしない」
「街の名前はなんだったけか?」
「それも砂が飲み込んじまったよ」
「今日も、肺の中で、砂がざらざら音を立ててやがる。肺病みのマクリルは、死んで
どいつもこいつも皆まとめて肺病みみたいになって喜んでるよ。」
「俺たちは皆あいつに教えを受けなくちゃいけないってか。どうやったら、息つぎが
できるかどうかって。酒場であいつがテーブルの上で、司教様を気取って皆に説教
してるのを見るのはもうんざりだぜ。それにあいつをたたえやがる小娘どももだ。
どうせ、いくらたたえようが、いくら吐き出そうが逆さになろうが砂は溜まる一方
だってのによ」
「耐えるのです。私が生前病んでいた肺病みの苦痛と比べればどうってことはないのです、と
あいつが言うたびに、皆瞳を輝かせてやつを見上げてやがる」
「まぁ、こんなくだらない俺たちの話も、俺たちみたいにすっからかんで、砂に埋もれるか、砂と
ともに風に乗って、どこかの街を埋め尽くすぐらいの役にしかたたないもんな。」
「やめちまおうぜ。やめたところで、砂が吹くだけだがな。」
「そういやお前の名前はなんだっけ?」
「とっくの昔の砂嵐にもってかれちまったよ。そんなもの」
「プクータ、瞳を洗いなさい。」
「おかあさん、外がまださわがしいよ。」
「幽霊たちが騒いでいるのよ。」
「いつになったら静かになるの?」
「砂がこの町も私たちのまだ生まれていない子供たちもその未来も
何もかも埋め尽くしたらね」