第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


無題(1)
  たなか


私たちは、
あらゆる角度で死んでいく私たちを見ていた。


*1
今日も家の中で降りしきる雨

子どもたちのあばら骨を浮き出たせる
枕を抱えてぐったりと横たえる子どもたちを指さし
立ちすくんでいたのは
顔のない中国人だった

*2
今日も家の中で降りしきる雨

リビングルームに置かれた紙粘土の原子炉を
ぐちゃぐちゃに打ちつける
そうやって無数に作られた穴の中では
白いだんごむしが丸くなって眠っていた

*3
今日も家の中で降りしきる雨

階段からこぼれ落ちてくる檸檬を玄関にかき集める
檸檬はどれもでこぼこで、私たちはそれに手作業で一つ一つ値札を付けていく
時折チャイムがなると、私たちは顔を見合わせ、暫くの間じっとしているほかなかった


台形の積み木が一つ、八畳間の和室に転がっており、サクラクレパスで青く塗り潰された祖母がそれを右手で掴み上げると、そのまま三年が過ぎてしまった。たった一瞬で過ぎていく三年の間に、私たちは何度となくロシア人になったし、アメリカ人になった。祖母の肩を揺すってみたし、青く塗りつぶされた隙間に向かって、おやすみなさい、なんて話しかけたりもした。それなのに、結局私たちははじめからどこにもいることができずに、どこにもいないことができなかった。やがて黒い西日が和室を照らし出し、台形の積み木は祖母の顔にぴったりとはめこまれる。

今日も家の中で降りしきる雨、が、顔しかない日本人の頬を叩きつけ、ごうごうと床下へ流れ落ちていく。水中では繰り返し四号炉が爆発し、両手で顔を覆い続ける班長のアキモフ。膝下を濁流に浸しながら、このままでは何もかも流されてしまうと思った私たちは、急いでいたるものにピアノ線を張り巡らせようとした。清潔なシンクで三枚におろされたいさきや、頬杖をついてそれを眺める母親に、父親に、浴室やトイレで立ち尽くす祖母に、その顔の中心にはめ込まれた積み木に、寝室の子どもたちと顔のない中国人に、値札のはがれてしまった檸檬に、眠り続ける無数のだんごむしに、あらゆる角度で死んでいく私たちに。


こうして、こうやって家中がピアノ線で結ばれていくかたわらで、私たちは、

びしょびしょになったズボンの裾をたくしあげて笑い合う私たちを見ていた。

私たちは永遠を叫び、ピアノ線にくくりつけられた私たちをじっと見ていた。




第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道