おじいちゃんが戦争の話をすると
空から紫色の臓器がひとつ降ってきます
何処の部分かはあと十年後にわかると言います
早朝雪かきを始めると埋もれていた三輪車にカツンとあたりました
それは前輪です
それは錆びています
それは動きません
それは剥がれ落ちます
持上げた手のにおいは
おじいちゃんの話から出てこなかったものでした
仰向けに倒れた雪の上で何かを掴みます
手のひらに収まるほどの濡れた粘土です
指先で一度感触を確かめるように揉むと
ずるりと臓器がひとつ
背中から雪の中へ吸い込まれていきました
ひとつまたひとつ
からっぽになるまで
意思を通さないところで行われ続けました
すっかり空洞になった体は
けっして悩まなくてもよく
それは
私のつま先や唇に
雪が降るからです
ふやけた皮膚は氷り
痒みを抑え
雪が届き
臓器が落ちてくるその夢は
私が物語になる
一番最初の予言でした