第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦


子供のこと
  吉田群青



ぽかんと晴れた暇な日に
道端にしゃがんで川を見ている
春の陽にぬるんだ川の中では
生まれなかった子供たちが
泳ぎ回ってはとろけてゆくのが見える
そこの川からはほんのときたま
腹いっぱいに卵を抱いた
おそろしく大きな魚が揚がる


道端に咲く花の中には
そのひとつひとつに
ちいさい子供が腰掛けている
たまに空を見上げると
ちいさいちいさい子供たちが
手をつないで輪になって
空中で踊っているのが見える


子供が欲しい
と言う女の人の眼の中には
もうすでに子供がいるのだ
水晶体の中を泳ぎまわりながら
なにかけたけた笑っている
十月十日経って産み落とすのは
決まってその子供なのに
どうして誰も気づかないのか


此の頃
子供が減ったという人があるが
それは大きな間違いである
子供は
思い思いの大きさで
そこいらじゅうに存在している
嘘だと思うなら靴のつま先で
足元の土を掘ってみるといい
あとからあとから色んな子供が
わらわらあらわれてくるだろうから


第1回 21世紀新鋭詩文学グランド・チャンピオン決定戦
月刊 未詳24 × 文学極道