◇ No.9 , '05/07/18 10:04:35 作成

255 : スピリット  ケムリ '05/06/06 03:07:35

西日の丘でハッシシを吸いながらライオンは燃え尽きた
スピリットは蒸留されて煙と一緒に滑空する
コヨーテは眠る ペヨーテ・ボタンを齧るように
煙草をくれ 赤い目をした怪物のために

嘘をつくみたいに手を繋いだら
魂は蒸留されていく 徴税人の唇に触れる前に
夜は煮詰められていく 色は失われていく
ぐるぐる回る南京錠をかけられた世界

マリファナを吸う彼女は十七歳で
窓からは年月が流れ出していく そして僕らは眠る
十億年前の泥土のように 僕らは眠る
魂は気化していく

たてがみが崩れ落ちた そしたら扉は開いた
僕らは夜の終わりについて考える
そこには痛みが 夜の痛みが 海月の沈む街がある
神様が助けを求めるなら 僕は洗礼名を捨てよう

千七百五十六階建てのビルから 猿の手は星を掴もうとする
六十七階で老人は腐っていく
屋上で子ども達は手をつないだ
成層圏で凍りついた 届かない手たち

魂は凪いでいく 赤い目の怪物は月に向かって七回吠えた
電気仕掛けの遠吠え防止首輪は彼を八回殺した
猫の尾は鍵の形に折れていて それは今扉の前で千切り取られた
僕は万力に両手を挟んで 五時間かけてねじ山をみんな潰そう

成層圏で友達はみんな凍りついてる
オープンハウスで眠る子ども達みたいに
彼女は眠ってる 発育不良の肋骨を抱え込むみたいに
足の無い鳩は飛び立って行った

北極星の初列風切り羽根が落っこちてきた
夜は窓から歩き去っていく 季節に落ちた吸殻みたいに
まだ言い残したことがあるんだ
でもいいんだ たいしたことじゃなかったんだよ

火の手が東の園から上がるころ
魂は家路につく 一欠けらのパンをポケットに残したまま
魂はまだ淀み始める 格子模様の朝日に断ち切られた弱さ
もしあなたが望むなら また魂は気化していく


261 : 僕と麗子  ミドリ '05/06/08 22:54:23



僕らは梯子が欲しかった
やがて起こるだろう戦争に
発狂しないよう
小さな子供を昇らせる

剃刀に
血を走らせながら
三億年の未遂を窓から開け放つ

きまって麗子はバルコニーにいる
水銀のように身体を抱えこみ
頭部まで昇らせる
掌握された共有者が
自殺を従わせる太陽の下

受話器を取り上げながら
死んだ時のために連絡を取るダイヤル
きまってその顔は
初期社会主義体制下の
スターリンのような顔で
まるでムッソリーニに話しかけるように
あどけない緊密な会話を取り交わす

だが誰もがロボットとは違う
官庁オフィスのどの部屋にもかけられている
時代との癒合という鍵を回せば
僕や麗子の中に住まう国家が
ひと独り分のスペースさえも
ないことに気づけただろうに


225 :   光冨郁也 '05/05/17 20:11:52

 春も夏も秋も、わたしにとっては短かった。あれから一年が過ぎ、長い冬がまたやって来た。失業し、仕事を探している。
(しばらくは会社に行かなくてすむ)
 わたしの元へは戻ってこなかったものもあった。

 情報誌を買いに朝、家を出る。砂浜とは反対の方へ歩いていく。アスファルトが靴を通して固い。目の前を走り去る車。セーターの上のダウンジャケット、ポケットに乾いた手を入れ、曇った空を見上げる。無風の朝。風の音もしない風景。バードのいない空。
 ポケットから手探りで、硬貨を取り出し数える。商店街へ向かう。コンビニまでしばらく歩く。赤い郵便ポストの角を曲がり、コンビニに着く。棚の前に立ち、アルバイト情報誌を手にし、それからほかの雑誌の表紙を眺める。手の甲であくびを隠す。ずれた眼鏡のフレームを上げる。情報誌の発売日を確かめる。情報誌とホットコーヒーを買った。外に出て、来た道を戻る。
 砂浜近く、道の脇、コンクリートの上に腰を下ろす。コーヒーの缶が熱い。缶を開ける。誰もいない部屋にはすぐには戻りたくはなかった。ひと気のない砂浜。
 コーヒーを飲む。缶を置き、情報誌をめくる。明日からフォークリフトの講習に行く。荷を上げ運ぶリフト。そのフォークリフトの仕事を参考のために探す。この近くにあるタバコの配送会社の倉庫。時給千円。フォークリフトとしては割がよくない。
 飲み干して空になった缶をコンビニの袋に入れ、情報誌を片手に、砂浜を歩く。打ち上げられた流木をつま先で軽くける。流木の上に立つ。腕を開いて重心を取る。飛ぶ形。風が吹くのを待つ。曇り空を見上げる。女のバードが飛んでいた姿を思い返す。
 砂浜に腰を下ろす。くすんだ海の上、曇った空は、冬の色。波があふれてくる。遠くで風の音がし始めたが、ここには吹いてこない。
(女の顔をしたバードは幻、もういない)


245 : 「歌広場」  ミドリ '05/05/28 18:16:32



パンツが500枚
クローゼットの中にたたまれていて
夢中になった女の数だけ
いや愛を数えた夜を知っているのは
そのうちの数枚

ラブホテルを出ると
外は台風22号
赤い傘の女の下で
ものすごい勢いで溢れだす
精子の数を数えてみたいが
多分この夜は
2リットル半足らずが
ムリにトイレに流されていたり
唇に含まれていたりして
女の中で育まれる
愛の半分さえ
平和を担える程の質もなく
領収書の「歌広場」も
心の焼け跡を語るだけ

肉ばかりを食らい
セクシーなターザンになったつもりで
ワイシャツの一つ目のボタンを
ムリに解いてはみたりはしたけれど
ネクタイが
個と組織の神話を繋いだままだ

できれば今すぐ宇宙服に着替え
メイクもばっちりして飛び出して行きたいけど
「どこへ?」と問われれば
分かち合えるムーブメントが
世界と共有できる場所へと答えておいて

実際のところは
「歌広場」へ舞い戻って
例の曲のAメロを
こっそりと歌い直しているに
違いなく


266 : メモリーズ  キメラ '05/06/15 21:01:10  [URL]

白びかり記憶の母胎に孵り
廃絶したお前の空が瞳を覗き込む

空襲に焼け落ちたような是空
一呼吸遅れた廃艦のパヴァーヌは
憂愁を吐き出し
幾つもの波風を舌に絡めた

凍りついたのは
純真を見返しては巡った岐路
乾ききった無防備な皐月は
優しく見知らぬ死の薫りを吹き込む


あの日
解らずにただ泣いていた
振り返らない白い少女の
ワンピースが深緑の幻光に消える

しめやかな囁き
大海に蒼衣と永遠を劃した
可憐爪弾く哀しすぎた埋葬よ
ああ
面影
照らせ
切なる融解を穢れた漣に散らし
赤い日輪の殺戮
崩れ去る瞬間の苛烈な獅子を殺せ

残響に燻られた善心
転生の兆しが六番目の指に繋いだ
柔らかき感触を諭した


メモリー
中空には失跡の影
今も尚
ひかり続けていたわたしの欠片


268 : 青いジャム  ケムリ '05/06/16 02:31:42

日曜日の悲しみを1ダッシュ 飲みすぎた錠剤を三つ
パンダが生まれたニュースが一本
オレンジつぶしてカシスを入れたら
飲み干して煮詰めよう 青いジャムの作り方

校庭の隅っこに埋められた悪魔が
林檎の芯を探す朝もや 柴犬の尻尾の気持ち
安息日にはためく洗濯物
洗礼名を思い出したら きっと幸せになれるよ

風を受けて水面が嘘をついた
金魚鉢の焦点で人食い花が育っていく
絵が描けたらって思う みんな上手くいく気がしてる
青いジャム 世界に塗って甘く齧るよ

水面は柔らかい冷たさで煮えていく
脱線する列車や飛んでいく銃弾のリズムで
丘の上では賛美歌が鳴り響いてる
出来ればバスケットケースが欲しいんだ

ねえ 僕はジャムを煮るよ
神様と仲直り出来る気がしたから
ねえ 君はパンを焼いてくれないか
青い世界はきっと甘いんじゃないかと思う

パンクした自転車と履きつぶしたバスケットシューズ
灰皿のマリファナ 懺悔室に格子模様の朝日が落ちてる
ベースラインが平和公園から聞こえるよ
青いジャムを煮詰めよう 神様と仲直り 

みんなそこにいるんだろう 
午後のお茶の会に間に合わせよう
洗礼名を思い出せたらいいんだけれど
思い出せなくてもいいんじゃないかな みんな幸せだから

青いジャムを煮詰めよう シュガーは多めがいいってみんな言うんだ
バスケットケースに何を詰めよう
きっと明日手に入るってみんな言うんだ
青いジャムを煮詰めよう みんな幸せだから みんな幸せだから


264 : 老不死  塔六 '05/06/13 02:23:35

1. 先の事を考えると不安になりました
死ぬことを考えると恐くなりました
しかし、私が卵を生んだ時
私はこの子の中で生きていくのだと
私はこの子にバトンを渡したのだと
そう思うと、陽炎の一生は
無駄ではなかったと思うのです



2. やかましくも人夏泣いた
木に張りついた俺の抜け殻を
懐かしく思い 静かに眼を閉じる

回想すれば何度も網で追跡
虫籠に捕獲されながら
それでも激しく泣いた

俺の修行も最終局面
また夏が来れば
やかましく泣いてやる

夏風は巡ぐりと続く
俺は俺ではない
でも俺である

老いて死なず 豊穣な本能
独身貴族 余生が見える



3. 働き者であっても、適応能力の無いアリは
真冬の道端でキリギリスと出会うのです。


「やあ、アリ君。どうして君は、こんな寒空に
悲しそうな顔をして歩いているんだい。
あれだけ一生懸命に働いていたというのに。」

「そうなんだ。僕は君と違って真面目に
働いて来た。でも、もう窮屈な環境に
耐えられなくなったんだよ。」

「そうかい。君は無理に真面目なアリを
演じてしまった。いや演じさせられたんだね。
そして真面目だけが取り柄で、何一つ楽しい事が
無いまま今に至る。そういう感じなんだね。」

「そうかもしれない。楽しい事が全く
無かったとは思はないけど、
何か手応えのあった人生だとは言えないね。」

「もう、死んだ方がいいんじゃない。」

アリはキリギリスの放った一言に対して
心の中で微かな怒りを感じた。
でも、言い返す言葉が見つからない。
現在のアリとキリギリスの状況は同じでも、
キリギリスは人生を謳歌して来た分、
同じではないだろう。

「ところでアリ君、
君はこれから、どうするんだい。」

「俺は余生に生きる。やっぱり
命がけじゃないと楽しめないね。」


252 : フレーミング・セックス  Nizzzy '05/06/03 02:33:45  [URL]


人、[幾層を翔]ける向こう岸の、記憶の枝をつぐむ、(鱗の)変わらない、ちる、{のように、美し}い人、あなた、ここにいない言葉、人、のような、あなた、

人、蝋燭<を回り続ける抜>け殻の、りゅ、う、焔硝、森に違う`つぐみ、くちる``、のように、美しい人、あなた、ここ(にいな)い音階、人、のような、あなた、

衛星へ|ぬけるヒナゲシ | の | 花 |、はつ・・み、、つつやかに、下っ<てゆく>、約束のレンズ、く、(する)、岸、の‐ような、あ/なた、ここに、

あった、対/角線上に制/御する、大海が隣(接)に、み、_錆びつく_氷砂糖_、りつ、ぬけてゆく、ぬけてゆく、‐朗読‐者、のような、あなた、

ここ“にない破調、延”命する露地、電柱が把握・する、人、「ずっと、ずっと」、た、たっ__つ、感<受性>、のような、(クル)、叶わぬ<こと>、のような、美しい人、あなた、

"めくれる腕の、痕"跡に【残った】川底に、<りぃ><りぃ><りぃ>、シ音を、たたく、(あ)たらかに、3つ、胡桃がける、裸足、のように、「冷たいね」、と、不拍子に、さく、のような、美しい人、あなた、

黒-み--がかった秒針の、カラミごとに、`あ`ねる、むネ、つ・む、先の、シらまる、ひと|とつに、束を放つ、円すい状の、"洗浄液"に、ふり、{返る}、遅す-ぎた、のような、】美しい、【あなた、

溶『ける腕、目;覚める咲き=かけの、使用感、つらめ、〔つ〕らめ、「紅いよ」、録画(される)、星座野、それ、黄*黒***青]咥えたシステム』、ひ・(・視、くす)、あだしの、のように、美しい、あなた、

ヒシオリ、道__{_標の北極星、求心性の、い"く愛しみ、繚乱して、」、待つ、か、{が声、犠《牲者》(?、[羅針症、アルキさ]える、響き、<ぽし>、<po=e=i>、しみ、ヒいの、のように、美しい、』時と、ヒシに人、あなた。


270 : オボロ賛美歌  ヒズム '05/06/17 07:39:19  [URL]

夕日にさよなら 指先岬
灯台合唱 バラ色オン・オフ

光ナビゲーション付き電子キーボード
花火をしようよ 日曜オン・オフ


十重の細波(さざなみ)
羽化するアゲハ
アンタレス
主よ、人の望みの喜びよ


薄雲スクリーン 照らす映写機
テトラポッド 並ぶ風車

食べかけトマト いつだって子供
虚を衝く流星 いつだって子供


誰かが呼んでる
夢レム・ノンレム

開かれた窓

オボロ賛美歌


271 :  坂  丘 光平 '05/06/17 18:27:28 *2  [Mail]

   坂をあるいた
   坂をあるいては休みまたあるいた

   途中
   名のない大きな木がある
   木のなかにおじいさんはいなかった

   少年のころ
   アカアシクワガタをつかまえた 
   翌朝
   クワガタのなかにいのちはいなかった

   なくなるものはいつもそこにあって
   見ることは罪になった
   見ないのはもっと罪になった

   空に正しさをもとめた
   天の海はつめたく波と波にあらわれ
   白は点々としたたかに
   母となる父となる

   ああ流れてゆくもの流れてゆかないもの
   風と雲と私と

   ひとつ ふたつ くしゃみをした
   冬のすこし向こうがわ
   いつかのおとこの子がいてこちらを向き
   かなしそうにわらった
   さようならとわらって

   坂をあるいた
   坂をあるいては休みまたあるいていた


259 : 日向ミズキ   '05/06/06 23:31:54

黄色い華を咲かせましょう
どこから聞こえたのか
そんな誘いの言葉
甘い言葉で
惑わして
捨てる

病院のベッドの上
差し込む光に
嫌気と絶望
地獄なら
こんなに辛くはないだろう

十二月三十日
事故に遭った
もう歩けないだろう
聞いたのは
ベッドの上
朝日の眩しい一月一日

地獄ならもっとましだろう

周りの目が
私を笑っている
トイレすら一人で行けず
もう歩けない私を

地獄ならもっとましだ
死を心から望みます
どうか神のご加護を


もうすぐ卒業式だ
どこからともなく
耳に入るそんな言葉
行けるといいね
無駄な励まし
皆消えてください
私を一人にしてください
見ないでください

気付くとまたベッドの上
窓の外には
眩しい光はない
あるのは
私を誘う日向ミズキ


いつか、車椅子に乗れるようになったら
屋上へ行こう




地獄の方がきっとましだろうから


269 : 祖父はわっかにつかまって  一条 '05/06/16 14:37:39

さっきから父は猫を裏返している。母の土鍋が猫を煮込んでいる。さあ、召し上がれと寝込んでいる僕を起こし、母は玄関から勢いよく駆け出していった。父は庭で猫を焼き、テレビのチャンネルが低速転回している。おい、猫が焼けたぞと祖父が九畳の和室で悶々。落語は中断され、積み上げられた座布団の上で母は若い男性にもてあそばれている。おや、いつの間にと猫がニャンとも媚びた声を上げ、父はいよいよ白と黒の段だら縞になってしまった。ところが、母はすっかり丸裸になってしまい、猫は焼け、青白い煙がいくつものわっかになった。父はわっかに見惚れ、祖父は巨大なわっかにつかまり飛んでった。僕はこれ以上の足掻きを断念し、翌年の誕生日に欲しい物を紙に書き下駄箱に隠した。また来て頂戴と母は若い男性を見送り、さあさあ、ご飯にしましょうと裸の上にエプロンをつけ、台所で鼻歌を歌っている。包丁が猫を刻み、土鍋が猫を煮込んだ。おれの猫を知らんかと父が一人で騒いでいる。あっはんとチャイムが鳴り、母は勢いよく玄関に向かった。押し売りの訪問はもう懲り懲りだと独白している祖父にわっかの欠けらも見当たらない。母の手に紙が。あら、つたない字ねと猫料理を食卓に並べながら母は僕をちらと見る。僕はやけくそになり、煮えたぎる猫料理を口の中に放り込んだ。一体紙には何て書いてあるんだと父が新しい猫を裏返しながら騒いでいる。祖父はテレビの映りを調整していた。もう裏返す猫がなくなったぞと父が喚き散らしているが、僕たちには裏返すべき猫なんて最初からなかった。おい、もっと巨大なわっかを持って来いと祖父が地団駄を踏んだ。ついに母は僕のつたない字を読み上げた。あら、犬が欲しかったのねと母、なんだ、おまえ犬ころが欲しいのかと父、そして、一体どうニャっちゃうんだと言わんばかりに猫が咽び鳴いている。あれ、おじいちゃんはどこ行っちゃったのと僕が口にした時、祖父はわっかにつかまり空を。


272 : マーメイド海岸  光冨郁也 '05/06/17 18:52:22  [Mail] [URL]

 冬は好きではない。失業してから外出が減った。TVを見るか寝ているかだけで、二ヶ月が過ぎた。TVでマーメイド海岸のCMを何度も見る。海面から顔を出し泳ぐマーメイドの姿。面接や職安にも出かけるが、就職先はなかった。フォークリフトの免許は取ったが、作業が不得手で資格を使う気になれなかった。わたしにできることは何もない気がした。

 朝、またTVのCMを見た。海岸からTVカメラに映ったマーメイドの笑顔。信じられなかった。昼近く、部屋を抜け出し、バスに乗る。乗客は少ない。買ったばかりのジャケットを着て、北の海岸線に向かう。他に着ていく機会がなかった。伝説によれば、そこにマーメイドがいる。観光地になっている。寝すぎて頭にかすみがかかったよう。窓に頭を預け、外を眺めていた。空は曇っている。軽い偏頭痛がする。口の中が渇く。
 一時間近くバスに乗っていた。マーメイド海岸のバス停で降りる。冬の平日なので、ひとがまばらだった。白っぽい道を歩く。掲示板から観光案内のパンフレットを手に取り、海岸に向かう。カラー刷りのパンフレットの薄い紙。

<マーメイド(女)は人魚の一種で、海に生息しています。髪は長く金色で、瞳は緑色です。伝説では海難事故を起こすと恐れられていました。マーマン(男)と一緒に現れることもあります>

 マーマンも髪が長いのだろうか。マーメイドがいるわけがない。いくつかの閉ざされた売店。
 オフシーズンの海岸を歩く。黒っぽい岩をつかむ。白い波が岩に打ち付けられる。わたしはバランスをとりながら、海岸でマーメイドを探す。あたりには誰もいない。波しぶきが上がった。顔にかかる。手でぬぐう。ジーパンが波で濡れてしまった。冷たい潮風に凍える。息がわずかに白い。いるわけがない、そう思いながら海を見た。

 突然、遠く波間で、何かが耀いた。
(あれは何だろう)
 よく見ると、波に金色の髪が見える。やがて光は消え、海面に尾ひれが上がる。紺色の海がうねる。マーメイドは本当にいるのかも知れない。波が押し寄せる。海岸を歩いた。濡れたジーパンをひきずり、少しでも近づこうとする。
 波打つ海に、また金色の髪が見え隠れする。海から風が吹き付ける。遠く稲光がして、雷が鳴った。

 わたしは立ちつくしていた。しばらくして、風がやんだ。波の音も消えるころ、金色の髪に雪が降り始める。


267 : 虹の消える場所  ―グランド―  tomo '05/06/15 22:50:54

数ぞえ切れない死体が
俺のグランドに散らばっている
昨夜降った雨が
ドスンドスンと地を叩いていたのは
この所為だったのか
近づいてみれば
みんな顔馴染みの眼差しで
俺をみつめていて
梅雨空の下
赤土色にしめったコンクリートに
数倍の生爪を刺し翳していた

6月は淋しい割れた空
俺は靴の轍を滲ませながら
コードを引きのばした
忽ち
俺の掃除機は
カタカタと唸り声を立てて
満杯になっていった


277 : 虹の消える場所  ―割れた空―  tomo '05/06/21 22:27:35

黒鳥が脚を十字に組んでひと鳴きする朝
俺は黄色い表地の遮光カーテンを引き
空の輪郭がしだいに黒ずんでいくのを待った

沈みかけた陽の陰で誰かが手を振っている
六月は淋しい割れた空
逆光線がやさしく俺の首筋をあたため
毀れた空の欠片が窓越しの鏡をかすめる

灯りを外した部屋を対角線上にゆき交う
俺の眼差しが俺をみつめる
キメの粗い空の砂が大気に積みかさなり
飛び立つ黒鳥の後姿がしずかに欠けていく

直線がどこまでも続く真夜中の水道道路で
ばあさんがリヤカーを引きながら何か言っている
きけば桃を売りに来たのだと言う


248 : リロード  紫野 '05/05/30 01:02:04


電子の気配に
目覚め

点滅する記憶を再生する

あれは 5月だったね
細く開けた小さな窓から
ふたりして夕暮れを眺めながら

またこの季節が巡ってくるといい、と
小声で話した

西風が滑り込んできて肩のあたりを撫でていった
ひかりが白く溶けていて

そういえば、と
ノート
夏になれば開けるはずだったノートのことを
思い出した
少し 君は笑っていて
でも
冷たい夏がはじまってしまった
しまいこんだ抽斗の鍵をなくしたんだ

初夏の光に
花は枯れ
果実は熟期を待たずに落下する

鳥たちは行き先を見失い
空はいつまでもいつまでも碧を映し続けた

感情を捨てて
感情を捨てて
ただ
綴る指

金属のあじがする


灰色の風景は
ゆっくりとフリーズし
切片と化し ゆるやかに
崩壊
する


279 : 醜塊  毛値巣庵我 '05/06/21 23:37:31

醜いおまえ
そしておまえの仲間もすべて同じ
何も感じない俺は無干渉であり
おまえの体にまとわりつくすべての男たちが
すべておまえに干渉していく
学生は要らない
覚醒剤でも食っていればいい
覚醒剤に蝕まれた学生は
すべておまえの物だ
俺はおまえらに干渉できない
すべてが醜い
おまえが醜いから
何もかも醜くなるんだ
学生もおまえもおまえが触れるすべてが
醜くなるのだ


274 : 花冠(一日を閉じて)  守り手 '05/06/20 06:18:21  [URL]


早足でかける双子の、
颯爽を混声する朝陽
疾りあう幾つもの歌、


  姉妹、
    、律動
  遮光、
 

影向に揃えた爪先が、
次第に削られていく
穏やかな正午の昂揚、


  鋼鉄、
    、心拍
  少女。


夕映えの葬送のため、
すてられた幼い犬と
泣きながら遊ぶ花冠。


276 : ガラガラ蛇   '05/06/21 16:16:04

ガラガラ蛇は洞窟の中
いつも一人で暮らしてる
もしも仲間と一緒の時は
たいてい人間を殺した時

ガラガラ蛇の口の周り
付いた真っ赤な血の痕は
私の家族を食べた証拠

夏の終わり
出会ったのは
一匹のガラガラ蛇
縁側で祖母が
「ガラガラ蛇は魔物じゃけぇ。」
と言っていたら
突然現れた

祖母は
驚きながらも
落ちていた木の棒で
ガラガラ蛇を叩いた
何度も何度も

私は忘れない
あの時の彼の目を
きっと殺したいほど
祖母を憎んだであろう
彼の目を


それから三日後の夕方
母がおばあちゃんはどこかしら
と言っていたのを
私は心地よく
聞いていた


280 : ムーンライト  キメラ '05/06/22 19:45:52  [URL]

あなたを想いだす
その限りない閉鎖の表情で
おおきく柔らかな時間の傍ら
水桶に冷えた胡瓜のように
あなたはそこに在った

変わり逝く影象に飛び込むシソフレ二―
いのりは膨大に伸縮された
澱む底辺から それは静かに
奏でられることのない不協和音の暗言で
あたたかな呼気にうらはらな唄を刻みつけ
舗道に蒼く結晶した零配管のエレメントが
あなたに星の涯をとどけた


わたしは知っている
あまりにも繊細なモノトーン
鳩時計が告げた独白の中心で
あなたは願った

それは重なり合う世界の外側から
たったいま わたしを突き貫け
幻廊ゆらぎ逝く 永き放物線のさざなみ
くぐり抜け辿りついた 淡い初夏の陽炎
スロウラインに哀しく明滅する夜光虫と
シルフィードの琥珀玉

夢のように消えてしまったわ


もうすこしあるこうか
あの湖畔のどこか あなたが
いつかみつけた永遠がまっている


水面に佇みあなたを想いだす
高架の林道からのライトが
そっと涙を照らし
あなたのような月が滲んだ


260 : 白い模像   abc '05/06/07 01:21:33 *1  [Mail]

遠く聴く澄んだ吐息と、
まだ親しげないつかの景色が、
とりとめもない光の加減で、ふとしたひびきをたてる都度、
この凍てついたかたちのどこかで、
いくぶんのほのかな心地がまた通うのを感じます。
そのような時もあるのです。
時はかつてわたしの窓辺にあふれたこともあったのです。
たとえこの世がなくなろうとも、
記された言葉の余韻は止むことがないでしょう。


何故ならそれは本当に過ぎたのではないからです。
目覚めきらないまぶたを透かして、
今朝もわたしは考えたのです、わたしのかたちのおわる間際で、
もうわたしとは別の秩序が底意をなしているのだ、と。
この鋳型は事実の厚みで綴じ付けてあるのです。
おぼつかない微笑の後ろでまのあたりに眺めていながら、
裏表の構図の向かいで、
わたしが何に仕えていたのか言うことはできぬでしょう。
いつかわたしが消えてゆくなら、
他に隠れる所在も判らず、とりのこされた幼い風は、
いつまでもうちとけず、
窓もない盲いた深みをさぐりつづけることでしょう。


  空気に紫蘇の匂いがするから、
暗くなるのも間もないでしょう。
この火の気のない部屋の四隅で、
りんかくは震え出し、沈みゆくものの重みは
二重の影をなすでしょう。――ああ、
このかたどられた想いのどこかで、
ひと一人よりも広い地平が黙しつづけていることを、
おそらくわたしは知っています。
わたしはいつも駆られて居たい、
わたしはわたしであることをいつも信じて居たいのです。
でもわたしは言うでしょう、わたしが両手をさしのべる都度、
わたしの両手の力の無さを何かが泣いているのだ、と。



    「…… I fell right into the arms of Venus de Milo 」
                 ――Television   『Venus de Milo』


263 : Q  he '05/06/09 18:18:20


罪悪感は階段を駆け上る
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだと言う
FMからは知らない国の民謡が
枕元からは虚ろな正気が
連なった屋台の香りのように流れている
寝ぼけ眼の弟はこれからおしっこに行くのだ
と言った

数珠のような夜だ
音も無く降りしきる黒いシャワーのなかでは
浅く照り返す窓に焼き付いた僕の怪物が
火傷することを畏怖する前に
生と言う概念はパントマイムに思えて仕方がない
見惚れるほどの深爪で
名を棄てた粒子を掻きこむようにして
木目調の壁に指先が触れたとたんに
時間の許す限り何十万本ものかみの毛が
窪んだ僕のうなじを迂回して
電燈を丸ごと一つ飲み込むようにして

深く


突き刺さっているのだ



弟は悪戯を浮かべていた
懐かしいあしもとを握り締め
夜が敷き詰められた部屋の片隅で
見えない壁を汚れた爪で押し返している
取れかかった肩をそっと叩けば
音の無い煩さに呼吸音が鋭さを増した
眠りのさなか布団を掛け直しただけなのに
斜めに傾く柱時計に矛盾の安らぎを感じてしまった
無造作に繋がれた時間帯を
蜂の巣のように淡々と生きている
毎夜うなされる夢を繰り返し
夜の残り香が部屋をさらいに来る
同じ時間、同じ日
汚れた汗を体に許す


ぬぐっても拭ってもそれは、




僕は誰もいない時間を見計らい
僕は水を飲みに階段をそっと駆け下りる。


283 : 庭の話  フユナ '05/06/24 01:07:12  [URL]



何年も
荒れはてていた庭に
野菜の苗が植えられ
植木鉢の
マリーゴールドが置かれた


母と父が水をまいて
コンクリのように
馬車道のように押し固まった土を
いくぶんか、柔らかくさせた


網戸越しに見ていると
それはまだ
スクリーンの薄もやの むこう
上の木々にはまだ混沌が満ちており
小さな弟はまだ
その蜃気楼に気付いてはいまい


どこも悪くなくなった
私と小さな弟は
今度は どこも悪くないことに
冒されまいとも思っている


上の木々にはまだ混沌が満ちており
下には枝豆とミニトマトとマリーゴールド
そして網戸の隙間を
通り抜けてくる 夏の臭気と水音


まだ何も網戸を越してこない
初夏を

私も小さな弟も
もてあまして
祈っている


278 : 静物 ― nature morte ―  丘 光平 '05/06/21 23:34:58  [Mail]

   
  たとえば
  六月の深夜の片隅
  大皿に横たわる果実の類
  あざやかな
  月光に磨きをかけられて
  彼らはつぎつぎと覚醒する
  それぞれ互いに
  噛みつき足りないのか 
  新たな交配に燃えつきるか
  飼い放たれた歌声は
  惜しみなく部屋中を駆け巡る
  ただ
  部屋の黒い中枢で
  さようならは一糸乱れず
  無造作に
  壁の磔となっていた
  白いブラウスの袖がすこし
  焦げている


- ealis -