冬はまだ続いている。海からの光で、部屋は青に包まれている。神話の本を繰り返し読んだ。岬には女の顔をした鳥、ハーピーがいるという。元は風の精ともいわれている。そのハーピーが舞う岬から、水平線の彼方を見てみたい。
朝、薬を飲んでから、部屋を出る。鍵を閉めた。
ヘルメットをかぶる。コート姿で、リュックを背負い、アクセルを吹かす。スクーターを走らせる。風が眼鏡にあたる。薄い雲が空にのびている。舗装道路。エンジンの音が続く。
左手には海岸線がある。白いガードレール。右手の雑木林、時折、建物が見える。岬までの、距離を示した標識を過ぎると、地図で確認した峠がある。乗り越えれば、岬に立てる。坂道に、アクセルを吹かす。
危ないので、バスに道をゆずり、4WDに追い抜かれ、岬の近くに着いた。雑木林の脇にスクーターを置く。鍵を抜き去り、ヘルメットを置いて、岬に向かって歩く。空に揺らめく影。
(あれは何の鳥だろう)
茶色の翼の鳥が小さな群れを作っている。展望台と店がある。
階段を上がり、店員にポップコーンを注文する。品をもらい、展望台の階をもうひとつ上がる。
ふいに羽ばたく音がある。茶色い翼の、鳥が目の前に飛び込んでくる。
(ハーピーだ)
わたしは身をすくめる。手にしたわたしのポップコーンをハーピーがさらう。反射的に、手を隠す。ハーピーが群れをなして上から横から、茶色の翼を羽ばたかせている。
もう少しで、岬に立てる。
(この先に何があるのか)
浜辺を歩いた。風が吹く。わたしの背後から、ハーピーたちが群がり追い越していく。羽ばたく音を聞きながら、わたしはいつまでも曇った空を見上げている。女の顔が浮かぶ。
岬に立った。その水平線の彼方は、微かでわたしにはまだよく見えない。わたしは片手を上げて、雲を消し去る風の精を呼ぶ。来てくれるのか、青の中に戻されるのか、わたしにはわからないけれど。
>その水平線の彼方は、微かでわたしにはまだよく見えない。わたしは片手
>を上げて、雲を消し去る風の精を呼ぶ。来てくれるのか、青の中に戻され
>るのか、わたしにはわからないけれど。
その者は巨大なパラボラの上で星を見ている
まぶたの裏に宇宙塵を溜めて
デバイスなしで光年の彼方に送る
手旗信号
何者も訪れることのなかった
遠い砂漠の避暑地のように
打ち捨てられたいでたちで
夜よ流れていけよ
ここではないどこかへと
薄雲の向こうで月が虹の光輪をまとい
屍の王が夜のマントをひるがえす
死亡した永遠が
空ろなまなこを見開いていた
# ウイルスでえらい目にあいました(;´Д`)
復帰しましたよ、ということで旧作貼ってみます。
発起人ですので選考対象外。
罵倒酷評は受け付けます。
皆様方へのレスは明日以降。
>デバイスなしで光年の彼方に送る
>手旗信号
女性に甘い 王様の
与える勲章で この国は安泰
林立するビル
白い部屋が眩くて 君はシルエット
シーツは けがれのない海
カクテルは バイオレット・レイク
ゆっくり ゆっくり 倒れて
肌の陰影をたどる指先
白い鍵盤のソナタ
猥褻な黒鍵
五感の歓喜に 捩れていく
知ってたかい 絶妙の香水には
死臭が配合されている
最上階の部屋の窓は大きくて 月が近いね
あの満月は 砂漠を照らしてる
難民たちのテントを
テレビを見てごらん
数え切れないね
法王のために流された涙の数と
飢え死にした子供達にたかる蝿の数
死臭は砂漠の彼方から
ビルの谷間から
「涙は阿呆が流すもの
信じられるのは この痛みだけ」
「でも 幸せを知っているから
痛みもあるのでしょ」
(おお 今夜は賢い君に 百回キスするぞ!)
今宵の悪意は
黒い翼となって
星空を漂うが
射落とす天使は
行方不明
さあ もう一度
夢の世界へ
行こう
,
>猥褻な黒鍵
>(おお 今夜は賢い君に 百回キスするぞ!)
二枚目の舌を おととい切られちゃいました
ないことを あるように言っちゃう舌が 切られたのですから
いよいよ降参するしか なさそうですね
ところで おとといというのが 明日のことなら
私たちは万事休す かもしれません
そんなこんなで 乗り越しちゃいましたが
その吊革で 首をお吊りになるつもりですか
もしくは ぐるりと回転できますか
ぐるりじゃなくて ぐりぐりとネジをしますから
そっち側から腰をくねくね してみたらどうでしょう
そうしないと ネジは馬鹿になりますが
私たちは いち早く馬鹿でしたから
二駅ほど向こうに 乗り越しちゃいましたね
慌てて飛び降りましたが
そこで 新しい二枚目の舌を見つけたのは 誰かの仕業に違いありません
せっかくなので この舌で 今から私はべろべろと嘘つきますから
なかったことは あったことになりますよ
で ネジは なるべくゆるくして下さい
なんだか私たちは ゆるい感じに慣れちゃいましたから
モガディシオの海岸に
その美しく輝く君の裸体を寝かし
TBSからカメラ一台をかっぱらって
世界中に生中継したい
時代は1970年代が良い
ベトナムでコーンフレークの缶詰を開く茂みの黒人に対して
あるいはサルトルがもの欲しげな指を組合わせる
サンジェルマン・デプレのカフェテラスにおいて
穏やかな心を取り戻す為のすべての人々の戦いの為に
夏の終わりのJR中央線
乗り遅れたおっさんが
ドアーに挟まれて言った言葉がそれで
「あまり見つめないで下さい」
多分そのおっさんは51歳で商社に勤める
肩書きは次長で
東大を2浪して入った卒業を間近に控えた息子が一人おり
普段から家族に憎まれ
生きてきた50年とやらの歳月に自信をなくし打ちひしがれ
挟まれたドアーの中で告白してしまったのだ
「あまり見つめないで下さい」
多分日曜日の朝
選挙に行くと言って戻らなくなるタイプが
こんなおっさんだ
例えば美しい女を見かけると
俺はDNAを駆け上がる激しい血の流れを感じてしまう
そしてアンドロメダの流星群に向かって祈りを捧げてしまう
大事なのは死ぬ前の愛だ
人の言葉はロゴスの祭壇を駆け上がるえくりちゅーるの勝利であり
カラの言葉を狂い抱く重層な音楽だ
地球からは今争いはなくなった
戦争はテレビの中でしか起こらない
君らはみな丸腰で愛に満ちている
愛について語り合うための
十分な長い夜もある
>人の言葉はロゴスの祭壇を駆け上がるえくりちゅーるの勝利であり
椅子が 倒れている
椅子は
なぜ倒れたのか僕は知らない
なぜ倒れたままなのかを僕は感じる
ただ
僕には椅子に触れるべき手がない
僕の手には重さがない
声が
聞こえてくる
僕の中へ
都市の
極寒から
極寒の
荒野から
荒野の
戦場から
その空へ
両手を突き伸ばす子供たちの枯れ木
この無数の枯れ木でさえ森と呼ぶ世界
まだ僕らがなんとか呼吸している世界
その焦点に
椅子が 倒れている
それは
主人を持たない椅子
倒れたままの椅子
ただ
僕には椅子に触れるべき手がない
僕の手には温度がない
>椅子が 倒れている
>僕には椅子に触れるべき手がない
>僕の手には温度がない
>なぜ倒れたのか僕は知らない
>声が
>聞こえてくる
>僕の中へ
>都市の
>極寒から
>極寒の
>荒野から
>荒野の
>戦場から
>その空へ
>両手を突き伸ばす子供たちの枯れ木
>この無数の枯れ木でさえ森と呼ぶ世界
>まだ僕らがなんとか呼吸している世界
>その焦点に
>僕の手には温度がない、
曇り空、雲の行方、煙る世界、窓に指をあてる。意味のない 形 と 文字。
ぱしゃぱしゃと打ちつける 音、流線形を描く水滴。眼球の動き。
すれ違う電車の速度 と 交差する 視点。無言のサイン。
色とりどりのパラソル 紫陽花が咲いた。
かたつむりを見つめる子供の時間は止まっている。
透明な室内は水槽のようで
赤い服を着た少女はスカートの裾を
ひらひら
ひらひら
金魚の残像がまぶたの裏に
水草のような観葉植物
濡れて 揺れて
揺れて 濡れて
静かな時間の空気。浄水器からコップへと注がれる 水、溢れる しずく。
ほとばしる、ほとばしる、光の粒。眩しそうにまばたき、せわしない睫毛のはばたき。
手に目があったのかと
身体中にあったのかと
こんなところにも
あんなところにも
ぐるぐるとしっぽを追いかける犬のしぐさ
で
回る
めまい、かすかな音が聴こえる。すべてに通じる耳の奥底から、何かを知らせるように。
頬を撫でる風の気配。誰もいない部屋で 深く息をする。
めまい、かすかな音が近づいてくる。美しい痙攣を奏でる楽器、それは四肢を震わせて。
全身は眼球に吸いこまれて
あるいは
眼球が全身に埋めこまれて
見つめる
雨は降り続いている。
>金魚の残像がまぶたの裏に
>水草のような観葉植物
>金魚の残像がまぶたの裏に""
>水草のような観葉植物"
>静かな時間の空気
>静かな時間の空気"
学校には桜の木があります
たくさんの墓もあります学校で
死なずにはいられなかった人たちの
墓
新入生だけが声をききます
お昼にはそろって帰ります皆
しんと黙って一列になって
歩くときにだけきこえます
わたしたちには前が見えない
春はあまくとてもみじかい
眼前にひろがる
景色はすべてあなたのもの
すきなだけ眺めてください
そのあとちゃんと壊して
おいて
春はあまく飲みこめばにがい
友だちのうたう
賛美歌が花ぐもりの
昼の呼吸を濃密にします
それは四月の
うつくしい遊び
いつか誰もが学校に慣れます
墓は土くれを撒き散らしながら
拡がる期待に満ちて
います
>かの寿星さん
>「学校」は学校でなく、「墓」は墓ではないんだろな、とも思った。
>「いったん引き寄せて突き放す」と書いたのは、その意味です。
>dさん
>丘さん
>内容の割には全体的に明るい基調
>月見さん
>よくよく考えて見るとこれ以上のリズムの取り方はないと思います
>こういうことを、遊び、って言い切ってしまうとこが、魅力です。
「お母さん元気なうちは...
...してても ぃぃ?..」
間が ひらったく もたないで
いるから
私は
小指を
耳朶に持っていきながら掻かないで
いる
まくら元に置かれた湯飲み茶碗が
倒れて
畳にこぼれた酢みずが
きれいに沈んでいく
「いろいろと良くしてもらっているのに...
...すぐ忘れてしまう..」
なみだごしに私の顔を
さぐりながら
そして
見当ちがいの一点を
みつめて空笑する
そして
肉体から
日常がはげ落ちて
をんなは
言葉と一対に瘠せていく
「ダめだぁ...
...わたしの車でない..」
ふゆが来て春がくるように
ふゆが来て春がくるように
ふゆが来て春がくるようにと
角地にかこまれた
交差点に立って
きみの帰りを待っている私の前を
素通りしながら
をんなは
キーホルダーをゆらし
玄関の奥にきえていく
>まくら元に置かれた湯飲み茶碗が
>倒れて
>畳にこぼれた酢みずが
>きれいに沈んでいく
>間が ひらったく もたないで〜以下の連の緻密な描写は良いとして、
>なみだごしに私の顔を〜以下の連は荒っぽくて粗筋みたいに見える。
>一条様
>d様
>海月様
高まりをなだめて
冷却するその瞬間にさえ
次なる波が襲いかかる封じがたい焦燥が
まだ、おまえには隠されている
冬空へと向かう
その無数の触手は
大気のいっさいの水分を吸収する渇きだ
おまへの体内に流れている
その理性はあまりに真っ直ぐで
その感情はとても痛々しいけれども
なぜか晴々と語りかけるその姿に
おれは立ち止まり、嫉妬してしまう
枯れ木よ
見捨てられた悲しいものよ
おまえの新たな産声を聞かせるといい
たくましい命を見せつけるといい
この軟弱な耳と目に、この枯れたこころへ
俺はまだゆく気はないよ
おまえと春午子(はるこ)をおいてゆく気はない
時々島のよに飛び石のよに記憶が途切れる
けど大丈夫
何一つ失くしてはいない
透明な液体が身体を巡り
栄養がしみては漏れ
血を脈打たす
俺は
点滴につながった一本の
生かされた
管だ
でも
まだゆく気はないよ
少なくとも黙ってゆく気は
痛む背骨を裂いて
黒い鳥が躙り出ようとしているのが
わかる
飛び立つ気配
近づく
でも、まだ、
その日ではない
俺はまだ
放つ気はない
器の蓋によそった粥を
一匙一匙忍耐強く口に運んでくれる
(少しも欲しくないからもういいんだよ、と思うけれど
おまえが平気な素振りで、眉をわずかしかめるのが、つらいから、俺は、ゆっくりゆっくり飯粒を噛んで、ゆっくりゆっくり飲み下す)
おまえの指がうんと好きだ
最近淡い色に爪を塗っているね
春午子が生まれてからだったか、それより以前のことなのか
定かではないが、いつしか止めてしまったようだけど、近頃、また
塗り始めたね
(初めて出会った大学の構内が思い出されて、
胸に何かが灯ったみたく、あたたかくなる)
おまえの指が好きだ
窓の外は吹雪いているようだね
風が強いのだろう
引き千切った紙片のよに舞う
雪
いや
雪じゃない
そうだ、四月だもの
ああ
桜か
あれは桜なんだな
(まるであの日みたいだ)
桜吹雪く昼下がり
産院へと続く急な坂道を
俺は上って
おまえ達に会いに往った
何か欲しいものはあるかいと訊ねた時
おまえは
「アイス、アイスがたべたいの」
と、しきりに云ったね
覚えているかい
俺は覚えているよ
今も
先刻観た夢の続きのよに
あの日の続きにいるみたく
思うよ
ミルク色の手足を持って生まれた娘の名前をアイスにしようと云った時
おまえが強固に反対するから
止めたけど
冗談半分のふりで結構本気だったんだ
アイス
「いつか 誰かを 愛す」
なんて
好い名前だと思わないかい
愛す
愛す
おれは
おまえを
春午子を
(酷く
怖い
でも、
おまえには
決して
云わない)
そして
あの
春午子が生まれた
薄桃に降りしきる花びらの午後を
苺のアイスを二人で頬張った午後を
いつまでも
愛す
黒い鳥よ
どうか
まだ、
はばたくな
>90125
>おまえが平気な素振りで、眉をわずかしかめるのが、つらいから、俺は、ゆっくりゆっくり飯粒を噛んで、ゆっくりゆっくり飲み下す)
>アイス
>「いつか 誰かを 愛す」
>なんて
>好い名前だと思わないかい
>dサマ、90125サマ、丘 光平サマ、ワタナベ サマ、
>榊蔡サマ、光冨郁サマ、Nizzzyサマ
>広田修サマ、海月サマ、tomoサマ、たもつサマ
>dサマ、90125サマ、丘 光平サマ、ワタナベ サマ、
>榊蔡サマ、光冨郁サマ、Nizzzyサマ
>広田修サマ、海月サマ、tomoサマ、たもつサマ
>燐サマ、Aye-Shalugaサマ 、塔六サマ、ケムリサマ、フユナサマ
真新しい水そうの中
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
未現像の、若き一人称
頬づえをつく、あなたの
もの憂げな夢の群れが
湖の上を、散開している
その影跡を追って泳ぐ
あなたに言えなかった言葉
遅れてやってきたランガージュ
闘う、私は白い魚
私は、冷たい水
どこへでもなく通ずる
外延の無い桟橋
栗色の髪を切った、あなたの
あなたの目の前で、私は
どこへでもない、桟橋のふもと
あなたに、言えなかった言葉
泡沫に映る、未現像な、千切れた魚
>「難しい」と思われたらその詩はその時点で負けなんだと、このところ思う。
>海月さん
霧に見え隠れする
君の細いからだ
白
月明りの下
星明りの下
その草原で
谷間で
咲き散っていく
花
見る人がいない
ベージュ色の裂け目から
しろ
潤ったシルクのような
シーツの上に 蔓のように
やさしく 伸びてゆく
白
幾重にも重なって
やわらかな
しろ
うなじに 唇が
触れた 瞬間
とどめることも
とりもどすこともできない
それなのに
白
かなしいね
風がゆらした白の空間
あの隙間に
誘ない入れる
方法がみつかったら
きっと
手をひいてあげる
,
朝露。ちいさなつぼみから 柔らかにひらかれる 花。その一秒、一秒を写真におさめても 流れる時間は揺らめいて きらめいて 眩い。せき止めることのできない水のように 飛沫を上げて 透明な粒は飛び散っていく。反射する 光 と 影 が 作り出す 模様。広がる 波紋。ぱっと目を見開いて 反転したネガが転がり落ちる。
つるん、とこの世界に産み落とされた わたしたちは たしかに 動いているのだ。前へ後ろへ上へ下へ左へ右へあらゆる方向へ。どくどくと赤い血を滾らせて 泣き叫べ。おぎゃあ、おぎゃあ、と脈打つ 魂の叫び。静かなる胸のうちに刻まれた 慟哭。おおきな子供が顔を上げて 凛とした背中を見せる 日。影がどこまでも伸びて。
とどめることはできない。とどまることはない。生まれた日から 一歩一歩死に近付いて それでも一握の砂をつかもうとする てのひらの力。指先にこめた 願い。零れ落ちる 時間のすきま、すきま、すきま、そしてそこに何をみる。砂漠に這いつくばる 手足。枯れ果てた大地に生えるわずかな植物を慈しみ、美しいと思ふ。
墜落。海で発見された行方不明の飛行士の破片。青いほしの青い空から語りかけてくる 数十年にわたる 声。それは言葉でも数字でもなく暗号でもなく 何億もの石を砕いた砂のうた。耳を澄ませてごらん。空気が震えて 教えてくれる。宇宙の彼方から降り注ぐ流星群。きらきらとつかめそうで つかめなくて 望遠鏡。まぶたの裏で 数をかぞえる。
またたく星は見ている
あなた、とあなた、の瞳
あなた、とあなた、の手
あなた、とあなた、の足
つないで
つなげて
今日も地球は廻る
ぐるぐると自転しながら
歩いていく
>どくどくと赤い血を滾らせて 泣き叫べ。おぎゃあ、おぎゃあ、と脈打つ 魂の叫び
>静かなる胸のうちに刻まれた 慟哭
すまし汁を一杯のむと、もうとっぷり夜は
ふけていた。この家にはこの家なりのやり
方があるようで、何本もの腐りかけの鍬を
軒下からつらねるようにぶら下げているの
にはたまげたが、今夜はとまっていきなさ
い、としきりに泊まりをすすめてくるのに
は、怪しむほかない。わけをきくと、帰り
道には、首絞め街道をとおらなければなら
ないから、妖怪にでくわしてはならぬとい
う配慮であった。おかみさん、大丈夫つす
よ。そんなの信じやしません。かえります
かえります。月のまばらな時間帯であった。
月がいやに眩しい。わけありの眩しさであ
った。くろぐろとひときわ密林のつづく地
帯にさしかかって、音もなく街道のわきか
ら開かれつつあるなにかにたいして、足腰
がふるえてゆくのを感じた。時間が混血さ
れてゆく気色だけが、体を、とくに四肢を
中心に流れてゆくようでみつつ、よつつ、
くらいの気概ではどうにもなりそうもない
力が、周囲からのびあがってくるようであ
った。
せばめて、せばめて、
ゆくしかない
精一杯、せばめて
私、
街道を越えるには
命を懸けて
せばめて
こうして、呼吸のひとつ
みだりに唱えてしまい、
首から
すこし汗が
殺気立ってゆくまで
首絞め街道の周辺は、あきらかに違ってい
た。不穏な力とでも言おうか。おそろしい
力を感じた。体がせばまってゆく気がする
いや、そうしなければこの街道を生きてぬ
けてゆくことなど不可能だろう。月光がま
ぶしい。なにもかも、ひかれるままにつま
されてゆくのだ。私の気概とて例外でない。
死ぬということはすなわちそういうことで、
私は、街道を抜き足でかけてゆく。せばま
る道筋にそって、息がのばされてゆく。生
命の力は、それに反して薄れてゆく。言葉
のひとつや、ふたつ、かけてからの時間の
ほうが、よほど長く感じることをいまさら
気付いて、泣いた。眩しい月に作用して、
どうか命だけは、と泣き崩れた。首絞め街
道は、音もなく、しかしなにか音を成して
いた。月ばかりが眩しくて、私はそのまま
意識が消えてゆくようであった。
すまない・・・
まだなにかしてやれることも、あつたろう
に、このやうないきざまは、くれゆくしげ
みから、すまない。わたしは、すまない。
となきつかれても、おしいくらいに・・・
娘をつれて、休日、マクドナルドに行くことが、多くなった。おれは、どうにも苦手なのだが、娘の希望を最優先するのが、親の務めだろう。と、勝手に思った、娘は、ハッピーセットを、おれは、なんでもいいから、適当に、メニューで目に付いたセットを、頼んだ。愛想のいい店員は、笑顔で、おれを見てくる、おれは見ない。その、輝きのあふれた笑顔は、どこで覚えたのだろう。と、待つことほんの数分、ふたりのセットが用意された。ついでに、空いているテーブルに誘導された、が、ちょっと窮屈、しかも、隣の若いカップルは、いやな感じだった。足を組んでいる、女のパンツが、見えそうで見えない。娘は、バーガーを、ぱくつく。見えそうで見えない、娘は、ぱくつく。男は、どうやら、別れ話を、女に切り出された様子。男は、半泣きで、バーガーを、ぱくつく。娘は、ぱくつく。おれも、ついでに、ぱくつく。女は、男を残し、店を、出て行った。結局、見えそうで見えなかった。今、おれの隣で、一組の男と女が、別れた。と、娘は、おれを、ちらと見る。そして、最後に、ぱくついた。その、娘の仕草が、キュートだ。おれは、馬鹿だ。おれは、結局、何も、見なかった。見えそうで見えなかった。女が、出て行った後の、休日のマクドナルドの店内は、少し混んでいた。おれと、男は、残りのバーガーを、残りのバーガーを、残りのバーガーを。ぱくついた。娘には、見えたに違いない、残された男の悲しみと、残される男の悲しみの、両方が。娘は、それも、ぱくついた。おれは、平日のマクドナルドのことを、少しも知らない。
七つ下がりの風通り
透かし模様の薄絹に
囁(つつめ)く日射が
なだらかに滑り・・・・
疾(と)うの昔に置いてきぼりの
ブリキの箱でひしめく玉が
熱の籠った鋪道を走り
鳴く蝋石の跡を追う
虹色の影を惜しむ間に
桑楡(そうゆ)日暮れて帳(とばり)を下ろし
爛柯(らんか)の名残も掻き消えて
斜陽が煽る草いきれ
彼方の路傍に残された
見過ごす程の足跡に
切ない笑いが くつつと ひとつ
道行き摺りに また ひとつ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はじめまして。
『修練の場』という言葉に惹かれて恐る恐る投稿させて頂きました。
宜しくお願い致します。
砂浜になぜか
まるのまま打ち上げられたりんご
いつからあるのか
りんごはなかば透き通っている
食べたらひどくだめそうなのに
僕はそれを舌にのせる
のを逐一 想像する
おいしいようなひどいような
それはつまり
取り返しのつかない味だ
僕たちは
またぐことも
無視することもできない
セロファンを重ねた空の
剥落
ぱらぱらと降りそうな
血が散った
と思ったら風船だった
風船売りが
あわてて空を仰いでいる
放置されたまま
これは砂浜にかえるだろうか
さらさらと
そうだろうか
そうは思えなかった
人が通り過ぎていく
少しのりんごの死臭をまとって
僕たちは
またぐことも無視することもできない
と
僕は思うのに
たまに気付いた人が
苦笑して目礼していく
今りんごをたべたとして
これ以上追放されうる場所などありはしない
のを
みんな知っている
北の地 北の海 海のむこう
何も容れてないはずの
空き瓶
の中の空の剥落
間違って放った風船を
浜でこどもが受け取っていた
あげるつもりじゃなかったのだと
誰もが言い出せないでいる
>kurageさん
>d さん
>ケムリさん
>たまに気付いた人が
>苦笑して目礼していく
>榊葵様
>海月様
動物を律するのは不可能だ
赤むけの腹がふくらんでいる
魚を見たときそう思う
その教会の内部は
ラス地のモルタルの壁で
口の利けない神が
野菜倉庫かなにかみたいに
佇んでいる
きっと2、3人女が寄れば
想像力を妊娠してしまう
そんな神がいて床に疵
何をするにも頼りなく記憶に縋り
人の壁に突き当たる
入り組む陽射しに指を組み
格子の椅子に腰に壁
自分を迎える為の
十分な時間を与えたはずなのに
少しの準備もなく
弁明にまわる
藁のごとく座る
人と神
桃の実はふっくらと赤らみ
繊細な綿毛にくるまれ
桃の実をもつそのちいさな手のために
真白のテーブルクロスはある
いつになく
銀いろのナイフはものしずかに
かべの絵ざらはそっと耳をすませ
窓の光やわらかな
日曜日の魔法をかけられて
部屋と桃の実と彼女は待っていた
あのひとがやって来るのを
新しいうすももの洋服には
水玉のりぼんがむすばれ
その中央に赤いばらが凛と咲いている
彼女は時計をみないふりをして
そのひとさし指は桃の実をくるくると
くるくる くるくるといつまでも
窓の光やわらかな
日曜日の魔法をかけられて
部屋と桃の実と彼女は待っていた
あの青年画家がやって来るのを
叔父が僕の万華鏡を批判する
32番目の粒と33番目の粒を隔てる
その境界が許せない
そう僕をなじる
叔父は万華鏡の向こうに
破れた手紙と生まれた赤子を取り残し
僕と同じ歳になる
そう思い込む
父がいない
伯母がアイスキャンデーを僕に押し付ける
何故か酸味が強い
工場のライン管理はどんなものか
僕にはわからない
工場でアイスキャンデーが番号を手に入れる
僕は伯母からそれを手に入れる
僕には番号がない
父がいない
祖母が祖父の右手に煙草を押し付ける
焦げ目は玉葱のようでもあり
僕はカレーを想う
カレーの香りにつられて歩いた2丁目を想う
祖母は冷たい手で僕を引く
粉っぽいカレーと粉っぽい祖母の肌
祖父はカレーが嫌いだった
死んだ祖父の右手に祖母は煙草を押し付ける
母が消えた
文庫本に印字された小説が僕を走らせる
誰もいない漁場へ
魚心あらば水心
それは嘘だ
磯臭さの上に身を横たえ
文庫本の一行が何字あるのか数える
僕がわたしになってから何年目か数える
わたしに残された絆の本数を数える
わたしが父と母を幾度失ったか数える
その小説はしょっぱかった
タイトルは
>まーろっくさん
飼育していたミドリガメを排水溝に誤って流してしまったのは、父親が家を出た翌日だった。お父さんは事情があってもう二度と帰ってこないのよ、と母親に言われた後、ぼくがミドリガメの事故について報告すると、あら、そうなの、悲しいことね、と気のない返事を母親はくれたのだが、母親にとっての両者の重大性を考慮すると、その気のなさは当然だった。
だけども、ぼくは、父親の事情とミドリガメの事故を天秤にかけ、結果、ミドリガメのために泣いてみた。ミドリガメのために流した涙を、母親は父親のために流した涙と思い込み、ぼくを慰めながら母親も泣いた。そのすれ違いがあまりにも可笑しくて、ぼくは心の中で「父親の事故、ミドリガメの事情、父親の事故、ミドリガメの事情‥」と連呼した。そうやると、全ての事情が飲み込める気がした。
父親に名前があったのと同様、ミドリガメにも名前があった。ぼくは、父親の名前に格別思い入れなどなかったが、ぼくが名付けたミドリガメの名前には少しだけ特別な感情が残った。
母親が言うには、ぼくたちの「上の名前」がもうすぐ変わるらしい。きゅうせいにもどる、のだそうだ。ぼくは「きゅうせい」を「救世」と勘違いした期間だけ、文字通り救われているような気がした。救世に戻るんだぜ、と友達に自慢したりもした。
そう言えば、ぼくはミドリガメに「上の名前」というのを与えなかった。それが結果的に良かったのかどうかわからないが、少なくとも、次の場所でミドリガメは「上の名前」を変える必要はないだろう。手続きが一つ減るというのは、素晴らしいことじゃないか。
ちいさな わたしに
鍵のかかる部屋が 与えられた
東にある窓は 曇りガラスだった
外灯に 仄かに 照らされて
時には 影絵が動く 窓だった
たまに 外あかりのない 夜
闇夜の カラスが 鳴いた
「カァ カァ カァ」
父から さらったのは
青い鳥では なかったか
外側から 鍵のかかる部屋は
大きな鳥籠では なかったか
「カァ カァ カァ」
遠い 昔 の カラスの 鳴きまね
伯母の家は 壊されて
スカイラークに なった
>父から さらったのは
>青い鳥では なかったか
>伯母の家は 壊されて
>スカイラークに なった
玉葱を輪切りにする
右から左へと赤や青のコピーが流れていく
何不自由も無く遊ぶ子どもの声に
輪転機が嫌な音を出して絡み付く
かき氷にかけたドレッシングは活き活きとした
桟のベッドで眠る虻
によく似た虫の死骸が此方を見ている
野良猫がそれを連れて帰った
台所の温度が少し下がった
玉葱が輪切りに為った
それは玉葱ではなくなって
笑わない子供に為った
砂をかき集めるようにして
飛散した靴をまな板の中央に引き戻す
立体感の無い包丁が指から離れない
何時の間にか竿竹のアナウンスが聴覚を占拠する
みみの螺旋階段を上ったり下りたり
まるで孤独な高校生みたいだった
チョコチップクッキーが懐かしい
想い出はそれだけあれば十分埋まった
環のような想い出をくしゃくしゃにみじん切りする
手が痛くなってから我に返った
まな板は玉葱の体液であふれた
まな板は玉葱の痙攣であふれた
目は何度となく刺激される
次の玉葱を冷蔵庫から取り出して
まな板はキッチンペーパーで軽く拭いた
包丁は
少し緊張する
指を切りそうになる
指を切ってもいいやと思う
指を切ってはいけないと思う
親指は大切だ
からではなくて
玉葱のドレスに見惚れていた
何かみとれていた。
相反する心情を瘠せた天秤に揺らし
語り始めの薬指が気だるいエレジーを集めた
訪れの春 もう10年も前だったか
遅れた控えめとセンテンスは
8年前には歪めながら
飲み干す牛乳瓶の翳しのように
無責任な時節をしがみ付けた
永遠についての確固たる道標
散り散り
乾いた風にも馴染まず
たくさんの手記の中じっと押し黙る
“間違えただけ”
そうなのだろう
画集の数ほども積み上がるわけ
軽い嘲笑のような日々に耐え難くも
いつしか
消え逝く面影を数分で呑み下しては
不幸なんて云う
実直な死やらカタルシスを
稀な宝石のように繋ぐ
“間違えただけ”
違う
そうじゃない
欲しがったのは欠片程の産声をあげた魂だ
哀しみの海に欠けた水性を憂い
星のさざなみに
繋ぎ止めきれぬ白日に
この胸の切り裂きを
叶えられなかった蒼白い掌を
照らし続けた
ひかりだ
すこし突き放していた4月
永遠を見つけた
レール遥かを見つめ
歩き出す歩幅に
恋人のような月明かりが先を照らす
>消え逝く面影を数分で呑み下しては
>不幸なんて云う
>実直な死やらカタルシスを
>稀な宝石のように繋ぐ
>“間違えただけ”
>そうじゃない
>欲しがったのは欠片程の産声をあげた魂だ
>哀しみの海に欠けた水性を憂い
>星のさざなみに
>繋ぎ止めきれぬ白日に
>この胸の切り裂きを
>叶えられなかった蒼白い掌を
>照らし続けた
>ひかりだ
>叶えられなかった蒼白い掌を
>照らし続けた
>ひかりだ
>哀しみの海に欠けた水性を憂い
>繋ぎ止めきれぬ白日に
>軽い嘲笑のような日々に耐え難くも
>詩作教室
炭板を押付けたような
闇を駈け抜け
家路をいそいだ
白壁にはめ込まれた
本の背文字が
私の記憶帳をめくる
夜更けの二時に
白いドレスを着た母が
唄をくちずさみながら
私の背中を
撫でにやって来ては
本の中に消えてゆく
後ろ向きに
空を追い遣る半月が
遠くに近づき
輪郭のない文音をたどる
眼球は激しく動き
私は起きながら眠っていた
思い出すのは朝市で見たまこと君の生首だった
ピンクのボールを当てて遊んだ
入園式の朝
手提げ袋にまこと君を入れて通った
あたしたちのアパートの住人が
まこと君の手首と肘を持っていて
いつもお留守番をしている
向かいの団地のあきら君が膝とつま先を持っている
まこと君の
高崎にあるあたしたちの保育園には
ジャストライクミーとゼイロングトュビーがいつも
ピアノの鍵盤で
腰を振っていて
バカみたいに明るい窓の外から
いつもまこと君の生首がこっちを覗いている
頭と体を注意深くつなぐ現実が
生きていて欲しい希望が
地上31階建てのマンションのどこかで
今日も
サティの音にのせて
ノコギリで挽かれてゆく
>>たもつさん そう、それなんですよ。
>>バカみたいに明るい窓の外