◇ No.48 , '06/08/05 00:14:47 作成

1393 : 流産   '06/07/10 00:33:36  [URL]


もう誰もわたしの詩を
読んでくれないと思った

水の扉は曖昧に強く閉ざされていて
鍵穴がどこにあるのかもわからない
わたしの顔もふやけて伸びて
老いてしまうのだと感じた
さようなら神様


お祭りの灯りは赤と青に光り
この世からぼんやりと浮いていた
どうしてここに無いものばかりを
強く強く望むのか
わたしは誰も祝ってはいないお祭りを
ゆっくりと見送る


彼からのメールが栄養を担っていたようで
来なくなってから貧血を起こすようになっていた
滝のように打ち付ける夏の水
小さい涙はこれに勝てない

六弦の音で何度も理由を聞いたよ
そして創造と文字の意味も
けれどそれらは簡単に
砕けて散ってしまった
わたしの子どもとともに

出なくなったボールペンで願いを書き出す
もう誰もわたしの詩を
読んでくれないと思った
吐ける全てを吐いたけれど
未だに吐き気が残ってる

開かない水の扉
流れていく星


1392 : 春の手紙  fiorina '06/07/07 22:04:28

     さよならの風景は
     あまりにも似ているから
     昨日桜の樹の下で
     だれに手を振ったか
     わからなくなる
     郵便配達が燃やした手紙が
     風に吹かれて
     わたしに届いた
     燃えるよりほかに
     仕方のなかった文字が
     煙になって流れてきた
     紙の上にあったときよりずっと上手に
     わたしはそれを読んだ
     郵便配達の使命は
     手紙を配達しないことだ
     届かない一通の手紙から
     文字は溢れつづける
     けれど
     その手紙をだれが書いたのか
     わたしは知らない
     もう知りたくない


1389 : みずうみの樹  みつとみ '06/07/06 19:10:16 *1

みずうみ、の真ん中にたち、わたしはいっぽんの樹になる。

ふいていく風、わたしの身体をつきぬけ、
 腕をのばすと、せかいのかたむきから、はなたれる。

わたしの枝いっぱいの葉たちをそよがせる、
 輪郭とりんかくとがふれあう音は少女たちの笑い声。

青空を枝葉で、おおいつくすかのように、のびやかに、
 すなおに顔をあげるのは、いきるというよろこび。

やがて枝葉たちは、ゆたかな曲線をうみ、
 はなやかでもなお、つつましい色とりどりの花を咲かす。

木々をわたる鳥たちは翼をひろげて、上空をせんかいし、
 たかい声でさえずる、それはせかいへの賛歌。

みずうみ、の真ん中にたち、
 わたしはひろい森の、ただいっぽんの樹となります。

(光冨郁也7.24修正)


1400 : ガリレオと八王子駅前で  Tora '06/07/10 19:49:26

午前と午後が見事に溶け合って タバコを買いそびれた深夜に
八王子駅前の雑貨屋のシャッターを思い切り蹴った
振り子のように行き来する列車に
乗車拒否されたような気がして 泣いた
涙しても顔が引きつる事は無く 
汚い 汚い
コインランドリーでグルグルしたい

待ち合わせの時間が近づく頃
歩道は首輪のついたヤギで溢れかえり
「銘々がメィメィ」とうまいことを思う
感情は大聖堂の鐘のように左右に振れ
いつでも ご陽気だ

久しぶりの再会だったのだから
喫茶店ぐらいには入りたかったが
車道を渡るのが面倒くさくて
二人して ヤギに紛れて駅へと向かう

「明日へ向かったのだから 過去に向かうのは自然な行為だ」

「生きる意味を求めたのだから 等しく死をも求めるのかい」

「いっせいのせ」で駅員を振り切り走り出し
3番線ホームまでのその見事なフォーム
見とれる観客を尻目に二人はダイブ
勢いあまって反対側ホームに着地
「そういえばさっき面白い事思いついてさ」
俺の話に彼は大いに笑い
「くだらないね」とつぶやいて
俺たちはフサフサとしたヤギになって
快速列車に乗り込んだんだ

雑貨屋のへこんだシャッターは翌日には綺麗になっていたし
3番線ホームには「ダイブ禁止」の立て看板
どちらが底へ早くたどり着くかの競争も意味を無くした頃
午前と午後は再び綺麗に分かれた

とても良い日だ


1398 : 天のほとり 暁の脈が早まる  水無瀬咲耶 '06/07/10 16:03:36 *2

薄青い白夜の冷気は鋭く 肺を貫き
遥かな地平線は緩やかに孤を描いていた
双眸を弓につがえ 私は天地の狭間を見定める
雪さえ降らない凍った大地を歩む日々を もういとわない

あれは長い午後のリハビリ室 硝子戸の向こうの空
古い記憶の層をさらうと ざわめきの輪郭が浮かび上がる
白樺の丘 幾千もの小さな緑の手のひらは
冷たい霜を噛み かじかんでこそ目覚めた
自分の色を思いだし 嬉々として大地の懐へと還っていった
木の骨はというと 尖った腕を虚しく宙に突き上げ
真昼の月のように部屋の水色の壁紙に溶け残っている
もはや歌う機能を失って がらんどうの心を
木枯らしが ただただ 吹き抜けてゆくばかり

荒れ狂う冬の夜 私は金属質の音に耳を塞ぎ
天のほとりの木の骨たちを想った
ぱちぱち薪がはぜる 痛みを削ってそっとくべる
暗闇を食べてゆく歌う炎の舌 ひとところに魅入られ
熱く透き通ってゆく血潮 そのひとしずくが永遠の種子と化す

いかめしく遠い空 節々をこわばらせた枯れ木たちも
厳しい光に打たれてこそ 目覚めるのだろうか
凛々と透き通ってゆく樹液 薄墨の世界のはずれで
寒々しい梢に あわあわとした翡翠のほのおの輪郭が視える
その息吹く気配が 辺りに満ち満ちてくる

深まれ 大地の鼓動
生命は明日を希い 揺るぎのない成長を見せる
冬は はかない夢が信念にまで高められる季節
厳しい韻律を強いて 死の懐に似せた慈しみの大地を歩ませる
かたちのない愛しきものたちが 再び萌えいずるために

草木のささやきが鳥たちを呼び起こし
やがて 暁の脈が早まる


1341 : Sirens  atsuchan69 '06/06/20 20:15:33  [Mail] [URL]

ただひとり 生き延びた僕に、
残された海。
激しく、荒れ狂った夜は 引き潮に連れ去られ、
空と海とをわかつべく 曖昧な区切りは
さも穏やかに微笑んでいる。

磯際を覗くと、ウミスズメたちが 餓えたように
黒いかたまりとなって漂い 泳いでいた。
足元には 濃い紫をおびた滴型の貽貝や円錐状の甲殻類、
また、石牡丹の仲間である 濡れた紅赤の唇たちが
潮をふき、群がり棲んでいた。

まるで上質の結晶を散りばめた
豪華なジュエリーを想起させる 波の面に
反射するのは、うつくしく研磨された 
痛みすら伴う ひかり。

 水のゆらぎに移ろいながら 生まれては消え、
 まぶしく 広大にひろがる、万象のかけら

君には肢がなく からだの半分は海を領域とした
 いのち。
すなわち、翡翠のような 硬い鱗におおわれたエメラルドの肌
何処までも とおく伝わる、ことばのない声
大地にしがみつく人々への憎しみと 歌

 岩に砕かれた 船の残骸 生活者のぬけがらと 呪い

ああ、海を望めば 君が呼んでいる
 ことばのない声でうたう 神秘への誘い

 「憎むべきものは カタチ
         「憎むべきものは ことば
                 「憎むべきものは 大地。


1409 : 詩なんか作らへんで  北大路京介 '06/07/12 01:05:34  [URL]


「 俺も 詩集みたいなページ作ろうかなぁ 」と言ったら
2年前の恋人は嫌な顔をした


「 冗談だよ 」と 笑って誤魔化したら 安心したかのように息を吐いた


1410 : ユキウサギ  幻庵 '06/07/12 01:13:41  [Mail]

何を考えて、ゆきうさぎを布団に入れたんだろう
貴女は、なみだの痕だけ残して消えていった
貴女の手足は冷たかったけれど、もっと冷たかったのは私の心
ゆきうさぎ、貴女の瞳は赤かった。

四度めの季節が巡り、空を見上げたけれど、貴女には逢えない
闇の中、懐かしい感覚
刺すような太陽光線、頬にあたる冷たい感触
それは貴女の

八度目の季節

雪の結晶は2つとして同じものはないと言う

君は誰、君は違う
それでも雪はゆっくりと降り積もり、深さを増していく

雪うさぎ、あの日の記憶は断ち切れないけれど、君だけを見つめたい
また同じあやまちを犯すかもしれないけれど、君を近くに感じたい

雪うさぎ、君のまなこが紅いのはどうして


1405 : 都会のノイズ  Reyuki '06/07/11 02:54:07  [URL]

黒テント
テトラポッド
職質のおじさん
ブルーシート
雨傘
C.ロッカー
測量士

黒テント
テトラポッド
職質のおじさん
ブルーシート
雨傘
C.ロッカー
測量士

黒テント
テトラポッド
職質のおじさん
ブルーシート
雨傘
C.ロッカー
測量士


1403 : 星の揺りかご  ミドリ '06/07/10 22:14:53



大好きな彼を
この細い腕と 弱い心のままで
つなぎ止めていたかった

祭囃子の夜を行く
たくさんの人たちの群れの中
人ごみの中の彼を 見つけては手を振り

アーケードに連なる提灯の下の
明かりの中を
ふたりは指先をぎゅっと絡めて歩いていた夜

背の高い
彼の横顔がとても綺麗で
だだっ広い大通りの向こう側で
ポンポンって弾け飛ぶ 幾つもの花火

「川辺りまで 歩かないか?」
「うん」

夏はまだ
始まったばかりで
昨晩 抱き合ったばかりの当の本人よりも
もっとはっきりした輪郭を
彼の中に見出していた夏

コンビニで お茶とおにぎりを買って
ふたりは川辺りで 三角座り

花火の下でみる君の
ちょっとバツの悪そうな彼の顔も
思い出は遠く
いつまでも
此処にはとどまっていてはくれない

一年が そうやって過ぎていき
また夏が来て
TVの明かりだけで
キスをしたり 抱き合ったり

ちょっとインドへ行ってくるからって
軽く言ってしまう彼を
空港で仕方なく見送ったり

夜中にドーナツ屋さんで
朝まで語り合ったり

こんな都会の夜も
特別なふたりにとっては
永劫とも思える
時の瞬きに包まれた
とても大きな
星の揺りかごみたいだ


1394 : 晴れた丘の上で  ゼッケン '06/07/10 04:13:33

たわわに実った神のなる木からひとつ
実をもぎとる と、ギャッ と世界が鳴いた
おれはびくりと首をすくめ、こわごわと後ろを振り返る
やはり誰もいないことをたしかめる 世界だけが
恨めしげな目をしておれのうしろに立っている
自分では何も出来ないくせに、いちいち大げさで癇に障る
ヤロウ おれは周囲が無人であることに勇気を得、怒りを大きくした
コウシテヤル 神のなる木からもいだ実を両手で鷲づかみにし、親指をめり込ませる
うぶ毛の生えた桃色の皮はたやすく裂け、やわらかな果肉からべたつく汁がしたたる
おれは人差し指だけでなく中指もいっしょに添えて出し入れし、内部を崩す それからもちろん
男を挿入してやった

うあ、なんだこれ!? ぶあっと出た
うあ、なんだこれ!? ぶあっと出た

きたなくてみじめだった ドロッドロだった
怒りが去るとそれは身勝手なことだったと、いまはやすらぎに包まれて反省した
ごめんね、いつもあやまってばかりだけど
穴を掘り、ぐちゃぐちゃになっちゃった神のなる木の実をぽいと捨て、土をかぶせ、上からぽんぽんとかるく叩いた

受精した種子は発芽し、世界樹となり、皆が枝の上で暮らす 
あなたはいやかもしれないが 皆だ 皆で暮らす

おれは寝転がり、雲の流れる青空を見上げ、世界がおれと仲良くしたくなるにはどうしたらいいのか、と考えている


1407 : 小さい有色のボール  一条 '06/07/11 18:34:29 *1

弁護士が、時々コーラを欲しがって、わたしの不可避な欠点に不平を言っている。ああ、でも、わたしは紛れもなく、掘り出し"者"だった。わたしに幸運をもたらすものが進行中で、真鍮と天候を同時に溶かそうとしている。あの二人のフランス人は、助かる見込みのない喘息患者だった。それでも、あの二人はきっとこの後、異なった人生を送るに違いない。金曜日に服を着て、わたしは歩いた。拭えない不吉な予感の他に、心の中ではより良い結婚を望んでいる。青鷺が教会の上空を旋回していた。本当に今日が幸運な日だというなら、一叢の羽で空が埋め尽くされても不思議でないのに。彼らの回避的答弁、そして、郵便受けに捻じ込まれた不在証明書、それはすべて一瞬の閃光の中に。ほら、あの乗用車の運転手だって、すっかり居眠りをしている。人間には、別の顔がいくつかあるものよ。わたしは二十四歳で、自分をサムと呼んでいる。乗用車が衝突する音を、わたしは、教会のそばのカフェで聴いた。クリームがテーブルの上で、収斂したり拡散したり、どちらにしてもそれは移動をしている。六十九秒が過ぎた後に、次の三秒が始まった。その三秒の間にすべてのことは、始まり終わってしまう。青鷺が旋回し地上に作る一寸の狂いもない正確な円環に、子供たちは閉じ込められる。わたしは、すべての本を読んでしまった。わたしは、この世に存在するすべての本を読んでしまった。より良い人生とは。より良い結婚とは。わたしのカップの中で白と黒によって形成された抽象が膨張し、子供たちの円環に侵入する。ねえ、サム、きみの顔は世界でもっとも悲しいような気がする。今日は、とても幸運な日だった。わたしは、新鮮な空気を体の中に導いた。例えば、心臓の吸入と排出によってのみ、そのことが正当化されるとしても、この完全な、狂いもない球体に、友情の不滅性を


1364 : かつて今の魚  紀取 '06/06/28 23:52:06

2度と訪れることのない川の中に
あの時見た何がしかの魚が泳いでいるのを想起する

私は見た
山の奥の奥の滝の手前に溜まりで

じっと見ていたわけではないが

雨でひんやりとした部屋の中
私は窓から緑の葉を見ている

あの魚はまだいるのか いないのか
別に魚の寿命を今から調べようとは思わないけど

けど
いようがいまいが、その存在は私に何らかの力を与えた


1411 : 陣取り   '06/07/14 01:15:55

昼下がり 二人だけの陣取りは
物置の日陰 土にふれる
掌の冷たさ 
棒きれで引いた枠の中     
転がる小石に
微かな爪の痛み 
弾いた小石に指をあて
円弧を描く繰り返し

繰り返す夏のいつか過ぎ
新月の夜
二つの国の陣取りは
日本海 頬を切る風の冷たさ
鋼鉄の船のゆく白い航跡
雲型陣、交差する孤島

海鵜は波間に餌を追い 
並ぶ銃座の海を隔て
弾かれるは
野菊の花弁 ムクゲの花蕾 
その痛みを
微かと感じる者は
誰か


1408 : 朝七時三十九分  喪主 '06/07/11 22:45:02

                          
ゆくそびもなくくらげなすホウセンカよ
どこに逃げるというのかたゆたゆ脳症炎の絶叫、
ゆきゆかれゆくそびもなくアジャスのほとりにたえだる激情発症。
微熱更新。
さいなむアブストラクティカル忍者はゆく
ザムザのいきどほりむなしく、ゆれる湖畔。
開闢の呻きみなもから、
なめとこしぐれゆらす。
あさぼらけ、朝ぼらけに膿めるみみずのダンスが
ほらがいをちまなこになって吹くクロッカス奏上。
むしょうな激痛と踊り子のおたけびが啼く、今日も啼く、なぜともなく、
啼く、啼く、啼く。
開闢はまだか
ちくしょうのあさぼらけ、こんちくしょう、こんちくしょう。
こんちくしょう朝七時三十九分、
こんちくしょう扇風機の風、
朝御飯こんちくしょうこんちくしょうこんちくしょう、
目先うしなう今、
目的地消滅す。
朝七時三十九分七十三秒。


1406 : スイカ  たばこ '06/07/11 17:08:17



絶望の彼方から幸せへと呼び寄せられる

みずみずしい赤と艶のある黒
口の周りからしたたる蜜を真っ白なタオルで拭いてやる

空高く小さな種を明日へと撒き散らして
濡れた新聞紙に散乱した緑の皮

ひたすらに取り合ってた真ん中のスイカ
蒸し暑い夏の日のテーブルの上

今では何時間たっても変わらずそこにある寂しい三角


1357 : セピアの逍遥  苺森 '06/06/26 08:22:21


銀鼠の雲間裂いたオレンジ
ふやけた風を染め
オルガンの音色掻き曇る
赤白ストライプの鉄塔がそびえる町
ジーマの瓶片手にそぞろ歩く
ひとり傷心の夕暮れ
梅雨空は荘重たる面持ちで
私は死の床で迎えを待てる病み人のよう
春を鎮める涙に肌の褪せてゆくのを見ていた
しとどに濡れた紫陽花は光の粒子纏って
ひそめてひそめた垣根に仄暗く沈む

灼けつく季節が嫌いだった
約束はしないでいた
物憂い日には爪を噛んだ
薄らぐ昨夏の水着跡を気にしながら
セピアに霞む少女の押し黙る庭
幼い譜面の唇の、軽く触れても瞬時に弾けて飛び散りそうな音階を
傘の縁から雨雫の滴り落ちるをひとつまたひとつと数えては
そろりのそりと辿っては確かを問うている
ここに呼吸を刻みつけている私をもう偲んでくれるな恋人
その淡い声色を、まったく頑な耳にねじ込む痛切さで未だ

何度折れた春だろう

傷口から絶えず洩れる膿のような雨だった
気疎く、ゆるい雨だった

轟々とせぐりあげる雷の軋み
血管を伝って流る激情
赤黒い太陽の潰れた悲鳴さながら
重ねるだけ重ならない、重ねるほどに遠退く
砂上に馳せた夢の辿った指跡も強かに消えゆく頃には
別々の朝を仰ぎ、また絵空の幸を笑う私達だ

白々と露気がかった雨上がりの酩酊
夕陽の逆光で黄金色に透ける髪
水溜まりのなか揺らめく空を飛んだ
惚けた薄紫のミュール
ベルリラの肌を撫で上げた飛沫のプリズム
あっ、と息を洩らした唇を塞ぐ指
血豆色の噛りすぎた爪先から感ぜられるは軟膏の味
濡れた髪が蛭のようにばらりと頬に張りつく
嘔気の帰路で夏が鳴る――私の内奥、

さらわれるのだ、声は、まとわりつくように
朦々と夕靄にけぶる影
湿気ったガラムに火をつければ
マーブルの走馬灯が渦を巻く
くゆらせた煙の彼方
銀色に尖る爪の伸びた悪魔が羽音を立てて笑う
おののく背に聞いた、じわと迫る破滅の足音
コウモリが喧しく飛び去った
重く垂れ込める天は残酷にして美しい

耳を塞いだ瞬間ガラスが砕け散る
世界が揺れて滲みだす
叩け、真っ逆さまにアスファルトの肌へ私ごと
顔色一つ変えることなく空ばかり空ばかり回し続ける季節の
譜線を遊べる虚ろな雨粒
この指先で奏でるは貴方という春のうねり

若さほど哀しいことはない
永遠と言うならば、いくらか救われたであろう
夜明けの花、すり抜ける風、悪戯な唄、光る汗、数多の口づけ!
すべてはこの真実のために、この、へたくそなナイフと嘘で武装した真実の
痛わしく儚い悪ふざけを彩り奏であげるために
私達は重ね、すり抜けた
いのち、それらの不様なことといったら
ああ!貴方のこころに触れているときの悦びといったら

夕闇に艶めく竹藪の道を下るころ
ぬるむ肌にも夏が滲む
何もが焦がせる黄昏にまた
いくつめの純情くれてやろう