◇ No.406 , '14/10/06 09:17:15 作成

7632 : シのシャープはドじゃない  阿ト理恵 '14/08/30 20:28:13



おまけにドのフラットはシでもないのでだまされつづけてしまいました

いちにち一mmだけうかれて

境界線をわたしの輪郭とするならば

いつでもつながってしまうことに

とりあえず
とりあわず

平温でいましょう

かってないいぶんちがいちってあいにくのはれのひ

ならない音のこうふくをきる。のたちわるい類のわたしたちってありえないわよ、まみれなくたって、できました、やりました、もめました、ぶちました、やめました。もうフランソワ・トリュフォーの映画なんてみないことにした。は、やはり、さよならの有効期限なんか三秒になるので、なんで愉しいのかわかんないって云いながら、そのととのえ方、きゅう(と)けいをす(て)きす(て)きす(て)て、ひらがなぼやけるくらいのぞむほどにのどはかわいていないのぞまれているわりにのぞかれてもいない、たわけた正三角関係だって云われて、わたしは彼女にしたたかにしたたる彼女はしたがる彼はしたがって彼女はわたしと彼にしたがうしかない、それぞれが三分の位置がわからないというせきららせきららせきらら

ねえ、どこからが空?

口+口+口は目
見た目も口がみっつ
足がはえた程度と見られがち
まあ、いまさらおもいのたけをぶつけるってのもいいかなって
まさかはなしたいことばかりだったなんてね
かなわないな
かまわないでおかえり
耳の穴
しこうよりクオリティをのむ
あさひさしこみたつはるに

さてと、わたし
たちとはさよならするよおやすみまたねようはワンセグみてぐだぐだしてるまにまに真実はさま(よ)っているらしく、

きゅうくつ脱いでしまおうか

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7638 : 続・銀の雨  はかいし '14/09/02 17:09:59

木の上で生活し始めてからもう三日も経つというのに、兵士たちの姿は消えない。消えた、と思ったときには、また別のところから、姿を見せている。鳥たちの羽ばたき、猿の鳴き声のリズム。私の走りはちょうど重なる。私の木の葉を踏む音を隠してくれる。どうして逃げ出したのか、少しも記憶にない。頭に浮かんでいるのは、脱走兵は射殺される、という指示だけ。どこまで追ってくるのか見当もつかない。追い掛けと逃げの単調な繰り返しではなく、他の音に紛れた足音に対し、照準を合わせるようにして取り囲む準備が、兵士たちには出来ている。

銃を構える音。野生の小動物のリズムにはない足音。その方角から動きを捉える。脳裏に浮かぶ微粒子は、明らかに口を縛っていない袋の形状をなしている(ぶつ切りにした輪ゴムのように世界は広がる)。まだ私の身体の中にも物理学が残っていたのだ。微粒子の動きが波紋を作り、木々がそれを反射しつつ音を伝える(私の耳の中にしか世界はない、すべての音が私の中にある)。正確に彼らを定位する音の群れ。待伏せが銃を構える。前方に微粒子が出現(人)。待伏せを避けて、微粒子の網を潜る方向へ。右という名だったか、左だったかは、とうに忘れた。微粒子のパターンから逃れるのに、できるだけ猿のいる方に向かう。猿は近づくとざわざわと怪しげに動き、兵士たちの気を紛らすのに一役買ってくれる。最後に、木の上から手榴弾を遠方に投げ、爆発を起こす。あとは火が確実に兵士たちを追い払う。

煙の中で、眠っていた。そのときから、夢を見ることを、思い出した。思い出した後は、それが夢という名前だと、名付けるのを忘れた。忘れはしたが、それがそういうものだと知っている。鳥が飛ぶ姿が、私の世界を上空に打ち上げてくれる。先に燃え出した山火事に散水する車の群れ(消防車)。あれが何という名前だったか、もう呼ぶことができない番号を掛けて、そこから連れ出してくれるなら嬉しい。110、119、0120、数の記憶は、それを辿る方向とは常に逆向きに、流れていくのだが、その形だけが浮かび上がり、名称を思い出すことはない。何と呼んでいたか、呼んでいたのは誰だったのか。問いが、失われた記憶を浮き彫りにするが、骨格はなく、意味を与えようとする行為には、喪の作業という、新しい名前を立ち上げることも、ままならない。破り捨ててしまおう。くしゃくしゃにして。夢の描かれた紙片(ゴミ)を収めた、円筒状の金属製容器(くずかご)の表象の、名はどこにも存在しないばかりか、視界を覆う不純物として現れ、それをも片付ける身体の部分(掌)、その名を、どこかへ捨てていく。何も残らない。何も残らないということさえも。

山火事は辺りをすっかり焼いてしまった。炭になったところに、わずかにまだ光っているのは、猿の瞳(または、星たちと呼ぼう)。何と形容したらいいのか、私にはわからないばかりか、むなしく光るばかりの夜の星を目薬にして、あなたは光っているのだと(あるいは、猿の涙の輝きが空に上がっている)。彼らに接吻し、ただ愛に浸る。身体の部分(性器)を、そこに含ませてくれたとき、安堵して、もう胸が張り裂けそうになっていたのを、散々、ぶちまけていた(射精、繰り返される前後運動、ないしは排泄)。その後の記憶は、未来でできている。生き物たちが見ているのは未来ばかり。希望と恐怖に満ちた未来を経て、死に向かって生きているのだと、思ったとき、何かであることをやめていた。何であるかは覚えていない。

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7637 : 水のない街  葛西佑也 '14/09/01 23:29:12  [Mail] [URL]

私達には何も残されていないのだと彼女は言った
水のない街で湿気ってしまったビスケットを頬張りながら
手持無沙汰をやり過ごす君にはすべての理解は容易ではなかったはずだ
消費しつくされてしまった時間を取り戻すのは難しく
忘却されてしまった道徳のかけらも手のひらにはなく
何も持たぬまま それでも たたかっていかねばならなかった
二割がまっとうな仕事で
八割は法には触れないまでも 
とても誇れるようなもんではないと
君がため息交じりにつぶやいたのは 
たしか去年の秋ではなかったか

残されたキャンディーの袋のねじれをほどけば
そこからまた新たな人間関係が始まった
直感的に知っているのだ
その中身の個体が持つ甘さを
餓えとは甘さへの餓えであった
見えない敵に怯えながら自分自身という甘さに怯えながら
避けることのできない不条理とたたかっていかなければならない
それを人生とか生きるということだと一言で済ませるのならば
済ませることができるのならば
私には言葉はいらない 言葉などすでに必要はなかった


彼女はよく喋る人であったし
私はそんなところに惹かれてもいた
くだらないことで悪事を働くのはハイリスクハイリターンで
やるならば本当にやばいことをしろと
君は言った
その日はなかなか夕日が沈まず
足の指先という指先のすべてから
謎の液体がしたたっていた
それを一本ずつ丁寧に君が拭き取ってくれて
それで君の汗が私のその液体と化学反応をおこした
雄弁で饒舌であっても飯は食えぬ

三歩進んで二歩下がるならばまだましで
私たちは何も進歩してはいなかった
体中の水分という水分は失われてしまった すべて
私たちには何も残されていない
すべてが詩的になったり塵のようになったりもするし
明日になれば何があるのかなんて誰にもわからなかった
答えとかそういうものは用意されていないのだ
あるいはすべて消費し尽されてしまったのかもしれない

途方に暮れながらも
また歩き出す
あてもなく
否

きっとこの先に水のない街がある

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7623 : 場所  中田満帆 '14/08/20 13:24:06  [Mail] [URL]

かの女たちへ



   そうして悲しむことをやめ
   ふたたび葉につつまれた片手で
   ぼくは帰っては来ないもののために祈る
   いくつものかげたちはいつもみたいに廊下を過ぎる
   なにをそれほど脅えてたのかはもうわからなくなって
   噛み砕かれた胡桃の実がぼくの咽を通る
   いつだったかおぼえてないけれど
   あなたたちがぼくに笑みをむけてくれたとき
   ぼくはなんだか怖かったんだ
   あの駅ビルや教室のなか
   ぼくを笑ってた
   いつかまたあの笑みをみたいといまだおもってる
   それがどんなにも空虚なことと知りながらも
   ああいっぽんの老木を小脇にたずさえて
   あなたたちの望むほうへと消え去ってしまいたい
   もちろんこうしてるいまでもね
   だからぼくにことばを
   ことばを


暮れの点景


   やがておれのうちがわから零れ落ちる水よ
   おまえはまたしても女の仕方で去っていくもの
   街路樹のならぶ心象を急いで去ってしまうもの
   こんな光景のために幾たびうろたえてきただろうか
   暮れの点景、
   そこに現れた車道が深く胸をえぐる
   つよいまなざしを期待しながら
   またしても惨敗するおれよ、
   水は対向するひとびとを抜けてしまい、
   もはや見えなくなる
   濃くなっていくかげのうちでなにもかもわからなくなる
   やがておれのそとがわから展がる地下道よ
   どこまでも明るいうちを往来がゆるい
   暮れの点景、
   ふたたび惨敗してしまったおれの愁いにいま応えよ


不実


   不実さよ、そのみのりをぼくにおくれよ
   どうか信じて欲しいんだ
   列車に乗り遅れたこのぼくが必ずさきにたどり着くことを
   お呼びでないのはわかってるつもり
   けれど忙しいひとのなかを縫って
   ぼくは死に急いでやる
   これだけがぼくの復讐だ
   遙かさきのシグナルよ、気をつけろ
   遙かさきの駅舎よ、気をつけろ
   必ずや不実の輝きをもってしてそいつらを倒してやるんだ
   不実さよ、
   そのみのりをぼくにおくれよ
   どうか信じて欲しいんだ   
   列車に乗り遅れたこのぼくが必ずさきにたどり着くことを    



ひざかり


   このぼくの敵どもよ、
   どうか安らかなれ、だ
   この季節はだれもが顔をしかめて去っていく
   夕暮れをおもわす足通りでなにもかもが片づいてしまうもの
   あたらしい夜を待ちに待ってどこかへとぼくも消えたい
   けれども辛辣な街灯はぼくを閉じ込めたまんまでどっかうちがわに立ってる
   そうともあれらがぼくにとっての知覚の扉なのさ
   美しいふりをして遠ざかるかのひとよ、
   きみはきみのまんまでいればいい
   もう出会うことのないように
   ぶざまにとどまりつづけるぼくの魂しいよ、
   慈しむ
   このひざかりに咲いた太陽の一輪を差して
   そいつの色が抜けるまでに描写していくんだ、すべてを
   みおぼえのない自叙伝、
   そのうちにぼくはいずれ居場所を見つけるだろうから、だ。


場所


   きょうはヴィム・ヴェンダースの写真集をみて過ごそう
   "Places, strange and quiet"
   静かで見も知らない場所を求めながら、さ
   きみはかつていったね
   ぼくのことがきらいだと
   あのとき一〇歳だったぼくらも三十となった
   ふるえる稜線をたどって厭きなかったあのころ
   ぼくはすでに知ってたんだ
   自身が望まれてその場所にいるのでないことを
   ありがとう、さようなら
   そうしてさらにありがとう、さようなら 
   ぼくの知らないとこできみは大人になった
   きみの知らないとこでぼくはできそないの人間になった
   ありがとう、
   そしてさようなら


怖れる子供


   ぼくの詩神は閉塞と解放を行きつ戻りつ
   太陽のなかに青い種子をみつけようとする
   幼い顔したまんま追いつめにやって来る
   
   きみの詩神はどこでどうしてる?
   ぼくのはハンバーガー・ショップに入り浸って
   角の席でいつもコーヒーを啜ってるやつさ

   きみとはいつも会いたかったけれども
   きみはぼくに会いたくはなかった
   送った詩集が返送されるまで
   ぼくはどれほど待てばいいだろう

   ひとはだれでも詩人であるときがある
   寺山修司はそういってた
   そして詩を棄て損なったものだけが
   詩人として老いるとも
   ぼくは老いてしまったよ 
   すべてを怖れる子供のまんま


空白みたいなもの


   充たされない愛に渇き
   餓えた犬みたいに通りをさまよっていく景色
   すべての風景はぼくにはあまりにも美しすぎたんだ
   左右の確認を怠って死んでいくものたち
   交通はささやかなる墓標
   そのまんなかに立ってまたしてもぼくは夢想する
   気づけないあまたのきみに分散していくかたわらで
   おもいもかけず塵となり、くずとなるんだ
   さあ、おいでぼくのうちなる犬たち
   さあ、おいでぼくのうちなる猫たちよ
   いまや過ぎ去った内的歴史とともに
   うち負かされていく魂しいよ、
   せいぜい永遠にでもなるがいいさ


共鳴


   それはまやかしにちがいない
   どうとでもいいあって勝手に沈んでいくがいいさ
   もうどうでもよくなった
   なにもかもに感じない心が育ってしまい
   なにもかもに手がつかなくなる
   攻撃性を炙りだされ
   足もうごせないときよ
   ペニー・アーケイドのどよもしだけが
   おまえを癒やすだろうよ
   替えの利かないなにものかを求めて
   手を展ばすときだけ
   ぼくはなにものかになれる
   わずか十分間の遊び
   だれかさんはそういったぼくを笑うだろうか 
   果てのないところにたったひとりで立ち向かってるおまえよ  
   ともに感じあうことのない、その両手のなかにいっぱいの花を奪い取れ

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7627 : 『たまご』  心にも無い言葉は書けない '14/08/26 13:18:57

まだうすやみにいるので
よあけはまだこないままで
ひとみのいろはやみをきりさかない
あかいはなだけがこのばしょではさきみだれて
いばらのとげだけがやさしさについておしえるから
みつどがかわるときのやわらかさですいとってって
こどうのおとがきこえないのに
みるようにかんじているウチ
せかいはりんかくをえるわ

いのりのつよさはけっして
ゆめをみるためではなく
ゆめをみせるか
さまさせるためにあるの

ほら、からをたたくおとがする
えがおをみせないかわりになきさけべ
このさきでしっかりとわらうために

ああ、せかいはひとつうけいれる
うまれおちたときのかんしょうはで
すべてにせんせんふこくしていきなさい

いばらのとげだけが
きずぐちのあつさをしらせ

うまれるおちるわ

もう、きみがうまれるわ

こどうがすこしだけはやくなって
せかいはまぶしすぎて
めがつぶれるころに
わたしはかげになる

てのひらのおんどだけ
たしかなものをのこすの
だから、ぶつの。
だからつなげるの
つながるの
つながってって

したさきでころがして
きづかないでいてほしいから
うまれるまえにキスをひとつおとした

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7622 : (無題)  はらし '14/08/18 23:54:21  [Mail]

慰め五篇

.金色丘

金色丘には ふたりはない
(その想像を こころみれば 拙く)
その拙さこそかなしい

.夕日

夕日に照らされたふたりの影は
夕日の明るさにくらべると 淡すぎる不思議な影だった

夕日が光を強くして 苦しみ耐えている間にも
ふたりの影は ガラス製のように澄んでいた

.疲れた夜に

あの凍えた樹は桜であろうか
この白い雨は街燈の光であろうか
タクシーは排気ガスを煙らせて消えていく

・枯れ田

枯れ田は悲しくて
一晩 きりきり鳴いている

・微光

遠い闇夜は 微光たゆたう
蛍の鈴が 聞こえてくれば
その鈴の音が 微光をかざす

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7602 : でがらし  田中恭平 '14/08/11 11:36:06

 
1. 無臭なる漢を載せて汽車帰る

2. 盆の入り鉛筆削り燃えてゆく

3. 寂しさに秋津と語る日暮かな

4. 銀幕のスターに薫る土の香

5. 夏休み渋々通う警察署

6. 束の間の鬼との遊び諭しあい

7. 正しさを誇る弱さも酒の席

8. 疲れては宮沢賢治の風に触れ

9. 眠りゆく町を後ろに白い傘

10. 刻々と命は消えて句を成しぬ

11. クマゼミを避けて笑いし乙女かな

12. 水滸伝開く前より闘志かな

13. 無臭なる漢の棄てる聖書かな

14. ふるさとに原発はあり原爆忌

15. 風に問う私の予後や百日紅

16. 狐ほど愛せぬ猫と遊ぶなり

17. 旅に出ず句を杖として散歩せり

18. クーラーの微音を嫌い風通す

19. 野に遊びその後は知れず美少年

20. 水という大いなる牙一気飲み

21. 儚さのプールを出ては本開く

22. 寂しさに鍛え抜かれて三千句

23. 夏終えて道はまだまだ続きおり

24. 友殺し転びばてれんいんふぇるの

25. 水滴の綺麗なことよ夏の草

26. 古椅子の軋みに任せ夢に着く

27. 花札やひとりで広げ凝視せん

28. 定型は寂しい遊びトマト冷え

29. もう一人自分が欲しい秋の庭

30. 東より陽が出ることの風呂に入る

31. ミンティアに幸少々や盆の入り

32. 夕立に追い立てられて寺に入る

33. 航海をつづけることの海の花

34. 無臭なる漢の告げる余命かな

35. 寂しさを槍へと変えて永すぎる

36. 肯定も否定もせずや百日紅

37. 月を背に芋を投げ合う野良の猫

38. 久方の天に挨拶峠まで

39. 胡瓜より曲がる魂整えず

40. 神経の海にたゆたう枯葉かな

41. 風吹けば桶作らずに句を作る

42. 悪魔より人を殺めてヤハウェ様

43. 怒りより仮面大事と大人告ぐ

44. グローバル食えない物は要りません

45. 歩即無の境地に至り富士の山

46. もろこしの視界のつづくところまで

47. 花嫁は星に棲むためデパス飲む

48. 転がった石は静かになりにけり

49. 賢治読む書斎で眠り風邪をひく

50. 夏祭発火してゆく胡瓜たち

51. 県道に私をひとつ置いてゆく

52. 蜩やその日暮しは私かな

53. 弱きひとひろばに集い諭しあう

54. 歌うから勇気が湧いて獣道

55. 泣くことを否定されたる家に棲む

56. 海の日はラジオで知って眠りけり

57. 冷蔵庫象が静かに立ち上がる

58. 友情の証がタトゥー涼しけり

59. 月光の中にヤハウェと遊びけり

60. 親鸞や雨に濡れゆく婚会後

61. 腹に棲む蛇に癌玉喰わせけり

62. 神隠し老女隠しに変わりけり

63. 陽の中を忍んで進むアスファルト

64. 黒企業北風吹けば赤く燃ゆ

65. 無臭なる漢の手旗信号よ

66. 風通す家に静かに猫眠る

67. 屑ですが塵箱にすら入れない

68. 化石から還るものあり夜の道

69. 歯ブラシを取り換えました原爆忌

70. 県道にぶちまけられて親子丼

71. 夏草の香りの方へ進みゆく

72. ノミとして明るい春の野分明け

73. のび太ほど普通に暮らす盆の入り

74. 血の通うこと指し示す蚊を殺め

75. ペコちゃんの首振りやまぬ野分かな

76. 詩人とてビフテキは食べ健康忌

77. フランスがこんなに近く行きはせず

78. サイコロの一の目だけが火事ですよ

79. 空っぽのメールBO�哨�ラケー忌

80. 苺ほどあまく他人を赦したし

81. 伍助氏のその後は知れず草に露

82. 洗脳に近き哲学ひきかえす

83. 仮面燃す東の友に誓うため

84. 糖質の甘さに比して辛いかな

85. 無臭なる漢の手よりスタンガン

86. ガザガザと枯葉舞い散るイスラエル

87. 羊飼う勿論脳内閉舎にて

88. 無頼派もメンヘラ前に寂しがる

89. 虚子よりも清が好きで冷奴

90. 光あれ生きとし生けるものすべて

91. 回心の昨日静かにお茶を注ぐ

92. 春と修羅エヴァンゲリオン夏休み

93. 炉爆発!本の怨霊だろうねえ

94. 虚子に告ぐ定型俳句は無理でした

95. 伍助氏のその後は知れず鼻穿る

96. 放哉の顔が嫌いで句は好む

97. 接待に蜜柑を貰う雨後の里

98. ミンティアの如き句を書き満足す

99. 蚯蚓ほど大きな傷の膝眺め

100. 果てしなく広がる空の青と化す

 

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7643 : 風は  ケロちゃん '14/09/05 19:29:41

夜の公園で突発で劇場が始まってるのを

僕は現地で見て知った。

その僕と演技との綱を見えなくさせ、劇場を僕と取りつないだのはベンチの上に覆いかぶさる若い男たちだった。

僕にはわからなかった。音楽が虫によるものなのか、はたまた月の裏側の音楽がたまたまもれているかをね。

なぜならそこには言葉がなく、音楽が好きなように舞っていたのだから。
蚊のような、風の結果を待つ君らにはわからない。残念だが。

ようやく彼らが光を追って、目を電灯にくぐらせたとき、音楽は関係を断ち切り彼らを独りにした。

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7592 : 宴を開く  黒髪 '14/08/06 22:29:44

最後の精霊は宿るべき対象を見つけられずにさまよいだし
この世を見下ろす
爆発や汚染や血や病に遭ってやはり最後だと思っている
寂しく一つの神社にたどり着いて神の存在を信じることの出来ない自らと、人を責め
優しい彼は
眼差しの中の聖性の草木に帰るべきであると思った、その時に

ああ、人の世
松明のない暗闇の中で
燃えているような灼熱
神が宿ったかのような赤色の魂は、どれも帰るべき場所を探さないかのようで
空を焦がすかのように妖しく燃えている
自らを見出した人間たちと悲しげに鳴くみみずくがいたのだが
その存在を歌で、神に訴えているかのようで
精霊の身さえ脅かすかのように魂を光らせて
帰るべき場所を探すべきではないことを訴える
最後の精霊はこれにこそ祝福を与えようと思った
この素晴らしい魂達にかしずく事こそ神の望みであると見た
神に捧げる踊りが聞こえてくる
とても懐かしい
精霊は神の力を感じて目を閉じた
華やいだ匂いが辺りを包んでいる

例えば月から与えられることはいっぱいあるけども
月に対して何かを与えることは出来ない
そんなことばかりが続くので自然を神話化して神を創りだした
精霊の父が生まれたのは授受の自然からの語りかけを支え、礼を返すため
人は魂において初めて与えられない超性を作り出すことが出来る
人間の中の自然的部分を表すのが魂である
魂のつながりが神との対話であり
いま闇が払われ暗さは明るくなった
精神は闇の中でも光を溜めている
そして日々の果てに人が求める真実は
確かにあったのだと思うことが出来るのは
それが実在するからである
夢と現実の果てには光を見よ

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7590 : (無題)  ベッカー '14/08/06 07:07:12

フジヤマ ゲイシャ サムライ
キナクサイ
日本 三途の川
牛肉は看護婦の骨に恋
遅刻する生命より
カウント3
死は素早い
冷奴がなければ酒は呑まんぞ
肉
肉
肉
生ゴミ
南無阿弥陀仏

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7641 : 想像の生まれ  Lichida '14/09/04 15:53:56

肌触りの悪い、角ばったこぶし大ほどの岩石に波が立った
気味の悪い波紋を描き出しながら岩石は揺れ、そして表面に少女の顔を作り出した
片方の目は開いておらず、口も完全にはできてはいない
しかし、大きく開かれた右目はしっかりと、確実に前を向いている
固い鉱物同士を擦り合わせるような音を立てながら口を動かし
ひどくもの珍しそうに眼球を独楽のように回転させている
鼻孔はただの飾りのようで、その小さな鼻はとてもかわいらしい
まだ幼いながらもはっきりとしたその顔は
岩石の持つ非生物的な灰色ではなく、しっとりとした肌の色に包まれている
次第に右の眼球の動きがおとなしくなると、左目がゆっくりと開き始めた
左目であるはずのところの岩石が削られ、変異し、溶け出していく
右目の動きが止まった時、左目には深い穴が開いていた
全体の岩石の大きさからは考えられないような、深い穴が開いていた
僕はその穴を覗いてみた
右目を大きく開けて、懐中電灯で照らしてみた
そこは、生命の洞窟であった

少女の左目から生命が噴き出し、僕の右目に食いついた
右目は無機質な岩石と成り果て、削り取られ、溶かされた
僕の右目は生命の住処となった

一瞬の生命の萌芽のにおいを嗅ぎ付けたのか
僕の副鼻腔の奥に潜む、妄想体の塊が暴れ出した
顔を持つ忌々しい妄想が、ついに活動を始めたのだ
この妄想どもは小さな棘のある舌で骨を削り取り、右目の生命に襲いかかる
少女の生命を僕の妄想体が包み始める
血管の拍動に合わせたリズムでどんどんと包み込んでいく
曖昧だったはずの輪郭をはっきりさせつつ、すでに均一化された妄想の集団が生命を包み込む
自立した妄想体は少女の生命を自身の中に生かすことで進化の権利を勝ち取った
この世界で、生命体たりうる可能性を得たのだ

さあ、僕の体はお前らの繭であり、生きる場であり、シャーレに過ぎない
この柔らかな隔壁を一度でも破ってみろ
高濃度の毒素にやられて、お前らは死滅してしまう
さあ、早くこの地獄へ飛び出してゆけ
少女の右目が動き始める前に

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7644 : ATOM HEART MOTHER。──韻律と、それを破壊するもの/詩歌の技法と、私詩史を通して  田中宏輔 '14/09/08 00:02:05 *1



ころげよといへば裸の子どもらは波うちぎはをころがるころがる

 相馬御風の歌である。それにしても、「この音は何だ」(シェリー『鎖を解かれたプロメテウス』第一幕、石川重俊訳)。
なんと楽しい歌であろう。これほど人を楽しませる歌は、ほかにはないであろう。愛と喜びに満ちあふれた歌である。
おそらく、「音楽は人間的なことの中でももっとも人間的なことで」(シオドア・スタージョン『夢見る宝石』14、永
井 淳訳)あろう。


街道をきちきちと飛ぶ螇蚸(ばつた)かな                               (村上鬼城)

霧ぼうぼうとうごめくは皆人なりし                            (種田山頭火)

燭(しよく)の火を燭にうつすや春の夕                                (与謝蕪村)

枯蓮のうごく時きてみなうごく                               (西東三鬼)

飛行機となり爆弾となり火となる                              (渡辺白泉)


 一見すると、こういった同音の反復は、短歌よりも音節数の少ない俳句での方が、より音楽的に聞こえるものであ
るが、こうして立てつづけに読んでいくと、いささか単調なものに思われてくる。「どんなものも、くりかえされれば
月並みになる」(R・A・ラファティ『スナッフルズ』1、浅倉久志訳)ということだろうか。つぎに、音調的により
巧妙な技法が施されているものを見てみよう。


春雨や降るともしらず牛の目に                               (小西来山)

何も彼も聞き知つてゐる海鼠(なまこ)かな                              (村上鬼城)

咲き切つて薔薇の容(かたち)を超えけるも                             (中村草田男)

雷落ちしや美しき舌の先                                  (西東三鬼)

憲兵の前で滑つて転んぢやつた                               (渡辺白泉)


 これくらいに音調的に巧みだと、繰り返し読んでも飽きない。じっさい、三度、四度と、つづけて読み返してみて
も、耳に心地よいものである。また、エマソンの言葉に、「ものが美しい調べに変わるさまは、ものが一段高い有機的
な形態に変貌するさまに似ている。」(『詩人』酒本雅之訳)というのがあるが、これらの句のなかに出てくる「牛の目」
や「海鼠」といった言葉から、わたしが思い浮かべるイメージは、これらの句を読む前に思い浮かべていたであろう
イメージとは、まったく違ったものになってしまったように思われる。すでに読んでしまったので、読む前に持って
いたイメージを正確に思い出すことなどできないのだが、それでも、読む前に、「牛の目」や「海鼠」といったものに
対して、それほど神秘的な印象を抱いていなかったのは、たしかである。読んでからなのである。「牛の目」や「海鼠」
といったものに対して、それらの存在に対して、とても神秘的な印象を持つようになったのは。「牛の目」や「海鼠」
といったものに対して、けっして人間には近づくことのできないところ、徹底的に非人間的なところを感じたのは。
しかし、それなのに、同時にまた、よりいっそう人間に近づいたようなところ、よりいっそう身近なものになったよ
うなところも感じられたのである。「画面にひたすら事物だけが描きこまれるときは、事物がまるで人間のように振舞
う。まさに、人間の劇なのだ。」(プルースト『サント=ブーヴに反論する』フロベール論に書き加えること、出口裕弘・
吉川一義訳)「世界は象徴として存在している。語られる言葉の部分部分が隠(いん)喩(ゆ)なのだ。自然全体が人間精神の隠喩だ
からだ。」(エマソン『自然』四、酒本雅之訳)「人間と結びつくと、人間になる。」(川端康成『たんぽぽ』)「人間は万
有に対する類推(アナロギー)の源なのだ。」(ノヴァーリス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)といった言葉が思い起こされる。
また、短歌も俳句も、「多くを言うために少なく言う言いかたで」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』17、菅野
昭正訳)、「とても短い言葉なのに、たくさんの意味がこめられている。」(シオドア・スタージョン『フレミス伯父さん』
大村美根子訳)。ときに、「小さくてつまらないことでも、大きな象徴とおなじように役に立つ。法則が表現される際の
象徴がつまらないものであればあるほど、それだけいっそう強烈な力を帯び、人びとの記憶のなかでそれだけ永続的な
ものとなる。」(エマソン『詩人』酒本雅之訳)。引用した句のなかでいえば、草田男のものが、突出しているだろうか。
正確な目が見つめる、ほんのささいな事柄が、「すべての事象により強い実在感を与えると同時に、世界を、微妙なシ
ンボルの集合体に変えてしまったのである。」(ラングドン・ジョーンズ『時間機械』山田和子訳)「そのひと言でぼく
の精神状態はもちろん、あたりの風景までが一変した。」(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』女戦士(アマゾネス)、
木村榮一訳)「人間はいちど変わってしまうともとには戻れない。これからは何も二度と同じには見えないのだ。」(キ
ム・スタンリー・ロビンスン『荒れた岸辺』上・第三部・11、大西 憲訳)。そして、「世界はもう二度と元の姿にはも
どらないだろう。」(コードウェイナー・スミス『酔いどれ船』伊藤典夫訳)。ところで、「単純になるにつれて、豊かさ
が増す」(ノヴァーリス『対話・独白』今泉文子訳)というのは、「複雑なものより単純なもののほうが、より多くの精
神を必要とする」(ノヴァーリス『花粉』87、今泉文子訳)からであろうか。「人生のあらゆる瞬間はかならずなにか
を物語っている」(ジェイムズ・エルロイ『キラー・オン・ザ・ロード』四・16、小林宏明訳)。「人生を楽しむ秘訣
は、細部に注意を払うこと。」(シオドア・スタージョン『君微笑めば』大森 望訳)という言葉があるが、細部での方
が、精神がよく働き、よく実感されるからであろうか。たしかに、人間の精神というものは、大きなものよりも小さ
なものに対して、抽象的なものよりも具象的なものに対して、よりよく働くものである。「愛するものは、生き生きし
てる」(フィリップ・K・ディック『凍った旅』浅倉久志訳)という言葉もあるが、それは、具体的なものが、愛する
対象となっているために、精神がよく働かされ、こころがうれしくなるからであろう。エズラ・パウンドの「おまえ
が愛するものはのこる」(『詩章 第八十一章』出淵 博訳)という詩句が思い起こされる。また、愛とくれば、憎しみ
が、憎しみとくれば、苦痛が連想される。ダン・シモンズの「人生ではね、最大の苦しみをもたらすものは、ごくちっ
ぽけなものであることが多いの」(『エンディミオンの覚醒』第一部・10、酒井昭伸訳)といった言葉も思い起こされ
る。

 その形式が、もたらすのであろう。俳句も短歌も、まことに暗示性に富んだ文学形式である。しかし、一般的には、
俳句作品の方が、短歌作品よりも情景を思い浮かべやすいものが多く、短歌作品の方が、俳句作品よりも作り手自身
の情感を読みとりやすいものが多いと思われる。
 作り手自身の情感がよく伝わる、音調的にも美しい歌を、古今と新古今の歌人の作品のなかから、いくつか見てみ
よう。


ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ                     (紀 友則)

筑波嶺(つくば ね)の峰より落つるみなの川(がは)恋ぞつもりて淵(ふち)となりぬる                    (陽成院)

来ぬ人をまつ帆の浦の夕凪に焼くや藻塩の身もこがれつつ                 (権中納言定家)

玉の緒よ絶えなば絶えね永らへば忍ぶることの弱りもぞする                 (式子内親王)

つぎの歌は、与謝野晶子の作品である。

わが恋は虹にもまして美しきいなづまにこそ似よと願ひぬ


「形式(丶丶)は本質的に反復(丶丶)と結びついている。」(ヴァレリー『文学論』第一部、堀口大學訳)「リズムはいたるところに
あり──いたるところに忍び込む。」(ノヴァーリス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)「音楽がはっきりした形
をとるのが見える。」(ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』第四部・21、黒丸 尚訳)「形式は作品の骨格だ。」
(ヴァレリー『文学論』第三部、堀口大學訳)「韻律とは何か?」(ディラン・トマス『黄昏の明かりに祭壇のごとく』
�検⊂湘長�雄訳)「霊なのか?」(ディラン・トマス『黄昏の明かりに祭壇のごとく』�検⊂湘長�雄訳)「霊?」(ラーゲ
ルクヴィスト『巫女』山下泰文訳)「霊である。」(『知恵の書』一・六)「霊が眼前に顕われれば、われわれはたちまち
みずからの霊性に目覚めるだろう。すなわちわれわれは、その霊と同時にみずからをも媒介にして、霊感を吹き込まれ
るだろう。霊感がなければ霊の顕現もない。」(ノヴァーリス『花粉』33、今泉文子訳)。声が発語者の身体の延長であ
るならば、書かれた言葉は、書いた者の魂の延長であろう。「語の運びや拍子や音楽的精神を感じとる繊細な感覚にめ
ぐまれた者、あるいは、言葉の内的本性の繊細な働きを身内に聞きとり、それにあわせて舌や手を動かす者」(ノヴァ
ーリス『対話・独白』今泉文子訳)、「詩人の言葉は一般的な記号ではなく──音の響きであり──自分の周囲に美しい
群れを呼び寄せる呪文なのだ。」(ノヴァーリス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)。
それというのも、人間のうちに音楽があり、意味があるからである。それというのも、人間自体が音楽であり、意
味であるからである。


高野川


底浅の透き通った水の流れが
昨日の雨で嵩を増して随分と濁っていた
川端に立ってバスを待ちながら
ぼくは水面に映った岸辺の草を見ていた
それはゆらゆらと揺れながら
黄土色の画布に黒く染みていた
流れる水は瀬岩にあたって畝となり
棚曇る空がそっくり動いていった
朽ちた木切れは波間を走り
枯れ草は舵を失い沈んでいった

こうしてバスを待っていると
それほど遠くもないきみの下宿が
とても遠く離れたところのように思われて
いろいろ考えてしまう
きみを思えば思うほど
自分に自信が持てなくなって
いつかはすべてが裏目に出る日がやってくると

堰堤の澱みに逆巻く渦が
ぼくの煙草の喫い止しを捕らえた
しばらく円を描いて舞っていたそれは
徐々にほぐれて身を落とし
ただ吸い口のフィルターだけがまわりまわりながら
いつまでも浮標のように浮き沈みしていた


 わたしが生まれてはじめて書いた詩である。初出は、「ユリイカ」一九八九年八月号・投稿欄である。選者は、増
剛造氏である。つぎの詩は、同誌の一九九〇年九月号・投稿欄に掲載されたもので、選者は、大岡 信氏である。「高
野川」を書いていたときには、まだ、詩は、堀口大學氏の訳詩集である『月下の一群』くらいしか読んでいなかった
のであるが、つづけて同誌に投稿していた一年ばかりの間に、北園克衛をはじめとする日本のモダニズム詩人たちの
詩にも接するようになっていた。「夏の思い出」には、その影響が顕著に見受けられる。


夏の思い出


夏
白い夏
思い出の夏
反射光
コンクリート
クラブ
ボックス
きみはバレーボール部だった
きみは輝いて
目にまぶしかった
並んで
腰かけた ぼく
ぼくは 柔道部だった
ぼくらは まだ高校一年生だった
夏
白い夏
夏の思い出
反射光
重なりあった
手と
手
汗と
光
白い光
光反射する
コンクリート
濃い影
だれもいなかった
あの日
あの夏
あの夏休み
あの時間は ぼくと きみと
ぼくと きみの
ふたりきりの
時間だった
(ふたりきりだったね)
輝いていた
夏の
白い夏の
日
あの日
ぼくははじめてだった
ぼくは知らなかった
あんなにこそばったいところだったなんて
唇が
まばらなひげにあたって
(どんなにのばしても、どじょうひげだったね)
唇と
汗と
まぶしかった
一瞬
の
ことだった
夏
白い夏の
思い出
はじめてのキスだった
(ほんと、汗の味がしたね)
でも
それだけだった
それだけで
あの日
あのとき
あのときのきみの姿が 最後だった
合宿をひかえて
早目に終わったクラブ
きみは
なぜ
泳ぎに出かけたの
きみはなぜ
彼女と
海に
いったの
夏
夏の
日
白い夏の思い出
永遠に輝く
ぼくの
きみの
夏の
日
あの夏の日の思い出は
夏がめぐり
めぐり
やってくるたびに
ぼくのこころを
引き裂いて
ぼくの
こころを
引き千切って
風に
飛ばすんだ
夏
白い夏
思い出の夏
反射光
コンクリート
クラブ
ボックス
重ねた
手と
目と
唇と
汗と
光と
影と
夏と



 韻律はリズムを生み、言葉に躍動感を与える。すると、読み手のこころは大いに喜ぶ。それが、愛の本性に適った
ことだからである。「愛とはなにか。/自己をぬけ出そうとする欲求。」(ボードレール『赤裸の心』二五、阿部良雄訳)
「魂の流出は、幸福である、ここには幸福がある」(ホイットマン『大道の歌』8、木島 始訳)。「僕たちの人生のどん
な瞬間であろうと、僕たちのなかには、発散されることを必要とする力がある」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』
9、菅野昭正訳)。「愛はわたしを大きくする。」(ローベルト・ヴァルザー『夢』川村二郎訳)「それにしても、何の光だ
ろう?」(サングィネーティ『イタリア綺想曲』69、河島英昭訳)「この光、」(ルーシャス・シェパード『スペインの教
訓』小川 隆訳)「この音は」(シェリー『鎖を解かれたプロメテウス』第一幕、石川重俊訳)。「偽りを許さない何か」(ロ
バート・F・ヤング『魔王の窓』伊藤典夫訳)、「あの何か間違ってはいないものの響き、ずっと昔に起こった何かの経
験、正しく光り輝くものであったことの?」(オラフ・ステープルドン『オッド・ジョン』10、矢野 徹訳)「その光は、
途方もなく明るかった」(ラーゲルクヴィスト『巫女』山下泰文訳)。「自分自身を輝かせると同時にそばにいる者を輝
かせる」(レイナルド・アレナス『夜になるまえに』レサマ=リマ、安藤哲行訳)。「なんという強い光!」(カブレラ
=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』昼夜入れ替えなしの興行、木村榮一訳)「それにしても、何の光だろう?」
(サングィネーティ『イタリア綺想曲』69、河島英昭訳)「いったい何なのか、」(コルターサル『石蹴り遊び』向う側
から・21、土岐恒二訳)「輝く光は」(スティーヴン・バクスター『真空ダイヤグラム』第七部・バリオンの支配者たち、
岡部靖史訳)。また、「その光はどこから出てきたものだったのだろう?」(ジュール・ヴェルヌ『カルパチアの城』13、

 安東次男訳)「その光がいったいどこから発しているのか」(アンナ・カヴァン『氷』5、山田和子訳)。そうだ。「あの
光は外から来るものではなく、ぼくの眼から出た光であり、」(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』
すべてが愛を打ち破る、木村榮一訳)「自身の思考から発したものに違いはない」(プルースト『サント=ブーヴに反論
する』サント=ブーヴとバルザック、出口裕弘・吉川一義訳)。愛というものは、つねに見出されるものである。「その
愛が形を変えて」(サバト『英雄たちと墓』第�局堯Γ粥�安藤哲行訳)、言葉となって、光となり、音となったのである。
言葉となって、わたしのなかに折りたたまれていた光や音が解放されたのである。あの夏の日の日射し、あの真剣な
彼の眼差し、あのまぶしかった彼の面差し、彼という彼のすべてが一つの光だった。声など交わすこともなく手を触
れ合い、黙って唇を重ね合ったあの静けさも一つの声、あの沈黙も一つの音だった。

「美しいことにどのような意味があるのだろうか?」(ジェイムズ・アラン・ガードナー『プラネットハザード』下・
15、関口幸男訳)「自由とは魂がそのなかで美に向かって開かれるものなのか、魂にその自由の予感を与えるものが美
なのか」(ブロッホ『夢遊の人々』第三部・三、菊盛英夫訳)。「美は、とりわけて可視的なものである。」(ノヴァーリ
ス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)「自然の恵む刺激とは、つまり物象にそなわる美のことで、」(エマソン『詩
人』酒本雅之訳)「魂は物質を通さずにはわれわれの物質的な眼に現れることがない」(サバト『英雄たちと墓』第�吃堯�
2、安藤哲行訳)。「見るというのは明瞭に認識することだ」(ダン・シモンズ『エンディミオンの覚醒』第一部・4、
酒井昭伸訳)。「ある概念を認識するためには、まずそれを視覚化しなければならない。」(ブライアン・オールディス『十
億年の宴』9、浅倉久志訳)「目は心に最も近く位置していて、」(プルタルコス『食卓歓談集』二三、柳沼重綱編訳)「観
念は視線を向けられたとたんに感覚となる。」(ヴァレリー『ユーパリノス あるいは建築家』佐藤昭夫訳)「われわれ
のあらゆる認識は感覺にはじまる。」(『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』人生論、杉浦明平訳)「人間にとっては、可
感的なことがらを通して可知的なことがらに到達するのがその本性に適合している。われわれの認識はすべて感覚に端
を発するものだからである。」(トマス・アクィナス『神学大全』第一部・第一問・第九項、山田 晶訳)「感じるために
は、それを「理解」することが必要だ。」(プルースト『失われた時を求めて』第四篇・ソドムとゴモラ、井上究一郎訳)
「どんなに目に見える幸福も/私たちがそれを内部で変身させてはじめて私たちに認められるものとなる」(リルケ『ド
ゥイノの悲歌』第七の悲歌、高安国世訳)。見ることはうれしい。見えることはうれしい。見ることが喜びなのだ。見
えることが喜びなのだ。
「すべては見ること」(ジョン・ベリマン『73 カレサンスイ リョウアンジ』澤崎順之助訳)。


夕(ゆう)星(ずつ)は、
かがやく朝が(八方に)散らしたものを
みな(もとへ)連れかへす。
羊をかへし、
山羊をかへし、
幼(おさ)な子をまた 母の手に
連れかへす。


「なんとも美しい。こんな詩はもうだれにも書けないね。」(デニス・ダンヴァーズ『エンド・オブ・デイズ』下・12、
川副智子訳)。これは、古代ギリシアの女流詩人であるサッフォーの作品である。この詩の原文は、わずか二行ばかり
のものであったのだが、翻訳された呉 茂一氏によって、このように七行に行分けされた。日本語で書かれた詩のなか
で、この詩ほどにすばらしい詩を、わたしはほかに知らない。第一に、空間の把握の仕方がまことにもって見事であ
る。しかも、呉氏が、原文の二行を七行に改めて翻訳されたので、その空間の拡がりがより感じとれるものとなって
いる。しかし、何よりも、繰り返される言葉自体が耳に心地よく、その繰り返す言葉が、繰り返される人間の生の営
みというものを喚起させ、その音調的な美しさと、その情景の美しさのなかに、読み手を瞬時に包み込んでしまうの
である。はじめて目にしたときの感激は、いまでもいっこうに薄れてはいない。そのような詩は稀である。ここには
永遠があるのだ。しかも、それは、呼吸のように繰り返される、運動性を持った永遠なのである。まるで、ポオが『ユ
リイカ』のなかに書いていた「神の心臓の鼓動」(牧野信一・小川和夫訳)のごときものである。「神の心臓の鼓動」
という言葉はまた、ボードレールの「自我の蒸発と集中について。すべてがそこにある。」(『赤裸の心』一、阿部良雄
訳)といった言葉を、ただちに思い起こさせる。サッフォーのこの詩は、わたしが完璧に暗唱している数少ない詩の
一つである。記憶する際に、韻律は実に効果的であった。この韻律は、瞬時に、そして永遠に、わたしをこの情景の
なかに立ち戻らせる。そうなのだ。この詩は、わたしをその情景のなかに瞬時に投げ込み、瞬時に展べ拡げるのであ
る。無限に拡大するのである。その情景のなかに、わたしの「現存在を無限に拡大する」(ノヴァーリス『断章と研究 
一七九八年』今泉文子訳)のである。「存在を作り出すリズム」(アーシュラ・K・ル・グィン『踊ってガナムへ』小尾
芙佐訳)、「人間ひとりひとりを永遠と偏在に参与せしめるリズム」(アーシュラ・K・ル・グィン『踊ってガナムへ』
小尾芙佐訳)。「一秒にも満たない瞬間にすべてが存在し、見つめられ、触れられ、味わわれ、嗅がれるのだ。」(ラング
ドン・ジョーンズ『時間機械』山田和子訳)「すべてがひとときに起こること。それこそが永遠」(グレン・ヴェイジー
『選択』夏来健次訳)。
 
 ここで、ふと、高村光太郎の「ヨタカ」という詩の終わりの三行が思い出された。


自然に在るのは空間ばかりだ。
時間は人間の発明だ。
音楽が人間の発明であるやうに。


 ノヴァーリスの「目だけが空間的(ヽヽヽ)である──他の感覚はすべて時間的である」(ノヴァーリス『青い花』遺稿、青山
隆夫訳)といった言葉も思い起こされる。

「真の始まりは自然詩である。終末は第二の始まり──そしてそれは芸術詩である。」(ノヴァーリス『断章と研究 一
七九八年』今泉文子訳)「事物を離れて観念はない。」(ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ『パターソン』第一巻・
巨人の輪郭・�機�沢崎順之助訳)「人間精神の現実的存在を構成する最初のものは、現実に存在するある個物の観念に
ほかならない。」(スピノザ『エチカ』第二部・定理一一、工藤喜作・斎藤 博訳)「美はものに密着し、/心は造型の一
義に住する。」(高村光太郎『月にぬれた手』)「自分の作り出すものであって初めて見えもする。」(エマソン『霊の法則』
酒本雅之訳)「自然の中には線も色彩もない。線や色彩を創り出すのは人間である。」(ボードレール『ウージェーヌ・
ドラクロワの作品と生涯』3、高階秀爾訳)「具体的な形はわれわれがつくりだすのだ。」(ロバート・シルヴァーバー
グ『いばらの旅路』25、三田村 裕訳)。ほんとうにはっきりと、ものの形が見えるのは、こころのなかでだけなので
ある。ずいぶん以前のことであった。サッフォーの詩に匹敵するくらいにすばらしい歌が、万葉の歌人によって詠わ
れていたことを知ったのは。そのときには、ほんとうに驚かされた。その歌人もまた、女性であったのだ。つぎの歌
が、狭野茅上娘子によるその歌である。


君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天(あめ)の火もがも


 韻律に気がとられる前に、その情景に圧倒される。狭野茅上娘子のこの空間把握能力のすさまじさには、目を瞠らさ
れる。韻律の妙技が仕掛けられていても、そのあまりに強烈な情念や印象的な情景によって、その片鱗にすら気づか
せられないのである。この作品以上に情念的にすさまじい歌を、わたしは知らない。しかし、「なぜ人間には心があ
り、物事を考えるのだろう?」(イアン・ワトスン『スロー・バード』佐藤高子訳)「生けるものは誰一人、苦しみを味
わうものなかれと願う。」(シェリー『鎖を解かれたプロメテウス』第一幕、石川重俊訳)「心は、わたしを苦しめる以
外にどんな役にたったというのだろう?」(シャルル・プリニエ『醜女の日記』一九三七年四月八日、関 義訳)「それ
は私が孤独だからだろうか?」(サルトル『嘔吐』白井浩司訳)「われわれを孤独にするのは、まさに人間的なものだ、
ということを理解することを学ばなければならない。」(リルケ『フィレンツェだより』森 有正訳)「恐らく人は不幸で
ある。」(ボードレール『描かんとする願望』三好達治訳)「人生には幸福なひとこまもあるが、大体はまちがいなく不
幸である。」(フィリップ・ホセ・ファーマー『気まぐれな仮面』1、宇佐川晶子訳)「地上の人生、それは試練にほか
ならない」(アウグスティヌス『告白』第十巻・第二十八章・三九、山田 晶訳)。「すべてのものにこの世の苦痛が混ざ
りあっている。」(フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』杉山 晃・増田義郎訳)「あらゆる出会いが苦しい試練だ。」(フ
ィリップ・K・ディック『ユービック:スクリーンプレイ』34、浅倉久志訳)。それでも、わたしたちは生きている。そ
んな世界のなかで、凛として生きているつもりで歌を詠む。しかし、じつのところ、わたしたちは、まさによそ行き
の顔をして「しあわせを装いながら、生きるはり(丶丶)は嘆きであり、怒りであり、憎しみ、恨み、希望だったのだ!」(コ
ードウェイナー・スミス『老いた大地の底で』2、伊藤典夫訳)「われわれはなぜ、自分で選んだ相手ではなく、稲妻
に撃たれた相手を愛さなければならないのか?」(シオドア・スタージョン『たとえ世界を失っても』大森 望訳)「も
っとも多く愛する者は敗者である、そして苦しまねばならぬ」(トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』高橋義孝訳)。
「よく愛するがためには、すでにくるしんでいなければならなく、また信じていなければならない」(バルザック『セ
ラフィタ』三、蛯原��夫訳)。「願望の虐む芸術家は幸いなるかな!」(ボードレール『描かんとする願望』三好達治訳)
「自分の心を苛むものを書き記すこともできれば、そうすることによってそれに耐えることもできるひと、その上さら
に、そんなふうにして後代の人間の心を動かしたい、自らの苦痛に後代の人間の関心を惹きつけたいと望むことができ
るひとは幸いなるかな」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』18、菅野昭正訳)。「これまで世界には多くの苦しみが
生まれなければならなかった、その苦しみがこうした音楽になった」(サバト『英雄たちと墓』第�吃堯Γ后�安藤哲行
訳)。「苦悩(くるしみ)は祝福されるのだ。」(フロベール『聖アントワヌの誘惑』第三章、渡辺一夫訳)「創造する者が生まれ出る
ために、苦悩と多くの変身が必要なのである。」(ニーチェ『ツァラトゥストラ』第二部、手塚富雄訳)。しかし、苦し
むことに意味があるとしたら、それは、愛することに意味があるときだけである。そう思うと不幸が手放せなくなる。
自分の不幸を手放すのがもったいないとまで思えてくる。「不幸は情熱の糧なのだ。」(ターハル・ベン=ジェルーン『聖
なる夜』9、菊地有子訳)「情熱こそは人間性の全部である。」(バルザック『人間喜劇』序、中島健蔵訳)「おお、ソク
ラテスよ、なんの障害もあなたの進行を妨げないとすると、そもそも進行そのものが不可能になる。」(ヴァレリー『ユ
ーパリノス あるいは建築家』佐藤昭夫訳) 「そもそも苦しむことなく生きようとするそのこと自体に一つの完全な矛
盾があるのだ」(ショーペンハウアー『意思と表象としての世界』第一巻・第十六節、西尾幹二訳)。「いかなる行動も
営為も思(し)惟(い)も、ひたすら人を生により深くまきこむためにのみあるのだ。」(フィリップ・K・ディック『あなたをつく
ります』7、佐藤龍雄訳)「苦しみは人生で出会いうる最良のものである」(プルースト『失われた時を求めて』第六篇・
逃げさる女、井上究一郎訳)。「己れの敵を愛せよ(丶丶丶丶丶丶丶丶)。/私は自分を活気づける人たちを愛し、又自分が活気づける人たち
を愛する。われわれの敵はわれわれを活気づける。」(ヴァレリー『文学』佐藤正彰訳)「わたしの敵たちもわたしの至
福の一部なのだ。」(ニーチェ『ツァラトゥストラ』第二部、手塚富雄訳)。

 前掲の狭野茅上娘子の歌を読み、その情念の激しさに打たれて、わたしは、これまでの自分が、愛というものに対
して、ずっと誤った視線を投げかけていたのではないかとさえ思われたのである。「世界はすべての人間を痛めつける
が、のちには多くの人がその痛めつけられた場所で、かえって強くなることもある。」(ヘミングウェイ『武器よさらば』
第三四章、鈴木幸夫訳)「多感な心と肉体を捻じり合わせて愛に変えうるのは苦しみだけ」(E・M・フォースター『モ
ーリス』第四部・42、片岡しのぶ訳)。「苦しみは焦点を現在にしぼり、懸命な(ヽヽヽ)闘いを要求する。」(カミュ『手帖』第
四部、高畠正明訳)「苦痛が苦痛の観察を強いる」(ヴァレリー『テスト氏』テスト氏との一夜、村松 剛・菅野昭正訳)。
「苦しむこと、教えられること、変化すること。」(シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』不幸、田辺 保訳)「苦痛の深さ
を通して人は神秘的なものに、本質にと、達するのである。」(プルースト『失われた時を求めて』第六篇・消え去った
アルベルチーヌ、鈴木道彦訳)「人間には魂を鍛えるために、死と苦悩が必要なのだ!」(グレッグ・イーガン『ボーダ
ー・ガード』山岸 真訳)「愛はたった一度しか訪れない」(フエンテス『脱皮』第二部、内田吉彦訳)。「一(ヽ)度きり、そ
してふたたびはない、そして私たちもまた一(ヽ)度きり。」(リルケ『ドゥイノの悲歌』第九の悲歌、高安国世訳)「まさに
瞬間だ」(H・G・ウェルズ『解放された世界』第三章・3、浜野 輝訳)。「「愛」が覚えている」(シェリー『鎖を解か
れたプロメテウス』第二幕・第三場、石川重俊訳)「一瞬のきらめき。」(フィリップ・ホセ・ファーマー『紫年金の遊
蕩者たち』大和田 始訳)「人生には、まるで芸術の傑作のように整えられている瞬間が、またそういう全生涯があるも
のなのだ」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』21、菅野昭正訳)。「人生というものは閃光の上に築かなければなら
ない」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』9、菅野昭正訳)。「一瞬のうちに無限の快楽を見出し」(ボードレール『け
しからぬ硝子屋』三好達治訳)、「その瞬間を永遠のものとするため」(マイケル・マーシャル・スミス『地獄はみずか
ら大きくなった』嶋田洋一訳)。「すべては同じようにはかなく移ろいやすいものだ。少なくともそのために、束の間の
ものを普遍化するために書く。たぶん、それは愛。」(サバト『英雄たちと墓』第�局堯Γ粥�安藤哲行訳)「愛だけであ
る」(フィリップ・アーサー・ラーキン『アーンデルの書』澤崎順之助訳)。そして、「ぼくたちの行為の一つ一つが永
遠を求める」(フエンテス『脱皮』第三部、内田吉彦訳)。わたしたちの一瞬一瞬が永遠を求める。わたしたちのすべ
ての瞬間という瞬間が、永遠になろうとするのである。それというのも、「瞬間というものしか存在してはいないから
であり、そして瞬間はすぐに消え失せてしまうものだからだ」(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンノ浜辺』25、菅野昭正訳)。
「一切は過ぎ去る。」(ニーチェ『ツァラトゥストラ』第二部、手塚富雄訳)「たった一度しか訪れない」(フエンテス『脱
皮』第二部、内田吉彦訳)。わたしたちの一瞬一瞬が永遠を求め、わたしたちのすべての瞬間という瞬間が、永遠にな
ろうとするのである。割れガラスの破片のきらめきの一つ一つが太陽を求め、やがて、そのきらめきの一つ一つが太
陽となるように。川面に反射する月の光や星の光のきらめきの一つ一つが太陽を求め、やがて、そのきらめきの一つ
一つが太陽となるように。

「詩とはなにか」(ノヴァーリス『断章と研究 一七九八年』今泉文子訳)。その詩に書かれた言葉を目にしたとたん、
わたしはここからいなくなる。その言葉によって誘われた時間に、導かれた場所に行かされる。「思い描ける場所は、
訪れることができる」(ダン・シモンズ『ケリー・ダールを探して』�掘�嶋田洋一訳)。「一度見つけた場所には、いつ
でも行けるのだった。」(ジェイムズ・ホワイト『クリスマスの反乱』吉田誠一訳)「わたしたちはそんなふうにして、
このもろい死すべき肉体を通して、永遠を仄かに見ることができるように作られているからである。」(サバト『英雄た
ちと墓』第�局堯Γ粥�安藤哲行訳)。狭野茅上娘子の歌を読んだ瞬間、それは、わたしの新しい傷となった。振り返れ
ば、いつでも新しい血を流す新しい傷となったのである。

「魂はどこから来たのだろう?」(サバト『英雄たちと墓』第�局堯Γ機�安藤哲行訳)「永遠の中のただ一瞬」(ヴァ
ン・ヴォークト『フィルム・ライブラリー』沼沢洽治訳)。「人間脳髄は明らかに「無限なるもの(丶丶丶丶丶丶)」に嗜(し)欲(よく)を持っている」
(ポオ『ユリイカ』牧野信一・小川和夫訳)、「無限を求める心」(ボードレール『アシーシュの詩』一、渡辺一夫・松
室三郎訳)。「われわれは永遠を必要とする。」(リルケ『フィレンツェだより』森 有正訳)「どんな悦びも一瞬のあいだ
しかつづかないのではなかろうか?」(シャルル・プリニエ『醜女の日記』一九三六年一月二十七日、関 義訳)「それ
はほんの瞬間に過ぎない。しかし」(リルケ『フィレンツェだより』森 有正訳)、「瞬間は永遠に繰り返す。」(イアン・
ワトスン『バビロンの記憶』佐藤高子訳)「おそらく唯一の永遠の喜びとは、それが繰り返されることであろう。」(フ
エンテス『脱皮』第二部、内田吉彦訳)「存在が、突然、無限に増加するようなものである。」(リルケ『フィレンツェ
だより』森 有正訳)「永遠を避けることはできない。なぜなら、私がそれを見つけたからだ。」(キース・ローマー『明
日より永遠に』5、風見 潤訳)。
つぎに並べた二つの歌は、高安国世の作品と、前川佐美雄の作品である。


浴槽の如く明るき水の中かさなりて静かに豆腐らはあり

生きてゐる証(あかし)にか不意にわが身体割きて飛び出で暗く鳴きけり


 人間とは、天の邪鬼である。感情とは、天の邪鬼である。知性とは、天の邪鬼である。対立した願いを同時に持つ、
矛盾したこころを持っているのである。この二つの歌に響いている子音のkの音は、音調的な美しさをまったく持っ
ていない。むしろ、音調的な美しさを、わざと壊すか、あるいは、無化するようにつくられているような気がする。
この子音のkの音の響きは、ホラー映画やそれに類するテレビ番組のあの不気味な映像とともに流される音楽に似て
いるような気がする。韻律のこのような高度なテクニックには、感心するほかない。人間の耳は、このような音にも
喜びを感じるものなのである。
つぎの詩は、「ユリイカ」一九九一年一月号に掲載されたものである。


水面に浮かぶ果実のように


 いくら きみをひきよせようとしても
きみは 水面に浮かぶ果実のように
 ぼくのほうには ちっとも戻ってこなかった
むしろ かたをすかして 遠く
 さらに遠くへと きみは はなれていった

もいだのは ぼく
 水面になげつけたのも ぼくだけれど


 この詩は、大岡 信氏によって「ユリイカの新人」に選ばれたときのものであるが、これを書いたときは、まだノ
ブユキとは付き合ったばかりのときで、まさかすぐに別れることになるとは思わなかったのだけれど、この詩の発表
の一年後に別れることになった。これまで引用してきたわたしの詩は、すべて、わたしのじっさいの体験が元になっ
たものであるが、「水面に浮かぶ果実のように」という作品は、わたしが学生時代に付き合っていたタカヒロとのこと
を書いたものだったのだが、いまのいままで、この原稿を書くのに、この詩を制作した日付を調べるまで、ここ数年
の間、この詩のことを、ずっと、ノブユキとのことを書いたものだと思い違いをしていたのである。それほど、ノブ
ユキのことを愛していたのだろうか。愛していたのだろう。では、なぜ、わたしの方から別れようと言ったのだろう
か。愛していたのに。きっと、その愛を、ノブユキの方から壊されたくなかったのだ。愛よりも、虚栄心の方が強か
ったのだ。自尊心とはいわない。つまらない虚栄心だったのだ。「多分ぼくは苦しむのが好きなのだろう。これまでも
人をさんざん苦しめてきたし、見聞するところでは、人を苦しめるのが好きな人間は、苦しめられることを無意識に願
っている。」(フィリップ・ホセ・ファーマー『わが内なる廃墟の断章』9、伊藤典夫訳)。よく考えるのだ。あのとき、
もし、わたしが別れの言葉を口にしなかったら、どうなっていただろうか、と。ありえたかもしれない幸せを、もし
かしたらいまでもつづいていたかもしれない幸せを、なぜ、自分の方から壊すようなことをしたのか、と。すべては、
わたしのつまらない虚栄心のためだった。「幸福とおなじように、おそらく苦悩もまた一種の技能なのではなかろう
か?」(ブライアン・W・オールディス『一種の技能』跋、浅倉久志訳)「人は自分の持つ矛盾によって、われわれの興
味をひき、自分の本當の心のうちを顯わす。」(『ジイドの日記』第五巻・一九二二年十月二十九日、新庄嘉章訳)「矛盾
とはひとつの事実だ。」(ヴァレリー『邪念その他』N、清水 徹訳)「それは矛盾しているためにかえって真実そのもの
に違いなかった。」(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・1、土岐恒二訳)「われわれが矛盾してゐるときほど自
己に真実であることは断じてない」(ワイルド『藝術家としての批評家』西村孝次訳)。「矛盾ほど確実な土台はない」(ジ
ーン・ウルフ『拷問者の影』8、岡部宏之訳)。「すべて詩の中には本質的な矛盾が存在する。」(アントナン・アルトー
『ヘリオガバルス』�掘�多田智満子訳)「矛盾からは(エクス・コントラデイクテイオネ)、周知のように、何でもあり、なのである。」(スタニスワフ・
レム『虚数』GOLEM XIV、長谷見一雄訳)「不合理な前提からはどんなことでも導きだしうるものだ。」(サバト『英
雄たちと墓』第�局堯�13、安藤哲行訳)「あらぬ(丶丶丶)もの(非存在)は、ある(丶丶)もの(存在)にすこしも劣らずある(丶丶)。」(『デモ
クリトス断片156』廣川洋一訳)「愛はたえずとびまわらなければならぬ。」(ノヴァーリス『青い花』遺稿、青山隆夫訳)
「存在(丶丶)と存在しないもの(丶丶丶丶丶丶丶)のあいだをたえず揺れ動いているものだ」(スタニスワフ・レム『泰平ヨンの航星日記』第二
十一回の旅、深見 弾訳)。「なぜ、あらゆることが常に変化しなければいけないのか?」(レイ・ファラデイ・ネルスン
『ブレイクの飛翔』6、矢野 徹訳)「もともとの本質からして愛が永続するはずがない」(リサ・タトル『きず』幹 遙
子訳)。「われわれの本性は絶えまのない変化でしかない」(パスカル『パンセ』第六章・断片三七五、前田陽一訳)。「変
化は嬉しいものなのだ。」(ホラティウス『歌集』第三巻・二九、鈴木一郎訳)「運動は一切の生命の源である。」(『レオ
ナルド・ダ・ヴィンチの手記』「繪の本」から、杉浦明平訳)。
これから紹介する歌は、わたしと同年代か、少し上、あるいは、少し若い人たちが詠ったものである。


あきらめの森が拡がるこの雨に針がまじつて降つてくるまで                   (林 和清)

わが半身うしなふ夜半はとほき世の式部のゆめにみられていたり                 (林 和清)

空函(からばこ)にも天と地がありまんなかは木端微塵(こつぱ み じん)がよいかもしれぬ                  (笹原玉子)

終点でバスを降りると夏だつた、あふれる涙もぬぐはず歩いた                 (笹原玉子)

一秒と一千秒が等しく過ぐる花降る午後の有元利夫                      (和田大象)

憤怒など地中に深く眠らせむ寝言ひとこと「このど蒟蒻!」                  (和田大象)

「蠅はみんな同じ夢を見る」といふ静けき真昼 ひとを待ちをり               (魚村晋太郎)

人間の壊れやすさ、と思ひつつ炙られた海老の頭をしやぶる                 (魚村晋太郎)

誰か飛行機雲につながるイメージでぼくを見てゐる誰なんだろう                (西田政史)

ジーンズがはりつくほどの夕だちに似てゐるきみの人差し指は                 (西田政史)


「現代の芸術、引き裂かれ緊張した芸術は常にわたしたちの不調和、苦悩、不満から生まれてくるものではないか。」
(サバト『英雄たちと墓』第�孤堯Γ魁�安藤哲行訳)「愛によって、芸術によって、貪欲によって、政治によって、労
働によって、遊戯によって、われわれは自分のつらい秘密を言い表わすことを学ぶ。人間であるだけではまだ自分自身
の半分にすぎず、あとの半分が表現なのだ。」(エマソン『詩人』酒本雅之訳)。しかし、それにしても、なんと玲瓏華
美な歌たちであろうか。すさまじいレトリックの塊たちである。彼らの苦悩が、このような音楽となり、意味となっ
たのである。現代歌人たちは、ここまで到達したのである。ここまで追いつめられているのである。

 これまでのわたしの詩作の歴史を、前期と後期の二つに大別すると、たとえば、前期には、「高野川」や「夏の思
い出」や「水面に浮かぶ果実のように」のように、思い出や書きたいことがまずあって、それを言葉に紡いでいくと
いう手法でなされたものが多く、後期には、これから紹介する、「みんな、きみのことが好きだった。」や「頭を叩く
と、泣き出した。」や「マールボロ。」のように、取り掛かる前に、まず言葉の断片があって、それから、それらをつ
なぎ合わせて、一つの情感なり、一つの精神状態のようなものを作り出していくという、コラージュ的な手法でなさ
れたものが多い。手法が変わるきっかけになったのは、やはり、引用のコラージュで制作した第二詩集の『The
Wasteless Land.』(書肆山田、一九九九年)であろうか。前期の詩では、わたしが言葉と出会って、わたしのなかに
折りたたまれていた光や音が解放されていったような気がするのだが、後期の詩では、わたしが言葉と出会った瞬間
に、わたしのなかに折りたたまれていた光や音が自らの光や音を解き放つと同時に、もともとその言葉のなかに折り
たたまれていた光や音をも解放していったような気がする。あるいは、逆に、言葉がわたしと出会った瞬間に、もと
もとその言葉のなかに折りたたまれていた光や音が自らの光や音を解き放つと同時に、わたしのなかに折りたたまれ
ていた光や音をも解放していったのだろうか。いずれにせよ、もちろん、最終的に解放された光や音は、わたしのな
かに折りたたまれていたものでもなかったし、もともとその言葉のなかに折たたまれていたものでもなかった。それ
らが共鳴し合って、新しく生み出された光や音であった。先に引用したノヴァーリスの「真の始まりは自然詩である。
終末は第二の始まり──そしてそれは芸術詩である。」という言葉が思い起こされる。


みんな、きみのことが好きだった。


ちょっといいですか。
あなたは神を信じますか。
牛の声で返事をした。
たしかに、神はいらっしゃいます。
立派に役割を果たしておられます。
ふざけてるんじゃない。
ぼくは大真面目だ。
友だちが死んだんだもの。
ぼくの大切な友だちが死んだんだもの。
without grief/悲しみをこらえて
弔問を済まして
帰ってきたんだもの。
Repeat after me!/復唱しろ!
absinthe/ニガヨモギ
悲しみをこらえて
ぼくは帰ってきたんだもの。
Repeat after me!/復唱しろ!
誕生日に買ってもらった
ヴィジュアル・ディクショナリー、
どのページも、ほんとにきれい。
パピルス、羊皮紙、粘土板。
食用ガエルの精巣について調べてみた。
アルバムを出して、
写真の順番を入れ換えてゆく。
海という海から
木霊が帰ってくる。
声の主など
とうに、いなくなったのに。
Repeat after me!/復唱しろ!
いじめてあげる。
吉田くんは
痛いのに、深爪だった。
電話を先に切ることができなかった。
誰にも、さからわなかった。
みんな、吉田くんのことが好きだった。
Repeat after me!/復唱しろ!
ぼく、忘れないからね。
ぜったい、忘れないからね。
おぼえておいてあげる。
吉田くんは、仮性包茎だった。
勃起したら、ちゃんとむけたから。
ぼくも、こすってあげた。
absinthe/ニガヨモギ
Repeat after me!/復唱しろ!
泣いているのは、牛なのよ。
幼い男の子が
ぼくの頭を叩いて
「ゆるしてあげる」
って言った。
話しかけてはいけないところで
話しかけてはいけない。
Repeat after me!/復唱しろ!
ごめんね、ごめんね。
ぼくだって、包茎だった。
without grief/悲しみをこらえて
absinthe/ニガヨモギ
もっとたくさん。
もうたくさん。


 この詩が、わたしの作品のなかで、もっとも音調的に美しいものだと、また、作品自体の出来としても、もっとも
すぐれたものだと自負しているものである。ところで、この詩のなかに、「アルバムを出して、/写真の順番を入れ換
えてゆく。」という詩句があるが、もちろん、じっさいの人生においては、出来事の順番を替えることなど、できるこ
とではない。ただ記憶の選択と解釈の違いによって、その意味を捉えなおすことができるだけである。後々、あると
き、つぎのような表現を目にして、すごいものだと感心させられた。このような文章が書けるのは、ごく限られた作
家だけであろう。そのすさまじい洞察力が窺い知れる。

 彼の笑顔はこの世にふたつとない笑顔だ。その笑顔を向けられると、人生で出くわすありとあらゆる不幸をそこに
見るような気がする。ところが顔に浮かんだその不幸を、彼はあっという間に順序よく並べ替えてしまう。それを見
ていると、今度は急に「ああそうか、心配することはなかったんだ」と感じるのだ。だから彼と話をするのは楽しい。
その笑顔をしょっちゅう浮かべて、そのたびに「ああそうか、心配することはなかったんだ」と感じさせてくれるか
らだ。
(ダグラス・アダムス『さようなら、いままで魚をありがとう』31、安原和見訳)


 作品のなかでは、出来事の順番を替えることなど、簡単である。また、替えるごとに、違った作品が出来上がる。
ただ、「時と場所」(アンナ・カヴァン『失われたものの間で』千葉 薫訳)、「それをならべかえる」(カール・ジャコビ
『水槽』中村能三訳)。それだけでよい。まさしく、「好きなように世界が配列できるのだ」(スタニスワフ・レム『天
の声』17、深見 弾訳)。

 つぎに紹介する詩は、わたしの作品のなかで、韻律的にもっとも複雑な仕掛けが施されたものである。韻律の創造
と破壊を交互に繰り返しながら進行していくのだ。内容は、「みんな、きみのことが好きだった。」ほど整ってはいな
いが、そうであるがゆえに、より凝縮した印象を与えるものとなっている。というのも、言葉というものが新たな意
味を獲得するにつれて、よりいっそうその言葉らしさを身につけるように、「外部の多様性が増すに連れて、内部統一
が生み出される」(ノヴァーリス『対話・独白』今泉文子訳)からである。「詩は、火、身振り、血、叫びなどの種々相
をただ一点に集めて互いに鬩(せめ)ぎ合わせるのである。」(アントナン・アルトー『ヘリオガバルス』�掘�多田智満子訳)「多
様性から力を引き出して」(ベルナール・ウェルベル『蟻』第2部、小中陽太郎・森山 隆訳)、「多様にちらばっている
ものを綜観して、これをただ一つの本質的な相へまとめること。」(プラトン『パイドロス』藤沢令夫訳)「人びとは理
解しないのだ、いかにして、拡散するものが(拡散するにもかかわらず)自己のうちに凝集しているかを。」(『ヘラク
レイトス断片51』廣川洋一訳)「多なるものから一なるものになる」(エンペドクレス『自然について』一七、藤沢令夫
訳)。「すべては寄り集まってただ一つのものとなる」(エンペドクレス『自然について』三五、藤沢令夫訳)。


頭を叩くと、泣き出した。


カバ、ひたひたと、たそがれて、
電車、痴漢を乗せて走る。
ヴィオラの稽古の帰り、
落ち葉が、自分の落ちる音に、目を覚ました。
見逃せないオチンチンをしてる、と耳元でささやく
その人は、ポケットに岩塩をしのばせた
横顔のうつくしい神さまだった。
にやにやと笑いながら
ぼくの関節をはずしていった。
さようなら。こんにちは。
音楽のように終わってしまう。
月のきれいな夜だった。
お尻から、鳥が出てきて、歌い出したよ。
ハムレットだって、お尻から生まれたっていうし。
まるでカタイうんこをするときのように痛かったって。
みんな死ねばいいのに、ぐずぐずしてる。
きょうも、ママンは死ななかった。
慈善事業の募金をしに出かけて行った。
むかし、ママンがつくってくれたドーナッツは
大きさの違うコップでつくられていた。
ちゃんとした型抜きがなかったから。
実力テストで一番だった友だちが
大学には行かないよ、って言ってた。
ぼくにつながるすべての人が、ぼくを辱める。
ぼくが、ぼくの道で、道草をしたっていいじゃないか。
ぼくは、歌が好きなんだ。
たくさんの仮面を持っている。
素顔の数と同じ数だけ持っている。
似ているところがいっしょ。
思いつめたふりをして
パパは、聖書に目を落としてた。
雷のひとつでも、落としてやろうかしら。
マッターホルンの山の頂から
ひとすじの絶叫となって落ちてゆく牛。
落ち葉は、自分の落ちる音に耳を澄ましていた。
ぼくもまた、ぼくの歌のひとつなのだ。
今度、神戸で演奏会があるってさ。
どうして、ぼくじゃダメなの?
しっかり手を握っているのに、きみはいない。
ぼくは、きみのことが好きなのにぃ。
くやしいけど、ぼくたちは、ただの友だちだった。
明日は、ピアノの稽古だし。
落ち葉だって、踏まれたくないって思うだろ。
石の声を聞くと、耳がつぶれる。
ぼくの耳は、つぶれてるのさ。
今度の日曜日には、
世界中の日曜日をあつめてあげる。
パパは、ぼくに嘘をついた。
樹は、振り落とした葉っぱのことなんか
かまいやしない。
どうなったって、いいんだ。
まわるよ、まわる。
ジャイロ・スコープ。
また、神さまに会えるかな。
黄金の花束を抱えて降りてゆく。
Nobuyuki°ハミガキ。紙飛行機。
中也が、中原を駈けて行った。


 最後に紹介する詩は、わたしの作品のなかで、わたしがもっとも気に入っているものである。これはまた、わたし
にとって、わたしの詩にとって、もっとも大事なことを教えてくれた作品でもある。


マールボロ。


彼には、入れ墨があった。
革ジャンの下に無地の白いTシャツ。
ぼくを見るな。
ぼくじゃだめだと思った。
若いコなら、ほかにもいる。
ぼくはブサイクだから。
でも、彼は、ぼくを選んだ。
コーヒーでも飲みに行こうか?
彼は、ミルクを入れなかった。
じゃ、オレと同い年なんだ。
彼のタバコを喫う。
たった一週間の禁煙。
ラブホテルの名前は
『グァバの木の下で』だった。
靴下に雨がしみてる。
はやく靴を買い替えればよかった。
いっしょにシャワーを浴びた。
白くて、きれいな、ちんちんだった。
何で、こんなことを詩に書きつけてるんだろう?
一回でおしまい。
一回だけだからいいんだと、だれかが言ってた。
すぐには帰ろうとしなかった。
ふたりとも。
いつまでもぐずぐずしてた。
東京には、七年いた。
ちんちんが降ってきた。
たくさん降ってきた。
人間にも天敵がいればいいね。
東京には、何もなかった。
何もなかったような顔をして
ここにいる。
きれいだったな。
背中を向けて、テーブルの上に置いた
 飲みさしの
缶コーラ。


 これは、わたしの体験ではない。わたしの現実ではない。ゲイの友人に、東京での思い出を、ルーズリーフに書き
出してもらって、その「部分部分を切り貼りして」(デニス・ダンヴァーズ『エンド・オブ・デイズ』上・7、川副智
子訳)つくったコラージュ作品である。しかし、「個人は、自分の人生体験にもとづくイメージや象徴でものを考える
のであり、二人の個人が共通の人生経験をもっていなければ、ふたりが分かちあうすべては混乱となる」(ウィリアム・
テン『脱走兵』中村保男訳)。わたしも似た経験をしているので、友人の体験を、自分の体験に照らし合わせて感じと
ることができたのであろう。そしてまた、出来上がったばかりのこの作品に目を通していると、「急にそれらの言葉が
まったく新しい意味を帯びた」(ジェイムズ・P・ホーガン『仮想空間計画』34、大島 豊訳)ような気がしたのであ
る。「マールボロ。」の言葉となってはじめて、ようやく、それらの言葉が、真の意味を獲得したのではないか、とま
で思わせられたのである。そうして、この作品は、いまでは、わたし自身の経験となっているのである。

 それというのも、彼らが浴びたシャワーの湯しぶきのきらめきが、わたしのなかに飛び込んできたからである。わ
たしのなかにある、さまざまな思い出のなかに。なかでもとりわけ、わたしのなかにある、ノブユキとの思い出のな
かに。わたしの全存在が、そのシャワーの湯しぶきのきらめきを見つめる。さまざまな瞬間のわたしが、さまざまな
わたしの、瞬間という瞬間が、その湯しぶきのきらめきを見つめる。あらゆる瞬間のわたしが、その湯しぶきのきら
めきを見つめるのだ。なかでもとりわけ、ノブユキといっしょにシャワーを浴びたわたしの目が、「マールボロ。」の
なかの彼らが浴びたシャワーの湯しぶきのきらめきを見つめるのである。それゆえ、ノブユキとふざけ合いながらい
っしょに浴びたシャワーの湯しぶきのきらめきが、そのときのノブユキの笑い声とともに鮮やかに思い出されたので
ある。「マールボロ。」をつくっているときには、ノブユキといっしょに浴びた、あの湯しぶきのきらめきなど、まっ
たく思い出さなかったのに、出来上がった「マールボロ。」を読んだとたん、すぐにノブユキといっしょに浴びたシャ
ワーの湯しぶきのきらめきが思い出されたのである。しかも、そうしていったん思い出されてしまうと、こんどは、
ノブユキといっしょに浴びたあの湯しぶきのきらめきの方が、「マールボロ。」という作品を、わたしにつくらせたの
ではないか、とまで思われ出したのである。他の言葉もその湯しぶきを浴びる。すべての言葉がその湯しぶきを浴び
て、すべての言葉がノブユキとの愛を語っているように感じられたのである。これは事実に反する。矛盾している。
しかし、印象としては、あるいは、感覚としては、事実に反していないのである。矛盾してはいないのである。また、
そういった印象は、あるいは、感覚は、意識領域のみならず、無意識領域に眠っている記憶をも刺激するのである。
先に、わたしは、「韻律はリズムを生み、言葉に躍動感を与える。すると、読み手のこころは大いに喜ぶ。それが、愛
の本性に適ったことだからである。」と述べた。現実と非現実の間で揺れ動くことの喜びも、矛盾した情感の間で揺れ
動くことの喜びもまた、愛の本性に適ったことなのであろう。

 愛の本性といえば、プラトンの『饗宴』のなかで、ソクラテスに向かって、「愛の奥義に到る正しい道とは(……)
結局美の本質を認識するまでになることを意味する。」「生がここまで到達してこそ、(……)、美そのものを観るに至っ
てこそ、人生は生甲斐があるのです。」(久保 勉訳)と語ったディオティマの話が思い出される。わたしもまた、ノブ
ユキといっしょに浴びたあのシャワーの湯しぶきのきらめき、その飛沫の一粒一粒の光が発するきらめきを通して、
美そのもの、生の本質そのものに辿り着くことができるような気がしたのである。「誰に真実がわかるだろう。」(ダグ
ラス・アダムス『宇宙の果てのレストラン』29、風見 潤訳)。だれに生のすべての真実がわかるだろう。わかりはし
ないだろう。しかし、わかるのではないかと思わせられたのである。わたしたちは、直接の体験だけから、生のすべ
ての真実を知ることができるだろうか。愛そのもの、悲しみそのものが、直接、わたしたちのもとに訪れるわけには
いかない。それらは、ある時間や場所や出来事として、わたしたちの前に姿を現わすだけである。わたしたちにでき
るのは、ただ、そうして訪れた、一つ一つ、別々の時間や場所や出来事に、一つ一つ、別々の愛のさわりを感じとり、
悲しみのさわりを感じとることができるだけである。それだけでも大したことなのだが、やはり、わたしたちは、自
分たちの直接の体験だけから、生のすべての真実を知ることはできないのであろう。他者の体験を見聞きしたり、芸
術作品に接したりしたときに、自己の生のすべての真実を知ったような気になることがあるのだが、それは、そうい
ったものを通して、じっさいに、生の真実が、その真実の一部を、わたしたちに垣間見させてくれるからであろう。
閉じ込められた精神のなかでは、精神そのものが、そのなかをぐるぐると堂々めぐりするしかない。自分の体験のな
かにいるだけでは、その限りにおいては、人間は自分の体験をほんとうに認識することなどできないであろう。それ
に、自己の体験からのみ喚起された感情というものも、じっさいのところ、わたしたちにはないのではなかろうか。
もしあると思われても、それは、自己の体験からのみ喚起された感情ではないのではなかろうか。わたしたちは、他
者の経験との比較によって、ようやく自分のなかに、ほんとうの感情を喚起させられるのではなかろうか。もちろん、
じっさいの体験を通してのものではないどのような感情も、ほんとうの感情ではないのだし、理解するということも、
また同様に、じっさいの体験を経て実感するという経験をしていなければ、けっして、ほんとうの意味では理解する
ということにはならないものである。しかし、ほんとうの感情になるためには、自己の生の真実の一部を虚偽と交換
する必要があるのではないだろうか。じっさいの体験と同様に、そのような経験も必要なのではないだろうか。引用
による詩を数多く書いてきて、わたしはいま、そのことに気づかせられたのである。真実が、よりたしかな真実さを
獲得するためには、その真実の一部を虚偽と交換する必要があると考えられたのである。真実の一部を虚偽に譲り渡
し、虚偽の一部を真実のなかに取り込む必要があると考えられたのである。芸術作品が、それを見たり聞いたりする
者に、その者の生をより切実に実感させることがあるというのも、その者自身の生の真実の一部を、虚偽と交換する
というところからきているのではないだろうか。ノヴァーリスの「活性化とは、わたし自身の譲渡であると同時に、他
の実体を我がものとすること、もしくは自分のものに変成しなおすことである。」(『断章と研究 一七九八年』今泉文
子訳)という言葉が思い起こされる。

 そのとき、彼らが出会ったポルノ映画館には、わたしはいなかった。そのとき、彼らが入ったラブホテルには、わ
たしは行かなかった。そのとき、彼らがいっしょに浴びたシャワーを、わたしは浴びなかった。そのとき、彼が目に
したその青年の背中の入れ墨を、わたしは見なかった。そのとき、その青年がガラスのテーブルの上に置いた缶コー
ラを、わたしは見なかった。しかし、「マールボロ。」という作品が出来上がった瞬間に、その言葉たちを通して、わ
たしは、彼らのいた時間と場所に現われたのである。彼らがいたそのポルノ映画館に、わたしもいたのだ。彼らが入
ったそのラブホテルに、わたしも入ったのだ。彼らがいっしょに浴びたシャワーを、わたしも浴びたのだ。彼が目に
したその青年の背中の入れ墨を、わたしも見たのだ。青年がガラスのテーブルの上に置いたその缶コーラを、わたし
も見たのだ。なぜなら、彼らが出会ったそのポルノ映画館は、わたしがノブユキとはじめて出会ったゲイサウナと同
じ場所だったからであり、彼らが入ったラブホテルの部屋は、ゲイディスコで声をかけられた夜について行ったフト
シの部屋と同じ部屋だったからであり、彼らが浴びたシャワーは、わたしがタカヒロとふざけてかけ合った琵琶湖の
水と同じ水だったからであり、彼が目にした青年の背中の入れ墨は、わたしがエイジの背中に指で書いた薔薇という
文字と同じものだったからであり、その青年がガラスのテーブルの上に置いた缶コーラの側面のラベルは、わたしが
ヤスヒロの手首につけた革ベルトの痕と同じ模様だったからである。

「ああ、ぼくの頭はどうしたんだろう?」(シオドア・スタージョン『人間以上』第三章、矢野 徹訳)「自分自身の
ものではない記憶と感情(……)から成る、めまいのするような渦巻き」(エドモンド・ハミルトン『太陽の炎』中村 融
訳)。「これは叫びだった。」(サミュエル・R・ディレイニー『アインシュタイン交点』伊藤典夫訳)「わたしの世
界の何十という断片が結びつきはじめる。」(グレッグ・イーガン『貸金庫』山岸 真訳)「今まで忘れていたことが
思い出され、頭の中で次から次へと鎖の輪のようにつながっていく。」(ポール・アンダースン『脳波』2、林 克己
訳)「あらゆるものがくっきりと、鮮明に見えるのだ。」(ポール・アンダースン『脳波』2、林 克己訳)「過去に
見たときよりも、はっきりと」(シオドア・スタージョン『人間以上』第二章、矢野 徹訳)。「それはほんの一瞬だった。」
(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『一瞬(ひととき)のいのちの味わい』3、友枝康子訳)「ばらばらな声が」(フエンテス『脱
皮』第二部、内田吉彦訳)「一つになる」(ロバート・シルヴァーバーグ『旅』2、岡部宏之訳)。「突然の認識」(テリ
ー・ビッスン『英国航行中』中村 融訳)。「あらゆるものがあらゆるものと」(ホルヘ・ギリェン『ローマの猫』荒井正道訳)
「たがいに与えあい、たがいに受け取りあう。」(ヴァレリー『ユーパリノス あるいは建築家』佐藤昭夫訳)「あ
らゆるディテールが相互に結びついたヴィジョン。」(R・A・ラファティ『他人の目』2、浅倉久志訳)。

「あらゆる個人のなかに共通の精神が宿っていて、」(エマソン『霊の法則』酒本雅之訳)「それがまったくちがった
人々や場所、出来事をむすびつけている」(イアン・ワトスン『エンベディング』第一章、山形浩生訳)。「万物を貫ぬ
くその同一性がわれわれすべてをひとつにし、われわれの平常の尺度ではまことに大きなへだたりを、まったくないも
のにしてしまう。」(エマソン『自然』酒本雅之訳)「「貫通するものは一なり。」と芭蕉は言つた。」(川端康成『日本美
の展開』)「この境界線はあらゆる物のなかを貫いて走っている。」(ノサック『クロンツ』神品芳夫訳)「精神が共感し
て振動を起こす/ひとつの場所がある」(リルケ『鎮魂歌』高安国世訳)。「さまざまな世界を同時に存在させることが
できる。」(イアン・ワトスン『知識のミルク』大森 望訳)「これは共在する存在の領域。」(ジャック・ウォマック『テ
ラプレーン』6、黒丸 尚訳)。

「結局、精神構造とは、一個の複雑な出来事ではなかろうか?」(バリントン・J・ベイリー『王様の家来がみんな
寄っても』浅倉久志訳)「ひとができごとを、できごとがひとを作る。」(エマソン『運命』酒本雅之訳)「人生の中で、
お互いに何年も隔たった存在なのに」(シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』大久保 譲訳)、「すべての物
事が」(コードウェイナー・スミス『アルファ・ラルファ大通り』浅倉久志訳)、「すべての場所が一つになる」(ロバー
ト・シルヴァーバーグ『旅』2、岡部宏之訳)、「たったひとつの事実になろうとする。」(エマソン『償い』酒本雅之訳)。

「マールボロ。」の言葉が、その言葉の輝きが、違った光を、一つに結びつけていくのだ。違った時間のわたしを、
違った場所のわたしを、違ったわたしであったわたしを、ただ一人のわたしにするために。違った光が、一つの光に
なろうとするのだ。そして、それはまた、同時に、一つ一つの光が違ったものであることを、自ら知るために。違っ
た光が、一つの光になろうとするのだ。さまざまな瞬間に、わたしを存在させるために。違った光が、一つの光にな
ろうとするのだ。さまざまな場所に、わたしを存在させるために。違った光が、一つの光になろうとするのだ。さま
ざまなわたしを存在させるために。わたしであったわたしだけではなく、わたしでありたかったわたしや、わたしが
一度としてこうありたいと思い描いたことのなかったわたしをも。

 わたしのなかのいくつもの日の、いくつもの時間が、いくつもの光景の、いくつもの光が、「マールボロ。」とい
う、わたしが体験しなかった体験を通して、わたしの友人の言葉を通して、互いに照射し合い、輝きを増すのである。
光が光を呼ぶのである。瞬間が瞬間を呼んで永遠になるように。それが、実体験以上に実体験であると感じられるの
は、いくつもの体験を、ただ一つの体験として感じられるからであろう。もちろん、意識としては、別々の体験であ
ることを知ってはいても、感覚として、ただ一つの体験であると感じられるからであろう。そして、その感覚は、友
人の体験という、自分の体験ではないものをも自己の体験として組み入れるのであろう。それが、自分のじっさいの
体験ではないと意識の上では知ってはいても。いや、知っているからこそ、そうするのかもしれない。矛盾している、
と。混沌ではなく、混乱でもなく、混雑でもなく、矛盾している、ということを知っているからこそ。そうして、そ
の感覚は、わたしを、さまざまなものの前で開く。わたしを、さまざまな時間に存在させる。わたしを、さまざまな
場所に出現させる。わたしを、さまざまな出来事と遭遇させるのである。そうして、わたしではないものをも、わた
しであるという感じにさせるのである。彼らが入ったラブホテルの、そのシャワーの湯のあたたかさが、わたしの肌
となるように。そのシャワーの湯しぶきのきらめきが、わたしの目となるように。そのシャワーの湯しぶきの蒸気に
満ちたシャワー室そのものが、わたしの息となるように。

 ああ、それにしても、「いまだにみんながきみの愛について語ることをしないのは、いったいどうしたことなのだろ
う。」(リルケ『マルテの手記』高安国世訳)。どうしてなのだろう。あれらは、愛ではなかったのだろうか。わたしは、
愛を語らなかったのだろうか。あれらは、あのわたしは、愛ではなかったのだろうか。「だれにおまえは嘆こうという
のか、心よ。」(リルケ『嘆き』高安国世訳)「すべては一つの物語なのである。」(アーシュラ・K・ル・グィン『闇の
左手』1、小尾芙佐訳)「詩は喜びに始まり、叡(えい)智(ち)に終わる。」(ダン・シモンズ『ケリー・ダールを探して』�掘�嶋田
洋一訳)。

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7619 : 紅蓮の旗  草野大悟 '14/08/18 21:34:47

 ワシは、国家を動かしている輩どもの腐った根性が気にくわんのじゃ。
 あたしだってそう、ほんと馬鹿にしてるわ、あたしたち一般市民を。
 ぼく、そんなこと思わない、高級官僚だって、代議士先生だって、学校の先生だってみんな一所懸命ぼくら一般ピープルのために頑張ってくれてるし……。
 お、おまえホントにそんなこと考えてるのか? まったく見下げ果てた奴じゃわい。
 そうよ、権左右衛門って最低だわ、あたし軽蔑しちゃう。
 二人ともそんなにぼくのこと責めなくてもいいじゃんよ。ぼくは……ぼくは、この国を世界中のあらゆる国と比較して、相対的にこの国の為政者達を評価している。例えば北朝鮮なんてどうよ? 中国はどう? 為政者に楯突いただけで銃殺されるし、共産党の運営方針に反対するメディアはとことん潰され、ネットも国によって封鎖される。第一あの天安門で何千人という学生達を殺しておきながら当然と考える、それにアメリカなんかも金持ちじゃないと病院にもかかれない、二人ともそんな国がいいわけ?
 ワシはなぁ、ワシたちが幼少のころの世の中が一番良かったと思っとるんじゃ。
 あたしだってそう、あたしたち保育園のころから一緒じゃん、仲良し三人組って先生達もいってたの覚えてる? あたしはよーく覚えてるよ、その頃三人で約束したこともね。
 サラはさぁ、いっつもみんなの憧れでさぁ、ぼくたちサラといるだけで誇らしかった。
 そうじゃのう、誇らしかったし、今も一緒で誇らしいわい、こうやってサラのショートカットを見ておるとムラムラしてくるわい、ふぉっふぉっふぉっ。
 いやーねキュウヘイは、保育園のころからやらしかったけど、変わってないわね、っていうか成長してない、ぜーんぜん。
 そうかのう、成長してないかのう。
 ぼくもそういう感じがする。だいたいキュウヘイはいつだって女の子のお尻ばっかり追いかけていたしさぁ、ボインタッチなんていってオッパイ触ってたもん。ぼく、ぼく、羨ましかった。
 権左右衛門そうか、羨ましかったのか。それならそうとワシに一言いってくれればなんとかなったものを、惜しいことを。しかし、権左右衛門、お主もスケベよのう、ふぉっふぉっふぉっ。
 キュウヘイやめてよ。ぼくは、君とは違うんだから。女子っていうのは神聖な神秘的な清らかな……えーっと、とにかくそんな存在なんだから。
 へーえ、そうなんだ、あたしそんな崇高な生き物なんだ。
 サラやめてよ、自分のこと生き物なんていうの。
 だーってそうじゃんよ。あたしたちみんな生き物よねぇ、キュウヘイ。キュウヘイ、こら! 起きろ! 人が話してるのに寝てんじゃねえよ。ケリ!
 いて! だ、誰じゃ今ワシをけったのは? おー痛い、脛が思いっきり痛いぞ、権左右衛門おまえやったな! 目をそらすところをみると、ワシを蹴ったのはおまえに決めた!
 決めたってそんなぁ、ぼくじゃないよ。ぼくがそんな暴力振るうわけないってキュウヘイも知ってんでしょ? ね、知ってるよね? うーむ、そういわれると知ってるような気がしてきたぞ。
 くっくっくっ。
 む? 誰じゃ笑っておるのは。
 あたしよ、あ・た・し。
 あたしってサラ、おまえまさか、おまえがワシの脛をけったのか? 
 さぁ、あたしかもしんないし、あたしでないかもしんない。キュウヘイの脛を右足の爪先で、回転をつけながら思いっきり蹴飛ばしたのは、おそらく誰かでしょう。
 へっ? 誰かでしょう、っていうわりには蹴ったときの詳細な状況描写に感服じゃ、っていってる場合ではないわい。
 ま、ま、キュウヘイそのくらいでいいじゃん。
 とはいってもな、ここは男としてキッチリと落としまえをつけとかないとな。
 あのね、キュウヘイ、あんた保育園のころから「餅をついたようなさっぱりした性格」とかいわれて喜んでいたけど、そのまんまだね。
 そうじゃ、男は、そうチャラチャラ自らの主義主張を変節させるものではなーい! な、権左右衛門。
 そ、そうかな、多分……。
 多分っておまえ、おまえってそういう奴、今の今までおまえを信じていたワシが馬鹿じゃったわい。
 
 ねぇサトシ。
 ん、なーにワカナ? 
 最近ね、最近、サラが悪い男達と付き合ってるってご近所の奥さん方がいうのよ。
 悪い男達って、誰よそれ? 
 うん、何でもね保育園でも一緒だった子達みたい。
 みたいって、名前も分からないのか。そんな曖昧なことでどうする! 悪い男達と付き合っているといわれて、おまえは、そのままその問題を放置していたのか! なんたる怠慢、なんたる職務放棄! そこへなおれ! 
 はいはい、なおりましたよ、んでどうすりゃいいんです? 職務怠慢の、職務放棄のわたくしとしては、えっ、どうすりゃいいんです? 回答を即示してよ!
そんなことも分からないのかおまえは、ぶわっかものめ!
 はい、はい、どうせわたくしはぶわっかものめ、でございます、あなたが教えてくれないことには、なーんにも分かりません、くっくっくっ。
 あのなぁ、暢気に笑ってる場合ではないぞ。 
 あーら、暢気だなんて、わたくし、このシュチュエーションで暢気などという単語を平気でお使いになるあなたの方がよっぽど暢気だと思います。
 なにィ、も、一回いってみろ! 
 ええ、ええ何回でもいいます、暢気はあなた、暢気はあなた、暢気はあなたですっ! 
 ぐっ、そこまで連呼するか。
 だーってあなたがいってみろと仰るから……わたくし、わたくし……。
 な、なにも泣かなくても、泣かなくてもいいだろう。
 わたくし悔しい。あなたにわたくしのことがほとんど理解されていないことがこの時点で具体的かつ現実的な意味合いでわたくしの目の前に呈示されてしまったことが、とてもとっても悔しい。悔しい、悔しい、ええいもう、悔しい! 
 わ、分かった、分かった。それにしてもおまえのリフレイン三回の効果は凄いよ。
 凄い? ほんと? わたくしって凄いの? ほんとに? 
 あぁ、ほんとだとも。おまえは凄い。
 サトシィー。
 ワカナ……。

 あーら、カナコとキクコ、ここにいたの? 
 って、さっきからいるじゃん! 
 じゃ、ずっと見てたの、わたくしたちの……なんていうか、これ? 
 ええ、え、見てました、見てましたよ、バッチリね。だいたいねぇ、リビングでみんなでお食事してるときにそんなことすれば必然的に見るわよ。
 そ、そうだな。必然はいつも偶然から生まれる、なんてな。
 うーん、深いわ、とっても深い。やっぱサトシ、ボキャブラリーが豊富だよね、誰かと違って。
 だ、誰かって、誰よ! 
 そう怒るところをみると、ワカナもう答えを出してるんじゃない? ぎくっ。ど、どうでもいいからさっさと部屋へ行って勉強しなさい! 
 今からしようと思ってたのに、二人が変なこと始めるからこうなったんだよ、親の心子知らずね、まったく。キクコ行こ。
 うん、行こ。

 キクコさぁ、どう思う、サトシとワカナのこと。
 どうって、わたし、よく分かんない。
 そうだよね、あたしもよく分かんないけど、けど、自分が通ってる高校にワカナやサトシがいるって、なーんか嫌だよね。
 うん、それはいえる。あのさぁ、キュウヘイがいってたんだけど、普通、夫婦は同じ学校では勤務しないんだって。
 へぇーそうなんだ。じゃ、何でワカナとサトシはわたし達が行ってる学校で一緒に先生してるの? 
 さあ、何でだろうね。でもキューヘイによると、ごくまれにそういうことがあるんだって。教育委員会の人事ミスとかいってた。それでね、普通、校長先生になるような先生は、そんなことには絶対ならないって。
 ふーん、じゃ、うちのワカナとサトシは校長先生にならない人たちなんだ、よかったぁ。
 キクコ、あんた、よかったぁ、ってどういうことよ? 
 ううん、何となくねワカナやサトシが校長先生になったらなんか遠いところへ行ってしまうような気がしただけ。
 ふーん、遠いところねぇ、遠いところってどこよ? 
 遠いところは、遠いところよ。
 そうなんだ、遠いところは遠いところなんだ。
 そう、遠いところだよ。キクコ、宿題やっちゃおっか、算数と理科はあたしがやるからキクコは国語と社会ね。
 うん、分かった。こんなとき双子でよかったって思うよね、同じ学年でしかも同じ学校で同じクラス、担任がワカナじゃなきゃもっといいけど。
 そうね、でも、わたし、ワカナのこと大好きだからいつも一緒にいるの楽しい。
 へぇー、そう。あたしはなーんか嫌だな。家での自分と学校での自分の微妙な違いみたいな部分は子には隠しておきたいもん。
 へぇー、そうなんだ。
 そう、でもさぁ、なーんか調子こいて夜間高校なんかに入らなきゃよかった、しかも自分たちが卒業したとこなんかに、あーあ。
 カナコ、ぶつぶついってないでやっちゃうよ。カナコは数学とか物理とか好きじゃん。わたし、どうも苦手なんだ理系っていうのそういうの、そういうのがいまいちピントこない。いつかサラにいったら、サラが、あたしも理系は苦手だな、よく似てんねあたし達とかいって妙に嬉しそうにしてたけど、正直いってサラに似てるっていわれてもちっとも嬉しくないし。
 嬉しくないんだ、あたしはサラ好きだけどなぁ。
 うーん、上手くいえないけどなんか表層的な部分は似てるかもしれないけど、深層部分はあなたとはまったく違いますよ的な、分かる? 
 んーん、よく分かんない。
 そーお。
 うん。
 ところでさぁキクコ、キュウヘイとサラっていい感じだと思わない。
 思う思う、それでいて二人のときは喧嘩ばっかりしてるもんね。
 そうそう、喧嘩ばっかり、あの権左右衛門が……、この名前何とかなんないかな、長ったらしくて古くさくていやんなっちゃう。権左右衛門がいなきゃあの二人とっくに喧嘩別れしてたんじゃない? そうね、わたしも同感。権左右衛門の存在って大きいよね。確かに。
 カナコ、カナコは好きな男子とかいるの? 
 いるよ。
 ね、ね、誰ーれ? 
 誰でしょう、当ててごらん。
 えーと、タロウ? 
 いやぁよあんなゴリラみたいな顔した奴。
 ふーん、わたしてっきりそう思ってたけどなぁ、だっていっつもタロウ、カナコのこと見てるし、近くをうろついてるし。
 迷惑なんだよね正直、あんなのがあたしの周りにチョロチョロしてるから他の男子が近付かないし。
 カナコ迷惑なんだ。
 そう、はっきりいって大いに迷惑。それにタロウあたしの靴箱の中にしょっちゅう手紙入れてんの。今時はやらないよ手紙なんて。いいたけりゃ直接いいなって思うし、それもできないならせめてメールにして欲しいよね。
 うん、そう思う。けどタロウってああ見えて内面はとってもナイーブな男子なんじゃないかなぁ? 
 あらあ、キクコひょっとしてタロウのこと好き? 
 えっ? と、とんでもない、好きだなんて! 
 あっ、赤くなった。
 赤くなんかなってなーいっ! 
 ほら、手鏡。
 いらない! カナコの意地悪。カナコなんか嫌い! だーい嫌い! 
 ごめん、ごめん、そんなに怒んないでよキクコ。それよっか、あたしが誰を好きか当てたらモスバのハッピーセットをおごるよ、キクコあれ大好きだもんね。
 えっ、ほんと? 
 ほんとに、ほんと?
 本当よ、約束する。
 じゃーあ、指切り。指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます指切った。ようし、えっとね、カナコが好きな男子はね、イケメンで、金持ちで、サッカーとかスポーツやってて、成績良くて、ちょっぴり大人っぽい優しい男子よ、どうこれで? 
 何よそれ、それって全然具体性に欠けるわ、それじゃハッピーセットおごれないよ。
 そう、ダメ? どうしても? 
 ダーメ。
 けち。
 けちじゃなーい。
 けち。
 違う!

 クション!
 どうしたのキュウヘイ? 風邪? だったらあたしたちにうつさないうちにとっととお家にお帰り! 
 そうだよキュウヘイ早く帰って寝た方がいいよ。
 なーに寝ぼけたこといってんだ二人とも、ワシは風邪なんかひかーん! 
 あら、そーお、そおよね、昔っからなんとかは風邪ひかないっていうもんね。
 そう、なんとかは風邪ひかんのじゃ! ん? なんとかって何じゃ? サラ。
 さーあ、ふふふんふん。
 あっ、なに横向いてハミングなんぞしおって、おい権左右衛門、お主当然知ってるじゃろう、いえ! 
 いえイ! 
 いえイって、権左右衛門お主ワシを愚弄しておるのか! 
 あ、いや、決してそんなことは……。
 じゃ、何じゃ、ん? 
 ぼくは愚弄なんかしてない、(小馬鹿にはしてるけど……)。
 おい、こら、権左右衛門、今ごにょごにょ括弧付きでなんていうた、大きな声でいってみい。
 まぁ、まぁ、いいじゃないキュウヘイ。それよっか今後のあたしたちの行動指針を真剣かつ真摯に討議して方向性を樹立する方が先でしょ、ねっ! 
 そうじゃ、そうじゃ、忘れておった、それが先じゃ。
 ほっ、よかった。
 おい、そこでよかったと思っておる権左右衛門。お主がいうたことワシが忘れたとゆめゆめ思うなよ、いいか。
 あ、はい。
 うむ、ならよろしい、許す。ふぉっふぉっふぉっ。
 (って、まったくややこしい奴と友達になってしまった。だいたいぼくは、サラとだけ友達になればよかったのに、のに、のーに!こんなへんてこりんな奴がグリコのオマケみたいについてきちゃうんだもんなぁ、あーあ)
 権左右衛門あんたなんか意見なーい?   
 は? 
 だからぁ、今後のあたしたちの行動方針よ! 聞いてたの、さっきあたしがいったこと? 
 も、もちろん聞いてたさ。
 そーお、じゃいってよ、方針。
 と、いわれましてもですなぁ、これがなかなかに難題で……。そもそもぼくたちが三人でここにいる必然性すなわちDNAの記憶と宇宙の成立から説き起こしてゆく必要があるし、そうなればそれ相応の準備的な行為も当然必要とされてくると思料されるし……。
 あのねー、あんたさぁ、いっつも前置き長いんだよね、んで、結局の所何をどうしようというわけ。
 だから、思料中デス。
 あっ、そ。あんた恐ろしいくらい自分律っていうの、自分のパターンを崩さないよね。 
 ぼ、ぼくは自分ではそんなことはまったく認識してない。
 もう、いい! あんたと話しているとイライラしてくる、キュウヘイはどうよ? 
 ワシか、ワシにはな壮大かつ宇宙的な考えがあるんじゃ。
 へーえ、それって興味あるーう、なーに?
 って聞かれてもおいそれとは教えられないな、ふぉっふぉっふぉっ。
 いいじゃん、教えなよ。
 サラ、教えてといわれてハイそうですかと答えてくれるほど世の中甘くはないぞ。
 あっ! キュウヘイ、あんた、まーたなーんも考えてないんでしょ。
 そ、そんなことはない! 
 あっ、今、口とんがった。あんたが嘘つくときいっつもそうだよねキュウヘイ。ね、権左右衛門、キュウヘイ嘘つくとき口とんがらかすよね。
 ぼ、ぼくはよく分からないかも……。
 分からないかも、なんて適当にごまかしてんじゃないの! 
 まぁまぁ二人ともワシのことで喧嘩をするんじゃない、いやーあまったく二人とも子供だなあ、いくつになっても。
 って、キュウヘイあんたのせいじゃん、それをなによ人ごとみたいに、まったくやってらんない! もういい、今日はこれまで、来週までに今後の活動方針ぜーったい考えてくるんだよ二人とも、いーい、分かった? 分かったの! 返事は! 
 うむ。
 ぼ、ぼく考えてくる。
 よーし、今日の所は解散!

 ただいまぁー。
 サラお帰り、今日遅かったのね。
 うん、ちょっと居残り。
 居残りってまた何かやらかしたの? 
 またって何よ! なーんにもやらかしてません、お友達と真剣に将来のことについて議論してたんです。
 将来ってサラ、いっちゃあなんだけど将来なんてないんじゃぁ?
 むかっ! それよっか、ご飯。
 はいはい。
 はいは一回でよろしい! 
 はいはい。
 あのね、ワカナあんたさぁその癖なんとかならない? 
 はぁ? どういう癖?
 だからそういう癖。
 そう、よくないぞなんか人を小馬鹿にしてるようで、な、サラ。
 おーサトシさんあんたはホントニよくできた父親だよ、ワカナには勿体ない。
 いやぁ、それほどでも。
 なに二人で盛り上がってんのよ、早く夕ご飯済ませてよね、わたくし忙しいんだから。
 はいはい。
 はいは一回! 
 はいはい。
 あたしのへそ曲がりはワカナの遺伝だな、やっぱ。ワカナさぁ、カナコとキクコは?
 二階で宿題やってますよ。
 へえー宿題とかあるんだぁ。
 そりゃあるわよ、学校だもん。
 それもそうね。ところでワカナ、今日のこれなーに、精進料理みたいで、いまいち食欲わかない。
 サラの体のこと思って作ってんのに……食欲湧かないなんて……湧かないなんて……うっうっうっ……。
 な、なにも泣くことはないだろワカナ、ねぇサトシさん。
 そうだよ、泣くなんて。
 いいわ、いいわ二人でそうやって私をいびってれば、どうせ私は……うっうっ。
 あのねぇワカナ、あたしはこう、なんか豚カツとかステーキとか肉系が好きなわけ。油でジュワーッと揚げた豚カツをハフハフいいながら食べるあの幸福感をあたしから奪う権利はワカナあなたにはないと思う、ね、サトシさん。
 そ、ま、そっかなぁミタイナ。
 分かった。お二人がそこまで仰るなら明日からそうします。そうしますから覚えておいて下さい。私がサラやサトシやキクコやカナコのためを思ってユネスコの無形文化遺産に登録された和食を徹底的に食卓に出していた必死の努力をこの家の誰も認めてくれなかった。いいです、分かりました、よーく分かりました。
 べ、べつにそのぅ認めていないわけじゃなくて……
 わけじゃなくてなんなのよ! サトシ! 
 大いに感謝しているし、本当に美味しいです。
 そーお、ほんと? ほんとに、ほんと? 
 ああほんとだともワカナ。
 サトシーイ。
 ワカナー。
 ひしっ。
 って、あんたら人の面前でよくそんなことできるな、しかもしっかりキスまでして、この、羨ましい。
 そんな羨ましかったらサラもやればいいのに。
 そうですよ、やればいいんですよ。
 といってもねぇあたしにはそんな相手はいないしねぇ。
 なーにいってんのサラ、いるじゃないの。
 えっ? だれ、だーれ。教えてワカナ。
 まーたまたまたサラったら、テ・レ・ヤ・サ・ン。
 なによワカナその卑猥な笑いは。
 ふっふっふっ、わたくしがなんにも知らないとでも思ってるのサラ。
 え? なんにも知らないって思ってるのって、ワカナあんたなに知ってんのさ。あたしも知らないんだけど、よかったら教えてくれる? 
 ふっ、キュウヘイよ、キュウヘイ。
 は? キュウヘイってあのキュウヘイ? 
 あのもこのも、この辺でキュウヘイといったらあのキュウヘイしかいないでしょう。
 えーっ、えーぇ、やめてよやめて。ワカナ、冗談はヨシコさん。
 は? なにそれ。どーお、ズバリでしょ? 私だってだてに和食プラス玄米オンリーの生活続けてきたわけじゃないわよ。
 えー、そうなんですか、そうなんだぁサラ、キュウヘイ君なんだぁ。
 いやだぁーサトシさんまでそんなこといって、まったくやってらんない。

 なーんかギャーギャーうるさいわね、毎度のことだけど。ね、キクコ、あんたちょっと下行って、うるさくって勉強できない、っていってきてよ。
 えー、わたしが行くわけー、やだー。
 やだーって、あんた妹でしょ、早く行ってよ。
 なによ、いつも私たち双子だから基本的にどっちが姉でどっちが妹という上下関係はないことにしようよ、なんていってるくせにぃー。
 はいはい、いいからいいから後でお話よーく聞いてあげるから。
 ほんと?
 ほんとよ、今までだってあたし嘘なんかついたことないじゃんよ。
 っていうか、その言葉自体が既に嘘っていうか……。
 なにうにゃうにゃいってんのサ、早くお行き、さもないとお尻蹴っとばすからね! 
 へいへい、行きゃあいいんでしょ行きゃあ、わたしのお尻は日本一の美尻っていわれてるんだから、傷でもついたら大変。

 あーやってるやってる、いつものトライアングルバトル真っ最中。
おっかえりぃサラ。
 あ、キクコただいま。
 今日は、なに揉めてんの? 
 ねえ、ねえ聞いてくれるキクコ。
 うんうん、いってごらんサラ。
 実はねかくかくしかじかってわけ。
 ふーんなーるほどねえ、って分かるわけないじゃん! 
 そーお、おっかしいなぁ、テレビとかじゃこれで周りみんながふむふむなんていって納得するんだけどなぁ。
 ここは、テレビじゃないのっ! いい年してテレビと現実をごっちゃまぜにするなんて、わたし恥ずかしい。
 あのなキクコ、和食と豚カツ・ステーキの闘いなんだ。
 なによそれ、サトシ、かえって分からなくなるじゃん。
 いいキクコ、あたしはね、たまには豚カツを食べたいなぁっていっただけなの、それをこのワカナが和食がどうのこうの、家族みんなの健康を考えてどうのこうのと能書きたれるから話がこじれてしまったってわけ。
 そーお、さすがサラ、要点をピチッと押さえたダイジェストありがと。
 どういたまして。
 それでね、わたしが貴重な勉強の時間を割いて降りてきたのはね、とにかく静かにして欲しいわけ三人に。わたしとカナコ今真剣に宿題やってるんだから。しかも誰かさんの宿題もやってあげてるわけだし、そこんとこよろしく。
 そ、そうだよワカナもサトシさんもよーくキクコのいうことをきくことだね。
 サラ、あんたの声がいっちばんでかかったけど。
 そーお、ま、気にしない気にしない。
 あーあ、あなたはいいわよねぇ、いっつも脳天気で。
 おや、キクコあたしをつかまえて脳天気とはなによ、脳天気とは! 
 だーっていっもそうでしょう、我が家のゴタゴタのほとんどがあなたのせいなのにあなたいつだって知らんぷりしてるじゃん、よく心が痛まないね、ったく。
 あら、あらあらあら、そーんなこというんだキクコ。ほう、もうあたしのことが可愛くないんだ。サラが世界で一番可愛いなんていってたくせにぃ。サトシさん、ワカナこんなこといわせといていいのあなたたち、それでも親なの! 
 ま、自業自得っていうか。
 ワカナ! 
 どっちかっていうと僕も同意見かな、ミタイナ。
 サ、サトシさん! サトシさんまでそんなこというのね。いいわ分かったわ、ふん理解のない家族に囲まれてあたし幸せ一杯だよ。 おーいカナコぉー、おーい。
 なーによキクコ? 
 知らんぷりしてないで降りてきてよ、今の聞こえてたでしょ。
 分かった分かった、今降りてくから。

 あのね、要するに和食と洋食の闘いなわけよカナコ分かる? 
 要するに、たまには豚カツとかステーキとか肉食わせてくれっていうサラのささやかな願いなわけでしょ? 
 そ、それをこのワカナが冷酷無情にも却下するのよ。
 サラ、あなたねぇ話を歪曲しないでくれるかなぁ。
 ワカナなによ、だってそのとおりだもん。
 まあまあ落ち着いて二人とも。
 キクコもそうだけどカナコあんたもほんとに大人だねぇ、あたし感心するよ。
 そりゃそうよサラ、わたしたちが何年人生してると思ってんのよ。
 へぇへぇ、悪うございましたお代官様。
 まーたそうやって茶化す、あなたの悪い癖よサラ。
 そーお、自分じゃ結構気に入ってるし、キュウヘイなんかも、アイロニーに富んで含蓄が深いのうっていっつもいうよ、カナコ。
 ああ、キュウヘイ君ねぇ、キュウヘイ君じゃあねぇ。
 なによその差別的発言、いくらカナコだって許さないわよ! 
 まあまあ二人ともそう熱くならずに……冷静に冷静に(どうでもいいことによくもこう熱くなれるもんだよ、まったく。女って生き物はほんと不可解)。
 サトシ、あんたひょとしてあたしたち馬鹿にしてない? ねぇ、そんな感じするよねカナコ。
 そう、あたしもなーんか見下され感がぐわーんと伝わってきた。
 そ、そんなことぜーんぜん思ってません! お二人の考えすぎですっ! 
 サトシ格好いい、いうときにはいえるんだ……。
 ワカナなにぽわーんとしてるんだ! 
 あっ、べ、別にぽわーんとなんかしてないし。
 そお? うっそぉー、顔にサトシラブって書いてあるよ。
 えっ、えっ、ほ、ほんと? カナコどこどこ、どこ書いてある?
 うーん、ま、そんなところが可愛いといえばいえなくもないんだろうなぁ、ねキクコ。
 うーん、ま、そっかな。

 キュウヘイ例の物持ってきた? 
 おお、ここにあるぞ。
 見せて、見せて。
 ぼ、ぼくも見たい。
 まあ、お二人さんそう急ぎなさんな。これからの行動指針を樹立した暁には、お披露目いたすほどに。
 んーん、もう! いっつもそうして焦らすんだからぁ。
 サラ、人生我慢じゃ。なぁ権左右衛門。
 うん人生我慢の連続だよ。特にぼくなんかキュウヘイと付き合いだしてから我慢のしっぱなし。
 そうそう君は我慢の天才じゃ、偉い! 
 まーたそういってからかうんだから、サラなんとかいってやってよ。
 それじゃ、先週提案した我々の今後の行動指針について会議を始めます。
 えっ、シカトかよ、サラ意外とサドっぽいかも。ぼくそういうのもいいな、なんて。
 こら、権左右衛門なにぼやっとしてんのよ、あんたの意見から先、いいなさいよ、聞いてあげるから。
 それじゃ、ぼくから発表します。ぼくたちの活動の基軸はあくまで庶民、しかも毎日毎日一所懸命に働き、家族を養い、世を憂えているいわゆる憂国の士を全世界的に集結させ、彼らあるいは彼女らが報われる世界を創出することに置くべきだと思う(うーん、我ながら決まった)。んで、その基本理念を実現させるメンバーであるが、現状のこの三人ではいかにも心もとない。それで、大所高所に立って物事を判断できる人物の存在が必要不可欠となる。その人物は誰か? あるいは誰たちか? ふっふっふ、答は諸君の目の前にぶら下がっている。
 心もとなくて悪かったわね、あたしたち心もとないんだキュウヘイ。
 うーむ、心外じゃ、それに権左右衛門、お主平素の言葉遣いとまったく異なった異次元の話しぶりじゃのう。 
 そ、そう? ぼ、ぼく自分では特に意識してないけど……
 それで誰なのよその大所高所の方は? 
 誰じゃ?
 サラ、キュウヘイ、諸君らはいつもそうして他人に頼る、悪い癖だ。自分の頭で、自分の心で、自然の声に耳を澄ませばその名前が聞こえてくる。ほーら聞こえてきただろう、いかに諸君らが鈍感だといっても。
 あのさぁー権左右衛門、あんたドサクサに紛れてあたしたちへの鬱憤晴らししてない? ねぇ、キュウヘイ、そういうニュアンスよね? 
 そう、そういうニュアなんとかじゃ。
 ふっ、それは諸君のキャパの極小さがそう思わせるだけだよ。ぼくは、当たり前のことを極く当たり前にいってるし、誰にも迷惑かけてないし、お漏らしもしなーい! 
 分かった分かった、あたしたちその高所大所どうしても思いつかない、だから教えてよ権左右衛門。
 とても熟考したようには思えないが、諸君に付き合ってると話が拡散ないし分裂して先に進まないから、ぼくからいおう。それは、それは、サラんとこのカナコとキクコだ。
 えーっ、うっそぉー。
 ごほっ、なんじゃとあの二人とな。
 そう、あの二人。
 してその理由はなんじゃ? 
 簡単な事実を諸君が見落とすから分からないんだ。いいか、彼女らは人格円満、容姿端麗 頭脳明晰にして即決即断、加えて運動神経抜群それにそれにここが一番大事なことだが、人生経験超豊富。どうだ、こう何拍子も揃った人材が諸君の周りにいるかい、ふふん。 ふふんって、権左右衛門、その二人うちの家族なんですけど。
 あれっ、そうだった? 
 そーんなことにも気付かずに能書きたれとったのかお主は! この不忠者め、手打ちに致すそこへなおれ! 
 へへーっ。
 こらこら、キュウヘイあんた少し黙ってなよ、あんたが出ると話がややこしくなって仕方ない。
 うむ、そうするかのう。
 よしよし良い子良い子。
 サラそうか、ワシ良い子か? 
 うん、とっても良い子、時と場合によって。
 権左右衛門からメンバーにキクコとカナコを加えたらどうか、という意見が出ました。皆さんどうでしょうか? どうでしょうか?キュウヘイ。・・・・・・。キュウヘイ! なに黙り込んでんのよ! 
 先程、サラが、黙ってなよ、というたではないか。
 そ、そりゃいったけど、ここは発言していいの! ったく融通がきかないんだから。
 そうか、それではワシの見解を述べよう。
 もったいぶってないで早くいいなさいよ。
 そう急ぐでない、昔から慌てるホームレスは貰いが少ないというではないか。
 あたし、ホームレスさんじゃないし。
 そ、そうだよぼくもそんなんじゃないよ。
 うむ、そんな自己中心的判断は往々にして人生を誤らせるのをお主ら知らんのか、不憫よのう。いいかよーく聞け、ワシはな、ワシは賛成じゃ、以上。
 以上って、さんざん前置きしてたったそれだけ? 
 そうじゃ、男は多くを語らない。
 とかなんとかいって、キュウヘイ、あんたもしかして夕食のことで頭が飽和状態になってるんじゃない? 
 ぎくっ。サラ、ワシをそんな安っぽい男と思うてか? 
 うん! 思う。
 ……。
 じゃあキュウヘイはカナコとキクコの参加賛成ということで、権左右衛門はさっき意見聞いたし、あたしの番ね。あたしも賛成、っていうか大賛成。あの二人さっき権左右衛門が指摘したとおりとにかく静かにしてられない万能選手みたいなところがあって、普通免許はもちろん大型自動二輪の免許や船舶一級免許なんかももってるのよ。それに、ワインソムリエの資格や美容師、司法書士、不動産鑑定士、調理師、税理士その他諸々の、とにかく資格だらけの人生を送ってきてるの。だから、敵への刺客としてはこれ以上の人材はないわ、ふっ、ねね分かった? 今の分かった? 
 え? なにが? 何を分かれというのじゃサラ。
 ん、もうだからジョークを解さない人間は嫌なのよねぇ、だから刺客と資格をかけたわけ、どーお? 
 そういわれましてもですな、なぁ権左右衛門。
 ぼ、ぼくちゃんと分かってたし、とってもウイットに富んだジョー小泉みたいなジョークだと……。
 このこのこの、裏切りモンがぁー。
 あーあ、二人で揉めないでよね。それでさぁ、追加提案があるんだけどいーい? 
 うむ、なんじゃ? 
 あのさ、うちのワカナとサトシもさぁメンバーにしようかと、というよりあの二人、仲間はずれにされるとすごーく落ち込むのよねぇ。ぼくら不必要な人間なんだぁー、なんてまた号泣されたらたまんないし、ワカナが落ち込んで食事作ってくれなくなったらほんと困るし。
 おお、ワカナさんはええのう、こうプリッとしたケツがなんともいえんわい、ひひひ。
 ぼ、ぼくはお二人が加わることには大賛成です、ワカナさん美人だし。
 あのなー、あんたらの選考基準はそれだけかい! 
 うむ。
 はい。
 サトシはどうよ? 
 あっ、どうでもいいワシ。
 ぼくも。
 あっそ、ほとんど関心なしということね。そんじゃ、メンバー構成はそういうことで、今日家に帰って確認取ってみるわね。

 カナコ、これ美味しいね、ステーキ。
 そうね、とっても美味しい、最高! ご飯はやっぱり白ご飯に限るわよねぇ、ね、サラ、キクコ。
 そうよねぇカナコ。ワカナもサトシもなんでステーキじゃないわけ? それにご飯も玄米ご飯だし。
 あのなサラ、ワカナがぼくの健康を考えて一所懸命作ってくれたこのブリ大根とシジミの味噌汁それにグリーンサラダ、とっても健康的って感じでそーんなステーキなんか、ぼくは、ふん、た、食べたくもないわけ、分かったか、この! 
 サトシ、いってるそばから目がステーキにいってるし……。
 そ、そんなことはなーい! 
 サトシそうよね。サトシはわたしのこと愛してるモンね。
 うん。
 サトシーイ。
 ワカナーア。ひしっ! 
 あのねえ、お二人さんTPOを考えなさいよね、分かった。
 ワカナー。
 サトシー。
 こらっ! ええかげんにせい! 
 いて。
 いたーい、暴力はいけないわカナコ。
 ふん! 
 みんなに聞きたいことがあるんだけどいいかな? 
 なーに、なによ、なに、なに? 
 そう四人いっぺんにいわないで! 
 サラ早くいってごらん。
 うーん、これはね、ワカナにもサトシにも、もちろんキクコやカナコにも関係するんだけど……。
 いやだ、いやだいやだぁーっ! 
 ど、どうしたのカナコ? 
 だって、だって、だーってなんでわたしが一番最後なのよぉ、一番最後に名前が出てくんのよぉー。
 へ? そだっけ? 
 へ? なんて、サラあんたこのカナコさんを舐めてんじゃないよ! 
 い、いや決してそんなわけでは……。
 じゃ、どんなわけよ! 
 ど、どうしたのよカナコ? 
 キクコあんたはおだまりっ! 
 サトシさん、ワカナあんたらもお黙り!
 (わたしたちさっきから黙ってますけどねぇサトシ。)
 (うん。カナコ、今日ひょっとしてビールコップ二杯飲んだ? あっ、いつの間にか飲んじゃってるぅ。)
 じゃそういうことで、宴もたけなわですが。
 サトシさんなに勝手に人の話打ち切ってるのさ、ばか! 
 へいへいぼくはどうせ馬鹿です、馬鹿の馬鹿の大馬鹿者のトンチキチンです! それがどうかしましたかっ! 
 おっ、馬鹿の逆ギレ、きゃははは。
 あのね、カナコ、そしてみんなもよーく聞いてよね、いーい。
 聞く聞く初めっからそういやぁいいんだよサラ、あたしを一番にいえばなんの問題も起こらなーい! 
 そうねカナコ、んでね、あたしとキュウヘイと権左右衛門とでとある結社を立ち上げるのよ、それでそのメンバーに四人を加えてあげるから。
 おーいいなそれ。
 いいなーってなんにも分からないうちからこの無責任サトシ! 
 あっ、ワカナに叱られた。
 やーいやーい、叱られてやんのサトシ。
 カナコ、キクコ二人ともはしゃぎすぎ! 
 わーいわーい、叱られてやんの。
 ん、もう、話が進まないんだから。
 サラ、気にしないで話を続けなさい。
 ワカナありがと。その結社というのは日本の最小公倍数的年齢構成である我が家が、各世代の深層に深く深く沈澱させている若しくはさせられているあるいは押し込められている又は諦観せしめられているか……誰か止めてよ。
 それで? 
 ま、とにかくそういう諸々の思いを行動的広報媒体であるある物をフルに活用して世の中にアピールし、日本の明るく正しい未来を築こう、というものなんだけどね。分かった? 
 うん、分かった。
 おー、すごい、いってるあたしが分かんないのに四人いっしょに分かったハーモニー、よし、それじゃ次の日曜日にみんなを我が家に集結させるから夜露死苦(ヨロシク)!
 
 えー、本日は皆さんご多忙中にもかかわりませず、結社結成会議にご出席頂き誠にありがとうございます。事前にお知らせ致しておりますように、本日のメインテーマは結社名の決定と第一回行動の具体的内容の決定であります。皆様の忌憚のないご意見をよろしくお願い致します。
 サラ、なんかいつもと違ってピシッとしてるよねキュウヘイ。
 うんそうじゃのう権左右衛門。
 まずは結社名についての記名投票をおこないます。今から配布する紙に結社名を一つだけ書いてあたしに提出して下さい。
 なー権左右衛門、お主なんにする?
 ぼ、ぼくは、教えない。
 そこっ! 話はしないのっ!
 
 それでは、開票しまーす。
 紅蓮、キューピー、ヒバリ、勝、素敵、紅蓮、紅蓮
 紅蓮に三票が入りました。一応、キューピーと記入したキュウヘイから話を聞きます。なんでキューピーなの? 
 ワシは幼少のころからキュウヘイという名で、おめめがクリクリして可愛かったからキューピーちゃん、といわれておった。それにキューピーマヨネーズが大好きじゃからな。
 ……。
 じゃ、ヒバリと答えた権左右衛門。
 ぼ、ぼくヒバリいわゆるラークが高く高く舞い上がっていく様が大好きで、現在の社会情勢を鑑みるとき、ヒバリのような俯瞰的視点を持った組織ないしは個人が絶対的に必要だと平素から考えているのでこの名にしました、それに、ぼく、野球のゴールデンラークスのファンなので。
 勝と素敵との答は、カナコとキクコよね、なんなのこれ? 
 なんなのこれって、センシビリティに欠ける女、ねぇキクコ。
 そ、まったく身内として情けない。
 ごちゃごちゃいってないで、早く理由いって。どうせ勝は、豚カツ、素敵はステーキで、それを食べたいからっていう形而下学的欲求から出たものなんでしょうけど。
 おー、インテリジェンスにも欠けてると思っていたけど、意外とやるねぇ、これでいつ死んでも悔いはないねキクコ。
 いやよ、死ぬならあなた一人でどうぞ。
 サトシとワカナについては、聞くまでもないから割愛します、二人ともそれでいいですね? 
 ……。
 ……。
 二人分の……、ってどういうこと?
 ……。
 ……。
 えーいもう! めんどくさ! 
 それでは最後のケツをとりまーす。一番票の多かった紅蓮に賛成のひとぉ。一、二、三、……んとっ、全員ですね。じゃ、紅蓮に決定しました。
 ちょっと待ったぁ! 
 なによワカナ。
 サラあなた、あの約束忘れてはいないでしょうね? 
 うんうん覚えているって。
 じゃ、ぼ、ぼくとの約束も忘れてない? 
 サトシ、もちろん忘れてないわ(紅蓮に票入れるからバッカスチョコレート一箱頂戴なんて、ほんとにもう、それでも親かっ!)。
 それじゃ、議題の二つ目、第一回統一行動の具体的方法に移ります。どなたか意見のある人。
 いーいサラ? 
 ワカナどうぞ。
 わたくしね、わたくし、家事を預かるものの立場からいわせて貰うけど、消費税のアップは直接家計に響くから、一般家庭の共通の問題点だと思うわけ、それで消費税アップ断固阻止を第一回目の論点に据え、徹底抗戦したらどうかしら?
 ぼくワカナの意見に賛成! 
 はいはいサトシさん、サトシさんはワカナと一心同体だもんね。
 お、よく分かってるねサラ。
 そりゃそうよ、何年あなたたちと付き合ってると思ってんの。あたしは、原発、原発絶対廃止。カナコそうね。
 あたしも賛成だよ、日本の事故を受けてドイツなんか早々と原発全廃に舵を切ってるのに、本家本元の日本が継続を表明したばかりかインドやトルコなんかの外国にまで売り込みかけてんだから、まったく恥知らずもいいところよ。サラたまにはいいこというじゃん。 カナコ、たまにはってどういう意味よ、は? 
 たまにはは、たまにはだよ。あんたの場合は、極くまれにといった方がいいかも。
 ふん! なんとでもほざけ。
 サラそんな下品な言葉を使ったらワカナ悲しい……えっえっえっ……。
 わ、ワカナなにも泣かなくてもいいじゃん。
 だって、だって二人がわたくしのためにいい争いをするなんて耐えられない、わたくしって罪な女。
 あのなーワカナ、あんたなーに勘違いしてんのさ、ま、いっか、いつものことだし。
 権左右衛門とキュウヘイ、さっきから黙ってるけどなんか意見はないの? 
 ワシは一番最後に述べることに決めておる。
 あっ、そ。
 権左右衛門は? 
 ぼくは基本的には、先程から意見が出ている消費税反対、原発全廃のベースには賛成なわけ。でもね、その他にも現在日本が抱える問題はうなるほどあるよ。
 うなるのか権左右衛門? 
 へっ? 
 じゃからうなるのかと訊いておる。
 そこ? 
 そう、そこ。
 あのね、キュウヘイ、人がさぁ真面目な話してるときにちゃちゃいれないでくれる。
 えっ? ちゃちゃ? そりゃなんじゃ? 
 えーいもう! 権左右衛門、無視して続けなさいよ。
 うんサラ、そうする。
 お、お、お、お主らそんな薄情者じゃったのか。
 そ、ぼくら薄情コンビ、んで、どこまで話したっけ、あ、そうそう現代日本が抱える問題が山ほどあるっていう話からだった。それで、その他どんな問題があるかというと、まずは特定秘密保護法の成立、お次が憲法解釈の変更による集団的自衛権行使閣議決定、介護保険制度の改正による弱者切り捨て、生活保護法の改悪、まだまだあるぞ。マクロスライド制導入による年金の削減、法人税の大幅減額、高齢者の医療費負担を一割から二割にアップ、どうだ、凄いだろう。
 って、あんたが威張ることないじゃん。
 サラ、そ、それはそうだけど、そんなにバッサリいうことないと思うんだけど……。
 じゃああ、どう申し上げれば納得されるわけ、権左右衛門様としては。
 い、いや、そのままでいいですぅ。
 そ、初めっから素直にそういやぁいいじゃん。以後気をつけなさい。
 はいはい。
 はいは一回! 
 はい。
 はーい良いお返事ができました、それで結論的には何をどうするっていうわけ? 
 それで、一回ごとにテーマを変えてやってみたらいいと思うんだけど。
 そうねぇ。
 いよいよワシか、紅白歌合戦も大物は最後だし、トリだし、ワシ鳥肉大好物だし。
 キュウヘイなに勝手に喋ってんのよ。
 サラまあまあ、あんまりカリカリするとお肌に悪いぞ。
 ふん、あたしのお肌なんてプリップリッのピチッピチよ、それよかあんたの考えいいなさいよ、みんなそろそろティータイムに入りたいんだから簡単かつ明瞭にネ! 
 おお、ワシに任せておけ。
 任せるから早く。
 そうせかすでない。
 ん、もう、この偏屈野郎! 
 うっうっうっ……、サラ、またそんな下品な、下品な……、うっうっうっ……。
 わ、分かった分かった、分かったから泣かないでよワカナ、もう、ややこしいのばっかであたし頭痛くなっちゃう。
 頭痛にノーシン。
 ぼかっ! 
 いて。あー痛かった。それじゃワシの考えをば。ワシな、なーんも主張せずにワシらがただ走るだけでいいと思うぞ。
 それじゃ、なにがなんだか分かんないじゃん。
 ちっちっチッ、甘いのうサラ、なーんも主張せず、ただしずしずと整然と走るんじゃ。するとみんな、あれっ? なにかな? と不思議に思うじゃろう、そこが我々の狙いじゃ、そこで例のあれをばババッと取り出して、トップが掲げるわけじゃ。
 おお、ナイスアイディア。
 うーむ、キュウヘイ結構やるじゃん。
 わたくしも良いと思うわ。
 ぼ、ぼくもなーんか賛成。
 そーお、みんなそれでいいわけ? 
 いっぎなーし!

 みんないーい、気合い入れていくのよ! 
 おおーっ! 
 トップはカナコとキュウヘイね、んでセカンドがワカナとサトシ、ケツもちがキクコと権左右衛門とあたし、分かった。
 おおー!
 土曜の夜十一時、他の結社も警察も集合してるわ、うーん、なーんか燃えてきた。それにしてもなんで三台ともカブ号なわけ? もっとかっこいいのがあったでしょ、ハーレーダビッドソンとかドゥカティとかキクコとカナコがいつも乗ってるやつ。
 あーあれ、このカブ号ととっかえっこしちゃった。
 えー、信じらんない。
 ま、ま、サラ、そろそろ行こうか。
 いよいよワシらの幼いころからの夢が叶うわけじゃ、ふぉっふぉっふぉっ。
 あのねぇ、キュウヘイあんた中二なんだからそんなジジイみたいな物いいはやめなよ!
 カナコやキクコだってもう後期高齢者じゃろうが、分をわきまえたが良いぞ。
 うるさい! 
 あらあら、みんな仲良くしないとだめよ、そうでないと、そうでないと……わたくし、わたくし泣いてしまいますから……。
 ワカナここで泣いちゃだめだ、耐えるんだワカナ。
 うん、サトシがいうんならワカナ頑張る。
 どうでもいいけど行くよ、いーい。
 おー! 

 至急至急、軽視庁から港湾。
 港湾ですどうぞ。
 港湾バイパスにマル走……えーっと、といえるかどうか分からないが……カブ号三台が法定速度三十キロで走行中。中学生らしい男子二名、女子三名、三十代後半と思われる男女各一名の計七名が分乗している模様。
 港湾了解。港湾1了解。港湾2了解、現場へ向かう。
 了解、以上軽視庁。
 港湾2から軽視庁。
 軽視庁ですどうぞ。
 港湾2現着どうぞ。
 軽視庁了解、状況送れどうぞ。
 了解。
 おっ、おっ、パトカーきちゃったよ、ワカナ。
 サトシ大丈夫よ、わたくしがついてるから。
 そうだね、大丈夫だね。
 きゃぁーパトカーよ、パトカー、あたし近くで初めて見たわ。
 カ、カナコどうでもいいけどちゃんと前見て運転して欲しいぞワシ。
 なーんだキュウヘイ震えてんじゃん、年寄りぶっても所詮中坊ね、ふふ。
 なーにをいっておる、ワ、ワシが震えておるじゃと! そ、そんなことは、そんなことは絶対になーい! 
 わーったわーった。それよっかあんたしっかり旗持っててよね。
 心得ておる。

 港湾2から軽視庁。
 軽視庁ですどうぞ。
 状況送る。三台はすべてカブ号。真紅のレザーつなぎの女性運転の後部座席に中学生風の男子が乗車、この先頭を走るカブ号の後部座席に乗車している中学生風の男子が真紅の旗を掲げている。旗には、旗には……紅蓮という黄金の刺繍あり。
 ぐれんか? どうぞ。
 そのとおり、ふりがながふってある。二台目は灰色のジャージ姿の男性運転、後部に割烹着姿の女性、いずれも三十代後半位、あっ、今、当該女性が本職らにVサインをしてにっこり微笑んだ。か、かわいいー。チョウかわいいー。
 軽視庁から港湾2。
 港湾2ですどうぞ。
 余計な感想を挟まないようにどうぞ。
 了解。ケツもちは、黒のレーザーつなぎの女性運転、黒色フルフェイスで年齢不詳、後部座席に青白い顔のメガネの少年とショートカットの女の子乗車。
 マル走と判断されるのか、どうぞ。
 はっきりいって分からない、どうぞ。

 カナコもっと早くはならんのか? 
 なにほざいてんのよ、法定速度厳守! 
 権左右衛門、楽しい? 
 ……。
 権左右衛門? あんた顔真っ青だけど大丈夫? 
 ……、たったっ、たーのしーい、超たのしーぃ。
 キャッホー〜

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7645 : ピーコ  島中 充 '14/09/08 00:19:15 *2  [Mail]

     ピーコ             
ぼくは大切に飼っていたのである
泥川からザリガニを取ってきて 喰わせた
嘴の一突きで赤い頭を割り ピーコは喰った

切り株のうえに 
おとうさんは羽を押さえ ピーコをおさえ
なたの一撃で首を落とした
タッタッター 
首のないそれは二メートルほど駆けた
「くぇー 」
おとうさんは尻もちを着き 鶏の声でさけんだ
小さいとさかを掴み ぼくはごみ箱にすてた
首だけのピーコは薄目を開け 僕をみていた 
いつもの目で

すき焼きは美味しかった
ぼくの誕生日のご馳走であった
「お腹の中から透き通るような白い卵が出てきたわ きっと明日生む分よ」
肉を摘まみながら お母さんが言った

おとうさんとおかあさんは首を伸ばし 頭をくっつけ話していた
「できたらしいわ」
ぼくは鶏のように 首を捻って聞いていた
きっと 赤いとさかのあるものを身籠ったのだ

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20140908_934_7645p


7647 : (無題)  あつ '14/09/09 06:27:50

空き瓶がある

それは

何かを閉じ込めていたもの

何かを守っていたもの

何か保っていたもの

もうなくなってしまった

色や匂いをわずかに残す

それは瓶の記憶

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7649 : 弾琴  あらた '14/09/09 10:46:55



  弾琴


 光があれば 影ができる

 影あるところに 光が当たる

 あたりまえ、だが

 明日が来なければ

 光も影も生まれない


  *

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20140909_959_7649p


7642 : 梨酒  michi '14/09/04 16:32:11

空が白み 光入(い)りて
病むるわたしの パサパサなること
乾きし土に 滲むがごとく
砕けし岩に 填(う)まるがごとく
友の梨酒の 満たさんことを

遠きより訪ねし 蒼く清洌(せいれつ)なる友
彼の携えし梨酒の わたし中に巡り
消ゆるべき焔を 切に滾(たぎ)らせ
虚ろな夜半(よわ)の 去り行かんことを

願う、わたし。友。

生きとし生けるものを繋ぐ 滔々(とうとう)としたテーゼ

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20140904_908_7642p


7636 : ブッタの詩(私的な解釈の詩)  竹久秀二 '14/09/01 11:50:13  [URL]

ブッタの詩(私的な解釈の詩)

1 四苦八苦 (氷の炎)
2 諸法無我 (私のもの) 
3 諸行無常 (地球は五十億年後に死ぬ)
4 涅槃寂静 (いま、ここで)


1 四苦八苦 (氷の炎)

人は氷の炎に包まれている
その現象は激烈な苦しみ

一 この世界に生まれたこと
二 時が流れ醜く老いること
三 心身が激烈に痛み病むこと
四 必ず死ぬ日がくること
五 愛しい人と別れること
六 愚かな人と出会うこと
七 思いどおりにならないこと
八 自己を確立するシステムに依存していること

氷の炎が消滅することはない
それは銀河を紡ぐ生存本能
人は渇愛つづける
氷の炎の中で



2 諸法無我 (私のもの) 

虫歯は私のもの
手帳は私のもの
ビルは私のもの
バッチは私のもの
もちろん嘘よ、そんなの私のものじゃないわ

勝利は私のもの
涙は私のもの
後悔は私のもの
思い出は私のもの
もちろん嘘よ、そんなの私のものじゃないわ

星座は私のもの
新月は私のもの
愛しい人は私のもの
私は、私のもの
もちろん嘘よ、そんなの私のものじゃないわ



3 諸行無常 (地球は五十億年後に死ぬ)

花火は十秒後に思い出になる
教室のマドンナは老婆になる
青春の日々はアルバムになる
アルバムは古ぼけて、開くものも消える
夏は過ぎ去り、秋が来る
社会は変化し、世界も変化を続ける
父も母もいずれ死ぬ
人類の二千年後を想像してみる
夜空を見上げる
五十億年後、地球の海は蒸発して大地はひからびる
生命は絶滅して、最後は太陽に飲み込まれる
粉々に砕け散る
宇宙のチリが集まり、新しい星が生まれる
また新しい生命が始まる



4 涅槃寂静 (いま、ここで)

目をつぶって、現実を見ます
風の音に、澄ませます
空気が入ってきて、出ていきます

そこにはもう、何も入る余地がありません
私の人生が、いま、ここで
完成していると知るのです

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20140901_883_7636p


7648 : 傷  zero '14/09/09 07:04:05

あるいは、私は人里から山を一つ越えたところにある渓流の脇を何も考えずに歩いていた。落葉樹が思い思いに枝を伸ばし、太陽は私の上に斑点を作っていた。渓流が川底の段差に応じて流れ落ちる音のほかには、静寂が辺りを包んでいた。静寂ではなく沈黙だったのかもしれない。川の水は硬そうな表面を見せながら小さな波を立ててどんどん流れていき、川の容積はその小さな部分でも人を何人も収容できた。歩きながら不意に私は渓流の沈黙が言わんとしていることに気付いた。この渓流は私の傷である、と。人との交わりから離れたところにひっそりとしかし大きな容積で存在し続け、どこまでも流れることをやめず、私が完全に乾いてしまうことを防いでいる。この渓流は私の傷である、と。

あるいは、私は実家の庭を疲弊した体でうろついていた。古くからの農家なので、竹林や沢山の庭木があり、またぽつぽつと咲いている花もあり、私の疲労を少しずつ置き捨てていくのにちょうどよかった。そんなとき、地面の色と似ていたため初めはそれとわからなかったが、一匹の蛇が目の前の地面にじっとしていた。私は尻尾の方を軽く踏んでみたが、特に動く様子はなかった。だが、私との睨めっこに飽きたのか、するすると木陰に入っていってしまった。そのとき不意に私は思ったのだ。この蛇は私の傷である、と。どこまでも私と同化しようとしながらも、結局は異物として消化を拒み、より深いところへどんどんもぐりこんでいき正体がつかめない。この蛇は私の傷である、と。

あるいは、私は田園地帯の小屋の外に座り満月を眺めていた。月は低めの空に懸り、その光によって逆に天空の闇を広く生み出している根拠のように見えた。月は平板な顔をしながら実は優れた創造力を持ち合わせていて、この天空の闇は見えないながらも限りなく多彩な構造で満ちているかのように思えた。そして、今この私の感慨もまた、月が創りだしているのかもしれない。その月の創りだしたひらめきにより、私は気づいた。この月は私の傷である、と。光を放つことで明確に存在を主張し、周囲に広く闇を創りだしていく。もちろんこの闇は反転して光となりうる豊かな構造によって成立している。あらゆる創造の根拠となる限りない痛み。この月は私の傷である、と。

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7613 : and so on  はかいし '14/08/16 20:19:41

ヘシオドス、砂洗い、体が八つ裂けたときのために、臨界点を超越する、コマ送りの前に、隕石、焦土より先に、
常識的ヘシモバッタの自家発電、地下に撒いたガスが原因で爆発した、

雨、八つ裂けた雨、rain、down、rain、down、カモン、rain、down、from the great hight、god love his children、god love his children、Yeah、ギタギタにされた散文の雨が降る、ギリタンジャリ、ギリタンジャリ、と音を立てて、

kiss me baby、

無限に累加された最大の責、

小梅、小梅ちゃん
君に会えたら百年平和だ
砦という砦をぶっ壊せ

火という火が
名前を
欲しがっている
くれてやれ!
ほら、土だ、
これで名前を
書けるだろう?

名付け親がいなかった、
ことが、
その人を不幸にしたならば、
グリム童話のように、
世界は暗転する、
足元に立って、
名前を呼び続けなさい、
あるいは、
死神のいない方向に寝かせなさい、

雷鳴が、
飛び降りた、
      飛び降りた、
      雨が、
      rainが、
張り裂けそうな、
        心の、
           パロディーナ
ここで立ち止まるような時間はない

詩の季節、
僕は、歩け、歩け、
行ってしまった遠くの海さ、
太陽の彼方まで行ってしまった、

詩の季節、
僕は、ホモロジー、の話がしたい、
誘われてあなたはやってきた
決断を吹き掛けるため
穏やかな笑顔作りながら
出会いを悔やむことはないと
言い聞かせグラスを開けたとき
これが最後だと頷いた

Rain down.
Rain down.
白い雪 さよなら告げた後 車に乗り込んで行くとき
振り替えるあなたを抱き寄せてもう一度キスしたかった
Snow down.
Snow down.

雨は夜更けすぎに雪へと変わるだろう

Oh heaven knows Im miserable now
in my life

サトウカエデがしなだれる頃に
秋はめぐる
雪を待ちわびていた人々が
火の中に消えていく
文字通りに
なると思えば大間違いだ
まずは大間違いからはじめた
キルへ・ホッヒの管から伸びた
朝焼けを穏やかに笑え

「クラムボンは、笑ったよ」
「クラムボンは、かぷかぷ笑ったよ」
「知らない」
「クラムボンは、死んだよ」
「クラムボンは、殺されたよ」
「なぜ殺された」
「知らない」

一回一回シャワーを浴びて
児童虐待の悲鳴が聞こえる

モノリスフィア、種々の声が聞こえる日に、
僕はコンタクトに詩を書いている、
明日がやってくるかどうかは定かではないから、
雨の日に僕は一人濡れる
ブナ帯の憂鬱のように、
雨の日に僕は一人濡れる
それから最後は皆雨だ、

詩句が詩句を呼び、飛ぶ、
何も知らないふりをしてみよう、
イマージュ
名を呼ぶのは誰か、

(こんなんだったら、
ポケモンの名を150匹
覚える方が簡単だ)

ああ小動物よ かわいいやつめ
小さくて かわいらしいやつめ
だけどお前と同じくらい
かわいいやつがいる
中くらいの動物と
大きい動物がそれだ
それなのだ
(ギャグ漫画日和9巻から引用)

I know its over
just like dream
well I dont know less I can go
over over over over...

love is natural and real
Its so human life

知らんぷり、
Sit down please

こんななんとなく帰ってきていいんだろうか、
僕は不安になる、

its so honey
why you sleep for tonight

飛び石に、
された、
アラフォー、
女の、
気持ちが、
わかる、
気がする、

翻る、
蛭と蛙、
山登り、
散々だった、
それでも、
どこか、
楽しかった、
気がする、
二度目で、
もう、
弱くは、
ない、

気がする、
三度目、
強い、
かぷかぷ笑ったよ、
クラムボンが、

Oh heven know I mizerable now、
鳥肌が立つ、
Oh heven know I mizerable now、
鳥肌が立つ、

泣き石、

焼け石、

飛び石、

さらば、
三つの光、

ヤツメナシの花が咲く、
青白い炎のような花だ、
辺りに飛び火していく、
その速さを、
止められない、
誰にも、

ナツツバキの幹のように、
あなたは美しかった、
あの汚ならしい花のように、
君は震幅する、
黄身は、

抑圧されたものの回帰、
そして少年、
今ここにいない男の魂、

指を無数の指先を差し出して消えゆく無数の指先を泡になって消えゆく指先を止めて誰か止めて止まらない鳥のように羽ばたいてゆくみんなどこかへ行ってしまった遠くの海へ行ってしまった山の向こうに海が見えるその海の向こうにまた山が見え雪がぱらぱら散っているそこに指先が差し出される指先は雪に触れて冷たいと感じ震えるつんと済ました顔で君は帰ってくる君は震幅する君は、

君は増幅する、
君は、
雨上がりの道はぬかるむけれど、
今ここに生きている証を刻むよ、

暗騒音、
and so on、


(Radiohead、L'Arc〜en〜Ciel、B'z、山下達郎、The Smith、コブクロの歌詞より部分引用)

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