◇ No.3 , '05/03/21 10:17:17 作成

60 : ヤドリギは途切れた漂流の  日出野テルミ '05/02/01 12:04:28

ヤドリギのテーブルに食らいつくサヨリ
淡水のようなカモメが網を投げ
やせ細った泡を追っている
桟橋は向こうから逆巻いては
旅人の前途をざぶざぶと天に架ける

ヒトデの人待ち模様は
夜を食むのに飽きて
静まり返った浅瀬から吹き寄せる
白亜紀のような指先にくるまれながら
メタモルフォーゼの予兆に
震えているばかり

沈みゆく船のうず潮から
解き放たれては巻かれてゆく
まぶたを無くした毛糸
歌い続ける太古のあみ棒より
ヤドリギのマフラー流れだして
その端のたどりつく先に
まだ見ぬキスの受け手が
海底の壁画になって待つ
右手に一本のシャムロック
甘くもつれた頬を花開かせる杖

ポンペイの洗いざらしや
灰仕掛けのしらうお
耳を丸めたファイバーたち
すべては
揺らぐ砂時計のように甘塩の海へと
ゆるやかに放流されるとき
真新しいアルカリと硫黄から形を得て
ひれを瞬かせるクジラ
六十年と二日の充電を終えたなら
波のさなぎを呑みこむだろう

やがて
アンコウのためいきが灯る
街路の先に
深海の裂け目より立ちのぼる
ひと粒の種

分岐してはねじれる遥か未来の樹木に
ヤドリギはふたたび根を下ろす


63 : ヤク漬け  友路 '05/02/03 22:13:42

キスマークを向こう岸までとばして
モルヒネを服用
トランキライザーを服用
凍てついたテトラポットのてっぺんに
本マグロが打ち上げられた
蒲公英を服用
こんなにも曝け出して
こんなにも曝け出して
碇草を服用
碇草を服用


62 : ロングチョコレート  えんじゅ '05/02/01 22:53:35

歴史が好きで私もわりと好きだったから
それで近づいてきたかもしれないけれど
よく話しかけてくれたね
教科書に載っている人物はともかく
誰にも思い出されない人たちの方が多かろう
いずれ俺もそうなる
歴史に名を馳せたいわけじゃあ更々ないから
別にそこにこだわる必要もないが
それにしても晴れ晴れとしない
どうも釈然としない
明日生きているという保障もないのに
明日食べようと残すチョコレート
これが俺の人生のテーマなんだ、わかるか?
わからん
もっと肩の力を抜いて生きなさいよ
テスト本番中にそんなこと考え出して
ぶざまな点数取らないようにね
と笑っていた私の方が
ディラン効果に翻弄され
それだけが原因ではないけれど
集中力ゼロ、まあ散々な結果だった
が、君はいつも通り学年トップだったね

そして今君は何処にいるんだろう
大学時代君はお母さんを亡くし
お葬式の際お母さんのブラウスを握りしめたまま
ずっと泣いていたという話を知人から聞いた時
私は胸がつぶれる思いがした
そして何処かへ行ってしまったって
何処にいるんだろう

死は不自然だ
自然だったら悲しむはずがない
まして殺されるなんて不条理だと
色々な本を読みあさって息巻いていたから
はあ、そもそも自然というのはどういうこったろうね
なんて返したら君は無表情になったので
ねえ、私のどこが好きなの?
調子を狂わせるタイミングで鎌をかけてしまった
は?
ポーカーフェイスにうっすらと朱が散った・・・
と思いたかったことを思い出した

君は常に何かに向かって斜に構えていたけれど
暗中模索しながらも、人生を大切にしている人に見えた
君は魚と昆虫が好きだった
人と喋るのも好きだった
サッカー部でサッカーが何より好きで
放課後誰よりも先にグランドに走っていった


今何処にいるのか知らないけれど
今日もちゃんとチョコ残しましたか
そういう単純なイミじゃないって?
私って浅いやつだね、でも残したでしょ?
君は人生をとても愛している風に見えたから
きっと


34 : 冬と畜生  月草原 '05/01/10 12:25:53

夢のなかの日射しは、どこまでもあつく
ぼくの影はみあたらない
ホカホカと湯気だつ石段を昇りつめると
みにくい狛犬が
落葉焼きの番をしていて
ドタぐつで もえた灰を踏みつぶそうとすると
さすが夢のなかの狛犬で
ばちあたりめっと吠えこんで
いまにも台座から かけだしてくる
冬のいりひ
うりこ雲がよこに這ひ
ぼくは畜生だった。

柿色に染色された
畜生のはだが地平にとろけ
どぶ河から海べりへとつづく
みちのりを おぼれながら
ぼくはあお向けになって
這ひあがろうとする
畜生の殿だった。
生ぬるいみずが
じょぼじょぼ
ぼくの背を
なめる
くそっ
たえられん
夢のなかだ
だれだいったい
どぶ板をはずす奴
ふやけたひと皮むけて
ぼくの頭を ひょいすと
またぎながら逝ってしまった。
畜生のはだが 地平にとろけ
ああぼくの影が ふっとうした泥にとける。

やけどする雪がまふ
冬のいりひ
海べりをゆさらゆさら
ぼくをさがしつづける きみのよこ顔
どぶ水をのみこんだといふ
きみの口元にぶらさがったひと皮を
畜生畜生 ひと皮むけば畜生だっ
と いつ叫ぶともしれない
ぼくのひと皮を 手にして
きみは耳にかざってくれるのだろうか...

夢のなかの日射しは いよいよあつく
柿色に染みた
ぼくの影
うろこ雲がよこに這ふ。


13 : 螺旋響  ETOILE '04/12/25 07:26:34  [Mail]







窓一つない部屋に
       ただ一つの檸檬
 夏      
夏が     溶       
 ゆっくりと け       
 っ   溶けて
 く   け いきますね
 り   て き   こ
 と   い ま   砂
 溶   き す   買
 け   ま ね   い
 て   す     に
 い   ね     行
 き         か 
 ま         な
 す         き
 ね         ゃ


極めて0 
   なのに 
   ずっと1
      だったのは 
          素敵な
窓一つない部屋に  敵 偶然でしたね
ただ一つの檸檬   な ぜ    こ
他には       ぐ ん    砂
何も        う で    買
見当たらない    ぜ し    い
          ん た    に
私は床に座り    で ね    行
ぼんやりと     し      か
檸檬を眺める    た      な
          ね      き
夏が               ゃ
ゆっくりと
溶けていく夕暮れ   
私は 一瞬 その陰を 見る


67 : 信頼(もしくは貞操帯に似たレインコート)  無明 絶無 '05/02/10 18:44:15

互いに互いの錠前に鍵をかける。
君と私を包み込む、互いのレインコートの。
上から下へ。一つ一つ。互いに交互に。
フードの下、隠された互いの顔。表情は見えない。
嘲りの笑みか、苦悶の歪みか、それとも。
安堵の微笑みか。隠された互いの顔、表情は見えない。

秘密を抱え込んで、或いはそのように見せかけて。
理解しようと、或いは理解させまいと。
私たちに必要なのは、新鮮な神秘、相互の誤解。
読み飽きた書物は捨てる。
聞き飽きた音楽は聞き流す。
私たちには互いをそのように扱うことができる。

信頼の名の下に。
互いに互いの錠前に鍵をかける。
私たちに必要なのは、新鮮な神秘、相互の誤解。
互いに互いの錠前に鍵をかける。
合鍵を右ポケットに隠し持ったまま。
上から下へ。一つ一つ。互いに交互に。

信頼の名の下に。


69 : 食卓  高村幸一 '05/02/10 22:38:32

六月の真昼が食卓に上る
俺は目をそらさずに
立ち上る湯気と
汗のにおい
そして
その中に若い私を見た
まだ哲学と詩の毒気にさらされていない
私の肉体は
清純であり透き通っており
まだ女を抱いたことない私の
魂は
静かに黙想していた

フォークとナイフを手に取り
私は器用に
若い私を分解していく
一つまた一つと肉という腐敗性を持った物質に変わり果てていく
若い私
真っ赤な血が滴り
彼は死んだ

彼が私の口の中で噛み砕かれていく
私の口の中は残酷と彼の死でいっぱいだ

六月の真昼がすべてを焦がしつくした


68 : 一滴(ひとしずく)  3G '05/02/10 19:27:29

手に掴もうとした途端
指の隙間から ぽたり
雫となって零れ落ちた

掴めるようにと固めたら
それはとても冷たくなる
冷たい想いは傷つくだけ
こんなものは欲しくない

ただ暖かい掌で包んで居たいだけなのに
暖かくなったあなたは私の指の隙間から
ぽたり 雫になって零れ落ちてしまった


64 : 遅刻  みつべえ '05/02/04 06:43:49  [Mail] [URL]

もう 
だきあったまま
くさってしまおう

永遠が おわるまでなんて
まてやしない

うしろから
おしひらくと
ひみつがあふれでて

なみだ
月のかけらみたいに
ひかり

なまみの あのひとの
遺品に ほおずりして

ぬきさしならない
ゆびきりのこと
おもいだしては

ずっと遅刻している


70 : 疾患  みつべえ '05/02/11 04:47:10  [Mail] [URL]

いっしょにいられる時間も
もう わずかだから
あこがれのように
愛していると 
なにか残酷なもの
さぐりあて
なみだ ながす
きみの
夜をかけて
ひっそりと根をはった
疾患に
ふれることさえ できれば
永遠なんかいらない
かけがえのない しかし
無力な言葉ばかり
ついやして
ぼくは だんだん薄くなる


71 : 思風祈唄  那賀在祈 '05/02/14 11:45:19

私が祈ったあの風は
今ではきっとちりぢりで
望んだ思いは
日に照らされ上昇し
だれかの心がそれを捉えているはず
海向こうに届いたはずのその思いは
家の中の人の目には触れていない様子

尊厳という言葉の真意なぞ
思想哲学の中には含まれず
あっても思いやりという言葉の中にはないのだろう
守る真意も風の中に消えるだけなのか

悲しい風に吹かれて
冷ややかな苦笑の中でも
僕は僕の在るべき道しか生きられず
大きな事に手を出す事も
小さな日常を守るのに精一杯

本当に取り戻さなければならない思いは
常に要求されているのに
馬耳東風でやがて消えて
思い出しても二番煎じのたわ言になってる

願いは風に吹かれてしまうから
そっと言葉を乗せてみる
いくら思いを歌っても
風が唄うは一番古い記憶の子守り唄


45 : 夢の終わりと世界の始まり(あるいはその逆)  ケムリ '05/01/20 04:12:41

閉鎖された夢がカオスから首をもたげている
僕は眠る 三億年前の泥土みたいに眠る
僕は潜行する 堆積の底 降り積もるマリンスノーの夢
僕は穿孔する 意識の核 僕の僕たる僕ではない部分へ

時々思う 世界は限定された無限の集合体ではないかと
僕は便宜的に あくまで便宜的に この世界を割っていく
どこまでも果ての無い細分化 ミニアチュールのなかへ沈む
あらゆる矛盾がいとみみず的に 柔らかな熱を放つその場所へ

その場所へ向かうには 僕は僕を細切れに 存在の一端までほぐさなければいけない
つうと あくまで静かに それでいて確実に
降り積もる雪を感じるように 僕は沈む
原初に溶け合う命の粒のように

思考は言葉から離れていく 言い知れない寂寥
閉鎖された夢から触手が伸びてくる 柔らかく暖かな蹂躙
眼裏で夜光虫を感じる 僕は夢との接合を始める
闇のひだが気まぐれに 優しく口を開ける

光る水を掬う その底では目の無い魚が泳いでいる
僕は悲しくなる たまらなく悲しくなる
世界の終わりが始まる前に 僕はここと一つにならなければならない
そう思った時に混濁が始まる 僕の時間が消えていく

僕は深い洞穴に飛び込む 柔らかく暖かい闇のひだへ逃げ込む
目の無い魚が泳いでいる それは空間さえ泳いでいく
闇のひだは蠕動する 夢は僕を認めない
夢が崩れ始める 僕を世界へ押し出そうとする

僕は泣く 離れたくなんかなかったんだ
僕は泣き喚く 僕はここにいたかった
僕は泣き叫ぶ 世界は冷たく嫌な匂いがする
僕は泣く 悲しいよ 悲しいよ 悲しいよ 悲しいよ

悲しいのかな 悲しいね 悲しいよ
僕は対話する そして泣き喚く
寂しいのかな 寂しいね 寂しいよ
僕は 僕とすら 共に 在れない

あこや貝の中で眠っていたかったのだ
僕は僕でなんてありたくなかった 不完全で 曖昧で 許しがたい
柔らかに包む粘液の中で あらゆるものがあり 何もないところで
僕は眠り続けたかった 祝福などいらなかった

瞳から夜光虫が 瞼を引き裂いて飛び立っていく
親密な闇は姿を消す そしてきしむ音がする
夢と世界は繋がりを無くし 孤独が形を持ち始める
僕は切り離される 致命的に 清冽な痛みとともに

そして僕は少し泣く ほんの少しだけ泣く 
置き去って来たもののために泣く


75 : 秘密  3G '05/02/17 20:36:57


誰にも知られたくない
誰にも見られたくない
誰にも聞かれたくない
そんな秘密を抱えて逃げている

足を止めて息もせず目を閉じた
音だけが鮮やかに身体を包み込んだ

どこ行くの?
答えられずにうつむいた
なにがしたい?
なにも言えずに首を振った
これが欲しいの?
欲しくないよと強がった

全部嘘
行きたい所もある
やりたいこともある
欲しいものもある

だけれども
誰にも言えないまま
殻に全部を閉じ込めた
真っ暗闇が残っている


でも
誰かに聞いて欲しいんだ
そんな風に思いながら
ずっと
秘密を抱えている


76 : 角  丘 光平 '05/02/18 01:15:14


やはり見てはならなかったと

それが 掟だとでもいうのですか


わたくしは 人間を辞め

あっさりと辞め

するとどうだろう

喉がごろごろとうなり始め

わたくしを突き破る なにものか


角が生え

むきだしの角が生え

肉汁まみれた角が生え

わたくしをまるごと突き破る なにゆえか


角が生え ぐんぐんと生え

わたくしの鮮明な裏側から

角が生え ぐんぐんと生え

きららと肉汁まみれた角が冴え


やはり見てはならなかったと

それが 掟だとでもいうのですか


わたくしは ごろろとうなりながら

ヘラクレスの硬い大地にかつがれたまま

わたくしめがけて落ちてくるこの大空へ

人間最後の記念碑を突き上げ


わたくしの鮮明な裏側から

角が生え 

ぐんぐんと角が生え

きららと肉汁まみれた角が冴え


さあ 突き破れ 

もっと高く突き破れ


人間最後の記念碑を突き上げ

真新しい朝になれ

寸分残さず 力尽きた朝となれ


81 : 十戒  小林優二 '05/02/21 09:17:06  [Mail]

信ずべきものは 声
閉ざされた朝の硬直した磁針の先に
世界と情念とを失ってゆく夢の 声
そして 庭の木立の記憶する始原の物語

愛すべきものは 風
自然の昂りと告白と
人の魅力と悲しみとを積み込んだ
ひとの中にきらめく種子を注ぎ込む風

見るべきものは 影
渕へといざなう森から 躍り出る輪郭
幾多の宮殿へと通ずるうずもれた暗渠
そして 螺鈿へと収束してゆく淡き幻化

聴くべきものは 鐘
人生の秘境を若やかな鏡に映すとき
また聳える城郭を知性がとらえたときに
刻を告げる高く厳かな号火

語るべきものは 根
勝ち取られた明星の背後に漂う 幽かな星雲
また把捉することも形容することもできない
邪なもの清きもの 透明なものの出ずる霊廟

         *

砕くべきものは 氷
断続する他者の侵入を防ぐには厚過ぎる氷壁
夜を呼び乾きを呼ぶ 豊かな黒土を隠す氷床
また悪意と憎しみとを固めて辿り着いた氷球

注ぐべきものは 泪
絶えず形を喪いながら 時を傾いてゆく露華
遠い地平から喚び起こされた感傷のみぎわで
流線の交わりから人知れず抽出される甘き水

掲ぐべきものは 花
蠕動する闇が光と状貌とを奪うとき
人を照らし また淵にやさしく触れるもの
戦いの苦しみのしるしとして勝利を象るもの

運ぶべきものは 絵
言の葉にも載らず 旋律にも乗らないので
瞳を通じてキャンバスへと焼き付けられた画
人に最も近くそして深い 真鍮製のコニーデ

摂るべきものは 型
昼の使者が浅く深く刻み込む 微分された夜
詩と歌と哲学とを組み立てる 滑動する小品
そして 私だったりあなただったりするもの


85 : ふっとう  一条 '05/02/22 13:14:35  [Mail]

音が水にひたされている
どこからながれてきた水なのか
こんなところであぶくのはれつにすいこまれてしまった
こんなところでてのひらにすくわれてしまった
だれのてのひらにすくわれたのか
すくわれたぼくはだれなのか
しょうたいのわからない
水がながれ
音がきえ
てのひらのすくうぼくがきえた
冬のしっぽが
春らしく
ちぎれながら
そのすべてがあっけなくうもれてしまった音にすべてのあっけなさにあぶくがたった
つぎのあぶくがたった
ふっとうですかと声がきこえる
どうにもならなかったぼくがふっとうをこばみつづけるどうにもならなかったぼくを
ふっとうさせるのですかと
そういう音が水にひたされている


72 : ダンボール二十五箱分  佐藤yuupopic '05/02/14 23:31:54  [Mail] [URL]

厚手のシャツやレコード盤と、共に
折りたたんでしまわれていく
日々

昭和アパート、の二階
肉屋のコロッケ
常食
窓から覗く黒い川
昼なお暗い
俺の部屋

考えるな
ガムテープ三十センチ余りで
びーッ、
と閉じてしまえ
全部。


掃除機をかけるたび現れる
ぎくり、と刺す
亡霊
(ちぐはぐな、ピアス)

(ゆるんだ、アメリカピン)

(甘く、香る瓶)

(髪のように長い、もの)
お前たちはもう死んだ、
いらない

潰れた店の跡 更地、元の光景はおぼろ、記憶の曖昧
流れて寄せて
俺の事実も
波が引く如く消えて往くだろう、
半月もすれば


この町が
俺を忘れ去る前に
爪跡ひとつ残さず
消えてやるのだ

最後に鍵をかちり、
と云わせたら
さらば、
汽笛上げる間もなく
出て往くつもりだ

たったダンボール二十五箱分の
俺は。


73 : 天使  Nizzzy '05/02/15 15:53:21  [Mail] [URL]

私の中の、双子が歩き出す
 雨の中を、寄り添いあって

傘もささず、片翼の天使の

冷たいまま重なりあうよ
 左手と、右手が
生まれ変わる前の、不死鳥のように

 不器用に、羽根を落としながら

水平に降り立った
 その、あらゆる重力
ある、という世界に

 色褪せていく、足音と

雨の中を、寄り添いあって
 私の中の、双子が歩き出す
傘もささず、木立ちの間を

 その翼を常に、引きずりながら

やがて流されるだろう鮮血は
 彼方に濡れて、琥珀に変わる

取り残されて、世界に満ちていく


74 : Pointe (ポアント;つま先で)  Canopus(かの寿星) '05/02/16 21:15:41  [Mail]


ぼくの知らない光
ぼくの知らない舞台
ぼくの知らない地平

君は舞台の袖で出番を待つ
淡い照明が
ツンと顎をあげた横顔を浮かべる
新しくおろしたシフォンのチュチュ
柔らかな菫色のトゥ・シューズ
小さな希望に膨らみかけた胸 覚えたてのパ
君は舞台の袖からまぶしくプリマを見つめる
アダジオからアレグロへ そしてパ・ド・ドゥ
速度を増していくピルエット
アラベスク・パンシェ グラン・ジュッテ
君の 外側を向いた指先とつま先が小刻みに震える

君の知らない闇
君の知らない北風
君の知らない茨の荒地
いや 本当は
ぼくもまだ知らない

コオル・ド・バレエにも
ぼくは君だけに視線を送るだろう
君の指先からつま先から こぼれ落ちる光の曲線を
ぼくは喜んで仮面の男になって
すべて飲み干そうとするだろう

プリマの賞賛に鳴りやまぬ拍手のなかを
君は両腕をあげ つま先をたてて
群衆の一人として旅立っていく
ぼくの知らない舞台 ぼくの知らない地平へ


86 : 夢幻の風景  成澤 和樹 '05/02/22 22:45:31  [URL]

地面を打つ雨の音

ぽつぽつと ぽつぽつと

惜しむように奏でられる水上の音楽

とつとつと とつとつと

長雨の予感 ほわんと浮かび去る吐息
硝子の向こう まどかに映える懐かしい憧憬

ぽつぽつと ぽつぽつと とつとつと とつとつと

ぽつぽつと とつとつと

ぽつとつと

いつしか聴こえない雨音
水たまりを飛び越えて遊ぶ少女
未来を掲げた紅葉色の笑顔

ぽつぽつと

打たれたように 瞬きも出来ず 
水の調べに触れる新しい旋律

弄んだ夢幻の風景

終わりの一滴と弾けて消えた


83 : 自由をめぐる空想(第四稿)  ワタナベ '05/02/21 22:52:40


正直、高校を卒業した時の成績はよくなかった
偏差値にして40前後
空を飛ぶ試験にうかるには絶望的な数字

なにしろそのころ
空を飛ぶための試験を通過するには
偏差値にして60くらいの成績が必要だった
そこそこの数字だ 今と変わらず倍率も高い 当然か

当時、楽観主義者だった僕はあたって砕けろで試験を受けて
見事粉砕して1年間勉強をしなおすことになったわけだ
もっとも楽観主義者なのは今も変わらないけれど

高校のころうんざりするほどやった基礎公式
(50kgの人間が30cm空中に浮くのに位置エネルギーがどうとか)
こむずかしい理論
(気候と飛行の関係)(酸素濃度の変化が人体に及ぼす影響)
などなどひととおり勉強した

おもえば
あの1年間は僕の人生の中で一番熱心に勉強した期間だったようにおもう
子供のころから空を飛ぶことに対するあこがれは人一倍もっていたし
飛べないよりは飛べるほうがいい、と単純に信じていたし

その甲斐あってなんとか試験には無事合格し
今では天気がよくて風レベルが3くらいまでの日だったらもんだいなく飛べる

たとえば今日のような日は格好の飛行日和だ
そろそろバイトの時間
僕は肩から鞄をさげて
玄関からふわりと飛びたつ


ある日、空があまりにもきれいだったのでふらふらと空中散歩していたら
向かいのラーメン屋(ほっとい亭)の主人が
やはりふらふらと空中散歩しているのを見かけた
ほっとい亭の主人は典型的な職人肌の人で声のでかい、豪快な人だ
空の飛び方もいくぶん乱暴で 
買い物帰りの奥さんと空中衝突しそうになってはしょっちゅうけんかをしている

ほっとい亭の主人は空を飛ぶ試験を受けていないという
そのことを聞いたら主人は
「兄ちゃん、空を飛ぶのに学なんていらねぇ
こころってやつが自由だったらからだも自由だろ?
ま、頭が軽いからそのぶん飛びやすいってのもあるかもしんねーけどよ
がっはっは!」
なんて言って笑っていた とんでもない人だ
でも僕はそんな主人がなんとなくうらやましかった

「こんにちは きれいな夕日ですねぇ」
と声をかけたら 
「おお 兄ちゃんか でっけぇ夕日だなぁ」
といつもの調子でかえしてきたので
二人ならんでふわふわしながら
地上で見るよりずっと近い夕日をうっとりとながめていた


夜はたまに夜景を見にゆく
しずかにしずかに夜空をただよう
星空が近い
まぁこのなんともいえない恍惚とした気分は
空を飛べる人ならだれにでもわかることだから
想像におまかせするとしよう

でも
空を飛べない人はこんなすばらしい気分を味わえないのだから
かわいそうだな
なんてちょっとおもったりもする


僕は彼女が空を飛んでいるところを見たことがない
彼女はいつもりんと胸をはって歩いている
「飛ばない」のか「飛べない」のか
でも単純なぼくは
飛べるのに「飛ばない」はずはないと勝手におもいこんでて
きっと彼女は飛べないのだろうとおもっていた

そんな僕が彼女と知り合ったのはつい最近のことで
僕が「君は飛べないの?」と聞いたら
彼女はまぶしそうに空を見上げながら
「さぁ どうかしら?
空から見たら歩いている私はとても不自由そうに見えるかもしれないけれど
わたしはいつも自由にこの空を飛んでいるのよ」と答えた

僕は彼女がなにを言っていたかいまいちよくわからなかったけれど
そんな彼女がとてもきれいに見えたので
最近はいつも空から彼女が歩いているのをぼーっとながめては
くるりくるりと宙返りをする


66 : ファインレイン  軽谷佑子 '05/02/10 11:20:46

友だちのサンダルは規則ただしく坂をくだっていって落葉の
温もりがそのうえに降り積っていってわたしは
胸をしめつけられる
のでした


彼女はうつくしくとてもわかい
朝にはあかるさが満ちている

(あかるいのは光が射しているからだ
風景を組成するこまかなもののすきまというすきま)


落葉は幾層も幾層も坂に降り積っていって冬が
終われば消えてなくなりますがほんとうは
ずっとずっと降り続けていていつかわたしたちは
頭まで落葉にうずもれる
のです


(彼女を組成する光のすきまというすきま)

つまさきまでびっしょりと濡れて
門脇に立つ朝の
湿り


友だちのあとをついて歩くわたしの運動靴は
なんの躊躇もなく落葉を踏みつけていって
彼女は眉をひそめわたしはかなしいかおをつくり
彼女のほうをじっと見つめる
のです


89 : 雑踏風景  3G '05/02/24 21:04:49

人波が忙しく(せわしく)動き始めても
覚醒すらせず怠惰に身を任せ
何時しか溶けた午前を知る
際限無い時間に追い遣られ
時間の粒だけを消費する行為
零れ落ちた午後を掻き集められずに
過ぎゆく時間に追い付けない
始まりと終わりの区別も分からない
廻り続ける世界は区切りがない
気付けば通り過ぎていく夕暮
溢れる雑踏を希薄に溶かし込む
誰もが気付かず飲み込まれ
変わらない夜は無遠慮に訪れる
気付けば朝が来ることを忘れていた


77 : 水の生家  みつべえ '05/02/18 08:27:28  [Mail] [URL]

水の背に、唐突にあらわれる
偏平な、ひしゃげた、かなしみの魚
ときどき焼いて食べたらおいしい
ふるさとの
海藻にくるまれ、沈んでいる
食卓とその周辺
会いに行ったらうれしい
父のしゃれこうべの眼窩に
指、突っ込んで遊ぼ
その隣で狂いかけた妹をあやしている
母の、こわれた肩を
たたいて、たたいて
水の足にまとわりつく、ねばねばしたもの
納豆と味噌汁に花が咲いたね
へっ、なんだって、ちがう場所にいるのに
気がとおくなるんだ
一家団欒!
このごろ降りていく距離を
まちがえてしまうのは、見えない生家も
水勢に押されて、その位置を
少しずつ変えているせいなんだ


78 : 残るは無為  stiGma '05/02/18 10:17:33



世界から大量の語彙が消えていく夏
大統領は演説の中で
神よ
とか
神のために
を連発
哄笑の中で
わかりやすさから支持率大幅アップ


君と会う前に
僕は髪を切った
僕の父は美容師です
カットされて語彙
店の名前に洒脱が無くなった
カットされて髪
君の君による君のための僕になって街


愛を囁けと珈琲を飲む場にて
君は悪趣味だ
この類の女を何と呼ぶのか
語彙が浮かばない
仕方なくしどろもどろに
というか感じで好きなおれはおれが
母に君が痴情似ているから情報社会だよ
出会ってぶたれて嫉まれて基本的には
ここらでそうだリコンストラクション戻ろ
まだこんなスト労組ストッキング破るストレス大前提が
その耳たぶ熱っこぼれている珈琲覆水盆に
あっどこに空が君に君はドア近く逝くのだいもう
語彙が減れば実は素直になれると判明してミルク


無為とはなんだ
暇になって本屋で開く辞書に残った数少ないことば
父は健在で
神も健在で
辞書の頁には僕の髪が抜け落ちていく
仰天して青天の下駆け出して喉が激しく渇く
喉掻き毟って乳を強く求める
無為とは一体なんなんだ
アスファルトの上の名前の思い出せない現象のなかに
名前の思い出せない女の見覚えのあるワンピースが見える
僕は決して親の七光りで当選などしていないし
母はなんの言葉も吐かずに家を出て行った
母が語彙不足だったわけではなく無為無臭のワンピース
ああそうかやっとわかったぞ
母が父で 僕がずっと憎んでいたのは乳だったのか


82 : バード  光冨郁也 '05/02/21 19:17:17 *1  [Mail] [URL]

 一人でいることに、何年も飽きなかった。シートの、海に伝わる神話を読みながら、永く暇をつぶしていた。精霊の女、の横顔の表紙。空腹の中、海に向かう道、カセットで、オペラを聴きながら、わたしは車を走らせた。食事をとる場所を探す。風が、目に当たる。細める/道の脇/女の顔が転がる。ブレーキを踏む/ハンドルを横に切る。
 女の顔は白い。軋むかのような声で、鳴いている。翼を抱えて、鳥の体の女はわたしの目を見て、鳴く。光る目が、心に残る。ドアを開け/風が流れ込み/鳴く。それに近寄る。歯が白いが、鋭く、わたしのほうに転がる。わたしは屈み、抱きかかえる。
 シートで、女の顔を押さえる。鳥の体は羽毛が柔らかい。片方の翼を痛め曲げている。
「ハーピーか」と、わたしの声に女は鳴く。
 それは、ひとの食事を邪魔するだけの存在だが、わたしは後ろのシートから、乾いたパンを出し、カップの牛乳に浸し、与える。女は笑うような目で、わたしを見上げる。わたしの股の上で、喉を動かす。次第に、激しく、水分をふくんだパンを、くらう。髪は赤茶で、ウェーブがかかる、その線にわたしは触れる。女の体は重い。

 わたしは、女と車を走らせる。風が、女を喜ばせる。笑い声がする。ただ走っているだけなのに、うれしいらしい。海が眼下に広がる。崖/ブレーキ踏む。ハンドルを静かに回す。鍵のアクセサリーの翼を、女は唇でつつく。わたしを見ては、何か言いたげに、ねえねえ、と目で話す。
 どうすれば、この時間を延ばせるか、わたしは、女の頬に指をあて、撫で続ける。
 雨でも降るのか、窓からの風は湿り、辺りは薄暗い。無言の時間が過ぎる。サーチライトをつける。舗装された道が続く。何年かぶりに女と話したくなる、が言葉はない。車内の沈黙に、ラジオをつける。
 DJの声はなく、歌声がある。
 ラジオに、女は聴き入る。女の横顔は、本の表紙の精霊に似ている。首を伸ばし、翼を拡げる。目が青く、海を思わせる。その深み、に触れたくなる。
 女は歌う。白い喉が震えている。その声は、わたしを眠りに誘う。ひとに死をもたらす、セイレーン、であるかもしれない。
 向こうから、ひとをおそう、女の仲間が来る、前に、わたしは、ラジオのボリュームを上げる。アクセルを踏む。女を窓から放り捨てるべきか迷う。片手で女の口をふさぐ。女が指にかみつく前に、わたしの体は眠りに傾く。

(死ぬな、これは)
 ハンドルを切り損ね/道の脇/落下する。

 女はそこにいた。シートに、挟まれ身動きできない、わたしの胸の上でうずくまり、頭をこすりつける。頬と頬がすれあう。女は鳴いた。わたしは夜の曇った空に、女の仲間が来ていないことを知り、はぐれた者同士、そのままの姿勢で、朝まで眠ることにした。携帯電話、を持たないわたしは、誰にも連絡をとれない。遠く、で波の音だけがする。キーを回す、がエンジンは動かない。キーの、折れ曲がった銀の翼が揺れる。本を台にして、コップに水を注ぐ、暗がりの中で。二人だけの沈黙に、女はむせぶ。

 女の目は濡れている。その縁を指で、たどり、こもるような声をかける。寒い暗がりの中で、わたしと女は互いの体温だけを頼る。片方の翼を、わたしは撫で続ける。
 女は笑うように、目をつむる。


88 : 虫の夢  神谷めぐみ '05/02/24 03:38:44  [Mail] [URL]

 荷馬車が影の中を行く。私はその音を聞いて目覚めたが、眠っているふりをしていた。風で部屋の銅鈴が、鳴らされている。
 荷馬車が行ってしまった。もう音が聞こえない。
 この時刻は午睡時と言われてほとんどの民衆は活動せずに休息している。午後が溜まった暑い時間だ。
 私の、長い、長い、撫でられるために伸ばした黒い髪が枕をこえてはるかに広がっている。目をつぶったまま撫でてみる。体温より冷えたそれを、指で何度もなぞる。目を閉じる。
 開けた瞳の上に、風の空気をたくさん抱えた部屋の天上があった。それを真下から垂直に見ている。それと、部屋のものの気配。植物と花の気配。あれは百合だったか。それとも龍舌蘭だったか。植わっていた、その花弁に留まる天道虫がいた。真っ赤なつやの強い甲殻にかわいい黒い足をつけていた。細やかな動きに指を出すと、一瞬躊躇してすぐ私の指にのぼった。触れていることを感じようとしなければ感じられない虫の動きを感じようとしている。部屋の中に私だけがいて、風を孕んだ部屋のなかに銅鈴みっつの音が渡っている。隣家の窓辺でギタールを弾きながら歌う声も渡ってくる。この空気の濃さだと、こんなに陽が盛っていても黒雲が雨にしてしまうかもしれない。指先の天道虫を顔に近づけて、唇を寄せると虫が逃げようと飛び立った。その先に窓が開いている。太陽光がたっぷりつまっている午後の町が開けている。私が花の陰で口を半開きにして立ち尽くす。一点の虫が去っていった。
 熱風のなかでがらごろ、がらごろ、銅鈴は鳴り止まない。ギタールが民謡をうたっているのもやまない。
 また、寝台の上にいた。花壜は卓上で花をそよがせている。目の前を通る風は熱の匂いがする。本当に雨が降るかもしれないが、私はまだ起きあがろうとしない。


- ealis -