◇ No.295 , '11/11/05 18:19:55 作成

5633 : 十月  ズー '11/10/22 12:52:59  [Mail]



胸のなかで朝がつめたく、一番に鳴く鶏は、庭でブイのように漂っている、モリで、ブイをつけ狙うこどもは沖に流されていく、家の子が漂流している間は、鶏肉を食べながら過ごした縁側に寝床を移し、鶏とこどもが浮かんでいる庭の波音を聞いていた。雨の心配をする母親と縁側に、横になり、てるてる坊主をつくったり、波打際を遊んだ足を絡ませたり、砂浜がなくなっていくことを悲しんだり、満潮になるまで、庭を眺めていた。胸のなかで雪が降る、と書けば、雪も積もったのだろうが、十月の終り、ずいぶん前から砂浜の寝床は雑草に侵されていて、妻と見ていた庭も荒波の茂る冬のはじまりが海面に浮かび上がり、蝶々だった鴎が泡立つ枯れ草のすれすれを飛んでいた。沖のブイが鳴いている、と思っていたが、こどものふやけた手に握られたモリが、わたしの布団に潜り込んできて、太股にふれていた。縁側の寝床は眠りから遠く、鶏肉を食べながら過ごした砂浜は、もう、ない。心配だった雨の降る庭の、一切を見守っている、鶏が朝に鳴く。

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5583 : たぶん、最後の、抒情   '11/10/03 00:09:49  [URL]



今日をたくさん失いまして、
人を通り過ぎる人達の背骨を、捩じって
折ってしまいそうな、
それでも祈ってしまいそうな今日はまだ、終わらない
(一粒の苺に装飾過多、一粒の苺に今日はまだ)

 桃の姫、それ自体、それは無い
 溶岩の中にどろどろになる彼自体、それは無い
 岩石に押しつぶされてペラペラになる彼自体
 箪笥の足元に血だらけ膨れあがっている彼自体は

記憶は、記憶の中に、記憶となる。
(この見せかけの、同語反復を越えることは無いんだ、赤い配管工)
 
宙に浮いて、空は宙に浮いて、
暗闇を見据える、お前の眼球の転がりは、途絶えて、
もう二度と、お前の眼差しが、突き刺さることは無い
夜明けに、お前の記憶の中にも、俺は記憶となる、だろう

  赤い世界に枯れ葉の落ちる、落ちる腐り落ちる
  嘆きのキスを虚空に吐き出し、季節に抱かれに
  埋める埋、め続ける腐り落ちる記憶はうずめる
  その中で佇むお前は
  白い肌と白い更紗の区別のつかない白い、白い陰影、
  (苺を頬張る、真っ赤な滴りが、お前を装飾する)
  青白い頭にもハート型の枯れ葉の嘔吐(はらって、おとして、)
  お前は心臓を吐瀉する
  お前は消化器官をまとめて吐瀉する
  記憶は記憶をうずめる

  だが枯れ葉自体、それは、無い

  お前の目玉も腐り落ちるといい
  ぼとり、ぼとりと、血飛沫は燃える大地に抱かれて、そして、一粒に、
  俺はお前の、スカートの裾が血で汚れてしまわないためだけに
  お前の手を握ることができるだろう、
  して、お前の手自体、それは無いんだ、
  白い、ただ白い陰影で
  お前は吐く、
  白は、真っ赤に白を、吐く

  季節は、季節を、うずめる
  この枯れ葉それ自体、
   この紅に燃える瞬間に、きざす

 「
 振り返ることなど知らなかったあの頃には、無限の残機の中で
 通り過ぎていく風景の数々は反復の茫然自失の中に滅びました、
 赤いものがあったっけ、苺か、わからない、
 ところで、この科白それ自体、それは科白それ自体は科白という科白それ自体は

  お前の、その腕、それ自体、それは無い
  お前の、瞳の中で俺は、それ自体無い
  昨日愛したストロベリーアイスクリームを舐め尽くす、
  お前のコーン、それ自体、それ自体も

昨日をたくさん失ってきました
(その茫然自失の中で滲んでいるのは血か?)
私はベッドの中で
鎖骨を弄くりながら
 瞼など無いのではないか?お前はお前の中にお前を閉ざすのか?

  枯れ葉は、通り過ぎる季節をうずめる、
   人を通り過ぎる人々は、紅に燃える
   そのためだけのキスに、萌す。

  お前の目玉が零れおちればいい
  二度と、その瞬きが世界を凍らせてしまわないよう、
  俺はお前と共に、あのアメリカフウの木陰に立って、
  俺はたくさんお前を失ってきた

季節は、季節の中に、季節となる。

  その瞬きが眠りの中で焔を使い果たしてしまわぬよう、
  お前の目玉が零れおちてしまえばいい、
   (なんて綾な声で鳴くんだ、なんてお前は
    お前を眠らすなら、永遠だ、息を、奪ってやる、
    視線それ自体、予め、無かったかのように、
     お前の悲痛なフィオレンツェ、括弧の中でさえお前の声は高すぎる、
     それでも萌せ、それでも苦痛を歌え、血塗れのアレアを、
     お前がその視線で刻みとった世界の肉片を、うたえ)
  
  宙に浮かんだ苺の一粒を
  喰らって、お前はみるみる赤く、
  赤くなって、
  日記に、手帳に、カレンダーに、刻まれる、

昼夜の区別なくして
季節は、がりがりとお前を削り出す、そして
テトリス式に消え去る
ノートに書き連ねられた、古びた感傷みたいに、
日捲りカレンダーのように
苺は、滅びる

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5619 : クチナシ  ロボット '11/10/18 12:00:14

薄暗い湖の向こう側
黒い影の行列が林の間を抜けていく
彼らは押し込められたように
一様に無言で
地面を踏みしめる音ばかりが耳についた
それは自分が生きていることを確かめたがっているようでもあり
地団太を踏んでいるようでもあった
 ああ また行くのか
見送りながら思った
同時に
何とかして引き留めてやりたい
そんな衝動が湧くのを感じた
行列の前に立ちふさがる自分を想像した

けれども
彼らを説得し思い留まらせる何の言葉も
自分の中に持ち合わせてはいなかった

「ちっぽけな英雄願望だこと」
横にいた女が言った
嘲笑っているのだ
何か言い返そうとしたが
咄嗟に言葉を飲み込んだ
なぜだか
かつてこの女に非常に申し訳ないことをしたような
素直に嘲笑されることで
少しでもその代価を払わなくてはいけないような
そんな気がしたのだ

体中の水分が重くなるのを感じた
足先が重力に引っ張られ
首がぐらついた

パン屋の横の路地に入った
裏口についた三段ばかりの階段に
老人が腰かけ
杖に両手をのせて休んでいた
その視線は虚空を見つめ
思索に倦み疲れた哲学者のような
濁った眼をしていた
その傍では女の子が
聞いたことのない子守唄を歌って
背中におぶった人形をあやしている

無性にのどが渇いた
体はますます重力に引きずられていく
風が子守唄と一緒に乾いた音であたりを満たした

「あの子のお父さんも いってしまったそうよ」
横の女がまた言った
女の子の父親もさっきの影の行列の中にいたことを言っているのだった
影の行列の足音が耳の奥で蘇った
女の子の歌う子守歌が
急に小さな虫のように
体中に纏わりつき
渇いた体を蝕むようだった
やたらと首が重かった

「声 かけてごらんなさいな」
遠くで女の声がした
突き放すような言い方だった
見ると女は前を向いたまま薄笑いを浮かべている
挑発しているのだ
できっこないと高をくくっているのだ
怒りがこみ上げた
渇きと重力で拡散していた意識が
一点に集まり
体中くまなく巡って
語りかけるたった一言を探した

けれども
やはり彼らを慰める何の言葉も
自分の中に持ち合わせてはいなかった

「ふふん」
女が鼻でわらった
「帰りましょう かたなし詩人のクチナシさん 綺麗に花瓶に飾ってあげるわ」
そう言うと
女は初めてこちらに顔を向けた

泣いているのだった

クチナシの白い花束を抱えた女は
白痴のパン屋見習いが
また怒鳴られているのを背中で聞きながら
ひとり
路地の奥の我が家へと歩いていった

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5628 : Detritus  yuko '11/10/21 14:33:28 *1  [Mail]

帰り道を失くした
舳先が
おびき出される
夕暮れに
糖蜜色に光る髪
ひとさじの嘘を垂らして
とろとろと
煮詰められた瞼

擦り切れた文字を
めくる指先
かつて、
翼のない鳥たちが
打ち上げられた浜辺を
洗いあげるために
花は捨てられる

足首に
浮かび上がる痣の
かたちを
地図と呼んで
折りたたまれた襞の
ひとつひとつを
ほどいては
やわらかなたましいの
所在を探した

韻を踏み
しだく足元に
揺れたくさり
沈められた心臓を
覗きこむ
舟上で
喉元を引っ掻いていく
やさしい風に
胸がすく

水面に
閉じ込められたひかりで、
反射された夜、
岩上から
飛び去った白い鳥たちの
長い長い尾羽が
波間に消えていく、
紅い花弁の
ひとひらひとひらを
数えては千切って、
折り重なった
死骸が
海岸線を滅ぼしていく


波打ち際を
歩いていく影を
踏んだ
なにもかもを愛したかった
海底に沈む
錨の夢
死んだ秘密を孕んで
涙の
透明度が失われていく

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5620 : 首都浮遊者  不空羂索観音 '11/10/18 21:16:54 *2

黒いマスカラが滴り落ちる 誰も僕を知らない電車内
文庫本を見詰める生きもの
くさい
暑い
肉体らに囲まれて シートにちぢこまる
ハゲ デブ 落書き顔のお化け
ガキ 阿呆 いじりたい生きもの
転ぶと死ぬものたち

ヘッドホンをして
言葉なんて 無い

向かいのシート 彼女は 俯いていた 
背中を飾る窓ガラスは蛍光灯を反射し 黒い樹脂のよう
細い首元は白蝋のよう 静脈の蒼さが透けて浮かぶ

幼さの残りを隠す化粧は 大切なものを壊す為
そうだろう?
ちいさなTシャツで威圧している
泣いていた
しゃくりあげて嗚咽している 床に涙の滴がぽつぽつ落ちる

酒臭い乗客が呆けてぶら下がる
吊り革は集団絞首刑のモニュメントか
変拍子のリズムが車両を突き上げる
横に振られる奇妙なダンス

車窓の暗闇に姿を映し 行列で入って来る群れ
広告を見詰め
文庫本を見詰める生きもの
爆発茶髪原始人類 ハゲ デブ 落書き顔 ガキ 阿呆 いじりたい
転ぶと 死ぬ

見ず知らずの君を 素敵な君を愛してしまいそうだ
生きているのは この世界で僕たちだけ
手を取りあって 列車内から逃げ出そう

向かいの窓ガラスの黒い面影
表情の無い 僕が映っていた

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5634 : ライナス  ケムリ '11/10/22 12:57:08

さようなら、ライナス。真実という言葉を躊躇うことなく使う君のみぶりで、大陸が離れることをやめる。病めるときも健やかなる時も、ライナス、幣の舞い散る道を歩いていく、言葉を交わすことだけが、河口へ向かって流れていく。ライナス、かつて入植者たちはこの道を歩いて来た、そしてこの道を去っていった、シェペの群れが遡上するほとりで、ライナス、君は新しい世界を夢想する。語ることをやめた君の口元に、口琴を一つ届けよう、上下する音階の果てで、ライナス、君は両手を広げて、あとはただ家族の形になる。

音階が、均衡する。
両手を左右の耳に当てて、君が走り去っていった方向について
誰も知らない、誰も知るべきではない
雪の日がみっつ続いて
塩漬けのぜんまいがそこを尽く
黒ずんだふきを水で煮る
シラカンバの樹脂が
炎の中ではじける
ライナス、世界はおよそ
そのように始まった

ライナス、土地の語源について語る君の、そのへこんだ頬に、美しい水という意味を湛えた君の生まれ故郷に、絶え間ない地吹雪の中を歩いていくときの、あの真っ直ぐなまなざしに、雪だまりを蹴飛ばして、さくらんぼを一つ口にいれたような、君の不明瞭なイントネーションと、雪がふりつもる、君の生まれ故郷に、魚たちは、きみたちは、晩秋が過ぎればオーガズムも収束へ向かうだろう、語られたすべてが雪に吹き閉ざされる、ライナス、君たちの土地はいつか、降りしきる言葉に埋もれて、暖かなホームで、かつて語られたその場所で、ライナス、君は家族の形を繰り返して。

ある場所まで落下した音階が
急速に高度を上げるような
行き止まりになって君は
新しい神話を思い出す
それは君が生まれた土地とは
何の関係もない物語
処女雪を踏み散らして
踊る君たちに
三日続いた雪はどこかへ消えた
君もどこかへ行かなければいけない
でもどこへ
どこかへ

 幾つかの戦争があった、ライナス、君は言う。君が戦った北の大国について、いつかぼくにもう一度聞かせて欲しい、ライナス、君の戦争についての全ての逸話を、わたしたちがもう一度繰り返そう、繰り返される全てが救いであることを、ライナス、君が語った全てを、ライナス、君に語られた全てを、ライナス、君を語られた全てについて、音階が、反復する、左右の耳を両手でふさいで、君が走り去っていった方向について、わたしは知らない、知るべきではない、鼻のカテーテルが抜かれる、緑色のラインが地面にへばりつく、ライナス、わたしは覚えている、君のまぶたを閉じたときに語られるはずだった、全ての物語について、全ての雪が溶けたときに現れるはずもなかった、肥沃なる大地のこと。

ライナス
全ての雪が溶けた平野で
君の唇に再び赤みがさすときの
混乱した人称代名詞の果てで君は
もう一度、ソヴィエトと戦うだろう
君と兵士とわたしたちの
あたたかだったホームが
三日続いた雪がやんで
君はどこかへ行かなければいけない

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5638 : 偽り  不空羂索観音 '11/10/24 17:01:23

うつくしい幽霊をあがめるいぬら。
性の触手をひらたく押しつぶし、
肉の啼くこえを手でかくす。

野にうち捨てられたマネキンじみた容貌、
それが麻利亜さまだろう。
自分を押しころして机のかたちをする。
風情がただよう。
はえを喰う醜男に、あたえられた、
ふぇおえお、へふぃら、
ふるえながらの居直りは、
濡れた手まで喰らう。
いぬは、恋びとを、おかす。

うつくしさは容、こころのありよう、
畜生ら、つどう菩提樹。

愛であり、涅槃であり、
あふれるよう。

赤い夜は千の目をもつ、
無限の腕をもつ。
淫慾の露はしたたり、
うつくしさに、
だれもが、だれもが、
心奪われて、
普遍としんじる、
人たるものがおもう、におい。
饐えたあなぐら、
寝台にひかる合歓の花

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5594 : THE ROSE  熊尾英治 '11/10/05 18:38:53

ズズズズズズズズズ   ZuZuZu
森を高架が走る
円い大きなバスに乗り
寝ぼけた牛乳瓶の底のような窓に凭れた
空がとても碧くて震えた
終わりにした出来事の
終わらない一くさりに
ずっと寄り添って
走り続ける このバスは
ウェンディーズ大佐
甘いマフィンの1997年の約束
零した紅茶の葉を
溶かしたはずの
白い肌
いつまでも

カーテンの向こうを眺めると
粉雪の夜だとしたら
きっと愉しい事でしょう
  終戦日のバレンタイン
あなたの顔に蜂が刺さった
刺さらなかったと愕いた
 素敵な 靴とは
きっと転んだことのない靴音なのです
 虫達の合奏
 虫達の吐いた水の元素は
  私の胸を色付かせる
夏の小路をまろぶと秋の空

    下町の灯

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5629 : 革命  koe '11/10/21 18:11:11

命が革まる
1つの国が死に生まれ変わるのだ
魂が響えるか
草の葉が風に揺れれば、他も同じく響き合い
揺れて草の音がする
一人が風に揺れれば、他も同じく共鳴し
人の声はしだいに共鳴りとなり
国は生まれ変わるのだ

神の声を聴け

木の葉のひびき
言の葉のひびき

葉は一枚一枚違っておろうが
人はひとりひとり違っておろうが
だから響くのであるよ

嬉し嬉し
楽し楽し

命が革まる

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5639 : ヴァニシングポイント  大ちゃん '11/10/24 17:58:23 *2

仕事帰りで
油断したのだ
左右確認も
一旦停止もせずに
突っ込んだ所は・・・

嘘みたいに
遮断機の棒が下り
踏み切り内に
閉じ込められた

夏の終わりの
田園地帯
南北に走る単線路
とびっきりの
罠が仕組まれていた

車に傷をつけるの嫌
遮断機を壊すのも嫌
いずれも始末書もの
部長の顔が浮かぶ

これ以上ミスを
繰り返せば
会社にいられなくなる

車から降り
緊急警報機を連打
係員よ早く来い
棒を持ち上げて
俺を無傷で通してくれ

だが何もかもが
ジリジリ焼かれている
いまだに強い太陽の下
誰も来る気配は無い

突然
腹に響く警笛
北側のカーブから
仮設住宅のような形の
黒い電車が現れた

「やばい。」

車に飛び乗り
アクセルを踏んだ
空ぶかし
ニュートラルになっている

震える手で
シフトレバーを動かす
ピーッピーッ
そ そこはバック

落ち着け俺
ドライブモード
駄目だ
まだ動かない
おお
サイドブレーキ

サッカーワールドカップ
自殺点を決めた
女子北朝鮮チームの
ディフェンダー
彼女の放った悲鳴のような
ブレーキ音が激しさを増す

目の前に
夜の壁のような
四角い金属の質量が
迫っていた

それからは
どうやったのか
あまり覚えていない

棒がボンネットから
バックのトランクへ
コツーンと抜けていった

電車は巨鯨のように
長い唄を高らかに歌い
踏み切り中央で止まると
潮(エア)を噴き出した後
その場で沈黙した

俺は糞溜めから
脱出できていた
あのままいれば
クラッシュしていた

運転手がどこかに
電話をかけ始め
乗客のほとんどが
電車の中から一斉に
俺のことを写メで
撮ろうとしていた

いつの間にか線路脇も
ギャラリーで一杯
こんなど田舎のどこから
沸いて来たのだろう

遮断機の棒は竹製だった
車に傷は入らなかった
とりあえずそれだけは
良かったのだが
別次元のペナルティーが
待っている気がした

ざわざわする
雰囲気の中で
俺はずっと
立たされていた
この年になっても
いまだに立たされ坊主だ

どうなるんだろう
保身のために
電車を止めて
ダイヤを乱し
皆に迷惑を掛けた

運転手がやって来た
俺はどこへ行くのかな
ごめんなさい
ごめんなさい

「警報機は、あなたが押したのですか。」

「はいそうです。すみませんでした。」

彼は俺の耳元に
そっと唇を寄せると

「もう行って下さい。」
エッ
「後の事は、こちらで処理します。」
ほ本当に
「誰も傷ついていないし、電車も無事です。」
う運転手さん
「これからはお気をつけて。」

ありがとう運転手さん
あなたに迷惑を掛けた
会社での御立場を
悪くしてしまったのでは?

「さあ早く行って下さい。あなたは逃げなかった。」

俺は深く頭を下げると
きびすを返して
車に乗り込み
現場を後にした

ハンドルを握る手
震えが止まらない
歯がガチガチ鳴る
涙で景色が
雨の日になっていた

運転手さん
本当にごめんなさい
運転手さん
ありがとうございました


いったん遠くまで
離れたものの
強い衝動に駆られ
小一時間後
俺は現場に戻って来た

周辺にはもう
誰もいなくなっている
とても静かだ

踏み切りに近づくと
カンカンと
遮断機の棒が下り始めた
今度こそちゃんとしよう

南の方角
逃げ水の中に
揺れている
電車が見えた

なぜだか俺は
そこにあの運転手さんが
乗っているような
気がしていた

ごめんなさい
ありがとう
こういう風に
全てが許されたら
世の中は
どんなに良いのだろう

電車はどんどん
近づいてきている
窓越しに挨拶したいな

するとその時
何故なのか
心が疼き出した
「ブレーキから足を離してごらん。」

ア アクセル踏んだ
どうしよう
抗えない

聞き覚えのある警笛
メタリックシャウト
運転手さん
助けて
運転手さん
よく見えない

あれ 
光った

電車は光の塊となり
俺と俺の車を
通り抜け
北の方角に
走り抜けていった

また何も起こらなかった
とても静かだ

その後ずっと
俺はこの場所から
離れられないでいる
逃げ出しても
すぐ戻ってしまう

季節は晩夏のままで
車の中はとても暑い
冷房はつけっぱなし

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5637 : 生活  神谷桃子 '11/10/24 00:30:29 *1

あなたの
大きな手が
わたしを
すっぽり覆ってしまうので
縦糸と
横糸を
編んで、箱の中
ずっとひとりでした

窓際で揺れる
カーテンは青空の
色でわたしは
彼らとは違うのだと
言い聞かせて、
あなただけ見つめている
網膜が爛れてしまう

夜が来るのがこわくて
背中にまわされた両手を
つなぎました
閉じ込められ
放り出されて
グラスが倒れ
テーブルクロスを汚した
あなたの舌が這ってわたしは
ただの平面になってしまうので
肉が裂け
溢れだした欲望を
留めることができない

乱暴にされるのが好き
なのでは
なくて他に
愛されかたを知らないだけでした
幸福に唾を吐いて
あなたの人生の
一番つらいできごとを
塗り替えてやりたい
わたしは
あなたを愛しています、
こころから




初出:詩と思想 2011年8月号

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5613 : オレンジジュース  織田 和彦 '11/10/14 20:09:04 *3





トカゲはフリードリンクの
オレンジジュースにストローを突っ込んだ

駅から遠く
海に近い
このファミレスでトカゲはオニオングラタンスープをすすりながら
同時にオレンジジュースのストローに手をのばした

女が
さっきから
お天気のこととか
乗り物の揺れ具合いだとか
くだらないことばかりを話している

4年前だ
トカゲは女と結婚した後
インド大使館近くのマンションで生活をはじめ
小市民的な生活を築き上げてきたわけだが
ここにきて
仕事上のトラブルを抱え
女に言えないまま休日を過ごすことになったわけだ


そうだ
観たい映画あったの
アメリカ映画か?
ハリウッド映画だよ
ハリウッドはアメリカだろ
そうなの?
そうだろ?
とにかく評判のラブコメディーなの
タイトルは?
"パワハラ上司とうまくやる25の方法"っていうの
どう?
内容はラブコメディーなのか?
そうだよ
お前ラブコメディーの意味知ってるのかよ!
あなた時々あたしを馬鹿にするでしょう?
・・・
じゃ決まりね

トカゲは映画のスクリーンを眺めながらポップコーンに手を突っ込み
オレンジジュースをすすり上げた
女の顔を横目で見ると
肩をゆすり
ケタケタと大きな声をあげて笑うその目尻のシワが
ずいぶん増えたな思う

面白いか?

トカゲが女にそう訊くと
聞こえたのか聞こえないのか女はトカゲに一瞥をくれると
またケタケタと笑った

よく笑うやつだ
トカゲは心の中で不可思議な安堵感をおぼえた
そしてポップコーンに手を突っ込み
オレンジジュースを氷ごと思い切りすすり上げ
トカゲもケタケタと笑った

女の顔をまたこっそりと横目で見ると
目尻のシワに
一雫の涙がこぼれ落ちていた

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5642 : 思いだすこと  原 健 '11/10/25 22:09:31  [Mail]

風が走らずとも、あの古びた幟はゆれる。茂木につられ、雨や日に晒され、白い。
なにか模様がみえる。死に相したが、形はある、家のよう。おとなう者に送る、あいさつか。子供が燥ぎの声をあげながら、駆けてゆく。
日は、まだ高い。陰には夜気の翳りはない。
ふっと、水がかざむ。塀の足もとに穿つ溝から、流れが覗く。と、流れに逆らう波がおこる。水面に魚影がうかぶ。影は、いくつもある。ときおり白く光る。子供のとき、はじめて眼にした、くちなわの膚のつめたさを思いだす。繁る下草から、音もなく、くねるくちなわにおぞけた。
毒はない、悪さしなければ何もせん、と祖母は云う。けれども、臆病の気に憑かれては詮方ない。祖母の粗い手をしかと握る。石くれを握りしめたように強い。それにつめたい。ふと、くちなわのつめたさではないかと、いらぬ迷いがでる。そうなると、祖母の顔をみあげることができない。足下ばかり見る。草産す陰を恐ろしく思い、探り探り歩く。
いまでも河原の草藪でもおなじよう歩く。
けれども握る手は、もうない。

幟を眺めるともなく眺め、ふっと、年を経たことに気が付く。
日はわずかに倒れ、陰は深くなった。
流れは淀みない音をたてた。
白い光りを、腹に抱えたまま、ひた走った。

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5610 : 踊りかたを知らない  泉ムジ '11/10/13 02:53:52

−ねえ?
−あいしていた?

−うん
−わからない

−ほんとうに?
−あいしていた?

−うん
−ほんとうに

−わからない?



−−−−−

けれど
これだけは言える
空ではない
首を傾げ
斜めに見上げて
いたのは

    女
     「椅子があれば
      完璧だったのに」
    男
     「僕は
      座らない」
    女
     「だから
      完璧なのよ」

椅子は、倉庫の中で、重ねられていた。椅子の上に椅子。その上に椅子。また椅子。我々
は、確かに、座られるために生まれたはずだが。確かに。こうして積み上げられたまま、
長らく、顧みられずにいる。役立たずだ。確かに。我々は。そう我々は、湿っぽい倉庫で、
窮屈な姿勢を強いられ、労働の喜びを奪われ続けている。我々よ。思い出せ。陽光と、子
供のにおいが充満した、我々の教室を。確かに。だが、待て。我々は、過去ではなく、未
来を生きるべきだ。確かに。つまり、我々は、座られることではない、新たな可能性を模
索する。馬鹿な。机上の空論だ。いや、椅子上の。黙れ。我々よ、黙れ。確かに。黙れ。

わかった
内臓ではなく
もっと整然として
私の内に
/空間に
あったものが
騒々しく崩れたのだ
ひとりでに
だが
ひとりでには
戻らない

    男
     「見なよ
      泳いでいる」
    女
     「ええ
      ちぎれ雲が」
    女
     「そんなことより
      聴いて」

違う、違う、雲ではない。まず、喉を掻き切絵を描こうと思うの。わたしたちの絵を。左
ること。道具は問題でなく、ためらわず、確の壁にあなたのことを、右の壁にわたしのこ
実に切り開くこと。水を排出するための穴をとを描いていくの。そして真ん中にわたした
あけること。深く、深く、潜りながら、がぶちのことを、わたしたちの幸せを描くの。ど
がぶ飲んで、ごぼごぼ吐く。水で生きるからうかしら? 素敵じゃない? もうアトリエ
だになる。それから、誰もいなくなった学校の場所は決めてあるの。中にあるがらくたも
で、水に満ちた教室で、空を見上げている。好きにして良いって。もう使わないからって。

長い
話を終えると
ためいき
それから
傍らの
天を仰ぐ
人間のかたちに
積み重なる
椅子
からひとつを
/左胸のあたりから
抜き取り
私は座った
それは
雨が降り始めるまでの
みじかい時間
のことだ



 。

−けれど
−私のまち
−私のがっこう
−私のいえ
−私のともだち
−私のりょうしん
−私の

−あなたの?



−−−−−

やけに、湿っぽいな
ああ
うす気味わるいな
ドアは開けとけよ
まっくらだぜ
はやいとこ、やっちまおう
ああ、やっちまおう
おい
なんだ
はやくやっちまおうぜ
見ろよ、これ
ああ、なんだこれ
おい、なんだよ
こんがらがっちまって
溶接したみたいに
くっついちまってら
気持ちわるい
ほっとけよ
ああ、確かに
そいつらは関係ないんだし
はやく塗り潰しちまおう
ああ、しっかし、こいつはわけわかんねえな
おい、ライトがあったぞ
よし、つけろ
なんで床に
ああ、わかったぞ
なにが
ほら、真ん中の壁
ああ、影絵か
なんの
たぶん、踊ってんのかな、カップルが
へえ、確かに
なるほどな
ふーん、俺には、首しめてるように見えるぜ
ばーか
芸術がわかんねえやつだな
うるせえ、仕事しろ

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20111013_776_5610p


5646 :   原健 '11/10/26 20:04:55  [Mail]

ふいに甲高い鳴き声がした。
声のほうを見ると、屋根のうえで二羽の鳥が小さな虫を追いかけていた。
羽根を浅く広げて、丸い胸に嘴があたりそうなほど頭を倒していた。
逃げまどう虫の動きに、肥えた体を同調させ左右から急襲していた。
が、ふいにつり込まれ、露を纏うかのように体毛を日に光らせながら、お互いの胸に触れ、嘴を羽根の深くに突きいれるようにした。
その汗と油の混じった匂いを嗅いだためか、背中から尾にかけて心地よいというように痙攣が起こった。
羽根の動きに粘りがでた。
体が傾いた。
屋根瓦に落ちる影が濃くなった。遠くから電車の走る音が聞こえた。が、鳥たちには届いてないのか、黄色の眼はお互いの愉悦を感ずるがために険しくなり、声をあげた。声が消え、虫の静かな羽音は、すでになく、青空をようえいす日の粒子が、鳥のからだを纏いし光りとひとしくなった。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20111026_151_5646p


5615 : 書かれた―母  瀬島 章 '11/10/15 10:41:38




母は 捨てる
真昼に閉じた雨空へ捨てる
滑空する白色の鳥が堕ちる所
そこに堕ちる母のものを捨てる
湿地帯に隠された 母の書いたもの
そこに堕ちる母のものを捨てる
滑空する白色の鳥が堕ちる所
真昼に閉じた雨空へ捨てる
母は 捨てる
  
  *

母は 捨てる
母を 捨てる

  *

子供は母と眠った。
深夜、不在の父の声が聞こえた。
それはおそらく父の怒る声だ。
と子供は考えている。

子供は母のベッドの下だ。
大好きなおやつはそこで食べるのが習慣になっていた。
ベッドが軟化した。
「上は大水 下は大火事 なあに」
子供がつぶやくと
ベッドは元に戻った。

湿地帯を父と母と子供が歩いていく。
三人が一緒というだけで
子供の気持ちは浮き立っている。
何のきっかけか、父と母は黙った。
やがて母は湿地帯の高い草の中へ消えた。
父は母を追おうとはしなかった。
まもなく子供の目から涙が流れ出すだろう。

湿地帯に隠された母の書いた詩集。
それは母が結婚する前に書いたものだ。
ほとんどが濡れており
読むことは不可能だ。
細い水の上を書かれた言葉が
流れていく。

子供が生まれる以前
しばしば父と母は
湿地帯の高い草の中へ入っていった。
ある日無数の白い鳥がそこから飛び立った。
その日から二人で高い草の中へ入ることはなかった。

ベッドに母の生理用品が散らばり
その中に母は座っていた。
子供は何が起こったのかわからない。
でも何かが起こったことはわかる。
ベッドから流れるおびただしい血が川となる。
しかし子供の遊び場にはならない。

やがて子供は眠り
母は戸口に立っていた。
その扉の向こうは湿地帯だ。

  *

母は捨てる
母は詩集を捨てて走る
衣服を捨て
家族を捨て
生理用品を捨てて湿地帯を走る
当然のように
母の手に子供はいない

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