◇ No.215 , '10/04/30 13:11:35 作成

4297 : 死者の道(化石)  はかいし '10/04/05 11:16:44 *1  [Mail]

石炭を詰め込んだ袋を背負い、夕焼けの帰路を歩く。丘をなぞるように続く細い道には足跡が続く。その中に昨日の雨水が溜まり、夕日がぽつりと溶け出す。二つ目の峠を下りた頃、炭鉱から帰る途中らしき女性を見つける。彼女の脚は長い丈の衣に隠され、何かの爬虫類、ニワトリ、と一歩一歩違った足跡が続く。それを指差して、これはあなたの足跡ですか、と聞く。いいえ、これはあなたの足跡でしょう、と苦笑される。丘のてっぺんまで来たとき、彼女は纏っていた衣を脱ぎ捨て、足元を指差す。踝から下が透けており、あなたは幽霊なのですか、そう聞くと、彼女は何かを答えようとして口を開く。その中では白骨が燃やされており、驚いて誰の声も聞こえないまま、喉の奥の暗がりへと飲み込まれていく。

(女の腹の中で、黒光りする液体を泳ぎ切り、家に帰り着く)

ぽつり、ぽつりと星が照り出したのを見計らって、私は家を飛び出し、街灯を避けて走り出す。時々私の口に羽虫が飛び込み、そのまま飲み込んでしまう。羽虫は喉の奥で何かをまさぐって、その度にぞっとしながら、闇へ。羽虫が唇を掠めることもなくなった頃、墓地に辿り着く。星だけが点在する、ピンで留めたように。まだ、喉に何かが引っ掛かっていて、ガビリと引っ掻いて全身に響く。ガビリ、ガビリ、辺りの墓石からも聞こえ出し、重たい石の戸を開けて骨だけになった影が立ち上がり、私の周りで踊り狂う、ガビリ、ガビリ、骨を鳴らしながら騒ぎ立て、耐え切れなくなり、もうたくさんだ!そう叫んだ後、喉につかえていたものを吐き出した、

(吐瀉物の中からツチボタルが這い出し、頭蓋骨に入り込む、)

頭蓋骨を棒に掛けて洞窟を進む。眼窩からは糸状の燐光が次々と放たれ、触れた岩肌から放射状に広がって暗闇を照らしていく。ツチボタルの松明。私が呼吸する度に光が通い、壁に張り巡らされた網が震え。進んでも進んでも辿ってきた道が輝くばかりで、少しも前を照らさない灯。やがて私は空腹を感じ、それに同調するかのように、頭蓋骨はいっそう青白い血液を滾らせ、四方八方に送り出す。急に強くなった光が背中を押していく。
ここで洞窟は二つの道に分かれている。一方はしんと静まり返り、もう一方からは石油が臭い、そちらに行くと、オレンジの燭台が見え、徐々にその半透明の影が広がっていく。見つけた!ひとりの男が叫び、すぐに何人かが集まってきて、化石だ、と口々に言い合って、渦巻いた塊が男の手の中で黒光りする。引き返して、もう一方の道に向かっていくと、ツチボタルの松明が弱まり出す。進めば進むほどに弱くなり、遂に消えてしまう。手探りで進み、ようやく洞窟を抜け、墓地に着く。死者たちがたき火をぐるりと囲んでおり、ひとりから、これを食べないとお前は消えてしまうよ、と言われ、握り飯をもらう。戻ろうとして振り返ると洞窟は跡形もなく消えている。手足が徐々に透け始め、消える前に握り飯を飲み込む。そして、家に帰ることもできないまま、仕方なくその人たちとずっと一緒に暮らすことにした。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100405_921_4297p


4293 : contraste du monde  はなび '10/04/03 21:03:52


たのしいことを考えてた
とおい国にいるともだちのこと

坂の多いちいさな町
迷路のような階段

レンガ色の赤い町
洗濯物を干す陽気な窓辺の女達

太陽を反射する真っ白い海辺の町
青い銀色のまぶしい小魚に群がるカモメ

水平線がどこまでもどこまでも
つややかなひかりをたずさえて

入道雲や稲妻や濃度を変える空
黄色いプロペラ式飛行機や
海水パンツ姿のこどもたち
パラソルの下で本を読む大きな帽子の女の子
サングラスの下で夏の恋人を探してる
まだ骨格の細い男の子

夕暮れのような恋人たち
夜の風が素肌に心地良い音楽を連れてくる
生暖かい風
果物の匂い

世界はお祭りのように
色とりどりの紙吹雪をまき散らし
くるくる回りながら
時計の針より半歩先を
興奮気味で進んでいく

目を閉じて深く呼吸する
とおくから大勢で鳴らす
打楽器の音がきこえるように

愛しあうことが
日常生活の中心でありますように
世界はほんとうは毎日がお祭りで
感謝することがつま先から隣の家へ
隣の家の飼い猫のムミから広場へ
広場に面した工場から雨水へ
伝言ゲームしてる

若く美しい未亡人も
この日は髪に花を飾る
機械仕掛けのプロペラが
いつまでも彼女の耳元でくすぐったく
ささやきつづけるように



世界のどこかで
死ぬまで好きなことをして
勝手に暮らしてる

たのしいことを考えてた
とおい国にいるともだちのこと

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100403_885_4293p


4305 : 青い目をした猫  SSS '10/04/08 10:11:43

青い目をした猫
名は無い
似ても似つかぬ花瓶を
身体のように愛しみながら
お前はいつも十一時に
陽のあたる小さな窓辺に腰掛けて
季節ごとの花を愛でている
(爪を研ぐことすら忘れがちになりながら)

崩れがちの筆跡にも似て
私の後を追い
お前は尻尾を天国のほうへと
やんわり向けている

伸ばした身体は
時として私を困らせる
きっと私にもそうして身体を伸ばして
怠惰に勤しむことで
見えてくる朝があるはずだ

青い目をした猫
お前は私に一度だけ話しかけた
食事を済ませて
窓から梢を見たとき
私の方を向いて
一言、鳴き声を真似てみた

あれ以来
お前は透明な私の心の底の辺りで
小さく愛に寝そべっている

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100408_953_4305p


4306 : 世界のレプリカ  ぷう '10/04/09 17:40:11

、秒速で回転する、記載された、

止まらない震え、(ココロ)宙吊りの、日常に、
還元される、キヲク、そして、
動かないままの時間は、いらないから、捨てていこうと、誓う、

背を向けるけれど、それは、叫びに、似ている、
取り戻せない、メモリィ、でも、
誰にも、解らない、ね、
ひび割れたとしても、たとえ空が、悲鳴をあげたと、しても、

この鍵盤(キーボード)から、零れる旋律は、
静かに堕ちる、滝の向こうを目指して、揺らぐ、


眼前の世界を、

、ただ、美しいと、おもった―――


トルクの調子で、星がまわるから、
やっぱり、コペルニクスは凄い、
誰だって、止まった自分が、動いているなんて、考えない、よ、

オブジェのような夢、でした、
間違いとは云わないけれど、何でもない、レプリカでした、

小さな、(ココロ)の、声を、
聴いていると、痛みを感じる、
ノスタルジックではなく、センチメンタルでもなく、
だからそのキヲク、およびメモリィは、
大切、なんです、ね、

自分だって何かのレプリカ、かも知れないのに、

、もし、空がひび割れたなら―――
 このコトバを、捧げよう、

そっと、眼を閉じて、震え、
何もない世界は、ただ、それだけで、

出ていき、もう還らない、

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100409_972_4306p


4299 : (無題)  JT '10/04/06 07:11:15

男は耐えられず、うずくまっていた。
その内に駆け巡る声にならない慟哭に。
流れ出る得体の知れない液体に。



男の前には常に薄いフィルターが在った。
全ての物は本来の振る舞いで男に働きかける事はできなかった。
そしてそれを、男は自覚していたようだった。



男の内の得体の知れない情動は、どす黒いようであり、果てしなく白いようでもあった。
さりとて、無色透明なようでもあった。
男は知っていた。
それに色など付きようのない事を。
まして、名前など付くはずがない事を。



うずくまった男はただつぶやくだけだった。
こんな事がいつまで続くのか、と。

傍らに在る、小さな熱源がかろうじて男を繋ぎ止めていた。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100406_929_4299p


4303 : 生きている時  黒髪 '10/04/08 05:41:50

帽子をかぶらずに外に出た。
手持ちのたくさんの帽子は部屋に置かれたままだ。
ジーンズに薄手のセーター、それで寒くはない。

「男」が走っている、桜の咲く堤防を。
彼の見た感じはマラソンランナー、楽しみのために走る。
速い。あっという間にすれ違って遠くなった。
桜の舞う中に風の流れを残して、「男」はもう見えない。
空気の硬さに、春の予感を感じたところで、
季節の盛りにはそれを楽しむ余裕はなかったことを苦く思い返した。
いつも、先にある時を、それが、過ぎゆき行ってしまうのを焦った、
しかし今、「今、この時」を、あっという間に過ぎゆくか、たゆたい続くか分からない、時を感じているのだから、
過去の縛りや未来への絶望は、夢の中へと押し込んでしまおうと思った。
彼も僕も今を共有して接点としながら生きている、そう思える今は素晴らしい時だ。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100408_949_4303p


4300 : ものもらい記  debaser '10/04/06 16:56:26 *6



海のわき腹から溢れる内臓のもろもろは破裂して
彼女のものもらいが玄関先で
主人の帰りを待っている
スプリングコートに身を包むアフリカの土人たちは
河原の砂れきにすっぽりと埋もれ
夢についての最新レポートを黙読していた


このまま放置しておくと視力が低下するという危惧から
私は近くの薬局を訪ねた
店の前では
長いホースに巻き込まれた花屋の主人が
駐車禁止のラッパを鳴らし
その隣では下半身を露出した子供たちが毒入り!毒入り!と連呼している


私はぱ・い・な・つ・ぷ・るで階段を駆け上がった
紡錘型の火山弾への落書き
あれの本物は外国の殻付きアーモンドなんです
それを瓶に密封すると
工場のチェーンコンベアは異常な動作を始める


見世物小屋では豚が腹を切る
普通の豚は観客席から
熾烈な野次を飛ばした
たくさんの豚に囲まれ
通路をひとたび外れると
新しい空襲がまた人々の頭を貫こうとする


美人の両目には
良いものもらいが出来て
そのよこっちょに悪いものもらいが出来る
母からの仕送りは
今月で最後になります、と母からの便り
私は二回目の脅迫をした
それはきっとブスからの電話にちがいない
よって、私のこの手合図は
なにがしか世界への宣戦布告を意味する

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100406_931_4300p


4307 : 朝の寄り道  空丸ゆらぎ '10/04/10 23:59:04 *8

再び 迷い 迷いながら 蕾が一つ 街路樹に紛れ込む
選択できない二つを除いて 石畳の十字路に立ち 偶然を選び取る たった一つ
風が追い抜いていく 基準について 
たった一つの偶然を選び取る選択基準について 
気付かれないよう 雲はそっと流れていく
最善とは
再開発後の街並みにひっそりと残された延命地蔵 答えようのないものについて
流れ星に祈る無力さが悲しく なぜ私ばかりがと思う時もあり 
まさか私がと思う時もある 否 分かっているんだ 
鏡の中の私と目が合い はじめまして 
語り尽くされたようで 語り足りない またどこかに芽生えた雑草のように 
あるいは 波打ち際のように
空が青い
それでいい

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100410_994_4307p


4296 : 足あと  パン・おべんとう '10/04/05 00:59:54

夢に落ちる間際の
街が放つ光
その光の夜空を
掠め取っては降りてくる、雪

だだっ広い駐車場は
粗悪なリキュールと似て
吐き出すために吸った息を
また吐くとき
心には宿らない季節が
心の仕組みを奪っていく

天球の根元で、ぼんやりと染みを
付けたような家並
高音域の擬人が
いまだに立て籠もり続けている
光がすべて
光として旅立ってしまうまで

ガラス質の抜け殻たちは
ひたすらに互いだけを映し込みながら
積み重なる
ひとひらの情感も
そのかたちを取り留めることはなく

蹴り返された靴底が
もう帰らない人の名前の
音ばかりを並べている

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100405_915_4296p


4313 : サンタな夜  森田拓也 '10/04/13 14:03:15  [Mail]

しんしん しんしんと
雪が降る夜

俺が部屋でひとり
小説などを読んでいると

とんとん とんとん
と窓をたたく音がする

こんな時間に
いったい誰だろうと
そっとあけてみると

真っ赤な服を着た
クレイジーなじいさんが
申し訳なさそうにベランダに突っ立っている

じいさんが言うには
子ども達にプレゼントを配っているのだが
そりがこわれたので
一休みさせてほしいとのこと

俺は鹿とじいさんを部屋に入れ
鹿には水を じいさんには粗茶をだした

俺はじいさんと
今のご時世について語り合ったものさ

そうこうしているうちに
俺はそりを直して
ワックスをかけておいた

じいさんは もう少し
プレゼントを配るらしく
お茶を入れに行っている間に
いなくなっていた

ふと見ると
お礼なのだろうか

ちゃぶ台の上に クリスマスカードと
万札が一枚置いてあった

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100413_020_4313p


4310 : ヘンドリックのいた夏  織田和彦(ミドリ) '10/04/12 19:20:56




ちょっと横にズレてくれるか?

ヘンドリックのゴワゴワした毛が
ぼくのTシャツから出た
二の腕の辺りをさっきから激しく摩擦し
暑苦しくって仕方なかった

ズレろって
こっちの端っこも いっぱいいっぱいだよ


ぼくらは路線バスに乗っていた
クーラーの効きが悪いのは
全部ヘンドリックのせいだと思った

こいつがいるせいで
周りの温度が5度は上がる
間違いない

ぼくはヘンドリックを見上げた
大粒の汗がポタポタと流れ
フェイスタオルでしきりに額をぬぐうヘンドリック

まだ着かないのか?

寝ぼけた目で
ぼんやりと車窓を眺めながらヘンドリックは言った

お前の体重が重いせいで
バスのスピードが上がらないんだよ!

ぼくはうんざりして
悪態をついた

そんなバカな話があるかよ!

大体ナンだよ!
そのボテっとした腹は
ダイエットする約束じゃなかったのか?

バカ言え
先週計ったら2キロも痩せてたよ

お前の2キロは
普通の人の3グラムなんだよ!

     ∞


これがぼくらの
いつ果てるともしれない
甘い夏の
始まりだった


バスはいつしか海沿いを走っていた

幾つものパラソルが立ち
賑やかな浜辺を
燦々と照らす陽光が

ぼくらの目をヒリヒリと焼いた

気がつくとぼくは2箱目のハイライトに
手をつけようとしていた

ヘンドリックはシートの上にひっくり返り
ぐぅーぐぅーといびきを立てて
寝入ってしまっている

2、3分置きに大きな寝言を言った

そいつは彼が野生から
人間の世界に下りてきた時に負った
何かの傷の証だと人は言うかもしれない

でもぼくには
彼が嫌な夢を見ているとは思えなかった

     ∞


ねぇ このコ
どこの動物園から出てきたコ?

マッチを擦り終わるか終わらないかのタイミングで
ぼくの後ろに座っていた
とてもチャーミングな女の子が話しかけてきた

ヘンドリックのことかい?

女の子は肩をすくめてみせた

話せば長いよ

じゃ
手短に披瀝してもらえる?

今度はぼくの方が
肩をすくめてみせる番だった

優しそうなクマさんね

寝てる間は空っぽになるからね

えっ?!

寝てる間は
人に危害を加えるってことはないってことさ

彼女はぼくの言葉に
怪しむような態度を見せた
それが何だか
彼女の様子を
ぼくに美しく見せた

ああ
ヘンドリックは夢中になって眠ってる
ひどく腹の立つこともあるが
いいやつさ

そしてぼく以外に
ヘンドリックの面倒をみるやつなんて
どこにも居やしないんだ

ぼくがそういうと 彼女は
妙に納得しや様子で
お腹をへっこめ
苦しげな体勢で眠るヘンドリック見つめて
微笑んだ

どこで降りるの?
君の名前は?

ぼくらはまるで堰を切ったように
ぎゅっと入り込み
二人だけの世界の

おしゃべりに夢中になった

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100412_010_4310p


4242 : ポエム  ぱぱぱ・ららら '10/03/09 21:51:53

 僕はきみを愛してる。僕が言いたいことなんて本当はこれだけだ。つまり僕が語ることは全部嘘だ。いや、もしかしたら僕はきみを愛してるということを複雑で分かりにくく語るだけなのかもしれない。ティムは言った。わたしたちは愛のために戦争にいくのだ。僕は言おう。僕はきみのために明日も仕事にいくのだ。部屋には僕しかいない。テーブルには焼酎の入ったグラスと納豆と日の消えたお香。Art-Schoolのロリータ キルーズ ミーがループして流れ続けている。もしくは未知瑠のWORLD'S END VILLAGEが。僕は美しく生きたいと誓ったんだ。誰に? きみに。僕の左上腕には女神のタトゥーがある。右手でピストルを掲げ、左手には煙草を持っている。今の世界を象徴していると思わないかい? コートジボワールの子供たちはどうなったのだろう? ホワイトデーの広告を見るたびにそんなことを考えています。ここでまた一本線香に火をつけさせてもらいます。それから焼酎を一杯飲む。焼酎はコーラで割ってある。この前キャバクラで会った女の子がコーラで焼酎を割っていた。だから僕は焼酎をコーラで割る。おぉ、これこそ人生。きみの大きな瞳は整形だろ? 知ってるんだ。クソが。僕は知ってるんだ。きみが整形してようと、してなかったかろうと、僕はきみを愛してる。お香とお酒は合わない。気持ち悪くなってくる。お香と木下さんの歌声も合わない。耳が溶けてくる。僕は溶けた耳をさわる。肌色の液体が僕の左手にまとわりつく。つまみが足りない。僕は八歳の頃から死にたがっていた。僕はその頃マンションの七階に住んでいた。ベッドに眠る僕。寝付けない僕。ベッドは壁についている。壁には窓がある。僕は窓から飛び降りようと思う。下は駐車場だ。車が並んでいる。みんなこれを手に入れるために、あくせく時間や家族を犠牲にして働いているのだ。僕は信じている。僕を。僕はまだ生きている。僕はもう八歳ではない。僕はもう七階には住んでいない。僕はもう自ら死ぬことはない。美しく生きたいと、木下さんは言った。僕は美しく生きたいと言った。たとえ世界の果ての村でただ一人になっても。僕は女の子を抱いている。それから射精する。僕はシャワーを浴びる。僕がシャワーを浴びている間に、女の子は別の男を受け入れる。その男は僕より背が高く、ガタイも良い。顔もイケメンでチンコもでかい。僕は部屋に戻り、その男を見る。それが彼らのやり方だ。彼らとは政府のことであり、社会のことであり、マネーのことだ。相手が女の子の場合はこうだ。きみは太りすぎている。きみの胸は小さい。きみの肌は汚ない。きみの目は小さい。などなど。でもそんなの嘘っぱちだ。だからこれ以上目を大きくしようするのは止めてくれ。きみは美しい。僕はきみが好きだ。僕は一口焼酎を飲む。少しこぼす。今は今のことで、僕は今を生きている。もう死ぬことはない。左手首は傷だらけだ。その傷ひとつひとつが僕の詩だ。ポエムだ。愛だ。僕は生きている。きみは生きている。ここにポエムがある。他に何が必要だというのだろうか。カモン、カモン、カモメやい。聞いているのかい? お香のケムリは消え、ここにいるのは誰だい? お前は詩人なのかい? お前は詩を愛してるのかい? お前は詩をなんだと思ってるんだ? 俺は詩を愛だと思ってる。愛によって人々は戦争に行くように僕は愛によって詩を書く。僕はそれをポエムと呼ぼう。焼酎がなくなった。もう一杯注ごう。ちょっと待ってて下さい。コーラが無くなったので、グレープソーダで割った。僕はブドウが好きだ。あと、トマト。僕は詩を書く人を信じる。僕はポエムを書く人を信じる。たとえどんなにひどいポエムでも。僕はトマトが好きだ。これはもう言ったか。みなさま、僕はブドウとトマトと詩とポエムが好きです。車も一軒家も冷凍庫も入らないです。ああ、人生。ああ、生活。そんなのはそんなのが欲しい奴のとこへ行ってしまえ。僕が欲しいのは愛だけだけです。今、この瞬間に。魚の骨をしゃぶりながら、僕はきみのことを考えている。それだけだ。後はうまくやって来れ。僕は芸術も師も人生もマネーも生活も捨てて、きみを迎えにいくよ。納豆が余っていることに気づいた。焼酎と納豆はあわないけれど、僕は納豆を食べることにする。僕はこのポエムを書き終えたら納豆を食べるだろう。それから歯を磨き、顔を洗い、ベッドに入るだろう。音楽は鳴り続けている。残りのスペースは少ない。あと443バイトだ。僕は携帯電話でこの文章を書いている。電話。僕は伝えたいのだ。何かを。言い残したことは一杯ある。次こそは、とは言わない。今のこの瞬間に。次はない、かもしれない。僕にはわからない。これが今の僕のすべてた。誰かがこのポエムを読んでくれると嬉しい。嘘じゃなく。これはポエムだ。誰がなんと言おうと、僕がなんと言おうと、これはポエムだ。僕の言いたいことは、きみを愛してる、それだけだ。あとは全て、どんな一文字だって嘘っぱちである。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100309_429_4242p


4288 : コール  ぱぱぱ・ららら '10/04/01 23:25:28

きみは特別ですか?
僕は平凡です。
くしゃみがとまらないです。
今日はお酒を飲んでないです。
空は青いです。
海もきっと青いのでしょう。
何か言いたいことがあったけど、
忘れちゃいました。
明日は雨だそうです。
ちょっと憂鬱です。
本当にちょっとだけですが。
明日は今日よりも優しくなれたらいいな、
とか思うのは、
きっと憂鬱のせいでしょう。
きっと平凡なせいでしょう。
いつか、
あくまで、
平凡な男のまま、
何を言いたかったのか思い出せればいいなと思います。
お金はないです。
これも言いたいことの一つです。
言いたいことは意外とたくさんありますね。
昨日から家でトナカイを飼い始めました。
トナカイだっていつか死ぬ。
そう考えると、
やっぱり憂鬱です。
突っ張りは明後日までとっておこうと思ってます。
明後日は晴れそうです。
僕は優しい男になっていることでしょう。
きっと。
それから、
僕はミュージシャンではありません。
ただの平凡な男です。
夢を観ることはありません。
最近よく眠れるんです。
そこそこに幸せです。
隣のトナカイも幸せそうに眠っています。
トナカイも明後日には実家に帰ってることでしょう。
そしたら、
もし良かったら、
遊びにでも来てください。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100401_852_4288p


4262 : 散歩者  りす '10/03/18 18:14:17 *1

 衰えるということは、反射の少ない冬の陽射しが人の正体を明瞭に透かす残酷な二月の午後のようで、時の傾斜がしだいに勾配を緩めて歩行を鈍らせる穏やかな日々が、流れる風景を視野に留め置く時間を少しずつ伸ばしていくのか、この眼に映る映像をけして忘れないという予感をとめどなく積み重ねはするものの、予感はことごとく裏切られ、私たちの足元に若葉の青さを演じながら舞い落ちてしまう。例えばそのとき一人の散歩者が不意に現れ、まだ瑞々しい落葉を平気な顔で踏みつけて私たちを追い越していくとしたら、私たちも足どりを早めて散歩者に追いついて肩を並べ、白い吐息と共に時候の挨拶めいた二、三の言葉を共有することはできるだろうが、彼を追い越して私たちの背中を読ませることは叶わない夢であり、衰えるとはそのように背中を失っていく磨耗の過程でもあるのだろう。夢といえば、途切れた夢の続きを、切れ切れの眠りの中で手渡していく儚い遊戯に慣れてくると、いよいよ夢は生活の暗渠として時間の裏側を流れはじめ、隙があれば逆流して鋭い波を立ち上げ、時間の表層を破ろうと荒れた表情を垣間見せるが、またしてもあの散歩者のほっそりとした大腿が夢の波頭を事も無げに打ち砕いていくので、私は私に向かって夢の続きを搾り出すように、まだしばらくは命令しなければならない。
 
 人がひとり増えたので、人をひとり捨てるのです、そう呟いた男は、小さな黒い影に手を引かれて暗闇に消えた。あれはいつかの夢か、あるいは編み込んだ記憶の綻びか、男が捨てるのか男が捨てられるのか、気がかりではあるが気がかりを確かめないままやり過ごす暮らしに慣れすぎた私は、未来へ赴く気配で過去へ遠ざかる男の背中に届くほどの、飛距離を備えた言葉を咽喉に充填することができない。人が人を捨てるには、理由という鮮やかな萌黄で自らを塗り潰し、晩冬の陽だまりに投身する華やぎが必要だとして、いったい誰が、その陰影の美しさを褒めてくれるだろう。増えたり減ったりすることが、私たちのあらゆる出発と終着を支配するのだから、いずれ誰もが廃棄される側の言葉を図らずも漏らすことになり、いつかは名前という重たい荷物をおろす場所を決めなくてはならない。口実という名の木の実を道すがら食べ零す小動物のように、立ち止まっては振り返り、立ち止まっては振り返り、自らの名残に発芽の兆しをあてもなく探してみても、ふたたびあの散歩者が華奢な足どりでふらりと現れ、私たちの退路を冬の林道のように踏み固めてしまう。

 蘇るということは、古井戸から這い上がって現世の縁に青白い手首を掛けるような運動神経の酷使ではなく、目覚めると見慣れた部屋に見慣れた朝の光が射し込み、天井の木目模様が少し違っていることに気付かないまま半身を起こして一日を始めるような、きわめて静かな振る舞いの中で起こるのではないか、そのような聞き慣れた言い回しを信用しないために、私たちはなにを信用すればいいのだろう。冬の次に訪れる相対的な季節の中で、中空の陽だまりから落下する重たい荷物を両腕でしっかりと抱きとめるとき、おそらくは臀部をしたたか地面に打ちつけた衝動で思わず叫んでしまう悲痛の言葉を、まずは信用してみようか。あるいは、人を捨てた男と、人に捨てられた男が、けして出会うことのないあの場所とこの場所で、まったく同じ口癖を呟いて日々の抑揚を同期させている奇妙な符合を、その口癖を私の唇でも真似てみることで信用してみようか。いずれにしても反復と継続が無効な挙措のささやかな閃きは、始まりも終わりもない夢の断片の乱暴な切り口のようで、その切り口に駆け寄ってはとりあえずの手当てをしている、その縫合の美しさを、いったい誰が、悼んでくれるだろう。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100318_625_4262p


4292 : 木蓮の坂  丘 光平 '10/04/03 15:52:57



まだひらかない紫の
木蓮をみあげるようにして
坂をのぼると 
縄のほつれた古竹の門がある

そして水瓶にゆらぐ葉のように
雨と
春の波間で
平屋の家がしずかに浮かんでいる


 おとずれのない午後、
いろ焼けしたソファーで
おんなは目をとじていた
ときおりちいさな咳をしながら

ひとりになるために
もう手紙はいらないその指さきは
庭に植えた薔薇の樹の 
五月をしらない病葉を
摘みとろうとして

またすこし
傷みをかさねるようなうす紅の
陽ざしこぼれる眠りのように


 やんではまた
通りすぎてゆく
雨を聞きながら 降りていった、
まだひらかない紫の
木蓮の坂を

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100403_882_4292p


4315 : 長い影  アルビチア '10/04/13 15:51:17  [Mail]

長い影

 拭いても拭いても
 落ちない汚れが一点
 鏡に写るあなたの顔に
 深く刻みこまれている
 喜びも悲しみも怒りも憎しみも
 月日とともに
 溶けない氷が乾いていくよう


 塞いでも塞いでも
 染み出てくる膿が耐えない
 皺に刻まれて
 白いのに伸びる白髪は醜い

 目を閉じれば閉じるほど
 鮮明に蘇るものの
 冷たさが生の証というのか
 流れては凍り
 流れては凍る涙は
 まだ涸れていない

 春の芽吹きの中にも
 夏の水の流れの中にも
 月灯りの夜の道も
 この牡丹雪の中にも

 色あせたはずのものを
 入れ替えることも
 塗り替えることも
 消し去ることもできない

 積み重ねられた汚点が
 影ならばまだいい
 陽が当てられて来たことも
 積み重ねられてきているというのに
 喜びの粒の木漏れ日の時が
 掻き消されている

 長い影の中に篭りきることもない
 陽に背を向けて座ろうとも
 陽のあたたかさを
 土の柔らかさを
 流れる風の真実が
 たしかに包んでいる

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100413_023_4315p


4309 : 幼少の山河  SSS '10/04/12 01:41:54

ジョルジュ、
うちのめされるように
抱きしめて
私はふたしかにニギルよ
ふしだらな雪山

おまえを愛してやまない
あの プら寝たりゅー無のように
私は愛してやまないのである
おまえを

石のようになやみなく
花のようにはためいて

ジョルジュ、
鉄棒がしたい
ジョルジュ、
山荘のにおいがする

私がいるのは
はかなみ川のうなだれ

ジョルジュ、
僕は
ジョルジュ私は

乳輪のあいだを黒澤流に馬で駆けながら
玉砕にかけている

ひとときたちのいる艦隊を
ジョルジュ
あるいはおまえと私のなにかを

まだ夕焼けだね
そしてもう
夕焼けしか 残っていない

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100412_008_4309p


4323 : 魚顔のひと  Chiave '10/04/15 20:07:18

映画監督の大島渚が女優や役者を選ぶ基準は
顔だとエッセイに書いていた。
大島には人の顔が三種類の動物に見えるという。
一等上等なのはネコ顔。
基本的にネコ顔しか仕事には使わない。
次が鳥顔。
よほどのことがあれば仕方なく鳥顔俳優も使うという。
次が魚顔。
魚顔の人間はめったにみかけない。見るのもいやだという。

困ったことに最近わたしは人間の顔がみな魚に見えはじめた。
とくにツタヤにDVDを借りにいったときが困る。
俳優の顔がみな魚にみえるのだ。
だからだれが主役でだれが脇役でだれが汚れ役だかわからない。
どれもこれも魚のようにどろんとしている。
笑っていても泣いていてもどろんとしている。
それならまだいい。
監督まで魚にみえる。助監督も魚にみえる。小道具も照明も
魚にみえる。

家に帰ってテレビをつける。
魚がパクパクとニュースを報じている。
チャンネルを回す。
魚が大食い競争をしている。
チャンネルを回す。
魚が子どもに政治を説いている。
チャンネルを回す。
魚が歌を歌っている。

これは病気だ。
心療内科にゆく。
待合室で待つ。
「○○さんどうぞ」院長のいる診察室の分厚く大きい観音開きのドアが看護婦によって開かれる。
豪華な革椅子にふんぞり返ってわたしを迎えたのは魚だった。
口から泡をふいてパクパクさせていた。
ほんとうだ。

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100415_051_4323p


4225 : 批評  睡蓮 '10/03/02 01:04:14  [URL]

つまらん、
つまらん、

指先から発砲する
弾へ
いくつもの螺旋が用意されていく

春の絵筆で混ぜ合わせた
風は
波打ち際からカーテンを翻し
ばたばたと
ページの羽音を奏で、

道端で戯れる少年少女に
その一片が
先へ先へと敷かれていく

人の手と触れ合って
羽音が
響きを繰り返していくことを
知っているページが
新しい人の手に渡り
始まり、が用意されていく前に
一枚の青葉が
栞になっていくのは
何回目のことだろうか、

数えることもしなくなる
その指先から発砲する
弾を
いつか、手に入れたい

>> permanent URI: http://bungoku.jp/ebbs/20100302_138_4225p


- ealis -