◇ No.182 , '09/09/26 17:53:19 作成

3723 : 姉と兄に捧げる週末の歌  んなこたーない '09/08/18 01:36:55

われに慕わしきは眠ること、さらに慕わしきは石となること……(ミケランジェロ)

1

ぼくの姉、
踊り場で牛乳を飲む女。
腰に手を当て、鯨飲、鯨飲。
(彼女のほか、その非常階段に人影はなく……)
欲情そそる蛍光のしたで、
悩ましげに牛乳を飲んでいる、
彼女はすでにぼくの姉ではないのである。



欲求不満の街、新宿。
その夜、
とある酒場の個室席で、
ぼくは元・生徒会長である同窓生と
酒を酌み交わし、
(卵料理!
 それは円満具足のコロンブス……)
やおら本気で殴りあった。
――腹を下すぜ。
――ハネムーン・ベイビーの蜂起だよ!
ぼくらは駅前で別れると、
それぞれの背中で
最後のジャズ・オーケストラのシンバルを鳴らした。
夜空はたえまなく星を降らせていた……



ぼくの姉、
元・牛乳を飲む女。
彼女はいま、鳴り止んだ音楽にじっと耳を澄ましている。

2

ぼくの兄、
波打ち際でポー詩集を読む男。
波蹴る素足の溽暑かな。
(彼の周囲を、海水浴客らが取り囲み……)
欲情そそる水着をつけて、
気難しげにポー詩集を読んでいる、
彼はすでにぼくの兄ではないのである。



群像劇の街、稲毛。
その夜、
改装したPホテルの一室で、
ぼくは元・舞台女優である四十女と
同意のうえで肌を重ね、
(ぼく、ロミオ。
 彼女、時給制度のジュリエット……)
穴という穴に指を突っ込んだ。
――吐き気がするぜ。
――抜苦与楽の後背位!
ぼくらはたがいの皮膚を裏返すと、
仮名のイニシャルをそこにしるした。
発熱する10000本のクラリネットが
闇のなかで瞬いて、瞬くままに闇に途絶えて……



ぼくの兄、
元・ポー詩集を読む男。
彼はいま、鳴り止んだ音楽にむなしくタクトを振り上げている。

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3770 : 星を見ること  白い黒髪 '09/09/08 05:15:43 *1

星を
見上げる動作の内には
様々な思いが込められている
そんな思いで星を見ていると様々な想念がわく

星は孤独な思いを慰めてくれ
星について友人と語りあい
星の下で恋人と永遠を誓う

幼年に
しかられて家の外に閉め出された夜
星を見あげたことがなかった
年をとって
星を見ることを覚えた
幾何学模様を自由にえがく楽しさ
人生で得た少ないもの
それだけしかないと酔っぱらって
生きていこう

いつか一緒に見る人を作りたい
夜空に浮かぶスポットライトが
私と相手を照しだす
長い夜を語り明かして
長い夜を踊り明かして
星明かりが消えるまで

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3766 : 深夜徘徊  イモコ '09/09/05 00:21:41 *1

かっこ、かっこ、かっこ、
かっこ、かっこ、すらっしゅ?
ハイヒールが怒ってる
どうして!
どうして!
アスファルトに当たり散らして
かっこ、かっこ、かっこ、
かっこ、かっこ、すらっしゅ?

横で犬の耳がでんでん太鼓みたく賑わしいので
がっごっ、がっごっ、がっごっ、
がっごっ、がっごっ、ずらっじゅ?
気絶した犬を横目に見下して
ぼうぜんと

思いの外、私は犬を愛していた
外灯のない夜道を
動かない尻尾を引きずって駆けていった
のは、私、ですか?



                 すらっしゅ。

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3767 : 海の遺影  丸山雅史 '09/09/07 02:52:27 *2  [URL]

この海の遺影は何十年前のものだろう 僕が生まれた時には既に海はこの世から姿を消しており、嘗て海水に満たされていた複雑に入り組んだ峡谷に多くの都市が造られた



僕は日本海溝24区の日向で、古本屋を開いていて静かに生きている 僕は海の生き物達を図鑑でしか拝見したことがないので、僕がこの地に引っ越す前に住んでいた盆地旭川市の中央図書館に置いてあった、「海」に関する文献に徹底的に読み漁っていたことがある



僕という存在は己の意識のコントロールに疲れた時、とても気薄になる 東京の2流大学出の友人達は そんな僕に対する対応について上手く気配りすることなく、彼等についていくことができなくなり 僕はそんな苦痛だらけの生活に挫折し、無職のまま、この幾多もある峡谷の都市に移り住んだのだった トラック1杯分もの海の本を持って来て。



だがこの都市でも、誰もが世界に海が無くなった事実と僕という存在のこと等、既に忘れてしまっている。古本屋には「海」に関する様々な本が置いてあるが、開店から今まで7年間、1度も客はこの書店へ訪れに来たことはない



古本屋の裏の採掘場のトロッコが絶えず規則正しいテンポで車体とレールを軋ませた音を立てる 採掘場の中は常に黒煙が充満しており、その匂いをトロッコが風と共に店の中にも流し込んで、1度だけ喘息の発作が苦し過ぎて少しばかりこの地域で、最も深い場所に総合病院を構えたその病棟に入院したことがある その為、僕は仕事中も眠る時も必ずマスクを付けて眠ることにしている 真夜中の、トロッコの振動音は僕の後頭部を貫通する



先月まで共に暮らしていた臨終前の父方の祖父は、“あらゆるものには寿命がある” と僕が小さい頃から耳にたこができるぐらい何かあればすぐに好んでその話を語っていた 祖父の話によると、ある時世界中の海は一斉に塩分と生命体の死骸だけを残し、忽然と生涯を終えたらしい 大量の岩塩に埋もれてあらゆる海の生き物達はあっけなく死んでしまった そしてそれらを「姿の見えないもの」に風化させる為なのか、7年間、完璧な雨が毎日降り続けた



そして僕が生まれた頃に日本人の宇宙飛行士が宇宙空間から地球の姿を見た時、彼女は 「まるで“罅の入った錆付いた鉄球”のようだ」 と悲哀を帯びたコメントを口にしたという その彼女は現在も、国際宇宙ステーションに留まり、空虚感に憑依されたように、毎日青かった頃の地球の記憶を思い出しながら絵を描いているという 僕は、地球上から見える真っ青な空が、この惑星の真の姿を現していないという不条理に虚しさと、胸の奥のくすぐったさに、彼女のことを思い出す度にいつも苛立っている



空の青さを映す鏡はもう存在しない でも僕は透明な光、透明な水、透明な己の存在感に触れることで1ヶ月の間だけ、透明な静寂を孕んだ店内に流れる寂しい時間の数え方を忘れることができる 何千冊もの本は日増しに日焼けし酸化するが、匂いだけは新品そのもので、生きる苦しみを少しでも紛らわせる為に、本棚の近くで瞼を瞑り、海の遺影から立ち昇る潮の香りにそっと肉体を浸す 風の音、鴎達の合唱、今は亡き波の無神経な自殺、その先端と先端にそれぞれ立ち、想いを夕日に託す口の無い法則 そして僕だけの夜。



宇宙は巨大な2枚の羽を広げて闇を峡谷に満たし、僕の心を 満たされた人間の欲望の幹へと導き 毎夜1度だけ、その血を頂戴する それが枯れ果てればその下から樹木が生えてくる、そんなニュータイプ的なシステムは組み込まれていない 「死んだ海」はマントルに凍り掛けの暗闇を重力の赴くままに沈下させる 僕は月明かりに照らされた海の遺影があまりにも幻想的で、つい失明した「死骸」に気を掛けてしまう そう このどうしようもなく冷え切った心へのように

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3756 : 八月のひかり  凪葉 '09/09/01 07:44:03




照り返す八月のひかりが、瞳の中空でまどろむ。手に持っていたアイスは溶け、口に向かう手前で崩れていった。暑い、という言葉が億劫で、そこからはじまる怠惰が、長い間、止められないまま、わたしの中で野放しになっている。
焼けていく肌が染みになり、ふやけていく、そんなことばかりが頭に浮かぶ。
 
 
眠りにつく一瞬の、やわらかな風は、開かれた朝に消えてしまうから、いつだって、夜が恋しい。
暗く、どこを見つめているのかさえわからない、星の光に祈る、思いと同じに、曖昧なものが許される夜、だらしのない町並みは埋もれて、その上には何もないのだと思った。
 
 
腐った、生ごみから、夏は重なって、だからひどく、重たい。背中に、もうひとりのわたしが乗っかって、わたしが崩れる。腐っていた、のは、確かに頭で。
浅い眠りは絶えず、繰り返されて、眠れない夜は朝と混ざって、わからなくなる、ということさえ、溢れ出たひかりが見えなくしていく。
 
 
荒い呼吸。誇大する怠惰が頭を覆う。世界は未だ、過呼吸をしているのだと思った。思ってすぐにビニール袋を手に持つ。これを世界の端に取り付けても、浅く、眠りのような呼吸が、世界に溢れる。わけもない。眠れない人を思う。眠れない人の数と同じ数だけの夜が、分厚く、空には見えない。何もかも。
 
 
本を読む、そんな風に夜をめくっても、その先にあるものは見当たらない。思いは、思いですらなくただ夜の一部で、だからめくれば消えていく。その先には何もないから、かっらぽだけが残ってしまって、照り返す、八月のひかりになにもかも、燃やされて、燃やされて、燃やされ、て、
からだじゅうから溢れるように、抜け殻の怠惰はこぼれ落ちて、水溜りになればいい、と、腐った、頭から視界が、ひかりの中で延びていくのを、どこか遠くで、見つめている気がした。
 
 

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3769 : 口紅  ミドリ '09/09/08 00:27:24 *1


電話のベルが鳴る
ぼくのペニスより
数センチ短いサイズのケータイだ
女はそれを握り締め
かすれた声でこう言った

面倒だから後にして

必要なものか
不要なものかなんて
たった数センチ数ミリの差に過ぎないと
その時ぼくは思った

とにかく
彼女はひどく腹を立て
でんわを乱暴に切った

ため息をつき
化粧ポーチから
リップスティックを取り出すと
タバコを灰皿に押し込み
パサついた髪をかき上げ
パンツを穿き
ジッパーを上げた

今日は楽しかった
またね


女が出た後
一人取り残された部屋で
テレビの電源を入れた
ぼくのペニスより
数センチ長いリモコンを握り締め

喧嘩を理由に別れる恋人たちもいれば
理由もなくセックスする他人同士もいる

ぼくらは
量や長さの観念を
言葉にするとき
愛や憎しみや諦めの強さが
はるかに人間を超えてしまうことを知るんだ

数センチ数ミリ
そのささやかな差に滲む
コーヒーカップのへりに
彼女が残していった 赤い口紅の色

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3759 : ききて  破片 '09/09/02 19:01:58

蝉が
夜に鳴く
外灯に
群がり
重たい羽音
だけが
左手で
絵を描くと
うそぶいて
落ちる

染み出した
落ち葉から
いろが
路面を浸す
ので
火先へと
小児の焼ける
光景を
集めたりした
これが
硝煙
だなんて

昨夜の雨が
肌を
湿していく
ふやけた
死骸は
火の消えている
身体を
貫き
絶え間ない
雲海を
割いていくから

消えないで
という
呟きも
運んでいって
欲しい
その
右手でさ

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3775 : 迷い人  けんいち '09/09/09 21:00:47

いったい僕は何のために生きていくのだろう
帰り道、ふと悲しくなった、泣きたくなった
心が晴れていないのはにごった曇り空のせいか
一人でとぼとぼ、少し暗くなりかけた中歩くと
無性に寂しくなる

人に認められなくて悔やんでた、今でも
認められたいと思っても
それを大声で言うほどの勇気もない
ずっとずっとおもいを隠して、「僕はだめなんだ」と
終わらせてしまう

僕はどうして生まれてきたのだろう
僕は少しのことも変えることができない
そんな僕が生きていてどうするのだろう
これじゃあ、いなくても同じじゃないか

いったい僕は何のために生きていくのだろう
帰り道、ふと悲しくなった、泣きたくなった
「心が晴れないのはにごった曇り空のせいか・・・。」

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3749 : ご利用  snowworks '09/08/31 03:28:58  [Mail] [URL]

道具になりました
もう戻れません
そちらに
未練はございません

憐れみなど不要です
好きで来たのですもの
スッカリ楽になりました
思い悩むこともありません
考え込むこもありません
道具ですから

興味がおありなら
ほら
近寄って
よく見えるでしょう
素直になればいい

道具に遠慮は要りません
好きなだけ
お使いになればいい
壊れるまで
利用すればいい
そしてお忘れになって
父親参観日ならラクに

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3760 : 祝祭前夜  残念さん '09/09/02 20:23:56  [URL]

 一日目

 妊婦の腹が引き裂かれ、光が漏れた。多くの人たちがそれを見つめ。頭のおかしくなった、アリス気取りがこけて階段で頭を強く打ったまま頭蓋骨が割れまた光が漏れる。光、光、と、数を数える。あちこちで、誰も彼もが腸を引き裂いたり、頭を打ちつけながら光が漏れることを望んでいる。
 そして静かになった。後には、腐乱していない新しい死体ばかりが並び。すべての死体からは光が漏れている。眼球を失った空洞からも、引き裂かれた腹や頭からも、僕はこういう光景の中にいるのが一番落ち着く、と、思うと、背後から誰かに強く殴られる。何度も殴られていく内に、僕の頭からも光が漏れ始める。あ、光、だと、また光の数が増えたと喜んでみるが鈍い鈍器の音が止まらない。それが嬉しかった。

 二日目

 文字の読めない女の子が物語を求めて歩いているのを見る。彼女は、文字が読めない、ことを物語るための物語がほしいという。そんな物語はもうこの世にはないよ、と告げる。それでも、彼女はほしい、といい、僕の後ろでニヤニヤ笑っていた男がその女の子に物語を教えてあげよう、といって、彼女に「不幸」や「悲惨」という言葉を教えては書かせる。それを見て周りの人々が、手をたたき始めて次に「誠実」や「切実」の言葉を教える。これで物語を作れるだろう、と男が笑って言う。周りの人々は彼女が男に習った単語を使って物語を物語るのを聞いてなき始める。男は、それを見て、周りの泣いている者達を全員殴り始める。お前らはいつだってこんな物語がほしくて、ずっと飢えていたんだろう、と、男が笑いながら、自分にアルコールをかけてライターをつける。燃える男が大きな声で言う。「これで、さらに物語がつくれるだろう」と言って。文字の読めない少女は男に習った言葉で男の物語を作る。そして、まるで男などいなかったかのように、皆その話を聞いて泣き始める。

  三日目

 掟の門をくぐることができない。門の内側にいる人々の光が見える。もうすでに、葡萄は破裂して、流れ出ているばかりだと言うのに、雪の中を裸足で踊る。踊る人たちの間から喜びばかりがもれて、楽しい、と、掟が降りてくる。掟が、門をくぐる。次から次へと倒れていくのは人ではなくて、葡萄の木だと気づいたとき、街路樹には人々が実り。口々に、収穫を待っている、と微笑んでいる。
 渋谷、新宿、と、籠を背負って収穫していく。笑顔で挨拶しながら、都市の気候は温暖だから、と、隣の女性が言う。駅の構内、列車に乗る人々の靴があさってには売り払われ、誰もがもう踊らなくていいと、彼女が囁いて、街路樹に実った一人の男性が微笑みながら収穫を待っている。手を差し出して、男を摘む。

 四日目

 肌が焼けて、白くは無かった。蛙が実をむき、秋が焦げる。鉄道沿いに並んだ花火。笑い焦げる人。ここからは、もうどうでもよくなった、と、思いながらテレビが投げつけられ、次に、燃やされた服が飛んでくる。偽りでも、物語がほしい、と言った少女から、ずっと遠くに来た気がする。すがすがさしさばかりが残り、後は晴れ渡る何かが僕を押し広げる。唇は石灰を含み、体が螺旋上に翻る。裂けた、と、声がして、光が漏れる。
 ブロードウェイで踊るタップダンスのことをなぜか思い浮かべる。ハイヒールが蹴りあげられて、遠くに飛んでいったのを思い出したり、しながら、物語を一つ残らず世界の外へ追いやって、ようやくわけもわからないなにかが飛び込んできてから窓を開く。


 
 

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3745 : 砂の上の植物群  かとり '09/08/28 20:26:09





ひさしぶりに降った雨に滲む青
らくだの一群が
ゆったりとした足どりで歩いている
少し重くなった砂は瞬く間に乾いて
黒雲は遠くに行ってしまった
明るく熱い砂は
さらさらと緩い風に運ばれる
風に乗ってあるものは遠くに行き
そこで次は嵐を待つ
輝く地平に
動き始める丘
あなたの痕跡はすでに忘れ去られたが
金の原に芽吹きだしている




地下


積層の都
亡霊達の車輪が
がたがたと
せわしなく音をたてる
「馬車だ」
馬車が通る
赤い水を欲する寂しい目は
土のなかで膨れ
骨はやぶれて
新しい骨はまたつぎつぎひらける
節くれだった
指先に蕾
緑の魂は泣きながら広がる







夜の砂漠
やはり私は砂丘に座って
かつて見あげた
星々を想いだしている
遠景を
描き起こすように
かの名を
声を
夜空の底の白い
砂の上の植物群を
わたしはぜんぶおぼえていたいと





午後


らくだ達が歩きはじめる
おたがいに匂いを嗅いで
おたがいによりそって
おたがいに愛おしんでそしてまた
らくだ達は歩きはじめる
影を踏み
顔を振るわせ
耳を張り
黒い視線を遠くに投げて
砂を噛んだら
らくだ達は歩きはじめる

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3751 : 家族  ボルドゥ '09/08/31 21:33:50



真夜中
誰もいない夜
自転車で帰っていた
道路に
しろい猫が 死んでいた

家に着いて
落ち着いたころ
また 思い出した
外で 子猫が鳴いていた

あのしろい猫
子供がいたかも知れない
よっ といってくれる おじさんがいたかも知れない
仕様がないねえ と言いながら 
餌をあげていたお婆ちゃんがいたかも知れない
家族が いたかも知れない

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3730 : 理想の出会いについて  はかいし '09/08/21 18:45:36  [Mail]

僕は刀を抜いた。
出方を伺いながら斬る瞬間を見計らっていた僕らは、瞬間的に火花を散らし合い、決して怯むことはない。少しでも油断すれば斬られる。腕の動き―右、左、右…―も複雑で、隙を見せたら負けだ。―左、上、左、…―これは―一気にど真ん中に―来る。僕は飛び上がる、刃の上を足場に、上から刃先を下に向け、下ろす!―十円玉を弾いたようなキーンという音―振り下ろした刀はしっかりと相手の鞘に収められていた。
「私を斬ろうなんて百年早いわ。」
彼女は落ち着き払い、突き出した刀を払って、僕は自然に着地する。僕は刀を抜くことができない。形勢は圧倒的に不利だ。
「まだ戦うつもり?」
「ああ。」
彼女は微笑みながら言った。「あなたを斬るのに時間なんて掛かるわけないでしょ。バーカ。」舌を出して、頬は林檎のように赤かった。

彼女は字を書くのが上手い。小学校の頃から書道を嗜んでいる。僕は同じ書道教室に通っているけれども、彼女ほど字が得意ではないから、遠慮しないのは剣道のときだけだ。
僕が字を書くとたいてい半紙に滲んでしまう。いつも先生に怒られるけれど、彼女にそのことを持ち出されると堪らなく悔しい。
小学校の頃、彼女が階段を踏み外してこけて怪我をしたことがあった。そのとき頭を打って、血がさらさら出て来て、幸い今日では何事もなく生活しているけれども、白いワンピースがどんどん赤くなっていくのを見て、その染み込み具合にとても似ている気がする…なんて考えているとまた半紙が滲んでしまう。
そのことを話したら、彼女は最初笑っていたけれど、あの時の僕の泣き顔のことを持ち出して、彼女はしんみりとしていた。僕は無理に笑ったけれども。

シャンプーの香りが、シャワーの音で拡散して洗面所にまで届くようだ。リンスのそれとも混ざり合い、僕の熱か風呂の湯気かはわからない不思議な蒸気に囲まれて、僕は丁寧に洗い流していく。
こうやって髪を洗い合うのって久しぶりだよね。当たり前じゃない、あんたから嫌って言い出したんだから。そうだっけ。
僕は今どんなマントも、恥ずかしくて羽織れない。だけどもう羽織る必要もないだろう。男と女は、シャンプーとリンスのように相容れないものなのかも知れない。だけど、この湯煙のように、どこか途方もないところで混ざり合える存在なんだ。僕らはその湯煙を、ベッドの中に運んでいく。

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3784 : 青い鳥  イモコ '09/09/11 20:50:30

遠くで猫が吠えている
同様にクジラも

陸を海を、なにか小難しく考えて
私は歩いていっているのだけど
ある日ある日
陸も海も、実は分け隔てなく
あの子が駆けていっているのを目撃し
私はどんな言葉も紡げず
ただ…

遠くであの子が吼えている
童謡にのせて

いつだって青い言葉を紡ぎながら
あの子は散歩しているのだけど
私はあの子の隣にいるのだけど
いつだって青い言葉に夢中で
あの子は私を見ていないし
私はあの子を見ていない
ただ、青い言葉を見つめてる

遠くで私が咆えている
動揺にまかせて

明け方になればあの子も青い言葉も
どこか遠くへ駆けていく
私から逃げ去るように
私が捉まえてしまってはもう
きれいにたゆたえはしないからね
さよならだ、さよなら
今日の朝ごはんは何にしよう




…あの子も青い言葉も、そして私も
 きっとどこにもいないと 知っている

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3698 : SUMMERHEAT  軽谷佑子 '09/08/08 14:39:09

おととしきた幽霊が
家をあらしていった
寒そうに厚着をして
いつまでも謝っている

わたしは口をゆすぎ
身をあやまって
いったもえあがる
家でテーブルの
したで

ふれるものは
皆よごれる
こびりついた詩句を
こそいでは口へ
運ぶ


くらいままの道を
遠ざかっていった
かおを拭いて
戸をたたくおとがする

仕事へ行くまでに
雲がはれて
建物のかげが
座席を埋めつくした
皆いっせいに
消えうせようとしていた

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3733 : 歩行  ゼッケン '09/08/22 16:28:51

木陰の濃い場所に踏み入れた
世界は昼、
燃え上がっていた
きみは舗装道路の照り返しに危うい眩暈を覚えた



頂を究めた日差しに励まされ続けてきた
水中で濡れていた頃を慕って甘い声で鳴いた
遮光する葉の厚い重なりの庇護の下
きみはそれを聞いていた
きみは歩を止めようとはしない

陸上ではきみは垂直に立ち、水平方向に歩いた
陸上の重力に抗して二本の足で吊り合うために
そのようにきみのベクトルは分解した

もういちどベクトルを合成して飛ぶ器官として

翼を得た恐竜は鳥になった
ひれを得た哺乳類は鯨になった
先へ、先へ
進んでいく彼らは
まぶしい三次元の軌跡を曳く

好きなのだ、しかし、きみはこの場所が

重力が構造と熱に分裂する境界面において
天体の核に向かうようにきみの体軸は設定されており
そのように固定された軸は
運動の自由度をひとつ落として時間に捧げるしくみとして採用されている
垂直に立つもの、きみと樹木、は
ひとつ不自由になり代わりにひとつ自由を得
きみの頭上に枝葉を広げた樹木はすでに
動物には不必要と計算された時間を生きており、
推進力を生まないきみの手によって時間は歴史へと代謝される
きみから次のきみへ
何番目かのきみであるぼくからさらにその先のきみたちへも
受け渡されていくノート
最後のページには宇宙の誕生の瞬間が描かれる、それから
宇宙は時間も空間もパタリと閉じて歴史そのものになる

歴史は時空に対して垂直に立つ

親しんだ陰から足を踏み出し
白く燃え始めた視界を捨てるように見下ろして
すべてが歴史に変換されるまで
きみは歩く

光速より遠い場所へ届く

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3724 : 無題  凪葉 '09/08/18 07:42:49



ここに、
またひそやかに
わたしの骨を埋めていく
その手つきは
やわらかく、
解けて、しまいそうなほど
それは、
かなしいと
そう
呼ぶことさえも叶わない、

 
 
手に取った
砂の、重さは
掬い取れたものの重さと同じで
掬い取ることのできなかった
いくつかの、
果てない
重さを
減らない、ささくれのように
毟っては、捨てて
また毟っては、捨てて
それでも
指先のように
脆いままでいることが
酷く、重たい
 

   
埋めてしまった
わたしの骨は
わたしのどこの部位であるのか、
誰も知らない
誰も知らない、ということを
酷く恐れていた頃も
今ではとてもなつかしく
流れと流れの中空で
飼いならしてきた
こころの魚は
どこまでも大きく
なっていることと、
せかいが
どこまでも大きくなっていることは
不思議なことに
定まらないという線の上で
繋がっていて、
 

 
広いところばかりを
求めてしまう、魚に
いつの間にか
わたしが連れられ、
流され、
溺れたままからだだけ
泳いでいる、
流れと流れの
奥へ、奥へと
泳いだ距離だけ
腐る、からだの
根元ごと
わたしはまた
骨として、
ここに
埋めてしまう

  
   
誰もいない、
音もなく、
満ちていく、波の
やわらかな
かなしみ、
ただひとり
果て、のような
どこにもない、場所へ、と、
向かう足さえ、
もう、
どこにも、見当たらない、

 




 

 

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- ealis -